修学旅行2014~ナイトシュノーケルと深海の青い星

    作者:西宮チヒロ

     武蔵坂学園の修学旅行は、毎年6月に行われます。
     今年の修学旅行は、6月24日から6月27日までの4日間。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学に進学したばかりの大学1年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄です。
     沖縄そばを食べたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツや沖縄離島巡りなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!
     
    ●Noctiluca scintillans
     ――海の中で煌めく、星に逢いに行きませんか。

     それは修学旅行2日目の午後、空に茜が混じる頃合いのお誘い。
     沖縄本島、恩納村真栄田岬にある『青の洞窟』は、洞窟の入口から差し込む陽のひかりが海底で反射し、あたりがすべて青に染まる不思議な場所。高い透明度を誇る沖縄の海だからこそ現れる神秘の色は、朝、昼、そして夕方と、陽の強さや加減によって異なる青を見せてくれる。
     そして、陽が眠りについた夜には――昼には見ることのできない、もうひとつの青が煌めき始める。
      
    「へぇ……青の洞窟でナイトシュノーケルか。おーし、これにしよーかな」
     お前も一緒にどうだ?
     修学旅行の冊子を手に、多智花・叶(小学生神薙使い・dn0150)が笑顔を向けた。
     ウェットスーツに身を包んで、寄せては反す波の音に耳を澄ませて。夕暮れの滲む海へとそっと潜っていく先は、夜に包まれた洞窟の奥。
     陽がもたらす青を失ったそこは、飲まれそうなほどの暗闇。
     けれど、手にした水中ライトのひかりであたりを照らせば、たちまち極彩色が姿を見せる。
     銀のひかりは、リョウキュウハタンポ。まるで大きな魚を形取るかのように群れを成して泳ぐちいさな子らは、まさに圧巻。
     ひとまわり大きい赤は、アカマツカサ。大小の縞々は、ロクセンスズメダイとツバメウオ。
     ヒトデや小エビ、ヤシガニはもちろん、珊瑚のベッドでゆるりと遊ぶ、鮮やかなオレンジが可愛らしいカクレクマノミにも逢えるだろう。
    「へへー。それだけじゃねーんだぜ? ほらほらここ!」
     とんとんと指さした1枚の写真。
     暗闇に散りばめられた、青白く煌めくひかりたち。それは星空よりもっともっと、深くて広い――宇宙。
    「きれーだよなー……。夜光虫って言ってさ。海中でこう、手をひらひらーってさせるだけで、こんな風にきらきら光るらしーぜ」
     指先でそっとなぞれば星座を、水を割くように手を動かせば天の川を描くこともできる。

     宇宙の波間に身体を委ねながら、掌の上で生まれる名もなき星たち。
     触れるたびに弾け煌めく青を楽しんだら、最後にもうひとつ。
     ひとりでは決して見ることのできない青を創り出すのは、皆の持っている水中ライト。
     海中から水面へ向けて一斉に光を灯せば、陽では生み出せない幻想的な青の共演を楽しむことができるはずだ。
    「どんな色なのか楽しみだよなー。……そーだ。水中撮影なら防水ケース要るよな。いくらだろ…………げ」
     ぽちぽちとスマートフォンを弄っていた叶の手が止まった。ぴきっ、とでも音がしそうな雰囲気で顔を強張らせる。
     一眼レフ用防水ケース、お値段にまんえん。
    「……家事いつもの倍にして、小遣い貯めるっきゃねーな」
     ちいさな溜息ひとつ。けれどすぐに笑顔を見せて、
    「海空の星、楽しもーな!」
     少年はそう、声を弾ませた。


    ■リプレイ

    ●茜から紫紺へ
     オレンジに染まる波間へ、とぷんと身を沈ませる。
     移り変わる海をゆく色とりどりの魚たちに涼と凪は笑顔を交わす。掌の餌に集ってきた子等を連れて海散歩する凪を、ぱしゃり1枚。いつの間にか撒かれた餌で魚に囲まれた涼は、お返しにとその胸元めがけて餌を撒いた。
     『沖縄人は泳げない』なんて噂を払拭せんと、同行した緋世子と八津葉を証人に。海中に煌めく夕陽のカーテン。魚の遊ぶ珊瑚の森は、うちなーんちゅたる睡蓮の宝物だ。
    「魚達と長く居られる方法は、餌をコマシーに渡……こほん、細かく渡すと良い」
    「細かくだな! おぉ……集まってきた……!」
    「緋世子さんーこっちの魚さんも可愛いわよ」
    「八津葉、そこ海蛇も居るから気を付けるんだぞ」
    「へ……海蛇?」
     蛇が苦手な娘はびくりとするも、
    「出てきても俺が拳でどーんと守るぜー!」
     シュシュシュと繰り出す拳。仲間達ほど頼もしいものは他にない。
    「楽にどうにかしようとしない意気は気に入った!」
     にかっと笑う周に、母から託されたカメラなら尚の事だと叶も微笑む。
     ぽっと海中に降り注ぐ、それはまるでスポットライト。
     ちょこちょこ動くヤシガニを眺めたり、きらり揺らぐ銀魚の群れを写したり。可愛いクマノミにシャッターを切れば、対面にはカメラ構える叶の姿。お互い、想い出になるのが撮れてるといいな!
     いつも迷子の龍之介は言わずもがな、海を見るのも入るのも初めてなシエラや、初シュノーケリングの音雪も、夜の海をこわごわ、ふらふら。
     それでも、慣れてくれば勝ってくるわくわくに、叶も加えたクラスメイト4人組は声を弾ませる。
     掌の餌に集う小さな魚たち。夜だからこそ星の光に気づけるように、この銀鱗の煌めきは夜の海ならではのもの。
    「カナ君ー!」
    「カナさん、お魚、いっぱいいますよ」
    「お、シエラ。龍之介と音雪も目線こっちこっち」
     銀星の海で遊ぶ友達をぱしゃりとしたら、今度は4人揃って記念写真。
     この学園で、このクラスで巡り会った仲間と過ごす、素敵で楽しいひとときに感謝を込めて。
    「中学生になっても、また遊びに行こうね」
     ほわり笑う龍之介に、仲間達も満面笑顔で頷いた。

    ●闇に灯る
     往くか、と短く反して、両腕を組みヒーロー然と海を眺めていた味昧は、翼冷の後へと続いて夜へと潜った。海なぞ見知ったはずのものなのに、そこはまるで別世界。重力に身を任せ、深く、ただ深く沈んでゆく。
     更なる闇を、静寂を。まだ足りぬと希いながら辿り着いた深海に抱かれながら空を仰げば、紺瑠璃に尚煌めく満天の星。待ち望んでいた景色。翼冷の頬を一筋の涙が伝う。
    「嗚呼……綺麗だな……。これだよこれ、この変わり様。たまんないねェ……」
    「……バッドローラーにも見せてやりたかった…………素晴らしい」
     そうして再び2人は潜る。静かに、深く、深く。水面が、光が、遠くなる。
     さっきまでの電話越しの声も遠く思えるほど、深く冷たい海底。飲まれそうな感覚に震えれば、触れた光が淡く弾けた。
     どこにいても一人じゃない。君を思えば光が差す。――それでも、一緒に見たかった。
     たった数日なのに。想希はそうひとつ溜息を零すと、そっと光のハートを描いた。灯る頬の熱を隠すようにカメラを構える。そう、これは願掛け代わり。
     吸い込まれそうなほどの暗闇に、ぽつりと真火の指先が光を灯した。二つ、三つ、青を連ねて描く星座たち。弾けては消えてゆくそれは、壊れ物のようで触れるのを躊躇ってしまうけれど。
    「……あ、…光った」
    「……なんか、何だろ……生命って凄いですね」
     なんて。零しながら青を纏う真火へ、円は静かにシャッターを切った。
     高鳴りを吐息へ潜めて2人、夜を纏う紺碧へ。失われた陽の代わりに生まれる、新しい光たち。身体を包む星の欠片に見惚れるも、雪春の声なき声に永久は傍らを見る。
     星空に負けぬほどの煌めきを残せないのは残念だけれど、確りと目に焼きつけて。みてみてと永久をつついてハートを描けば、傍らの魔法使いは五芒星を描く。
     分かる? と視線で問えば、声の代わりに反す頷きに思わず零れる微笑みの沫。君とならば一層燦めくこの世界を、ずっと一緒に。
     真っ暗で引きずり込まれそうだからと嫌がるも、抱き上げられた模糊は言われるままにぎゅっと目をつぶる。
     一平に掴まり潜ったそこは、闇よりもなお眩い星の海。一平が纏わせてくれた光たち。抱きしめる腕。優しく見守る双眸に、ありがとうと瞳を細める。
     星より近くて星より青い、この星空を全部君に。
     そう微笑む一平が。怖くて踏み出せない先へと連れてきてくれる貴方が、誰よりも大好きよ。
     はぐれぬようにと繋いだ掌。あなたがいれば、不慣れな水も怖くはない。
     掬って、散らして。燦めく光も、それをうけて灯る横顔も綺麗。
     掌を重ねたまま、2人だけの静けさに包まれ背を向け沈みゆく壱琉と琥珀。溶けてしまいそうな感覚に仰いだ水面は、まるでオーロラのよう。
     不思議な力を宿した光に、そっと。海の色の名を持つ娘は祈り捧げる。
     焦がれるようにたゆたいながら、失くしてしまわぬようにと伸ばした指先。冷たい海で求めた唯一の熱は、何よりも愛おしい。
     人魚のようにくるり巡れば、生まれる軌跡は青のリング。けれどこの愛しい海も、彼の好いてくれる私の聲は届けてくれない。憂いとほんの少しの畏れを抱いて詠が描いた泡沫の、その涙のような煌めきを聡士は無意識にそっと拭う。
     君の聲が聴きたい。今は叶わぬ望みに、切なさ滲む微笑みを向けて。娘はもう一度、手を伸ばす。
     蛍よりも近く、強く燦めく光に灯る髪を見ていると、まるで遠くに往ってしまいそうで、倭はましろを背中から抱き寄せた。
     何かに気づいたように瞬く、ココアブラウンの瞳。
    「だいじょうぶ、倭くんもひとりじゃないよ。わたし、ここにいるから」
    「……あぁ、そうだ。そうだったな」
     ずっと一緒。独りになんかさせやしない。だからもう少しだけ2人で。怖くなどなくなった此処で、この蒼い光の中で。
     同じものを見て、同じものを感じたいから。後を追って辿り着いた星の海。
    「うう、大胆な水着でカナさんを誘惑したかったのにー」
    「お前も懲りねーなぁ……」
     相変わらずの紅緋に、叶は呆れ顔で溜息ひとつ。その一眼レフで1枚だけ写真撮らせて欲しいとの願いには、「ごめん」と申し訳なさそうに詫びる。
    「母さんの形見だからさ。今はまだ、誰にも触らせたくねーんだ」
     代わりに俺が撮ったのやるよ、とレンズ越しに光を辿っていけば、ちょんと肩に触れる指先。誘うように光の絵画を描きながら、水にたゆたっていた魔女が「今日も撮影一生懸命ね」とくすり笑う。
     母の残したポートフォリオの続きは、父と2人で。そう瞳煌めかせ語る少年へと、提案するのは謝礼つきの茶会準備のお手伝い。身を乗りださん勢いで誘いに乗る叶と約束を交わすと、恵理は再び水面へと還る。
     水泡は海の吐息。水を伝う波の音にリズムを合わせ、水底に広がる星空に響く小さな歌声。
     波が弾けるたびに花咲く光たちを見つめていれば、心に曲があふれてくるよう。
    「早く帰って曲にしたいような、このままここでずっと見ていたいような……」
     愉しい悩みに、伊澄は小さく口許を綻ばせる。
     燦めく夜空。その小さな一つにそっと触れて、カシオペア座や白鳥座。おとめ座にてんびん座。ことなは知りうる限りの星座をなぞる。
    「ふふ、小さなプラネタリュウムの出来上がりです」
    「じゃあ、ことなの瞳は一番の一等星だな」
     小さく微笑む娘の、その一際綺麗な青い彩へと、叶はけらり笑顔を返した。
     地球の青を思わせるその光に、そっと触れる。
     闇ばかりの世界。不思議な浮遊勘はまるで、星空へと落ちてしまったかのような感覚だれけれど。傍らのいろはの手がいつだって助けてくれると、などかは誰よりもよく知っている。
     想い伝えるための調べの代わりに、重ねた掌。2人描くのは、両の手だけでは描けぬ星の軌跡と物語。
     言の葉の 代わりに友と 手を結び 星を描けば 心に灯る火。
     今宵だけ この指先は 神になる 星空つなぐ 鵲になる。
     嗚呼。あなたの歌を、はやく聞きたい。
     たゆたう星空の海。波に揺らぐ光はオーロラのようで、なんて綺麗。
     ひらひらと掌。生まれる煌めきと柔らかな水の感触に、篝莉は瞳を輝かせた。やってみて? と傍らの由良を誘って、一緒に星座を紡いでゆく。
     夜の海が綺麗ことを教えてくれた友人へ。今度は私が誘うから。
     笑顔を交わして、繋いだ手をきゅっと握り反す。
     重ねた掌に籠もる力。伝わる緊張。「大丈夫」と肩を抱き寄せ囁く双子の弟に、未羽も笑う。柚羽がいっしょなら、平気。
     ふわり海の夜空に舞い降りれば、届きそうなほどに近い青い星たち。指先奔らせ描く宇宙。2人翳した掌。あふれる光は、魔法で創るより綺麗。
    「ねえ、柚羽。これからも2人で見に行こうね?」
    「いいよ、未羽が望むなら一緒に見よう」
     未だ知らない、たくさんの世界。世界に散らばっている不思議たち。
    「すごいな、こんなに明るいんだ」
     触れた場所から毀れた光の欠片を、久良は確りと目に焼きつける。綺麗なものは記憶に残る程度が丁度良い。そうして色んなものを見て、心のアルバムに綴ってゆく。
    「すげぇ! 本当に光るぞこれ!!」
    「きれいだね!」
     エスコートを促され、大輔と梗鼓のゆく背中に生まれる光の羽根。こんなに綺麗な虫ならいいよね。
     ひらひらと掌、きらきらと星屑。写真で見るよりもずっと幻想的な光景に、ポニーテール揺らぐ紫信は見惚れて、桔平は頻りにシャッターを切る。
    「なんか、星の海を進んでいく恋人って、ステキ♪」
    「ほら、桔平さんの笑顔も収めますよ♪」
     2人の後ろ姿をぱしゃりとすれば、今度はそれを借りた紫信が桔平をファインダーに収める。
     最後は勿論、4人集って。海の星を背景に、想い出を1枚。
     宙から見た地球の青が今、眼前に広がっているという神秘。その圧巻と興奮は、思わず素の自分が出そうなほど。
    「おい、ちびっこ」
     更なる青を求めて先へと行った初美を見送っていれば、背後からの声にびくり。慌てて叶が振り返る。
    「だっ……无凱! 俺だってすぐにお前くらい背ぇ――」
    「ほれ、受け取れ」
     息巻く叶へ見せた光の似顔絵。それが誘いへの感謝と礼なのだと気づくと、「似てんだか似てねーんだか……ありがとな」と、少年も一つ瞬き小さく笑う。
     滑らす掌が描く軌跡。その美しさにふと、懐かしむように一点を見つめる。
    「お前は今、どこにいる……?」
     必ず見つけ出す。消えゆく光に、无凱は心で呟いた。
     指先で触れた青は、眩いほどの光で弧を描き、名残惜しげに消えてゆく。
     それはまるで人の命にも思えるけれど、それでも同じ輝きは二度とないからこそ、美しく思えるのかもしれない。一つお願いが、と囁く成海に、叶も頷きファインダーを覗く。
     ――私の写真を、撮ってもらいたいんです。
     そうして願い託した娘は再び、青に煌めく世界へと尾を翻す。
     叶さん。私は今、どんな風に光っていますか。
    「センダツ、何してんの?」
     海。過去の戦闘、暗所故の現地情報収集は困難を極めなどなど、真剣に思考を巡らせる純也を、ほら行こうと壱が誘う。
     遊ぶように舞う青。一面に広がるそれは、夜の海が初めてな颯音も昭子も、言葉なくとも皆が魅入っているのだと解るほど。
     闇に灯る一筋。純也は続けて、触れるのを躊躇っていた颯音の手のそばを軽く弾いた。愚直な友人の遊ぶ様が何だか面白くて、続けて壱が細く長く軌跡を描けば、小さく笑った昭子もまた指先を揺らす。
     颯音へ、壱へ、くるりまわって純也へと繋ぐ光は、縁にも似て。新たな発見に純也は瞬き、壱はそっと掌で受け取り颯音と笑い合う。
     確かに感じる想い。それが愛おしくて嬉しいと感じる日がくるなんて。いつまでもこの優しい光に溺れていたい。
     願う颯音の横顔。みんなと積み重ねてゆく記憶。決して忘れないよ。――ずっと、覚えてる。

    ●そうして、青は空へ
     ――ねえ、見てみようよ。
     海の果てから聞こえてきた誰かの声に耳を傾ければ、どこまでも続く星屑の海に一筋の光が奔った。
     揺らぐ水を映しながら仰ぎ見た先へと渡る煌めきに、ひとつ、またひとつと、ぽわり灯って空へと集う光たち。彩を取り戻してゆく、世界。
     宥氣と2人で見上げた景色に、友衛はただただ言葉を失った。足許の紺青は空に近づくほどに淡くなり、波揺れるたびに輝きを孕んだ碧が彩を添える。
     想像していたどの青とも違う、不思議な色。その幻想的な景色を何枚も写真に収める宥氣に、持ってくれば良かったと思いながら、今度は大人数で、陽の光の中で。友衛はそう願いを交わす。
    「すっげぇ、青」
     初めて知った、水の中から見上げる海の色。宝石のように青を透いて輝く空を見つめていると、まるで青に包まれているように思えてくる。
     見惚れたままの希へ向けたライトの光は、梛のちょっとした悪戯心。危ないと頬膨らませるその腕を引っ張って、並んで2本の光を空へと灯す。
     眩い青の前ではすべてがどうでも良くなってくるようで。星見の約束を交わしたら、心地良い海の鼓動を子守唄に、ただ眠りたい。
    「……うわぁ、すごい!」
    「夜の海ってこんなにも綺麗なんだ……」
     瞳きらきらリアと春陽。昼の空や海とは違った、素敵な色。空の青を失った闇の海の中は、こんなにも幻想的な青で溢れている。
     人魚のような少女2人、カクレクマノミに逢いに珊瑚の森へ。カメラでたくさん切り取った刻は、相棒星人へ想い出のお裾分け。
     つけるよ、と接触テレパスで呟いた人が照らしたのは、超弩級の己の変顔。
    「っげぼぼごっふぉがぼ」
    『変な顔しないでよねーっ!!!』『……はい』
     そんなやり取りを経て、人とオリキアは改めて青を仰ぐ。こんなにも綺麗なのに、人知れずここに在るこんな風景。そんな特別な場所で、手を、ぬくもりを重ねて過ごす時間は特別に幸せ。
     また一緒に来ようね。青に映る笑顔と共に、交わす約束。
     そっと繋いだ掌。幸せ心地に微笑みながら、朱梨は椿と見上げた揺らめきに息を飲む。
     空よりもずっとずっと近くにあるような、きっとここにしかない深い青。この一時を共に過ごせる事が何よりも嬉しい。
     同じ景色を共有して、一つ一つ増えていく思い出。今日を思い出しながら、今度は2人で来られたらいい。椿と想い重ねて、朱梨はそのぬくもりを確かめるように、指先に力を込めた。
     スゲースゲーと言わんばかりの敬介と2人、洞窟や星の海でめいっぱい記念撮影をした真魔。手元から溢れる光の先、波に揺れるたびに色味を変える青に心奪われる。
    「海の中なのに、まるで小宇宙みたいだな」
    「本当に綺麗な青だで……」
     来てほンに良かった。光の角度を変えながら零す声に頷きながら、この光景を焼きつけんと、敬介もまた水を仰ぐ。
     初めての深海も、重ねた掌の熱があれば大丈夫。潜る前に交わした約束――もし感動できたら、この手を強く握るから。
     光の合図に2人見合って手元のライトを重ねれば、そこには夢のように輝く蒼い世界。
     鮮やかな、そして懐かしいような色は、君の瞳の輝き。宝石のような魚達を見送りながら、気づけば力の込もる七狼の掌が嬉しくて、愛しくて。シェリーもまた、そっと握り反す。
     光に浮かぶ青に包まれた世界は心地良くて、ふわり浮遊感に身を任せて漂う鷲司と彩希。
     零れていく泡はまるで星のようで、このまま溶けて消えてしまいそうなそれをそっと掬えば、ふと気づく右手の感触。
     ――鷲くんなら、見つけて、掴まえてくれる気がする。
     このぬくもりを失わぬように。蕩けるような最高の笑顔を、この刻を、空間を。鷲司もまた写真に閉じ込める。
     つけたり、消したり。重ねたり、離したり。
     知信と海碧と3人。つみきの一番大好きな、透きとおるような青空の青で彩遊び。光と水の揺らめきの生む青は、まるで海の万華鏡。
     海碧と名付けてくれた両親は、この美しい『碧』を心に描いてくれたのだろうか。そう、ふわり零れる海碧の笑顔。
     初夏のひんやりと心地良い海の中は、涼しげな世界も相まって眠ってしまいそう。そう心中で慌てるつみきも、青に見惚れる海碧も。みんなと笑顔で過ごすこの大切な時間を、心に焼きつけておきたいと知信は思う。
     緊張と好奇心を抱いて潜った海の底。果て知らぬ闇は上下も解らず、それが逆に楽しい。
     広く、深く、どこかあたたかい世界は、ソウルボードへのダイブにも似て。眩いまでの極彩の群、掌の銀河。つんつんと肩叩く彩豊かな魚達に、冬舞も瞬く。
     神秘なる命に溢れた世界。ここから全てが生まれたのだと思えば怖くない。煉と忍は笑顔交し、冬舞と3人波間に漂う。
     手元の光は一層青を鮮やかにするのに、眩いよりも優しく揺蕩う。けれどこの極彩も光も廻っていく。そう煉が感じるのは、水の中に在る焔の血故。それでも今を、閉じぬ眼に焼きつける。
     喧嘩しているウツボ達を背に、ピースサインで応える忍と並んで皆でぱちり。戻ったら、親分達への土産を考えながら話に花を咲かせよう。宵尽きるまで。
     心細さ。不安。孤独感。昔の記憶。沈んでゆく、落ちるような感覚。
     暗い海は様々なものを過ぎらせたけれど、ライトの光を灯せば浮かび上がる仲間達の顔に安堵する。
    「……闇があるからこその光、なのかもしれないね」
    「闇があるからこそ光が見つかるのよ」
    「……そうだね」
     そう涼子と微笑み合うさくらえへ、靱もまた小さく笑う。
     絆を失うと感じた時の動揺や不安を思えば、その繋がりが怖くもあるけれど。1年ばかりの記憶を辿り、昔はものを思わざりけり、と靱は苦笑を洩らす。
     感嘆を零しながら仰ぐ先には、一面に広がるムーンシャイン・ブルー。
     優しい青に浮かぶのは、集った光から生まれた淡い満月。たった一つの光源では決して叶わなかった、それは――。
    「……これを見られる事は、奇跡かもしれないな」
    「ふふ、確かに」
     さくらえが噛み締めるように頷けば、呼びかけるような仲間達の光に誘われたシグマが姿を見せた。目許に淡い涙の感覚。過ぎる記憶。今こうして皆と一緒にいられる事に強く感謝する。
     仲間達を繋ぐ光の糸。
     それを追う涼子が大切にしたいと願う、皆との絆と景色。それがどれほど強いかを知っているから、二度と失いたくはないと、昭乃思う。
     さくらえの、皆を伺うような鏈鎖の視線に微笑みを反して、靱は光の糸に手を伸ばす。失くした時の事はその時考えればいい。今はただ、失くさない事を考えるだけ。そう、織姫が青を映した眸を細めた。
    「今あるものを、未来に紡ぐ……それだけでいいです」
     皆で見たこの景色を忘れなければ、きっと。
    「そうそう、過去より今、今より未来」
     力強く頷く涼子に、勇弥もまた頷き反す。
     弱さも、脆さも超えて。この光の絆はいつまでも強く、光り続ける。
     重なり、交じり、溶け合って。輝きを増していく数多の青に見惚れる穂純と叶。わくわく初めての水中撮影。見せ合いっこしようねと紡いだ約束は、きっと素敵な彩が撮れているはず。
     揺らぐ水面。夜空を透いたような青が、淡く灯る月の彩へと溶けてゆく様に誘われるように空へ辿れば、別れを告げた青い幻想の代わりに、外に広がるのは満天の星空。
    「やっぱり、世界ってすごく綺麗だね」
     海の、夜空の煌めきを眸に映して、零れる声に叶も頷く。
     きらり一筋の流れ星。
     それはきっと、空と海に燦めく星が出逢った、そのひかり。

    作者:西宮チヒロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月25日
    難度:簡単
    参加:77人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 19/キャラが大事にされていた 1
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