「ひゃ~ん♪ 今日はこんなに集まってくれて、ひゃんたん感激ッでっすぅ」
夕暮れのガードレール下で、安っぽいレース仕立ての雨傘スカートをふわり翻し、蜜柑箱で作った急造舞台の上で、ツインテールの少女が跳ねる。
ふよんふよんっ。
両サイドに結わえた不気味な顔のてるてるぼうず(ひゃんたん手作り)が裾ちら。
ちなみに現在の観客数、1、2、3、よ……いっぱい。
4人でもいっぱいなんだよ、ゲリラライブだからな!
「ひゃんひゃん☆ てるてるぼうずさんもはしゃいじゃってるでっすぅ。ひゃんたんもぉ、まっけられなぁい!」
ラブリンスター配下アイドル淫魔・ひゃんたん(年齢はぁ、ひ・み・ちゅ)は、ちょきを目の横にぴしっと、アイドルポーズ。
上半身の二つのおっきなてるてるぼーずをぷるるんっと揺らし、お客様へアピールアピール!
「えっとぉ、ひゃんたんの新曲です……『I☆LOVE(あい☆あい)あんぶれら』聞いてください」
かちり。
スピーカーにつなげた音楽再生機器のスイッチオン。
「ひゃんひゃひゃんひゃんひゃ~ん♪」
前奏に合わせてふりふりふりふりふり。
「ひゃ~~」
ごごごごごごごご、がががががががががが、ごりょりょんごりょりょんりょんりょんりょんりょん!!!!
歌、聞こえねー。
どこからともなく現れたピンクのロードローラーが、前奏にあわせて整地開始。
あ、たった4人の観客は一瞬で逃げました。
「ふむ、ラブリンスターではないようでござるが、なかなか……」
痛々しくバッチリ描かれた傍らの性女の微笑みとひゃんたんを比べて、ロードローラー(痛)は、鷹揚に頷いた。
「さぁ、囀りたまえ」
「歌うわけないでしょ! お客さん逃げちゃったじゃないのッ」
ひゃんたんはキッとロードローラー(痛)をねめつけぷんすこ。間延び語尾はアイドルのキャラ付けだったらしい。
「ふむ」
ごぎょり。
異音をたててローラーが、止まる。
「もーお、場所変えるッ」
ふくれっ面で撤収準備のひゃんたんへ迫るパッションピンク。
「歌わぬなら殺してしまえアイドル淫魔」
ぷち☆
可愛らしい擬音ですが、たった今ひゃんたんが潰されました。
ぴしゃり☆
ラブリンスターの髪に真っ赤な花飾りが! さすがラブリン様、お似合いですね。
●
「ロードローラーの痛車がでたよ」
真顔。
灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は、黒板に描いたロードローラーの顔の真横にピシッとはりつけるはラブリンスター3ndシングル「ドキドキ☆ハートLOVE」のジャケット写真。痛車ぶりを表現してみました。
えー、例によって六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』の手で闇堕ちの上分裂させられた外法院ウツロギさんの内の1体である。
で、今回の事件の概要ですが。
――アイドル淫魔の『ひゃんたん』のゲリラライブに突撃、集まった観客を追い払った後で『ひゃんたん』に歌えと強要。
「なーんで、その状態で『ひんゃたん』が歌ってくれるって考えたのか、ボクはそこがわからないね」
でもまぁ、ロードローラー(痛)は歌えって言うんだ。
当然、怒り心頭の『ひゃんたん』は拒否。
「で、帰ろうとしたトコを、躊躇いも容赦もなく――ぷちっ」
ちなみに、一般人の皆さんは無事逃げおおせる事ができるので、この点のフォローは必要ない。
「それは……放っておけばいいの、では?」
淫魔が1人減るだけだしと言いたげに、機関・永久(中学生ダンピール・dn0072)は首を傾げる。そろそろ肩につきそうな左の髪が軽く散る。
「みんなが到着したら、ひゃんたんは『らっきー☆』ってとっととトンズラここうとするよ」
「やはり放っておいた方が……」
「作戦は大きくわけて、二つ」
標、永久をスルー。
「一つは、ひゃんたんと共闘。ロードローラー(痛)は、最初ひゃんたん狙うから、とっても戦いやすくなる」
まぁ、高確率でひゃんたんは死んじゃいますけどねー。
「二つ目は、ひゃんたんに歌い続けてもらう。そしたらロードローラー(痛)が、一定の確率で攻撃をしないから、やっぱり有利に戦える」
「攻撃をしない間、ロードローラーさんは……」
「(痛)」
つけ忘れ絶対ダメ。
「ロードローラー、いたい、さんは……何をしてるん、ですか?」
標は拳を握って掲げるとぐーるぐる。
「ひゅーひゅー」
淡々と口を動かした。
「ひゅーひゅー?」
永久も同じようにやってみる。
……なにを意味するか、わからない。
「声援を送ってる」
まー歌えって言ってやってきたわけだしな。
「腐ってもロードローラー(痛)は、高位のダークネス。ひゃんたんを帰らせないで利用した方がいーと思うよ」
――もちろん、ひゃんたんを利用するのは一筋縄ではいかない。
共闘のため宥めすかすか、
おだてて持ち上げその気にさせて歌ってもらうか、
いずれにしても、如何にしてひゃんたんの『アイドル心』を擽るかが鍵だろう。
ちなみに。
「戦闘後、ひゃんたんを放置してもいいけど、ついでに灼滅してもいーよ」
うまくロードローラー(痛)がやったように細工すると、なおよし。汚すぎるぞ、武蔵坂。いやいや頭脳作戦ですよー。
「ああ……成程。俺達が、介入する事で一気に、2体のダークネスの灼……」
「てことで、いってらっしゃい。あ、お土産にひゃんたんの曲、憶えてきて歌ってくれる人募集ー!」
ミッション成功条件は、ロードローラー(痛)の灼滅。淫魔ひゃんたんの生死は問わない!
参加者 | |
---|---|
殺雨・音音(Love Beat!・d02611) |
忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774) |
日野森・沙希(劫火の巫女・d03306) |
刀鳴・りりん(透徹ナル誅殺人形・d05507) |
銀・紫桜里(桜華剣征・d07253) |
神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017) |
アレン・クロード(チェーンソー剣愛好家・d24508) |
正陽・清和(小学生・d28201) |
●
『歌わぬなら殺してしまえアイドル淫魔』
「させないわ」
がっ……ごごぅんっ。
ロードローラーが何かを噛んだような音と共に制止する。
両腕ブロックで庇いに入った忍長・玉緒(しのぶる衝動・d02774)の手によって。
(「ダークネスは嫌いよ」)
複雑な綾を抱きつつ胸の鍵を握りしめて、無為の死を発生させぬよう殺気を放つ。
「ウツロギさん、こんな姿になってしまうとは……」
やれやれ。
呆れを顔に貼り付けた刀鳴・りりん(透徹ナル誅殺人形・d05507)は半目でロードローラー(痛)を見据えた。その背後には一抱えでは済まない荷物。
ごごごごごごご。
再び回り出すローラーに負けじと声を振り絞るのは、りりんと同じくウツロギとクラブ仲間の殺雨・音音(Love Beat!・d02611)だ。
「ネオン達、ひゃんたんちゃんのライブがあるって聞いて来たのに~」
うさしっぽがちょいんとついたネオンと、ひゃんたんの見えてますよねそのスカート丈なてるてる坊主を見て、ロードローラー(痛)は一言、
『尻!』
「あまり性格が変わっていないような気がするのはなぜじゃろうか?」
今、りりんの中から躊躇いという単語が、消えた!
『ラッキー! みんなぁ、ここは任せたぞよ』
てへっと舌だしさっそく撤収モードのひゃんたんを遮るように、日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)が立ちはだかる。
「あんなロードローラー追い払うので、ここでライブして欲しいのです♪」
こちらのツインテールは和風清楚、闊達な笑顔で本音を隠し沙希はひゃんたんを押し戻しつつ、ピンクを牽制するように裏拳鬼神変。
『あれ、とっても強いですよぉ?』
無理無理とてるてる坊主も加勢するようにゆらゆら。
「あら」
そこへ斬り込むは雪のように涼やか通り越した氷点下のクールな声音。
「たとえ観客やファンがひとりでも、期待に応えるのがアイドルなんじゃないですか?」
ロードローラー(痛)の意気を挫くように、銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)は『さつりく』の文字に刃を抉り込み、かつひゃんたんも冷たく煽る。
「歌ってくれたらファンになっちゃうかも」
『ひゃ!』
気配なくいきなり現れた神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)にびっくり。
『……ん』
語尾は大事かとか思いつつ、柚羽はローラー部分に斬りつけた刀を返すように持ち替えて、持ち込んだ荷物を示す。
「ひゃんたんの為に集まった人達がいるんですステージ用意しちゃう程歌ってほしいんですお願いします」
ノンブレス。
でもって、合いの手を求めるように、柚羽は機関・永久(リメンバランス・dn0072)を見た。
「…………ひゅーひゅー」
右手をあげてぶんぶん、とりあえずこうすればいいってエクスブレインが言ってた。
盛り上がりを演出するように、きらり蛍光サイリウム。
「ひゃんひゃひゃん~♪」
「もりあげてくよー!」
お日様色を髪と瞳にそれぞれ持つ少女二人、最初からテンションマックスだっ!
そんな凜とセトラスフィーノの心強いサポートに勇気づけられて、正陽・清和(小学生・d28201)はぎゅむっと拳を握りひゃんたんへGO!
「さっきちょっとだけ聞こえたお歌もとってもかわいかったから……」
『ひゃん? ひゃんたんの歌、聞いてくれたんですかぁ?』
く・い・つ・い・た!
猛烈ながっつきに「もう少し聞きたいなぁ……」と語尾が縮む清和。それをフォローするように、アレン・クロード(チェーンソー剣愛好家・d24508)が、爽やかな笑顔でひゃんたんの前へ出た。
「あなたには、その箱よりも相応しいステージを用意させていただきました」
――薄い青の床には一面のてるてる坊主のイラスト乱舞。
――垂れ幕は『ひゃんたん☆I☆LOVEあんぶれら』
――高音質だが要電源のコンデンサーマイク。
あらゆる手を使い持ち込みセッティングした、灼滅者達の血と汗の結晶だ。
「聞こえるでしょう? 貴女を待つ声が」
退路を断ちつつ玉緒は真摯に淫魔を見据える。
「お願いっ、ひゃんたんちゃんっ! そのプリティーな歌声で物騒なのを釘づけにして欲しいのっ」
「さいこーのライブを私達に与えて下さいですよー」
「お姉さんの歌……聞きたいです」
音音を皮切りに沙希と清和も続く。
「お願いします。あのステージで歌うひゃんたんが見たいんです」
うっとりと指を組み柚羽の懇願に、りりんがくくっと喉を鳴らす。
「ここまでお膳立てされては歌うしかないじゃろう!」
汗など流さずエレガントに、怪力で迅速に組んだ舞台にこの声援である。
「一人どころかこんなに歌って欲しいって声があるんですよ?」
紫桜里の煽りにひゃんたんはちらっとピンクの異物体を見る、やっぱ怖い。
「……安心なさい。アレに貴女への手出しなんてさせないわ」
請け負う玉緒に、もう一押しだとアレンはずさっと舞台を示した。
「さぁ、それでは歌っていただきましょう! ひゃんたんさんです!」
――殺さないから歌うがいい!
『ひゃーん!』
舞台に飛び上がり、あざとく跳ねてスカートのてるてる坊主をひらひら~。
『尻!』
ロードローラー(痛)は刹那の間だけくわっと眼を見開いた。まぁ淫魔ですから、見せるための下着ですよ、ええ。
『今日はひゃんたんのために集まってくれて、あーりがとぉですぅ!』
『尻、尻尻尻尻尻死理死離尻ィィィ!』
ごごごごごごごご、がっごん!
ロードローラー(痛)は、一度バックしてから不思議な動きで方向転換。攻撃も忘れてかぶりつきである。
●
『一所懸命歌うので、聞いてください――I☆LOVEあんぶれら』
ライトぺかぺか☆
『ひゃんひゃんひゃんひゃんひゃんひゃん♪』
「ひゃんひゃんひゃんひゃんひゃんひゃん♪」
舞台にあがりたいのを我慢して、音音はその場でぴょん、うさぎさんだけに良く跳ねる。
「「ひゃんひゃんひゃんひゃん~♪」」
凜とセトラスフィーノもサイリウムを振って盛り上げるぞ!
(「……あの人、てるてる坊主のTシャツまで、すごいなぁ……」)
清和の尊敬の眼差しが凜に痛い、とても。
そんな眼を逸らされた清和だが、
(「ロードローラーいたい、さんは……その……」)
ピンクの巨体から眼を逸らす。
「あいらぶ、あいあい」
アレンはスピーカーから漏れてくるフレーズを呟きながら、さぁご一緒にと言わんばかりにロードローラー(痛)を見た。
『あいらぶ、あいあいっ! あい哀遇いぃぃ!』
とりあえずノッてくれたようでなによりだ。
(「痛いロードローラーですか……一体何がしたいんだ???」)
気を抜くとそんなまともな思考が浮かぶが、きっと捕われたら負けだとアレンはチェーンソー剣をしっかと構える。
「それでは改めて……いきます」
刀を携えた手を下ろし、紫桜里は俯き白銀の髪に口元を隠す。
――まがざくら。
足下で円舞を踊る漆黒の花びらが風に巻き上げられるように空にあがったかと思うと、首だけで揺れるロードローラー(痛)の後頭部にまとわりつく。
血化粧の紅帯びて色づく桜、うっすら綻ぶ紫桜里の口元。それらに漆黒添え弾けるはころ殺號の銃弾。
「さて」
炎纏いし踵でりりんはウツロ……ロードローラー(痛)の頬をしこたま蹴飛ばす。
「しっかり灼滅させていただくのじゃ」
「ウツロギちゃん、はやくかえっておいでよ~」
……どんな事件起こすか楽しみなんてのはナイナイして、音音はくるりねじった槍で突く。
♪学校帰りに超ブルー 雨なんてサイテーどうしよう~↓
『しーりっしーりっしーりしりしりっ』
最低な囃子文句だ?!
「変態はお呼びではないのですよ!」
五色の紙を翻し沙希渾身のお祓いは、変態さん死んじゃえ&ひゃんたんを灼滅出来ない憂さ晴らしが籠もってえらい勢いでツインテール焼き討ちである。
火が点ったツインテールを真ん前に、柚羽はこっそり首を傾げる。
(「ツインテールはどうやって結んだんでしょうかね?」)
手、どこ?
それとも誰かに結んでもらったのか?
謎すぎる。
まぁでも躊躇なく注射針を刺すわけだがな、柔らかそうなほっぺたに。
『むはっ! 痛い』
正気に戻りそうなロードローラー(痛)の首に糸が絡みついた。
「行かせない」
首を支点に淫魔から見えないように、玉緒は立ちはだかる。
「例えダークネス相手でも、約束は守るものだもの」
『く……約束』
こくり。
玉緒に頷き、文房具いっぱいの鞄を撫でる清和。そうして狙い澄ました氷をロードローラー(痛)へ向け、放つ。
自分をいっぱいアピールしてる彼女の歌を、途中で消すなんて絶対させない。
『いざ行かん、選別されし約束の地へ!』
「……」
その台詞に含蓄があるのか否か、紫桜里にはわからぬが――沢山あるロードローラーの中、今回のの行動は一際理解不能と紫桜里は瞳を眇め、攻撃に備える。
♪どっきんずきゅきゅん☆ あなたが立派な傘であらわれた?!
♪腰で構える 雨露 黒く光るあんぶれら
ここでターンしてお尻をくいっ! ひゃんたんのアドリブふりつけである。淫魔たる物、ファンの好みを察知し早急に応えねばな!
『しっしっしししし、尻っ死離りりり、りりりんりんりっりり』
……うまく気が逸れました。
…………歌で逸らしてるのかパンチラで逸らしてるのか微妙だが、まぁ、よし。
●
「邪魔するこの変態さんは死んじゃえ☆」
沙希の神楽鈴の音が啼き、呼吸をあわせて永久が糸を放つ。
続けて清和がチェーンソー斬りへシフトした時点で、戦いは佳境へと差し掛かっていた。
『雨粒は空の涙、更なる高みへと至れ』
若干歌詞が混ざりつつロードローラー(痛)が弾けさせる何度目かの殺意は、前衛、そしてひゃんたんへと届かんとす。
「ころ殺號、守るのじゃ!」
りりんの指示にぎゅいんと地面を喰み、ころ殺號がひゃんたんの前で踏ん張った。
『ひゃぁん♪ そこのおねーさんも、ころちゃんもありがとぅ。ひゃんたん感激ですぅ』
3ループ目の前奏中、手をふる淫魔へ応えるように、玉緒はロードローラーへ何重もの戒めを、かける。
「幕引きと行きましょうか」
ピンクを十字に割りながら柚羽は、ひゃんたんを持ち上げるのもいささか疲れたとか思い始める――実はアイドル系は好みじゃない。もちろんこれは最後まで胸の内に仕舞っておく。
「ひゃんひゃん♪ あいあい、あんぶれら~(はぁと)」
ピースを目の横につけてキメ☆
ひゃんたんを食ってしまいかねないアイドルキラオーラを振りまきながら、音音は足下から風を招き仲間達を包む。ザ☆癒し系アイドル☆うさぎさん仕様! 盛りすぎとか言わないっ。
「音音さんは回復感謝じゃ!」
これならば押し切れると、りりんは地面を滑るように駆け肉薄、ロードローラーのラブリンデコを漆黒の斬撃で滅茶苦茶に斬り裂いた。
「のう、ウツロギさんよ」
何を言ってやろうか。
いや、それは本人が還ってきた時にとっておくか。
「そろそろ終演といきましょうか。ロードローラー先輩(痛)」
アレンの手元で一際大きな音を立てるチェーンソーは、元は仇から奪い取り、その血を啜った代物。幕引きにはおあつらえ向き。
輪切りにするように鉄を噛む脇に浮かぶは白妙。蜃気楼のように揺らぎ息を吸った紫桜里は、四尺七寸の刃へ己が身を溶かし込むように、委ねる。
「これで……終わりです!」
中段から祓うように翻す銀は、狂乱のロードローラーの姿を消えゆく細雪へと変ず。それは刀身の儘に存在する確固たる紫桜里とは対照的ですらあった。
●
灼滅と同時に計ったようにひゃんたんの歌声も止んだ。
『みなさぁん! ご声援ありがとうございましたぁ♪』
さて。
この後、ひゃんたんをどうするか、だが。
「ライブお疲れ様でした」
ぱちぱちぱちぱち。
止まった空気にねじを巻くように、柚羽は惜しみない拍手を送る。
「あの、その……ありがとうございました」
皆、ひゃんたんを攻撃しない流れなんだろうかとびくびく伺いながら清和もお礼を口にした。
「ひゃんたんさん、素敵なライブでしたね」
「立派なアイドルここにあり、ですね」
お陰で戦闘が随分有利に進んだわけで、アレンと紫桜里の感謝はむしろそちら寄り。
『ひゃん♪ こちらこそぉ、素敵なステージ作ってくれて嬉しかったですぅ』
だが、ひゃんたんは気づいていない。それでいい、その方がきっとお互い幸せだから。
ぴょこんとうさみみ揺らし音音は、舞台から降りるひゃんたんへ柔らかな手をさしのべる。
『ネオンちゃんの合いの手最高だったよぉ。気持ちよく歌えちゃった♪』
手を取り舞台から降り、ライブを盛り上げていた二人にもお手々ふりふり。
『セトラスフィーノちゃんも、凜ちゃんもありがとぉ!』
お返事はサイリウムのてるてる坊主で、ゆらんゆらん。
「あ……片付け、ないと」
永久は誰もいなくなった舞台へ紫眼を向ける。
「……」
玉緒は黄金の鍵を包み持ち長く深い息を吐いた――戦いの原動力たる殺戮衝動、そしてダークネスを嫌う感情を心の奥底に封じるように。
「ふむ」
真っ直ぐ下ろしたサイドの黒をしゃらと揺らし、りりんは仲間達の反応を瞳だけで追う。
(「こっそりひゃんたんを始末しちゃった方がいいと思いますですが」)
1人眉根を寄せている沙希が気になりはするが、この場からは殺気は洗われたように消えている。ならばとりりんも見逃しへ難なく気持ちを傾けた。
「ひゃんたんの歌、覚えたいのですよ」
『わぁ、感激ですぅ!』
はいっ。
標のリクエストを思い出した沙希へ、自主制作のCD『I☆LOVE(あい☆あい)あんぶれら』が差し出される。
『歌詞もついてます。あー、ここ誤字ってるぅ』
誤:あなたとゴールイン♪ 一家だらんKOKO!
正:あなたとゴールイン♪ 一家団らんOKOK!
(「KOしてしまいたいのですよ」)
……なんとか堪えた。
『はい。また見かけたらよろしくお願いしますぅ』
アレンと紫桜里と永久、りりんにも握手と共にCDを押しつける。お礼の気持ちですなんて添えて。
『キミも頑張ってくれたよね』
ころ殺號の艶やかなラインも撫で撫で。
CDを受け取った柚羽は笑顔のまま「これでようやく聞ける」と心で呟いた。戦闘中は戦いに集中&ローラー音でろくに聞こえなかったからな!
セトラスフィーノと凜、そしてわくわくきらきらな瞳でCDを見ていた音音へ。
『はい。ネオンちゃん』
きゅきゅっとてるてるぼうずサイン入り。
「ありがとう♪ ひゃんたんちゃんのCD聞いとこうと思ったんだけど、手に入らなかったから嬉しい~」
ドマイナーアイドルの自主制作CD、しかもバベルの鎖で波及阻害……まぁ無理だろう。
『ネオンちゃんのうさたんアイドルにも負けませんよぉ』
ぴこぴこお耳をつんつくつつき、下唇を噛みしめ不機嫌にも見える玉緒の元へ。上目の淫魔はツインテールと胸を揺らし「はい」とCDを差し出した。
「あ……」
戸惑いながら受け取る玉緒に淫魔は小さく口元を解く。
『護ってくれてありがとうございましたぁ。安心して歌えたひゃん』
……こうしていると普通の人間に錯覚してしまう。
複雑な表情の玉緒の後ろから小柄な姿がひょっこり、清和だ。
「……ぇと、かわいかったです」
『ホント? わぁ、ひゃんたん嬉しい♪』
幼いながら没個性な自分がコンプレックスの清和は、ぱっと華やぐような笑顔に憧憬を抱く。
「これからもがんばってね」
バベルの鎖に負けずのアイドル活動、応援したいとプレゼントは手作りてるてるぼうず。
『ありがとぉ! ひゃんたん、大切にします♪』
CDと交換、てるてる坊主は髪に結わえられる。
『じゃあ、またどこかで見かけたら応援よろしくお願いしまぁす♪』
流浪の地下アイドルひゃんたんは活動アイテム一式が詰まった鞄を背負うと、灼滅者達に向けて何度も何度も手を振り去っていくのであった。
作者:一縷野望 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 5
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