繰り返される結末

    作者:猫御膳

     もう梅雨というのに全然暖かくならない。しかし遮る物が無く、夕焼けは容赦無く照らす。それでも風が吹き荒れるので、暖まる事無いまま冷えていく。
    『それじゃ一緒に』
    『うん。いつまでも、一緒だよ』
     誰の手も付かない、十年以上放置された工事現場。その工事現場の屋上から2人の少女は手を繋ぎ、飛び降りて姿を消した。

    「ねー、あれって私達が子供の頃にあるよね?」
    「その台詞、何度目だろうな……」
     制服姿の少女が隣を歩いてる同じく制服姿の少年に話し掛け、少年は遠い目をしながら呟く。
    「え、以前と違う場所だよ?」
    「あ、マジだ。んで、そこがどうしたって? また変な噂があるのか?」
    「あ、知ってたんだ?」
    「マジかよ……」
     辟易しながらも冗談交じりにそう言うと、少女は驚いた顔を見せ、少年は頭を抱える。
    「けれど、どんな噂かは知らないでしょ? この噂が知りたければ、今度の土曜にアイスを所望する!」
    「帰ろう」
    「無視は良くないんだよー!?」
     さり気なく帰ろうとした少年を少女が捕まえ、週末にアイスどころか映画まで奢らされる事になって、少年は疲れ果ていた。
    「つまり、夕暮の工事現場に飛び降りる少女の霊が毎日出る、という事か?」
    「そうだよ。それも2人だね。何でも、結ばれない女の子達が自殺するってさ」
    「リアル百合、だと……?」
     私にはちょっと分からないかな、と苦笑する少女。そんな事お構い無しに、少年は疲れなんて吹き飛んだような顔をする。当然、少女の視線は冷たくなるのだった。


    「……人の噂も、七十五日だった、筈?」
    「私に言われても困る。そもそも今度は違う場所だ」
     また都市伝説が出現すると予感していた渡橋・縁(神芝居・d04576)は、本当に出現すると聞いて曲直瀬・カナタ(中学生エクスブレイン・dn0187)と顔を見合わせる。
    「ぁ、集まってくれて、ありがとう、ございます。実は、工事現場で、都市伝説が、出現するから、倒しに行きません、か?」
     教室に灼滅者達が集まったのを気付き、縁は振り向いて礼をする。そして簡潔に説明をしながら少しだけ首を傾げる。
    「詳しい事は私が説明しよう。ある街の放置された工事現場の屋上に、夕暮時に都市伝説が現れる。これをみんなで灼滅して欲しい。屋上と言ってもフェンスも無く、剥き出しの状態だ。風は通り道故か、結構吹き荒れている」
     潜入するのは簡単だな。普通に塀を乗り越えば良い、とカナタは説明する。
    「実は此処で飛び降り自殺をした少女がいた、と昔から噂されていたらしい。それが何時の間にか、結ばれない2人の少女が、あの世で結ばれる為に自殺、という事になっている。それでも結ばれず、結ばれる為に、毎日飛び降りる姿があるらしい」
     歪まされた噂ほど怖いものは無いな……、とカナタは呟く。
    「この工事現場の高さはビル15階分ぐらいの高さだ。そして、都市伝説が出現する方法だが、屋上の端で同性同士で手を繋いで見詰め合う事だな。別に同性に見えるのならば、異性でも良い筈だ。それはみんなに任せる。他の者は出来るだけ離れた方が良いな。屋上で隠れられると言っても塔屋ぐらいしか無いが……」
     要は2人きりのような状況が好ましい、と補足する。
    「手を繋いで見詰め合えば、20秒後ぐらいに都市伝説が実行者達を挟むように、それぞれの背後に出現する。都市伝説は中学生ぐらいの少女が2人。ブラウス姿の制服で、2人とも黒髪だ。2人とも武器を持っていないが、髪が長い方が縛霊手、髪が短い方が護符揃えのような攻撃をしてくる」
     都市伝説自体はそれほど強くは無いが、油断は禁物だとカナタは真面目な顔をして言う。
    「注意すべきは弱っている者、または戦闘不能者が居れば、真っ先に狙われて一緒に心中をしようとする事だ。これはサイキックでいう、地獄投げに近いな。後は髪が長い方が庇ったりして連携が上手いと思うが、みんなだったら心配あるまい。高所恐怖症でもなければ大丈夫だ、きっと」
     良い報告を期待してる、とカナタは説明を終え、縁が集まってくれた灼滅者へと一歩近寄る。
    「……えっと、みなさん、このような、ちょっと面倒な依頼、ですが……一緒に、頑張り、ましょう。頑張って、くれる方が、嬉しい、です」
     そう言いながら縁は、ぺこりと礼をして、お願いするのであった。


    参加者
    小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)
    各務・樹(カンパニュラ・d02313)
    玖渚・鷲介(炎空拳士・d02558)
    葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893)
    深火神・六花(火防女・d04775)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    雑釈谷・ヒョコ(光害・d08159)
    深山・戒(翠眼の鷹・d15576)

    ■リプレイ

    ●放置されし工事現場
    「なんとも、生身の人間じゃ飛び降りれば即死かな?」
     深山・戒(翠眼の鷹・d15576)はサングラスの縁に指を掛け、ビルを見上げる。中途半端に建設されたビルは何処か物悲しさを漂わせ、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。
    「さぁて、報われない二人を解放しに行きますか」
     気負わないように呟き、他の仲間に遅れないようにと彼女はビルを登っていく。
    「同姓の恋愛とかよく解らないが、相手が都市伝説なら灼滅でしょ」
     何とも奇妙な都市伝説だと思いながらも、やる事は変わらないと、葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893)は階段を登りながらさらりと言い切る。
    「あまり生産的ではない関係だな。何故死ななければならないのか、理解に苦しむ」
     首を傾げながら、心底不思議そうに神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)は同じく階段を登りながら、疑問の声を上げる。
    「そもそも百合とは? 芍薬や牡丹と並び立つ、ということか?」
     何やら意味が分かってない彼女に対し、灼滅者達に微妙な空気が流れる。年長者の彼女に何と言えば良いのか、判断に迷うようだ。
    「教えても良いが、神埼さんは学園に帰ってから教えて貰うが良いと思うぜ」
     一番前で階段を登っている玖渚・鷲介(炎空拳士・d02558)が、とりあえず学園の人達に任せようと判断を下し、他の灼滅者達も同意する、
    「やっと着いた。て、うおお、高いぜ……こっから落ちたらやばそうだけど灼滅者なら大丈夫かな。いやでもそんな体験ごめんだぜ」
     屋上に着けば、先ずは夕焼けが目を差す。片手で夕焼けを防いで端に行けば、吸い込まれそうな光景が夕焼けに照らされて広がっている。その光景に、数人に灼滅者達が声を上げるのだった。
    「一緒に、ですか……」
     梅雨だというのに、じめじめとした空気は全て風が吹き飛ばすように、深火神・六花(火防女・d04775)の服を靡かせる。ビル15階分の高さは見晴らしが良く、遮られる事も無い夕焼けと風に容赦無く晒される。風によって乱れる黒髪を抑えながら、戦闘の時には腰に差している筈の愛刀へと目を向ける。
    「ごめんね「初芽(うぶめ)」、今回、あなたはお休みみたい」
     勿論、スレイヤーカードを解放して今では、愛刀を持ち歩いてない。それでも、その場所に手で触れながら、我知れずと苦笑する。そんな彼女の視界には、金髪の女性が女性が同じように髪を靡かせて立っていた。
    「(今まで何度かカップルでの囮はやったけど、このパターンはなかったわね……)」
     奇しくも彼女もまた、苦笑しているかのようだった。そして、そっと自分の右手の薬指に嵌められた指輪に、大事そうに触れる。まるで、本当に隣に居て欲しい人が居るように。
    「ねぇ、六花ちゃん。こっちに来てくれる?」
     一瞬だけ、塔屋の方へとさり気なく視線を向けた各務・樹(カンパニュラ・d02313)は、誘うように声を掛ける。一方、その塔屋には、
    「終わらない心中の繰り返し、か」
     屋上に着いた途端に、既に塔屋の陰に潜んでいる小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)は、つい考えてしまう。考えようによっては「ずっと一緒」なんだろうが、本人達はそれで幸せなのだろうか、と。そんな事を考えていれば、他の灼滅者達も既に準備を整えているようだった。
     無論、未だに都市伝説の姿は見えない。見えるのは黒髪の少女と金髪の少女の姿。そして寄り添うにように伸びる、2人の影だけだった。

    ●都市伝説
     仲間が隠れ易いようにと死角が多くなる場所を計算し、六花の手を取ってリードする樹。そこは流石年上と言うべきか、動きにも淀みが無い。念の為にサウンドシャッターを展開し、そのまま指を絡ませて見詰め合う。
    「……絶対、一緒に……」
     六花も樹の指を絡ませ、ついそんな言葉が漏れる。それは決意なのか、それとも大事な人を重ねているのか分からない。お互い言葉も無く、夕焼けに照らされながらも無言で見詰め合う。そして、急に風が止んだ。
    「六花ちゃん!」
     逸早く気付いた樹が、繋いでいた手を引き寄せる。その樹に引き寄せられながらも六花は自動的にスレイヤーカードを解放し、逆に抱き寄せながらも迫り来る拳を炎を纏わせた脚で蹴り逸らす。
    『私達以外に、こんな場所に居るだなんて』
    『何て無粋な方々なんでしょう』
     そこにはクスクスと笑う、2人の少女の姿の都市伝説。一見は普通の女子学生に見えるが、畏怖するような雰囲気を纏わせたまま、髪が短い都市伝説が掌を2人に向けようとする。一撃目を無理に避けた為に、体勢が崩れた2人は避けれる筈もなく、衝撃に耐えようと覚悟する。
    「高い所に私在り!」
     雑釈谷・ヒョコ(光害・d08159)が塔屋の上から飛び降りながら無意味に改心の光を放ち、己の片腕を異形巨大化させて、わざと2人の都市伝説を離れさせるように真ん中へと殴り掛かる。2人の都市伝説は互いに弾けるように左右に避けようとし、それを追撃するように髪が長い都市伝説へと裏拳を放つ。
    「現世で結ばれなかったからって、黄泉で結ばれるとは限らないよ。大人しく往生しな」
    「逝くなら2人で仲良く逝けば良い、他人を巻き込むな!」
     ESPの壁歩きで、文字通り側面から屋上へと歩いて現れた戒は、サングラスを外して髪が長い都市伝説の背後から斬り裂き、摩耶が飛び出すように死角に回り込んで斬り上げる。
    「犠牲者が出ないとは限らないし、灼滅します」
    「奔れ! 意志の刃ッ!」
     空飛ぶ箒で駆け付けた一樹は素早く飛び降り、全身を回転させ断罪輪で斬り裂こうとするが受け止められる。だが、そこへいつの間にか懐へ踏み込んだ八雲が、左手のノイエ・カラドボルグを非物質化させ、魂を直接破壊するような斬撃を放つ。
    「集中攻撃ってな! セガール、行くぜ!」
     鷲介は朱砕を構え、捩じ切るように高速回転させて突き刺して、その隙に霊犬のセガールを囮役となった2人の間に割り込ませる。その姿を見た髪が短い都市伝説は、髪が長い都市伝説の傷を回復させる。
    『こんなにも人が居るだなんて』
    『皆さん、死にたがりなんですね』
     一連の戦いをしても、2人の都市伝説は笑い声を響かせる。その様子に、戦いはまだ始まったばかりだと痛感する灼滅者達は、素早く隊列を組み直す。
    「獅王争覇、貴様の初陣だ……存分に猛れ!!」
     クラウチングスタートのように低い姿勢で構えた六花を始めとし、一斉に動き出すと同時に、風が再び吹き荒れる。

    ●ずっと一緒に
    「久当流……襲の太刀、喰兜牙!」
     まるで地面を縮めたかのように一瞬にして距離を零にする八雲は、目に止まらぬ速度で荒神切 「天業灼雷」を振り抜き、髪が長い都市伝説の右腕を切り離す。しかし直ぐ様、髪が短い都市伝説がまるで映像の巻き戻しの如く、腕を接続させるように回復させる。
    『貴女が良いわ』
    『遊んであげる。ずっと、一生、離さないであげる』
     髪が長い都市伝説が六花の腕を掴もうとする。それを六花は腕を半獣化させて、身を低くした状態から振り上げるように引き裂く。しかしそれでも、都市伝説は怯まず掴もうとする。
    「3番・女帝」
    「いやまじ心中地獄投げとか勘弁なんで……さっさと倒そうぜ」
     そこへ樹と鷲介が割り込む。樹は護符揃えタロットカードを取り出し、守護するように護符に包ませて回復させる。そして鷲介は上から抑え込むように腕を掴み、もう片方の腕に雷を纏わせて拳を突き上げようとする。それに対抗するように髪が長い都市伝説は、呪を纏わせて拳同士をぶつけ合て、互いに吹き飛ぶ。
    「玖渚!」
     吹き飛ぶ彼はこのままだと屋上へ落ちると判断した摩耶は、躊躇無く跳躍して彼の足を掴んで屋上へと投げる。そして自身は、空中で更に跳躍して無事に戦場へ戻る。
    「高いとこってのは飛び降りて死ぬためにあるんじゃないんだからね!」
     その隙を埋めるように後衛から接近したヒョコが、マテリアルロッドをフルスイング状態で髪が長い都市伝説へと殴り掛かる。
    「上から見下ろして、他のやつより偉くなった気分になるためにあるんだよっ」
     殴った瞬間に魔力を注ぎ込み、一気に爆発させる。
    「それもどうなのだろう……?」
     一樹はヒョコの台詞に思わず呟き、足元から影で作った触手を放って髪が長い都市伝説を縛り上げる。その隙にセガールは、主人へと浄霊眼で回復しながら捕縛を打ち消す。
    「お前たちは、人の口から生まれた禍だ。肥大し歪んだ噂はここで断ち切らせてもらう」
     戒がエアシューズで摩擦を起こし、一瞬にして炎を巻き上げながら蹴り飛ばすように炸裂させ、髪が長い都市伝説を炎上させる。
    『あ~ぁ……先、行ってるね?』
    『ええ、すぐに私も行きますわ。ずっと一緒ですもの』
     髪が長い都市伝説と髪が短い都市伝説が、こんな状態でも自然に笑い合う。夕焼けに照らされながらも、そのまま消える髪が長い都市伝説に目を向けずに、灼滅者達に向き直り、にっこりと微笑む。
    「ああ、なるほど。これはねじ曲がっている」
     ならば此処で消し去ろう、と呟いた摩耶はフェイントを掛けながら一気に距離を詰めて、死角へと回り込んでからすれ違い様に斬り裂く。
    「所詮は根も葉もない噂ね。きっちり終わらせましょ?」
     その隙に接近した樹が、La pierre qui copie un souhaitを軽く押し当て、魔力を爆発させる。
    「本当の死を教えよう。久当流……始の太刀、刃星ッ!」
    「これで終いだ、後は天国でやりな!」
     吹き飛んだ髪が短い都市伝説へと、肉迫する八雲と鷲介。鷲介が機動百足から炎を噴き出してから叩き付けるように蹴り落とし、八雲がいつの間にか抜刀としたと思えば既に両刃を収める。その直後、髪が短い都市伝説は手を伸ばして、炎上しながら大きく斬り裂かれて消えていった。

    ●本当の終わり
    「無事に終わりましたね」
     本当、何でこんな噂話が起きるんだろう、と一樹は不思議そうに呟く。
    「まあ、これでしんどい自殺ループも終わりにできたんじゃないの?」
     そもそも恋愛とか心中とか分かんないし、とヒョコ手の平をひらひらさせながら言う。
    「いつまでも一緒とか言うなら生きてやればいいと思うんだけどな」
    「あの子なら……きっと」
     その方が絶対に良いのにな、とセガールを撫でながら呟く鷲介の声が聞こえた六花は、生き抜いてみせる……という風に掻き消えるな呟きを零す。
    「これくらいはしないと、浮かばれないかな」
     比翼の鳥を象った木彫りを屋上に供えようとし、戒が屈むと、横に樹が同じように屈んで花束を供えようとしていた。考える事は同じか、とお互い顔を見合わせ、微笑むように笑い合う。
    「これ以上、不幸な結ばれ方をする人が増えませんように」
     そんな祈りが響いた後に、一斉に灼滅達は帰る準備をする。
    「ところで百合とは何なのだ? 仲が良い女友達という意味なのか?」
     ずっと気になっていたのであろう、そんな摩耶の言葉に灼滅者達は笑い合う。そして最後に八雲が都市伝説が消えた場所を見た後に、風に紛れるように言葉を残して去るのであった。

    作者:猫御膳 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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