白銀に燃える

    作者:佐伯都

     ……つまらない。暇でしょうがない。
     久々にあれこれ難しい事を考えずに野山を駈けようにも、肝心の脚がない。この時期の青葉の匂いは気持ちよくて大好きだ。
     それなのに身体がない。つまらない。
    「……幼い、銀の炎よ。そこにいますね。灼滅されてなお囚われている思い、話してごらんなさい」
     少女の声が聞こえてきて、シロガネは藪の中で顔を上げた。
    「大丈夫、私にはあなたが見えます。私は慈愛のコルネリウス、あなたと戦うつもりはありません」
    『……あそびたいけど、うごけない』
     元来イフリートは活動的なものだ。長時間じっとしているよりも動き回るほうを喜ぶ。
    『すれいやー、じょうぶ。……あえたら、あそんでくれるかな』
     灼滅者の単語に、コルネリウスはほんの少し眉をひそめた。
     残留思念となるからにはこの世にわだかまる思いがあるはずなのだが、複雑な思考をしないイフリートならばこんな事もあるのかもしれない。
    「……聞こえますか、プレスター・ジョン。この幼いイフリートを、あなたの国に匿ってあげて」
     
    ●白銀に燃える
     『慈愛のコルネリウスによって先日灼滅されたイフリート、シロガネが復活を果たすのではないか』――そんな天使・翼(ロワゾブルー・d20929)の読みが的中した、と成宮・樹(高校生エクスブレイン・dn0159)は手元のルーズリーフをぱらぱらと捲る。
    「慈愛のコルネリウスが、灼滅されたダークネスの残留思念に力を与えてどこかに送ろうとしてる……って話は聞いたことがあると思う」
     コルネリウスに力を与えられた残留思念はすぐ事件を起こすような気配はないが、放置する理由もない。
    「本来、残留思念には力なんてない。でもスキュラが残留思念かき集めてスペアの犬士を作ろうとしたようだし、全く不可能ってわけじゃないのかも知れないね」
     コルネリウスは実体を伴っていないので戦闘を仕掛けることはできないし、灼滅者に対してかなりの不信感を抱いているため、会話には応じない。こちらは放置するしかないだろう。
    「何が目的なのかは知らないけど、力を与えられた残留思念――シロガネ、は灼滅前に匹敵する戦闘力を持つ。油断はしないように」
     ところが、灼滅された恨みつらみや無念を糧にこの世へかじりついていた他の残留思念とは違い、シロガネには灼滅者を恨むような気配がない。原因は不明だが『灼滅者に敗北した』事実は覚えているものの、物事を深く考えないイフリートらしく、その委細をまるで覚えていないようだ。
     そもそも覚えていないので、恨む理由がない……という事なのだろう。
    「……シロガネの性格と言うか、イフリートの特性を考えれば、恨むよりもそうなるほうが自然かもしれないね」
     残留思念となった今、面識のあった相手も覚えていない。ある意味シロガネによく似た別のなにか、と思ったほうがよいだろう。
    「もし残留思念を逃がした場合どこへ行くのかは不明だけど、コルネリウスの計画を阻止するためにはシロガネを倒す必要がある」
     能力や戦闘方法などは、前回灼滅された時そのままの状態だ。ファイアブラッドのものとヴォルテックス、フォースブレイクに酷似したサイキックを使用する。シロガネは灼滅の場となったひらけた草地から移動していないので、探すまでもなく見つかるだろう。
     ただ、と言いおいて樹はルーズリーフを閉じた。
    「コルネリウスの行いは善行に見えるものも多いけれど、それが問題の根本的な解決になるのか、疑問が残るのは皆も知っていると思う」
     少なくとも残留思念に力を与えてどこかへ送り込むという事は、戦力増強の意味があると想定できる。
    「悔いのない結果になるよう、願っているよ」


    参加者
    江楠・マキナ(トーチカ・d01597)
    李白・御理(玩具修理者・d02346)
    火之迦具・真澄(火群之血・d04303)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    銃沢・翼冷(飽オ紫由リ出ヅル・d10746)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    天使・翼(ロワゾブルー・d20929)
    ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)

    ■リプレイ

    ●白銀に光る
    「コルネリウスってホント、余計な事しかしないな……」
    「……確かに面倒な状況だな。やるしかねーけど」
     江楠・マキナ(トーチカ・d01597)の呟きに同意する形で、銃沢・翼冷(飽オ紫由リ出ヅル・d10746)は軽く溜息をついた。
     李白・御理(玩具修理者・d02346)は、愛用のロップイヤーのうさ耳パーカーで視線を隠しながら背後の様子を伺ってみる。
     あまり、と言うより良い思い出がまるでないはずの場所へ向かっているであろう、列の半ばを歩く天使・翼(ロワゾブルー・d20929)の様子がずっと気になっていた。
     前回の件も含め、たとえどのような結果になろうともあまり深刻に思い悩まないでほしいと御理は切に願うものの、翼自身の気持ちの問題でもある。
     灼滅が全てなのか、と漠然とした疑問を抱きつつもユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)は歩みを止めない。個人的に、シロガネに似ている気がする見知った人間がいることもあり、もし平和裏に学園に誘うことができたならば良い遊び相手になってくれたかもしれない、とすら思う。
     前方が明るくなってきたことに気付いて、清浄院・謳歌(アストライア・d07892)は顔を上げた。鬱蒼とした森の終わりが近づいている。
     火之迦具・真澄(火群之血・d04303)は念のため周囲を見渡しつつ、何者かが居ないかどうか確認しながら草地へ近づいていった。
     そう離れていない藪の脇に、淡い色の長い髪を風に流した、細身の人影を風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)が見つける。
    「……聞こえますか、プレスター・ジョン。この幼いイフリートを、あなたの国に匿ってあげて」
     聞こえてきた声に、真澄が目の色を変えた。
     すでにこの世のものではなくなった命を弄ぶコルネリウスの行為は、シロガネの戦士たる魂を汚す行為だ。自身のものではない仮初めの命と身体を与えることを慈愛などと表し、幸せにしてやったと言わんばかりの所行が本当に『慈愛』の行為だとは真澄には思えない。
     しかし、翼の心情も理解できる。もしシロガネの帰還が叶ったら、そんな事ができたなら。
    「――そんな甘ちゃんで都合の良い結末も、悪くない……よね?」
     藪の脇、白銀に光る何かが凝集して小柄な人影を形作る。
    『からだがなくて、あそべない』
     草地へ走りこんできた灼滅者の足音を聞きつけたのだろう、コルネリウスが肩越しにユーリー達を振り返った。
    『もっとあそびたい』
    「その願い、叶えましょう。存分に戯れなさい」
     言い終わるが早いか、コルネリウスの姿形が急速に薄まってゆく。それと入れ違いに藪脇の白銀の光は確かな輪郭と色彩を強め、小柄な少女の姿をとった。
     あの夜と寸分違わぬ姿形でシロガネはひとつ頭を振り、ゆっくりと灼滅者達を見る。
     消えたコルネリウスの行方を捜すことはせず、翼は気安い声をかけた。シロガネが自分を覚えていないことは、知っている。
    「よう、遊びたくってうずうずしてんな。顔を見りゃ分かるぜ」
     波打つ髪を揺らし、シロガネは小さく首をかたむけた。
    「私はユーリー、戦場の盾である。そう簡単には壊れない。つまり私は君と力比べをしたいのだよ――誇り高きガイオウガの戦士、シロガネ」
     ユーリーの声に、シロガネは何度か大きな瞳を瞬かせる。
    「シロガネちゃんはどんな遊びがいい?」
    「一般人に被害がでないならトコトンつきあうよ、灼滅者じょーぶ!」
    「初めまして、ミコトです。灼滅者です。貴女のやりたい事、しにきました」
     目の高さを合わせて微笑んだ謳歌にマキナと御理が揃って請け合うと、シロガネは求めていた相手、灼滅者がいることに気付いたらしい。そこでようやく目が細まり、笑ったのだな、と翼は思った。
     そして唐突に、その笑みへ強烈な違和感を覚える。

    ●白銀に閃く
    「翼冷! ユーリー!」
     背中に氷を当てられたような錯覚に急かされ、絶叫じみた声が口をついた。そこを退けと謳歌とマキナ、そして御理に言えるだけの時間はない。
     ほとんど条件反射のような速度でユーリーは封印解除し、左腕の盾に己が身を守らせる。何の前触れもなく、ユーリーのすぐ後ろにいた御理の防具が凄まじい勢いで展開した。
     カードの自動解除が示すその意味に愕然として、御理は動物的な勘が命じるまま地面を蹴って場を広げる。
     ざらりとささくれた殺気が襲いかかってきた方向は――ユーリーの正面!
     盾へ叩きつけられた衝撃にユーリーの全身の骨格がきしむ。顔を上げればすぐ目の前、不吉に双眸を細めた白銀のイフリート。
    「すれいやー、じょうぶ」
    「……」
     みちみちと恐ろしい予感を伴う音を聞きながら、ユーリーは視線を合わせたまま息を飲む。霊犬チェムノータが全身でシロガネを威嚇しているのが見えるが、一度さがれと命じるだけで精一杯だった。
     シロガネの望む遊戯が、文字通りのそれではない可能性には気付いていた。しかし、ここまで直球だとは。
     目だけを笑みに細め、むきだしの殺意を迸らせるシロガネはユーリーの盾に食い込んでいた杖を、さらに押し出すように肩を入れる。その瞬間に互いに拮抗していた力の方向がわずかにズレて、体勢が大きく崩れた。
    「ハロー、ワールド!」
    「きて、サダルメリク……!」
     ユーリーと翼がシロガネを食い止めている間にさらに翼冷が後衛との間に割って入り、急ぎ間合いをとったマキナと謳歌が封印を解く。
     御理と違い自動解除が起こらなかったということはそういう事なのだろうが、さすがに肝が冷える思いだった。
     離れた場所で優歌はただひとり、その様子を遠巻きに眺めている。
     シロガネを倒す必要がエクスブレインから明示されていたものの、個人的にシロガネと戦う意義を感じなかったためだ。
     それはコルネリウス、ひいてはダークネスを利するうえ同じ灼滅者を故意に危険に晒す行為だったが、彼女にとってはそれよりも優先されるべき何かの理由があったのだろう。
    「なるほど、遊びってのはこっちの意味か」
     息詰まるような業火をまとった一撃をぎりぎりでやりすごし、翼冷は横目で優歌を一瞥する。
     彼女に戦う意志がないなら仕方ない――七人での戦闘となれば非常な苦戦は免れないだろうが、翼冷もまたコルネリウスの計画を阻止するためこの依頼に参加したのだ。
     確かにシロガネ灼滅についてはそれぞれ思う所があるはずだが、それにあれこれ口出しをするつもりはない。
     どうやら優歌を、依頼を共にする仲間と信じていたのは自分だけだったらしい、と真澄はややほろ苦い思いで愛刀の一重之芍薬を構えた。しかしそんな理由で自分がやるべき事を見失ってしまうほど、今の真澄は脆くもない。
    「シロガネ、翼の声に聞き覚えはねェか!? 思い出せよ、お前を止めようとした、助けようとした甘ちゃんだよ!!」
     ……『残留思念』は生きているのだろうか。
     肉体を凌駕する魂を持っているのだろうか。
     御理にはそれが一体どのようなものなのかが気になる。それは果たして修繕できるのだろうか。最前列でシロガネの猛攻に耐える翼冷に祭霊光をほどこしてから、御理は全員のダメージ量を見極めようと目を凝らす。
     もしも修繕ができるのなら、サイキックエナジーを注げば奇跡は起こるのだろうか。
     猛然と弾丸を吐き出すガトリングガンの余波で、硝煙のごとくマキナの長いスカートが舞い上がる。
    「さあ、気の済むまで踊ろっか!」
     キャリバーのダートを前衛の盾に回し、マキナは【orgel】の銃身を引き起こす。最初から返答は期待していない。もし人間であれば小学校に上がるか上がらないか、という幼い姿にもかかわらず、薄青い目を残忍な笑みに歪めるシロガネにまともな返答は望めそうになかった。
     生前まみえた経験はなく、今は残留思念と化したシロガネに恨みなどないが、マキナの目的の為にはここで見逃す事はできない。せめて、最後は『楽しく遊んで』やるだけだ。
     本音を言うならば、誇り高い戦士のまま生き、そして消えてほしい。
     たとえ情報のため泳がせるとしても、シャドウの私兵と化した姿など見たくない。それに何より、マキナはダークネスと慣れ合いたくなどなかった。でも。
     もし翼のために生きてくれるなら。彼の、焼けつくような無念と熱意を感じたから。
     もし彼のためにシロガネが生きてくれるとしたら……それもいいかな、と思わないでも、なかったのだ。

    ●白銀に燃える
     謳歌が次々と繰り出していく蹴り技に乗せて、シロガネの身体を覆う炎が増してゆく。シロガネが行動阻害をキャンセルする手段を持たないことはわかっていた。
    「さすが、って事なのかな……」
     生前の記憶に抜け落ちが発生しているせいなのか、それとも別の理由があるのか、シロガネは体力を削る炎も、足元を狂わせても、まるでそれを意に介する様子もなく灼滅者と戯れる。
     謳歌の、流星の煌めきをのせた蹴りがシロガネの左脇にクリーンヒットした。不自然な重力がかかったように大きくたたらを踏む。
     真澄との連携を意識しつつ翼冷はシロガネの進路を塞ぐように位置取り、白色の紋様が浮かんだ黒腕を引いた。
     そこからの渾身の殴打を、シロガネは業火をまとわせた杖で受けきる。殴り飛ばすつもりが逆に弾かれそうになり、踏みしめた翼冷の左足が草地を派手に削った。
    「……ッ、どうかな、シロガネ! 楽しいかい!?」
     翼冷に是とも否とも返さず、シロガネは薄青い目を細める。
    「足りないって事かな。なら、もっといっぱい遊ぼうか!」
     優歌を欠き七人という不利はもちろん、今や見知った間柄でもなくただひたすら灼滅者とダークネスという関係。ダークネスの本性をむきだしにして襲いかかってくるシロガネは、もう以前とは似ても似つかぬ、『別の何か』だった。
     ずるずると御理の回復量が前衛を中心としたダメージ量に追いつかなくなってくる。マキナのダートもよく辛抱していると言えたが、真澄を狙ったフォースブレイクを肩代わりしたのを最後に力尽きた。
     御理は一度も『シロガネ』には会った事はないが、灼滅者を恨み憎む事もできたはずなのに、最期にシロガネはそれを遺さなかった。ならばシロガネにとって怨念や報復といった粘着質の感情は、こちらが想定していたほど彼女の中では大きな事ではなかったのかもしれない。
     だからこそ、ぎりぎりまで濃縮された殺意は残酷で酷薄で、恐ろしい。
    「本当に、忘れちまってるのかよ……」
     口惜しげに呟いた真澄を含む前衛の傷を、御理が吹かせた風が癒やしていく。積極的に当てに行く翼冷と主な壁役を担ったユーリーへの被弾は特に多く、謳歌はひとまず前衛の建て直しを急いだ。
    「真澄さん翼さん、少しだけお願い……!」
     自己回復手段もそれぞれ用意してきたが、謳歌が見るかぎり死へ至るダメージの蓄積速度がかなり早い。シロガネが行動阻害をキャンセルできない有利はあるとしても、やはり七名での戦闘は厳しいという事だろう。
     翼冷とユーリーが回復に専念するかわり翼と真澄が前へ出るのを、マキナが援護に回った。
     マキナもまた、心のどこかで可能性に祈っていたのかもしれない。たとえ色々なものを拾っては捨てて、前に進んでいくしかないのだとしても。
    「――どんな姿になったとしても、キミは誇り高きイフリートの戦士だよ!」
     だからコルネリウスの走狗となってくれるな、というマキナの叫びをシロガネが容れたかどうかは定かではない。薄青い目が草原の脇に立つ優歌をとらえ、その掌に紅蓮の業火が燃え上がった。
     戦うための準備を何らしておらず、優歌ができる事と言えば自己回復と後衛へのフェニックスドライブのみ。優歌へ矛先を向けんとするシロガネに、やめろ、止めて、と悲鳴が交錯する。
     そして終わりはひどく唐突に訪れた。
     誰のサイキックで幕引きがされたのかもわからない。まじりあう光と影、奔る炎と誰かが草むらに叩き付けられる音。
     薄く煙を上げる藪の中、身体を丸めるようにシロガネが倒れていた。そこに走り寄った謳歌が、どこか痛ましげに波打つ髪を撫でる。気がつけばシロガネもまた、ぼろぼろだった。
     その傍らに翼が膝をつく。
    「満足したか」

    ●白銀に殉ずる
     本当なら死ぬ必要なんてなかったかもしれない。
     全てをなげうってでも大学生を守り通せていたなら、少なくとも互いにもう少し違った結末が待っていたはずだった。
    「また遊ぼうぜ、これからは何度だって遊んでやる。約束だ」
     ダークネス相手に不殺の確約などさせられる筈がない事も痛いくらいよくわかっていたが、それでもあんな形での灼滅ではなかったはず。もう過ぎてしまったことにIFを唱えたって何にもならない、としても。
     ……オレ達のせいだ。
     あの日からずっとそれを謝りたくて。どんな形でもいい、ただ生きていてほしくて。
    「……初めてなんだよ、役目じゃなく本気で助けたいって思ったのは」
     その為なら命だって惜しくない、力でも何でも持っていけばいい。命には命と言うのなら、代償が要ると言うのなら全部くれてやる。
    「だから頼む、消えないでくれ」
     ただそれだけを願って、切望して、ここに来た。
     ひどく眠そうな、薄青い目が翼を見る。翼冷やユーリー、御理らも見守る中、じんわりとその身体の輪郭が光を帯びた。
     眠そうに不思議そうに見上げて、そして最後にシロガネは笑う。
    「ばかだな。タスク」
     その時翼は、真実、呼吸することすら忘れた。
     すぐそばで見ていたマキナと謳歌が瞬きする間すらなく、溜息のような呟きをこぼしたシロガネの身体が無数の光の粒子となってはじける。
    「……」
     シロガネ、は。……?
    「……シロガネちゃん?」
     呆然、といった様子で謳歌が周囲を見回す。
     焼け焦げた藪が細く煙をあげている他は、もう何も見当たらない。光の粒子も、何も。誰も。どこにも。
     コルネリウスや他のダークネスの気配もない、一体どこに消えたのか。
     翼はもちろんのこと翼冷も、大量のサイキックエナジーなり何なりを犠牲にするなら、もしかしたら奇跡は起こるかと推測し実行するつもりでいた。しかし灼滅者とて、残留思念をその目でとらえることはできない。
     膝立ちになっていた姿勢から、翼がその場にへたりこんだ。しろがね、と譫言のような呟きが落ちる。
     真澄の、御理の声も聞こえる。けれど。
     事態を悟ってユーリーと翼冷が藪の外へと走り出る。やはりシロガネらしき姿は見えない。戦闘は放棄したが復活を試みるさいには手を貸すつもりでいたらしい優歌が、何が起こっているのかと怪訝な顔でこちらを見ていた。
     消えてしまったシロガネを探す声は随分長いこと山間に響いていたが、それに応える声はいくら待っても返らない。
     ……聞こえるのは、ただ風のさざめきばかり。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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