星屑天文台

    作者:犬彦

    ●新たな迷宮
     或る郊外の丘の上に朽ち果てた天文台があった。
     看板は崩れ落ち、その場所が元はどのような名を冠していたかは今は知れない。
     光を映すことのない天象儀。錆びついた子午環。ひび割れたレンズの天体望遠鏡。星空から軌道や導きを観測する目的で造られた天文台は今や、何処からも必要とされず、誰の記憶にも残っていない。
     しかし、現在。其処は白炎が立ち昇る迷宮――ブレイズゲートと化していた。

    ●星と魔女
     ――天文台内部。
     ブレイズゲートという存在の非現実さの例に漏れず、其処には外観からは想像できない光景が広がっていた。迷宮の入口に当たるエントランス部分は広大で、外観以上の敷地があるように思える。
     更に、その天井はプラネタリウムのようなドーム型になっており、頭上には数多の星々が映し出されている。例えるならば、星の海。そのような美しい煌めきが満ちていた。
    「暇じゃのう……」
     ドームの中央。不意に少女の姿をした『それ』がぽつりと呟く。
     フィールドの真ん中に設置された天象儀――プラネタリウム装置の傍らに座り込んでいる少女は、長い真珠色の髪を指先で弄んだ。
    「星の観測も悪くはないのじゃ。然し、ひとりではつまらぬ! つーまーらーぬー!」
     そのままその場に寝転んだ少女は駄々っ子のようにじたばたと手足を動かす。その拍子に少女が被っていた魔女帽子が床に落ちる。
     その頭には山羊めいた角。背の下には悪魔めいた尻尾が生えていた。
    「誰か来ぬかのう」
     ぴこぴこと尻尾を揺らす少女は明らかに人間ではない。
     そして、改めて幻想の星空を見上げた少女は大きな溜息を吐く。
    「人が来れば新たな魔術実験が行えるうえ、鬱憤も晴らせるのじゃが……。くく、考えるだけでも愉しくなってくるのじゃ」
     影の宿った笑みと共に落とされた呟きは邪悪さに満ちており、少女は腰に携えている星色の剣に触れる。星を見上げ続ける少女は一見、可憐に見えた。だが、その奥底には――恐ろしいほどに不穏な色が宿っていた。

    ●迷宮探索
     廃墟となった天文台がブレイズゲートになっている。
     学園内、とある教室にて或るエクスブレインは集った灼滅者達にぺこりと頭を下げ、今回の依頼について話し始める。
    「実は、今回は件のブレイズゲートの探索をお願いしたいのです」
     迷宮と化した内部はエクスブレインの予知では見通せず、内部に何があるかは分からない。もしかすれば大きな危険が待ち受けているかもしれず、文字通りの未知数。
    「唯一分かったのは、以前、天文台にはソロモンの悪魔が出入りしていて、怪しい儀式が行われたり、魔法陣が描かれていた形跡があったということです」
     現時点で、それ以上の情報はない。
     申し訳なさそうに瞳を伏せるエクスブレインだったが、しかし、それだからこそ謎を解明するために灼滅者達に探索に向かって欲しいと願う。
     灼滅者としてもダークネスが関係しているとあらば放っておくわけにはいかない。
     そうして、宜しくお願いします、と頭を下げたエクスブレインはブレイズゲートに赴く灼滅者達を見送った。

     廃天文台の内部に生まれた星の迷宮。
     其処では何が待ち受け、どのようなダークネスが巣食っているのだろうか――。


    参加者
    朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)
    椎葉・花色(あおみどろ・d03099)
    雨積・舞依(鳥籠迷宮・d06186)
    雨積・熾(烏龍茶・d06187)
    英・蓮次(凡カラー・d06922)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    八坂・善四郎(律する理想は海境へ・d12132)
    宿木・青士郎(ティーンズグラフティ・d12903)

    ■リプレイ

    ●星と夜の世界
     果てなく続く夜空を映す天蓋は眩い星々を孕んでいる。
     駅番の仲間達と共に過ごす吉祥寺の夜空とは違う、星だけの世界。
     こんなに広い星空を独占できるのはどんな気分だろう。踏み入った天文台、今はブレイズゲートとなった其処の天井を見上げるのは椎葉・花色(あおみどろ・d03099)。
    「わっすごーい……ちょう星綺麗ですね」
     その青色の双眸には星が映り込んでおり、瞳と星の瞬きが重なる。
     そして――いざ、駅番白虎隊出陣の刻。
     気合いと共に視線を前に向ければ、中央辺りの天象儀に腰掛ける幼い少女の姿が見えた。向こうが此方にまだ気付いていない事にも構わず、宿木・青士郎(ティーンズグラフティ・d12903)は両腕を組み、天象儀の前に仁王立ちになる。
    「今宵の星は贄を欲している……」
     能力解放の証であるローブを羽織ると同時に神妙に呟かれた一言。
     その声と物音に振り返り、ソロモンの悪魔であろう少女が驚いた声をあげた。
    「む、何事じゃ?」
    「ごめんねー! コレやんないと始まる事すら出来ないから、付き合ってくれないかな!」
     困惑する少女に向け、お願いするように両手を合わせた八坂・善四郎(律する理想は海境へ・d12132)は、申し訳なさそうな雰囲気ながらも笑顔である。
     これは駅番恒例の名乗り。
     何を始めるにせよ、名乗ってこそ駅番。むしろ名乗らなければ駅番ではない。
    「まあ、エキバーは名乗りが大事だから……」
    「悪いがレディ、君は名乗りを邪魔するほど無粋な女性ではないよな?」
     其処へ超絶ラブラブ兄妹、もとい雨積・舞依(鳥籠迷宮・d06186)と雨積・熾(烏龍茶・d06187)が仲間の名乗りへのサポートに回る。有耶無耶な気もするが、熾にレディと呼ばれた事に気を良くした少女は「ふむ」と頷き、様子を見守る体勢に入った。
     名乗りを続ける青士郎は片手で顔半分を覆い、次なる言の葉を紡ぎ出す。
    「血に飢えし断罪の牙、駅番白虎隊八星座が一角、パナケアの大魔導師こと宿木青士郎! 星の導きに従い、ここに推参!!」
     言い終わるや否や、更に格好良いポーズを取る青士郎。中二病真っ盛りである。
    「そして、我ら駅番白虎隊! 今こそ団結力を見せるとき。きてっ、ルナルティン!」
     清浄院・謳歌(アストライア・d07892)も月と星の名を冠する武器を掲げ、悪魔の少女に明るい笑顔を向けた。その後ろでは朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)が楽しげにぴょこぴょこと跳ねている。
    「やったー! パナケアさんも謳歌ちゃんもかっこいいー!」
    「ナントカの魔術師、キメッキメでかましてるな……」
     そっと見守る体勢だった英・蓮次(凡カラー・d06922)は小さく息を吐き、ブレイズゲートに来てもいつもと変わらぬ仲間達の元気さに口許を緩めた。だが、眼鏡の奥の双眸は即座に鋭く細められる。
     その理由は――少女から凄まじい魔力が発せられるのを感じた故だ。
    「パナケアの大魔術師に白虎隊のう……。くくく、愉快な客人が訪れたようじゃ」
     暇潰しには丁度良い。
     そういって立ち上がった少女の外見は幼いながらも、その気迫は幼女のそれではないと花色は感じた。小さい子をぶつのは気がひける。そんな思いすら何処かに行ってしまう程に。
     舞依達が身構え、善四郎も表情を引き締める。
     すると少女は瞳を細めて灼滅者達を見渡し、高らかに声をあげた。
    「名乗られたからには名乗りを返さねば無礼じゃな。我は偉大なる悪魔であり魔女、星黄泉のスピカ・スピカじゃ。覚えておくがよいぞ!」
     殺気に満ちた空気を感じ、謳歌は仲間と共に覚悟を決める。
     堕ちた星が宿る天文台にて、星黄泉の魔女との戦いが幕あけるのだと――。

    ●魔女と白虎
     殺気が幾ら鋭かろうと、駅番の面子はそう簡単に怯むような者達ではない。
    「スピカ・スピカよ! この我に魔術で勝負しようとはいい度胸だ!」
     青士郎は少女の名を反芻し、挑戦的な眼差しを向けた。同時に影を解き放つ青士郎だったが、影の縛りは運悪くもかわされてしまう。
    「ふふっ、威勢の良い小童じゃのう。さっそく遊んで頂こうかの」
     少女が腰元の剣を振り抜き、手近な蓮次に斬りかかろうと動く。
    「おおっと殴らせませんよー!」
     だが、それにすぐさま反応した花色が剣の軌跡を追った。瞬間、星辰の剣と金属バットが衝突しあい、甲高い音が鳴り響く。
    「なるほど、クルセイドソード……のような感じですね。――っ!」
     受けた衝撃から自分なりに分析してみた花色だが、斬撃はバットを握る腕に重く圧し掛かるほど強かった。そして、花色は掲げた戦輪で天魔の陣を描く。
     その合間に体勢を整えた蓮次は「ありがとハナチャン」と花色に礼を告げ、強敵に対抗する力を持たんとして動いた。
     そして、彼は恋人である夏蓮の方を向き、真剣な表情で告げる。
    「俺と結婚してください」
    「はい!」
     即座に夏蓮が明るく頷けば、蓮次の身体に力が満ちた。それは己に絶対不敗の意志を宿し、魂を燃え上がらせる力。つまり自分にとっての活力は彼女だ。という壮大な駅番のネタだったりするのだが、夏蓮も何だか嬉し恥ずかしな乙女な表情を見せている。
    「急に恋の一幕を見せるとは破廉恥な奴等なのじゃ!」
     流石のスピカも困惑気味。
     だが、善四郎はこれも大体いつものことだと笑った。
     相手のペースを崩せているならばそれもまた良し。善四郎は辺りを見渡し、星の煌めくこの場に相応しいアレ、笹はないのかと探す。しかし、元からそんなものが用意されてあるとは思っていない。
    「七月といえば七夕っすよね。笹はなくても、短冊お一ついかがっすか☆」
     善四郎は冗談めかした眼差しを向け、導眠の符を舞い飛ばす。
     小さな呻きがスピカから漏れる中、善四郎は彼女が何をしたいのかを考えていた。少女が気になっているのは熾も同じ。というより、星と幼女という響きが気になって仕方がない。
    「見た目は幼女なんだけどなぁ。ダークネスだし……一体何歳なんだろう」
    「ふん。れでぃの歳を気にするとはお主、失礼じゃのう」
     巡る戦いの最中、思わず零れた熾の呟きにスピカがジト目で答える。
    「お兄様?」
     同時に舞依から様々な念の籠った一言と眼差しが向けられ、兄はぶんぶんと首を振る。
    「って、オレはロリコンじゃないからな! 守りは任せろ!」
     この身に代えても仲間はオレが守る、と誤魔化すように熾が盾を構えた。
     その間にもスピカの氷魔術が仲間に放たれ、舞依も果敢に立ち塞がる。この星空を凍らせる氷は何故だか無粋にも思えた。
    「廃墟の天文台とかちょっとロマンチックなのにね。まあ、来たからには頑張るわ」
     氷を振るったチェーンソー剣で弾き返し、舞依は口許に薄い笑みを浮かべる。
     幼女悪魔を兄に近付けたくない妹心を発散させるには、自分から斬り込むのが良い。黒髪をなびかせ、刃の駆動音を響かせた舞依は一気に斬撃を見舞った。
     だが、スピカはまだ余裕のまま立っている。
     少女の魔法は星のような煌めきを宿して放たれていた。しかし、謳歌とて星を司る正義の魔法使いだ。魔女とはいわゆる宿敵関係でもある。
    「みんな、さっきの魔法のお返しをしてあげよう。いっくよー!」
    「容赦はしません。いえ、出来ませんからね」
     神霊の剣に力を込めた謳歌が呼び掛ければ、花色が頷きを返した。
     横手に立ち回った花色が炎の一閃を浴びせかけ、更に反対側に回り込んだ熾が王子の名に相応しい立ち振る舞いで破邪の白光を解き放った。
    「ズバリ! 何歳!? 教えてくれないとロリババアって呼び名になるぜ?」
    「うう、本当は齢など覚えておらぬ。この話はもう終わりじゃ!」
     二人の攻撃を受けたスピカは言葉でも衝撃を受けたらしく、熾を睨み付ける。刹那、隙を狙って駆けた謳歌が真正面から迫った。それに気付いて舌打ちをしたスピカは体勢を立て直し、謳歌を迎え撃つ。
    「星のピカピカちゃん、わたしの全力を受けてみて!」
    「ぴ、ぴかぴかじゃと!?」
     星黄泉のスピカ・スピカという名を自分なりに略してみた謳歌は得意気だ。彼女の放った神霊剣はスピカが掲げた剣と重なり――衝突は星の爆発のような光を生み出した。
     やっぱり、強い。
     仲間にも敵にも感じた思いを噛み締め、夏蓮は繰り広げられる激しい戦いを見つめる。そして、杖を掲げた夏蓮は、ふと気になったことを問いかけてみた。
    「スピカちゃんはどうしてこの場所にいるの? やっぱり星が好きだからなのかなー?」
     自分も空を飛びながら星空を見るのが好き。
     この天蓋に広がる星の下で魔法の箒散歩をしたいくらいに。だから、スピカが星好きならば気持ちも少しは分かるかもしれない。勢いを付けるためにぴょこんと飛んだ夏蓮が放った魔力を受け止め、敵は笑む。
    「此処は良い星の巡りが見られるのじゃ。それに、我の魔術実験も捗るからの!」
    「実験ってどんなものか気になるけれど……ひゃっ」
     夏蓮が首を傾げた瞬間、スピカの紡いだ魔法の矢が放たれた。
    「大丈夫? 皆を守る盾になってあげてよ」
     しかし、すぐさま舞依が庇いに回り、続いた蓮次がお返し代わりの反撃へと移る。スピカはその様子を可笑しげに眺め、口の端を釣り上げた。
     花色もこの天文台のことを探るべく、スピカに問い掛ける。
    「その魔術も気になりますが、天文台の中はどうなっているのか教えてくれませんか?」
     上に階があるのか横に広いのか。それとも地下があるのか。
     それくらいは話してくれるだろうかと踏んだ花色だったが、スピカは首を横に振った。
    「ふふん、そう簡単に教えぬわ」
     すると、その不敵な言動に青士郎が反応する。
    「この気配は……なるほど、貴様『アレ』をやる気か……」
    「なぬ!? アレの気配に気付くとは。パナケアの大魔導師とやら、侮りがたしじゃっ」
     スピカが驚いて青士郎を見遣る。だが、防護符で仲間を補助しつつも、そのやり取りを聞いていた善四郎は知っていた。会話中のアレとは完全なるカマかけであり、青士郎本人もアレが何なのかを知らない、ということを。
    「アレってなんなんすかねえ……」
    「さあ、何なんだろうなぁ」
     他人に聞こえないようにひそひそ話す善四郎と蓮次。
     しかし、このブレイズゲートの奥では確実に何かが行われている。戦いの最中でも魔法陣の配置などを気にしていた蓮次は確信を抱いていた。
     此処は云わば星辰の巡りを自由に出来る環境。それがどうにも引っかかる。
    (「土地を問わず、術士は星の巡りを大切にするもの。気にし過ぎならいいけど」)
     善四郎も双眸を鋭く細め、妖しく笑う魔女を見据えた。

    ●決着
     戦いは続き、攻防は激しく繰り広げられた。
     敵は一人と云えど、星黄泉の魔女の魔力は強い。しかし、駅番とて西方を守護すると謳われる白虎として星辰を抱いているのだ。
     故に押し負ける心算はない。
     青士郎は仲間を見遣った後、光刃を生み出して接敵する。アレの情報も気掛かりだが、今の己にはやるべきことがあった。スピカに迫り、青士郎が刃を掲げた刹那。
     びりびりっ。
     普段にも増して気合いの入った服破りの一閃がスピカを襲う。
    「むむ、我の一張羅が!」
    「さあ熾、貴様の指示は果たしたぞ! あとは煮るなり焼くなり好きにするがいい!!」
     はだけた胸元を慌てて押さえるスピカを余所に、青士郎は熾を呼ぶ。
     駆けた熾は個人的な至高の品、幼女に着せる為だけに持ってきた巫女服を取り出す。
    「巫女服とかに興味はある? 服も破れたついで、もし巫女服に着替えてくれるなら――」
    「お兄様?」
     舞依から再び念の籠った眼差しが向けられ、熾の手にした巫女服が床に落ちる。ひらひらと敵の足元に落ちた巫女服を横目に、善四郎はゆっくりと首を振った。
    「後で舞依さんにシバかれるなアレ……」
     その間も善四郎は符を舞い飛ばし、スピカと正々堂々戦う謳歌のフォローに回る。
     戦いは厳しいようにも思えるが、まだ誰も倒れてはいない。謳歌は勝てると信じ、存分に剣を振るえる相手に笑いかけた。
    「ピカピカちゃんも強いみたいだけど、わたし達だって! ガンガン攻めていくよっ」
     謳歌の放った蹴りは流星の如き煌きを宿し、スピカを貫く。
     相手も反撃を仕掛けようと剣を握るが、それよりも疾く動いたのは蓮次だ。
    「ナーレ、いや……夏蓮!」
     真剣な表情を見せ、恋人の名を読んだ蓮次。彼がみなまで言わずとも、夏蓮は次に何をすればいいかを即座に理解していた。
    「はいっ、れんじせんぱい! フランメハナ、いくよ!」
    「ふ、フランメハナとアサヒニャーレの力、みせてあげますよー!」
     身構えていた花色にも呼び掛けた夏蓮は魔法の杖を構え、魔力を放出する。
     例えるならば、それは――魔法少女の必殺技。花色は少しばかり恥ずかしそうな一面を見せていたが、次の瞬間。
    「「マジカルスターゲイザー!」」
    「プラス、攻撃は最大の防御バスター!」
     夏蓮と花色の声が重なり、其処へ更に蓮次の声が響く。魔法陣から舞う魔力と流星の軌跡、そして超弩級の粉砕閃刃。激しい衝撃が敵を一瞬にして貫いた。

    ●吉祥寺の星
     スピカが膝を突き、苦しげな呟きを零す。
    「くぅっ、このままではやられてしまうのじゃ。幾ら他の我の分裂存在がいるとは云えど、星占迷宮の全貌を見ず消えるなど……」
    「星占迷宮?」
    「ええい、戦略的撤退なのじゃー! おっと、この巫女服とやらは頂いて往くかの」
     聞こえた妙な響きに夏蓮と花色が首を傾げるが、スピカは素早く身を翻す。その際に床に落ちた服を拾う事も忘れず、ソロモンの悪魔は駆け出した。
    「ああっ、巫女服が!」
     熾が追おうとするが、その逃げ足は異様に速く、少女は瞬く間に奥の扉まで到達する。
    「さらばじゃ、白虎隊。星の導きの元、また逢おうぞ!」
     そして、スピカは駅番の面子に視線を巡らせ、勢いよく扉を閉めた。
    「ちょっと待って、まだ……!」
     謳歌が駆けて扉に手を掛けたが、皆が消耗した今は奥に進まぬ方が得策だと思えた。舞依は剣を下ろして息を吐き、戦いが終わった事を実感する。
    「逃げられたわね。でも、良いわ。楽しませてくれるならまた来てあげるわよ」
    「また逢おう、か。我も再会を望むぞ、星黄泉の魔女よ!」
     中二病スイッチが入ったままの青士郎は腕を組み、扉の奥に逃げた魔女に向けて尊大な態度を取って見せた。
     まだ謎は多いままだが、今回は大切な事が分かった。
     天文台に巣食うのは、ソロモンの悪魔『星黄泉のスピカ・スピカ』。
     そして、この奥には星占迷宮と呼ばれる深層が存在する。これらが分かっただけでも十分な収穫だ。
     そうして、仲間の安否を確認し、安堵した善四郎は帰還を提案する。
    「さて、帰りましょう。皆が待ってるっすよ」
     帰りを待つ仲間にも無事を知らせ、名乗りの勇士を教える為に。
     迷宮世界の星も幻想的で綺麗だった。けれど、皆と見上げる吉祥寺駅の星空こそ、自分達にとっての日常の形なのだから――。

    作者:犬彦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 12
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