新灼滅者講座2:闇に抗う知識と歴史

    作者:七海真砂

    「それでは、第2回の灼滅者講座を始めます」
     今回もよろしくお願いしますね、と最初の挨拶をした五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、さっそく本題に入っていった。

    「実は、前回の灼滅者講座で、こんな風に書いている新入生さんがいました。
    『自分の宿敵と戦っているところを書きたかったのだが、宿敵について詳しく知らないので上手く書けなかった』。
     こういう人は、実はけっこう多いんじゃないかなと思うんです」

     灼滅者といっても、ダークネスについて詳しく知っている人ばかりではない。
     武蔵坂学園だって、これまで多くのダークネスと関わりを持ち、大きな戦い……戦争を、何度も経験してきた。
     しかしたくさんのダークネス勢力の動き、起こしてきた事件などを全部完璧に把握できている人は、先輩達であっても、そこまで多くないはずだ。
    「第1回で教室を見に行きましたが、たくさんの事件の情報がありましたよね。当たり前ですが、ダークネスは私達に配慮して事件を起こしてくれるわけではありませんから、いつも同時に数えきれないほどたくさんのダークネスが、各地で事件を起こしているのです」
     たったひとりで全部を把握し、対処するだなんて不可能だ。だからこそ普段からみんなで協力したり、手分けをして、灼滅者達は数々の事件に挑んでいる。
    「そこで、皆さんが持っている情報をまとめて、共有する機会を作ろうと思うんです。そうしながら過去にあった出来事や、それぞれのダークネス勢力が今起こしている事件などを、詳しく理解していきましょう。分からないことがある人、知りたいことがある人、この機会に確かめておきたいことのある人は、ぜひ聞いてくださいね」
     もちろん、質問を遠慮する必要はない。そのための灼滅者講座なのだから。
    「宿敵のこと、ダークネスが起こしているの事件のこと、武蔵坂学園の歴史やあゆみ……。経験豊富な先輩のみなさんから、実体験を踏まえたアドバイスが聞きたい、なんて人もいるでしょうか」
     聞いてみたいこと、気になる内容は、おそらく人それぞれ違うはず。そうした後輩からの質問や意見があれば、先輩たちもきっと答えやすくなるだろう。
     だから新入生の皆さんは、遠慮せずにどんどん質問を先輩の皆さんにぶつけてください、と姫子は告げる。それから、先輩達の方を向いて、
    「皆さんはぜひ、自分が知っていること、経験したことを、後輩の皆さんに教えてあげてくださいね」
     と姫子は呼びかけた。もちろん先輩側の復習にだってなるに違いない。

     この機会に武蔵坂学園のあゆみや、今のダークネス情勢をばっちりマスターしておけば、これからの活動にも、とても役立つはずだ。
     だから「頑張ってお勉強しましょうね」と姫子はみんなに、微笑みかけるのだった。


    ■リプレイ

    「闇に抗う知識と歴史……。知識と歴史をもっと知ることで、今後の戦いにも役立ちそうですわね♪」
     セシリア・ダールグリュン(蒼き殲滅姫・d00398)は何度か頷くと、すぐに講座の準備に入った。先輩達が説明の準備に入る一方、歪神・漣美(天翔る青い小鳥・d17332)などの新入生側は筆記用具を用意するなどして、話を聞く体制を整える。自動販売機の場所を尋ねた雨堂・亜理沙(日向灯篭・d28216)たちが買い出しに向かう一方、差し入れとして持ち込まれたお菓子や紅茶などが配られていく。
    「人狼以外の事にはあまり詳しくないので、こういう機会はとても助かる」
    「ええ、皆さんのお役に立つ内容になるよう、頑張りますね」
     月ヶ瀬・榊(叢雲を斬る・d27791)の言葉に、更に気合が入るう先輩達。そんな皆を後ろの方の席から見ていた新沢・冬舞(夢綴・d12822)は、前回の灼滅者講座以上の盛況だなと、ふとぼんやり思う。
    「まずは『そもそもダークネスとは何なのか』等の基本から、説明を聞きたい」
    「わたしも結構前から学園にいますけど、ダークネスとかよくわかりませーーーん!」
     火奈抓芽・古和音(剣奏革命家・d28210)の言葉に、勢いよく立ち上がった土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)も「だって、わたし土星人だもん☆」と可愛らしく『教えて♪』のポーズをしている。
    「私も、灼滅者とダークネスの違いなどを、この機会に改めてしっかり学びたいです」
     ノートとシャープペンを広げたミラ・ローレイ(高校生魔法使い・d25769)は真剣な表情だ。
     鳴神・沫璃(ここには歌も星も無く・d27597)や沢渡・花恋(火結猫転・d24182)など、多くの新入生達が頷く。基礎の基礎からしっかり勉強していきたいという皆の言葉に頷いて、安藤・燐花(リラの花・d17984)達が用意した資料を配っていく。

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    【マスターからの解説】
     ダークネスと灼滅者の基本は、ゲーム解説の『支配された世界』で解説されています。
     また、サイキックハーツにどのような種族・組織がいるのか、自分の宿敵がどんな相手なのか等は、『世界の種族・組織一覧』で紹介されています。
     たとえば『ルーツ・殲術道具・サイキック一覧』には、あなたのルーツの詳細、そしてあなたの宿敵が書かれていますので、このページを見た上で、『世界の種族・組織一覧』に行き、自分の宿敵の情報を確認してみる……なんて使い方ができます。
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    「我は殺人鬼だから六六六人衆が宿敵なんだよ! え、見えない?」
     実際にパラパラとページをめくって見せていた千紫・雪泉(ぬるっと引き籠り系女子・d22384)は「まあ、人は見かけだけじゃ分からないものなんだよー」と続ける。
    「別に自分の宿敵以外と戦っても構わないんですよね?」
     緑野・武丸(高校生殺人鬼・d27251)の質問には、勿論だと多くの先輩達が頷き返す。
    「私の宿敵はアンブレイカブルなのですが、実際に戦った事があるのはご当地怪人が多いですね」
     と複雑そうな顔をしているのは雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)。彼に限らず、宿敵以外のダークネスと何度も戦った事があるという先輩は非常に多い。
    「そんな経験も生かして、それぞれのダークネスについて知っている情報を出し合っていきますね」
     皆が知っている歴史を出し合っていけば、良い知識の共有になるはずだと静闇・炉亞(月照・d13842)が呼びかけると、藤井・花火(迷子世界ランキング第四位・d00342)達が用意したパネルの1枚目が公開される。そこには、まず大きく『六六六人衆』と書かれていた。
     今回参加した灼滅者の中で、最も多くの者が気に掛けていたダークネス。それが六六六人衆だった。

    ●六六六人衆(ろっぴゃくろくじゅうろくにんしゅう)
    「まずは殺人鬼の宿敵、六六六人衆だ。こいつらの殺人技術ってのは本当に群を抜いてる」
    「序列があるがゆえに頭が働く奴も多い。序列を上げようと色々画策して来るのだ」
     蒔絵・智(喪失万華鏡・d00227)と龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)が、簡単に六六六人衆について説明していく。
     殺人を繰り返しながら、六六六人衆の間で『序列』と呼ばれるランキングを競い合う。それがダークネス・六六六人衆の特徴だ。
     六六六人衆の大きな動きといえば『闇堕ちゲーム』と『暗殺ゲーム』、そして『縫村委員会』になるだろう。
    「まずは当時序列五九七位だった『三日月・連夜』が始めた『闇堕ちゲーム』だ。彼らは殺人を妨害に来る灼滅者を闇堕ちさせるゲームをしていたんだ」
     この闇堕ちゲームによる影響は絶大で、闇堕ちする灼滅者も多く現れてしまった。闇堕ちゲームを始めた三日月・連夜は現在も生存しており、その序列は四五三位と大きく上昇している。
    「そして今年の新年に始まったのが、カットスローターと縫村・針子さんによる『暗殺ゲーム』でした」
     瑠璃垣・恢(エフェメラルマーダー・d03192)の言葉に続けて、村山・一途(静止領域・d04649)が説明を続ける。
     カットスローターと縫村・針子は、闇堕ちゲームで虐殺を阻止した灼滅者達を殺すべく、多数の六六六人衆を動かし、武蔵坂学園の灼滅者を同時多発的に襲撃したのだ。しかし、灼滅者達は反対に彼らを返り討ちにし、その多くを灼滅していった。
    「そこで、その穴埋めを行おうと更に彼らが始めたのが『縫村委員会』。一般人の集団に殺し合いをさせて、生き残った一人を新たな六六六人衆に仕立て上げる……というものだったんだ」
     そう告げる宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)の表情が固いのは、この事件を許しがたく思っている気持ちの表れなのだろう。
    「俺達はそうして出現した六六六人衆を灼滅せねばならなかった。そいつは『何故自分は死ななければならないのだ』と言いながら死んでいったよ。……こういう事を、息をするようにやってのけるのがダークネスだ」
     それとも呼吸ではなく食事のような感覚だろうか、とニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)は、彼らの悪辣さを示すように語る。
     その後、カットスローターと縫村・針子はいずれもブレイズゲートの虜囚に戻り、事件には終止符が打たれたが、今後別の六六六人衆によって新たな動きが出ないとは言えないだろう。
    「もうひとつ、彼らとの別の流れで忘れてはいけないのが『HKT六六六』の事件です」
     神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)が続けて紹介するのは、去年の臨海学校で向かった博多で遭遇した事件についてだ。
    「闇堕ちしていない普通の一般人の方が、突然殺戮を始めてしまう事件が起きました。皆さん共通して『HKT六六六』と書かれた黒いカードを持っていまして、それを取り上げたら気絶して元に戻ったのです」
     それらの事件は無事に解決して、灼滅者達は臨海学校を楽しむことができたのだが、そのカードを配ったのがHKT六六六なのだと語る柚羽。
     別のタイミングでは眷属『フライングバニー服』を着た人物から同様のカードを受け取った人々が殺戮に走るという事件もあった。
    「でもHKT六六六は『睡眠学習』と称して、人々に夢の中で殺しをさせるようになったんです」
     梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)は更にHKT六六六に関する出来事を語っていく。博多でHKT六六六から謎の機械を受け取った人々は、ソウルボードの中で悪夢に囚われてしまったのだ。そこで殺人の才能を開花させると闇堕ちしてしまうという、恐ろしい夢の中へ向かい、多くの人々を救いだした。
    「最近では、博多の繁華街で一般人を拉致しようとする動きもあった。これは羅刹の彫師と組み、連れ去った人々を強化一般人に改造するのが目的だったようだな」
     このように他の色々な勢力とも手を組んでいるようだ、と泉二・虚(月待燈・d00052)は解説する。今後HKT六六六に関わる場合は、そうした点も念頭に置き、警戒していく必要があるだろう。
    「あと最近一番インパクトがあると思うのは序列二八八位の『ロードローラー』っすね。今一番ホットな話題の六六六人衆だから、聞いたことある人もいるんじゃないっすか?」
     黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)の発言には多くの先輩達が頷いた。ロードローラーとは、武蔵坂学園の灼滅者である外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)が闇堕ちした姿なのだが、なぜか様々なカラーリングに増殖しまくっているのだ。
    「ラブリンスターさまのおともだちがさいきんたいへんなのですね」
     と綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)が言うように、増殖したロードローラーはラブリンスターという淫魔の一派を襲ったかと思えば、ご当地怪人を襲ったり、同じ六六六人衆を襲ってみたりと、色々な事件を起こしているのである。
    「……本人を知っている身としては、なかなか気が気でないのだけれど……危機感が行方不明になりかけるのは何故なのかしら」
     額を押さえて嘆息する周防・雛(少女グランギニョル・d00356)。ちなみにロードローラーことウツロギは彼女のクラブの部長である。
    「序列二八八位は、かつて『クリスマス爆破男』というダークネスだったのだが、やはり同じように増殖する能力があってな」
     一人軍隊のようなダークネスだったと語る風真・和弥(冥途骸・d03497)。はたして両者が同じ二八八位なのは、何か意味があるのか偶然なのか……。
    「リア充爆発しろ! と掲げるクリスマス爆破男には非常に共感できたのだが」
     灼滅を惜しむように彼について語り続ける和弥の言葉に、ごく一部の面々が激しく賛同を示す。が、それは置いておいて。
    「あの質問なの、ですけど。六六六人衆って、666人しかいないってことなの、ですか?」
    「序列といえば、誰がそれを管理しているのかも気になるな」
     おずおずと紅咲・灯火(恋血鬼・d25092)が手を挙げながら質問すれば、神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)も疑問を口にする。
    「いや、序列六六六位の下にも多くの六六六人衆がいる」
    「己の序列を高めて666人の頂点を目指す。それが六六六人衆じゃからな。しかし序列の決め方はわしらにも謎じゃ」
     逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)や八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)が彼らの疑問に答えていく。
     闇堕ちしたばかりの六六六人衆、あるいは灼滅者には序列が無い事も多いし、序列があっても油断すれば即、そうした序列外の面々に序列を奪われる。それが暗闘や殺し合いが日常の六六六人衆なのだ。
    「皆さんの知っている一番上位は、最高何位なのでしょうか?」
    「ええっと……」
    「一応、ラグナロクの鋭利ちゃんの十九位?」
     朝霧・瑠理香(黄昏の殲滅鍛冶師・d24668)の質問に先輩達は顔を突き合わせて相談し、特殊な事例だがラグナロク「鋼乃・鋭利」の十九位だと応じる。
     それを除けば、鋭利を狙っていた蟲姫・絲蠱(むしひめ・いとこ)の二六四位か。
    「よーし! オレが相関図書いてやんぜ!」
     その間にサティエナ・バーンシュタイン(凍てついた紅蓮の炎に裁きを・d21809)が、ここまでの内容をまとめた相関図を書き始める。分かりやすいように似顔絵つきだが、その絵がとっても下手なのは、ご愛嬌だろう。
     文字は読めるので、メモを取っている新入生達の参考になりそうだ。

    ●淫魔(いんま)
    「では、次は少し話が出た『淫魔』について話しましょうか」
    「ちょうどソレが聞きたかったんですヨ。淫魔って結局何をしてるのデショウカ?」
     狐雅原・あきら(アポリア・d00502)のように、淫魔について知りたいと思っていた生徒達が今まで以上に注目する。
    「淫魔はなんていうか、淫魔よね。エロい。一説によると闇堕ちすると巨乳になれるとか……コホン」
     そんな彼らに襟裳・岬(にゃるらとほてぷ・d00930)はネタを口走った後、ひとつ咳払いをして、ちゃんと真面目な説明も続ける。
    「とりあえず大きな勢力は、学園と協力体制というか、不可侵というか……まぁ、そんな感じの関係にある『ラブリンスター』一派ね」
    「最初は他の淫魔同様、人間を闇堕ちさせて配下を増やそうとしていました。めぐみ達は普通にラブリンスター勢力と戦っていたんですよ」
     若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)が補足するように以前のことを告げていく。
    「ただ、こちらの存在を認めてからは、ラブリンスター達は学園と友好的な関係を作ろうとしてきました。自分のライブにめぐみ達を招待したり、逆にめぐみ達の学園祭を見に来たり……」
     ラブリンスターとその配下達はアイドルとして活動をしており、そうした交流が何度かあるのだ。ダークネス組織としては珍しいくらいの友好的な関係だろう。実際、山羽・明野(高校生人狼・d28366)などが、そんな事があるのかとビックリしている。
     武蔵坂学園でもラブリンスターに友好的な人は少なくない。しかし相手がダークネスであることは変わりない以上、警戒心を持ち続けることも同時に必要であるかもしれない。
    「心を許しすぎるのは危険とわかってはおりますが、彼女達のひたむきな歌声を聴くと、少しは信じてみても良いのでは? と思ってしまいますね」
     姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)なども、そうした複雑な気持ちを口にする。
     ちなみに、
    「アイドル活動している淫魔にはランキングとかあるんですか?」
     という疑問が神門・雨蘭(乙女のうらん缶・d20792)から出たが、淫魔たちの間でランキング付などはしていないようだ。少なくとも灼滅者達は聞いたことが無かった。アイドルによくある人気投票イベントなども、淫魔の場合、バベルの鎖の影響で難しいだろう。
    「淫魔といえば、最近、灼滅者の素養を持った者を狙って闇堕ちさせようとする事件があるね」
     ふと口にしたのは蓮華・優希(かなでるもの・d01003)だ。その淫魔たちは創作した特殊なシチュエーションを相手に信じ込ませ、時間をかけてじっくりと相手を籠絡し、そして闇堕ちさせようとしている。
     別々の淫魔によって、いくつか同じような事件が起こっているが、彼女たちの言動からラブリンスターの配下とは少し違うような気がするし、そもそも組織的な行動なのかすら、まったく分からない。
    「でも、そんな事をするなんて、寂しがり屋の淫魔なのかもしれないね」
     優希は、ちょっとそんな風に思う。
    「あと淫魔の勢力といえば、スキュラかな」
    「ラグナロクの海空・夏美さんを狙っていた事から、大きな戦いになった大淫魔スキュラですね」
     白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)の言葉に、籠野・美鳥(高校生サウンドソルジャー・d15053)が頷く。
    「スキュラは強敵でした。大規模な戦いを何度も繰り返し、灼滅はできたけれど……」
     天渡・凜(天を渡る歌声・d05491)は、少し難しい顔だ。
     八犬士と呼ばれる彼女の部下には、まだ生き残っているものが多いし、スキュラが生前に仕込んでいた『犬士の霊玉』が今になって発動し、全国各地で事件を引き起こしているなど、スキュラは死んだ今でも影響を及ぼしている。
    「色々と置き土産していきやがったモンだから、ある意味まだ縁は切れて無いワケだ」
     平穏は遠いなぁオイ、と入間・眞一(平凡たる逸般人・d07772)も複雑そうな顔だった。
    「生き残っている配下は5人。
     『義』の犬士が、羅刹のラゴウ。
     『智』の犬士が、ノーライフキングのカンナビス。
     『信』の犬士が、シャドウのグレイズモンキー。
     『悌』の犬士が、ご当地怪人の安土城怪人。
     あと最後に『仁』の犬士がいるはずですが、詳しいことは分かってませんの」
     そう語るシルキー・ゲーンズボロ(白銀のエトワール・d09804)だが、かつて謎めいた予兆で仁の犬士だという『シン・ライリー』を見たことがあり、その動向が気になっているという。

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    【マスターからの解説】
     予兆とは、前回の講座でも説明した、メインページで時に見かけることがある謎めいた出来事のことです。シン・ライリーの様子は、2013年12月31日の 『【予兆】秘密訓練場「ケツァールの翼」 22:30』で見ることができます。
     http://tw4.jp/html/world/4-4ayumi.html#03
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    「スキュラが遺した『犬士の霊玉』は、スキュラへの忠誠を誓うダークネスを産み出すものなの。ダークネスは本来『闇堕ち』でしか増えないはずなのに、とんでもないよね!」
     先日その産まれたばかりの犬士と戦ったという巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)の言葉に、恐るべき事態だと何人もの先輩達が頷く。これまでに無かった方法で、ダークネスが増えていく……放っておくわけにはいかないし、愛華自身も油断せず警戒し続けていくつもりだという。
     そんな淫魔たちの動きについて、ずっと聞いていた石英・水銀灯(鉱石電燈・d26285)は、ふと怪訝そうな顔をした。
    「そういえば、男の淫魔さんもいるのかな?」
     ここまでの話題は女淫魔の事ばかりだった気がするが、男の淫魔も普通に存在していると先輩達が応じる。なお、演歌の若様については、いろいろ危険なので後輩には伝えないべきだという提案があり、名前や存在の解説は避けられた。

    ●羅刹(らせつ)
     次に先輩達が取り上げたのは『羅刹』だ。
    「外見は人のようですが、『鬼』のごとく、頭に必ず黒曜石の角を備えているのが特徴です」
    「『百聞は一見にしかず』。これが羅刹ですね」
     鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864)の説明に続けて、暁文・橙迦(小丸好日・d24339)がパーカーのフードを外した。人造灼滅者である橙迦の頭には、普段こうして隠している羅刹としての角がある。更に鬼神変を使えば、みるみる右腕が鬼のように異形化していく。
    「わ、私も闇落ちしたら、あんな感じになるのかな……」
     それを見た鹿島・紗瑠呂亭(金髪レトロゲーマー娘・d26335)は、いつか来るかもしれないその日への不安と恐れに体を震わせた。
    「羅刹といえば、最近は『刺青の羅刹』が主な事件でしょうね」
     橙迦がフードをかぶり直すと、狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)が具体的な話に入っていく。刺青の羅刹とは、特殊な刺青を持つ羅刹の総称だ。
     『刺青の羅刹』は、他の『刺青の羅刹』が持つ刺青を奪うことで、その力を奪うことができる。
     また、一般人にこの特殊な刺青が生じ、羅刹に闇堕ちしてしまうケースも確認されていた。
    「彼らは互いの刺青を奪い合っていたのですが……」
    「その中の1体、『外道丸』という羅刹を武蔵坂学園が灼滅したことで、『全ての刺青を集める』という彼らの目的は、永遠に叶う事が無くなりました」
     翡翠の言葉に続けて、月見里・和(朧月・d09905)が彼らとの戦いの転換となった出来事について語る。新宿歌舞伎町を拠点にしていた外道丸は、他の勢力との戦いの最中、訪れた灼滅者達の手で灼滅されたのだと、かつて外道丸と直接遭遇した事のある森沢・心太(二代目天魁星・d10363)が付け足した。
     他にも神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)達が『箕輪御前』鈴山・虎子と接触するなど、刺青を持つ羅刹達とは何度かの接触がある。
    「わたしは伝説の彫師の噂を聞いて、拠点の調査に向かったんだよね」
     守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が口にしたのは、HKT六六六が連れ去った一般人に刺青を施し、強化一般人としていた彫師のいる屋敷のことだ。
    「そこにいたのが『うずめ様』と呼ばれていた刺青羅刹ですね」
    「そうそう! ウチと同じ名前でビックリしたんよぉ」
     詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)の発言に、宮比神・うずめ(舞うは鬼の娘・d04532)が当時を思い返す。あの時は色々な人がうずめ、うずめと口にしていて、実に心臓に悪かったらしい。
     彫師のいる屋敷を襲撃し、その彫師を灼滅する灼滅者達だったが、うずめ様はいずこかへと姿を消した。
    「その後、宮崎県の荒立神社で見つけた『うずめ様』は、『神降ろし』という儀式を行う事で新たな彫師を生み出していました」
     七塚・詞水(ななしのうた・d20864)は自分が向かった際に得た情報を皆に語る。
     以来、表立った活動はしていないようだが、統制のとれた強化一般人を作る彫師と、それを配下とするうずめ。
     先に述べた通り、HTK六六六と連携を取っていたこともあり、の存在は、長く放置するのは危険かもしれないと詞水は危惧する。
    「刺青羅刹といえば、かの明智光秀公も、そうした刺青羅刹だったとは驚きだったな」
     葛葉・詠(大学生神薙使い・d13780)が言及したのは、刺青羅刹である『天海大僧正』の元へ向かった一件についてだ。「慈眼衆を束ねてるのが天海大僧正であの明智光秀だったなんて!」と姫乃井・茶子(歴女de茶ガール・d02673)も繰り返し頷いている。
    「天海大僧正……明智光秀は、ご当地怪人の『安土城怪人』と琵琶湖で開戦しようとしているため、学園との敵対の意思は薄い様子なれど……」
     今後も要注意であろうと、ヴィント・ヴィルヴェル(旋風の申し子・d02252)は気に掛けていた。
    「ところで天海大僧正が明智光秀だとすると、そうなるとつまり安土城怪人は、あの第六天魔王なのだろうか……」
    「織田信長のお城って事ですよね」
     月屋・優京(戯僻事・d15388)や百目鬼・愛(はシロベーちゃんと一緒・d18064)の発言は推測の域を出る物では無い。が、天海大僧正と安土城怪人に関わり続けていくのであれば、いつか真相がハッキリとするのかも知れない。
    「ところで、全部でいくつの刺青があるのでしょーか」
    「それははっきりしないが、有力な刺青羅刹には『鞍馬天狗』と呼ばれる者が確認されている」
     これで全部ですか? と首をかしげている小豆里・霧湖(未だ星は見えず・d20756)に、御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)が口にする。武蔵坂学園が遭遇した有力な刺青羅刹は、今のところこれで全部だが、他にもいる可能性は否定できない。
    「外道丸がいなくなって、刺青羅刹同士が争わなくなったということは、刺青は全部揃わなければ意味が無いということなのでしょうか? 実際全部集まったらどうなっていたのでしょう。羅刹の王になれたということでしょうか?」
     靱は自身が感じていた疑問を口にする。刺青を集めることで本人の力が増すことは、実際に刺青を集めてパワーアップした鈴山・虎子の一件で判明しているが、それ以上の事まではわかっていないのが現状だ。
    「刺青羅刹達はそれぞれ活動を続けてる。尻尾を出したら、すぐに捕まえないとな」
     眼光鋭く拳を握った成瀬・圭(影空ハウリング・d04536)の言葉は、刺青羅刹を追う灼滅者達に共通する思いだった。

    ●ご当地怪人
    「安土城怪人の話も出たし、次は『ご当地怪人』について説明しましょう」
    「テレビの特撮番組に出てくる悪の組織そのまんまなのが、ご当地怪人だな。怪人と呼ばれるダークネスの上に、ご当地幹部って呼ばれる上位のダークネスがいて、その上には更に大首領グローバルジャスティスってのがいるらしい」
     神田・熱志(ガッテンレッド・d01376)が、まずはご当地怪人の基本を説明していく。隣にはピラミッド型の図が掲げられた。
     ご当地怪人の多くは、なんやかんやで世界征服するための計画にその身を捧げる。
     ちょっと聞いただけでは呆れてしまうような事件でも、座視しておけば世界の脅威に繋がりかねないのだ!
    「ご当地怪人は恐ろしい敵です! 必死に食欲に訴えかけてきます!」
     途端に力説するのは天瀬・ひらり(第一級戦飯・d05851)。クッキーを持った手がプルプル震えているが、それはどうやら「少し我慢した方がより美味しく食べられますっ!」と目の前の誘惑に耐えているかららしく、口の端からよだれが今にも垂れそうな勢いだ。
     ご当地怪人は、ご当地パワーを操るダークネスの為、ご当地にちなんだ姿や特徴を持っているのが一般的だ。そのため、ご当地名物やご当地料理っぽい怪人も多い。
    「依頼で持って帰って来たソーセージマンの手作りソーセージはなかなか美味しかったよ」
     と、瀬河・辰巳(宵闇の幻想・d17801)ものんびり語っている
    「ご当地怪人で思い出深いというか衝撃的だったのは『第2回ご当地怪人選手権』ですね」
     小柏・奈々(ミスティックシューター・d14100)が口にしたのは、かつて『ご当地大幹部ゲルマンシャーク』の呼びかけによって、富士急ハイランドでご当地怪人達が開催したイベントである。
     その際、灼滅者によってゲルマンシャークのいる飛行船は爆発し、サイキックエナジー不足で石像と化していたゲルマンシャークも姿を消したが……。
    「北海道のゲルマン怪人に救助されたゲルマンシャークは、現地で『グリュック王国』を支配下に置き、敷地内に入った灼滅者や一般人を強制的に闇堕ちさせて配下にしたんだよな」
     武蔵坂学園の生徒も、何人か闇堕ちさせられたのだと葛木・一(適応概念・d01791)は語る。
    「同じように支配下に置かれたのが『新潟ロシア村』だな。こっちは、流氷に乗って日本へやってきた『ご当地幹部ロシアンタイガー』によるものだ」
     淳・周(赤き暴風・d05550)が、そうしてロシアンタイガーはロシアンパワーを溜め込んでいたらしいと話せば、
    「ご当地幹部といえば、アフリカンパンサーも外せないな」
     と、三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)も別のご当地幹部の名を挙げる。
     アフリカからやって来たアフリカン怪人は、訪れたご当地の力を勝手に奪って自分の物にしてしまうという特徴を持つ。健もタオルマフラーキリン怪人と戦った事があるのだが、ご当地愛を使い捨てにするような言動は許し難いと憤慨する。
     また、アフリカンパンサーは『緑の王』を名乗っていた。それにどのような意味があるのかも、気懸かりな点だろう。
     さらにアフリカンパンサーと同時期には、アメリカンコンドルというご当地怪人も現れている。
     第二次大戦後にアメリカナイズされた日本では、アメリカンご当地パワーを蓄積しやすいらしく、配下の活動や、一般人が戦闘員化する事件なども確認されており、灼滅者達は対処に当たっていた。
    「そんなご当地幹部達よりも更に上にいるのが、悪の大首領、グローバルジャスティス。何者なのかは不明ですが、『ご当地』でおのおの動いているご当地怪人たちを束ねるその統率力……恐ろしい相手に違いありませんっ!」
     日本各地どころか、世界各地からご当地怪人やご当地幹部が集結し、大きな事件を起こそうとするような出来事もあったのだ。北大路・あすか(探偵櫻姫マジカルあすか・d20881)が謎多きグローバルジャスティスを、そう評価するのは、ある意味自然であっただろう。
    「その大きな事件……戦争、が、新潟ロシア村でのゴッドモンスター戦です」
     武蔵坂学園側も、集結して戦いに挑んだのだと古海・真琴(占術魔少女・d00740)が語る。
     ゴッドモンスター。その発端は2月、バレンタイン時期のことだった。
    「いろんなご当地怪人が、恋する乙女の大事なチョコレートを奪ったり、巨大化したりしたんだよ」
     人の恋路を邪魔するやつにはお仕置きあるのみだよねっ! と言い切った久志木・夏穂(純情メランコリー・d06715)もまた、そんなご当地怪人を阻止に向かった一人だ。
    「なんとか怪人を灼滅して、巨大化チョコを追って行った先にあったのは……『ゴッドモンスター』だったにぃ!」
    「いまこの学園でエクスブレインをしてくれてる、ラグナロクの西園寺・アベルくんが、ご当地怪人に利用されそうになっちゃった事件だねっ!」
     綺羅星・ひかり(はぴはぴひかりん・d17930)とアイリス・テナティエル(鳳凰天使・d23336)が、立て続けに説明を加える。
     命と引き換えにご当地怪人を巨大化させる、巨大化チョコレート。ご当地幹部たちは、それをを出現させていた『ゴッドモンスター』を確保し、世界中の『雨』を『巨大化キャンディ』に変えるという作戦を発動させようとしていた。
    「僕たちは新潟ロシア村に集結して戦い、ご当地大幹部であるゲルマンシャークを灼滅しました! 先程話題になった六六六人衆のカットスローターと縫村・針子を灼滅し、ブレイズゲートの虜囚に叩き戻したのも、この戦いの時です」
    「そして、ラグナロクだった西園寺先輩を助け出せたんだよね。やっぱり、助けられて仲間になってもらえるのは嬉しいよね!」
     常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)と神谷・蒼空(揺り籠から墓場まで・d14588)をはじめ、当時この戦いを経験した大勢の先輩達がうんうんと頷き合う。ちなみに救出されたアベルは武蔵坂学園に通っており、大体の時間は学食にいると、貴船・紅葉(オカルトヒーロー・d22052)が紹介する。
    「ゲルマンシャークを灼滅して……」
     風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)がピラミッド図に書き込まれたゲルマンシャークの名前に、×印をつける。
    「現在判明している残りのご当地幹部は、これであと3体。
     アフリカンパンサーはイフリートが追っている!
     ロシアンタイガーはヴァンパイアが探している!
     アメリカンコンドルは配下は見つかるけど手がかりなし!」
     更にクラレットは、順にご当地幹部を指しながらビシバシと現在の状況をまとめる。アメリカンコンドルといえば『日光慈眼城』だと話すのは、まさにご当地幹部を追跡するうち、そこでアメリカンコンドルの配下を目撃した黒岩・りんご(凛と咲き誇る姫神・d13538)だ。
    「そういえば、日本のご当地幹部さんは居ないんですか?」
     ふと干潟・明海(有明エイリアン・d23846)が質問するが、今の所ハッキリとしたご当地幹部の情報は無い。今後そうした怪人と遭遇する日は来るのだろうか?
     クレイ・モア(ドリーミングドリーマー・d17759)は反対に、ご当地幹部が海外から来た事を取りあげて、海外にどのくらいダークネスがいるのだろうかと気にしているようだ。
     もっともサイキックアブソーバーの影響で、今やサイキックエナジーが残っているのは日本だけ。海外にいるダークネスは活動不能になっているだろう。

    ●『ラグナロク』
    「アベルさんの話題になりましたし、関連して『ラグナロク』についても話しましょう」
     望月・小鳥(せんこうはなび・d06205)が改めて説明の時間を取ったのは、膨大なサイキックエナジーを体内に持つ、ラグナロクについてだった。
     ラグナロクは灼滅者では無い。一般人の中にごくごく稀に存在する『特殊肉体者』と呼ばれる存在の一種だ。
    「今日までに、武蔵坂学園は7人のラグナロクを救出しています」
     『可能性世界』神津・零梨(高校生ラグナロク・dn0139)。
     『新宿迷宮の巫女』納薙・真珠(高校生ラグナロク・dn0140)。
     『梅田迷宮の巫女』雨宮・夢希(高校生ラグナロク・dn0141)。
     『絶対切断糸』鋼乃・鋭利(高校生ラグナロク・dn0151)。
     『第九の犬士』海空・夏美(中学生ラグナロク・dn0170)。
     『地獄絵図』椿・鞠花(小学生神薙使い・dn0154)。
     『ゴッドモンスター』西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)。
     以上の7人が、武蔵坂学園が現在までに保護したラグナロクだ。
     どのラグナロクについても、学園に保護するまでには灼滅者達はダークネスとの激しい争いを経験している。

    「妾たちが初めて出会ったラグナロクは神津・零梨。その身に強大なサイキックエナジーを宿し、もし闇堕ちしてしまった場合は規模な破滅をもたらすと、サイキックアブソーバーが表しておった」
     彼女を救う為、暗躍する吸血鬼を妨害し、絶望に心を閉ざそうとしていた零梨を叩き起こしたりもしたのだと、館・美咲(四神纏身・d01118)が当時の様子を語る。
    「ラグナロクは大量のサイキックエナジーを保有しているため、闇堕ちすると強大な『ラグナロクダークネス』に覚醒してしまう。だからダークネスから狙われやすいんだ」
     そんなラグナロク達を救出してきたのだと、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)も話す。
     先に名前が挙がったご当地幹部ゲルマンシャークは、その『ラグナロクダークネス』の一典型だ。
     ご当地ヒーローを大量に闇堕ちさせた『ご当地怪人選手権』、グリュック王国でも近付いた灼滅者をまとめて闇堕ちさせた『闇堕ちビーム』は、脅威の一語に尽きた。殲術再生弾が闇堕ちビームを防げなければ、灼滅者達は撃破することはおろか、まともに戦うことすらできなかっただろう。
    「ラグナロクは信頼する相手と『契約』する事で体内のサイキックエナジーを放出し、サイキックアブソーバーに吸収させる事ができるようになる。膨大なサイキックエナジーが無ければ普通の人間と同じではあるのだが……」
     それでもラグナロクである以上、いつまた悪意あるダークネスに狙われるか分からない。だから救出されたラグナロク達は、灼滅者達に守られ、安全な武蔵坂学園の中で生活している。
    「よく学内で姿を見かけるのは、そういう理由だったのか」
     なるほど、と狭間・刑徒(高校生殺人鬼・d26000)や天前・仁王(銀色不定系そしてショゴス・d25660)達が頷く。

    「ラグナロク関係で印象に残る出来事というと、『羅刹佰鬼陣』だな」
     江田島・龍一郎(修羅を目指し者・d02437)の発言に、当時を知る先輩灼滅者が次々と頷いた。そのくらい、大勢の先輩にとって印象的な出来事だったのだ。
    「当時、群馬県の赤城山にある羅刹の村では、『御子』と呼ばれていたラグナロクの少女を村に閉じ込めていたの」
     その少女が闇堕ちし、ラグナロクダークネスになってしまったのだと、帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)は話す。
     『契約』の相手が死に瀕した姿を見て闇堕ちし、ラグナロクダークネスとなった彼女は、無数の羅刹を出現させる『羅刹佰鬼陣』を展開していった。
    「凄まじい力だ。それを食い止める為、多くの灼滅者が赤城山へ向かい、戦いを繰り広げた」
     大規模な戦争になったのだと識守・いりす(パラドクスの暴君・d21162)は告げる。
     そして戦いの末、ラグナロクダークネスの元まで辿り着いた灼滅者達は、彼女を救出することに成功したのだが、
    「ラグナロクダークネスであっても『灼滅者としての素質』があれば、闇堕ちから救出できる可能性があると、そこで判明したのだ」
     鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)が言うように、彼女は闇堕ちから救出されて灼滅者になったのだ。
     それまで学園が救出したラグナロク達は、全員『このままでは闇堕ちしてしまう』という状態ではあったものの、まだ本当に闇堕ちしてしまった訳では無かった。ラグナロクダークネスになってしまった後で救出を試みたのは初めての事であったが、それは無事に成功したのである。
    「私、そのとき、そんな事、思いつか、なくて、すごいびっくり、した……」
     心の底からの気持ちを口にした井乃中・葵(魔本の射手・d01354)のように、あの戦いの結果に驚いた者は多い。だが、とても嬉しい出来事でしたと千凪・智香(名もない祈り・d22159)は笑う。名前の無かったラグナロクダークネスは、灼滅者達から『椿・鞠花』という名前を貰い、当時の契約相手であり、共に灼滅者となった上泉・摩利矢と一緒に、今は武蔵坂学園へ通っている。
    「あのときは、ラグナロクってのはタダ者じゃねーとつくづく実感したぜ」
     凄まじかった能力、その顛末まで含めて、とんでもない相手だと月・糸瀬(神話崩落・d03500)は痛感していた。

    「『羅刹佰鬼陣』と『ゴッドモンスター』、どちらも大規模な戦い……戦争だったの」
     羽柴・陽桜(ひだまりのうた・d01490)は更に、学園が経験してきた戦争について語る。この他に、武蔵坂学園は『不死王戦争』と『新宿防衛戦』という、大きな戦争を2つ経験している。

    ====================
    【マスターからの解説】
    『羅刹佰鬼陣』や『ゴッドモンスター』をはじめ、大規模な戦争は、『リアルタイムイベント』として実施されます。
     リアルタイムイベントは、その名前の通り、リアルタイムで状況が変化していきます。つまり、現実の時間とシンクロして決戦が進んでいくのです!
     決戦開始は朝9時から! となっていたら、本当に現実の朝9時から決戦が始まります。
     また、戦争のほかに、学園行事の一部なども、このリアルタイムイベントで行われます。
     たとえば来月の『学園祭』はリアルタイムイベントです。まるで現実の学園祭に参加しているような楽しさがありますよ!

     これまでのリアルタイムイベントの詳しい様子は、次のページから見れます。
     http://tw4.jp/html/world/4-4ayumi.html#02
    ====================

    「新宿防衛戦の時のことは、この冊子にまとめてみたの!」
     幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)達はクラブのみんなで作った冊子を配っていく。小さな子でも分かりやすいよう、文字や図解などを工夫した力作だ。
    「この戦いで初めて遭遇したのが『スサノオ』でしたね」

    ●スサノオ
     その言葉に、いち早く反応したのは日輪・白銀(汝は人狼なりや・d27689)だった。
     スサノオ。それは彼女たち『人狼』にとって、切っても切り離せない相手だからである。
    「私達人狼は、生まれつきその身に『スサノオ』というダークネスを宿しています」
    「元々は『スサノオ大神』っていうどデカいダークネスだったらしいッスけど、俺たちのご先祖様がやっつけて、この魂に封印したって話らしいッス」
     丙・嵐(カミカゼ・d27452)も、それに頷く。
     彼らの先祖であるニホンオオカミは、スサノオ大神をバラバラにして喰らうことで、スサノオを自分たちの魂に封印したのだ。その封印を受け継いでいるのが、ここにいる人狼達である。
    「そういえば、去年の冬に強いスサノオの気配を感じたッスけど、ムサシザカが倒してくれたんスよね?」
    「そうっす。それが『新宿防衛戦』の時っす」
     首をかしげる嵐に、華渓院・実誉(赤城の元気巫女・d04876)が頷き返す。スサノオが新宿の人々を虐殺するのを阻止すべく、多くの灼滅者が新宿へ向かったのだと、九凰院・紅(堕月流丙三種第一級戦鬼・d02718)もそれに付け加える。
     その言葉に、「武蔵坂学園の人達がスサノオに初めて遭遇したのは最近なんだね」と日輪・ユァトム(汝は人狼なりや・d27498)は疑問のひとつが解けたようだ。
    「あんたらは俺らと違って、血の定めとかそういうわけじゃねぇからな。いつどうやってスサノオの事を知ったのか、俺も気になってたんだ」
     神山・大地(二色の炎纏う黒狼・d27622)も感心したように頷き、新宿防衛戦の冊子を眺めている。
    「スサノオは、その強さが姿の大きさに比例しているのが特徴だな。新宿防衛戦の後には、スサノオが各地で『古の畏れ』を呼び覚ましている事も確認されている」
     新入生達に向けて、ルーク・アルカード(白麗・d22493)がスサノオについて更に説明を加えていく。古の畏れは、古い伝承や逸話、地域の言い伝えなどから現れた都市伝説のような存在だ。ライオ・ルーネス(勇敢なる者・d16633)など、何人もの灼滅者がそうした古の畏れと戦った経験がある。伊勢・雪緒(待雪想・d06823)は、自分の身に置き換えると、少しやりきれないですね、と呟いた。
    「そしてスサノオは呼び出した古の畏れの力を使えるようになるんです。だから、たくさん古の畏れを呼び出したスサノオは、それだけ強くなるんですよ」
     佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)が以前戦ったスサノオは、8体分の古の畏れの力を持っており強力だったし、人の言葉が話せるくらい知能も高かったという。
    「そんなスサノオと戦っていた人狼達と接触を持ち、こうして人狼達が武蔵坂学園へ来る形で、俺らは仲間になったわけだ」
     闇堕ちしかけていた人狼の救出に武蔵坂学園が動いたことがきっかけになったのだと、布都・迦月(幽界の深緋・d07478)は少し前の出来事についても触れた。ひとつひとつの話を聞いていた双見・リカ(高校生人狼・d21949)は、「なるほど、そういう事だったんだ」とスサノオの事などについて、改めて理解するきっかけになったようだ。
    「ちなみに俺達は、大人になるに連れて体内のスサノオを抑えておけなくなるから、つがいを探して子供を残し、そしてスサノオを受け継がせないといけない。だから、彼女募集中」
     誰か一緒に生きていかない? と日輪・日暈(汝は人狼なりや・d27431)が灼滅者講座の出席者たちを見回し、真神・クロ(中学生人狼・d28259)も真面目な顔で、つがい探しに勤しもうとする。これは決してナンパではない。人狼としては非常に大切な事なのだ。
    「八たちたちが死んでも、八たちの中にいるスサノオは死なないんだよね……」
     スサノオは代々継承されるもの。もしその前に死ねば、封印は解けてしまう。日輪・八(汝は人狼なりや・d27509)は少し怯えたような顔をするが、すぐに「だからこそ、頑張って戦わなくちゃ」ときりっとした表情に変わった。
     その為にも、もっと他の出来事やダークネスについて、詳しくならなければと意気込む。
    「スサノオ関連ならば、これを忘れてはいけない!」
     清水・式(猫娘の夫・d13169)は机をバーンと叩いた。
    「そう、『病院』が襲われた時の事を、忘れてはならないっ!」
     机をバンバンと叩きながら力説する式。
    「うちらは病院……『人間改造病院』の出身や。病院ちゅうんはうちらが所属していた、武蔵坂学園とは違う、また別の灼滅者の組織のことやね」
    「病院にいた人造灼滅者のみんなは、俺達天然の灼滅者とはちょっと違うんだ。人造灼滅者のみんなは、人間としての自我と意志を保ちつつ、肉体だけを灼滅者相当に改造した強化一般人なんだよな」
     花衆・七音(デモンズソード・d23621)が自分たちの出身について説明すると、笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)が、彼女ら人造灼滅者から教わった特徴を、まだそれを知らない皆へ教えていく。
    「我々は灼滅者では無い。しかしダークネスに対抗するため、灼滅者同様の戦闘能力を得る為に、己の肉体を極限までダークネスに明け渡した。我々は魂だけを霊子強化ガラスで守り、闇堕ち寸前ギリギリの状態でダークネスと戦っている、人工的な灼滅者なのだ」
     と説明する小林・風太(腹黒ダンディー・d23646)は、赤いマフラーが良く似合うレッサーパンダのような風貌をしている、これも、人造灼滅者だからこそだ。
    「初めて佐藤君を見た時もびっくりしたっけ」
     今でこそこうした姿を見かけても動じないが、村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)も最初は目を丸くしたものだ。ちなみに佐藤君とは、最初イフリートの姿で武蔵坂学園を訪れた、佐藤・誠十郎(高校生ファイアブラッド・dn0182)のことである。
    「我々は、かつてシャドウの『贖罪のオルフェウス軍』と戦っていましたが、そこをソロモンの悪魔の『ハルファス軍』に襲撃され、大敗北したのです」
     ブレイズゲート『那須殲術病院』は、『病院』の苦い敗戦を物語る場所だ。
     廃病院の中を徘徊するダークネスの中には、闇堕ちした人造灼滅者も多い。
     ハルファス軍の襲撃はタイミングが出来過ぎていた。この2つの陣営は手を組んでいたのかもしれないと、そう考える者はセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)など一定数いた。

     そうして戦力を減退させていた『病院』は、2013年の12月頃、さらに白の王セイメイ、ハルファス軍、大淫魔スキュラの三勢力による一斉攻撃を受けた。
    「そこを助けにきてくれたのが学園の灼滅者だったんだ」
     レクシィ・ノーザンブルグ(自称病院一のモフリスト・d23632)の言葉に、新路・桃子(ティラミス・d24483)は「あたしも、むりくり脱出させられなかったら危なかったよ」と当時を思い返す。桃子は無事こうして生きているが、他の皆は、いなくなってしまった。
     そうして生き残った人造灼滅者達は、この武蔵坂学園に来たのだ。
    「私の宿敵は淫魔だけれど、ソロモンの悪魔とシャドウも、今となっては宿敵のようなものだわ」
     同じような経験をしたマリー・オリオール(名も無き歌姫・d24705)も、いつか仲間の仇を討てると信じて、今はこの武蔵坂学園で戦い続けている。

    「ちなみに私達の魂を守っている『霊子強化ガラス』や『生命維持用の薬物』は、『主任さん』の血液から作られるわ。現在、唯一の主任であるカノンは、私達にとっても重要な人物ね」
     天城・呉羽(高校生エクソシスト・d26855)が説明したカノンとは、天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)の事である。本人もノーライフキングの人造灼滅者であるカノンは、エクスブレインとしての才能も有している。
     もしカノンに何かあれば、人造灼滅者全員の危機になる。だからこそカノンは絶対に守らなければと、呉羽は固く誓う。
    「人造灼滅者はかなりの人数がいるように思うのじゃが、かのんだけで賄えているのかぇ?」
     水門・いなこ(影守宮・d05294)は逆にそれが気になってしまう位だったが、カノンは移動型血液採取寝台を愛用しており、常に効率的な血液採取を進めつつ、学園のあっちこっちを移動して授業や学園生活を楽しめる余裕があるくらいには、全くもって平気らしい。
    「『バベルの鎖』を持つ者が、サイキックが関わる攻撃以外で深刻なダメージを負うようなことはよほどの例外以外は無いに決まっている」
    「人造灼滅者といえば、『バベルブレイカー』や『殺人注射器』は、自分達にとって興味深い物だった」
     颯・十牙(五牙の殲術道具収集家・d06240)が挙げた殲術道具は、かつて病院が合流した際に武蔵坂学園に持ち込まれたものだ。人狼達が愛用していた『エアシューズ』も、今ではよく活用されるようになっている。
    「日光慈眼城では『断罪輪』がありましたね」
    「この断罪輪も、つい先月『日光慈眼城』で発見されたんだ」
     黒瀬・夏樹(鈍色逃避の影紡ぎ・d00334)の言葉に、シュガーベル・メイメルシア(霧雨オルテンシア・d22346)が紫陽花の花で飾った断罪輪を掲げて見せると、丸目・蔵人(兵法天下一・d19625)はなるほどと感心の眼差しを向けた。
     新たな仲間が大勢増え、こうした新しい力を活用しながら力を合わせて戦う……それこそ武蔵坂学園の強み、なのかもしれない。

    ●デモノイド
    「結構話したっすね……ちょと一息、入れるすか?」
     一区切りついたところで、月原・煌介(月梟の夜・d07908)が冷えた麦茶を配って回る。途中、ちょっと眠くなってしまっていた柏木・たまき(キャラメルタイム・d19474)も、これには助かったようだ。七海・心(純白のカノン・d20208)もクッキーを傍らに、のんびりしている。
     お菓子やお茶のおかわりが行き渡ったところで、灼滅者講座の再開だ。
    「次は、『デモノイド』について話しましょう。デモノイドはもともと、ソロモンの悪魔『アモン』によって作られた種族です」
    「あの時は、ソロモンの悪魔が一般人を無理矢理ダークネス化して……」
     アデーレ・クライバー(地下の住人・d16871)の言葉に、煌介はうなだれる。強制的にデモノイドにされてしまった人々の悲劇は今も、脳裏に焼き付いている。
    「阿佐ヶ谷での一件ですね。無辜の人々が大勢襲われました……」
     病葉・眠兎(年中夢休・d03104)にも、思う所が多々あるらしい。
     武蔵坂学園がある武蔵野市から程近い阿佐ヶ谷に、ある日突如大量のアンデッドが出現し、人々を襲撃したのだ。多数の犠牲者が出る中、更に人々の中から『デモノイド』が現れたのである。
     『阿佐ヶ谷地獄』と称されるこの事件は、アモンからデモノイド化短剣の技術を譲られた『蒼の王コルベイン』の勢力が引き起こしたものだったと目されている。
    「人間は闇堕ちすると、その魂に眠っているダークネスの姿になる。しかし、デモノイドは違う。デモノイド寄生体に乗っ取られた人間は、魂と肉体を蝕まれ、デモノイドという怪物に変異してしまうのだ」
     本来どのようなダークネスになるはずだったのかすら、もう関係ない。そんな片倉・純也(ソウク・d16862)の説明に、前田・和真(どうも萌田です・d25629)は憐れみを感じる。
    「阿佐ヶ谷に現れたアンデッド達は、魔術儀式の力を秘めたナイフを人々に刺して、次々とデモノイドに変化させていったんだ」
     と語る四谷・シロ(デモ子・d17675)は、そんなデモノイドを宿敵とする『デモノイドヒューマン』だ。デモノイド寄生体に意識を乗っ取られたのがダークネスであるデモノイドなら、その制御に成功した灼滅者が、デモノイドヒューマンである。
    「普通のデモノイドは理性を失うけど、人間形態と理性を維持できるデモノイドロード、その中でも強力なレアメタルナンバーなんてのもいるんだよな」
     やがてデモノイドの中にも、悪の心によってデモノイド寄生体を抑え込んだ『知性あるデモノイド』が現れる。それがデモノイドロードだ。サイラス・バートレット(ブルータル・d22214)は更に、ロード・ジルコニアやロード・パラジウムといったレアメタルナンバーの存在にも触れた。
     レアメタルナンバーにはロード・ビスマスというデモノイドロードもいるが、パラジウムとビスマスは全く別の陣営で別々に活動しているなど、同じレアメタルナンバーだからといっても必ずしも連携している訳ではないようだ。
     たとえばロード・パラジウム(と、ブレイズゲートの虜囚となっているロード・ジルコニア)は、ヴァンパイア勢力の一組織である『朱雀門高校』に所属しているが、ロード・ビスマスは独自行動を取っている。
     デモノイドを創造する技術は、ハルファス軍や朱雀門高校にも渡っている。
     新しいダークネス種族であるデモノイドにまつわる事件は、これらの勢力と関わって来る可能性が高いだろう。

    ●ソロモンの悪魔
    「現在、観測されている、最大勢力は……ハルファス軍」
    「病院と戦っていた彼らは、そのまま僕達とも敵対する関係にあります」
     引き続き、マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)やクゥ・シャミナード(命火招来・d02496)がソロモンの悪魔について話していく。
    「ソロモンの悪魔は他のダークネス種族と関わりあうことが多い印象を受けますね」
     とは、氷室・アスカ(藍色少女・d11177)の意見だ。
     ハルファス軍は、ノーライフキングの『白の王セイメイ』や『大淫魔スキュラ』と手を組んで各地の殲術病院を襲撃している。更にその前、病院壊滅のきっかけになった襲撃も、シャドウとの連携が疑われている。
     また、ハルファス軍の一員である『百識のウァプラ』は、大淫魔スキュラの結界に関するデータを収集後、それを活用し、人狼を闇堕ちさせるような行動にも出ている。小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)やノエル・エトワブラン(月を求める脆き太陽・d11228)など、多くの灼滅者が、その動きを危険視していた。
    「『教授』って呼ばれてるソロモンの悪魔も俺としては気になるな」
     佐見島・允(フライター・d22179)が注目しているソロモンの悪魔は、研究者や学生などを唆して実験を試みているという。狙いや目的には不明な点が多いが、そうした様々なソロモンの悪魔の動きには警戒が必要だろう。
    「なるほど……」
     宿敵について知りたいと思っていた和宮・遊灯(ひかりの指先・d23222)は、そうした一連に感心した様子で頷いた。
    「とっても頭がいいんだから、みんながたのしくなれるものを作ってくれたらいいのにね」
     と、残念そうなのは移月・幽輝(小学生魔法使い・d23941)。しかし、ソロモンの悪魔達にとっての愉しみは、幽輝たちが考えるそれとは異なるだろう。そうした差異こそが、ダークネスがダークネスたる理由なのかもしれない。
    「私は闇堕ちしてソロモンの悪魔になっちゃった筒井・柾賢くんと戦ったんだけど、やっぱり元々学園の仲間だったし相手をするのが辛かったな」
     そう顔を曇らせたのは山城・竹緒(デイドリームワンダー・d00763)。武蔵坂学園の灼滅者も闇堕ちする事がある以上、戦わなければいけない日が来る事もあるのだ。
    「個人的には、ダークネスの陰謀によって闇堕ちした生徒の方が相手として難しいと思う」
     斎賀・なを(オブセッション・d00890)も同じように頷く。
     灼滅者はいつだって、闇堕ちという危険と背中合わせ。それを忘れてはいけないだろうと、なをは思う。
    「闇に抗うのであれば『闇堕ち』についても詳しく触れておくべきだね」
     そう言って、月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)は新入生たちを見回した。
    「私達灼滅者は弱い。けれどダークネスになれば強い」
     その為の最後の手段が闇堕ちだと、架乃は語りかける。架乃自身にもその経験があるからこそ、「闇に抗うという事は、ある意味では自分自身とも戦ってるって事なんだって、覚えていて欲しいな」と伝えていく。
    「私たち灼滅者は闇堕ちしても、ダークネスに元人格までは乗っ取られない。みんながダークネスの部分だけを灼滅してくれるまで魂の状態で耐え続ければ、またこうして人間に戻れるんだ」
     桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)の話した内容は、ある意味、武蔵坂学園という場所を象徴するものだろう。
     闇堕ちしても、きっと誰かが自分を救ってくれるはず。
     そう武蔵坂のみんなを信じられるからこそ、闇堕ちという非常に危険な行動も選択肢に入れて、戦うことが出来るのだから。
    「君が自分を明け渡さない限り、オレらみたいのが助ける手伝いをするよ」
     実際に、城・漣香(焔心リプルス・d03598)などは、不安や怯えをあらわにしている後輩たちを安心させるかのように、そう伝えていく。
     この場には桐生・桜(薄紅の炎心・d06705)のように、かつて闇堕ちをした経験を持つ灼滅者は少なくない。ダークネスになっている間、誰かを傷つけてしまった事のある人だって、いるだろう。
    (「救ってくれた先輩たちに報いるためにも、二度と自分の心の弱さに負けたり、力に飲まれたりしたくない……」)
     しかし、だからこそ、桜はそう思う。
    「闇堕ちは決して、遠い世界の話ではないよ。だから、そういう人達の話を聞いたりしておくと、自分の『闇』との向き合い方、戦い方も見えてくるんじゃないかな」
     同じように闇堕ち経験のある彩瑠・さくらえ(暁闇桜・d02131)は、主に、闇堕ちを体験したことが無い新入生たちに向けて語りかけていった。

    ====================
    【マスターからの解説】
     教室の冒険などで危機に陥った時、あなたは闇堕ちしてダークネスになってしまう事があります。
     ダークネスになると、あなたはダークネスとしての人格に支配され、自分で自分を制御できなくなってしまいます(キャラクターとしての活動がほとんどできなくなってしまいます)が、闇堕ちしたあなたを救出するためのシナリオが運営されます。
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    ●アンブレイカブル
     レオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)は、そんな先輩たちの言葉に、ただただ静かに耳を傾ける。
     闇に身を委ねた彼らが何を選択し、何を思ったのか……真剣な顔で、語られる言葉を一言も漏らさぬように、レオンはしっかり聞いていった。
    「闇堕ちといえば、『アンブレイカブル』の情勢が外せないでしょうね」
    「アンブレイカブル。武を鍛え力を求めるダークネスだ。まぁ目的が一番分かりやすい気がするな」
     永舘・紅鳥(熱を帯びて闇を裂く・d14388)は簡単にアンブレイカブルの特徴を伝えると、彼らについて語る上で外せない『業大老』と、それに関係するアンブレイカブル達について話し始める。
    「『業大老一門』は強大なアンブレイカブル『業大老』を筆頭とした集まりだ」
    「俺は、その門下生である『葛折・つつじ』というアンブレイカブルと相対したことがある」
     つつじは軟弱なアンブレイカブルを、業大老の門下として鍛え直すべく動いていたのだと、戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)は当時の様子を回想しながら語る。
     アンブレイカブルだけでなく、アンブレイカブルに闇堕ちしかけている一般人まで配下にしようとする、つつじの言動は灼滅者達と相容れなかった。
    「業大老の高弟と呼ばれる『柴崎・明』というアンブレイカブルもいたね」
     久我・なゆた(紅の流星・d14249)が口にした柴崎は、当時30人がかりで戦っても倒せないほどに強力な存在だった。
     しかし、つつじも柴崎も灼滅され、業大老一門からは強者が次々と姿を消す格好となる。
    「そこで始まったのが『武神大戦天覧儀』だ」
     全国各地の海岸で繰り広げられる、アンブレイカブル同士の一騎打ち。その勝者は、より強い力を得る……これが武神大戦天覧儀だと、東久世・界(眞紅の刃・d20840)は説明する。それを阻止しに向かう灼滅者達だったが、
    「強大なダークネスの誕生は避けねばならない
    「だが、武神大戦天覧儀によって勝者に与えられる力の影響により、アンブレイカブルを倒した者は確実に、闇堕ちしてしまうという、非常に厄介な状況になっているのだ」
     ダークネスを倒した瞬間、目の前の仲間が闇堕ちしていく様はショッキングなものだと、殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)は語る。
    「拙者も一度、天覧儀の力の影響を受けて酷い目にあったでござるよ……」
    「抵抗したけど、あれは自分の意志でどうにかできるものじゃないわね」
     遠い目をしながらため息をつくハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)の隣で、田抜・紗織(田抜道場の剣術小町・d22918)は複雑そうな顔だ。紗織は、自分が闇堕ちしている間の話を仲間から聞き、とても頭の痛い状態になっているらしい。
     それでも、闇堕ちすると分かっていても、事態を放置するわけにはいかない。だからこそ、仲間を信じて灼滅者達はアンブレイカブルの元へ向かうのだ。
    「他に、業大老一門とは違う集団としては、ケツァールマスクの一派がいるわね」
     彼らはプロレスなどの格闘技の会場に乱入してくるのだと説明するのは、自身もプロレスと切っても切り離せない関係にある稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)だ。
    「そこで俺たち武蔵坂学園は、その戦闘にプロレス勝負を挑む形で介入していくんだ。プロレス! 燃えるよな!」
     那嘉川・真(痛みも辛さも乗り越える漢・d14239)に熱い口調で拳を無意識のうちに握り締めている。
     ケツァールマスクとその配下は、勝敗よりも『試合がプロレス的に盛り上がるかどうか』を重要視しているらしく、試合さえ盛り上がれば、満足して帰っていく。その辺りも少々、他のアンブレイカブルとは違うところだろう。
    「だが、油断は禁物だぜ。だからこそ戦い方を上手く考えないとな」
     いろいろ工夫していく必要があるだろうと白・美沙希(右手に破壊を左手に安楽を穿て・d19438)が付け足す。もっとも強敵こそ多いが、好戦的で戦いが好きだという根っこは、自分と大きく変わらないのかもしれない。
     ストリートファイターとアンブレイカブル。
     両者は宿敵だからこそ、似ているのだろうか。

    ●シャドウ
    「次はシャドウハンターの宿敵、『シャドウ』だね」
     続けて榛葉・雪音(フラットクライシス・d04399)達がシャドウについての話に入る。
    「彼らは非常に強力なダークネスで、現実世界に存在するだけで大量のサイキックエナジーを消費するため、普段は『ソウルボード』にいて、サイキックエナジーの消費を節約しています」
     ソウルボード……精神世界にいることで、シャドウは大幅に弱体化するもののサイキックエナジーの消費量も少なくなり、活動が可能になる。そう解説するのは、行野・セイ(オブスキュラント・d02746)。
    「ソウルボードへ向かう手段は、私達シャドウハンターの『ソウルアクセス』ですね」
     アルマ・ハトホル(夢の世界への水先案内人・d27307)は、もしソウルアクセスが必要になったら、いつでも案内するので声をかけてくださいねと呼びかける。
    「シャドウは肉体のどこかに『トランプのマーク』を持っています。そのシャドウ達を統べているのは『四大シャドウ』と呼ばれる、強大なシャドウ達だと言われています」
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が、更にシャドウの中でも強力な力を持つとされているシャドウの名を挙げていく。
    「まずは『慈愛のコルネリウス』。ハートのスートを持つシャドウです。
     次に『贖罪のオルフェウス』。スペードのシャドウです。
     それから『絆のベヘリタス』。クラブのシャドウです」
     最後の4体目は『歓喜』と呼ばれるダイヤのシャドウらしいのだが、まだ姿を現しておらず詳しいことは不明だ。
    「今、目立った動きがあるのは、慈愛のコルネリウスと絆のベヘリタスかな」
    「慈愛のコルネリウスは、かつて灼滅されたダークネスの残留思念に力を与えている」
     コルネリウスに力を与えられた残留思念は生前と同様の力を持っているようだ。
     シェリー・ゲーンズボロ(白銀悠彩・d02452)の言葉に、レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)が険しい顔をする。灼滅者への憎悪を強く残しているダークネスを復活させ、憎悪に手を貸すことがなぜ『慈愛』なのか、レインには理解できなかった。
    「蘇らせたダークネスは、プレスター・ジョンっつー何者かンとこに匿ってもらおうとしてるらしーんだけどさ」
     その辺りはまだハッキリしたことは分かっておらず、謎も多いのだと殿辻・尚都(アルミニウムプライズ・d01744)は図解した紙を手に話す。

    「それから絆のベヘリタス。こいつは人の絆ってのを奪ってる」
    「その人が持つ『絆』を養分にして孵化する『絆のベヘリタスの卵』ってのを産み付けてるっす」
     由井・京夜(道化の笑顔・d01650)の言葉に、まさにその事件の一つに関わったことがある白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)が詳しく解説する。どの卵からもベヘリタスが孵化するとエクスブレインに予知されており、そのベヘリタスを倒して、奪われそうになっていた『絆』を取り戻したのだ。
     次々と生まれて来ようとするベヘリタス……こちらもまだ、謎が多い。
    「ソウルボードからじゃなく、現実世界そのものに関与してる様子なのも気になるね」
    「一体どういう存在なんだろう?」
     アシュ・ウィズダムボール(ディープダイバー・d01681)の発言に、同じように気にしていた小村・帰瑠(砂咲ヘリクリサム・d01964)が首をかしげる。
    「贖罪のオルフェウスは、かつて病院と敵対していたシャドウだよ。オルフェウスは罪を犯した人から『罪の意識』を奪うことで、人々の闇堕ちを促す事件を起こしているんだよね」
     オルフェウスの見せる夢によって失われた罪の意識は、その人の中にいるダークネスの糧となり闇堕ちを促す。それを阻止するため多くの灼滅者がソウルボードへ向かったのだと、柿崎・法子(それはよくあること・d17465)は語った。
    「少し前には海外へ向かおうとするシャドウってのもいたな。何を考えての事だったのかは、よくわかんないんだけど……」
     日本以外の地域ではサイキックエナジーが枯渇している。ただでさえ現実世界に存在するのが困難なほど、サイキックエナジーを必要とするシャドウが、なぜわざわざ日本の外を目指そうとしたのだろうかと、高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)は首をひねる。
     ともあれ、そうしたシャドウ達の動きには注目したい。そう考えるシャドウハンター達は多かった。
    「ダイヤの動向も気掛かりですよね。それにトランプのマークということは、ジョーカーのような存在がいる可能性も……?」
     それは篁・和花(高校生シャドウハンター・d28165)の推測の域を出る物ではないが、様々な可能性を検討してしまうくらい、現状のシャドウには謎が多すぎるのだ。
    「ところで、トランプのマークによって、シャドウは何か違うところや特徴などがあったりするのですか?」
     神野・優里(うっかりダイバー・d28187)の疑問も、今の所そうした情報は判明していないが、何もないとは言い切れない……というのが現状だろう。

    ●イフリート
    「次はイフリートね。イフリートは炎を操る能力を備えたダークネスよ」
    「イフリートは主に、獰猛な四足歩行の猛獣といった姿をしている」
     次に香坂・天音(煉獄皇女・d07831)と望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)が、イフリートの特徴について話し始める。理性に乏しい凶暴な存在がほとんどだが、人間のような姿を取り、人間の言葉を話すようなイフリートもいる。
    「イフリートは鶴見岳でなんばしよったとですか?」
    「じゃあ、お兄さんが説明しよう」
     ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)の言葉に頷いて、前に出たのは鴨打・祝人(みんなのお兄さん・d08479)だ。
    「九州にある鶴見岳には、かつてイフリートが集結し、そこに眠る強大『ガイオウガ』を復活させようとしていたんだ」
     そのためにイフリート達が集めた力を狙って、ソロモンの悪魔が鶴見岳を襲撃するような事件も、かつて起こっている。ソロモンの悪魔アモンや、アモンが生み出したデモノイドと初めて遭遇したのも、この事件の時である。
    「イフリートの事件を灼滅ではなく対話で解決しようとしたことや、ガイオウガ派の有力なイフリート『クロキバ』がノーライフキングの『白の王セイメイ』と敵対している事もあって、現在の武蔵坂学園とイフリートは……なんだろう、共闘? そんな感じの関係になっているよ」
     と紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)はクロキバ達との関係を語る。彼らもダークネスである以上、人間の味方という訳ではないが、比較的友好的な関係にあり、わざわざ積極的に対立したり、殺し合うような関係では無い、という感じだろうか。
    「最近はクロキバ達とは別に、周囲を原始化しようとするイフリートが現れてるな」
     神羽・悠(炎鎖天誠・d00756)が口にしたのは、つい数日前に予知されるようになった事件についてだ。彼らの詳しい素性は不明だが、言動的にクロキバやその配下のイフリートとは別勢力のイフリートだと思われる。
    「もしかしたら他にも、オレ達の知らないイフリート勢力がまだいるかもしれないな」
     一度あることは二度あるかもしれない。栗原・嘉哉(陽炎に幻獣は還る・d08263)がそう考えるのもある意味自然な事だろう。
    「クロキバらと最後に会ったんは『ゴッドモンスター』の時や」
     ご当地幹部アフリンカンパンサーが、かつてガイオウガの力を奪い取った事から、クロキバ達はアフリンカンパンサーと激しく敵対している。その配下のアカハガネなども以降の消息は掴めていないが、そのうちまた会う事もあるだろう。
    「はいはーい! ヒイロカミには次いつ会えますかッ!」
     東当・悟(の身長はプラス十センチ・d00662)の説明に、ミーシャ・カレンツカヤ(迷子の黒兎・d24351)がぶんぶんと手を振る。同じガイオウガ派のイフリートであるヒイロカミは、先日襲撃してきたロードローラーを灼滅者達と共に撃退するという出来事があったばかり。次がいつになるかは不明だが、こちらもまた、会う日がいつか来るかもしれない。

    ●ノーライフキング
    「ところで先程から何度か名前が出ている『白の王セイメイ』など、ノーライフキングについて聞きたいのですが」
     藤川・優也(翠の蛍火・d01971)の言葉に頷き、先輩達は次にノーライフキングの話に入っていく。
    「僕達、エクソシストの宿敵はノーライフキング。屍王とも呼ばれるダークネスです」
    「死体をアンデッドとして眷属化し、迷宮を作り、己の肉体を白骨や水晶へ作り変えながら強化していく……という感じだな」
     竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)と御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)が早速ノーライフキングの基本について解説すると、
    「ノーライフキングッ! ……女性だとノーライフクイーンッ? ……キングでいいのかッ?」
     若葉・真人(世界のどこでも愛ジャンキー・d24242)が不思議そうにしているが、性別無関係にノーライフキングである。
    「大きな出来事といえば、まずは『不死王戦争』だね」
     神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)が挙げた不死王戦争は、武蔵坂学園が初めて経験した大きな戦争の名である。その詳細について、谷山・瑞樹(月待ちの柳・d05406)が語る。
    「阿佐ヶ谷に多数のアンデッドが出現し、人々がデモノイドさせられた事件。その首謀者は『蒼の王コルベイン』と呼ばれるノーライフキングだった」
     そしてコルベイン一派は、武蔵坂学園を殲滅しようとする動きを見せたのである。
     エクスブレインの予知でそれを知った灼滅者達は、その前に、反対にこちら側から先に打って出る事にした。これが不死王戦争である。
     コルベイン一派に勝利した武蔵坂学園が、次に敵対する事になったノーライフキングが『白の王セイメイ』だ。
    「白の王セイメイは、羅刹佰鬼陣にて初めて交戦した強力なノーライフキングじゃ」
     西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)が触れた羅刹佰鬼陣、更に新宿防衛戦といった大きな戦いの数々で、武蔵坂学園はセイメイと戦ってきた。セイメイそのものの灼滅には至っていないものの、その野望の数々は武蔵坂学園によって阻止されている。
    「富士の樹海や火葬場の遺体をアンデッド化し、支配下に置く……といった出来事もありましたね」
     死者に対して、更に痛みを与えるような真似は許せないと、茂多・静穂(千荊万棘・d17863)の目には怒りが滲む。
    「セイメイは正直ぶん殴りた……ああいえ、なんでも! ふふ!」
     笑ってごまかした廣羽・杏理(リュミエモラリスム・d16834)は、更に「ノーライフキングといえば『智の犬士カンナビス』もいますね」と誤魔化しの一手に出た。
    「壊滅した病院の人造灼滅者の遺体をアンデッド化し、操っていたノーライフキングですね」
    「うむ、あの腐れ外道のカンナビスは絶対に許すわけにはいかん!」
     レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)の言葉に、カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)は、命を侮辱したカンナビスは今すぐにでも張り倒してやりたいくらいだと息巻く。
    「大淫魔スキュラの配下である八犬士のひとりだったカンナビスは、スキュラの灼滅後、病院灼滅者の遺体をアンデッド化して『ロード・ビスマス』を探させていたんだよ」
     実際にカンナビスと会った事のあるイーニアス・レイド(楽園の鍵・d16652)は、次こそは決着をつけてやると静かな闘志を燃やしている。
    「それが真相だったのね……」
     事件については耳にしたことがあったものの、詳細までは知らなかったというアビゲイル・ダヴェンポート(スカイクリスタルラーヴァ・d23703)も、わなわなと震えていた。
    「最近は拠点をロードローラーに襲われたノーライフキングが、自分の配下を補うために墓場で儀式を行う姿も予知されていますね」
     花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239)が言うように、他にも様々なノーライフキングが全国各地にはいる。
    「かつて北海道の札幌市付近に、多数のアンデッドが出没するといった事件もあったわね」
     もう1年以上前の話で、何か原因があったのかどうかすらも掴めていないのだけれど……とアルラ・ノーデンハイム(死蔵書庫・d16864)が呟く。自分の迷宮を作り、その内部に住まうノーライフキングの動きは掴みづらい事も多いという実例の一つだ。
    「……今セイメイってどこでなにやってんだろうな」
     最近は大きな動きを見せないセイメイについて、気にする夏村・守(逆さま厳禁・d28075)だったが、この場にその答えを知る者はいなかった。……この時は、まだ。

    ●ヴァンパイア
    「最後はヴァンパイアですね。ヴァンパイアは、おおむね人型をしているダークネスです。色白で不健康そう……な者が多いでしょうか」
     図南・雛(銀の檻と炎の心臓・d15421)が、ヴァンパイアのもっとも大きな特徴として挙げたのは『感染』だ。誰かが闇堕ちしてヴァンパイアになる際、元人格の血族や愛する者を同時に闇堕ちさせるという、他のダークネスに無い性質を彼らは持っている。要は2倍の効率で増えるのである。
    「えげつねぇ話だよ」
     ダンピールである不渡平・あると(相当カッカしやすい女・d16338)も、家族が闇堕ちした際の感染に巻き込まれ、闇堕ちしかけたところを救出されて灼滅者になったという過去を持つ。
    「最近のヴァンパイア事件といえば『奴隷級ヴァンパイア』の一件でしょう」
     六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)は、爵位級ヴァンパイアによって奴隷化されたヴァンパイア達が、全国各地で『ご当地幹部ロシアンタイガー』を探している件について話し始める。
    「奴隷達の主である『絞首卿ボスコウ』は黒くて悪趣味でセンスのないとても気持ち悪い首輪を使って、相手の力を奪い取り、奴隷化しているようですわね。その奴隷化からの解放を餌に、ロシアンタイガー捜索の任務を命じられているようなのですが……」
    「奴隷達はロシアンタイガーを探すより、自分のやりたい事を優先してるみたいだよね」
     アルベルティーヌ・ジュエキュベヴェル(ガブがぶ・d08003)の言葉に応じるのは淡白・紗雪(六華の護り手・d04167)。そうした奴隷級ヴァンパイアが起こす傍迷惑な事件を食い止める為、各地に灼滅者達が向かっている。
    「ロシアンタイガー捜索の狙いは、ロシアンタイガーが持つ『弱体化装置』にあるらしい」
     長崎・莉央(ヘーゼルレイン・d16750)の言葉に新入生達が首をかしげるのを見て、莉央は更に弱体化装置について補足していく。
     サイキックアブソーバーによってサイキックエナジーが枯渇し、強大なダークネスは活動不能状態に陥ってしまっている。ご当地幹部であるロシアンタイガーも、そのひとりなのだが、ロシアンタイガーは『自分を弱体化させる装置』を使う事によって、自身を現在の状況でも活動可能な状態にしているのだ。
     この弱体化装置という物は非常に貴重な品らしく、かつて戦争『ゴッドモンスター』の際には、アンブレイカブルからも狙われている。
     『弱体化装置』が、それを必要とする勢力に渡るということは、『弱体化装置』を必要とするような強大な存在が動き出すことを意味している。灼滅者達にとっては、防がねばならない事態だ。
    「これ以上、似たような事件が起こらないように、何とかしたいところだが……」
     関連していると思われる爵位級ヴァンパイアの居場所などは掴めておらず、決定打が打てない状況だとジョシュア・ヴァルヌス(シャッテンアーデル・d10704)は告げた。
    「朱雀門のこともあるし、ヴァンパイアの動きからは目が離せねえな」
    「そうそう。あちらの学校の今の状況、聞きたいと思っていたんです」
     立川・春夜(花に清香月に陰・d14564)の発言に、由良・羽桐(標本蒐集家・d04061)が頷いて詳しい人達に説明を頼む。
     学校? と首をかしげる新入生達に向かって、瑠璃花・叶多(硝子の剣・d01775)が口を開いた。
    「ヴァンパイアには、武蔵坂学園と同じように『学校』の形を取った組織があるんです。それが『朱雀門高校』です。ええっと……」
    「朱雀門高校はヴァンパイアの組織ながら、色々な勢力を取り込んでいるんですよ」
     あとは何をしゃべったら……と悩む叶多を補うように、高瀬・薙(星屑は金平糖・d04403)が続けていく。
    「生徒会長と呼ばれる詳細不明なヴァンパイアに、副会長で、学校と同じ朱雀門という名字を持つ朱雀門・瑠架。それから侍従長デボネア……」
    「ブレイズゲートに取り込まれた、ヤズトとクロっていう間抜けな二人組も朱雀門の生徒だな」
     神無月・晶(鳳仙花・d03015)がヴァンパイア達の名前を挙げていくと、咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)が更に「おかげで、いくらでも殴れるぜ」なんて笑う。
    「特にデボネアは、武蔵坂学園のデモノイドヒューマンを闇堕ちさせ、朱雀門高校の配下としたこともあります」
    「私も、その『誘い』を受けた一人ですね」
     深廻・和夜(闇纏う双銃の執事・d09481)の発言に、その際に闇堕ちして『ロード・ウラベ』となった卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)が頷く。
    「朱雀門高校は組織としての指揮官が不足しており、それを我々で補おうとしていたようです。彼らは他にも各地へ出没し、様々な人材を集めています」
     当時のいきさつを踏まえて、そう語る泰孝。なお、泰孝の素での発言は非常に難解なため、今はとても噛み砕いた喋り方をしている。
    「他にもソロモンの悪魔のベレーザ・レイドや、刺青羅刹の鈴山・虎子などをヘッドハンティングしている。ロード・パラジウムという、レアメタルナンバーのデモノイドロードも朱雀門にいるな」
    「スキュラの残党や、ウロブレナントカまで参戦したのはおどろいたのう」
     フィクト・ブラッドレイ(猟犬殺し・d02411)が、更にヴァンパイア以外の所属者をあげていくと、エルナ・ローゼンベルク(緋色の忌姫・d13781)がため息をつく。エルナが触れたのは義の犬士ラゴウと、蒼の王コルベイン勢力にいた灼滅者の紫堂・恭也のことだ。
    「ヴァンパイア以外の種族の者を、これほど多く集めて、朱雀門は今、何を企んでいるんだ?」
     京都にある朱雀門高校は、かつて全国の学校にヴァンパイアを派遣して支配下に置こうとするなどの動きを見せていたが、最近そこまで大規模な動きは見られない。そこが逆に、クレデジス・バドロン(魔戦士・d20483)は気になった。注意しないといけないね、と雀谷・京音(長夜月の夢見草・d02347)も頷く。
     また、朱雀門に所属している者の中で、もっとも多くの灼滅者が気に掛けていたのが『紫堂・恭也』のことである。
    「彼は灼滅者ですが、蒼の王コルベイン配下のアンデッド、鍵島・洸一郎に育てられていたという過去があります」
     武蔵坂学園にウロボロスブレイドを託してくれた事もある紫堂・恭也だが、自分と共に育ったノーライフキング達の存在や、思想の食い違いもあり、武蔵坂に来ることはなかった。
     そして現在は、彼自身の考える正義と重なる部分の多い朱雀門高校への合流を選んだのだと、色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)は、これまでの彼に関する簡単な経緯を語っていく。
    「以前、白の王セイメイに協力するスキュラの八犬士の1体、『グレイズモンキー』によって、恭也さんたちが全滅させられるという予知を得た私達は、恭也さんの元へ向かったのですが……」
     彼らを逃がすため、コルベイン派からセイメイ派へ寝返ろうとしていたノーライフキングを灼滅したことがあると、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)は告げる。そして、裏切ろうとしていたとはいえ、彼らの仲間だった相手を灼滅したことが、恭也に不信を与える結果になったであろうことも。
     その後、朱雀門高校に所属することとなった恭也は、『箕輪御前』鈴山・虎子を朱雀門高校に加入させる等の活動を確認されている。
     今、恭也は一体、何をしているのだろうか。
    「朱雀門は様々な人材を取り込みながら勢力の拡大を目指しているわ。その動向には注意が必要ね」
     今後、朱雀門高校がどのような動きに出るのか、しっかり見極めなければいけないだろうと海原・河音(好好エクソシストガール・d15211)は、そう考えていた。

    ●都市伝説と眷属
    「ダークネスじゃねーけど、もうひとつ説明を忘れちゃいけないものがあるな。『都市伝説』って見たことあるか?」
     それぞれのダークネス種族や、その勢力についての話が終わった後、そう切り出したのはポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)だった。
    「人々の噂話、もしかしたらこうかもっていう思い込み……そういったものがサイキックエナジーに影響されて『都市伝説』として現れちゃうんだよ!」
     はいはーい! とシア・クリーク(知識探求者・d10947)も手を挙げて、都市伝説についての解説役に加わる。
    「人の想像力がサイキックエナジーと結びついた時、空想の存在でしかなかったものが実体を得て顕現する……という感じでしょうか。人の口に戸は立てられぬ、という言葉があるように、人々の噂話はそう簡単に消し去ることができません。そうした意味では、都市伝説の方がダークネス以上に厄介だという見方もできるかもしれませんね。
     神楽火・國鷹(鈴蘭の蒼影・d11961)は神妙な顔をしている。都市伝説はその性質上、バリエーションも多岐に渡る。そうした無数の都市伝説に対処していくのは、なかなかに大変な事だと言えるだろう。
    「宿敵じゃなくても、ダークネスではなくとも、人々にとって困ってしまう事件や迷惑な事件であることに変わりはありません」
     だからこそ、都市伝説が関わる事件もしっかり解決していく必要があるだろうと、二之瀬・夕姫(夕闇の姫君・d07010)は新入生達へ告げた。。
    「私も、初めて冒険した際に関わったのは都市伝説の事件でした」
     そうした事件の解決をしつつ、更に自分が解決できる事件の幅を広げていきたいと、泉谷・まりい(夜明けを待ちながら・d05246)は考える。
    「俺も変な都市伝説に会ったなあ……」
     記憶をたどるようにして、斎倉・かじり(筋金入りの怠け者・d25086)は呟く。ちなみに彼が遭遇したのは、腐女子の道を極めた都市伝説だったらしい。わけわからんのが多いと、かじりがぼやきたくなる気持ちもわかるかもしれない。
    「ダークネスが配下にしている『眷属』にまつわる事件もあるよ。ダークネス事件に限らず、様々な事件が起こっているから、とにかく教室に行って、いろいろ話を聞いてみるといいだろうね」
     こうしている今も現在進行形で、多くのダークネスや眷属、都市伝説が動きを見せている。そうした彼らに対処するためにも、それが重要だろうと、相殺後に雨来・迅(宵雷の兆候・d11078)が締めくくった。


    ●武蔵坂学園の出来事
    「そういえば事件とかじゃなくて、武蔵坂学園自体に何か面白い行事とかあったら、教えてほしいな」
    「今の時期じゃと、学園祭の事について語らねばならぬな!」
     楪・圭次(旋律の戦鬼・d23933)の発言に、シルビア・ブギ(目指せ銀河ヒーロー・d00201)が意気揚々と立ち上がった。
    「そう、学園祭がやってくるぞ! キャンパスも学年も関係なく、クラブの枠組みさえ超えて、皆で一緒に遊べる学園祭があるのじゃ」
     それぞれのクラブが趣向を凝らし、様々な出し物をするのだとシルビアは語る。それぞれ部門ごとに人気投票も行われるから、あちこち巡りながら票を投じてみるといいだろう。
     ちなびにシルビアの部活は去年、グルメストリート部門で2位を獲得したのだと、大きく胸を張っていた。
    「あとは水着コンテストかな、やっぱ」
    「うんうん、必見だねぇ」
     東雲・凪月(赤より緋い月光蝶・d00566)や由比・要(迷いなき迷子・d14600)達が頷きあう水着コンテストもまた、学園祭の大きなイベントのひとつだ。
    「なるほど。そうした出し物があるんだねー」
     学園祭があることは知っていたものの、具体的にどんなことをするのか知りたいと思っていたジヴリール・メディアノーチェ(真夜中リグレット・d28313)は、どうやらおいしいものもありそうだと、ちょっぴり嬉しげな様子だ。
    「水着コンテスト……はいはいはーい、オレは姫子さんのスリーサイズが最大限気になりますっ!」
     クラウリー・ホール(高校生ファイアブラッド・d17758)は勢いよく挙手するが、姫子からはにっこりと「秘密です」とだけ返事が戻ってきた。
    「学園生活をエンジョイするのも大切なんだよ」
    「灼滅者といえど、普段は学生ですものね」
     ハリエット・アニス(高校生デモノイドヒューマン・d16974)の言葉に緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)は深々と頷く。
    「他にも夏休みには臨海学校、秋になれば芸術発表会があるし、南瓜行列にクリスマス……」
     まだまだ他にもたくさん、楽しいことは色々あるよとソラ・フォールト(蒼翅・d14847)が指折りながら数えていった。
    「クリスマスも、武蔵坂学園らしい過ごし方があったりするよね。伝説のナノナノ様だっけ?」
     武蔵坂学園には『伝説のナノナノさま』の言い伝えがあり、クリスマス当日にはナノナノ様を探す灼滅者の姿も見られたのだと、ロバート・ケイ(深い霧の渇望者・d22634)が語る。確かにそれは、武蔵坂学園にしかない光景だろう。
    「謎の『魔人生徒会』が面白いイベントを提案してくれる事もあるんですよ。特筆すべきは、やはり『わんわんグランプリ』でしょう!」
     香祭・悠花(ファルセット・d01386)は、サーヴァント『霊犬』を連れた灼滅者達が自分の相棒を自慢もとい褒め称える祭典なんですよ! とそれを紹介していく。
    「大勢の霊犬と霊犬を連れた灼滅者が集まったのだけど、一人ひとり、一匹いっぴきに個性があって楽しかったですね」
     それに頷いた龍田・薫(風の祝子・d08400)も、参加者のひとりだ。当日の様子を思い返して……。
    「親バカと言われようとも、やはり私にとってはコセイが一番なんです!」
     結局ヒートアップして、そう霊犬への愛を叫ぶ悠花である。
    「闇に抗う力を蓄える為に、積極的に学園のイベントには参加するとええさよー、楽しいって気持ちが闇に抗う力となるさねー」
     そうした学園の楽しい出来事に耳を傾けていた新入生達に、ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)が笑いかける。勿論、ダークネスの灼滅も大切なお仕事だ。しかしそうした事も決して忘れてはいけないだろう。水原・冬慈(高校生シャドウハンター・d28285)は、とても真面目な顔で頷いて、広げたノートにメモを取っていった。

     そうして、一通りの話が終わると、小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)や黒曜・伶(趣味に生きる・d00367)、月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)それに三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)といった面々が話していた内容を資料の形にまとめていく。
    「資料の整理するのも久しぶりだな」
     力仕事なら任せてくれと、炎谷・キラト(失せ物探しの迷子犬・d17777)はそれを運んで収めていく。
     今回、灼滅者講座が行われたこの場所は『魔人編纂室』といい、こうして今までの出来事をまとめて残している部屋なのだ。今回新たに加わった情報もしっかり追加して、先輩達は一息つく。
    「今日はここまでです。私達一人ひとりの力は、ダークネスに比べれば小さいといわざるを得ません。ですが、皆で情報を集め、力を合わせれば、ダークネスをも上回る力を持つことが可能だと思います。私達が戦うためにも、そして生き残るためにも、今後もがんばっていきたいですね」
     最後に、そう志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)が締めくくると、お腹が空いたでしょうと、用意されていたお菓子や、味噌煮込みきしめんなどが振舞われていくのだった。
     そうして和やかな雰囲気の中、第2回目の講座を終えた頃――。

     武蔵坂学園の地下で、異変が起こっていた。
     赤々と警告を発するサイキックアブソーバー。
     それは、新たな『ラグナロク』の出現を示すものであった!

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月20日
    難度:簡単
    参加:2356人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 32/キャラが大事にされていた 40
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