修学旅行2014～想い出シェルアクセサリー

■リプレイ

　広がる青と透き通った海に、雪緒は目を輝かせた。
　どこまでも続く海原は、見た事の無い美しい色をしている。
　ざあざあという波の音すら、心地よい。
「清十郎、あっちに行きましょうなのですよー！」
　楽しそうに駆ける雪緒の後を、清十郎が歩く。
　しゃがみこんだ雪緒の手に、白い二枚貝が握られていた。
「二枚貝は、対になる貝殻としか合わさらないんだってね」
　清十郎のロマンチックな話に、雪緒は頷く。
　雪緒の対は清十郎ただ一人だと思い、そっと身を寄せた。
　お互い指を絡ませ歩き始める。
「雪緒、貝殻を半分にしてペンダントにしないか？」
「素敵ですね。翠と青の天然石を使って…鎖は銀にしましょう」
　二人で見つけた貝殻を、想い出と共に形にして。
　この世で一つの、対の贈り物。

　世界に一つだけ、を求めて莉都は砂浜を歩く。
　あまり見かけないような貝や、色の綺麗な貝に目が移ろう。
「自分だけの、とかオリジナル、とか聞くとテンション上がるよな！」
「うん、凄く特別だよね」
　莉都は爽太に相づちをうつ。
　自分でネックレスなどを付けない爽太は、この器用な手先をどう生かそうかと思案しているようだった。
「よし、ひらり先輩へのお土産にしよーっと！」
　先輩には、ちっちゃなタカラガイのピアスが良い。
　はしゃいでいる爽太に、莉都も貝を拾って見せる。
　その合間にも、莉都の手にはちっちゃな貝が沢山集まっていた。
「莉都はどんなの作るの？」
「僕はブレスレットにしようかと思って」
　この小さな貝を、黒い革紐に等間隔に通す。
　恋人は喜んでくれるだろうかと、莉都は目を細める。

　押し寄せる波に向かって駆け出す春陽の背を、少し心配ぎみに月人が見送る。
　はしゃいだ春陽が転げかけ、月人に支えられた事はご愛敬。
　ふと視線を落とした春陽が、小さな貝を拾い上げた。
「こういう貝と天然石で、ブレスレットを作ろうと思うの」
　石は二人の誕生石を使うつもりであった。
　そこに理由なんて、無い。
　幸せな結婚の御守りだなんて、死んでも春陽は言わない。
「月人さんはどんなものにするの？」
「俺は細長いものか二枚貝でペンダントを作ろうかと思ってな。上手く二枚貝で作れたら、プレゼントしてやるよ」
　それなら絶対見つけなきゃ、と春陽が探し出す。
　細長い貝ならブラッドストーン、二枚貝なら真珠を付けたいと月人。石の意味なんて月人は知らなかったが、春陽は気付いているようだ。
「自分で調べなさい」
　何故か、春陽は赤い顔でぷいっとそっぽを向いた。

「…あいつに会いてぇ」
　ざあざあと押し寄せる波の音を聞きながら、皐臣はひとつ溜息をついた。
　四日間という長さを思い、憂鬱になる皐臣。
「お前は寂しくねぇのか」
「何で俺が寂しがるんだよ」
　志良はむっつりとした顔で返す。
　恋人じゃないし、さっきも口煩く言われて電話で喧嘩したばかりだ。
「へぇ、そうか」
「そうだよ…っと」
　砂浜から志良が拾い上げたのは、小さな巻き貝。レモンクォーツのミサンガを作ったら、きっと綺麗だろう。
　喧嘩しても土産を用意してやろうなんて、俺って優しくね？
　志良がそう同意を求めて皐臣を見返す。
「…なぁ、人形姫の物語って哀しい結末だがよ、俺はあいつと幸せな物語を紡いで行きてぇって思ってるんだわ」
　皐臣も拾った貝殻を見つめ、呟く。

　海辺で出会った貝は、きらきら輝く宝石に。
　磨くと手の内で光り続ける。

　海岸沿いのお店には、店主が入手したものや珍しい貝殻も置いてある。
　せっかくだから、お店の綺麗な貝殻で作ろうと『ｄａｉｒｙ　ｒｅｐｏｒｔ』の四人は店を覗いた。
「海岸のより大きくて珍しいのが一杯あるね。こんなのはどうかな」
　小さな貝殻を手に取ると、大輔の小指を拝借。
　貝殻を合わせようとして、彼の手の大きさにふと微笑む。
「うん、決めた」
　梗鼓と大輔の指輪パーツを取りに行くと、天然石と合わせていく。大輔も、出来上がるまで梗鼓と離れて作業を続けた。
　巻き貝二つに、沖縄の海のような青い天然石。
　そして夕焼け色の赤い石をそれぞれ二つずつ。
　あとは花のオーナメントも手に取ると、貝殻と赤青天然石二つのピアスを仕上げた。
「先輩は何を作るんですか？」
　紫信が聞くと、桔平はイヤホンジャックを手に取ってみせた。
　彼女とお揃いで、ピンクの桜貝とオレンジの天然石を合わせたものを作る予定だった。
「そっちはどうよ？」
「皆と被らないものでお揃いのもの…指輪とピアスとストラップ以外ですよね」
　あとはブローチ、だろうか。
　紫信はぐるりと貝を見て回りながら、比較的大きな貝も手に取った。ブローチなら、小ささにはあまり拘らなくても良い。
「でも蘭世さんには白い貝が似合いますよね」
　貝を囲んだ天然石が、キラキラ輝いて綺麗だ。
　桔平も自分用を早速取り付けると、かりなの分を包んでもらった。
「かりなちゃん、喜んでくれるかな～」
「良いお土産が出来ましたね」
　話ながら二人が店を出ると、大輔が梗鼓に手を差しだしていた。どうやらお互い作り合ったお揃いのアクセサリーが出来たらしい。
「梗鼓、手ェ出せ」
　大輔は梗鼓の手に、ピアスを乗せる。
　二人でお揃いのものを持っていたかったから。
　その思いは梗鼓も同じで、作ったピンキーリングを大輔へと渡した。お揃いの指輪が、梗鼓と大輔の小指で光っている。

　海の無い県に住んでいた花梨は、青く澄んだ海を見て絶句。
　落ちている貝殻も色とりどりで、宝石のようだ。
「この貝殻小さくて可愛い…」
　目を細めて、拾い上げる花梨。
　沢山集めたら、緑色の石をあしらったブレスレットにしてあの人のお土産にしよう。その裏には、親愛なる貴方へ、と小さく彫られていた。
　砂を落として器用に磨き上げる七星は、作業も素早く沢山の貝を仕上げていく。
「わあ、もう終わったの？」
　穴あけに苦戦していたあすかが、七星の様子を見て驚く。
　タカラガイのネックレスを作ろうとしているあすかは、貝が割れないか慎重になっている。様子を見た七星が、アドバイス。
「あまり力を入れなくてもいいから」
「割れないで…っと、開いた！」
　笑顔を浮かべたあすかを見届け、七星は仕上げに掛かる。
　コーム型の台座にクンツァイトとムーンストーン、そして薔薇型の三種類のビーズを使った。出来上がったのは、小さな貝殻の花である。
　姉を思いながら、仕上がりにほっと息をつく七星。
「出来た…」
「教えてくれてありがとう。こっちも出来たわ」
　あすかはネックレスを見つめ、ふと笑う。
　沖縄というと貝殻…とも少し違う独特のイメージがあったが、こけはこれで良き想い出だろう。
　ストラップを作っている火蓮も、従姉への贈り物。
「弟分、ってみんな何故か器用なのな」
　手先を見ながら、響生は言った。
　多分それは、アクティブな姉が多いせいでは…と思ったが火蓮は黙っておく。肝心要の貝殻は、より慎重に丁寧に仕上げる火蓮。
　トップに桜貝を置いて、革紐を編んだストラップに付ける。
　一方響生は、悩み中だ。
「あいつにはブレスレットがいいかな…どういう組み合わせにするか」
　白い貝殻に、恋人の天然石であるルビーとラピスラズリを合わせよう。
　何でも似合いそうだから、選ぶのにも迷う。
「天然石と貝のサイズが合っていて綺麗だな」
「まぁ、俺が作ったって信じてもらえないかも」
　響生はそう言って火蓮に笑ったが、手作りのブレスレットには響生らしさがちゃんと生きていた。

　これを探しているの。
　そう言って藍晶が写真を黒曜に見せた。
「見つけるのが難しいと思うけど…」
　砂浜から一つの貝殻を探すのは、途方も無い作業であった。
　でも一生懸命な藍晶をちらりと横目に、黒曜は目を細めて微笑む。
　探し疲れて藍晶の表情が曇ったその時、その影にちらりと何かが光った。
「あ！」
　黒曜が声をあげて手を伸ばすと、藍晶もそれに気付く。
　同じ貝がらに触れ、重なった手にさっと藍晶が手を引いた。
「ピアス…作りたくて」
「うん。その貝殻、藍晶ちゃんによく似合う色ね」
　穴を開けるのに少し手間取っていたけど、出来上がると藍晶は嬉しそうに見つめた。お互いに出来たピアスを、二人で交換し合う事にする。
「あまり上手く作れてないかもしれないけど…」
「出来なんか関係ないよ。二人の大切な想い出だよ」
　黒曜はそういうと、両手にそっとピアスを包み込んだ。

　姫恋と双葉は、それぞれストラップとブレスレットを対で作る事にした。
　二人で海岸を散策しながら、対になりそうな貝を探して歩く。
「こうして海岸を歩いているだけでも想い出になりそうだな…と目的を忘れちゃいけないな」
　ふと双葉は笑って言った。
　むろん、こうして居るのが楽しいのは姫恋も同じだ。
「そっちはどう？」
　双葉が聞くと、姫恋が振り返る。
「ええ、何となくイメージ通りのものは見つけられたかな」
　姫恋の手の中には、小さな巻貝がある。双葉には黒や赤をイメージして作ろう、と姫恋は笑みを浮かべた。
　一方双葉はインカローズとアバタイトを使い、ブレスレットを作る事にした。
　初めての作業は難しかったけれど…。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
　双葉が差しだしてブレスレットを大切に受け取り、姫恋からもストラップを送る。
　彼から貰えるものなら、何だって嬉しいのだから。

　奏は何を作ろうかと考えている時、葉の形シルバーパーツが目に止まった。
　ようやく貝殻に穴を開けた瑠理香は、磨き作業に入っている。
　少しずつ綺麗になっていく貝殻に、瑠理香はにこにこと笑っていた。
「……ツヤツヤしてきた！」
　光に透かし、瑠理香は光の加減をじっと見つめた。
　こうしていると、角度によって違う色。
　楽しそうな瑠理香を見て、彼女はこういうのが好きなんだなと奏は見とれてしまった。せっかくだから、と奏も貝殻とシルバーパーツを合わせて革紐に通す。
「へぇ、革紐に通すと雰囲気が引き締まりますね。奏さんもお上手だなぁ」
「ただパーツを倒すだけだよ」
　貝殻とか女の子らしいものは柄じゃないんだけど、と奏は思っていた。出来上がったアクセサリーを眺めて居ると、瑠理香もチェーンで繋いで仕上げた。
　潮の匂いの貝殻を身につけると、潮騒が聞こえる気がした。

　ちらりと見ると、いつもヘラヘラしている紀人が珍しく真面目に貝殻を磨いていた。
　手にあるのは、小さな桜色の巻き貝である。
「…わ、ワレが真面目なんも珍しいな。何を作っちょるんじゃ？」
　珍しく声が震えているハゼリに、紀人は内緒と答える。
　そっけなく『ふーん』とハゼリは答えたが、うっすら頬は赤かった。
　紀人がそうまで真面目に作っているのは、これが大切な人への贈り物だからだ。そっとハゼリを見やると、彼女も真剣に貝を磨いていた。
　普段から機械弄りをしているハゼリは、手作業は得意だ。
「真剣にモノ作ってる姿もイイなぁ、惚れるぜはぜりん！」
「またすぐ惚れるとか言いよって」
　こっちだって四六時中惚れちょるわい。
　小さく言った言葉は、紀人にも聞こえていたはずだ。

　小さな淡い桃色のビーズが、白いタカラガイの横に並ぶ。
　丁寧に作業をする英雄の手先を見ながら、廉三は感心しきりである。
「へえ、上手いもんじゃのう」
「いえ、そんな事はありませんよ。安福さんも器用じゃないですか」
　天然石を選んだ廉三は、シンプルな落ち着いた色の貝殻と合わせてブレスレットを作成していた。ンズでも違和感のないものを、と色を選んだものである。
　作業を始めると、廉三も黙々と。
　その合間の談笑もまた楽しい。
「英雄は親御さんにお土産なんじゃろ？」
「母はこういう、可愛らしい物が好きなんです」
　英雄はそういうと、できあがり掛けたブレスレットを見つめた。
　こうして形に残して持ち帰ると、きっと英雄の母も喜ぶに違いない。

　クラブで貝殻のブレスレットを作った事を思いだし、柚姫は貝殻を見つめる。
　今度は髪飾りにしよう、と思い立つと小さな貝を桜色に染めていった。
「貝殻ってすぐに割れたりするから、慎重に…慎重に、ですね」
　穴を開けるのも染色するのも、丁寧に。
　ちらりと横を見ると、染はＵピンの先に貝殻のついた鎖を付けていた。手に持つと、ゆらゆらと鎖と貝が揺れる。
「貝殻で装飾品を作るのも、中々楽しいなぁ」
　何より柚姫との旅行が楽しい、と染は嬉しそう。
　柚姫の髪飾りは、貝殻の花が出来上がったようだ。
「えっと、私も完成、です～！」
「わ、やっぱかわいー！柚姫はセンスあるもんなぁ」
　柚姫はそう言われ、嬉しそうに笑う。
　染の手の内に躍る貝殻もまた、染らしくて素敵だ。

　細長い小さな巻き貝を拾い上げ、朝乃は嬉しそうに笑う。
　ふと見ると、クロムも貝拾いをしているのが見えた。
「どんなものを探しているんですか？」
　朝乃が聞くと、クロムは茶色い縞模様の巻き貝を見せた。
　何だか、虎目石みたいだ。
「そうだろう？　虎目と合わせると綺麗かなってさ」
「他にもいい貝があったら、トレードしましょうトレード！」
　さっそく朝乃は、砂浜を駆け出す。
　砂に埋もれる大きなタカラガイを見つけ、そっと耳に当てる。
　その様子を見た友衛と目が合い、あたふたと小さな貝を見せる朝乃。どうやら、探していたのはこっちのようだ。
「私は丸い巻き貝を探しているんだ。丸いと刺さったりしないから」
　集めた貝を見せながら、友衛は話した。
　色んな色を集めると、カラフルで綺麗だと友衛は言う。
　珍しい貝が見つかればいいが、と呟き友衛が海に視線をやった。押し寄せる波の音と、青い海原が美しい。
「綺麗だな…」
　貝だけでなく、こんなにも景色が美しい。
「扇形の二枚貝？誰か見つけてたよ」
　とクロムから聞いた草次郎は、折れ掛けた心を奮い立たせて砂浜を歩く。
　せっかくだから、なかなか見つからない貝がいいと思う。
「何にするの？　ネックレスとかチョーカー？」
「んー、何にしようかな」
　草次郎はのんびりクロムに答えた。
　人が捌けてきた所で、人が行ってなさそうな岩陰を覗き込む。
「あ…見つけた」
　拾われずに残っていた二枚貝に、草次郎は手を伸ばした。
　さて、それを見て欲しくなったのはユァトム。
　他の皆にも色々見せてもらったが、その度に珍しい貝が欲しくなった。
「せ、せっかく作るんだもん…うんと綺麗なのが作りたいな…っ」
　草次郎も『宝探し』と行っていたが、ほんとにこれは宝探しだ。
　ピンク色の貝や丸い貝。
　あれもこれも、とユァトムの手の中には沢山の貝が集まった。
　それでも、時間は過ぎていくわけである。
「…あ！も、もうこんな時間…」
　急いで戻ったユァトムであったが、どうやら仕上げには間に合わなかった。
　暮れていく日を見つめ、呆然と立ち尽くす。
　ただ、その手の中にはピカピカに磨かれた貝殻が沢山残されていたのだった。

作者：立川司郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年6月24日 難度：簡単 参加：33人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 5／キャラが大事にされていた 3
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