情熱に任せて走っていたら

    作者:雪神あゆた

     常人なら耳を塞ぎたくなるようなエンジンの音。
     夜の街を、三台のバイクが走る。バイクに乗っているのは、いずれも若者。
     バイクはかなりのスピードをだしていたが、若者たちの顔には爽快感はない。顔色は青い。
     一人が、悲壮な声をあげる。
    「なんだ、なんだ、なんなんだよぉ!」
    「ロードローラーだよぉ!」
     若者の声に応えたのは、顔のついたロードローラー。ロードローラーはしばらく前から若者のバイクを猛追していたのだ。
    「やめてくれやめてくれやめてくれええええええ」
    「だめだよぉぉ。うるさく騒いだ子には、お仕置きの――ロードローラーだぁ!」
     若者たちはさらにスピードをあげる。一台が前方の角を曲がろうとして、横転した。
    「うわあっ!?」
     一人が横転すると、他の二人も転倒してしまう。
     地面に投げ出された若者たちの体に迫るロードローラー。
     そして――ぐしゃ。
     ロードローラーは若者を引き潰し
    「ひゃっはーっ」
     笑い声をあげて、その場を去った。
     
     学園の教室で。
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者たちに一礼、説明を開始した。
    「謎に包まれた六六六人衆『???(トリプルクエスチョン)』の行動が判明しました。
     彼は、灼滅者『外法院ウツロギ』を闇堕ちさせ、分裂という稀有な特性を持つ六六六人衆を生み出したのです。
     その六六六人衆は、序列二八八位『ロードローラー』。
     二八八位の序列は『クリスマス爆破男』が灼滅された後、空席となっていました。が、特異な才能を持つ六六六人衆の誕生により、空席が埋まったようです」
     姫子は溜息をつく。
    「序列二八八位『ロードローラー』は分裂し、日本各地で次々に事件を起こしています。
     皆さんは、滋賀県大津市に赴き、事件の一つを解決してください」
     
     姫子の話では、この事件でのロードローラーの分身の標的は、騒音を起こす若者。
     放置すれば、バイクに乗った一般人三人が、ロードローラーに引きつぶされてしまう。
     姫子は地図を取り出した。
    「皆さんは夜9時に、道路のこの地点で待ち伏せてください。バイクに乗った若者が通りがかります
     まず若者に暴走行為をやめさせてください」
     適切な能力を使っても良いし、何らかの口実を考え説得しても良いだろう。
    「若者たちに暴走行為をやめさせた後、夜9時40分ごろに、ロードローラーが現れます。
     ロードローラーは強力ですが、ロードローラーを油断させる方法があります」
     ロードローラーが来る前から、灼滅者が暴走行為をする若者を演じていれば、ロードローラーは灼滅者を一般人と思いこみ、油断するだろう。
     暴走行為を演じるのは、騒音をまき散らしながら走れば良い。乗り物は自転車で構わないし、ある程度の速度を出せれば、足で走っても良い。
    「皆さんが暴走行為をうまく演じていれば、やってきたロードローラーは一般人用の体当たり攻撃をしてきます。
     この攻撃は一般人には効きますが、灼滅者には効きません。なので、事実上の先制攻撃ができるようになります」
     しかし、騒音をまきちらして走る若者を演じきれなかった場合、灼滅者であるとばれる。この場合、最初から普通の戦闘になる。先制攻撃できず、不利な展開になるだろう。
     ロードローラーは六六六人衆のサイキックとを使うほか、口で無敵斬艦刀を咥え攻めてくる。
    「今回のロードローラーは、分裂体。救出も交渉もできません。戦闘し灼滅するしかありませんが、かなりの強敵です。くれぐれもご注意を」
     説明を終えた姫子は真直ぐに灼滅者を見る。
    「今回被害にあうかもしれないのは、騒音を出す若者。
     騒音は困りもの。――でも、ロードローラーが彼らを殺していい理由にはなりません。
     彼らを守り、ロードローラーの分裂体をやっつけて下さい。お願いします!」


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    前田・光明(高校生神薙使い・d03420)
    丹生・蓮二(エングロウスエッジ・d03879)
    皐月・詩乃(中学生神薙使い・d04795)
    雨時雨・煌理(南京ダイヤリスト・d25041)
    狼久保・惟元(白の守人・d27459)
    美馬坂・楓(幻日・d28084)

    ■リプレイ


     公道を三台のバイクが走る。音と排気ガスをまきちらしながら、走る。
    「やばくない?」「やべーやべー!」
     バイクにまたがる三人――髪の毛を染めた若者たちは、運転をしながらも、甲高い声で笑いあう。
    「あれ? なんでこんなところに――」
     若者たちが速度を緩めた。前方にいる複数の人物に気付いたからだ。その人物は、灼滅者たち。
     その一人、警備員に扮した美馬坂・楓(幻日・d28084)は、笛をピーっと鳴らす。そして誘導棒を振りつつ声を張りあげた。
    「申し訳ありません、この先工事中です! 片道通行中につき、対向車がきますので、停車お願いします!」
    「まじ? だりぃ……けどしかたねぇか」
     楓の丁寧で懸命な説明に若者たちはバイクを停止させる。
     バイクにまたがったまま頭を掻く若者らに、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)が話しかける
    「元気なのはいいが、人の迷惑を省みないのはいけないぞ。罰があたっても、自業自得――とまではいわないが」
     と、笑いかける蝶胡蘭。だが、見つめる黒の瞳の威圧感に、若者たちは固まった。
     雨時雨・煌理(南京ダイヤリスト・d25041)は「まったく!」と指を突きつけた。
    「貴様らのせいで近隣の人が迷惑なさっている。分かっているか?! 同じように見られる私の身にもなれ! おちおち夜中にゲームできん!」
     煌理はまくし立てる。しかし、私怨が混ざっている?
     蝶胡蘭と煌理、二人の言葉と『力』に若者らは目に見えて狼狽する。
    「ご、ごめんなさいっす許してくださいっす」「ゲーム出来なくなるの辛いっすね。反省するっす」
     若者たちは慌てて謝罪しバイクから降ると、バイクを手で押しながら来た道を引き返していった。

     丹生・蓮二(エングロウスエッジ・d03879)は去った若者を見ていたが、蝶胡蘭と視線を交わし、服や乗り物を用意する。
    「ようやくどっかいった。さて。そろそろ仕事に掛かろうか」
    「ああ。さっき説教した手前やりづらいが、作戦だし仕方ないか」
     蓮二は、オンロード仕様のこだわりの自転車に、颯爽とまたがった。
     蝶胡蘭も特攻服と鉢巻き姿になり、デコが施された自転車で蓮二を追いかける。
    「この道は! 俺達が! 支配した! イェーイ!!!」
    「ヒャッハーッ!」
     蓮二が喚きブブゼラを吹きたてる。蝶胡蘭も釘バットを持った手を突きあげた。二人はノリノリ!
     他の六人も彼らに続く。
     森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)は、喚く蓮二と蝶胡蘭に並走。
    「盛り上がったところで、音楽といこうか」
     煉夜は肩に担いだラジカセの電源をいれる。流れてくるのは――演歌。
     暴走して騒ぐ仲間の隣で『演歌』!
     その後ろを、皐月・詩乃(中学生神薙使い・d04795)と狼久保・惟元(白の守人・d27459)の自転車が追う。
     詩乃は空き缶をじゃらじゃらと引きづりつつ。惟元はラッパをパフパフ鳴らして。
     じゃらじゃら、ぱふぱふ、「イェーイ!」、「ヒャッハーッ!」、そして拳のきいた演歌。
    「……な、なんだかシュールですね……」
    「そうですか? 僕はテレビで見た暴走族に合わせたのですが」
     詩乃が顔をひきつらせて笑うと、頭をオールバックにした惟元が、不思議そうに首を捻る。
     前田・光明(高校生神薙使い・d03420)は最後尾。
     三連ホーンをつけた原付きで蛇行運転。白の特攻服の裾を揺らしながら、光明は首を小さく振った。
    「とりあえず見た目を派手にしてみたが、これの一体何が楽しいのやら……おっと来たようだな」
     光明が目を細めた。
     光明の視線の先、走る光明たちの前に――、
    「夜中に騒ぐ悪人、見ぃつけたぁ!」
     青い車体に顔がついたそれが姿を現していた。
    「見つけたのはこの――ロードローラーだぁ!」
     目を細め、舌で己の唇をレロォと舐めるそいつは、六六六人衆・ロードローラー。


     ロードローラーは「ウヒャヒャヒャヒャ♪」と笑い、灼滅者に迫ってくる。
     煌理は、バイクのアクセルをかける。体当たりをしてくるロードローラーに自分から衝突。
     ドス!
     煌理は地面に投げ出される。だが、コンマ二秒で立ち上がる。
     煉夜もまた二本の足で疾走していた。ローラーを蹴ってジャンプ。空中で回転して着地。
     煉夜はとまらず、相手の背後に回り込む。青褪めた槍身の短槍を振り、穂先で足をえぐる。
     攻撃の直後、煉夜は仲間達を見た。
    「そっちは平気か?」
    「平気だ、あの五月蠅い奴を倒せる位にはな」
     煌理は煉夜に答えると、錠前型の指輪をつけた手を動かす。ロードローラーの足元で、呪いの力を爆発させる。ペトロカースだ。
     灼滅者の攻撃は次々に命中し傷を与えたが、ロードローラーの体は揺らがない。
     ロードローラーはしばらく瞬きしていた。
    「……ロードローラーの体当たりを受けても平気…そうか――灼滅者さんだね?」
     蝶胡蘭と詩乃が、ロードローラーに頷く。
    「よくわかったな! なら――これからの展開も分かってるな?」
    「ロードローラー。これから貴方の暴走、止めてみせましょう」
     蝶胡蘭は姿勢を低くして駆ける。走る勢いを載せ、腕を前に。槍の切っ先でタイヤを貫く。
     詩乃は、跳ぶ。蝶胡蘭の頭上を跳び越え――。ロードローラーの顔を輝く両足で、蹴りつける!
    「むぅ」とロードローラーが唸った。

     時間が経過。惟元は息を吐く。
    「噂に聞いていたロードローラーに会えるとは……いや、今は感慨にふける時ではありませんね」
     惟元は目を凝らし戦況を確認。
     ロードローラーの戦闘力は高いが、不意打ちが功を奏した。特に足を狙った攻撃が効果を上げ、その後も灼滅者が攻撃を当て続けている。
     が――ロードローラーもやられっぱなしではない。
     ロードローラーは空中に巨大な刀を召喚。
    「さあ、こっからはロードローラーの順番さ♪ ロードローラー斬りィ!!!」
     口で柄を咥え、黒死斬! 中衛にいた楓の足を斬る。
     ギャハハ、と勝ち誇るロードローラーを惟元は冷たい目で見、――そして仲間へ祭霊光を発動。
     光に癒された楓は惟元に一礼。
    「あ、ありがとうございます。私も頑張ります! ……接近戦苦手だけど、あれだけ的が大きいんだから、当たる……といいな」
     楓は自分に言い聞かせつつロードローラーに向き直った。大地に眠る力を腕に宿し、その腕を振る。畏れ斬り!
    「ぐっ……なかなかやるねぇ♪ でももっとやるのが、ロードローラーだ♪」
     ロードローラーはなお楽しげに喚く。
     一分後には前輪を地面から持ち上げ、体の前半分を宙に浮かした。咥えた巨大な刃を楓に叩き落とそうとする。
     だが、蓮二が楓の前に体を滑り込ませた。仲間が受ける筈だった刃を己の肩で受ける。傷ができ、血がコンクリートへ零れた。
     つん様はコンクリートの上をかけ蓮二に近づく。浄霊眼で彼の顔を見上げる。
     瞳の力が蓮二の痛みを和らげる。
     蓮二は闇喰ノ魚の柄を強く握った。白銀の魚を宿した刃を光らせ――斬る!
     ロードローラーが一瞬、顔をしかめた。
     光明はその隙を逃さない。中衛から一気に駆け抜け、蹴りを放つ。
     勢いをつけ、かつ狙い澄ました一撃! 車体の一部分を大きくへこませる。
     ロードローラーはぐらつくが、それでも笑っている。
    「あははは、ホントやるねえ、ころしちゃおっかなぁ♪」
     けれど――声には殺意が混じっていた。さらに目が赤く怪しげな光を放つ。
     光明は動じず、
    「追いかけまわされるはずだった若者、彼らには同情を禁じ得ないな。こいつは、どう考えても怖すぎる――とはいえ、負ける気はないが」
     そう言って杖を構えなおした。


    「君達は負けるぅぅぅ! だって君達が戦っているのは――ロードローラーだよぉ!」
     ロードローラーは声を張りあげ、反撃を続ける。黒い殺気を飛ばし、前衛を牽制。
     煌理も気を受けて、傷つく。
     だが、煌理は痛みを顔に出さない。トン。音を立てて跳び上がる。
     細い体を空中で捻り、足を突き出す。スターゲイザー!
     ロードローラーを激しく蹴りつけ、煌理は着地。視線を動かし仲間を見る。
    「今が好機だ。畳みかけてくれ!」
    「任せておけ! 次は私がぶんなぐる」
     蝶胡蘭が雄々しく声を張りあげた。
     相手の側面に回り込み、左手を握りしめる。そして拳を叩きつけた! 激しい音。
     煉夜も続く。煉夜は片足を上げた。踵を車体に叩きつける。
     ロードローラーが蹴りを受けた次の瞬間、その車体が燃えあがる。
     煉夜の足から火が噴出し、ロードローラーを焼いたのだ。
     殴られ焼かれたロードローラーは、目を細め灼滅者を鋭く睨んでくる。

     その後も続く灼滅者の攻撃を、ロードローラーは耐え抜いた。そして突然、大笑する。
    「あははははは♪」
     ロードローラーは口に咥えた刀を高速で操った。
     黒死斬が蓮二の肌を切り裂く。
     さらに戦艦斬りが、楓の額にあたり、大量の血を流させた。
     二人の傷は深い。このまま次の一撃か二撃をうけたら、倒れるかもしれない。
     惟元は光明へ、呼びかける。
    「あの二人を倒させる訳に、いきません。僕は楓さんを治療します。蓮二さんはお願いできますか?」
    「了解だ。出来る限りのことはやってみせよう」
     惟元と光明はそれぞれ力を発動させる。
     蓮二の斬り傷には、光明が札を張り傷を塞ぐ。彼よりも深く消耗している楓には、惟元が光を浴びせ、力を取り戻させた。
     楓は片膝を地面についていたが、立ち上がる。楓は自分の胸に手を当てた。ロードローラーに向けて言う。
    「あなたの騒音より、私の歌の方がマシだと思うんです!」
     口を開き歌いだすのは――力を秘めた、ディーヴァズメロディ!
     蓮二は歌声を聴きながら、足元のつん様を見やる。
    「つん様、お願いできるでしょうか?」「わん!」
     つん様は吠え声で応え、首を振りだした。六文銭を投げつけ、ロードローラーを牽制する。
     一方、蓮二は剣を非物質化させる。刃で斬撃を繰り出した。変化した刃がロードローラーに命中、魂を損傷させる。
     楓の歌、つん様の投げ銭、蓮二の剣。二人と一人の波状攻撃に「ぎゃぎゃああ! 馬鹿な、ロードローラーがここまでやられるなんて――」、ロードローラーは顔中に脂汗を浮かべて叫ぶ。
     口からよだれを垂らしながら叫ぶ、その顔へ、詩乃は槍の切っ先を向ける。
    「申し訳ありませんが……これまでです……!」
     普段の穏やかな声とは違い、確固たる信念に満ちた声で告げる詩乃。
     詩乃は言い終わると同時に冷気を放つ。ロードローラーの全体を氷で覆う。
     ロードローラーは詩乃の氷の中で、苦悶の声を上げ――やがて目を閉じた。動きを完全に停止する。


     凍てつき、意識を失ったロードローラー。やがてその姿は消えていく。
     楓は、敵の姿が完全に消えたのを確認すると、小さな声で呟いた
    「暴走族は確かに迷惑ですけど……お仕置きはあなたの仕事じゃないんですよ……」
     煉夜は呟きを聞いて肩をすくめた。
    「そもそも、自分が暴走しているのに、暴走に制裁を加えようと言うのが、矛盾だったな」
     煌理は苛立つような表情を浮かべていた。
    「ええい、ウツロギはいつになったら帰ってくるのだ! そろそろ怖い! あの顔が!!」
    「なんとか連れ戻したいですね……手がかりでもつかめればいいのですが……」
     答えたのは、詩乃。彼女の顔には、仲間を案じる色があった。
     話が途切れたところで、光明は皆に呼びかける。
    「さあ、帰ろうか。帰りはもちろん、メット着用で安全運転で、な」
     原付きにつけた三連ホーンを外しながら、光明がいう。
     他の皆も、自転車につけていた空き缶やラッパ等の装飾を外し、やがて、移動し始める。
     蓮二と惟元も自転車にまたがりながら、後ろを振り返った。
    「それにしても……ロードローラーの噂は聞いてたけど、実際に近くで見るとすごい迫力だったな……」
     蓮二が言うと、惟元は頷いた。
    「ええ……噂以上のインパクトでした……ですが、負けずに彼を倒せて、一般人の方を守れてよかったです」
     惟元の台詞に皆が同意を示す。ロードローラーは確かに怖かったし濃かった、でも勝ててよかった、会話を交わしつつ、灼滅者たちは学園への帰路を、徒歩や自転車で移動していく。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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