妹は金髪外人小学生!?

    作者:るう

    ●昼休みの中2-B
    「おっ兄ちゃ~ん♪」
    「うわ馬鹿クリス! 教室まで来るなっていつも言ってるだろ!」
     これだからシスコンは。
     そんなクラスメイトの視線が痛い。アユムは汚名を返上すべく、一月前に突如現れたこの外人小学生妹に、今日こそはガツンと言ってやろうと決意した!
    「いいかクリス。お前の国じゃどうだか知らんが、日本じゃ小学生が勝手に中学校に入るのは大罪なのだ! それをお前は……」
    「はいお兄ちゃん、私お手製のお弁当♪」
     ぐはぁっ!? 唐突にそれは反則だ!
     ひとしきり悶えた後に正気を取り戻し、慌てて周囲の反応を見るアユム。
    「いよっ、憎いねぇ色男!」
     遠くから野次を飛ばす男子。
    「前はかっこいいって思ってたけど、思って損したよね~」
     囁き合いながら距離を取る女子。ああ、憧れのあの子まで!
    「畜生め! こうなりゃ毒を喰らわば皿までだ! クリスのためなら、俺はシスコンでもロリコンでも、何にでもなってやらぁ!」

    ●武蔵坂学園、教室
    「……って感じにソロモンの悪魔になる人がいそうだよっ!」
    「その通りだ! その淫魔クリスは、アユムなる少年を誑かして闇堕ちさせ、自らの手駒にせんと目論んでいる!」
     神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)のそんな予感は、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の未来予測により裏付けられたのだった!
    「クリスは、アユムの海外赴任中の父親が現地で作った隠し子と称し、彼の家に上がり込んだ! 母親は既にその支配下にあり、アユムも今やこの妹に愛情を抱くに至っている!」
     ヤマトが弾き出した計算によると、灼滅者らに許された猶予は一週間! その間にアユムの怒りを買わぬようマユを灼滅せねば、強力なソロモンの悪魔が生まれる事になる!
    「絶対に避けるべきは、淫魔と悪魔、両者の邪悪な共闘が生まれる事だ!」
     それを防ぐには、強襲して淫魔だけ灼滅し、それを受けてアユムが闇堕ちするようなら、彼も可能な限り灼滅する、という力技だけでも十分だ。
    「が、アユムの闇堕ちを防げるのなら、それに越した事はない! 淫魔の設定を逆に利用すれば、アユムが闇堕ちせぬよう、クリスへの愛を萎えさせる事もできるだろう!」

     二人は、朝に中学校の校門で別れ、昼休みにクリスが教室に突撃、下校時にまた合流するという毎日を繰り返す。
    「が、アユムと別れてからのクリスの行動は、俺の未来予測にも現れなかった! 合流直前と直後を除けば、敵の『バベルの鎖』に察知されてしまうと考えた方がいい!」
     作戦の遂行のためには、中学生で通せる灼滅者は、望むなら転入を装う事も可能だ、とヤマト。それ以外の灼滅者は、クリス同様に教室まで押しかけてもいいし、ESPを活用して潜入してもいい。
    「後は、クリスの戦闘能力だな。クリスは、ダークネスにしては強くはない! サウンドソルジャー同様のサイキックの他は、せいぜい爪で引っ掻くくらいだろう!」
     が、闇堕ちしたアユムは、そんな淫魔が手駒に選んだだけあって、戦って勝てない事はないが困難な敵だ。
    「妹という存在に魔術的真理を見出すに至った彼は、魔法使いのサイキックに加え、妹の名を記した札を護符揃えのように使ってくる筈だ!」
     そんなソロモンの悪魔を世に放てば、いろいろと大変な事が起こるに違いない。だからヤマトは、最後をこう締め括った。
    「お前たちが最低限の成功に満足せず、より良い結果を目指してくれる事を、俺は期待している!」


    参加者
    森野・逢紗(万華鏡・d00135)
    神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)
    宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)
    朧月・咲楽(神殺しのサクエル・d09216)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)
    飯倉・福郎(肉と奇談とコック帽・d20367)
    月叢・諒二(月魎・d20397)

    ■リプレイ

    ●一日目、朝
    「えーそれでは、このクラスに来た転入生を紹介します」
     朝のホームルーム。先生の言葉に教室じゅうがざわめく。こんな時、どうしても好みの異性を期待してしまうのがお年頃ってものだ。男女問わず。
    「宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)です。よろしく」
     絢矢のほんわかとした微笑みに、女子たちが黄色い声を上げた。けれど絢矢のほうは、そんな女子たちに愛想よく返しはするが、誰にも興味を示しはしない。
     幼く見えるのでそう違和感はないが、絢矢の本当の学年は高二で、好きな女性はお姉さんタイプなのだから。
    (「ああ、空から奥ゆかしくてちょっとエロくておさげのお姉さん落ちてこねーかな!」)

    「月叢・諒二(月魎・d20397)だ。仲良くして欲しい」
     諒二も実際は高二だが、こちらはどう見ても年齢相応だった。隠せぬ違和感。だが、彼が学年を偽っていると断定する証拠などあるものか。
    (「欲望を操り人心を惑わすダークネス、淫魔か。成程、それも確かに強さの一種。やって来た時には学ばせて貰うよ」)
     彼にも、朧月・咲楽(神殺しのサクエル・d09216)や飯倉・福郎(肉と奇談とコック帽・d20367)のように裏方に徹したり、他にも兄として押しかけてくる方法はあっただろうに。
     そこを堂々と押し通さんとする彼には、違う強さがあるに違いなかった。

     そして三人目。
    「この度転校してきた森野・逢紗(万華鏡・d00135)です。よろしくお願いするわね」
     一見、犬耳が垂れたようにも見えるメッシュ入りの髪。一方で、飾らない淡々とした口調は、まるで猫を思わせた。
     男子たちの視線が集まる。
     その中にはもちろん、アユムの希望にすがるような眼差しも含まれていた……だって転校生が相手なら、クリスのせいでついた悪評も無縁じゃないか!
     そんな彼の期待に応えるかのように、逢紗はちらりとアユムの方を見たのだった。
     それが果たして何を意味するのか、アユムはまだ知らない……。

    ●一日目、昼
    (「授業終了前からスタンバイ、か。用意のいい淫魔だ」)
     物陰で蟹の足を齧りながら、クリスの様子を窺う咲楽。潜入して演技するのも悪くはないが、こうして自由に調査を進めるのも気楽なものだ。
     チャイムが鳴る。すかさず教室に飛び込むクリスが見える。
    (「この後は皆に任せよう。教室にいてはできない事、それが俺の仕事だからな」)
     弁当代わりの蟹の足を折って噛み千切ると、咲楽はそっとその場を後にする。

     一方その頃、教室の中では。
    「おい馬鹿クリス……転校生が来たばっかりなのに誤解されるだろ!」
    「えっ? お兄ちゃん、もう転校生に色目使う気満々なの?」
     ざわつく教室。慌てるアユムに、男子たちの恨めしい視線が刺さる……シスコンが転校生まで狙うとは、少しは身を弁えろ、と。
     そんな中、中一の教室から神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)までやってきたからもう大変!
    「ゆき、アユム先輩を一目見た時から、素敵だなって思いました!」
     妹、転校生、後輩……この女たらしめ爆発しろ。教室中にそんな男子たちの怨念が渦巻く中、クリスがつかつかと結月の方へとやってくる!
    「お兄ちゃんはあんたなんかに渡さないんだからね!」
    「大丈夫、わかってるよその気持ち。だってアユム先輩、頼りになるもんね!」
     結月が悪意を共感で受け流せば、クリスにできるのはただ、アユムにくっつく事くらい。
     ああ、恋の鞘当て……などとは言えるのは第三者だけだろう。大きな溜め息が、アユムから漏れた。
    「誰か……この馬鹿クリスを放り出してくれ……」
     その時ひょいと、教育実習生か何かだろうか、スーツの男が通りがかって騒ぎの様子を覗き込んだ。
    「いけませんね、部外者の方がいるのは」
     男――天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)はひょいとクリスの襟首を掴むと、喚く彼女をぶら下げたまま、何事もなかったかのように廊下を歩き去っていった。

    ●二日目、昼
    「おっ兄ちゃ……」
     クリスが凍った。
     教室に、既にイチャラブしてる兄妹がいた。いや、果たして彼を『妹』と呼んで良いものか。
    「えへへ、おにいちゃん。きちゃった」
    「亜樹ちゃん可愛い! 世界一可愛いよ!」
     絢矢と、彼の妹役の小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)の様子に、周囲は完全にドン引きしていた。いや内心、絢矢も物凄い勢いでドン引きだけど。
     君、男の子だよね? なんで君、弟役じゃなくて妹役に立候補したの? いや絢矢も決して弟とならイチャラブしたいわけじゃないけれど!
    「寝る時もお風呂に入る時も一緒だよー!」
    「うん! おにいちゃん、だいすきー!」
     とんでもない言葉を口走る自分を他人事のように感じつつある絢矢とは裏腹に、亜樹は極上の笑みを浮かべながら彼に迫る……演技だとしても、将来が甚だ心配である。
    「きみクリスチャンっていうんだ。クリスちゃんも、おにいちゃんのことがすきなんだね」
     お弁当を絢矢にあーんしながら訊く亜樹に、クリスの対抗心が燃え上がった。あーんに勝てる唯一の餌付け方法……それは口移し!
    「さ、流石にそれはやめろぉ!」
     逃げ出すアユムを、弁当片手にクリスが追う!
     誰もが遠巻きに距離を取る中に、玲仁が再び通りかかった。
     彼はまたもや無造作に、クリスと亜樹の襟首をそれぞれの手で掴む。そして文句を言う二人をぶら下げたまま、何事もなかったかのように廊下を歩き去っていった。

     胸を撫で下ろしたアユムの肩を、諒二が叩いた。
    「全くなっちゃいない。なっちゃいないよアユム君」
     どういう事だ、と問う彼に、諒二は。
    「アユム君。君はあの子の兄なんだろう? 汝、妹と対するならば、まず兄たるべし……もう少し毅然とした態度を取るべきだ、と僕は思うね」
     毅然と、か……と繰り返すアユムに、彼はさらなる一押しを付け加える。
    「君だって、宮廻君らのようになりたくはないだろう。一番彼女を正せるのは、他ならぬ君じゃないのかい?」
     アユムは顎に手を当てたまま、しばらく何も言わずに考え込んでいた。

    ●三日目、昼
    「お兄ちゃん……私のこと、嫌いになった? 昨日の夜も、あんな事言って」
     両の瞳を潤ませるクリスの顔から、アユムはわざと目を逸らす。
     昨晩、二人の間にどんな会話があったのかは、想像するしかない。けれど、それがクリスにとって甚だ不満なものだった事は、クラス中の誰もが感じ取っていた。
    (「転校生と後輩を獲るために妹を捨てにかかったか……」)
    (「その妹、捨てるくらいなら俺に寄越せ糞野郎……」)
     殺意を募らせる他の男子。それが自分たちには向いていないのをいい事に、亜樹は今日も今日とて絢矢にべたべたくっついていた。
    「はい、きょうもあーん。どう? おいしい?」
    「ウン、オイシイヨー……」
     そういえば亜樹、昨日は絢矢を引きずるように『腕を組んで』帰ってたっけ。……演技だよね? 本当にアユムの反面教師になるための演技だよね?
     一方のクリスは、構ってくれないアユムに後ろから抱きつく。一瞬にやけかけたアユムが楽しんでるのか嫌がってるのかはわからないが、あんまりそういうのはやめろよな、と注意する彼の口調は、以前より真剣味を帯びていた。

     三たび、教室前を通りかかる玲仁。
     彼はまたまた無造作に、やはりクリスと亜樹の襟首をそれぞれの手で掴むと、不満げな二人をぶら下げたまま、何事もなかったかのように廊下を歩き去ってゆく。

     女子たちも教室の隅に固まって、声を潜めて噂し合っていた。
    「嘘……あのアユムを上回るシスコンがいるなんて!」
    「どうしよう……アユムがなんかマトモに見えてきた……」
     嫌悪感が、次第にアユムから絢矢へと矛先を変えてゆく。彼女らの噂話の輪の中には、逢紗の姿も混ざっている。
    「きっと今まで、優しすぎて嫌って言えなかっただけなんじゃないかしら? 妹の事さえなければ、頼りにはなるのよね?」
    「ほんと、それさえなければねー。あの後輩ちゃんも、あいつが妹といつもあんな感じなんて知ったら可哀想!」
     アユムに良い面がある事自体は、クラスの誰もが認めはするのだ。後は……彼のそれを上回る欠点を、どのように取り除くか。
    (「急いでも仕方ないわ。感触は掴めたんだから」)
     思案して、逢紗は再び噂話へと戻るのだった。

    ●三日目、夕方
    「兄妹というのは良いですねぇ。生まれながらの信頼で、愛情が結ばれる。素晴らしい事ですが……はて。彼の場合はどうなのでしょう?」
     誰もいない校舎屋上に、一つの影が伸びる。
     コック帽を弄ぶ手。福郎は手を繋いで帰るアユムらの姿を眺めながら、にやりと口元を釣り上げて独りごちる。
    「それにしても彼の周囲には、淫魔な妹に、小悪魔系アイドル後輩、ケモミミ風少女に男の娘兄弟……」
     彼は、ふと手を止めて首を傾げた。
    「……あれ、大人の女性枠は?」

    ●四日目、昼
    「あー、あの子また来てる」
    「あのシスコンの、一体どこがいいのかしらねー?」
     今日の噂の中心には、結月の姿があった。
    「あの……先輩! もしご迷惑でなければ、これ食べて下さい!」
    「この弁当……手作りか? 本当に貰ってもいいのか?」
     結月とアユムのそんな微笑ましいやり取りも、クリスにしてみれば横取りもいいところ。
     むすっと頬を膨らませるクリス。その額を、アユムが小突く。
    「ほら、家に帰ったら幾らでも遊んでやるから。毎日俺の所に来てばかりいると、学校の友達に笑われるぞ?」
     ざわ……ざわ……。
     あのシスコンが、妹に逆に攻勢に出るなんて!
    「その優しいたしなめ方、アユム先輩、素敵です!」
     結月の目が輝いた。事ある毎に逢紗がアユムは優しすぎると吹聴してきたクラスの中に、結月の声は呼び水のようにアユムへの評価を呼び起こしてゆく。後は、彼の努力次第か。
    「お兄ちゃんのバカっ! 明日は必ず、お兄ちゃんを私のものにしてやるんだから!」
     教室から駆け出してゆくクリスの姿を、今日の玲仁は不思議そうに見送った。
     とりあえず彼は、今日も好き放題遊んでいる亜樹の襟首を掴むと、いつも通りに廊下を歩き去っていった。

    ●四日目、夕方
     再び屋上。
    「明日あたり、クリスが本気で動きますかねえ」
     楽しげに包丁を研ぐ福郎の隣で、何かがバキリと音を立てた。
     咲楽だ。蟹の足を無造作にもいだ彼は、それを噛み砕くと福郎に答える。
    「恐らく、昼だろうな。昼休みならライバル達に逃げ場はない……クリスは恐らくそう考えているはずだ」
    「ですが、二人に合流されると引き離すのが面倒、ですか」
     包丁を夕日に透かすようにしながら、福郎は続ける。
    「合流を阻止するためのアイディア、あるんでしょう?」
    「それを考えるために、俺たちは一歩引いたところにいた。そうだろう?」
     蟹の足を一本、福郎に放り投げると、咲楽はさてと、と立ち上がる。
    「打ち合わせをしておこう。きっと、神崎が上手くやってくれる」

    ●五日目、四時間目の授業中
     アユムは授業を、聞くともなしに聞いていた。
     ぼーっと時計を眺める彼の脳裏にこびりつくのは、先ほどの休み時間にやってきた結月の照れ笑い。
    『アユム先輩……あの、お話があるんです。四時間目の授業中、妹さんが来る前に抜け出してきてくれませんか?』
     結月の話とやらが一体何か、全く気付かないアユムじゃない。けれど果たして、彼女に応えるべきか……。
     逢紗ら三人も、彼の言動に細心の注意を向ける。アユムの動き次第では、彼らのここからの行動も変わるのだ……と、その時だ。
    「先生。ちょっと腹が痛くて我慢できません」
     手を上げるアユム。
    「仕方ない奴だな。ほら、無理せず行け」
     呆れ顔で送り出す先生を振り返る事もなく、彼は廊下を忍び足で進む。

     一方、屋上にて。
    「無事アユムが出てきたか。クリスの方はまだ来てないな?」
    「じきに来るでしょう。ここまで持ち込めれば説得など不要、盛大に暴れるといたしましょうかねぇ……おっと、あそこに」
     クリスの影を見つけた福郎がコック帽を被れば、咲楽は景気づけに、音を立てて蟹の甲羅を噛み砕く。
     二人の殺人鬼は、音もなく屋上を後にするのだった。

    ●五日目、昼
    「おっ兄……あれ?」
     アユムの姿が見当たらず、首を傾げるクリスに、ああ、アユム君なら授業中に出て行ったよ、と諒二。
     それを聞くと、クリスは慌ててアユムを探しに出て行った。

     彼女がしばらく行くと、その前に、四つの人影が立ちはだかる。
    「珍しいですねぇ。東洋系のハーフでその金髪とは」
     福郎の殺気が膨れ上がる。状況を察して逃げようとするクリスの腱を、咲楽の刀が一閃して断った。
    「お前の企みなど、全て承知の上だ。大人しく灼滅されるといい」
    「ぼくの演技、上手かったでしょ。妹役、楽しかったよね……でも、ここまでだよ」
     無邪気な笑みを浮かべる亜樹は、演技を本当に楽しんでいたのだろう……そしてこれからの戦闘も、ただ無邪気に力を振るうだけだ。
     強烈な魔力の一撃に、クリスも思わず膝をつく。
     玲仁は、スーツと併用はできなかったチョーカーを、愛しげに首に巻いた。その途端、隣に現れる女性の姿。
    「響華さん、ごめんなさい……貴女から貰ったチョーカー、今まで外していて。でも女性なら、貴女が一番好きです」
     愛を込めた歌声が、立ち上がろうとするクリスの力を奪う……。

     後方からも、すぐに援軍がやってきた。
    「あんたの『力』、確かに興味深くはあった。だがここからは、俺の力も見せてやるさ」
     諒二の拳に篭もった力が、淫魔を軽々と弾き飛ばしたところへと。
    「一体、なんでわざわざ妹っていう立場をで堕とそうとしたのかしら?」
     逢紗の拳が鬼となり、容赦なくクリスを叩き伏せる。大切なものであるべき兄妹の絆を悪用する、許し得ぬ敵を。
     それらの拳と比べれば、必死に立てられるクリスの爪の、何と小さな事か。彼女がつけた傷跡は、すぐに結月のナノナノにより癒される。
    「よくもこんな大雑把であざといチープな設定で、人の心を弄んでくれたものだね。悪くはない……けれどあんた、萌えない」
     絢矢のストールは槍となり、クリスの体を貫いた。
     彼がそれを引き抜くと同時に、淫魔の体は無数の泡と消えていった。

    ●闇との別れ
    「ごめんっ!」
     アユムは結月に頭を下げた。
    「気持ちは嬉しいけど……今の俺には、資格がないんだ。クリスの事、知ってるだろ?」
     無茶で、強引で、だけど見捨てるわけにはいかない妹。それをどうにかするまでは、次の事など考えられない、と彼は言った。
    「それじゃあ……もし、妹さんが突然国に帰ったりしたら?」
    「そうなれば、きっとあいつも幸せだろうに……ま、もしそんな事があったとしても、しばらくはクラスに迷惑かけた分の尻拭いに専念だ」
     その後でまだ俺に興味があるのならその時に、と言い残し、アユムは結月に背を向ける。
     校舎に戻るアユムの背中は、結月には大きく映っていた。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
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