勢力伯仲、湖上の激突!

    作者:志稲愛海

     日本一の湖・琵琶湖に面した大津港。
     そこに停泊している遊覧船で、事件は起こった。

     ――バキバキィッ!!

     刹那響いたのは、乗船開始を告げるスチームオルガンの音色を打ち消す様な。
     クルーズ出航を待つ優雅な遊覧船に似つかわしくない、激しい音であった。
    「え、うわあッ!?」
     そして操舵室から出てきた船長や船員は、思わず声を上げる。
     ボキリと船の煙突をへし折ったのは、異形化した巨大な腕。
     そしてそんな荒業を行なったのは――奇妙な仮面を付けた、2体の鬼。
    「この船舶は此れより、我等が占領し破壊する故」
    「お主達は乗客とともに、直ちにこの船から立ち去るがいい」
     遊覧船の最上階スカイデッキの上で、鬼達はそう船員らに告げて。
     言われた通り船内アナウンスし、人々に避難を促す船長。
     そして乗客や船員が逃げ出す様を見送りながら。
    「そろそろ頃合か」
    「有無。では、この汽船を破壊する」
     仮面の鬼・慈眼衆が、得物を振り下ろそうとした――その時。
    「ちょおおっと待ったペナー!!」
    「その所業、この琵琶湖ペナント怪人が許さんペナよ!!」
     手漕ぎとは思えぬ速さで一生懸命ボートを漕ぎ現われたのは、風にはためく三角頭。
     そう、2体の琵琶湖ペナント怪人であった。
     そして。
    「ふ、ご当地怪人めが。この船とともに湖へと沈めてくれるわ!」
    「琵琶湖を荒らす輩は、オレ達が成敗するペナ!」
     乗客や船員やキャンペーンに来ていたご当地ゆるきゃらが逃げ惑う、遊覧船の上で。
     激しい戦いの火蓋が、切って落とされるのであった。
     

    「急がば回れってね、琵琶湖を渡る船便と迂回した陸路を比較して出来たことわざなんだって」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、いつも通りへらりと笑んだ後。集まってくれてありがとーと皆に礼を言い、早速察知した未来予測を語る。
    「滋賀県大津市にある西教寺のことは、みんなも聞いてるよね。西教寺に赴いた灼滅者のみんなの調査によれば、近江坂本に本拠を持つ刺青羅刹・天海大僧正と、近江八幡に本拠を持つ安土城怪人が戦いの準備を進めているらしいんだ。それでこの情報を裏付けるように、琵琶湖周辺で慈眼衆と琵琶湖ペナント怪人が争う事件が発生しているんだよ」
     琵琶湖周辺で破壊工作を行おうとしている慈眼衆。
     それを琵琶湖ペナント怪人が阻止すべく現われ、そしてダークネスが争うという事件が起こっているのだという。
     一見すると、ご当地怪人が正義のように見えるが……事はそう単純ではない。
    「安土城怪人はね、琵琶湖ペナント怪人を大量生産して、その力で天海大僧正との合戦に勝利し、ゆくゆくは世界征服を企んでいるようなんだ。だから、琵琶湖周辺の破壊工作は、安土城怪人の野望を止める為の手段なんだよ。でもだからといって、罪もない一般人に迷惑をかけるのは許せないけど……慈眼衆側もね、出来るだけ怪我人が出ないよう配慮しているように見えるんだ」
    「ダークネスが、怪我人が出ないよう配慮してる?」
     遥河の言葉に、集まった灼滅者のひとり、伊勢谷・カイザ(紫紺のあんちゃん・dn0189)はふと首を傾げるも。
     遥河はこくりと頷き、続ける。
    「それは多分天海大僧正の、武蔵坂学園と共闘したいっていうメッセージなんだろうね。この事件は場合によってはさ、琵琶湖の戦いの流れを決めることになるかもしれないから」
     だが現時点では、何が正解かは判らない。
     それ故、どのような方法でこの事件に介入するかは、現場に赴く皆の判断に任せたい。
    「それで、今回事件が起こる場所なんだけど。大津港に停泊している、遊覧船の屋上のスカイデッキだよ」
     4階建ての遊覧船の屋上で、2体の慈眼衆が煙突を折った直後。
     人々が逃げ惑う中、2体の琵琶湖ペナント怪人が現われる。
     そしてスカイデッキで、両者が激突するのだという。
    「遊覧船には事前に乗り込めるけど、ダークネス同士の接触前に行動を起こすと、バベルの鎖に察知される恐れがあるよ。敵同士の接触後は、選んだ作戦に適したタイミングで突入して大丈夫かと。スカイデッキはそこそこ広く、置いてあった椅子やテーブルは慈眼衆が蹴散らしてるから障害物もないし、天候も悪くないから視界的にも問題ないよ。そして慈眼衆は羅刹のサイキックと得物の断罪輪のサイキックを、ペナント怪人はご当地怪人のサイキックと得物のWOKシールドのサイキックで戦うんだけど、その力は互角でどっちが勝利するかわからないんだ。だからみんながどう介入するかで、戦いの結果が決まるだろうね」
    「どう介入するか、か。後々にも影響するから、赴くみんなで方針を統一させたいところだな。それに逃げ遅れてる人もいるかもだから、作戦に支障なければ、俺やゼロは一般人の避難にあたるぜ」
     そんなカイザの言葉に、もう一度頷いてから。
    「ご当地怪人の三角頭は一見愉快にみえるけど。油断せずに、作戦を立てて臨んでね」
    「おう、みんなやゼロと一緒に頑張ってくるぜ!」
     そう気合十分なカイザに笑み、霊犬のゼロをぽふり撫でながらも。
     気をつけていってらっしゃい、遥河はそう灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    古樽・茉莉(百花乱武・d02219)
    パメラ・ウィーラー(シルキーフラウ・d06196)
    斉藤・歩(炎の輝光子・d08996)
    卦山・達郎(無名の炎龍・d19114)
    深海・水花(鮮血の使徒・d20595)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    闇薙・ナナ(夜叉を受け継ぐモノ・d25640)
    鷹野・瑠理香(木漏れ日の祈り・d26417)

    ■リプレイ

    ●扶翼の選択
     太陽降り注ぐ湖の色に良く映える、赤いパドルを有した白の遊覧船。
     クルーが振るフラッグが風に靡き、鐘の音と陽気な演奏が乗客を船内へ迎え入れる。
     そんな琵琶湖遊覧に訪れた客に紛れて。
    (「日本史に名を残す偉人や名城が、こんな……」)
     身を潜める場所を探しつつも肩を落とすのは、古樽・茉莉(百花乱武・d02219)。
     彼女がそう思うのも……無理はない。
     それに加え今回の事件は、仮面の鬼と琵琶湖ペナント怪人の激突。何とも言えないシュールさだが。
    (「い、いえ……それでも、侮るわけにはいかないですよね……」)
     事を起こしているのは、ダークネスなのだ。
     そして一般人への被害を防ぐ事は勿論。目的は、それだけではない。
    「俺としちゃ、どっちにも付きたくはないが……例の噂もある、とりあえずは慈眼衆の様子見と行くさ」
     卦山・達郎(無名の炎龍・d19114)は他の乗客と同じ用に出航ゲートの鐘を景気良く鳴らした後、洒落た船内に伸びるスカイデッキへの階段を上り始めた。
     晴天の中、船内で出航を待つ人達。
     初依頼で緊張しながらも、でも頑張る、と。
     楽し気な人々を目にしつつ、仲間と屋上を目指す鷹野・瑠理香(木漏れ日の祈り・d26417)。
     羅刹は宿敵で……自分もその存在に堕ちかけた故に、複雑ではあるけれど。
    (「でも、今は関係の無い一般人を守る為に、わたしの出来る事を」)
     緊張で微かに早くなる鼓動を感じつつも、空へと向かう足を止める事なく。新緑の瞳に、見上げた快晴の青を映し出す。
     そして客に紛れ、灼滅者達が屋上へとやって来た――その時だった。
    「!」
     突如、バキバキィッ!! と激しい音が生じて。いとも容易く倒れる、遊覧船の煙突。
    「この船舶は此れより、我等が占領し破壊する故」
    「お主達は乗客とともに、直ちにこの船から立ち去るがいい」
     そしてそう乗員や乗客へと言い放つのは、慈眼衆だ。
    (「慈眼衆の方々は助力の件の答えを待っているのでしょうけど……どんな意図があるにせよ、一般人への配慮という歩み寄りを見せて頂いた以上、それ相応の誠意で返したいところですね」)
     深海・水花(鮮血の使徒・d20595)は、一般人が去るまで待っている鬼達を見つつも。
    「伊勢谷くん、避難の方はお願いします」
     気を付けて、と級友の伊勢谷・カイザ(紫紺のあんちゃん・dn0189)へ声を掛けて。
    「ああ、一般人の事は任せとけ!」
     頷いたカイザは相棒をもしゃもしゃ撫でた後、仲間達へと霊犬のゼロを託す。
     そしてゼロは采の霊犬と、鼻と鼻でちょんっと軽く挨拶を交わし合った後。
    「ゼロくんも今日はよろしくお願いしますね」
     水花の隣にちょこんとお座りし、軽くもふもふされつつも主人を見送る。
    「ゼロ貸してくれておおきに。一般人の避難の方よろしゅう頼むで。戦闘にも終わったら参加してくれるとありがたいな」
     それから、黒い長髪を風に靡かせ言った花衆・七音(デモンズソード・d23621)に、了解だぜ、と軽く片手を上げたカイザは。傍にいる子供を抱え、サポートに駆けつけた皆と共に階下へと向かった。
     そして。
    「ちょおおっと待ったペナー!!」
     手漕ぎボートで現われたのは――琵琶湖ペナント怪人。
     言動だけ見れば、ご当地を守る正義の味方に一見思えるが……決してそうではない。
    (「う~ん、迷惑な方たち……やれやれですねぇ」)
     ゆるふわな印象であったパメラ・ウィーラー(シルキーフラウ・d06196)の目から、ふいにふっと消える光。
     慈眼衆と琵琶湖ペナント怪人――そのどちらに手を貸すか、どちらにも手を貸さないか。
     灼滅者達が今回、下した決断は。
    「よぉ慈眼衆、俺らも加勢するぜ!」
    「……手を貸すよ。とりあえず、ここを切り抜けましょう」
     ペナント怪人を倒すまでは、慈眼衆に手を貸すという選択だ。
    「我等の助太刀、だと?」
    「そうか……主らが武蔵野の灼滅者か。大僧正様から聞き及んでいる」
     突然の灼滅者の介入に少々驚くも。すぐに握る得物の切っ先を、ペナント怪人へと再び戻す慈眼衆。元々一般人への配慮も武蔵坂学園へのアピールである為か、すんなりと話が通ったようだ。
    「呉越同舟ってやつや、手を貸すで!」
     七音はそう言った刹那、闇を滴り落とす黒きスペードの魔剣の姿と成って。
    (「正直、慈眼衆も安土城怪人の勢力もどっちも信用は出来へんけどな。とりあえず、この場の被害を抑える方が先や」) 
     人払いの為の殺界を形成すれば。
     南無三――そう紡いだ茉莉の手に、封印から解き放たれた得物が握られる。
     正直、ダークネス同士の抗争に勝手に巻き込まれた様な気がして、あまり気にいらないが。
    「最低限の配慮に対しては、最低限のお返しをしておくべきでしょうね?」
     闇薙・ナナ(夜叉を受け継ぐモノ・d25640)も、闇よりも黒いオーラを纏い、影よりも黒い棍を手に、灼滅すべき敵を見据える。
    「てかお前達、何ペナ!?」
    「琵琶湖のペナントをお土産に買って、さっさと帰るペナ!!」
     何気にご当地怪人の性か、ご当地ペナントをアピールしつつ言い放つ怪人達。
     そんな琵琶湖の風に靡く三角頭達に、斉藤・歩(炎の輝光子・d08996)はいつも通りの笑顔を向けるも。
    「悪いっすけどそっちの鬼ぃさん方にはご用があるんっすよねー」
     ……だから消えな、と。
     ふっと今まで宿していた笑みから、真剣な眼差しへと表情を変化させた瞬間。
    「! ぎゃっ、何するペナ!?」
    「羅刹に手を貸す気ペナか!?」
    「ペナペナうるせえ、ペラペラ野郎。いま風穴開けてやるから琵琶湖の藻屑に成りやがれ」
     一気に距離を詰めた歩の杭打機の鋭撃が、ユーモラスなタッチで描かれた琵琶湖的イラストのど真ん中を貫かんと繰り出されて。
    「覚悟せよ、ペラペラ野郎め!」
     何気につられたのか、同じく怪人をペラペラ野郎呼ばわりしつつも。
     灼滅者達と共に、ペナント怪人を倒すべく。
     慈眼衆も転輪の如く回転する斬撃を繰り出すのだった。

    ●刹那の共同戦線
     屋上のデッキから、激しい衝撃音が響き渡る中。
    「ここは危険でござるよ。さ、拙者と避難するでござる」
    「この先を真っ直ぐ行けば安全に下まで行けるはずだ。走らず、落ち着いて避難してくれ」
     ハリーは目星をつけておいた場所を中心に、プラチナチケットで関係者を装いつつ声掛けをして。割り込みヴォイスで、少し離れた一般人にも避難を促す蝶胡蘭。
     慈眼衆は一般人への被害を出さぬよう、心がけていたとはいえ。
    「……!」
    「ほんまに、誰も大きな怪我させたくないわ」
     戦闘の余波で大きく船体が傾いた瞬間、采は小さな子供の身体を咄嗟に支えて。
     彼の霊犬も船内を駆けては室内に残っている人達を見つけ出し、主の采やカイザへと知らせ、避難誘導の手伝いを。
    「此方からも避難できますので、慌てずに」
     プラチナチケットで船員に扮し、アルカイックスマイルを絶やさず丁寧に誘導しつつも。パニック状態の女性をラピスティリアは眠らせてから。
    「ここは危険だから避難してくれ! 1階の方にまわれば安全だぞ」
     周囲の一般人を船外へと逃がし終えた蝶胡蘭に眠った一般人を託したラピスティリアは、もう一度船内を確認して回って。
    「ほな、念のため、うちの子と2階を見て回りますわ」
    「拙者はあちらから逃げ遅れた者がいないか見て回るでござるな」
    「じゃあ俺は屋上に戻るぜ!」
     避難誘導を無事終えた面々が、再び船内を駆け回る。
     一般人を誰一人怪我させない為にも。
     そしてダークネスと対峙する仲間が、戦闘に集中できるようにと。

     琵琶湖を望む絶景と初夏の風が吹くスカイデッキで。
     ペナント怪人を囲む、灼滅者と慈眼衆。
     数的にも力的にも、ペナント怪人の劣勢は顕著だ。
    「ペナントは確かに……お土産の定番ではありますよね」
     そう言った茉莉に、怪人達は嬉しそうにペナペナ頷くも。
    「でも、『もらってもしょうがないお土産品ナンバーワン』って言われてますけど」
    「ぺ、ペナ!? ぎゃっ!」
     怪人の動揺を誘い、毒薬の注射をぷすり!
     腹黒? いいえ、作戦です!
    「まぁ、確かにいらないよな……」
    「な、なんてこと言うペナ!」
    「うおッ!?」
     ぼそりと何気に続いた達郎の言葉に激情した怪人は、風に三角形頭を靡かせつつも。
     すぐ目の前の慈眼衆へと、八つ当たりの琵琶湖ペナペナキック!
     だがこれも、実は作戦通り。
    (「悪いな、真意が見えん以上は過度に慣れ合うこともできんのさ」)
    (「お互いのことはお互いでやりましょ」)
     慈眼衆と一時的に手を組む事にはしたものの。
     怪人の攻撃が慈眼衆に向くようにさり気なく位置取り、回復も羅刹には施さない方針だ。
     そして羅刹がペナペナキックをくらった隙に、達郎がすかさず敵の懐へと飛び込めば。赤き龍が唸りを上げ、怪人を喰らいつくすかようにその三牙が捻じ込まれて。
    「こっちの、端がくたびれてきたペナペナ野郎に集中攻撃や!」
     七音は狙う目標を伝え、さらに深い影を宿した剣でトラウマを抉る一撃を叩き込む。
     そして発症した怪人のトラウマは。
    「ううぅ、EXPO70、万歳……!」
     強引に琵琶湖へと縫い変えられたが、元は大阪万博ペナント怪人だったようだ。
     だがすぐに琵琶湖ペナント怪人は、滋賀県の記念コインっぽい絵柄のシールドで、眼前の歩を激しく殴りつけて。もう1体の怪人が仲間へと放つ鮒ずしビームを、咄嗟に肩代わりする七音。
     実戦慣れしていない瑠理香はそんな敵の攻撃に、一瞬身を竦めてしまうも。
    「大丈夫!? 今、治すから」
     すぐに緑色の髪を揺らしながら、癒しの力宿す清らかな風を戦場へ招いて。
    「この位の傷なら、すぐに治療をしますね」
     琵琶湖に吹く風に乗せた天上の歌声で戦線を支えるナナ。
     そして降る太陽に静かに輝くのは、耳元のお守りのイヤーカフスと蒼銀の銃刃。水花が構えた『Lacrima』から、狙い澄まされた弾丸が撃ち出されれば。
    「少しだけ、おとなしくしていてくださいね~」
     ヤンデレの振り翳した包丁と伸びた影が、ダークネスに襲いかかる……!
     そんな目に光がないパメラに、ヤンデレっぽく足を切られたペナント怪人は、思わず数歩よろけて。
    「仕留めた也!」
    「なんの、ペナ!」
     慈眼衆の強烈な断罪輪の一撃こそ紙一重でかわすも。
    「さて、張り切って捻じ切ろうか! 尖烈の、ドグマインッパクトォ!」
    「ッ!!」
     一気に地を蹴り、間合いを詰めた歩が高速回転で繰り出した杭が、唸りを上げて。
     怪人のペナントのど真ん中に捻り込まれる。
     そして、ペナアァッ! と断末魔を上げた怪人は、湖へと爆散したのだった。
     これで残る敵は、あと1体。
     だが慈眼衆と手を組んでいる今、もう後は怪人をフルボッコするのみ。
     しかし懲りずに、ペナントダイナミックを慈眼衆へと放つペナペナ野郎へと。容赦なく攻撃を集中させる、灼滅者達。
    「私だって戦える。甘くみないで、ね」
     緊張しつつもしっかりと狙いを定め、瑠理香の生み出した風の刃がペナントを切り裂いて。
     攻撃しつつも生命エネルギーを吸収する、茉莉の腹黒ちっくな注射針の一撃が怪人に突き立てられれば。光のトンだ目でクスクス笑うパメラも茉莉と連携をはかり、状態異常を与えるいたずら攻撃を、同時にブスリ。
     そしてペナペナ煩い敵を大きく揺るがせたのは、戦人と化した達郎の赤き龍猛る双斧の一降りと。勢い良く三角頭の顎を跳ね上げた歩の、帯電杭による雷撃の殴打。
     そんな大きく上体を揺らした敵目掛け、ナナの闇宵纏いしオーラが両手から放たれた後。
     その名の如く悲しみの涙を拭うように、闇を払わんと。振るわれた水花のガンナイフの刃と、戦線に加わったカイザとゼロの連携攻撃が敵に追いうちをかける。
     そして慈眼衆達の唱えた強烈な九字の衝撃が内側で大きく爆ぜ、怪人が堪らず片膝を折った刹那。
    「ご当地への愛は立派やけど、あんたらマジで油断ならんねん。この場で灼滅させて貰うで!」
    「く、俺が倒れても第二第三……いや無数の琵琶湖ペナント怪人が……ぐはァッ!!」
    「それ洒落ならんし!」
     的確に急所へと執刀された七音の斬撃とツッコミが、ペナント怪人を仕留めたのだった。

    ●大戦の前の静けさ
     難なく琵琶湖ペナント怪人を灼滅した、その後。
     スカイデッキに今在るのは――灼滅者と慈眼衆の姿。
    「怪人は灼滅完了だな。……慈眼衆、お前らに聞きたいことがあるんだが少しいか?」
    「やあ鬼ぃさん達、ちょっとお話しない?」
     同時に話を切り出した達郎と歩に、瑠理香も続く。
    「これから、どうするの?」
     すぐに退くのなら、私は特に言うことは無い、と。
     ただ――慈眼衆の返答や行動次第では、連戦という可能性も十分有り得る。
     だが。
    「どう、とは?」
    「大僧正様の元へと戻り、また大戦に備え活動するのみだ」
     その問いの意図がよく分からなかった様に答えた慈眼衆だが。
     やっぱり予定通りなわけか、と。杭打機を投げ置き、掌を見せながらも、笑顔で雑談を振るのは歩。
    「客を逃がそうとしたのは普通の人に危害を加えた時の灼滅者の態度を知ってるからか。いや、それ以前に灼滅者が介入がなくても『前哨戦』、安土城勢力の調査の任は果たせる。勝って使用技の情報を持ち帰るのもよし、負けたとしても『現時点での敗北』の結果が残る。損の無い、いい策だ」
    「我等は大僧正様の御意思に基づいて行動している」
    「そして大戦が近い今、安土城怪人に力を与える事は阻止せねばならぬ。それだけだ」
     中途半端な思惑ならば見破るつもりで話を振ってみたが。
     元々羅刹は頭で考える事よりも、やりたいように暴れまわる性質のダークネス。
     そして一介の羅刹にすぎぬ目の前の慈眼衆が、何か思惑を隠しているようには今のところ見えない。
     そこで歩は、今度は、こう質問してみる。
    「安土城怪人以外で現在敵対している勢力はあるのか?」
    「かなりの戦力を用意してますが……そんなに厄介な相手でもいるのですか?」
     歩に続いたナナの言葉に、こくりと素直に頷く慈眼衆。
    「安土城怪人と、おそらくシャドウのサル。だがそもそも、誰が敵になり誰が味方になるかは、その時々による」
    「昨日の敵は今日の味方で、昨日の味方は今日の敵になりうるのだからな」
     シャドウのサル……それは「信」の犬士・グレイズモンキーであることは明白。
     そしてその他の勢力については慈眼衆達は把握していないようだ。
    「『大戦』って何の為の戦いなのか聞いておきたくて……貴方達も安土城怪人も……どちらもただ宿敵を倒すため、ではないですよね?」
     それから茉莉は、『大戦』そのものの真の意図を問うも。
    「何の為の戦いか、だと?」
    「仇敵を討つ為の戦いの他に、何があるというのだ」
     天海の真意はともかく。
     慈眼衆達的には、まさにただ宿敵を倒すための『大戦』であるようだ。
     そして個人的な質問を投げてみたナナに。
    「安土城怪人は信長なんですか?」
    「安土城怪人は、大僧正様にとって不倶戴天の仇敵である」
     慈眼衆はそう、答えて。
     水花はまず、彼等の一般人への配慮に感謝の意を述べてから。
    「安土城怪人を倒す為、私達に戦いに加わって欲しいという話はお聞きしました。ですが、協力するにはあなた方の戦いの方法や目的は人々を害するものでないか、確認してから判断をしたいと考えています。もしこの場では目的を話せないのでしたら、後日改めて会談を設けるなどどうでしょうか」
     後日、改めて話をする機会をと提案してみるも。
    「話すも話せぬも、我等はただ一介の羅刹に過ぎぬ。だがお前達の言葉は、大僧正様に伝えよう」
     灼滅者達の言う事は、天海に伝えてくれるという。
     それから水花はさらに彼等に、こうお願いを。
    「周辺を荒らさず、また今後も、こういった破壊行為は控えてください」
    「これ以上の破壊活動をしない限りは、私達に邪魔をする気はないですよ?」
     羅刹である両親を思い出しながらもそう続いて呟くナナ。
     だがそんな二人の言葉に、慈眼衆は大きく首を振る。
    「安土城怪人の戦略は、ペナント怪人の琵琶湖化による戦力増強。琵琶湖の破壊工作は継続して行わねばならない」
    「……!」
     羅刹の返答に、灼滅者達の間に緊張がはしる。
     人に被害を及ぼすならば、灼滅するのみだ。
     しかし慈眼衆は、ふと身構える灼滅者達を見回してこう続ける。
    「だがお前達が今回のようにペナント怪人の琵琶湖化を食い止めてくれるのならば、この様な破壊工作は必要が無くなるだろう」
    「ああ、そういう……そういうことなら、私としては貴方達と良い関係を築きたいです」
     近辺での絶対的支配の確立などを企てているわけでもなく。また、目的を隠しているようでもないその様子に。
     茉莉はにこやかにそう、心にもない言葉を一応今は返して。
    「個人的には、もう少し協力しても良いんですけどね?」
    「後は回れ右をお奨めいたします~」
     とりあえず今交戦する必要はないと、判断する灼滅者達。
     そして、さらばだ、と去る慈眼衆の背中を注意深く見遣りながら。
    「やれやれ、今後とも難しいことになりそうっすね」
    「ダークネス同士で争ってくれるだけなら、いいのですけれどね~」
     何気に楽し気に笑んだ歩の隣で、ゆるふわな印象を取り戻したパメラは湖上の風に煽られた金髪を撫でつつも。
     その姿が見えなくなるまで、仲間達と共に、慈眼衆達を見送るのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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