●
「占い師の話、知ってる?」
「ん? よく当たる占い師でもいるの?」
「あー、知らないんだ~。おくれてるなぁ」
「なにそれ、ちょっと教えてよ~」
「まあ、私も最近聞いた話なんだけどね」
駅前繁華街のメインストリートをいくつか曲がった先、昼間はそれなりに人通りはあれど、夜にはまるっきり人がいなくなる通りがある。
そこで女性占い師が1人、交通事故にあい死亡した。
「……なによそれ」
「まあまあ、話はこれからよ」
その通りには個人経営の店がいくつかあるが、占い師が事故に遭ったのはとあるブティックの前。
ブティックは通りに面してガラス張りのショーウィンドウになっており、そのガラスは鏡のように事故現場を映していた。
「だから占い師の魂はそのショーウィンドウに囚われて、今もそこにいるんだって」
「怪談じゃん……」
「ちょっと違うんだなー。事故があった2時44分にそのショーウィンドウの前に立つとね、向こう側には入れるんだって」
「向こう側?」
「そこには占い師がいて、未来を教えてくれるんだって。的中率100パーセント!」
「マジで?」
「そう。でも答えは誰でもいつもでも一緒」
簡単だ。人間は生きている以上、いつかは『死ぬ』。
「……なにその詐欺」
「試してみる?」
「バッカみたい」
●
「みんな集まったね? じゃあ、説明始めるよ!」
エクスブレイン――須藤・まりんは、教室に集まった殲滅者達を見回すと、ひとつ頷き話を続けた。
「みんなは占いとか信じる?」
大阪府の一部地域で、ある都市伝説が流れているようだ。
曰く、交通事故で死んだはずの占い師が、よく当たる占いをしてくれるという。
「当たるといっても、死の運命だけらしくてね。今のところ、試そうとする人はいないみたいだけど……」
人の好奇心はいずれ恐怖を忘れ、都市伝説を試そうとするだろう。
そうすれば、被害者が出ること間違いない。
「そうなる前に、みんなに都市伝説を倒してほしいの」
場所はとある繁華街のメインストリートから少し離れた、車2台がすれ違うのがやっとという感じの普通の通り。
個人経営の小規模商店がいくつか並ぶ中、ブティックのショーウィンドウが別の世界への入り口になっている。
「女性占い師が亡くなったっていう2時44分になると、ショーウィンドウにその事故現場が映るの」
その状況でショーウィンドウに飛び込むと、中へ入ることができるのだ。
「中は鏡みたいに左右反対になっていてね、道路の真ん中に血だらけの占い師がいるの」
占い師はかってにこちらの運命を占い宣告する、あなたたちは死ぬだろうと。
「その占いはインチキかも知れないけど、実際に特殊な力はあるみたい」
不幸の予言をすれ突然上から物が落ちてくる。予測困難攻撃は、こちらの行動を制限するだろう。
やけどの予言は炎を生み、またごく近い未来を予測しこちらの動きを読むことも出来るようだ。
「相手は1体だけど能力は厄介だし、油断しないでね」
説明を終えると、まりんは現場の位置を記した地図を殲滅者に手渡し、もう一度みんなの顔を見回した。
「被害者はまだいないけど、放っておけばきっと近いうちに誰かが都市伝説を試しちゃう。止めることはみんなにしか出来ない。だからお願い、頑張ってね!」
参加者 | |
---|---|
海野・歩(ちびっこ拳士・d00124) |
橙堂・司(獄紋蝶々・d00656) |
ミケ・ドール(凍れる白雪・d00803) |
綾瀬・栞(空見て歩こう・d01777) |
真城・季桜(桜色コヨーテ・d01990) |
病葉・眠兎(年中夢休・d03104) |
相武・玲生(カタストロフの堕仔・d03415) |
ライラ・ドットハック(褐色の狙撃手・d04068) |
●
「ここ、だね」
綾瀬・栞(空見て歩こう・d01777)は手元の地図から視線を上げて、呟いた。
大阪府のとある駅前。メインストリートからいくつかの曲がり角をへたとある通り。
個人経営の店が並ぶ一角、小さなブティックの前にいるのは8人の男女だ。
「今は……2時25分くらい? 余裕だね」
ブティックの中にある掛け時計に目をこらし、橙堂・司(獄紋蝶々・d00656)が確認する。
予定の時間まで、あと20分といったところだ。
「……じゃあ、それまで。お互いの動きについて相談、いい?」
「ん、いいぜ。大事だからな、そういうの」
ライラ・ドットハック(褐色の狙撃手・d04068)の提案に真城・季桜(桜色コヨーテ・d01990)は頷き、2人のスナイパーは身振り手振りを交えた戦術論を語り始めた。
「てか、キミ。大丈夫?」
「午前2時とか、眠いの……。Zzz……」
目をクシクシをこする病葉・眠兎(年中夢休・d03104)に声をかけたミケ・ドール(凍れる白雪・d00803)は、次いで相武・玲生(カタストロフの堕仔・d03415)に視線を向けた。
「そっちも」
「ん……昼、少し寝たから。大丈夫」
うつむいてボンヤリしていたため眠いのかと思ったが、ただそういう性分なだけらしい。
ならいいけど、と小さくつぶやき、ミケは女占い師が事故に遭ったという噂の道路を見た。
「占いねー、女子としては気になるところだよねぇ」
「占い。信じるか信じないか、よくわかんない。 ……幽霊出るし、占いもある?」
玲生が首をかしげる。と、電柱に背を預けていた海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)が首を横に振った。
「僕は占いは信じないし、占ってもらいたいとも思わないかな。どうするかは自分で決めたいし、自分の決めたことは貫きたいもんっ!」
「俺も同意見だな。あんなものはただの指針、でも呪いとかはゴメンだ……あ、べ、別に怖いわけじゃねーよ」
話し合いが終わり占い話に加わった季桜に、ライラは小さく肩を上下すると結論した。
「……とにかく敵は灼滅するだけ。私は言った通り、相手の動きを制限するように狙う」
そうしている間に時は過ぎ、
「時間……」
眠兎が相変わらず眠そうに携帯を耳に当てた。
時報を聞いてるらしい。それによると、残り30秒。
「さ~てと、頑張るぞ~っ♪」
「わう、わんっ!」
歩がスレイヤーカードから力と武装を引き出し、共に現れた霊犬『ぽち』の背を叩く。
全員が力を解放するなか、来る2時44分。
普通のガラスに過ぎず、店内を伺うことが出来たショーウィンドウ。
その表面が波打つように揺らぎ、治まると一変して鏡のように道路と町並みを映し出した。
普通の鏡でないことは明らか。
自分たちが映っているのは当然として、その背後。
血まみれの女が地面に伏している。
振り返っても現実にそんな女はいない。鏡の中だけに、女がいる。
8人の殲滅者は互いを見やり……季桜の姿に気づいて7人で頷くと、
「では前衛の方から」
栞の言葉に、
「鏡の中、楽しみ」
薄く笑うミケから、足を踏み込んだ。
「おい、いっとくが趣味じゃねーからな! これ!」
白い女物のドレスに身を包み、ライドキャリバーに跨がった季桜が叫ぶのを適当に聞き流しつつ鏡の中に踏み込む殲滅者達。
いやまあ、キリングツールである防具に見た目などそれほど意味はないことみな分かっているが、
「……行くわよ」
「ああ、くそ! 行くよ!」
ライラに続き、季桜は最後尾で飛び込んだ。
●
中に入り、8人と2匹は即座に戦闘陣形を組む。
前衛に司、ミケ、玲生にぽち。やや後方に歩。
後衛には栞にライラ、ライドキャリバーに跨がった季桜。
栞は辺りを見回して戦場を確認。街灯は健在で、明かり的な問題はないようだ。
身構える殲滅者に対し、倒れていた女はビクッと大きく震えると、操り人形のように起き上がった。
「占ってほしいの?」
喉がやられているのか、かすれた声が響く。
「貴方たちの運命は……死。それも、近い未来」
「……それが、どうかしましたか?」
応じたのは眠兎だった。
彼女は眠そうにしつつも、護符揃えから回復用のモノを選びつつ、
「いつか死ぬからと言って、罪無き人を殺めて良い理由も有りません……!」
言い切った。
同意の意思を行動で示す殲滅者達に、女占い師は、
「そう」
興味なさげに呟くと、差し出した手のひらに水晶玉を生み出して視線を落とす。
なにかする気か。
「させねぇぞ!」
季桜がバスターライフルの引き金を引き、同時キャリバーが機銃掃射。
光が駆け抜け、銃弾が随伴する。
狙いは違わず。
だが女は気怠げに体を横に動かし、光と銃弾は女の服を千切り飛ばすにとどまった。
「チッ、さすが格上か」
先制攻撃に続き、全体が動き出す。
まず仕掛けたのは歩。
「パワー全開、いっくぞ~っ!」
駆け抜けざま跳躍。振りかざした刃を水晶めがけ落とすが、
「当たらない」
女の言葉を現実とするかのように、突如飛んできた鍋が刃の軌道をそらした。
一緒に切り込んだぽちの斬魔刀も避けられる。
敵の能力を目の当たりにし、女のひどい外見からやや目をそらせていた司は鋼糸を繰ると、
「うぅ……。あんまり近寄りたくないけど……行くよ、レオ!」
「やる」
玲生と共に前へ出た。
女は水晶を見つめたまま、口だけは忙しなく動かしている。何を言っているかは聞こえないが、
「……上!」
ライラの警告の真意を確認する前に、横に避けた。
落下してきたのは、切っ先を下にした包丁だ。
アスファルトに弾かれ、かすんで消えたそれは、間違いなく女の預言のたまものだろう。
「もーっ、もーっ」
厄介な敵の能力と、厄介な敵の外見に不満の声を漏らし、早く終わらせると決意して繰り出す封縛糸。
女は糸を避けるも、獣がごとき俊敏さで追い縋ってきた玲生を振り切れずレーヴァテインの一撃を受けた。
「不吉な占い、ひっくり返してみせたげる」
飛び退いた玲生に代わり前に出たミケが落下してきたナタをチェーンソー剣で打ち払うと、回転刃の速度を上げ、モーター音を響かせた。
騒音刃。女は音に打たれるが、ダメージは浅い。
飛び退き距離を取ろうとする女。栞はマジックミサイルで追うが、飛来した鍋のふたに弾かれた。
眠兎のデッドブラスターもかわした女に、ライラは予言者の瞳を発動しつつ目を細める。
強敵だ。
一発一発集中し、無駄弾を使うわけには――そう思案する間にも、女は新たに予言する。
「あなた、火傷するわよ」
指先が真っ先に占い否定した眠兎に向けられ、突如として炎がわき上がった。
「テメェ!」
季桜とキャリバーの射撃が女を穿つ。
少し驚いたように目を見開く女に前中衛陣が突撃。
繰り出される攻撃を巧みに避ける敵に、ミケは影を宿した一撃と共に、言葉を叩きつけた。
「インチキ占い師も死ねば本物になれたって感じ? それとも占いで自分の未来当ててたってことかな」
「……今度はあなたが燃えたいようね」
「やってみなさいよ。倍返しにするから」
刃を受け止める笑う女に、ミケも笑みを持って返した。
「眠兎さん、大丈夫ですか!」
敵が興味を移した隙に、栞の癒しの矢が眠兎を回復。
眠兎は眠そうにしていた目を見開き、女を見ていた。
「私は、さっさとアンタを倒して、早く帰って寝たいのよー!!」
絶叫して防護符を乱暴に自分へ叩きつけると、フンッと鼻を鳴らす。
「そ、そうですね……」
栞は苦笑を浮かべ、次の癒しの矢をつがえた。
占い師は炎を主として、殲滅者の体力を削る。
前衛、中衛、後衛。それぞれにまんべんなく炎をばらまきつつ、どこから飛んでくるか分からない攻撃で足止め。
回復役の栞としては、やりにくいことこの上ない。
「また……!」
後衛の炎を払ってもまだ中衛に炎が残り、前衛で新たな炎が起こる。
清めの風では効率的な回復が出来ず、癒しの矢で回復に専念するしかない。
だがそうして彼女が支え続けていたからこそ、戦況は殲滅者側に偏りつつあった。
「……」
ライラが深く息を吸い、止める。瞬間、放たれる黒の銃弾。
弾丸は女を撃ち抜き、毒を付与。
それだけではない。季桜と共に放つバスタービームのプレッシャーに、氷も重ねていく。
加えて玲生の炎。
行動阻害も付与。
さらに司の斬弦糸により増加されれば、シャウトですべてを払うことは難しい。
「死んで未来も無くなったんだから、成仏したら?」
「……燃える」
ミケの挑発に、怒りを押し殺して放たれた予言はかなえられる。
燃え上がる炎。しかし、
「無駄なのよ、早く倒れなさいよ!」
すでに数枚が張られ、さらに追加された眠兎の防護符が炎を打ち払う。
殲滅者全体のBS耐性は上がり、すでに占い師の状態異常メインの戦闘スタイルは有効なモノではなくなっていた。
「詰めるぞ、キャリバー!」
季桜がキャリバーの突撃に合わせて至近射撃。
「ぽち、今こそ僕らのわんこパワーを見せるときだよっ!」
「わうっ!」
ぽちの六文銭射撃は女が呼び出したちゃぶ台に激突。
一部砕けたちゃぶ台がそのまま歩を阻みにくるが、
「ガンガン押すよ!」
閃光百裂拳が木片に変え、拳は女に届く。
「ッ! 貴方たちは死ぬの……死ななきゃいけないのよ!」
女がヒステリックに叫ぶと、上空に多数の刃物が出現。
一気に降り注ぐ鋼の雨の中、司と玲生が詰めて挟み討つ。
斬弦糸が女を刻むが、続く玲生のティアーズリッパーは読まれていた。
回避。
その結果に満足げに微笑む女は、しかし次の瞬間に驚愕の表情を浮かべる。
「さっきのお返し。どお? 苦しい?」
ミケのズタズタスラッシュ。
「このっ」
女が放った鍋を蹴り飛ばし、ミケは笑う。
「終わらせよっか」
「終わらせます」
栞のマジックミサイルが女を撃ち抜き、
「終わりよ!」
眠兎のトラウナックルが打ち抜く。
女は叫び声を上げ、いくつかの状態異常を解除するが、すでに傷は癒やしきれないほどに深く、
「……さようなら」
ライラの射撃に女の足が止まった刹那、歩が女をホールドし、頭から地面に叩き込んだ。
背中から倒れる女の体はピクリとも動かない。
それでも構えを解かない殲滅者の中、玲生が女を踏み抑え、燃える拳を振り上げた。
「……あれ?」
が、気づけば女の姿はなく。8人は現実の、ブティックの前に立っていた。
●
「あっけない、幕切れだねぇ」
ミケが武装をスレイヤーカードに収納する。
バベルの鎖があるとはいえ、不用意に武器を手にしたところを目撃されるのは考え物だ。
各々武装をしまい終え、やっと一息。
戦闘で得た熱を、体の外に追い出した。
「お疲れさま~♪」
元気な歩に、
「お疲れ様」
ライラがハイタッチ。
元気な2人に苦笑しつつ、季桜も応じ、
「おう、お疲れって、おい!?」
横で倒れかけた眠兎を、あわてて支えた。
「大丈夫ですか!?」
「……もう、だめ……ねむ、い」
栞が慌てて駆け寄るも、落ちかける寸前だ。
「眠い」
「ふぁ……明日も、学校だしね……」
玲生、司も目をこすりつつ、何とか耐えているという様子。
「あ、じゃあもうちょっと待って」
歩は近くの電柱に駆け寄ると、花を供えて黙祷を捧げた。
「ん、でも都市伝説ってよ――」
季桜が眠兎を栞に預けつつ首をかしげる。
都市伝説は、人々のネガティブな噂や思念がサイキックエナジーによって実体化したモノだ。
元となった事故や事件が、現実にあったとは限らない。とはいえ、
「火のないところに、ていうし。自己満足だよ」
歩は笑って立ちあがった。
「帰る?」
玲生が言いつつ駅前方面に歩き出す。
動いてないと、もう結構危ない。睡魔的に。
「……帰りに駅前のスイーツ店で甘い物でも食べたいわね」
この状況で、ライラさんがわがままをおっしゃる。
「あ、ボクも食べたい、甘いヤツー」
司まで自己主張を始めるのに、
「コンビニスイーツで我慢しろって」
季桜がフラフラし始めた玲生を支えて苦笑しつつ、駅前へ向けて歩き出した。
みなが続く中、栞はふと振り返る。
電柱の下、電灯に照らされるのは歩が捧げた花。
(「『血まみれ占い師』……貴女という都市伝説は、ここで姿を失い、時代に忘れられて『死語』となれ」)
それがこの世の正しい常なのだから。
静かに寝息を立て始めた眠兎を担ぎ直し、栞は仲間の後を追うのだった。
作者:皇弾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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