湖の攻防戦

    作者:天木一

     朝早くから琵琶湖の水辺で、初老の男が簡易椅子に座り釣り竿を構えていた。
    「いやーやっぱりバス釣りはええもんだ」
     そう言いながら竿を引くと、見事釣り上げたのは大きなブラックバス。口からルアーを外してバケツに入れる。
    「今日は大物が釣れる予感がするわい」
     楽しそうに竿を振りルアーを投げ入れる。
     暫くすると、ピクッと糸が動く。そして竿が傾き手に力強い手応えが伝わる。
    「おお、これは大物や!」
     椅子から腰を上げ、男は踏ん張って竿を引く。糸が切れないよう慎重にリールを巻く。ゆっくりと水面に大きな影が映る。
    「フィーーーシュッ!」
     最後の一押しに力強く竿を引いた。するとどばっと水を割りながら仮面をつけた頭に角のある鬼が飛び出た。
     着地すると鬼はぺっと口のルアーを吐き出す。
    「ひ、人?」
     男が驚き腰を抜かしていると、鬼は顔に張り付いた海草を払いのけ、男を見下ろした。
    「これよりこの水辺は釣りが出来ぬよう我等慈眼衆が破壊する。痛い目をみたくなけば去るがいい!」
    「な、なにを……」
     気圧された男が後ろに下がると、硬い何かにぶつかる振り返れば同じような仮面の鬼が立っていた。
    「う、うわ!」
     飛び退くとそこにも別の鬼にぶつかる。周囲を見れば3人の鬼に囲まれていた。
    「それそれ、早くこの場から去るが良い。さもなくば、我等が無理矢理運び出す事になるぞ!」
     鬼達が琵琶湖で濡れた体を押し付ける。その時、威勢の良い声が響く。
    「待て待て待てーーーい!」
     3つの水上バイクが湖を走ってくる。
    「この琵琶湖での狼藉、見過ごす訳にはいかん!
    「琵琶湖ペナント怪人参上!」
     水上バイクに乗っているのは顔がペナントの形をした怪人達だった。
    「「「琵琶湖の平和は俺達が守る!」」」
     声を揃えて水辺に立つ。
    「来おったか」
    「ふん、所詮ペナント怪人」
    「我等慈眼衆の敵ではない」
     男を放置して鬼達は怪人と対峙する。
    「な、何がどうなってるんだ!?」
    「慈眼衆の力見せてくれる!」
    「来い!」
     脅える男の横で、鬼と怪人の戦いが始まった。
     
    「やあ、来てくれたね。ダークネスがまた新しい騒ぎを起こしているみたいなんだ」
     教室で待っていた能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者に説明を始める。
     滋賀県大津市にある西教寺に調査に向かった灼滅者からの情報で、近江坂本に本拠を持つ刺青羅刹、天海大僧正と、近江八幡に本拠を持つ安土城怪人が戦いの準備を進めているらしい事が分かったのだ。
    「どうやらそれは事実みたいでね。実際に琵琶湖周辺で慈眼衆と琵琶湖ペナント怪人の戦いが起きているんだよ」
     困ったように誠一郎は眉を寄せる。
    「琵琶湖周辺で破壊工作を行なう慈眼衆に、琵琶湖ペナント怪人が阻止しようと行動を起こすんだ。これだけ見れば怪人側が良い者に見えるけど……」
     首を横に振って溜息を吐く。
    「実際はダークネス同士の勢力争いなんだよ。安土城怪人も琵琶湖ペナント怪人を大量生産して、天海大僧正を倒し世界征服に乗り出すつもりなんだ」
     琵琶湖の破壊活動が成功すれば怪人の野望を阻む事になるというのだ。
    「一般人に迷惑をかけるのはダメなことだけど、一応は酷い被害が出ないように配慮をしているようだね」
     怪我人が出ないように行動をしているようだ。
    「これは僕達の学園と共闘したいというメッセージなのかもしれないね」
     この事件の結果が琵琶湖の戦いの流れを決めてしまうかもしれない。だが、何が正しいのかは誰にも分からない。
    「実際に現場で戦うのはみんなだからね。相談してどうするのかを決めて欲しい」
     誠一郎の言葉に灼滅者達は頷く。
    「慈眼衆が琵琶湖に現われるのは平日の朝早くだよ。一般人のおじいさんが釣りをしているところにやってくるんだ。そして琵琶湖ペナント怪人もすぐに現われるよ」
     周囲に他の一般人は居ない。おじいさんを戦いに巻き込まないように避難させる必要があるだろう。
    「慈眼衆と琵琶湖ペナント怪人は両方とも3体ずつ現われるよ。みんなは慈眼衆が現われる前に到着できるから、介入する選択肢は多く持てるよ」
     慈眼衆と琵琶湖ペナント怪人のどちらに味方するか、それともどちらとも敵対するのか。灼滅者の決断に全てが委ねられている。
    「2つの敵対する勢力との接触だからね。危険もあるだろうけど、得るものも多いはずだよ。どんな選択を選ぶのか、それによって今後の戦いに影響が出るはずだ。みんなで結論を出して欲しい」
     琵琶湖での戦いにどんな結末が待つのかまだ誰も知らない。だがその可能性の一つをここにいる灼滅者が選ぶ事になる。


    参加者
    ミゼ・レーレ(メイデウス・d02314)
    紀伊野・壱里(風軌・d02556)
    アストル・シュテラート(星の柩・d08011)
    九葉・紫廉(チョロ九・d16186)
    日凪・真弓(戦巫女・d16325)
    岬・在雛(数時間後の運命も知らないで・d16389)
    オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)
    風鳴・風香(導きの風・d27080)

    ■リプレイ

    ●琵琶湖
     まだ日の光が大地を温め始めたような時間。琵琶湖の水辺で初老の男が釣り竿を垂らしていた。
    「おじいさん釣れますか?」
     日凪・真弓(戦巫女・d16325)がその後ろ姿に声をかけた。
    「おお、今日はなかなかええ感じやな。おじょうちゃんは散歩かな?」
     老人は楽しそうに返事をして振り返る。するとそこに穏やかな風が吹き抜けた。それは老人の意識を奪い眠らせる。
    「申し訳ありませんが、少しお休みになっていてください」
    「ここは危ないからな、離れた場所に撤退して貰おう」
     倒れそうになる老人を真弓が支える。そこへ紀伊野・壱里(風軌・d02556)が現われ、軽々しく老人と荷物を持ち上げると素早くその場を離れる。
     誰も居なくなった水辺。その時だった。湖の水面に黒い影がすぅっと映った。
     ちゃぽんと水面に現われたのは角の生えた頭。男が顔を出し陸へと上がってくる。その顔に仮面を付けた男が周囲を見渡すと、続けて左右から同じ姿の2人が現われた。
    「誰も居らぬか」
    「ならばちょうど良い」
    「この水辺を破壊するとしよう」
     3人がそれぞれ武器を構える。
    「待て待て待てーーーい!」
     そこへ湖の方から制止の声が響く。見れば水上バイクに乗ったペナント怪人3名が向かって来るところだった。
    「この琵琶湖での狼藉、見過ごす訳にはいかん!
    「琵琶湖ペナント怪人参上!」
    「「「琵琶湖の平和は俺達が守る!」」」
     怪人達はバイクから跳躍して水辺に降り立ち、ポーズを取った。
    「来おったか」
    「ふん、所詮ペナント怪人」
    「我等慈眼衆の敵ではない」
     両者は睨み合い武器を向け合う、先に動いたのは怪人達。手裏剣を投げ、ビームを放つ間に光の剣を持った怪人が斬り込む。対する慈眼衆は手裏剣を雷で撃ち落とし、ビームを縛霊手で弾き、振り下ろされる剣を槍で受け止めた。
     両者の戦闘力は拮抗している。このままではどちらが勝つかは時の運だろう。このままならば。
    「安土城侵攻戦とかになるのかな……?」
     茂みに隠れた岬・在雛(数時間後の運命も知らないで・d16389)は、輸血パックを飲みながら戦闘風景を眺めて妄想に耽る。
    「ヤッベェ、何かワクワクしてきた!」
     そんな妄想に1人にやにやと笑みを浮かべ、飲みきったパックを怪人に投げつけた。パックが当たり振り向いた怪人の目の前には足の裏が迫っていた。
    「ずどーん!! はーいしっつれーい!」
     テンションの上がった在雛は怪人を飛び蹴りで吹き飛ばしながら着地した。
    「悪いけど、こちらに加勢させてもらうよ」
     アストル・シュテラート(星の柩・d08011)は腕を鬼のように大きく強靭に変化させて怪人の顔面を殴りつけた。
    「ぶげぱっ」
    「ぱげらっ」
    「な、何者だ!?」
     地面を転がる怪人達。突然の襲撃に1人立つ怪人が警戒して見渡すと、周囲には灼滅者達が現われていた。
    「この戦い、加勢致します。共に戦いましょう」
     静かに姿を見せた風鳴・風香(導きの風・d27080)が共闘しようと、慈眼衆に声をかける。
    「この場は味方となろう」
     周囲を威嚇するように殺気を放ち、ミゼ・レーレ(メイデウス・d02314)が慈眼衆に背を向けて怪人と向き合う。
    「おお! 助けてくださるか!」
    「灼滅者殿か、これはありがたい」
    「これでペナント怪人など物の数ではないわ!」
     気勢を上げる慈眼衆に怪人が襲い掛かる。
    「何人いようと同じ事!」
    「ここは俺達のホームだ、よそ者に負けるか!」
     寝転がった怪人が放った攻撃に、油断した慈眼衆に手裏剣が刺さり、もう一つの光の刃が斬り裂こうとする。だがその一撃をミゼは手に馴染む大鎌を振り抜き霧散させた。
     そこへライフルを構えた怪人から薙ぎ払うようにビームが放たれる。
    「おっと、琵琶湖を破壊するような攻撃は感心しないぜ」
     飛び出した九葉・紫廉(チョロ九・d16186)がエネルギーの盾で障壁を張って攻撃を防いだ。
    「今回はこちらと共闘します……」
     オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)は周囲の音を漏らさぬよう結界を張る。
    「本当は全員灼滅したくて仕方が無いんですけどね……!」
     そう呟き、怪人を視界に収める。すると熱を奪われた怪人が凍りついた。

    ●ダークネス対ダークネス
    「さ、寒い!」
    「だが俺達の情熱は氷をも溶かす!」
    「琵琶湖ペナント怪人の力を見せてやる!」
     気合を入れて凍える体に熱を入れると、怪人が慈眼衆に手裏剣を浴びせかける。そこへ飛び込んだ壱里がエネルギーの盾を拡大させて受け止めた。
    「退け! そもそも貴様等は一体何者だ!?」
    「悪いな、このいざこざには介入させて貰う」
     壱里は続けて迫る敵の剣を盾で凌ぐ、だがそこへライフルの銃口を向けられた。
    「日凪真弓……参ります……!」
     その引き金が引かれる寸前、真弓が刀を振るう。遥か間合いの外。だが巻き起こった風の刃が怪人を襲い、ぶれた銃口から放たれた光線は狙いを外れ木々を焼いた。
     剣を持った怪人が斬り込む。その前にふらりと割り込んだ在雛に剣が振り下ろされる。在雛は屈んで避けると、そのまま足払いを放って怪人の体を宙に浮かせた。
    「飛んでけぇぇぇ!」
     そのまま顔面にオーラを纏った拳を叩き込み、怪人を打ち上げる。きりもみして怪人は湖に水飛沫を上げて墜落した。
    「数が多い! だがすぐに減らしてやる! 食らえ!」
     怪人は手裏剣を投げるが、それは外れて灼滅者の中心の地面に突き刺さった。だが次の瞬間、手裏剣が爆発する。灼滅者達は爆発に呑み込まれ爆風が土埃を巻き上げた。
    「どうだ!」
     にやりと笑う怪人に向け、煙の中から人影が飛び出す。
    「次はこちらの番です」
     接近したオリシアは、真紅に輝く巨大な杭が高速回転しながら撃ち出す。杭は怪人の肩を貫いた。
    「がぅぁっ」
     怪人は杭を抜きながら後ろに下がる。煙が晴れると、傷を負った紫廉とライドキャリバーのカゲロウが姿を現した。咄嗟に仲間を庇い爆発の衝撃を受けきったのだ。
    「すぐに怪我を治療致します」
     風香が魔導書を開くと手も触れずにページが捲れる。そして文字の輝くページで止まると、周囲に風が吹き抜けた。それは紫廉とカゲロウの傷を癒していく。
    「おい、さっきからお前らが琵琶湖に被害を出してるぞ!」
     カゲロウが機関銃を撃つと、怪人は跳び退いて手裏剣を投げつけ銃撃を途切れさせた。着地したところへ紫廉が拳に雷を宿して殴りつけ、地面に転がした。
    「ふざけるな! 貴様らが破壊しようとしているのだろうが!」
     水を巻き上げながら湖から光の刃が飛んでくる。そこには湖に落ちた怪人が起き上がっていた。
    「この地で争うなら、どちらも同じ事だろう」
     ミゼは大鎌と腕を同化させて光の刃を斬り払う。そして駆け出すと、怪人目掛けて刃を振り下ろした。
    「この地を守る俺達が、お前等と同じなものか!」
     怪人は剣で受け流し、ミゼを斬ろうとする。
    「大切に思うなら、戦う前に話し合うべきだよ」
     その横から跳躍して間合いを詰めたアストルが手にした杖を振るう。杖の先端、魔力により青く輝く硝子玉が怪人に当たり、込められた魔力が放出され怪人はまたもや宙に舞う。
    「ぐぼっ」
     そのまま湖に落ちると、そこへ慈眼衆が一斉に追い討ちを掛けた。放たれる霊糸が動きを縛り、雷が撃ち抜き。そして最後に投擲された槍が胸を貫いた。
    「ふん、所詮はペナント怪人か」
    「他愛も無い」
    「ここがぬしの墓場よ」
     仰向けに倒れた怪人は爆発し盛大な水柱を打ち上げた。

    ●ペナント怪人
    「貴様らよくもやってくれたな!」
    「俺達の仲間を! 琵琶湖ペナント怪人の名にかけて、貴様達を倒す!」
     怒り狂う怪人達は手裏剣を投げ、爆発で視界を潰すと、ビームの薙ぎ払いで慈眼衆を吹き飛ばした。
    「まずは1人、地獄に送ってやる!」
     更に追い討ちとして跳躍すると自らを手裏剣として回転しながら体当たりを行なう。
    「一旦、預かろう」
     その前にミゼが立ち塞がり、足元の影が無数の烏となって舞い上がり壁を築く。手裏剣は勢いを失いながらも切り裂いて目の前に迫るが、構えた大鎌で受け止める。だがそれでも鬼気迫る怪人の力が押し勝ちミゼは吹き飛ばされた。
     そのまま慈眼衆の首を狙い凶刃と化した体が迫る。その時だった、閃光が奔る。
    「ふむ……なかなかやりますね。ですが……!」
     真弓が駆け寄り擦違い様に刀を一閃させていた。怪人の背中に真っ直ぐな赤い線が描かれ血が噴き出た。
    「ぅぐああっ」
     衝撃に怪人は完全に勢いを失い、バランスを崩して地面に頭から突き刺さる。そこへ在雛が止めとばかりに仕掛ける。だがその前にもう1人の怪人が立ち塞がり銃口を向けた。
    「させるかぁっ、これ以上仲間はやらせん!」
     放たれた光線の奔流が在雛を包む。
    「よっ、ホラッ」
     在雛は攻撃を受けながらも跳躍し、赤きオーラの逆十字を放った。怪人は身を投げ出すように転がって避けると、寝たままの姿勢で銃を構え、撃った。在雛は咄嗟にオーラを放って空中で方向転換して攻撃を避ける。
    「やるねっ!」
     着地する場所へまたもや銃口が向けられた。
    「そう何度も攻撃はさせませんよ!」
     オリシアがローラーダッシュで近づくと、炎を纏ったトゥシューズで蹴りを入れる。その一撃は引き金を引く右腕を砕いた。
    「くぅっこのくらい!」
     怪人は落としそうになるライフルを反対の手で持ち、片手で乱射する。
    「俺の後ろに!」
     仲間の前に壱里が立ち、攻撃を盾で防ぐ。
    「仲間が待って居るぞ」
    「ふん、往生際が悪いわ!」
     後ろから慈眼衆が飛び出すと、もう1人が風の刃を放って援護する。怪人が攻撃を躱している間に近づき、鬼の腕で殴りつけ怪人の意識を一瞬奪った。その隙にアストルが流星の如くオーラを纏って踏み込むと、拳の連打を浴びせる。一撃ごとに小さな星が散るように輝き、怪人の命をも散らした。
    「がっ……ホームでペナント怪人がこんな……」
    「星屑と成れ」
     アストルが離れると、倒れた怪人は爆散して果てた。
    「残りはあなただけです」
     風香が魔導書を開くと、空間に魔法陣が描かれ、そこから魔法の矢が放たれる。
    「バカな! 琵琶湖を守る俺達がこんなところで負けるはずがない!」
     残った怪人が手裏剣を投げて相殺すると、間合いを開けながら両手で手裏剣を乱れ投げる。
    「ここは任せてもらおう!」
     灼滅者の前に慈眼衆が立ち、槍をくるくると回転させて手裏剣を弾く。だが何発かは素通りし体に突き刺さった。傷口が腫れて青く染まっていく。
    「治療はこちらに任せてください」
     その傷を風香が縛霊手より放った光で浄化し塞ぐ。
    「ついこの間もダークネスと共闘したばかりなんだよなー俺。ま、仲間が多いのはいいことだ」
     将来的にはどうなるかわかんねえけどと呟き、紫廉はカゲロウと左右に飛び出す。飛来する手裏剣を弾きながら敵を挟撃する。
    「近づかせるか!」
     怪人の手から手裏剣が飛ぶ。防ぎながら前に進もうとした時、カゲロウが爆発によって宙を飛んだ。乱れ飛ぶ手裏剣の中に爆発する手裏剣を混ぜていたのだ。
     次はと紫廉の方は振り向く。だが既に紫廉は一足の間合いにまで近づいていた。
    「次はお前が吹き飛べよ!」
     盾を構えて走り寄った勢いのまま体当たりをする。衝撃に怪人の肋骨が砕け、顔のペナントが変形する。
    「ぶべぎゃっ」
     怪人は宙に浮き、べちゃっと地面に落下した。
    「これでっ仕舞いっ!」
     在雛がオーラの塊を放つ。怪人はそれを受けようとしたが、腕が上がらない。見れば腕が地面に転がっていた。刀を鞘に納めた真弓が背を向ける。
    「これにて……終幕です」
     オーラに撃ち抜かれ、吹き飛んだ怪人は湖に落ち、爆発と共に水が飛び散った。

    ●慈眼衆
    「要請に応じ、共に戦っていただきありがとうございます」
    「いや、こちらこそご助力感謝する」
     風香が礼を言うと、慈眼衆も頭を下げ謝意を表す。
    「今回、以前取り押さえられた仲間を見逃してもらった借りがある事と、こちら側のメッセージを天海に伝えてもらう為に共闘させてもらいました」
     前に出たオリシアが堂々と目的を伝えた。慈眼衆は首肯し灼滅者達の話に耳を傾ける。
    「貴方達が大切に思うものがあるように、ここを大切に想っている人もいるから、琵琶湖への破壊活動はやめて欲しいんだ」
    「残念だが、今のままでは破壊活動は続けられるだろう」
     アストルの言葉に慈眼衆は首を横に振った。交渉決裂かと思わずオリシアの手に力が入る。
    「何ゆえ、この地に、琵琶湖に拘る?」
     武器を納めたミゼは疑問に思った事を口にした。
    「安土城怪人はペナント怪人どもを琵琶湖化して戦力を増強しようとしておる。それを阻止する為に我等は動いているにすぎん」
     忌々しそうに慈眼衆は理由を告げる。
    「故に、お前達がペナント怪人を倒すというのなら、我等が破壊活動をする必要もなくなるだろう」
     その言葉にオリシアは力を抜いた。
    「一般の方や学園に被害や闇堕ちが出ないようにしていただけるのであれば、私達が貴方達と敵対する理由はありません」
    「俺達だって無駄な戦争は好まない。話し合いで解決するならその方がいい」
     真弓と壱里の言葉に、慈眼衆が口を開く。
    「我等が敵対しているのは安土城怪人のみ。その邪魔をせぬのであればわざわざ人を襲うような事はない」
     その言葉に一先ず安堵する。
    「そーいや天海大僧正ってどんなダークネスなんだ? 歴史だと明智光秀って裏切りで有名なもんでどうしても少し身構えちまうしさ」
    「大僧正様は世界に救いをもたらす方」
    「我等が唯一無二の忠誠を誓う方」
    「まさに主に相応しき方よ」
     紫廉の質問に、迷い無く慈眼衆は言いきる。
    「以前西教寺では、1度は捕らえた仲間を解放してくれてありがと。その恩もあるから、今回は去っていくのを止めはしないさ。そして、天海大僧正に伝言を頼みたい」
    「聞こう」
     在雛の言葉に頷き先を促す。
    「今回わたし達は共闘し見逃す形をとったけど、学園側は個々の意思に任せているから、次に別のチームが同じ選択を取るとは限らない。もし、関係を築きたいなら是非交渉に天海大僧正が来てほしい」
    「承知した。その言、確と大僧正様にお伝えしよう」
     伝えたい事も言い終え、話が途切れたところで慈眼衆は背を向け立ち去っていった。
    「上手くいったようですね」
     決裂した場合、仕掛けるつもりでいたオリシアは漸く緊張を解く。
    「こんなに綺麗な風景が破壊されなくて良かったです」
     風香は眼前に広がる青い湖を見渡す。仲間達も同意するように巨大な琵琶湖の眺めを見やった。
    「じーちゃんも羅刹だったんだ……だから、僕は彼等も信じたい」
     アストルは呟く。その言葉にはダークネスだから可能性が無いと決め付けたくはないとういう気持ちが籠もっていた。
     この先どうなるかは分からない。だが少しでも良き未来を築くために戦力を尽くしたのは確かだった。
     琵琶湖から穏やかな風が吹く。灼滅者達は風に送られるように、琵琶湖を後にした。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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