修学旅行2014~日本最南端の夜空

    作者:幾夜緋琉

    ●修学旅行2014
     武蔵坂学園、2014年修学旅行。
     毎年6月に行われる恒例行事であるこの修学旅行、今年の期間は6月24日から27日までの四日間。
     この四日間の日程で、武蔵坂学園の小学6年生、中学2年生、高校2年生の生徒達が一斉に旅立つ。
     また、今年は大学に進学したばかりの大学一年生達も、同じ学部の仲間等と親睦を深める為の親睦旅行として、同じ日程、スケジュールで行われることとなったのだ。
     そして……今年の修学旅行の行き先は、日本最南端の地、沖縄。
     ゴーヤチャンプルーや沖縄そば等の美味しい食べ物を食べたり、美ら海水族館や首里城等を観光したり……マリンスポーツや沖縄離島巡り等々、沖縄に来たからにはその楽しみ方がある。
     ……という訳で……さぁ、あなたも2014年修学旅行に参加して、楽しい思い出を作りましょう。
     
    ●日本最南端の夜空
     修学旅行3日目。
     今日は終日、自由行動という日。
     石垣島へ飛んだ後、高速船で約1時間……ここは、日本最南端の有人島、波照間島。
     バイクで島の周りをぐるりと一周したとしても、だいたい30分と……面積は武蔵野市よりもちょっと多いのに、人口は約260分の1という……のどかな島。
     当然、海はコバルトブルーに美しくきらめき、赤煉瓦屋根の民家も所々に並び風情のある所。
     そんな波照間島には、真っ白なパウダーサンドが約1.5km続く砂浜、ニシ浜や、深いコバルトブルーの海に切り立つ断崖絶壁の高那崎、そして、日本最南端の碑。
     ……そんな波照間島での一番のビューポイントは、夜の帳が落ちた後。
     空に沢山の星の光が広がる……。
     周囲に人工光がほとんど無い為に、この地は星空観測をするのに最高の条件が揃っているのだ。
     そして、日没後の暗くなった直後のわずかな時間だけ、南の水平線近くで見ることが出来ると言われる南十字星。
     ……そんな南十字星を見る為に、今夜はこの波照間島に宿泊するのだ。
    「……そうなんだ。波照間島かぁ……日本最南端の島、そして夜空の星空が綺麗なんだ……」
     そんな修学旅行直前の教室で、修学旅行のしおりを見たクリスが微笑む。
     美しい星空……思えば、最近、星空をゆっくり見ようと言う時はあまりなくて……だからこそ、こんな機会でもなければゆっくり星空を見ることなんて出来ないだろう。
    「星空を見上げながら、語り合う……って言うのもいいかもしれないね。うん……ボクも波照間島に行ってみようかな?」
     くすりと笑うクリス……表だっては言わないものの、やっぱり修学旅行が楽しみなのだ。
    「せっかくの修学旅行だもんね。やっぱり、楽しまないといけないよね……うん。みんなも一緒に、楽しもうよ」
     と、クリスは笑顔を皆に向けるのであった。


    ■リプレイ

    ●上陸
     日本最南端の有人島、沖縄県波照間島。
     沖縄から石垣島まで1時間程、更に高速船で更に1時間。
    「やっと到着、って所かな」
     クリス・ケイフォード(小学生エクソシスト・dn0013)が微笑む。
     目の前に広がる海は、東京近郊ではまず見ることの出来ない光景。
    「これが武蔵坂学園の修学旅行なのですね。沖縄なんて初めてですよ……実質、武蔵坂に来るまでは、大阪から殆ど出たこともありませんでしたし……」
    「私もこの学園に編入するタイミングが遅かったから、修学旅行には全く縁が無かったのよね。でも、親睦旅行という名目で同行出来て良かったわ」
    「ええ。私も皆様一緒に来れて幸いですわ。以前の学校では……あまり思い出したくない過去もありますわ。いろいろな意味で……でもこちらになら似たような環境を持つ生徒も多いですし、気兼ねなく参加出来ますわ」
     湯里、ハンナ、花子の会話。
     修学旅行と併せての、大学一年生達の懇親旅行。だから、高校2年生の湯里、花子に大学1年生のハンナが一緒になって参加出来るわけで。
    「ま……何にせよ、沖縄も仕事名目で来る事はあっても、旅行なんて滅多に無いから……たまにはゆっくりしていってもいいよね?」
    「ええ……遠方に旅行として来られる滅多に無い機会……じっくり堪能させて頂きますね」
    「それではお二人とも、いざ……参りましょうですわ!」
     ハンナ、湯里に花子がぎゅっと拳を握りしめる……そんな三人の言葉にくすりと笑ったりしながら波照間島へと繰り出す。

    ●陽射し強くて
     シュノーケリング等を楽しむ中、【Request部】のアリシア、智慧、智以子、山女の四人は、借りてきたレンタサイクルで並ぶ。
    「第一回、島内一周チキチキ自転車猛レースを開催するの!」
     と、智以子の高らかな宣言。
    「しかし自転車に乗るのは久しぶりじゃのう」
     アリシアが苦笑すると、それに智慧も。
    「まぁ、確かに自転車って、ふらりと乗るようなことってあまり無いですしね」
    「うむ。それに魔法少女になってからは空飛ぶ箒に乗ることが多くてのう。まぁ……こんな感じかのう」
     座り具合を確かめて、構える。
    「それじゃレース開始するの。レディー……ゴー!」
     智以子の合図でスタート。
     波照間島の外周は、約15km位。
     勿論、海岸線の稜線が美しく映る……それに目を奪われ、自転車を止める山女。
    「綺麗……それに、なんだか、懐かしい」
     そんな山女に、着いてきていた智以子が。
    「……どうしたの?」
     と小首を傾げると、山女は振り返り。
    「私の名前とはたぶん関係ない、たぶん」
    「……?」
     きょとんとしている山女……智以子が呆気にとられている間に、山女はさっさと動き始める。
    「あ、負けないの!」
     と智以子が追いかけていく。そして島内一周して、再度波照間港へ。
     トップは……山女と智以子。
    「ゴールが見えたの!」
     と、一気にラストスパートを掛ける……そして、ゴールイン。
     少し遅れ、山女がゴール……そしてアリシア、智慧。
    「いやぁ、負けちゃった……でも、楽しかったですよ」
     山女の言葉に、アリシアや智慧が。
    「うむ。楽しかったのぅ」
    「ええ……東京では出来ない島内一周。目に映る海も綺麗で、本当、来て良かったと想います」
     そして、智以子が。
    「皆の健闘をたたえて、ジュースで乾杯なの」
     と、レース完走を、皆で祝った。

    ●彩り落ち始め
     次第に空の灯りが落ち始める夕刻、星空観測タワーと日本最南端の碑のある南岸の方へ。
    「あ、こっちこっちー」
     大きく風樹に手を振るのは篝莉。それに笑顔で答える風樹……彼女の元へ向かうと共に、篝莉はえへへ、と笑みを浮かべる。
    「今夜は付き合ってくれてありがとう」
    「ううん。こっちこそ今日はお誘いありがとう。とっても楽しみなの」
     笑顔の彼女……そして篝莉は風樹の手を引いて、先を歩く。
    「沖縄の星空……一度見てみたかったんだよねぇ。今日がとっても楽しみだったの。お星様、見えるかなぁ……早く、夜にならないかなぁ……」
     篝莉は、はやる心を紡ぐ……その言葉に風樹はくすりと笑い。
    「俺も楽しみ。写真で見ていた南天の夜空を実際に見るのは初めてだから」
    「うん。今日見るのは南十字星。正式には南十字座と言って、一番小さいけど南天では代表的な星座で……って、ごめん、こういう話はかえってからのほうがいいよね?」
    「ううん。南十字星は南十字座って言うんだね。風塾の話はとってもお勉強になるから、もっと聞かせて?」
    「ええと、あ……星詠は、星達のどんな所にひかれるのかな?」
    「ボクが星を好きな理由? ん、とね……星を見てると、一人じゃ無いって思えるの」
    「そっか。俺も同じ」
     ……写真でしか知らない美しい光景から、今日を楽しみにしているのは二人だけではない。
     儚と澄の二人も……夕暮れに暮れる地平線を見通して。
    「海は見たことあるけど、こんなに綺麗なのは初めてなんだよね……」
    「うん。写真でしか知らないの。だからこうして、自分の目で、耳で、肌を感じられることが凄くね、嬉しい」
    「そうだよね。人の話を聞くのも楽しいけれど、自分で感じるのが一番だよね? だからぼくも、嬉しいな」
     笑顔の二人……と、そうすると、ざざぁ……と、波が足下を攫う。
    「きゃっ……わ、冷たーい」
     と、一層の笑みに。
    「折角だから、裸足で歩こ? 南十字星のお時間まで後少し、良かったら散歩、しない?」
    「うん、それいいね! 裸足で散歩、しよ。全部全部、感じようよ。折角来たんだし、取り零してもったいないよ!」
     儚の提案に、澄は頷き、二人サンダルを脱ぐ。
    「それじゃ早速……あ」
     と駆けだしていこうとした瞬間、ふと思いついたように澄は立ち止まる……そして。
    「星に攫われないように、手を繋いで歩こうか?」
    「……あ、うん」
     綻ぶ笑顔……儚は澄の手を取って、共に海岸線を歩き始める。
     と、海岸線を歩く仲間達から一歩離れた所を走るのは、有栖と零菜。
     二人はレンタサイクルを駆り出して……。
    「へへ、南十字星、楽しみッスねー。普段はインフィニティーに乗ってるから、自転車は久しぶりッスけど、こういうのも楽しいッス。加賀美さんも一緒だし、それに暑いけど、夜風が気持ちいいッスしね?」
    「へへ……最南端で夜空を見るなんて、最高にCoolッス! それに風も気持ちいいッス!」
    「さー、高那崎を目指すッスよ! 道も暗いし、気をつけて行くッス!!」
     ……そう、間もなく空は宵闇に包まれ、星々が瞬く時。
    「目的地に近づいたみたいっすね。ここから先は徒歩、と」
    「っと、零菜ちゃん、暗くて危ないから、オレの手を握っててくださいね」
    「ん、手繋ぐッスか? そうッスね。危ないっすもんね」
     と、二人は指を絡めて、高那崎の先へ。
     この波照間島の一番のイベント……南十字星が、瞬き始めた。

    ●満点の星空
     綺麗な南十字星が、星々の中に瞬き始める……梗香とクリスは。
    「クリス君。イギリスとはかなり緯度が違うけど、こっちの星空はどうかな?」
    「そうだね……緯度が全然違うし、見える星空は全然違うかな? ……本当、綺麗だと想うよ」
    「そう、なんだ……ふふ」
     くすりと笑う梗香。
    「いや、何だかいつまでも小さな弟分みたいに感じてたけど、クリス君ももう小学六年生……来年には中学生なんだな。まぁ、妹と同い年だから、当然と言えば当然だけど」
    「いつまでも、子供扱いされても、ね」
     苦笑するクリス、そして夜空を見上げると、ギルドールが。
    「ご機嫌よう」
     軽い微笑み、それにクリスも声を掛ける。
     そして、ギルドールは瞬く南十字星の方をさして。
    「あれが南十字星……本当に見えるね。異国で見る星空も、とても綺麗」
     と、取り出した携帯で星空をパチリ。
     ……勿論星空は、携帯写真に写るようなものではないし、実際プレビューしても、真っ黒な夜空しか映らない。
    「……携帯で?」
    「いや、これでいいんだ」
     そしてギルドールは携帯を操作し、友人へ送信。
    「さて……どう返ってくるかな」
     くすりと笑いつつ、彼は波打ち際の夜空を歩いて行った。

    「いや~、都会と違ってガスやら何やら少ないせいか、綺麗なもんだね~」
     と新九郎はコーヒーを沙花に手渡し、自分のも持って横に座る。
    「あ、そうだ……シフォンケーキ、東京で作って持ってきたけど、味平気かな?」
    「大丈夫。ケーキってなんでこう、コーヒーに合うかな。紅茶もいいけどさ。あ、美味しいよ、これ~」
     微笑む新九郎……沙花はちょっと恥ずかしそうにしつつも。
    「ありがとう……それにしても、沖縄に来るのは初めてなんだけど、すごいね。ネットやテレビで何度か見たことはあったけど、生で見る星空は本当に綺麗……そもそも旅行らしい旅行も初めてなんだ。君はいろんな所に行く事がおおいよね、新九郎」
    「そうだね。うん」
    「星のこと、あんまり詳しくないんだ。ちょっと教えてくれよ」
    「勿論……あれが南十字星かな? おー、本当見えるもんだねー」
     と、新九郎と沙花が会話する……その近くを、梓と宥氣がのんびり散歩。
    「にしても綺麗だよな。そう、確か今日は牛飼い座流星群の日なん……あっ! 流れた!」
     ちょっとした流れ星を指さす宥氣に、梓は。
    「ふふ、宥氣くんって博識なのね」
    「え? いや、そんな事ないよ」
    「やっぱり星空を知ると、空の見え方も違うのかな?」
    「かもね……そう、今日はその甚平、似合うね」
    「ありがと」
     と会話しながら浜辺を歩く……最初は星空の話……次第に、お互いの大学の話へ。
    「そういえば、宥氣くんはどこだったっけ?」
    「僕? 現代格闘技学部。梓さんは古武術学部、だっけ?」
    「ええ……こんな感じ、かな」
     と梓は、講義で習った型をちょっと披露して。
    「ねぇ、ちょっと実際にやってみましょう?」
     と手を差し出すと、それに宥氣は。
    「組手? いいよ」
     と手を取る。
     始めは軽くのつもり……次第にお互い、ムキになり始めて。
     いけない、と無理矢理体捌きを変えたところ、足下を攫う波。
    「っ……!?」
     ひっくり返り、盛大に水しぶきを上げる……心配そうに手を差し出す宥氣……なんだかおかしくなって。
    「……ふふ、はははは」
     と、互いに笑い合う。
     その近くでギーゼルベルトとフォローズヴィトニルは、星空をのんびりと眺めていて。
    「……そうだ。フレン、明日はどこか行く所あるのか?」
    「ん? 明日の予定? ううん、何も無いよー?」
    「そうか。もし、行く所が決まってないなら……一緒に琉球ガラス作りに行かないか? その、無理にとは言わないけど……」
     ……少し顔を赤くし、顔を見ないようにするギーゼルベルトに、フローズヴィトニルは。
    「Ja! 喜んで……!」
     と、明日の予定を決めていく。
     そう、修学旅行はまだ、後一日在るのだから。

    「へへっ、ボクのワガママ聞いて貰っちゃった。一緒に来てくれてありがと」
     三ヅ星は、時兎に微笑む……が、時兎は。
    「別に、俺、星見たかったし……やっぱい、好きだしな……」
     と、素っ気なく答える。
     でも、そんな素っ気ない態度でも、三ヅ星の態度は変わらない。いや、むしろ。
    「うわああ、星の数が全然違う、すごいや!! ねぇねぇ、その星図鑑見せて! 一緒に星を見ようよ!」
    「……ああ」
    「わーい♪ 南十字星はどれかなーっ……」
     蓄光の星図鑑を、二人で一つ見入る……指を這わせて、星を一つ一つ確認。
     すると。
    「……でも、コレだけ星があったら、三ヅ星座とか作れそ」
    「えっ!? 三ヅ星座!? じゃあ、隣には、高城君の星座もあるかも!」
    「それ、どんな星座だよ……」
     三ヅ星の言葉に、時兎は苦笑。
     とは言えその口調は、優しげだった。
     そして。
    「ほら、あれが南十字星だよ」
     と、砂浜に寝転び、指さすリーズディットに、アルト。
    「あれが、南十字星」
     指を追いかけ、星の名を零す。更にリーズディットは、一つ一つ星を指し示し、名を零す。
     そんなリーズデッドの言葉に、アルトは。
    「あんなにも多く散る一つ一つに名があるのだな。繋いで形を作るのも、おもしろい」
     暫しの静寂の後……ふと視線を感じたアルト。
     横を向けば、リーズディットと瞳が合う……それに。
    「……綺麗だ」
    「……あの、星達よりも?」
     少しからかう感じの言葉……アルトは真剣に。
    「ああ、おまえの方が綺麗だ」
    「有難う、アルト……だけどね、俺は君もこの空よりもずっと、綺麗だと想うよ」
    「私も? だとすれば、おまえと同じという事か」
     そっと片手を伸ばすリーズディット……アルトの目元を撫ぜながら。
    「あの煌めく星々にこの手は届かないけれど、それでも構わない。温かな優しい光を宿す君に手が届くなら……君と、この手を繋いで共に在れるなら、それでいい」
     と、呟いた。

    「あ、ほら、南十字星っ♪ 綺麗だねっ!」
     普段見ない星に、はしゃぐ歩……周りには水花と、冥。
    「夜空の星、か……うん……と、危ないぞ?」
    「え? あ、うん。ごめんね?」
     冥が歩の手を引いて座る。水花も傍らに並ぶと。
    「えへへ、歩ちゃんと一緒……♪」
    「……そうだな」
     水花の言葉にちょっと素っ気なくしながらも、歩を膝に座らせて、歩の頭を撫でる冥。
    「あら、歩ちゃんにメロメロ?」
    「うん。冥お姉ちゃんも大好き! でも……」
     と、歩は水花に笑顔を向けると、水花と頬を擦り合ったり、抱きしめられたり。
    「えへへ……大好きなお姉ちゃん達と星が見られて、ボク幸せだよ♪」
     そんな歩の言葉に、冥、水花も。
    「うん……私も、幸せだよ」
    「そうだね……♪」
     と、微笑む。
     そして儚と澄も、南十字星を見れたことに感動しながら。
    「僅かな時間しか見れないって言われたから、見れた私達は幸運よね?」
    「そうだね! どうして見つけられたの?」
    「ん、星の声が聞えたの」
    「すごいなー……想にも見せてあげたいなぁ……今度一緒に来ようか。三人で!」
    「うん!」
     と笑い合う。そして。
    「ホント、颯人が言ってた通り、都会と沖縄の空、全然違って綺麗だな」
     嵐の言葉、颯人はそれに微笑みながら。
    「そうッスね……そうだ。海に入るなら、付き合うッスよ。けど引き潮に足を取られると危ないから、転ばぬ先のナントカってやつ? 保険に」
     と手をさしのべる。
     手と顔を交互に見比べ……笑い嵐は手を預ける。
     靴を脱いで、爪先を波につけて。
    「ん、冷たい」
     と笑う。そして腰を落ち着け、空を見上げる……煌めく十字架の南十字座に。
    「もし、あの星に何か一つ、願うなら嵐ちゃんはどんな願いゴトするッスか?」
     颯人の言葉に、嵐はちょっとだけ考え。
    「颯人の願いゴトがかなえば良い」
    「え……?」
    「颯人は? 何て願うんだ?」
    「俺の願いゴトは、ね」
     颯人は、静かに嵐の耳元に。
    「……君に、この想いが、伝わりますように」
     と、小さく呟いた。
     その近くで、ケイネスと陽羽は歩く。
     星を見上げながら靴を脱ぎ、足だけ入ると、ちょっと冷たいけど、気持ちよい。
    「ケイもどう?」
     と振り返り、声かけようと……した瞬間。
    「ん、俺も入ってみるとするかのぅ……おい、転ぶぞ……って、危なっ!」
     咄嗟に体を抱き留めるケイネス……顔を真っ赤にし、見上げる。
    (「顔真っ赤じゃかわええ……キスしたい……」)
     ケイネスの心境に対し、陽羽は……そのまま暫し、動かぬまま、抱き上げられていた。

     一方高那崎に向かった有栖と零菜。
    「月明かりの海が綺麗ッス! 南十字星は……」
    「んー……あ、アレじゃないッスか?」
    「オー、ヤッホー! マジゴッドッス! パネェッス!」
     ジャンプする零菜、有栖の腕に抱きついて。
    「つい腕に抱きついちゃったッス。ま、いいッスよね、へへ」
     と笑う零菜に、有栖は笑い、肩を寄せ合う。
    「オレ……俺ね、最高に運が良いなぁって思ってる。だって学年一つでも違ったら行けなかった。南十字星も見れて、君といけて、今日は最高……また、見に来ようね、ッス!」
     と、優しく笑った。

     そして時間も夜半。
     篝莉と風樹は。
    「今日はとっても楽しかったの。今度はクラブのみんなと来られたらいいなぁ……」
    「今度は部の仲間みんなと来る事が出来たらいいよな」
    「うん。その時は、また詳しく教えてねっ」
    「勿論、しっかり説明するよ」
     と互いに約束し、宿へ……そんな二人の結構後ろで、歩く香撫と要心。
    「しかし、満天の星は見たこと無い訳じゃないが、格別だな」
    「ええ、こういった場所で見るから、でしょうか、本当に綺麗……」
    「でも、月宮と見れるってのも、そう思える一つだ」
    「っ、そ、そんな事! 綺麗な物は、誰とみても綺麗ですわよ!」
     顔を真っ赤にする香撫……また、流れ星。
    「おお、よく見えるだけあって、流れ星も結構あるな。ここは一つ願掛けでもしておくか」
    「ええ、流れ星に願い……わたくしもしてみよう……」
    「月宮とうまくいきますように、月宮とうまくいきますように、月宮とうまくいきますように!」
    「って! 言葉に出して願い事しても意味ないし、後何言ってますの!?」
    「今のはただの願望だ。だから返事はいらねえよ。いずれきっちり貰いに行くからよ」
    「……」
     要心の言葉に、早鐘のように鳴り響く鼓動……言葉は、返せない。そして。
    「さ、戻ろうぜ。名残惜しいが門限時刻だ」
     手を差し出す要心に、香撫は。
    「……そうですわね。戻りましょうか」
     複雑な心境に少し戸惑いつつも、二人も宿へ。
     波照間島の満天の星空は、灼滅者達を煌めく夜空で、祝福した。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月26日
    難度:簡単
    参加:34人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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