星彦くんを誰か止めて!

    作者:ライ麦

     ついにこの日が来た、と星彦は道場の前で胸を奮わせた。この道場の師範に、「なよなよしている」ことを理由に娘――織野姫子との交際を反対され、強制的に別れさせられてから一年。
    「どうしても娘と付き合いたければ、儂を倒してからにしろ!」
     という師範の言葉に一念発起。山篭りし、一日の6割を筋トレに費やし、激流に逆らって泳ぎ、熊と決闘し、木々を引き抜き岩をくるぶしで撃砕し……今や前とは比べ物にならないくらい頑健なボディと、溢れる力を手に入れた。もう誰にも負ける気がしない。
     意気揚々と、星彦は道場の扉に手をかけた。やっと、やっとだ。これで、これで――
    「俺の力を試せる! 俺の方が強い!」
     星彦は扉を粉砕した。

    「――そして、星彦さんは道場にいた全員をボコボコにしてしまいます。恋人だった姫子さんも含めて、です」
     本末転倒です、と桜田・美葉(小学生エクスブレイン・dn0148)はため息をついた。
     現在、『一般人が闇堕ちしてダークネスになる』事件が発生しようとしている。闇堕ちした一般人の名は、天川・星彦(あまがわ・ほしひこ)。元々は線の細い、優男風のイケメン男子高校生である。その彼は、とある空手道場の師範の娘の織野姫子と付き合っていた。だが、師範はその交際に反対。強制的に別れさせられてしまう。
    「師範の方は、娘には強い男がふさわしい……と考えていたようで……線の細い星彦さんは、どうも強そうには見えないから、と」
     実際、星彦は空手道場の娘と付き合っていたとはいえ、それまで格闘技などやったことのない、平凡な高校生だった。師範の求める「強い男」とは確かに相違があるだろう。
     だが、星彦はそれでも姫子をあきらめきれなかった。それぐらい姫子に惚れこんでいたのだろう。なんとか交際を認めて欲しいと土下座して頼み込んだ星彦に、師範は
    「どうしても娘と付き合いたければ、儂を倒してからにしろ!」
     と言い放ったらしい。なんとも古典的な親父である。ともかく、その言葉に一念発起した星彦は師範を倒すべく、山篭りして常軌を逸したトレーニングに励み、そして――アンブレイカブルに闇堕ちした。
    「ですが、星彦さんにはまだ人の心が残っています。今ならまだ救えるかもしれません……どうか、彼を止めてあげてください」
     そう言うと、美葉は帽子を押さえて深々と頭を下げた。
     続いて、詳しい説明に移る。
    「星彦さんは師範を倒すべく、山から下りて道場に向かっています。皆さんには道場の前で彼を待ち構えて、倒して欲しいんです」
     闇堕ち一般人を闇堕ちから救う為には、『戦闘してKO』する必要があるから。もし彼に灼滅者の素質があれば、KOしても灼滅者として生き残れる。
     なお、これ以外の方法で彼と接触しようとすると、バベルの鎖に引っかかってしまい、対策をとられてしまう。素直に道場の前で待ってた方が良い。
     また、その時道場内には師範と姫子を含め、門下生など7人の人間がいる。彼らをどうするかについても考えておく必要があるかもしれない。
    「もし道場にいる人達を避難させるなら、裏口からが良いと思います。正面から避難させると星彦さんとかちあってしまう危険があるので……。また、そもそも星彦さんを道場内に入れなければ中にいる人に危険が及ぶことはないので、道場内に居てもらうのも良いかもしれません。この場合、戦闘中に絶対外に出さないための対策が必要になりますが……」
    「兎に角、今の星彦さんは武に狂えるアンブレイカブルそのものです……道場の前で戦いを持ちかければ、すぐに乗ってくるでしょう。戦いの最中に逃走することも考えづらいと思います」
     戦闘になれば、彼はストリートファイターのサイキックとバトルオーラのサイキックを使って攻撃してくる。完全なダークネスになりきっていないとはいえ、灼滅者8人を一人で相手できるほど強い。油断は禁物だ。
    「ですが、星彦さんの人間の心に呼びかけることで、戦闘力を下げることができます。特に、今の彼は闇堕ちしたことで当初の目的を忘れ、『自分の力を試す』ことが第一になってしまっていますから――姫子さんへの気持ちや、当初の目的を思い出させるような説得が効果的ではないかと」
     ちなみに、と美葉はつけ加える。
    「星彦さんは見ればすぐ分かると思います。何しろ、今の彼は闇堕ちの影響もあって、首から下はムキムキのマッチョですから」
     首から上は優男風の美少年のままというなんともアンバランスなことになっているが。今の彼を見たら姫子も思わず失笑してしまうかもしれない。
    「闇堕ちから救われたら、元の線の細い体型に戻る……かは分かりませんが。ともかく、彼を止めてください。こんな彦星は、嫌ですから……」


    参加者
    リズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)
    置始・瑞樹(殞籠・d00403)
    土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)
    守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)
    五十嵐・匠(勿忘草・d10959)
    千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)
    空木・亜梨(虹工房・d17613)
    セイヴィーア・セルフェール(憂いの魔術師・d23235)

    ■リプレイ

    ●こんな彦星は嫌だ
    「ふふっ、現代社会の織姫と彦星さんですね☆ 一年に一回といわず、彼らが毎日会えるように頑張りましょう。カムバック、彦星君! 打倒!! 頑固おやじ!!!」
     件の道場の前で、土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)がごー! と拳を突き上げる。
    「要するに正面から殴り合えば良いのよね。暑い日になりそうだわ」
     リズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)は空を見上げた。今日も暑くなりそうだ。色んな意味で。
    「まぁ。鍛え直そうっち考えるのは判らなくもないんやけど。……やっぱ、どーもこーもないよなぁ。間違っちょんのやし」
     守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)も空を仰いで呟いた。今回戦う彦星こと星彦は、根本的なところで何か間違っている。その間違いを正せるのは灼滅者しかいない。というわけで、間違った彼を止めるため、空木・亜梨(虹工房・d17613)と璃理が道場内へと赴く。まずは道場に居る人々を避難させなければ。
     亜梨と璃理が中に入ると、一般人7人はちょうど稽古中だった。突然やってきた二人組に、一同は怪訝そうな顔をする。が、亜梨がラブフェロモンを使うと途端に色めきだった。有名人にでも会えたように。
    「こんにちは。今日は天気も良いので屋外での鍛練に行きましょう」
     輝く笑顔(一般人目線)で亜梨が言い、裏口から出て行くと、
    「待って!」
    「一緒に鍛錬しよう!」
     などと言いながら、大部分が彼の後を追いかけていった。それを確認すると、璃理は
    「殺界形成はお任せあれ♪ マジカル・クルエル・テリトリー♪ いっくよー☆」
     と華麗にチェーンソーを回し、殺意の波動を広げていく。魅了されながらも亜梨を追いかけなかった硬派な人も、その殺気に恐れをなし、開いていた裏口から逃げていった。近所の空き地まで一般人達を誘導した亜梨も、自主鍛錬を言い渡して仲間の元に戻る。
    「せっかくだから一緒に鍛錬してって!」
     などと亜梨に追いすがる人もいたが、道場からの殺気に気圧され、戻ってくる人はいなかった。
     その頃、正面付近。
    「もう全員避難し終わったでしょうか?」
     置始・瑞樹(殞籠・d00403)は避難状況を気にしていた。星彦が万一にも一般人に手を出さぬように。一方、リズリットは待っている間暇だと、流れる雲を目で追いながらバランス栄養食を齧っている。
    「雲がチキンに見える……」
     などと彼女が呟く傍ら、セイヴィーア・セルフェール(憂いの魔術師・d23235)は周囲を警戒し、星彦の接近をいち早く察知できるよう努めていた。やがて、彼の紅の瞳が、こちらに走ってくるマッチョの姿を捉える。彼が星彦で間違いないだろう。
    「星彦君が来たようだよ」
     仲間達に注意喚起し、マテリアルロッドを構える。
    「来た……目立つからすぐにわかるわね……物凄い殺気だわ」
     千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)も、星彦を見つけて呟いた。星彦は道場前まで来ると、灼滅者達に気付いて足を止める。
    「何奴だ?」
     警戒するように、また見定めるように、星彦は灼滅者達を見やる。その顔は美しく整っているが、胴体とは合ってない。
    「いらっしゃい。今ちょっと準備中よ。今のあなたの願いを叶えるための、ね」
     リズリットが日本刀を手に彼の前に進み出る。
    「はじめまして星彦お兄さん……ヨギと言うわ……」
     ヨギリも一礼した後、胸に手を当てて話しかけた。
    「早速でごめんなさい。貴方を姫子お姉さんに会わせることは出来ないの……どうしてかわからない? 今の貴方を見たらきっと姫子お姉さんは怯えてしまうわ……」
     姫子の名前が出たことに、一瞬星彦はピクリと反応する。だが、
    「俺は強者と戦いに来たんだ。邪魔をするならどけ!」
     と腕を払った。すかさずセイヴィーアが声を上げる。
    「すまないが、ここから先へ通すわけにはいかない。まず、僕たちと戦ってからにしてもらおうか?」
    「何?」
     星彦の眉が動く。続いて神楽も言った。
    「兄さん、強いんやっち?」
    「ああ、俺は強い!」
     星彦がパシンと拳で掌を打つ。なら、と神楽も構える。
    「強さを求める物同士が出会った。出会ってしまった。それでええやん」
    「そんなに力を試したいのなら俺たちが相手になるから、とりあえずは歯を食いしばってもらおうか」
     五十嵐・匠(勿忘草・d10959)もそう戦いを持ちかけた。
    「へぇ、お前達もなかなか、腕に覚えがあるようだな。面白い! そこまで言うなら一戦交えようか!」
     灼滅者達の言葉に、星彦もその気になった様子。体にオーラを纏わせ、戦闘態勢をとる。そこに、避難誘導にあたっていた二人も戻ってきた。
    「さぁ、戦いの時。正面から全力でぶつかりましょう☆」
     璃理がくるくると解体ナイフを回し、
    「チェーンジケルベロース。Style Mountain!!」
     神楽もカードを開放し、黄玉色のオーラを纏う。
    「六太、いくよ」
     匠は相棒の六太と共に、星彦を見据えた。今、彼を正気に戻すための戦いが始まる。

    ●脳筋彦星
    「人数いるけどたぶん俺の方が強い! 俺の方が無敵!」
     などと言いながら、星彦は無数の拳で殴りかかってきた。その拳を、瑞樹が鍛え抜かれた体で受け止める。星彦の一撃は重く、その体には無数の傷痕が刻まれた。だが、瑞樹は意にも介さない。拳を受け止めながら、問いかける。
    「何を目的に身体を鍛えていらっしゃったのでしょうか?」
    「そんなの決まってる。強くなるためさ!」
     ダメだ手段と目的が入れ替わってる。そうではなく。
    「『手段』と『目的』は異なります。その鍛えた身体で、何を成し遂げようとしておりましたでしょうか」
     防御から攻撃に転じ、瑞樹はシールドで星彦を殴りつけた。続いてヨギリもバベルブレイカー「Kidneywort」を手に、ジェット噴射で飛び込む。
    「ねぇ、どうして貴方は強くなろうと思ったの? 今の姿は本当にお兄さん自身が望んだ姿?」
     問いかけながら、死の中心点を穿つ。匠もマテリアルロッドを振りかぶった。
    「何の為に強くなりたかったのかも忘れてしまったのかい?」
     言葉と共に放たれたフォースブレイク。流し込まれた魔力が、彼を体内から爆破する。六太も彼女に続き、六文銭射撃を放った。
    「その力、何のために手に入れたん?」
     ソーサルガーダーを展開しながら、神楽も問う。何のために強くなったのか。続けざまに問いかけられ、星彦もふと考えるように首を傾げる。
    「あれ? そもそもなんで強くなろうと思ったんだっけ……」
     考えながらも、彼は拳を振るうのをやめない。そこに、璃理がスターゲイザーで飛び蹴りを喰らわせた。
    「止まりなさい、彦星君! その力をふるってはダメです。それでは君の大切なものを壊してしまいます。強引ですが、頭を冷やそうか?」
     飛び蹴りをくらってふらつく星彦に、リズリットが死角から迫る。
    「ところで最近鏡見た?」
     言いながら刃を振るい、彼の急所を絶った。
    「見てない! 山の中に鏡などないからな! それがどうした!」
     お返しとばかりにリズリットを掴んで、危険な角度で投げ飛ばそうとする星彦。だがすんでのところで亜梨のビハインド、雪花が間に入り、代わりに飛ばされた。
    「見事に肉体を鍛え上げたみたいだね、星彦君。技のキレも素晴らしい。でも……それらの芯にあるべき心を、君は忘れていないかい?」
     声をかけながら、セイヴィーアが影の触手を放ち、絡めとる。その間に亜梨はシールドリングで回復を行い、雪花が霊撃を放った。
     度重なる攻撃と呼びかけと状態異常に、星彦の体が揺らぐ。だが、元に戻すにはまだ足りない。
    「なんか大切なこと忘れてた気がするけど……それは後でいいか!」
     今は戦うのが楽しい! と星彦は集気法で態勢を整え直す。この脳筋彦星め! どうやらもう少し拳で語り合う必要がありそうだ。

    ●本当の強さとは
     本人が思い起こせぬのなら、と瑞樹は星彦に姫子との関係を告げる。オーラを纏った拳を繰り出しながら。
    「姫子さんは、大切な恋人だったのでしょう?」
     と。
     畳み掛けるように、セイヴィーアも制約の弾丸を撃つ。
    「思い出してほしい。君が鍛えようと思ったのは、君の好きな女の子と一緒にこれからを歩んでいくためだろう?」
     恋人。好きな女の子。それらの言葉に何か感じるところがあったのだろうか。セイヴィーアに向かって放出されたオーラは精彩を欠いた。それでもその攻撃力は侮りがたい。瑞樹は彼の前に立ち、代わりに受け止める。
    「恋人との交際を認めてもらう為に体格が変わるくらい頑張ったのはすごいと思うけれど、肝心の恋人を大切にできないのなら本末転倒だよ」
     続けて匠が閃光百裂拳を叩き込み、六太が斬魔刀で切り裂く。よろめく星彦の前に、神楽が立った。
    「誰かの為に得た力は素敵やん。それを独りよがりに落とし込んじゃいけんやろ! そんな想いの無い、間違った強さなんち、単なる張り子の虎やん。やったら、ここでちちまわし目を覚まさせちゃんわ!」
     別府の力を宿したビームが星彦を襲う。神楽の言葉に頷き、ヨギリも流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放った。
    「そう……それに、腕力に限った強さだけが本当の強さでは……力ではない、とヨギは思うわ……」
    「たまにいるのよね。筋肉偏重主義が。大事なのはバランスよ、バランス」
     バランス栄養食をもぐもぐしながら、リズリットも頷いた。ついでに影で作った触手を放つが、これはかわされる。彼女に代わり、今度は亜梨が影で星彦を飲み込んだ。
    「星彦君……君は頑張ったと思うよ。やり方がちょっと間違っちゃっただけなんだよね。強くなったと思うし、今の君ならきっとお父さんも姫子さんも見直すと思うんだ。せっかく強くなったのに、力を試したいという理由だけで暴れるのは絶対ダメだよ」
     亜梨に続いて、雪花が霊障波を放つ。セイヴィーアも再び影で彼を縛り付けた。
    「大丈夫。その心があれば君はもっともっと強くなれる。闇に心を委ねる必要などないんだ」
     諭すような声と、呼び起こされたトラウマに星彦はうずくまる。いや、トラウマのためだけではない。しゃがみこんだ彼の口からは姫子の名前と、「ごめん」という言葉が溢れ出していた。灼滅者達の説得に、ついに彼は思い出したらしい。
     自分が強くなった理由、姫子のことを。
     だが、彼の中のダークネスはまだ戦いをあきらめていない。黒いオーラを纏い、星彦は再び立ち上がった。いいや、正確には彼の中のダークネスが、だ。
    「……まだ……まだだ! 決着は、ついていない……」
     集気法で態勢を立て直し、構える。だが前ほどの勢いはない。それを見てとり、璃理もチェーンソーと解体ナイフを両手で構えた。きっとここからが、ダークネスとの最後の戦いだ。
    「さぁ、勝負ですよ彦星君! 私のジグザグと君のキュア、どっちが上か競いましょう!」
     踊るような剣舞で相手の身体をズタズタに引き裂く。その上からヨギリは炎を纏った激しい蹴りを放った。瑞樹がディーヴァズメロディで催眠をもたらし、セイヴィーアが指輪から放たれる魔法弾で動きに制約を加え、 亜梨が確実に仲間の傷を癒していく。負けじと星彦は超硬度の拳を神楽に向かって繰り出したが、盾が砕かれても、神楽はその攻撃をしっかと受け止めた。
    「ふ。本当の強さっち、受けきること! 見てろ、星彦。僕は逃げも隠れもせん。これが、強さやからな!」
     そう言い放ち、シールドで殴りつける。
    「山に籠もり力を手に入れた。……されど、山そのものを穿つ力を持つには至らんかったようやな!」
     もんどりうって倒れた星彦。そこにリズリットが正面から突っ込むと見せかけ……急に動きを止めた。戸惑う彼に向かって、彼女は勢い良く抜刀する。
    「筋肉バカと力比べなんかするわけないじゃない。殺し合いに卑怯もへったくれもないのよ。ああ、神よ卑怯な私をお許し下さい。はい許された続けてぶった斬るー!」
     勢い良く振り下ろされた刃。積み重なった状態異常が、避けることを許さない。ぶった斬られた星彦は、集気法も間に合わないほどズタボロだった。見てて可哀想なぐらい、と匠は寄生体に殲術道具を飲み込ませる。
    「終わりにしようか。力試しは、もう十分だろう?」
     そして閃いた彼女のDMWセイバーが、ダークネスの野望を断ち切った。

    ●そして七夕へ
    「頑張ったね、六太」
     匠が、六太のふかふかの毛並みに頬を寄せてもふもふする。その傍ら、ヨギリは倒れた星彦を介抱していた。幸いにも彼には灼滅者の素質があったようで、命に別状はない。ただ、やっぱり体型は戻らなかった。顔だけ優男のムキムキマッチョのままだ。若干ムキムキ度合いが低くなったぐらいで。
     そんな星彦を見やり、リズリットは呆れたように言う。
    「……で、結局この人は何がしたかったのかしらね。まぁ、言うべきことはひとつかしら。身体だけじゃなく心も鍛えろ! まずは48時間耐久聖歌独唱マラソンから始めてもらうわ」
    「それは……ちょっと、かわいそう、かも……それより、星彦お兄さん……よかったら、武蔵坂学園に来ない……?」
     ヨギリが星彦の顔を覗き込んだ。
    「む、武蔵坂学園……?」
     星彦が問う。その問いに応え、瑞樹が簡単に武蔵坂学園の説明をする。
    「星彦のような人も、たくさん武蔵坂学園にはいらっしゃいますよ」
    「俺のような人も?」
    「うん、まぁ……この学園では何でもアリだし、ムキムキなイケメンもある意味特殊では無いので、きっと溶け込めるんじゃないかな。自力で優男を卒業したんだからきっと君は強くなれるよ」
     亜梨も優しく声をかけた。
    「よろしければ、同じストリートファイターとしてボクサーなどが行う減量方法を考えましょう」
     瑞樹も言う。話を聞いて興味がわいたようで、星彦は前向きに考えてみるよ、と微笑んだ。
    「姫子さんとの恋がどうなるかは誰も分からないけれども、たまに会いに来れるといいね」
     亜梨の言葉に、璃理は笑って言う。
    「たまにと言わず、毎日でも良いのですよ♪ 今なら頑固オヤジも倒せるでしょうし!」
     現代版織姫と彦星。二人の間にある障壁はなくなったわけではない。
     だが、彦星は闇から救われた。これからはきっといい方向に進むだろう、と灼滅者達は思うのだった。
     ……今の彼を見た織姫が引きさえしなければ。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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