武蔵坂学園の修学旅行が行われるのは、毎年6月。
今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間になる。
この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのだ。
また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われることになっている。
修学旅行の行き先は、南国沖縄。
沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが、武蔵坂の生徒達に安らぎの時間とかけがえない思い出を与えてくれるだろう。
修学旅行の3日目は終日自由行動だ。
沖縄本島を飛び出して、離島巡りをするもよし。マリンスポーツに興じるもよし。気力と体力の持つ限り、沖縄レジャーを満喫することができる。
「珊瑚礁由来の地質を持つ宮古島には、山や川がなく、土砂が海に流れ込まない。だから、宮古島の近海は透明度が高く美しいんだそうだよ」
いつもの学芸書――ではなく、沖縄離島のガイドブックを手にした鳥・想心(心静かなエクスブレイン・dn0163)は、早速仕入れたばかりの知識を披露した。
宮古島には幾つもの観光スポットがあるが、想心が目を付けたのは、島の南にあるビーチの一つだ。
「珊瑚礁に囲まれた入江になっていて、波は穏やか。ここでは船を使わずに、ビーチから直接海に入って、スキューバダイビングができるそうなんだ。透明度の高い、宮古島の海ならではのダイビングスポットだね」
必要な器材などは全てレンタル。現地のインストラクターの引率の下、誰でも――そう、泳げない人であっても――気軽に海の中の世界を堪能できるのがスキューバの魅力だ。
海底一面に広がる美しい珊瑚礁。カクレクマノミやイソギンチャクなどの、美しくもどこかユーモラスな南海の生き物達。水面のカーテンを超えて揺らぐ光に照らし出される美ら海(ちゅらうみ)の世界は、一度目にすれば忘れられない光景となるだろう。
更に、この海には他にはない見所があるのだという。
「何でも、この辺りはウミガメの回遊ポイントにもなっているらしいんだ。運が良ければ、カメと並んで泳ぐこともできるかもしれないね」
興味があるなら、友達を誘って行ってみると良い、と想心は言う。
スキューバダイビングでは常に二人一組でバディを組んで潜ることになる。仲の良い友達と一緒に潜るなら、事前に打ち合わせておくのがベターだ。
勿論、あえて一人で申し込んで、その場でバディを組むことになった人と親交を深め合うのも面白い。
「私も、特にバディ候補はいないけどね。このプランに申し込むつもりさ。もし君も興味が沸いたなら、私に言ってくれればいい。一緒に手配しておくよ」
暑いのは苦手だけれど、海の中なら多少はマシだと思うからね。と、言って想心は君を見た。
「今年こうしてこのメンバーと一緒に旅行に行けるのも、何かの縁さ。大いに楽しもうじゃないか」
●
浮遊感を覚える。
海中の音は遠く近く、距離感さえも掴めない。
透き通った視界に果てはなく、どこまでも青が続いている。薄桃色の珊瑚の森を、鮮やかな原色の魚達が縫うように駆ける。
空の下とは、何もかもが違う。
そこは正に別世界だった。
●
「だ、だいじょうぶですぜんぜんこわくもなんともないです……」
精一杯の虚勢を張りながら、初めて飛び込んだ海の世界。暖かな沖縄の海だというのに、セトラの体は小さく震えていた。
……ぎゅっ。
(「あっ……」)
すぅ、と緊張がほぐれていくのを感じる。
手袋越しに感じる、友人の手の平。
震えるセトラの手を優しく握って、仙花は穏やかに微笑んでみせた。
水中適性Eと自称する陸上ユニットな優奈が、ぎこちなく足をバタつかせて水を掻く。バディとなった有葉も海は初めてのはずだが、飽くまで冷静に優奈の手を引きサポートする。
グループ内での黒一点、ラビも泳ぎに自信があったわけではない。しかし、誇り高きマニャーキン家当主候補の――そして男子としてのプライドが、ちっぽけな恐怖心を吹き飛ばす。
(「南の海とは、こんなにも心地がいいのか……」)
無邪気に体を揺蕩わせる、ラビはもうすっかりこの世界のトリコだ。
彼のバディとなった久遠も、最初は少し緊張していたようだが、今はもうすっかり悠然とこの海を楽しんでいる。
八重香はインストラクターとバディを組んだ、という体で、最後尾から皆の様子を伺ってくれていた。年齢不相応に落ち着いた八重香の振る舞いにインストラクターも少し驚いている。
振り返ったセトラの視線に気づき、八重香は小さく手を振り返した。
友人達が、すぐ隣にいる。
そうして再び前へと向き直したセトラは、この幻想的な美しさを素直に楽しむ余裕を取り戻していた。
(「スキューバダイビングというのは初めてですわね……。
ちょっと、ドキドキしますわ」)
ラヴィニアもまた、多くの参加者同様スキューバは初体験。
(「いざとなれば、飛鳥さんを頼れば、大丈夫ですわよね?」)
ちらりと隣に顔を向ければ、共に参加したバディの奏真が伸び伸びと、この海の世界を楽しんでいる。
ともすれば孤独に陥りやすい海中。
バディは何より確かで、頼れる存在だった。
(「此処が、沖縄の海……」)
沖縄のご当地の力を持つ人造灼滅者――狛には、改造以前の記憶が殆ど無い。
記憶の限りで、初めて訪れるはずの海。けれど、どことなく感じる既視感。
初めて刻む光景の中に混じる郷愁……新鮮なその感覚に、狛の頬は綻ぶ。
(「ここがコマちゃんのご当地……。
本当に、綺麗な海ですね♪」)
彼女とバディを組んだキャロルもまた、記憶をなくした人造灼滅者だ。
海中をまるで己の故郷のように自然に、自由に泳ぎながら、狛の笑顔を見て彼も破顔した。
キャロルもまた、改造以前の記憶が無い――似た境遇を持つ狛への深い親愛の情。
美しい沖縄の海と、それを楽しむ狛の姿とが、彼の心を暖かく満たしていった。
初めてのダイビングに挑む者の多い中、経験者もいなかったわけではない。
全身を覆う水中工作員型のダイバースーツに、排気の出ないリブリーザー。迷彩柄の軍用水陸両用ベストを重ねたフォルケなどは、正にその代表格だ。
『やっぱり、熱帯の魚は綺麗ですね~』
全ての装備を自前で用意してきたフォルケは、水中会話用のボードをバディとなった海漣に向けてニコリと微笑む。
「よろしくじゃん! 一緒に遊ぼうじゃん!」
「なにそのカッコ! すっげープロっぽいじゃん! あーしもそっちがいい! ……え、サイズが合わない?」
「ウミガメと泳ぐの楽しみじゃん!
触ってみたいけどびっくりされちゃうかなー? 握手してみたいなー?」
――などと、陸の上では大はしゃぎだった海漣だが。海を前にすると幾らか大人しく、静かにその世界を満喫しているようだ。
OK! のハンドサインで応えた海漣だが、まだ少し、フォルケのフロッグマンスタイルに未練があるようでもあった。
海底まで潜って仰向けに海面を見上げれば、水面を揺蕩う光に照らされ、視界の端に時折魚が横切るだけの無音の世界。
(「一人だけしか居ない世界……かな」)
(「何やってんだ? ちょっと向こうに行ってみるぞ」)
ぼぅ、と呆ける初美の肩を、共に参加していたリーグレットがトントン、と叩いた。我に返った初美は苦笑を浮かべながら、彼女の示す方へと共に向かう。
(「やれやれ。お嬢様のことを忘れるとは、ダメだったね」)
行く手に見える珊瑚礁の美しさに、二人は目を輝かせた。
●
(「どうも、甘やかされてる気がするね……」)
こなれた様子で先導してみせるバディのジェイルを横目に、想心は苦笑いを浮かべた。
如才ないエスコートぶりに些か顔が熱くなるが、悪い気はしない。
(「さぁ、これを」)
海中で声は聞こえないが、恐らくその様なことを言いながらジェイルはいつの間にかインストラクターから受け取った魚の餌を想心へと手渡した。
見れば、他の参加者たちも皆それぞれに餌を手にして魚達に群がられ始めている。
(「すっげー、めっちゃ群がってくるっす!」)
極志が手にした餌を千切って撒けば、あちらこちらの珊瑚の陰から色とりどりの熱帯魚たちが勢い良く飛び出してくる。
大いにはしゃぐ極志とは対照的に、バディのヴァンスは無言のままで魚のダンスの只中にいた。
無表情なまま、しかしその視線は目の前を目まぐるしく行き交う魚を追っている。
(「見たことない魚沢山いる!」)
(「和真、ほらあっちにも!」)
和真と徒も、撒けば撒くだけ寄ってくる魚達に興奮を露わにする。
紅一点のゆるりとバディになったことをどこか気にしていた天摩も、この海を100%満喫している友人達の様子を見て、自分の悪癖を反省した。
(「珊瑚の海で魚の舞とは、実に壮観な光景であるな」)
神羅の視界を覆うようにツノダイが群れになって右から左へ泳ぎ抜ける。
みてみて、と大きな瞳を見開いて、行き交う魚達を指差すなゆたの姿に、神羅も頷きを返した。
(「この光景を、二人で見れて良かった」)
行き交う熱帯魚にすっかり意識を囚われた、壱。その背後から近づく怪しい影があった。
もちろん、バディの南守である。
――ぶごぼぼぼぶッ!?
背中に、後頭部に、一息に群がる熱帯魚たちの襲撃を受けて壱の口からエアーが吹き出した。
(「南守、なんかしただろ!?」)
壱の背中に置いた魚の餌の代わりに自分の腹を抱えて笑う南守に、答えを返す余裕はなかった。
(「うおおヤベェ! 喰われる! 手ぇ喰われる!?」)
エセ軍人キャラを投げ捨てる勢いで、優奈は正しく混乱の極みにあった。
そもそもカナヅチで海も初めて。魚に触れた経験もないと来れば、手にした餌に向けて突進してくる熱帯魚の群れは散弾の如し。
たまらず、手にした餌を放り投げたことを誰が責められようか。
(「……えっ」)
バディの有葉が、その餌の向く先に居たのは不幸な事故であったという他無い。
忽ち有葉を取り囲む、無数の熱帯魚の群れ。海中と戦場ではパニックが命取りである。
――そんな二人を反面教師に、セトラは努めて冷静に、少しずつ餌を千切って魚と戯れていた。
バディのセトラがもう十分落ち着いたことに安堵しながら、仙花は水中カメラを構えて辺りを見回した。
と。その視界の端に、大きな茶色い塊がふわりと動く。
(「あ――っ!」)
ほとんど無意識に人差し指がシャッターを切る。
陸での鈍重が嘘のように優雅に海中を行くその姿。岩のような焦茶の甲羅を背負ったその姿。
(「あっち! あっちでウミガメさん泳いでる、ですよ!」)
声の出せない深度5m。それでも、常に七人一緒に行動していた友人達は仙花のジェスチャーにすぐに気がついた。
(「大きい……! 予想以上だ……」)
一見間抜けに見えるカメも、海中を自在に泳ぐその姿には、どこか機能美のようなものを感じさせられる。
同意を求めるように視線を寄越したラビに、久遠は小さく頷いて応えた。
美しい沖縄の海の中、色とりどりの魚を、珊瑚を、そしてウミガメを見て回る、今この時。
(「うん……楽しい」)
大人びた美貌に浮かべた歳相応の笑みは、レギュレーターからこぼれた泡に隠れた。
緩やかに回遊していた亀が、すぅ、と岩場の上に腰を据える。
(「ずいぶんと大人しいのう。これならば、近づいて写真を撮っても大丈夫そうじゃな」)
手にしたカメラのシャッターに指を掛けながら、八重香がゆっくりと友人達の元へと泳ぎ寄った。
●
(「うわぁ、やっぱりスゲーきれいな海だ。透明度もあるし、魚も……あっ!」)
悠々と岩場に寝そべるウミガメの存在に気づき、亀之丞はバディの爽子に慌ててサインを送る。
カメと亀之丞。それぞれを何度も交互に見やった後、爽子は神妙な顔つきで声にならない呟きを漏らした。
(「お仲間が、迎えに来たんだ……このまま亀くんも野生に帰るかと思うと、寂しくなるね……」)
(「何かまたろくでもないことを……」)
爽子が何を言おうとしたのか敢えて考えもせず、亀之丞はカメラを手にしてウミガメと、カメと一緒に写真を撮っている面々の元へと泳いでいった。
きっとお互い、仲間同士の全員が写ってる写真が欲しいだろうと考えながら。
ミオと桜花は少し遠巻きに、岩場に腰を据えたウミガメに見とれていた。
(「……こうしてウミガメさんが休んでいる姿を見ると、何だか和みますわね、ミオさん♪」)
無邪気に笑う桜花がまた、可愛らしい。
笑みを浮かべながらウミガメへと視線を戻したミオは、ふと、その脳裏に料理人の娘としての思考が一瞬走ったのを自覚した。
(ウミガメといえば……滋養溢れる薬膳スープ……なんて、ネ)
目の前のカメに嫌われそうな発想を振り払い、ミオは苦笑を浮かべて首を振る――と。
正にその時までのんびりと岩場に居たウミガメが、岩場を蹴ってすぅ、と再び泳ぎだしていた。
丁度カメに近づいていた奏真とラヴィニアの二人が、カメを驚かせたかな? と少し申し訳無さそうにしている。
(「……ミオさん?」)
(まさかネ……アル)
そんな筈はないと思いながらも、ミオは改めて自分の中の邪念を払った。
ウミガメの向かった先には、美しいテーブルサンゴを撮影していた真珠と、そのバディの楽弍の二人が居た。
(「うおっ、出たー! ウミガメッ!」)
まっすぐに向かってくるカメに気づき、楽弍の口元からぼこここっ、と多量のエアーが吹き出す。
(「わ、わ、こっち来た……おっきい……!」)
真珠の正面を横切るように泳ぐカメ。突然の接近遭遇に二人のテンションが一気に高まる。
(「ッ! 庵原さん、後ろ! うしろー!」)
(「? 後ろ……ッ!?」)
ごぽぽぽっ、と真珠の口元からも大量の泡が吐き出された。
先ほどとはまた別のウミガメがもう一匹、真珠の真後ろにまで迫っていたのだ。
(「ウワアアアもう一匹いる近い可愛い近いっ」)
(「すげー!ウミガメ二匹も庵原さんにすげーっ!!」)
二人のエアーは他の誰よりも早く大量に消費されていった。
(……来た)
徒に肩を叩かれた、和真がそちらに意識をやれば。
(「うおー! 大本命のウミガメ、キーター!」)
それも、二匹も!
一旦灼滅者たちの前から姿を消したウミガメは、仲間を連れて再び元のポイントへと戻ってきたのだ。
それほどスピードを出すわけでもなく、ゆったりと珊瑚の海を遊泳している。誰からともなく寄り添うようにして、皆は泳ぎ始めた。
付かず離れず。先導するように泳ぐ二匹のウミガメ。
(「まるでこのまま、竜宮城に連れてってくれるみたい……」)
思わずカメへと伸びる、ゆるりの手。それを優しく押しとどめたのは、手の甲をトントンと叩くバディの天摩の指。
(「でも、ちょっと……行きたい、よね?」)
亀の行く先を指させば、天摩は笑い、ゆるりも笑った。
(まるで、六匹の亀が泳いでるみたいだなー……)
自分たちの姿をどこか俯瞰して、徒はそんなことを思う。
不思議と、そのイメージは彼ら四人が四人とも思い浮かべたことだ。
深く……心を深く海に溶かし、雑念を払った天摩は、仲間と、亀の存在を強く強く感じていた。
(また来てーな……今日ここに来てない奴らも誘って、絶対……!)
陸に上がったら一番にその約束をしようと、和真は決めた。
なゆたと神羅の手と手が触れた。
示し合わせたわけでもない。ただ、仲睦まじく泳ぐ二匹の亀の姿を見た時、自然と二人と手と手がお互いの温もりを求めていた。
(「おーい亀さーん、私達は武蔵坂から来ました。
私たちも亀さん達と同じで仲いいんですよっー!」)
声にならないエアーを吐いた、それが通じたわけでもあるまいが、二匹の亀が揃ってチラリと二人の方を見た、そんな気がする。
(お互いに素敵なパートナーが居て幸せ、かな)
二匹の亀に親近感を抱きつつ、神羅はなゆたの手を少しだけ強く握って――そして同時に、少しだけ強く握り返されて――二人は、並んで泳ぎ始めた。
(「二匹並んで泳いでくるなんて、仲良しさんですわよね」)
仲間を連れて戻ってきたことに安堵して、ラヴィニアは微笑む。
いつもの強気が裏目に出たかと、少しバツ悪げだった奏真の顔も、もう明るい。
(「俺達もあのウミガメ、もう少し追っかけていこうぜ」)
今度は近づき過ぎて驚かさないように、と。
はにかみながら促す奏真に、ラヴィニアも手を取って応えた。
(「えぇ、もっと一緒に泳ぎたいですわ」)
(ぐぅーす……)
カメと並んで感じるうちなータイムにとろりと呆ける狛の手を、キャロルはしっかりと握り、離さない。
ウミガメと並んで泳ぎながら、二人の視線はカメだけでない、この美ら海全体――そして、その中に一体としている、互いのことを見つめていた。
(コマちゃん、キミは決して独りじゃない……)
互いの想いに応えるように、二人の手はずっと繋ぎ合わされたままだった。
(「この二匹……夫婦……かな?」)
(「うんうん、きっとマブダチなんっす!」)
ヴァンスと極志も二人も、ウミガメ達と並びながら互いに言葉を交わし合った。
言葉と言っても例によってジェスチャーで、必ずしも完全に意志が疎通しあえているわけではないが。
大きな身振り手振りでお互いの思いを探りあう、それだけで十分に楽しいのだ。
――と。二匹の亀がそのスピードを更に緩め、ゆっくりと辺りを周回し始めた。
二人の手が、揃ってカメラのジェスチャーを形作る。
(「これってもしかして……シャッターチャンス!?」)
楽弍と真珠が相変わらずテンション高く互いに写真を撮りあえば。
フォルケが海漣や周りの皆をカメと一緒に写真に収めるよう、位置取りに苦心する。
想心がカメラマン役に終始しようとすれば、辺りの珊瑚の観察をしていたジェイルがすかさずやって来て、想心も撮られる側に回るよう促した。
代わる代わるに誰かとファインダーに収められるカメ達は、気を悪くした風もなく、ただ穏やかに狭い範囲をグルグルと舞っていた。
南守がふっ、と流れを外れ、潜行を意味するハンドサインを示す。
壱も、OKのサインを出してそれに応える。
南守の考えを知らぬまま、けれど南守の見たい景色を信じて、壱は幾らか潜行する。
何mかウミガメ達よりも深く潜った所で、南守は反転し、仰向けになって海面を見上げた。壱も、それに倣う。
――視界いっぱいに広がる海中の舞台。水面を抜けた光が揺らめきながら照らす世界に、雄大に舞い踊るウミガメ達のタンゴ。右に下に、上へ左へと三次元のステップを刻む彼らは、正しく海のトップダンサーだった。
南守と壱は思わず顔を見合わせて、笑みを浮かべる。そして、自分達もあのステージの一員となるべく、ゆっくりと浮上し始めた。
●
スキューバを終えた灼滅者たちが次々と浜へと上がってきている。
機材を片付けながら、熱っぽく海の世界を語り合う面々。
中には、陸に上がって改めて記念写真を撮り合うグループもあるようだ。
「驚いた……魔法でも再現できない光景だ」
「中々見られないものが見られたね……」
素直に驚嘆の声を漏らすリーグレットに微笑みを返しながら、初美は手にしたカメラを軽く翳した。
そのカメラの中には、くだんの珊瑚を前にして瞳を輝かせた笑顔のリーグレットが写っているのだが――それは現物を送りつけるまで、内緒にする算段だ。
「そ、そんなに見ないでくださいまし?」
日頃のオーガぶりは鳴りを潜め、桜花は些か恥じらいながらウェットスーツを脱いでいく。
「桜花も大胆にキメてるネー」
けらけらと笑うミオの際どいビキニほどではないが、かなりセクシーな黒の映える「大人の」水着だ。
「……で、爽子さんは対抗して脱いでるの?」
「ん? ……ぎゃー!」
ウェットスーツをはだけさせた、その胸元を慌てて隠す爽子。水着のブラを外していたことを忘れていただけでわざとじゃない、と後に語る。
「……魂とか、抜かれたり、しませんよね……?」
初めての修学旅行で、慣れないカメラの前に立つ有葉。
並んで立つ久遠も、慣れない笑顔を浮かべて仲間達と共に大切な記念を形に残す。
そうして各々は思い出を写真や心に留め。
思い出を一番のおみやげに、宮古島の美ら海を後にしたのだった。
作者:宝来石火 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月26日
難度:簡単
参加:32人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 3
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