圧殺! 追っかけ! ロードローラー!!

    作者:悠久

     昼下がりのショッピングセンター。
     駐車場の片隅、ちょこんと作られたステージに、1人の少女が立っていた。
    「き、今日はわたしのライブを見に来てくれてありがとうございますっ!」
     緊張に上ずった声で一息にそう言って、ぺこりとお辞儀。
     揺れる左右の三つ編みおさげ。フリルとレースたっぷりの衣装から覗く大きな胸は今にも零れ落ちそうだ。
     しかし、ステージの前にはいかにも暇そうな2、3人のお年寄りがいるだけ。
    「都会に行った孫を思い出すのう……」
    「いやいや、うちのばあさんも若い頃はあれくらい……」
     などと好意的に向けられる拍手に、少女は満面のアイドルスマイルを浮かべた。
     観客が集まらないのはいつものことだ。何故なら、彼女はダークネス――大淫魔ラブリンスター様に憧れる淫魔アイドル『みーね』。
     バベルの鎖にも負けず、日々こうして細々とゲリラライブを行っているのである。
    「そ、それでは聞いて下さい! 憧れのラブリンスター様のナンバーで、『ドキドキ☆ハートLOVE』……」
     と、彼女が歌い始めた瞬間――ゴロゴロゴロ、と不穏な地響きが近付いて。
    「ロードローラーでござる!」
     バァーン! と現れたのは、桃色の車体のロードローラー。フロント部分にはにょきっと人間の頭部が生えている。
     ロードローラーはそのまま周囲を回り、集まっていたお年寄りを1人残らず追い払ってしまった。
    「ああ、せっかくのお客さんが……! ら、ライブの邪魔をするならどこかに行って下さい!」
    「そうはいいましても、拙者、アイドルのファンでござるから」
     フヒヒ、とイイ笑顔を浮かべ、ロードローラーはステージの真ん前に居座る。動くつもりは皆無のようだ。
    「さあ、歌ってくだされ! 拙者だけのた・め・に☆」
    「い、嫌ですぅ~っ!!」
     悲鳴を上げたみーねがステージから下りようとした瞬間、ロードローラーはキリッと表情を変えて。
    「歌わぬなら、殺してしまえ……アイドル淫魔!」
    「え、え? きゃあーっ!」
     ごろごろごろ……と、ロードローラーはステージごとみーねを轢き殺し、再びイイ笑顔を浮かべるのだった。

    ●武蔵坂学園
    「謎に包まれた六六六人衆『???』によって闇堕ちし、序列二八八位『ロードローラー』となった武蔵坂学園の灼滅者『外法院ウツロギ(毒電波発信源・d01207)』の話、1度くらいは耳にしているかな」 
     教室に現れた宮乃・戒(高校生エクスブレイン・dn0178)はそう前置きして。
    「分裂により日本各地に散ったロードローラーは、次々に事件を起こそうとしている。今回出現が予測されたのは、ピンク色の車体のもの……絡々君の予想通りだったね」
    「ふふっ、なんたって僕は探偵だからね!」
     隣に立つ絡々・解(一線の外側・d18761)が誇るように胸を張った。傍らに浮かぶビハインドの天那・摘木も小さく頷く。
     このピンク色のロードローラー、車体にはラブリンスターに似せたペイントが施されており、起こす事件も今までとかなり違うようだ。
     なんでも、ラブリンスター配下のアイドル淫魔のライブに突入して、集まった聴衆を追い払った上で、アイドル淫魔にライブを続けさせようとするらしい。
    「ロードローラーが満足するまで歌ってくれるなら問題ないけど、アイドル淫魔は途中で帰ろうとする。それに怒ったロードローラーは、アイドル淫魔を轢き殺しちゃうんだ」
     と、戒は事件現場の資料を灼滅者達へ配布した。
     ロードローラーが出現するのは、ショッピングセンターの駐車場に作られた小さな仮設ステージ。灼滅者達が到着する頃には、一般人の観客は全員逃げ出した後だ。
     残るはロードローラーとアイドル淫魔の、ダークネス2体だけ。
    「アイドル淫魔の名前は『みーね』。彼女を上手く利用すれば、戦闘力の高いロードローラーを有利に灼滅できるよ」
     利用って……と集中する微妙な視線はどこ吹く風、戒はにっこり笑って説明を続ける。
     方法は2つ。
     1つ目は、みーねと共闘すること。ロードローラーは最初に彼女を狙うので、灼滅者達はかなり有利に立ち回ることが可能となる。が、その場合、戦闘力の低いみーねは高確率で殺されてしまうだろう。
     そして2つ目は、みーねにステージ上で歌い続けてもらうこと。ロードローラーは一定の確率で攻撃を行わず、アイドル淫魔に声援を送るため、やはり有利に戦う事ができる。
     ただし、みーねは基本的に灼滅者に後を任せて逃げ出そうとする。共闘するにせよ歌ってもらうにせよ、うまく交渉する必要があるかもしれない。
     戦闘の際、ロードローラーは殺人鬼のサイキックの他、器用なウィリー走行で回転攻撃を仕掛けてきたり(ブレイドサイクロン相当)、歓声を上げたりする(シャウト相当)。
     また、アイドル淫魔のみーねはサウンドソルジャーと同じサイキックを使用。共闘する際のポジションはキャスターとなる。
    「ロードローラーの目的は不明だけど、車体を見る限り、なんていうかこう……趣味的な何かなのかもしれない。それから、アイドル淫魔のみーねについては君達に任せるよ」
     戦闘終了後に生き残っていた場合、そのまま別れても、その場で灼滅しても構わない。
     ただ、灼滅する場合は、ロードローラーがやったように見せかけておくと、より良いかもしれない。
    「ダークネスについてはそれぞれ思うところもあるだろうし、僕から掛ける言葉はひとつだけだ。……君達の活躍に、期待しているよ」
     戒は小さく頭を下げ、灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    葛木・一(適応概念・d01791)
    夏炉崎・六玖(夜通し常識外れのシミュレータ・d05666)
    逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)
    安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)
    菊水・靜(ディエスイレ・d19339)
    客人・塞(荒覇吐・d20320)
    佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)
    カトリーナ・レーゼ(放狼者・d26740)

    ■リプレイ


     徐々に傾き始める太陽に照らされ、灼滅者達はショッピングセンターの駐車場を駆け抜ける。
     重低音に揺れる地面。音の主であるピンク色のロードローラーは、今まさにステージ上のアイドル淫魔、みーねを押し潰さんとしていた。
    「させるかっ……!」
     鋭い叫びと共に飛び出したのは客人・塞(荒覇吐・d20320)。2者の間へ無理矢理に割り込み、間一髪、オードローラーの進攻を阻む。
    「追っかけにしてはやることが過激すぎるんじゃねーのか?」
     車体から突き出た顔へ声を掛ければ、向けられるのはイイ笑顔。
     とはいえ、その力は侮れない。気を抜いた瞬間に跳ね飛ばされそうだ。
     続けて飛び込む佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)。掲げた『-Close with Tales-』がピンク色の質量と拮抗し、やがて塞と共にその車体を押し返す。
    「ここがみーねちゃんのライブ会場やね? やっと見つけたっ」
    「わ、わたしのこと知ってるんですか!?」
     振り返って声を掛ければ、みーねは驚いた顔で三つ編みおさげを揺らす。
    「勿論だよ!」
     と、大きく頷く夏炉崎・六玖(夜通し常識外れのシミュレータ・d05666)は、再び突進するロードローラーから彼女を庇うように立ち塞がり。
    「みーーねちゃああん! 会いたかったよ! 後でサインちょうだい!」
     1ファンを装いつつも、周囲の音声を遮断。騒ぎに気付く一般人がいないよう、配慮は万全だ。
    「も、申し訳ないんですけど、サインはまたの機会にさせて下さいっ……!」
     3人が敵を押さえている隙に、みーねは慌ててステージを下りようとした。
     彼女の顔にありありと浮かぶ恐怖。ダークネスの中でも淫魔は非力。ロードローラーと正面から対峙すれば、容易く轢き潰されてしまう。
     ならばここは逃げるしかない。そう判断するのは当然だろう。
     だが。
    「ラブリンスターに憧れてるならここで逃げたらダメだぜ」
     葛木・一(適応概念・d01791)の言葉が、みーねの足を止めた。
     振り返るその視線を受け止め、一が浮かべたのは元気いっぱいの笑顔。
    「アイドルは、どんな時でも笑顔と歌を届けなきゃな」
    「で、でも……」
     怯えた表情でみーねが後ずさる。
     だが、すぐ後ろで逆神・冥(復讐者は何を語る・d10857)がその体を抱き留め、くるりと優雅に反転させた。
    「お前の歌がこの危機を救う。どうか歌ってくれ、私達のために」
     凛としたその眼差しに貫かれ、みーねの頬がたちまち赤く染まる。
     と、その時、ロードローラーが再度の突撃を図った。
     押し留めたのは安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)。エアシューズで巧みに勢いを殺し、重い車体を撥ね退けて。
    「彼は、えっと……あんなですけど、すごく強いのは分かりますよね」
     振り向くと、みーねへ柔らかな微笑を浮かべる。
    「貴女のためにも、ここできっちり倒しておきたいんです……協力して、もらえませんか?」
    「貴殿が逃げたとして、ワシらがここで奴を倒せるとは限らぬ」
     カトリーナ・レーゼ(放狼者・d26740)も、とどめとばかりに言葉を重ねて。
    「そうなれば、またいつライブの邪魔をしに現れるか分からぬぞ。それくらいなら、ここで協力して倒した方が良いのではないか?」
    「ラブリンスターであれば、襲われた時でも気丈に歌って見せるであろう」
     螺穿槍を繰り出しながら菊水・靜(ディエスイレ・d19339)が向けたのは、シンプルで的確な言葉。
    「憧れを、憧れで終わらせるのか?」
     鋭い双眸を向ければ、みーねはじっと俯き――やがて。
    「わかりました」
     顔を上げたそこには、決意の表情があった。今にも投げ捨てそうだったマイクをぎゅっと握り締める。
    「わたし……皆さんのために歌います! いつか、ラブリンスター様みたいなスーパー淫魔アイドルになるためにっ!!」
     そう言うと、みーねは準備のため音響装置へと走る。その背には強い決意がありありと見えた。
     これで彼女が逃げるようなことはないだろう。
     灼滅者達は気持ちを切り替える。ここからは、戦いの時間だ。


    「新手の客が8人と3体。ちょっと観衆っていうには役不足だが、ライブが続けられるように精一杯守らせてもらう」
     みーねが歌い出したのを確認すると、塞は足元の影を刃に変え、素早くロードローラーへと飛ばした。車体へ幾重もの浅い傷が刻まれる。
    「安心して、歌うといい」
     力強い言葉に、みーねはこくんと頷いて。

    「あなたは覚えてないのかな? わたしは絶対忘れない……♪」

     戦場には明らかに不似合いなアイドルソングに、しかしロードローラーは大興奮。
    『滾ってきたでござるーっ! フヒ、フヒヒヒヒ!』
     テンション高く車体から放出された漆黒の殺気が、たちまち後衛の灼滅者達を包み込む。
     だが、一が展開した巨大な法陣が即座に彼らの傷を癒した。霊犬、鉄も浄霊眼で回復を助ける。
    「ババーン! アイドルライブっていうんなら、派手に行かないとなっ!!」
     仄かに発光したオーラの法陣は、さながらイルミネーション。
     次の瞬間、法陣の内部から天魔の守護を受けた冥が飛び出す。
     妖の槍を構え、繰り出されたのは螺旋の如き一撃。だが、敵の車体は軽く傷つく程度に留まる。
    「成程、分裂したものとはいえ、高位の六六六人衆には変わりないか」
     武器を構え直し、冥はごくりと息を飲む。
    「だが、油断しなければ、勝機は必ず見える」 
     アスファルトを滑るように敵へ接近し、靜は間髪入れずグラインドファイアを叩き込んだ。
     摩擦熱に焦げるピンク色の車体。だが、にゅっと突き出た顔はさして堪えた様子も見せず、ステージ上へ熱い視線を注ぎ。

    「……すれちがった だけだったのに♪」

    『みーねちゃんに捧げるロ・マ・ン・ス!』
     Bメロ突入と同時に前輪を持ち上げ、その場で器用に一回転。前衛をことごとく撥ね退ける。
    「皆さん、大丈夫ですか……!?」
     刻はすかさず夜霧を生み出し、仲間達を包み込んだ。
     幸いにして、深い傷を負った者はいない。だが、今の攻撃がロードローラーのテンション、もとい破壊力を上げたようだ。
    「これは少し厄介かもしれませんね……なら」
     刻が視線を上げれば、傍らに浮かぶビハインドの黒鉄の処女は優雅に頷き、ふわりと霊撃を放つ。
     簡単な話だ。あちらが破壊力を上げるなら、こちらはその分下げればいい。
    「ついでに動きも止めてもらおうかな!」
     高らかな笑みと共に、六玖は敵の死角に移動して。幾重もの斬撃が、再び灼滅者達への突撃を図るロードローラーの動きを足止めする。
    「あははは! こっちだよ! しかしキミその体で器用に動くもんだねぇ!!」
    『お褒めに預かり光栄でござるよ! フヒヒ!!』
     足回りをざくざく斬られているというのに、相手の返答はどこか楽しそうで。
    「その余裕、いつまで続くか試してみよかっ!!」
     間髪入れずに接近するのは、魔力の霧を纏う結希。
     突撃姿勢を整えたロードローラーと、正面から相対する……と、思いきや。
     次の瞬間、歌はサビへと突入。

    「ドキドキ(ドキドキ) ドキドキ☆ハート♪」

    『ドキドぶげぇぇぇっ!!』
     ロードローラーは急に攻撃姿勢を解き、ステージの方へ方向転換。
     コール&レスポンスと同時に、結希の抗雷撃がクリーンヒット。重い車体が大きく仰け反る。
     しかし、それでもなお頭部はステージ上から目を離さず、お約束の位置でまたもコール&レスポンス。
    「な、難儀なロードローラーやな……」
     結希が敵の視線を追うようにステージへ目をやれば、そこでは今まさにみーねがサビを熱唱している真っ最中。
     清純そうな見かけでも、そこはやはりアイドル淫魔。リズミカルなダンスと共に大きな胸がたゆんと揺れる様は、同性から見てもどきりとする光景だった。
    「……もしかして、おっぱい目当て?」
    『そ、そ、そんなことないでござるよ!!』
     訝しげな結希の問いかけに、ロードローラーは慌てて首を横に振る。
     その様子に、カトリーナは放とうとしていた旋風輪の構えを解いた。
     ロードローラーがステージ上で歌うみーねを狙う様子はない。加えて、敵の遠距離サイキックは全て列対象。なら、無理に注意を惹くよりは着実にダメージを与えた方がいいと判断したためだ。
    「危害を加えぬというのなら、これ即ち好機というわけじゃな!」
     鬼神の如く変化した腕で、カトリーナはステージに夢中なロードローラーを殴り飛ばす。
     歌のサビが終わり、間奏へ入ると同時に、敵は再び攻撃態勢へ。
     灼滅者達もまた、油断することなく武器を構える――!


    「ドキドキ(ドキドキ) ドキドキ☆ハート♪」

    『ドキドキ!』
    「ドキドキ! ……なぁんて、ねっ!!」
     2回目のサビ、またもコール&レスポンスに夢中になるロードローラーへ、六玖は容赦のないティアーズリッパー。
     幾重もの斬撃に、ピンク色の車体にペイントされたラブリンスター似のイラストがどんどん剥がれ落ちていく。
    「あははは! キミの車体、どんどん削れていっちゃうねぇ!!」
    『むむっ、拙者の愛の証になんという狼藉を……ドキドキ!』
    「それでも歌には反応するのか……」
     ある意味難儀だな、と冥は呆れつつもロードローラーの足回りを重点的に切り裂いて。
     重ねたバッドステータスは、サビが終わり、突撃姿勢へと移ったロードローラーの動きをはっきりと鈍らせていた。
     幾度目かも分からない突撃から仲間を庇うと、結希は漆黒の大剣を力いっぱい振り上げて。
    「そんなにみーねちゃんに歌ってもらうのが楽しいんなら、観客を追い払ったりせんと、気持ちを込めてお願いすればよかったんや!」
     放たれた超弩級の一撃が、ピンク色の車体を大きくへこませる。
     堪らず後退するロードローラー。後方、戦況を見据えて仲間の回復を行っていた刻は、好機とばかりに片腕を蒼い異形へと変えた。DESアシッドが敵の車体を更に溶かしていく。
     重ねるように、傍らのビハインドも霊障破。薄い装甲から毒を染み込ませるように。
    (「……なんだか、切ない歌なんですね」)
     ステージ上、全力で歌い、踊るみーね。実はあまり『ドキドキ☆ハートLOVE』を聴いたことがないため、色々と新鮮な体験だ、と、刻は微笑。
     不思議な状況ではあるが――それほど悪くもない。
    「ワシの魔力、とくと食ろうてみよ!」
     カトリーナも即座に突撃。振り下ろしたマテリアルロッドが、ロードローラーの車体を内側から爆発させる。
     だが、次の瞬間。
     ロードローラーの体から勢いよく放出された殺気が、後衛を一瞬で包み込んで。
     すかさずディフェンダーが防御に回るものの、庇い切れずに押し寄せた殺気がカトリーナを焼く。
    「っ……!」
     ここまでに蓄積されたダメージもあり、声にならない苦痛に膝を突く。
     そんな彼女の横を、疾風の如く横をすり抜ける人影があった。一だ。
    「そろそろ大人しくしろ、このロードローラー野郎! あと、その殺気、すっげー邪魔!」
     曖昧な視界の中、ピンク色の車体をむんずと掴み、決めるはご当地ダイナミック。
     力任せに車体を持ち上げ、地面に叩き付ければ、車体を覆うように漂う殺気が霧散して。
    「見たか!? みーねが歌ってくれるから、オレ達は全力で戦えるんだ!!」
     ステージ上で歌うみーねを鼓舞するように、一は拳を振り上げる。
     傷ついたカトリーナを癒すのは、霊犬、鉄。
    「だが、歌もそろそろ終わり。このあたりでとどめと行こうか」
     妖の槍を構えて跳躍する塞。放たれた螺穿槍が、ついにロードローラーの車体を深々と抉った。
     塞は靜へと振り向き、視線だけで意思疎通。
    「これで、仕留める……!」
     靜は一瞬でロードローラーへ肉薄し、零距離で尖烈のドグマスパイク。
     高速回転する杭は、ピンク色の車体を貫き、ズタズタに捻じ切っていく――!
     やがて、きゅるんと微かな回転音を残し、バベルブレイカーは駆動停止。
     後に残るのは、物言わぬピンク色の残骸だけだった。


     靜がロードローラーの灼滅を確認すると同時に、みーねもまた『ドキドキ☆ハートLOVE』を歌い終えて。
    「皆さん、お疲れ様ですっ! それから……ありがとうございました!!」
     灼滅者達へ向け、深々と頭を下げるみーねに、靜は冷静に頷く。
    「そちらこそ、怪我はないか」
    「はいっ! 皆さんが守って下さったおかげで、わたしは大丈夫です!」
     ぱっと顔を上げたみーねの顔には満面の笑み。
    (「……うん、みーねさんは特に悪いことはしてないし、倒さなくてもいいよね……?」)
     応えるように微笑すると、刻は傍らのビハインドを見上げた。なにせ、相手は一応ダークネスだ。
    「無事で何より……と言うのも、ちとおかしいかの?」
     カトリーナは苦笑。こうして利害が一致した時くらいは、気遣ってもいいだろう。
    「さあ! みーねちゃん! サインちょうだい!」
     どこからともなくサインペンと色紙を取り出し、六玖はずいっとサインを迫る。
    「わたしなんかでよければ……」
    「あ、折角だからオレも、オレも!」
     と、ぴょいんぴょいんと一も勢いよく手を上げて。
    「将来の大スター目指して頑張れよ!」
    「頑張ってね! 応援してるからさ!」
     2人の言葉に、みーねは嬉しそうに頷いた。
     はずみに大きな胸がたゆんと揺れて、一は思わず目を丸くする。
     しかし、そーっと手を伸ばすよりも早く、みーねは丁重な挨拶と共にくるりと背を向けて。
    「頑張れよ」
     去り行くみーねを、冥は言葉少なに見送った。
     灼滅はしない。それぞれ考えの違いこそあれど、それぞれ一致した意見。
    「頑張れー! バベルの鎖に負けるなー!」
     みーねの姿が見えなくなるまで、結希はぶんぶんと大きく手を振り、彼女を送った。
    「それにしても、分裂してこんだけ手強いってのはどうなってんだ」
     体に残る痛みを確認するように手のひらを2、3度握り締め、塞は思わず顔をしかめる。
    「ウツロギが規格外なのか、鍛錬を積んだ武蔵坂の灼滅者が闇堕ちするとやばいってことなのか……」
     独りごちる声に返る答えはない。いや――誰にもわからないのだ。
     いったい、いつまでこんなことが続くのか。

     先の見えない不安をぴりぴりと肌に感じて。
     それでも、今は戦うしかない。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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