都内にある少し大きめのその公園には、ヒーローショーなどで使われる野外ステージがあった。観客席はすり鉢状の段々になっており、ショーをやっていない今日などは恋人や家族連れがベンチ代わりに使って憩いの一時を過ごしていた……さっきまでは。
『列車で出会ったあなたは、胸ポケットに白いバラをさして』
『道に迷った私を、優しい笑顔で手を引いて』
今、ステージ上にはフリルのついた可愛いワンピースの衣装を着た、黒い長髪の少女が歌を歌っていた。
憩いの一時を過ごしていた一般人十数人は、その少女に魅了されて歌に聞き言っていた。
『どうして、あれから一年が経っても』
『あなたの暖かさを覚えている』
歌っている少女は自称清純派アイドル淫魔の初花(ういか)という。
初花は歌いながら、憧れのラブリンスター先輩に心の中で応援を求める。
なんせ、今日は募集したバックバンドもダンサーも集まらず(バベルの鎖のせいです)、アカペラで1人歌うライブになってしまったのだ……。
「(先輩、それでも私、ファンの皆さまの為に歌い切ります(ぐっ))」
心の中で拳を握りつつ。
しかし、それだけなら何も問題が無かったのだが――。
ガッコンガッコン!
いつの間にか観客に混じっていたピンク色のロードローラーが車体を揺らして足元のコンクリートの段々を破壊し、右へ左へノリノリで動いていた。
それに気がついた一般人たちが悲鳴をあげて逃げていく。
『ホワイトローズメモリー あの時伝えて――……あの……すいません』
初花が歌うのを止めて、誰もいなくなった観客席に1台残ったロードローラーに問いかける。
「どうしたでござるか!?」
『いえ、あの、ほかのファンの皆さんの迷惑になるので、もうちょっと静かにお願いできないでしょうか……』
「なんと! やはり1人でやるオタ芸は周りから浮いてしまったでござるか……無念」
『あ……』
「あいや心配なされるな! 拙者、たった1人でも初花どののライブを最後まで盛り上げるでござるよ!」
『えっと……その、ファンの皆さんがいなくなってしまったので延期しようかと……』
「なんですと!? 本当でござる! いつの間に!」
キョロキョロして驚くロードローラー、しかしニヤリと笑うと。
「しかし、真のアイドルであればファンが1人でもいる限り歌い続けるものでござる!」
ロードローラーの物言いに凄い困った顔の初花。
「どうしたでござるか! まさか、拙者1人のためには歌えないと!? まさかまさか!?」
ゴロゴロゴロと初花に近づいていくロードローラー、逃げたくなるのを必死に我慢する初花。
しかし――。
『……ごめんなさい!』
気持ち悪さに頭を下げて謝る初花。
ロードローラーは頭を下げる初花を見下ろしつつ、口の中で「歌わぬなら殺してしまえアイドル淫魔」と呟くと。
『え?』
プチッ!
初花をその前輪にて轢き殺す。
「デュフフフフ」
なんか悦に入った表情で、ピンクのロードローラーは何度も初花を轢き続けるのだった。
「みんな、六六六人衆の『???(トリプルクエスチョン)』って知ってる?」
教室の集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
六六六人衆の中でも上位の存在の『???』だが、彼が武蔵坂学園の仲間である『外法院ウツロギ』を闇堕ちさせ、『分裂』という稀有な特性を持つ六六六人衆を生みだした――その六六六人衆こそ『ロードローラー』だ。
序列は二八八位、元は同じ分裂の特性を持つクリスマス爆発男の序列だったが、空席になっていたのでそこを埋めたという事だろう。
そして複数に分裂したロードローラーは、日本各地に散り、次々に事件を起こしているという。
「それにしても……前にコレを調べて欲しいって言われた時は、こんなのありえないって思ってたのに……」
珠希が「嫌な予感がして再度未来予測をしたら……」と呟くと、その言葉を引き継ぐように襟裳・岬(にゃるらとほてぷ・d00930)が。
「まさか本当に初花ちゃんがライブのメンバーに困ってる事態になるとはねー」
岬が困ったような不思議な表情で呟く。
初花とはラブリンスター一派の淫魔であり、自称『清純派アイドル』である。
岬の言う通り、初花はメンバーが足りないままライブを慣行するのだが、そこにピンクのロードローラーが現れると言う。
「初花がライブを行なうのはこの公園にある野外ステージよ」
珠希がその公園の場所を教えてくれる。
珠希の説明によれば、ピンクのロードローラーはラブリンスターのイラストが描かれており、誰が見てもすぐに解ると言う。
「それで今回の依頼なんだけど、上手くやればけっこう有利にロードローラーを灼滅できそうなの」
珠希が言うには、灼滅者が現場に到着するとちょうど一般人が逃げ出し、初花が歌うのを辞める頃合いだと言う。
なにが有利かと言えば、交渉すれば初花が味方になってくれると言う。
その際、やってくれる初花の行動は2つ。
その1:一緒に戦う
淫魔の初花が一緒に戦ってくれるため有利になる。
ただしロードローラーは初花を優先的に狙う。
そのため初花が殺される確率があがる。
その2:歌ってもらう
初花の歌に合わせて時々ロードローラーが手を止める。
つまりロードローラーが時々行動不能となる。
「ちなみに戦闘中に歌って貰う場合、なにか協力してライブを盛り上げられればもっと効果的よ! ロードローラーが行動不能になる回数が増えるわ」
そうすれば凄い有利になるらしい。
ちなみに初花はたった1人で、しかもアカペラで歌っているらしく、その辺りをフォローできれば……。
「ちなみに交渉に失敗したり不十分だったりすると、初花はみなにロードローラーを任せてさっさと逃げちゃうの。その場合はロードローラーと真っ向勝負になるわ」
しっかり戦術を立てれば勝てなくはないが、きつい戦いにはなるだろう。
「初花を殺そうとするアイドルオタクのロードローラーの戦闘能力は……」
ロードローラーは防御を捨てて攻撃してくるらしく、殺人鬼と龍砕斧、それに咎人の大鎌に似たサイキックを使ってくるらしい。攻撃力は相当なものなので注意して欲しいと珠希は言う。
ちなみに初花の方はサウンドソルジャーとWOKシールドに似たサイキックを使用し、基本的に誰かを支援する戦い方が得意との事だ。
「それにしても、ラブリンスター派の淫魔のライブに……」
腕を組んで考える珠希だが、まぁ車体を観るに趣味的なサムシングだろう。
「いい加減、そろそろ本体が見つからないと困る気がするんだけど……とりあえず、まずは目の前の痛ロードローラーの灼滅をお願いね!」
参加者 | |
---|---|
天上・花之介(残光・d00664) |
襟裳・岬(にゃるらとほてぷ・d00930) |
鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662) |
神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914) |
ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758) |
風真・和弥(冥途骸・d03497) |
化野・周(トラッカー・d03551) |
三和・悠仁(悪辣の道筋・d17133) |
●
公園の野外ステージで1人歌う清純派アイドル淫魔の初花、ステージ前の観客席に一般のファンは誰一人おらず、ただピンクのロードローラーが車体を揺らし。
『……あの……すいません』
「どうしたでござるか!?」
初花が歌うのを止めた、まさにその時。
「やっほー初花ちゃん! 頼まれてないけどライブの手伝いに来たわよん♪」
にゃっはー、と笑ってステージ上の初花に駆け寄るは襟裳・岬(にゃるらとほてぷ・d00930)。
岬の仲良し雰囲気にロードローラーが人見知りを発揮してオドオドと数歩下がって黙り込む。
一方、初花と岬は再会を喜ぶ。嘘か誠か、一緒に夕飯に行った仲だとか……。
「初花さん、貴方の作った曲、前から好きだったんです。実際にお会いできて嬉しくて……!」
感激した風に近寄る鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)に、初花もアイドル全開で感謝を口にする。
「今日は生で歌が聞けると思って楽しみにしてたの! バックバンドやダンサーが足りないなら協力するよ?」
織歌が提案するが初花は。
「え、えっと……」
「あれ、ライブ止めちゃうんですか?」
初花の空気を察したように三和・悠仁(悪辣の道筋・d17133)が言う。その頃には岬や織歌含め、8人の学生がステージ上に集まっていた。
「素敵な歌が聴けると思ったんだけどな……CDとかも買いたかったし……」
「アタシも、買ってあげても良いかなって思ってたのに……握手会だって……」
ツンとそっぽを向きつつ神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)も援護する。明日等の言葉に頷きつつ悠仁がチラリとロードローラーに視線を向け。
「……彼がキモくて嫌ならご退場願いますよ?」
「あ、それは――」
「聞き捨てならないでござる! 拙者、初花どののファンであります!」
ゴロゴロと会話の輪に入って来るロードローラー。
正直、うざい。
ロードローラーから初花を守るよう、その間に割って入った化野・周(トラッカー・d03551)が。
「初花さん、歌ってもらえませんか? 初花さんのライブを邪魔する奴が許せないから、俺らでやっつけちゃうからさ!」
暗に後ろを指して言う周だが、当の背後からは「そうでござる! 歌うでござる!」と……。
「……あなた、何、か?」
皆がスルーする中、ロードローラーに正面向いて問いかけるユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)。
「それ……ラブリンスターさん……か?」
「おおー、その通りでござるよ!」
ペラペラと車体のイラストについて話し出すが、ユエファは興味が無いので聞き流しつつ運転席に座れないか考える。
が、するりと座るのは無理そうだった。
一方、初花の説得は続いており、今は天上・花之介(残光・d00664)が。
「こんな状況でも自分の歌を少しでも届かせたいって思うのなら……頼む。アンタの歌を、どうか聴かせてくれ」
頼み込んでいた。
観客がいないからと断ろうとしていた初花だが、これだけ言われるとさすがに断り辛くなり……。
「ほら、練習だと思えばいいんじゃないかな? もちろんライブ中に何かあれば、私達が絶対に初花ちゃんを守るから!」
「岬さん……」
岬の言葉に初花が目を潤ませる。こんなに、皆が自分の歌を求めていてくれる……。
「初花の歌を聴きたいって思っている奴なら、ここにもいるぜ」
額には真紅のバンダナを巻き、背中に『風の団』の紋章を入れたジャケット、立てた親指で自分を指し、風真・和弥(冥途骸・d03497)がポーズをキメる。
「あなたは確か」
初花に関わるのもこれで三度目、しかし自分の事など覚えていないだろ……そう思っていた和弥は、初花の反応に思わず。
「覚えて、いてくれたのか?」
「メイド服で会いに来てくれた方ですよね?」
笑顔で言われた。間違ってないのだが……。
ザザッ、とロードローラー含め、皆が2歩ほど和弥から離れたのは気のせいだろうか。
「と、とにかく、そこの迷惑なロードローラーはこっちでどうにかするから、良ければライブを続けてくれ」
「……はい、たった8人でも、こんなに待ち望んでくれるなら、私、頑張ります!」
笑顔の初花。
そして和弥はロードローラーに向き直り。
「悪質なファンは会場から追放させてもらうぜ?」
「はぁあ!? そっちこそ、初花どのに馴れ馴れしい! マナー違反のファンは死ぬでござるよ!」
ロードローラーが後方に跳躍、初花達から距離を取る。同時、初花を守るように8人もカードから殲術道具を解放したのだった。
●
『列車で出会ったあなたは、胸ポケットに白いバラをさして』
初花が歌いだすと、すぐにギターとドラムの伴奏がついた。
ギター演奏しながらドラムも叩くのは岬だ。周囲では影業のスティックとアホ毛で保持したスティック(どう保持されてるのやら)が動き、1人で2役をこなしていた。
岬はアホ毛をぴこぴこ動かし。
「一回聞いたら全部覚えるから、このロードロ-ラー片付けて、後でちゃんとしたライブしようよ!」
初花に笑いかければニコリと頷かれた。
ちなみに岬の最初のターンはそれだけだ。何故か攻撃役にいたので治癒役に移動して終わったとも言える……まあ次回から気をつけるという事で。
『道に迷った私を、優しい笑顔で手を引いて』
岬だけでなく別のギターも曲に併せて音を響かせる。それは慣れないながらも懸命に合わせようと頑張る織歌だ。
「おお」
思わずロードローラーが聞き入り、動きを止める。
バッと織歌はヘッドホンを外し、途端、まるで猫のように跳躍すると死角からロードローラーに黒死斬をお見舞いする。
「ははっ、デカい図体でも歌で止まるとか! やっぱり歌ってスゲェんだな!」
さらにバックダンサーとして初花に合わせて踊っていた明日等が、バスターライフルをポイントし、一気にビームをぶち当てる!
「う、うぐぐ……な、何をするかと!」
苛つくロードローラーに明日等が「粗大ごみはしゃべるな」と冷徹に言い放つ。
「なっ!? ……しかし、確実にあの娘はツンデレ系……いやいや、今は初花どののライブ中……」
なぜか悩みだすロードローラー。
ちなみに、明日等のライドキャリバーは猫モチーフで、初花がチラチラと……どうも気になるらしい。
「殺せばツンデレ娘も拙者のモノでござるー!」
自分の中で納得したか、唐突にロードローラーが叫び明日等へと突撃する。それは竜すら殺しかねない一撃。
初花の近くにいたライドキャリバーは間に合わず、割って入ったのはユエファだった。
銀雷を薙刀のようにしならせローラーを受け止めていた。
「『さつりく』よりもラブリンスターが『だいいち』見える……は、気のせだろ……か?」
呟き、一歩引きつつ銀雷を引き寄せると今度はハルバードのように剛の力でロードローラーを弾き飛ばす。
ゴウンッと観客席でひっくり返るロードローラー。
思わず静かになりそうになるステージで、ユエファは淡々と手拍子を開始。初花も再び歌い出す。
『どうして、あれから一年が経っても』
『あなたの暖かさを覚えている』
戦いは続き、何度となく強烈な攻撃を浴びせてくるロードローラー。
――くっそ、見た目の割に攻撃重てえコイツ!
仲間を庇った周が心の中で吐き捨てるが、目の前のロードローラーは強引に周をひき殺そうと押し込んでくる。
チェーンソー剣を両手で支え持ち堪えつつ、周は初花に向かって叫ぶ。
「歌ってください! 俺は大丈夫だから!」
同時、その言葉が嘘じゃないとチェーンソー剣を片手に持ち変え、空いた手で解体ナイフを掴み一瞬でローラーを切りつける。
「ぐふっ」
思わずロードローラーが離れた。
「(ったく、ピンク色しやがって……俺とキャラかぶってんだよ! それに、ロードローラーのオタ芸ってどんなだ!)」
心の声を視線に乗せギロリと睨みつけると、ロードローラーはヒューヒューと空口笛を吹き視線を逸らす。
その瞬間、チャンスとばかりに飛び出したのは花之介と悠仁だ。
ロードローラーの右と左に着地すると、そこで歌に合わせて踊り出す。まるでライブ会場で観客の目の前でパフォーマンスを行うアイドルのよう。
「お、おお~」
思わず見惚れて動きが止まるロードローラー。
花之介が機動力に勝ったアクロバティックなダンスをすれば、悠仁も空中を蹴るような踊りを魅せる。
『ホワイトローズメモリー あの時伝えていられたら』
歌は図らずしてサビだった。
持ち上がりは最高潮、リズムに合わせて花之介のドグマスパイクが右側面にドゴッと決まる。
『ホワイトローズドリーム あの一瞬がすべてだった』
再びのサビと同時、初花の歌を邪魔しないよう、しかしリズムに合わせて今度は悠仁が左側面に縛霊撃をたたき込む。
「……清純派はトラブルに巻き込まれやすい、なんて属性あったかな?」
そう呟き、歌い終わりに合わせて鏖殺領域を再度展開する和弥。
『今日も私はテーブルに白いバラを飾るの』
初花が歌い終わりゆっくりとお辞儀をする。
岬も織歌も音を絞って終わらせていく……。
しかし。
「アンコール……アンコール……」
黒い殺気が晴れ、ピンクのロードローラーがそう呟きつつ姿を現した。
●
ギャリリッ!
ジグザグにローラーを切りつけ、即座に牽制に動いたのは周だった。
初花の方へ行こうとするロードローラーと切り結びつつ。
「初花さん! お願いします! もう一度歌ってください!」
「え?」
「俺ら初花さんのファンだから、歌ってもらえたら絶対元気出るし!」
「清純派アイドルって言うなら、ファンの希望に応えるものでしょ!」
まるで喝を入れるかのように明日等も初花に言う。
もちろん、ロードローラーの足を止めるべく攻撃も忘れない、足下から延びた影がローラーを捕縛しつつ、明日等は初花を振り向き。
「それに悔しいじゃない! あんな痛車なんかに負けるみたいで……だから、戦いが終わるまで歌って!」
ブルルンとロードローラーが車体を身震いさせ周や影を弾き突進を再開する。
「拙者、さっきからアンコールと言ってるでござるよ!」
「だま……れ」
正面に回り込んだユエファが呟き、真っ向からロケットハンマーを振りかぶり――。
ガガッ!
ユエファが吹っ飛び、同時にロードローラーも吹き飛ぶ。相殺だ。
「だ、大丈夫ですか!?」
自分を守ってくれたと思った初花がユエファに駆け寄る。
「……コレ」
ユエファが立ち上がりつつ初花に何かを渡す。
それは……白いバラ。
「どのよな状況でも、ファンが居てくれるするなら……歌い続けるが真のアイドルないだろ……か?」
片言だが、それでも初花には伝わったのだろう。
白いバラを胸に抱き再びスタージ中央に立つ初花。
「盛上げ役はアタシに任せな! 初花、思い切り歌聞かせてやれヨ!」
ギターを振り上げて乱暴に叫ぶ織歌に、初花が決意の瞳で頷く!
「おお! ついにアンコールでござるな!」
騒ぐロードローラー。
ズザンッ!
その声すら断ち切るように、切れ味だけに特化した刀がロードローラーを斬り裂く。
その日本刀、風牙を構えた和弥がギロリと睨む。
「黙れよ……静かに聞こうぜ?」
初花の歌である『花言葉はホワイトローズ』のアンコールが始まり、歌に合わせた戦いが再会される。
ロードローラーは時に動きを止め、灼滅者たちはその隙を逃さない。
正直アンコールが無くても余裕だったのでは、と思わなくも無いが……。
岬がテンポを合わせてソニックビートを刻み、悠仁が盛り上がりのタイミングでドグマスパイクを打ちつける。
そして――。
「マナーのなってない客はそろそろご退場願おうか!」
花之介がバベルブレイカーを構え、足のエアシューズが勢い良く空気を吐き、瞬後、一気に最大加速でロードローラーへと突撃する。
――カッ!
ロードローラーの顔面、その中点へと先端が触れ。
「捉えたぜ、死の中心点」
杭がドリルのように回転し、その回転がそのままロードローラーを貫く!
「せ、拙者……ま、まだ……」
ド、ギュルギュルギュル、ズバンッ!
車体ごと回転し観客席まで吹き飛びめり込むロードローラー。
それが……痛ロードローラーの最後であった。
●
「これで大人しく歌が聴けるわね」
ロードローラーが完全に消滅したのを見届けて明日等が言う。
やっといつもの平穏を取り戻す公園。
「あの……ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる初花。
そこに声をかけるは再びヘッドホンを装着した織歌。
「それじゃあ、ライブを仕切り直しましょう」
「え? で、でも……3度目に、なりますよ?」
「初花さんの曲、今度はちゃんと聞かせて下さい……だめ、ですか?」
織歌の言葉に初花は胸で手を組み感極まったように。
「はい! 歌わせて下さい! もう一度、私に!」
そんな初花に織歌は笑顔で頷き、ギターは私がやりますね、と。
「じゃあ私はドラムやろうかな!」
そう言ってどこからか準備をするのは岬。
「あとはベースが欲しいかなー」
すると初花がツカツカと1人に歩み寄り。
「音楽、好きですよね?」
「え、俺?」
驚いたのは周だ。
初花が言うにはリズムに合わせて弾いてくれていれば良いと言うが……。
どこにあったのかベースを差しだされ受け取る周。
「アイドル系には興味ねーんだけどな。んでも、やるからには、しっかり盛り上げてやんよ」
さらにバックダンサーとして花之介と明日等と悠仁が名乗り出る。
そしてユエファは通り掛かる一般人に声をかけ、和弥に至っては観客に混じって盛り上げ役をやると言う。
そして。
「と、ゆーわけで! すーぱーらいぶたーいむ!」
岬の掛け声と共に、初花のライブが再度始まったのだった。
初花のライブは、片手で足りる程度の観客しか集まらなかった。
それでも誰もがライブが終わった時には不思議な達成感に包まれていた。
「これからも頑張って」
別れの時、買ったCD片手に悠仁が言う。
「これからも大変あるかも……でもきっと真のアイドルなる為、試練言うやつ……ね」
ユエファの言葉に深く頷く初花。
それぞれ別れの言葉を告げる中、どこかシリアスに和弥が言う。
「……半年前に聴いた時も思ったんだけど、本当に綺麗な、心地良い歌声だな……それに以前より上手くなってるし、努力しているのが解るよ」
「また、見に来て下さいね」
「ああ。出来れば今度は、普通にのんびり聴いてみたいもんだ……」
是非路上ライブに来て下さい、そうサインしながら初花が和弥に言うのだった。
そうして、初花は満足気に去って行った。
果たして次にまた会う時があるのか、そしてその時も今と同じ関係でいられるのか……それは未だ誰にも解らない。
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 4
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