武の狂者は星々煌めく夜の浜辺にて

    作者:飛翔優

     ガイオウガ、そしてスサノオ大神……。
     大地を喰らう幻獣種共が「竜種」に目覚める日も、そう遠くはない……。
     サイキックエナジーの隆起がゴッドモンスターさえも呼び起こしたこの状況で、未だ十分に動けぬとはいえ、日本沿海を我が「間合い」に収めることができたのは、まさに僥倖。

     小賢しき雑魚共の縄張り争いも、王を僭称する簒奪者共の暗躍にも興味は無い。
     我が望むは、我と死合うに値する強者のみ!
     「武神大戦殲術陣」発動!
     眠れる強者よ現れよ。武神の蒼き頂こそが、これより汝の宿命となるのだ!

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、いつも通りの笑みを湛えたまま説明を開始した。
    「有力なダークネスである柴崎・アキラを失った業大老一派が、新たな師範代を生み出すべく、武神大戦天覧儀と呼ばれる武闘会を発動したようです」
     武闘会と名付けられてはいるものの、全員が集まって順番に戦うわけではない。日本各地の海が見える場所に導かれたアンブレイカブル同士が、それぞれ勝手に試合を行うという形で運営されるのだ。
    「この大会で勝利するとより強い力を手にすることができるみたいで、様々なアンブレイカブルが参加しているようです。皆さんには、この大会に殴り込みをかけて欲しい、という事になりますね」
     試合会場は、日本各地の海が見える場所。
     試合時間は特に決まっていないが、周囲に一般人がいない時間が選ばれる模様。
     試合会場には、どこからともなくアンブレイカブルがやって来る。
     試合場所でアンブレイカブルを撃破すれば良い、というのが概ねの流れ。ただし……。
    「アンブレイカブルに止めを刺した灼滅者は、勝利によって力を与えられるため、闇堕ちしてしまうみたいです」
     危機に陥って闇堕ちするわけではないため、アンブレイカブルを余裕を持って撃破し、かつ、闇堕ちした者への対策があるのなら、連戦して救い出すこともできるだろう。
    「長くなりましたが、これが概要となります。続いて、具体的な説明を行いますね」
     今回の試合会場は神奈川県横浜市の砂浜。時間帯は深夜二時。即ち、星の見える海岸が雌雄を決する場所となる。
    「対戦相手となるアンブレイカブルの名は、諏訪。昔、皆さんが撃退したことのあるアンブレイカブルになります」
     その際の約束を守ったのか、山籠りでの修行やダークネスとの心躍る戦いに専念していたらしい諏訪。このたび、強者を求めて武神大戦殲術陣に参加を決めた模様。
     諏訪は、柔道や合気道、空手などの武道を組み合わせたと思われる技を操る逞しい男。当時は撃退という流れになるほどの力量差があったが、今は違う。成長した今の灼滅者ならば、十分に灼滅することができるだろう。
     性質はやはり、攻撃に概ねの意識を向けている。
     技は四種。
     両腕で二つの竜巻を起こし、逃げ場を塞ぐ軌道で放つ技。相手を天高く投げた後、落下してきた所に連撃を浴びせ加護を砕く技。膝蹴りをかまして僅かに浮かせた後、拳での追撃を何度も何度も重ねる技。地面にオーラを注ぎ込み、周囲を打ち砕くとともに浄化の加護を得る技。
    「これらを使い分けてくるといった形ですね。以上で説明を終了します」
     地図などを手渡し、葉月は続けていく。
    「敵に止めを刺したものが闇堕ちしてしまう、恐ろしい大会。ですが、皆さんならば諏訪を灼滅した上で、闇堕ちした仲間も救ってくれると信じています」
     ですのでと、葉月は締めくくる。
    「どうか、死力を尽くした戦いを。何よりも無事に帰って来て下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    城代・悠(月華氷影・d01379)
    小圷・くるみ(星型の賽・d01697)
    四方屋・非(ヒロイックシンドローム・d02574)
    芥川・真琴(炎神信仰の民・d03339)
    夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)
    クリミネル・イェーガー(迷える猟犬・d14977)
    興守・理利(明鏡の途・d23317)
    午傍・猛(高校生ストリートファイター・d25499)

    ■リプレイ

    ●拳に生き、拳に死す
     満天の星空、寄せては返す静かな波。神奈川県横浜市の砂浜は、涼し気な夜の静寂に包まれていた。
     武神大戦天覧儀の対戦相手、アンブレイカブル諏訪を待つ灼滅者たちは、想いを巡らせながら各々の時を過ごしている。
     涼し気な浜風が吹き抜けた時、水平線の彼方を眺めていたクリミネル・イェーガー(迷える猟犬・d14977)がひとりごちた。
    「ホンマに厄介なモンやで。強さの蠱毒やな……まるで」
     勝者に力を与えるという、武神大戦天覧儀。果てに待つのは、極限まで濃く高められたアンブレイカブルなのだろうか?
     しばしの沈黙。同意か、別の意見か、小圷・くるみ(星型の賽・d01697)が口を開きかけた時、新たな気配を感じて国道の方角へと視線を向けた。
     道着姿の巨漢。まず間違いなく今宵の相手、諏訪。
     諏訪は一歩踏み込めば互いの間合いとなる距離にて立ち止まり、楽しげな笑みを浮かべていく。
    「ほう、貴様らが相手か。何だか懐かしい気配がするな。……いや」
    「お久し振りね! ずっと灼滅したかったの」
     視線を浴び、くるみは楽しげに返答した。
     諏訪は破顔し、身構えながら言葉を紡ぐ。
    「なるほど、懐かしい顔もある。かつての若者たちと同質の者たちか……あい分かった、契りを果たそう。わしの名は」
    「それはまた後ほど。戦いを楽しんでくれたと感じたら、名前を聞いて下さるかしら?」
     遮りながら、くるみもまた一歩踏み込めば仕掛けられる位置へと移動した。
     着々と決戦の時間が近づいていく中、諏訪は力強く頷いていく。
    「そうだな、試させてもらうぞ。若者たちよ」
    「少し荒く行くぞ?」
     戦いの契りが交わされた時、城代・悠(月華氷影・d01379)が口の端を持ち上げながら解除コードを響かせた。
     夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)は拳に力を込めながら、静かな想いを燃やしていく。
     アンブレイカブル、久々に戦う相手。武に生き武に死ぬ、武の狂者。
    「……ちょっと怖いですけど、頑張ります」
     覚悟を決めて大地を蹴り、構える諏訪に殴りかかる。
    「鋼鉄の拳を、その身に受けてみて下さい!」
    「良かろう!」
     誤ることなく胸へと叩き込んだ時、強者を定める為の戦いが開幕した!

    「なあ、似た者同士、本気でやり合おうじゃねぇか!」
     ハンマーの一振りをわざと回避させ、勢いを乗せていく午傍・猛(高校生ストリートファイター・d25499)。
     先端で鋭い弧を描き、改めて諏訪へと殴りかかった。
     左腕で防ぎながら、諏訪はニヤリと笑っていく。
    「雑念のない、良い一撃だ」
    「はっ、ただ面白そうだからやって来ただけだからなぁ! どこまでやれるか、試させてもらうぜ!」
    「タイマンでやれないのが残念だよ。ま、相手にとって不足なし!
     両者が弾き合い離れていく合間に、四方屋・非(ヒロイックシンドローム・d02574)が剣を掲げて切り込んだ。
     着地の方が早かったらしく、体を逸らされ道着を僅かに削るのみに留まっていく。
     バク転で体勢を整えた諏訪は、今度はこちらの番とばかりに腕を振り回し始めた。
     瞬く間に生み出された二つの竜巻が、前衛陣の逃げ場を塞ぐ軌道を描きながらやって来る。
     そんな光景を眺めながら治療のタイミング、対象を量る芥川・真琴(炎神信仰の民・d03339)。
     霧を送り込みながら、冷静に観察していく。
     数度の攻防を経た後、仮説を立てた。
     数の優位はあれど力量は上の相手。複数に当たる竜巻や地面を砕くオーラに対しに、夜霧隠れでは治療が追いつかない。その他の攻撃に対し祭霊光を放っても、やはり治療し切るとはいかない状態だ。
     更に、浄化の加護を得る力もあるらしく、行動制御系のBSは余り意味を成していない。
     いくつかの策が通じていない状態。抗うことができているのは真琴が中心となり、複数人で治療し続けているからだろう。
     無論、攻撃の手もさほど緩めてはいない。
     眠たげな視線を諏訪へと向けながら、真琴は小さく呟いた。
    「熱は命、ココロは焔……今のまことさん達は、心躍る相手として見做されてるのかなー……」
    「無論だ!」
     すぐさま答えが帰ってきた。
     だから更に問いかけた。
    「そんなに、上でありたい? 登りきっちゃったら、後は降りるしかできないけれど」
    「なぁに、登りきったら飛べばいい。どんな頂きの果てにも空はあるのだからな!」
     笑うと共に放たれた二つの竜巻が、うねりながら前衛陣へと迫っていく。
     吹き飛ばされた砂粒から目を守るために腕を上げながら、興守・理利(明鏡の途・d23317)は静かな言葉を告げていく。
    「強さを求める純粋な信念、尊敬に値します」
     ですが、と真っ直ぐに諏訪を見た。
    「死をも恐れないと言うのは、果たして強いと言えるのでしょうか?」
    「無論だ。恐れしは肉体の死ではない、魂の死よ!」
    「……」
     迷いなき返答を受け止め、理利は一度瞳を閉ざす。
     小さな息を吐くと共に開き、指輪から魔力の弾丸を発射した。
     後を追うように、クリミネルがオーラを発射する。
     両者を身に受けながら、諏訪は近づいてきたくるみを空へと投げ飛ばした。
     落下のさなかに放たれていく拳を、膝を、くるみはオーラを巡らせ防いでいく。
     着地と共に、改めて、諏訪に語りかけた。
    「名前を聞いて下さる?」
    「……そうじゃな。わしの名は諏訪じゃ、強き若人よ。そなたらの名は」
    「くるみ」
     短く言い放ち、他の仲間達も次々と名乗っていく声を聞きながら高く、高く飛び上がる。
     星々を背負いし形で蹴りを放ち、左肩へと突き刺して……。

     腹部への膝蹴り。
     体が浮いた所に放たれるアッパー、フックストレート肘打ちブロー浴びせ蹴り。
     砂浜へと叩きつけられて、悠は空気の塊と共に血を吐いた。
    「……」
     けれど笑みを崩すことはなく、口元を拭いながら立ち上がる。
    「ハッ! 良いじゃねぇか! もっとアタシを楽しませろよ!!」
     前動作もないままに距離を詰めてアッパーを、フックをストレートを肘打ちをブローを浴びせ蹴りをぶちかました。
     砂浜をバウンドしながらも体勢を整えていく諏訪を笑顔で眺めながら、悠は一度距離を取る。
     治療を欠かさぬとはいえ、癒せぬダメージは体に蓄積し続ける。灼滅者たち前衛陣は後一撃、二撃受けられるかわからない。
     一方、諏訪には浄化の他に治療の術はない。表情こそ笑みなれど、ボロボロの道着、流れる血から、灼滅者たちとそう変わらぬ状態だと想像できた。
     恐れる必要はない、どちらが先に倒れるかの勝負なのだから。
    「俺は別にダークネスの力なんざ望んでねぇよ。そんなもんは自分の力たぁ言えねぇからな! この腕っ節が全てだろうが!」
     猛が、雷を宿した拳で殴りかかった。
     諏訪の鳩尾へと突き刺して、膝蹴りをかまして距離を取る。
     口から血を吐きながらも、諏訪は笑った。
    「然り! だが、強者との戦いの果てに得る力ならば、それもまた己の力に相違はなく、また、力とは手段である!」
     求めしは強きものとの戦いと、再び距離を詰めてきた。
     猛は迎え撃つ構えを取るも、すぐさまその場を飛び退いた。
     諏訪が、両腕を回し始めたから。
     瞬く間に生まれた竜巻が迫ってきたから。
    「ちっ、テメェら気をつけろ!」
     避けるよう警句を発しながら、サイドステップをいくつも踏み悠を庇いにかかっていく。
     逃れることのできなかったクリミネルが、竜巻に吹き飛ばされ昏倒した。
     砂粒を吹き飛ばす、強い力を持つ二つの竜巻。止んだ時に再び交戦が始まる。
     諏訪でさえも思っていただろう。
     が、敢えてくるみは飛び込んだ。
     竜巻の間、圧力の最も多い場所を強引に突破して、炎熱する蹴りを首筋へと叩き込んだ!
    「っ!」
     振りぬくと共に、諏訪は彼方へと吹き飛んだ。
     一回、二回と跳ねた後に不時着し、炎を纏いながら立ち上がる。
    「見事」
     されど、そこに戦意はない。
     ただただ笑う男の姿があった。
    「いやはや、このような心躍る死合があったとは……感謝する。約束を守ったかいがあったわい! はっはっはっはっは……」
    「おやすみなさい、良いユメを」
     真琴が静かな眼差しを送る中、諏訪は砂浜に崩れ落ち埋もれるように消滅。小さく頭を下げた後、すぐさまくるみへと向き直り気合を入れ直し……。

    ●与えられし闇を光で照らそう
     儀式から力を与えられ、くるみは堕ちた。
     角の代わりに嵌めこまれた竜因子宝珠が夜闇に輝く、黒い体毛のサーベルタイガー。炎の獣、イフリートに。
     彼方へ逃げてしまわぬよう、非は包囲しながら語りかける。
    「ここで迷子になってもらっちゃ、探すのが手間なんでな」
     更に酸の砲弾を浴びせかけ防御を削ぐ。
     立ち上る煙、構わず駆ける動きから十二分に通じるだろうと判断しながら、大地を蹴って飛び上がった。
    「さ、第二ラウンド開始だな!」
    「必ず救います!」
     緋沙が地上から懐へと踏み込んで、非の蹴りと同時に拳による連撃を叩き込む。
     衝撃を受け動きを制されたイフリート。逃れる場所を探している様子だったから、理利も話しかけながら剣をかざした。
    「闇の誘惑に屈するな、戻って来い……!」
     ただ真っ直ぐに振り下ろし、肩を切り裂いていく。
     逃れることは諦めたか、イフリートは激しく咆哮し三者を跳ね除けた。
     脇目もふらずに悠の元へと跳躍し、前足の爪を突き出していく。
    「っとオラァ!!」
     すかさず、猛が間に割り込んだ。
     脇腹を貫かれ血を吐いた。
    「……ちっ、ここでしまいか。跡は任せた、ぜ……」
     押し退けた後、流れ出る血を抑えながらうつ伏せに倒れ沈黙する。
     諏訪との戦いの跡。灼滅者側の傷は多い。
     イフリート……くるみも同様であろうと断定しながら、救うための戦いを継続する。

     イフリートの操る技は、堕ちる前、くるみの用いていたものに近い。
     竜因子宝珠を輝かせる事により得た守りの力を、緋沙が拳で打ち砕いた。
    「っ……」
     代償は、炎熱した足によるサマーソルト。
     波打ち際へと蹴り飛ばされ、緋沙は勢いを殺すこともできず海に浮かぶ。
    「ごめん、後をお願いします……」
    「……はい、後はまことさんたちに……」
     起き上がる様子がない、治療の必要もない……元より他者を治療しても意味がないと判断し、真琴がナイフに炎を走らせながら走りだす。
     導くように、理利が縄状に分裂させた影を解き放った。
    「そのまま堕ちたら、あなたの大切な人が悲しみます!」
     手足を囚え、動くことを禁じていく。
    「堕ちる強さがあるなら戻れる強さもある筈だ!」
     強気力を込めた時、炎が弧を描き記した!
     更なる炎に包まれた直後、イフリートは真琴を影を振り払って飛び上がる。
     目標は再び、悠。
     非が割り込み、右胸を貫かれた。
     血を吐きながらも非は笑う。
    「ハッ……そっちもぼろぼろじゃねぇか。もう少しだ、私の分までくれてやる、頼んだぞ」
    「ああ……」
     倒れゆく非と入れ替わり、悠は一歩踏み込んだ。
     悠もまた後一撃受けられぬ程ボロボロの状態。残存戦力を考えれば……。
    「……」
     考える必要などないと更に一歩踏み込んで、血だらけの拳で殴りかかる。
     額を、頬を、肩を顎を首筋を。
     何度も、何度も、何度も、何度も。
     イフリートが動きを止めるまで、くるみが元に戻るまで。
     最後の力を振り絞りイフリートを空へと打ち上げたなら、黒い体毛は消え失せた。
     夜空を背負い、少女は眠る。
     抱き止め、灼滅者たちは安堵の息を吐き出して……。

     波の音だけが聞こえてくる、風が涼し気な大気を運んでくる。
     静寂に満ちる砂浜に寝転んで、全身を休めている者がいる。座り込んでしまった者もいる。
     けれど、浮かぶは概ね笑顔。表情乏しきものですら、どことなく明るい雰囲気にを漂わせていた。
     諏訪に勝利し、闇堕ちした仲間を救い出した余韻。祝福するは瞬く星と、変わらず輝く月ばかり。
     淡い光に身を委ね、ただ今は、静かに喜ぶ優しい時を……。

    作者:飛翔優 重傷:四方屋・非(崩れゆくイド・d02574) 夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912) クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977) 午傍・猛(黄の闘士・d25499) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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