修学旅行2014～さんご畑、１０万株の珊瑚観賞

■リプレイ

●珊瑚畑でお勉強
　晴れ渡る沖縄の空の下、その白い石材で形作られたサンゴ畑の施設は、まるで陸上に現れた竜宮城のように……。
「珠希ちゃん宜しいでしょうか？」
　タッチプールで海の生き物をスケッチする鈴懸・珠希（中学生エクスブレイン・dn0064）に声をかけたのは秋山・清美（お茶汲み委員長・d15451）。
　手を止めて首を傾げる珠希に、清美は春休みの事を謝りつつ「スケッチのやり方を教えて欲しくて」と切り出す。
　とりあえず清美のスケッチブックを見てみると。
「この黒い丸は？」
「ヤドカリです」
「このアメーバは？」
「ヒトデです」
「……ごめん。あ、これなら解るわ。殺人現場ね！」
「イソギンチャクです」
「………………ごめん」
　謝りつつ丁寧に描き方の基本を教える珠希。普段の勉強とは真逆なのが新鮮だ。
「鈴懸さん、スケッチうまいですよね」
「本当だ、オレは絵が苦手だから羨ましいよ」
　そこにやって来たのは富山・良太（ほんのーじのへん・d18057）と竹尾・登（ムートアントグンター・d13258）。なら教えてあげるわ、と得意気な珠希だが。
「あ、僕はそれなりに描けるので」
　良太が「大丈夫、アレは描きませんから」と自分のスケッチブックを取り出し、何かを描き始める。
　……そして、最初に描き終わった良太が。
「そういえばエクスブレインさんは精神的に大変ですよね……これ、せめてものお礼です」
「私に？」
　良太が書き終わった絵を珠希に渡す。その絵は珠希の横顔だった。
　手渡ししてキョロキョロする良太。清美に怒られるかと思ったが、当の清美はスケッチと格闘中。
「私を描いても勉強にならないじゃない！」
　まさかのダメ出し。
「まぁ……でも、皆が行っても助けられない未来を観た時とかは、そっと胸に閉まわないといけないから辛い時もあるわね……でも、私達は現場に行く皆に比べたら……だから、気にしないで」
　これ、貰っても良い？　そっぽを向きながら丁寧に似顔絵をスケッチブックに挟む珠希に、良太はもちろんと頷くのだった。

　その後、「もう少し頑張ります」と清美が言うので、珠希たち３人は一端別の場所を回る事に……。

●珊瑚の幼稚園
　育成槽に並ぶは小さな珊瑚の幼群体を観察しているのは八角・雛姫（高校生殺人鬼・d21951）。
「赤ちゃんだからか、あまり派手さは無いですよね」
　ふと声を掛けられて雛姫が横を観れば、エクスブレインの珠希がいた。
「ああ、まだ華は無いな……だが、ここにある珊瑚が、ゆくゆくは皆が知る珊瑚となると思うと感慨深い」
　深く頷く珠希。
「だが、この珊瑚たちがこの育成槽を出た時、環境の変化に順応できるかどうか……もっとも、私たちにできるのは見守ることぐらいだけどね」
　雛姫の言葉に考える珠希。
「鈴懸さん、あっちに少し育った珊瑚がいるみたいだよ？」
　登と良太がやって来て珠希を誘う。
「雛姫先輩も一緒に見に行きませんか？　順応できた珊瑚達の未来を」
　珠希の誘いに一瞬戸惑う雛姫だが、コクリと頷き中学生３人の後をついて行くのだった。

●ウミガメの保護池
「わー、小っちゃいですのねぇ」
　ウミガメ保護池で一生懸命に泳ぐ赤ちゃん亀を観ながらルウ・イエリヴァル（音探し・d25942）が目を輝かせる。
　池ではプカプカ浮いた赤ちゃん亀たちが、ぱたぱた手足を動かし必死に泳いでいた。上手く泳げてないのが可愛いらしい。
「あ、逃げられた」
　隣の池の方からそんな声が聞こえ、ルウはそちらを振り返る。
　隣は少し育った子亀用の池だ、２０ｃｍ位の中くらいの亀達が悠々と泳いでいる。
「撫でられるのは嫌いなのでしょうか……」
「そうかもしれないわね」
　話しているのは成宮・悠理（まみむめメイド・d25170）と珠希達だ。一緒に周っていた良太や雛姫も池を観ている。
　再度挑戦と悠理が手を伸ばし、チョコンと甲羅に触れる。
「ふむー、結構固いですねー」
「じゃあ、わたしも少しだけ……」
　やってきたルウが手を伸ばすも、赤ちゃんと違い達者な泳ぎで逃げていく子亀たち。
　頑張ってと年下の珠希と良太が応援してくれた。
「そういえば亀と言えば浦島太郎に出てくる乙姫様の正体って、助けた亀なんだよね」
　亀を観て和む皆を前に豆知識を披露する登。
「そうなの？」
「ならどうして乙姫様が１人で海岸へ？」
　珠希と良太に聞かれ、登は少し腕を組んで考えると。
「あー、ほら、時代劇とかでお殿様が城下町を１人で出歩く、みたいな？」
　おおー、となんとなくその場の皆が納得。
「珠希さん、もっと大人の亀もいるのですよね？」
「あ、はい。サンゴの池にいるってパンフレットに書いてありました」
　ルウに聞かれ珠希が言う。
「海に入らず陸上で本物の珊瑚を観れるのですよね、わたし、珊瑚を観るの初めてです」
　嬉しそうに言うルウに「じゃあ皆で行きましょう」と。
「あ、鈴懸さん、秋山さんを」
　途中、タッチプールでスケッチしていた清美と合流し、皆でサンゴの池へと向かうメンバー。
　ちなみに……。
「珠希ちゃん、見て下さい！」
　清美の描き直したスケッチブック。
「えっと……連続殺人事件？」
　いえ、多くのイソギンチャクが踊る綺麗な磯の絵です。

●サンゴの池
　普通では考えられないほどの深さを持つその大きな池は、上から見下ろせば様々な色の珊瑚が段々になっており、まさに陸上から見下ろすリーフエッジだった。
　沖縄の太陽の下、透き通った水の中に海から切り取られたかのような珊瑚礁は、訪れた人を皆、幻想的な世界に引き込んでくれる。
「わぁああ、サンゴってこんなに綺麗なんだ」
「これは……すごいな」
「さんご綺麗だねー！」
　サンゴ池を覗き込みながら３人の女の子が感嘆の声をあげる。
　雨森・珈薫（ビタービターチョコレィト・d17456）が「あっちは青、そっちは赤、あれはオレンジ？」と次々に指差し、神谷・蒼空（揺り籠から墓場まで・d14588）がその度に「すごいすごい！」と飛び跳ねんばかりに興奮し、楠原・センリ（廻る歯車・d21130）もまるで海の宝石のように綺麗な珊瑚礁に息を飲む。
　今回、サンゴ畑に２人を誘ったのは珈薫だった。友達２人と一緒に見れたらきっと楽しいと……そう思って誘ったのだが。
「どうかしたか？」
「ううん、凄い楽しいなって」
　センリに聞かれ素直にそう答える珈薫。「私もだ」と微笑むセンリ。
「あ、ちょこちゃん！　センリちゃん！　亀だよ亀！」
　蒼空の指差す先、サンゴ池の中を悠々と泳ぐは大きな大人のウミガメだ。
「本当だな……これがウミガメか」
　息継ぎをして再び潜って行くウミガメをしばし目で追う３人。
　ふと、視線をあげて珈薫が２人に。
「ねえ、今後は修学旅行じゃなくて三人でどこかに旅行してみたいね」
「うん！　いいねー！　どこに行くー？　あ、遊園地とかは？　カフェとかもっと発見するのでも良いよ？」
　ハイテンションに同意する蒼空に、腕を組みつつセンリも。
「遊園地か……そう言えば行った事がなかったな」
「じゃあ遊園地にしようよ！　ね！」
　センリの言葉に蒼空が笑顔で頷き、しかしセンリが珈薫の方を見て。
「いや、こういう事は３人で決めるべきだろう？」
「じゃあ３人で行きたい所をせーので言ってみる？」
　珈薫の言葉にセンリも蒼空も頷き……。
　せーのっ！
『三人で楽しく遊べたらいいな』
『三人で行けばどこでも楽しいよ！』
『三人と一緒ならどこでも楽しいだろう』
　……ぷっ。
　３人が声をあげて笑う。
　場所が違っても、やることが変わっても、この関係が続いてずっと三人一緒なら……。
　心からそう思う３人であった。

「恭乃！　恭乃！　見よ！　亀じゃ！　亀がこっち来るのじゃ！」
　サンゴの池はスロープを下る事で水面下の風景をアクリル越しに観賞する事もできる。
　アクリルの窓にべったり引っ付いて中を見ていたラクエル・ルシェイメア（みんなの魔王様・d16206）が、黒橋・恭乃（黒々蜻蛉・d16045）に興奮しながら報告する。
　しかし目線は海の中、至近距離までやってきてターンするウミガメに。
「ハハハ！　見たか恭乃？　意外と目つきの悪い奴じゃな！」
　楽しそうに言うラクエルに。
「私は中々に愛らしいと思いますよ？」
　と恭乃は感想を言うも「カメの気持ちが解っておらぬな！」と一蹴された。正直良く意味は解らなかったが、ラクエルはとっても楽しそうだ。そんな笑顔を見ると、恭乃も一緒に楽しくなり些細な事はどうでも良くなる。
　再び窓にへばりつき「あそこのイソギンチャクの群生はカラフルじゃな！」と首っ丈になっているラクエルを見て、恭乃はそっとカメラでパシャリ。
　今日のラクエルは白いワンピース姿でお嬢様風の格好だった。おめかししたした姿は珍しいのだ。
「どうした恭乃？」
　撮った笑顔に満足していると、不意打ちで声をかけられた。
「あ、いいえ、なんでもありません」
「そうか？　では再び上に行くのじゃ！」
　恭乃の手を取って再びスロープを上っていくラクエルに、サッと日傘を取り出す。
「ほら恭乃、急ぐのじゃ！　早く早くっ！」
「魔王様、サンゴは逃げませんって」
　はしゃぐラクエルに、微笑みながら手を引かれる恭乃であった。

●陸の竜宮城で光合成を
「って、いい加減笑ってんじゃねーよ！」
「だけど、さっきのは焦りすぎだろう。ちょっと触るだけだろうに」
「うるせーうるせー！」
　先ほどの様子を思い出して吹きだすクレイ・モア（ドリーミングドリーマー・d17759）に、赤くなって叫ぶはシグマ・コード（フォーマットメモリー・d18226）だ。
　そんな２人のやりとりに【光合成】の仲間たちは笑いながら仲良く歩き、やがて眼前に全周３０ｍを越える巨大な池が見えてくる。
「あっ、ほらみんな！　サンゴの池だ！」
　大きな池の周りに集まると、深い底に向かって綺麗な珊瑚の段――リーフエッジが作られ、様々な魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
「おおー」
　無表情ながら声をあげるのは由島・千那（おはなしのとうじょうじんぶつ・d17968）、浅瀬にあったイソギンチャクの中に隠れているクマノミを発見したのだ。
「千那はクマノミ好きなのか？」
「初めて見たよ。でも、見てるとうにょーとしてて力抜けちゃうね」
　シグマの問いに、千那が答える。
「メロンちゃん、あのでっかい亀が大人のウミガメさんだよ、見える？」
　クレイの声に反応しそちらを見る千那。
「ウミガメだあ、大きいねー」
「ああ、すげぇー大きいな」
「確かにでけぇな」
　シグマも一緒に大人の亀に驚くも、唐突に千那がクレイに。
「イモさん、おじいさんにはなっちゃダメだよ？」
　一瞬意味がわからない。
「だって、イモさん優しいから、亀さん助けていつか竜宮城に行っちゃいそう」
「ああ、確かにな！　はははははっ！」
　さっきのお返しとばかりに笑うシグマにつっこみを入れつつ、「玉手箱は開けねーよ」と千那に優しく言うクレイだった。
「……クラリスさん、どうかした？」
　ふと、クレイたち３人を見ていたクラリス・ローゼンハイム（胡蝶の夢・d18061）に友繁・リア（微睡の中で友と過ごす・d17394）が声をかける。
「あ、いえ、千那さんが、なんだか皆の妹みたいで……」
「ああ……それは言えてるかもね」
　楽しそうな３人を眺め……やがて。
「よし、上から見る海も良いけど、スロープを降りると横からも見れるみたいだし、そっちに行こう」
　クレイの鶴の一声で、スロープへと向かう仲間たち。
「シグマ君は降りないの？」
　ふと、足を止めて見送るシグマにリアが聞く。
「ああ、俺は上から見てんの好きだし、ここでいいや。リアは海中体験の方が興味あるだろ？　気にせず行って来いよ」
「……わかった。ねぇ、上から見たら私達もお魚に見えるかしら……？」
「見えるかどうか、上から見といてやるよ」
　笑うシグマに微笑み返し、リアも皆の背を追って行った。
　そこはアクリル窓を通して、リーフエッジを真横から見ることができた。
　ダイビングをしなければ見れないほどの至近距離で、しかもこれだけ綺麗な珊瑚礁を見れる水族館もまず無いだろう。それは珊瑚に特化したサンゴ畑ならではの特別な風景だった。
「わぁ……海の楽園です……サンゴって、こんなに美しかったのですね」
「……段々にサンゴが重なって、綺麗……」
「綺麗で砂糖菓子みたいでおいしそ……おっとと」
　クラリスとリアと千那が見事な珊瑚礁に見惚れ、クレイも感嘆する。
　海中は珊瑚礁だけでなく、カラフルな魚たちも自由に泳いでいた。美しい珊瑚礁を背景に泳ぐ魚たちはなんとも幻想的だ。
「クラリスさんは、珊瑚とお魚達どっちが好き？」
　ふとリアがクラリスに聞くと。
「お魚、でしょうか？　できればあの中に混ざりたい……なんて言ったら、子供っぽいでしょうか？」
　恥ずかしそうに「だって気持ち良さそうなんですもの」と言うクラリス。
「気持ちはわかるわ」
　とリアが微笑む。
「美しい珊瑚にも憧れますが、その周りをたゆたう魚になってみたいです……今度、そんな夢を見れるようにおまじないしておきますね。もちろん、夢の中でも皆さんと一緒です」
　嬉しそうに言うクラリスに、リアも千那も頷いて……。
「それにしても２人とも、こういう綺麗な所が似合うね。神秘的で憧れちゃうな」
　笑い合う２人を無表情で見ながら千那が素直に言うと、「ありがとう、でも千那さんも似合うわよ」と２人に言われた。
「そう？」
「ええ、珊瑚の間で遊ぶ海の妖精みたいよ？」
　海の妖精、リアにそう言われて千那が、えへへ、と。千那の声もどこか明るく嬉しそうだ。
「クラリスちゃん、楽しんでくれてる？」
　リアと千那を見守っていたクラリスにクレイが声をかける。
「あ、はい。皆さんと一緒にいるのに、ぼうっと見惚れちゃうことが多くて……すいません」
　最近入ったばかりの自分に気を使ってくれていると解り、クラリスが恐縮すると、クレイは「そんなこと気にするな」と笑い。
「入って早々、俺はこうやって一緒に出かけれてよかったって思ってる。良い思いでに早いも遅いも無いしな」
「あ……はい、私もそう思います」
　そうこうするとリアと一緒に千那がやってきて。
「写真撮ろうよ」
　千那の言葉に皆が頷く。
「あ、シギーは上か」
「手招きしてみる？」

　一方その頃。
　サンゴの畑は海岸に有り、地上から見渡せば沖縄の真っ青の海が見える。
　１人、地上に残ったシグマは風が運ぶ潮の匂いに思いを馳せていた。
　これからもずっと、こいつらと一緒に楽しく……。
　ふと呼ばれた気がして池を覗けば、海中の窓から手招きする仲間の姿。
　声も姿も見えなかったが、それでも通じる仲間との絆。

　修学旅行３日目。
　陸上の竜宮城で綺麗な珊瑚礁とともに。
　心のスケッチブックに残るは色とりどりの思い出。
　ここで笑った仲間と友達の笑い声は、きっといつまでも……忘れない。

作者：相原あきと	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年6月26日 難度：簡単 参加：16人 結果：成功！
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