天貫きて、届かせん

    作者:波多野志郎

     ――字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)は目撃する、その一部始終を。
     断崖絶壁、そこで行なわれる二人のダークネスの激突は熾烈を極めた。
    「――――」
     一人は巌がごとき大男だ。空手着に身を包んだ大男は、左前足の三戦構えで摺り足でにじり寄る。
    「…………」
     それに対して動かずに待ち構えるのは、これまた大男だ。緑地に黒の迷彩柄のコート、黒目に金色の瞳――望は、その特徴に聞き覚えがあった。アンブレイカブル羅弦、かつて武蔵坂学園と接触した事のあるダークネスだ。
     二人のダークネスに、言葉はない。もはや、存分に拳で語り合っているからだ。その抉り破壊された断崖絶壁が、二人に刻まれた傷跡がその凄まじさを物語っていた。
    「…………」
     大男が、羅弦が、共に相手の間合いに入る。瞬間、羅弦が動いた。ゴォ! と吹き上がった赤と黒の闘気の渦を左拳にまとわせ、大男へと繰り出す。
     ドォ! という螺旋の一撃に、大男の足が地面から引き剥がされた。問答無用の豪快な一撃――しかし、その左腕を大男の右手がしっかと掴んでいる。そのまま大男は後方へと宙返り、強引に羅弦を宙へと浮かせた。
    「もらった!!」
     そして、羅弦の首と胴を足で刈り、腕関節を決めながら地面へと叩き付ける!
     ドォ! と爆発がごとき地面との激突音、大男の会心の飛びつき腕十字固め――地獄投げが炸裂した。砂塵の中で大男が、立ち上がる。これまでの戦いの日々、その全てを込めた一撃が放てた――その万感の想いが笑みに宿っていた。
    「……一つ、問おう」
     そして、砂塵の中から問いが投げかけられる。左腕を失った羅弦が立ち上がり、笑みとは程遠い苦虫顔で言葉を続けた。
    「何故、お前ほどの武人がこのような茶番に身を投じた?」
    「全ては、強さを手に入れるため……そして、柴崎師範の跡目をどこの馬の骨とも知れぬ輩に与えたくないからだ」
     羅弦の言葉に、大男は真っ直ぐに答える。それに、羅弦は歯を剥いて吐き捨てた。
    「同門への想い、それだけは認めよう。残念だ――お前とは、違う戦い方をしたかった」
     羅弦の右拳が、大男の胸に触れる。それは、魔力を込めた拳だ――フォースブレイクの一撃が、大男が文字通り粉砕した。そして、砕け散った体からは膨大な『力』が羅弦へと流れ込んでいく。
    「業大老、か。つまらぬ仕掛けを用意してくれたものだ。己が研鑽、己が倒せし者との戦いこそを積み重ねてこそ、最強へ至る意味があるものを……狂える武人、最後の矜持を汚すか」
     羅弦が、右拳を握り締める。己の汚された拳を、どこに向けるべきか? ――それは、問うまでもない。
    「ならば、待っていろ業大老。この業の報い、その名の通り与えてやろう」

    「……正直、あれがより強くなっていると思うのはゾっとしないね」
    「そうっすね……字宮の予想が最悪の形で当たったっすね」
     望の報告に、湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)もため息混じりにそう答えた。
     武神大戦天覧儀――それを調べていた望が行き着いてしまったのは、武蔵坂学園とも交戦記録のあるアンブレイカブル、羅弦の参戦だった。戦う事により勝者が力を得ていく武神大戦天覧儀において、あの男が勝ち上がる事の意味は愉快ではない。
    「羅弦自身は、この戦いにはかなり不満があるみたいっすね。結局、どうしても戦いたいアンブレイカブルが参加していたから参加した……それだけみたいっすけど」
     そのアンブレイカブルとの戦いで、羅弦は積極的な参戦を心に決めた。その実力は、武神大戦天覧儀による『力』を得た事もあり、並のアンブレイカブルとは比べ物にならない相手だ。
    「ただ、付け入る隙もあるっす。今、羅弦は目的のアンブレイカブルとの戦いで失った左腕をそのままにしているっす。それこそ、万全な自分でなければ敵わない、そんな相手でもない限り、片腕で戦ってくるっす」
     アンブレイカブルには、敢えて戦いの傷跡を治癒させない場合があるという。羅弦にとって、それは覚悟の表れなのだろう。
    「だから、好機っす。この断崖絶壁に正午、待ち構えれば羅弦と戦えるっすよ」
     しかし、そこまで語った翠織の表情は曇る。
    「勝ったとしても、止めを刺した人が闇堕ちするっす。しかも、相手は羅弦、連戦する余力は残ってないはずっす」
     誰かが闇堕ちをする覚悟がなければ、届かない。その事を決して忘れず、覚悟して欲しい。
    「武神大戦天覧儀もそろそろ佳境って感じみたいっす。相手は片腕でもこちらを返り討ちにしかねない強敵っす、その意味を忘れずに挑んで欲しいっす」


    参加者
    沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)
    笠井・匡(白豹・d01472)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    痣峰・詩歌(自宅駐在員・d06476)
    柴・観月(しあわせの墓標・d12748)
    杠・嵐(花に嵐・d15801)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    神之遊・水海(うなぎパイ・d25147)

    ■リプレイ


     海原が、唸りを上げる。それを断崖絶壁から眺めていた一人の男が、振り返らずに言った。
    「やはり来たか、武蔵坂学園の」
     大男、振り返らない羅弦の背中に、沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)は小さく笑みをこぼす。
    「戦場的にも状況的にも小細工は通用しなさそうっすね」
    「みたいだね」
     コクリ、と神之遊・水海(うなぎパイ・d25147)はうなずく。戦場へと踏み入った灼滅者達へ、海を睨んだまま羅弦は口を開いた。
    「これは、あくまでアンブレイカブルやダークネスだけの騒動だ。お前達、灼滅者が関わる必要は――」
    「引けとか引くなんて、言わないよね?」
     羅弦の言葉に重ねるように、柴・観月(しあわせの墓標・d12748)が言う。それは、問いかけではなく念押しだ。沈黙した羅弦に、字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)が言い放つ。
    「アンブレイカブルであってもこの天覧儀には賛否両論か……。だが目的がどうあれ羅弦、お前を進ませるわけにはいかない」
     望の言葉に、羅弦の肩が揺れた。顔が見えなくてもわかる、笑ったのだ、と。身を包む黒い衣装、そのフードを外して顔を見せて杠・嵐(花に嵐・d15801)は告げた。
    「誰と戦ろうが、どこで戦ろうが。あたしはあたし、お前はお前。過信した方の負けだ」
     服の裾から槍と剣をずるりと取り出だした嵐に、羅弦が振り返る。その視線が自分達へと向いた瞬間、笠井・匡(白豹・d01472)は背中の産毛が逆立つような腹の底からふつふつと気分が高揚する感覚に襲われた。
    「武神大戦天覧儀、か……こりゃ、ヤバイねぇ。ヤバすぎてゾクゾクするね」
     羅弦が見せる闘気に、匡の口元が自然と好戦的な笑みを刻む。それとよく似た、飢えた鮫のような笑みで羅弦は言ってのけた。
    「この傷を負った身でも、見たところ五分には届かぬが……構わんのだな?」
    「構い、ません……」
     つっかえながらも、痣峰・詩歌(自宅駐在員・d06476)が応じる。それに、羅弦はむしろ晴れやかな笑みで言った。
    「そうだな。今、戦いに別の要素を持ち込んだのは俺か。すまね、そして、礼を言おう。貴様等の『覚悟』に敬意を表し、『本気』でお相手しよう」
     羅弦がコートをひるがえして、身構える。それだけで、圧力が上昇する――そして、右の拳を掲げて名乗った。
    「名乗るぞ? 武人の流儀だ。アンブレイカブル、羅弦。推して参る」
    「本気のお相手させて貰うのです。頑張りますので、よろしくお願いします!」
     ペコリと頭を下げたカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)に、羅弦は視線でうなずく。身構えた灼滅者達が、サーヴァント達が、同時に動いた。
    『行くぞ!』
    「応!!」
     それに、羅弦はゴォ! と赤黒い螺旋のオーラを大蛇とさせて『敵』を薙ぎ払った。


     ドォ!! と岩が抉られ、砂塵が舞い散る。ブレイドサイクロンの一閃に、虎次郎が両足を踏ん張った。
    (「無茶苦茶っすね!?」)
     ただ、範囲攻撃で薙ぎ払う――これだけの前衛の数が居て、この威力なのだ。『本気』と言うのも、嘘ではないのだろう。
    「タイマンじゃ敵わない事なんて承知! 弱者なりの戦い方、させて貰うっすよ!」
     虎次郎が、断罪輪を回転させ巨大なオーラの法陣を展開させた。天魔を宿した匡が、槍を手に砂塵を駆け抜ける。
    「強い奴を倒すのは男のロマン……ってね。さぁ、殺り合おうか」
    「は、吼えるではないか」
     螺旋を描く槍の刺突を匡が放ち、羅弦はその穂先を右手で受け止めた。螺穿槍の回転を握力だけで強引に止めると、羅弦は匡ごと槍を放り捨てる。空中の匡で左の上段蹴りを、漆黒の弾丸が着弾し防いだ。
    「ほう?」
     デッドブラスターの出所を見極めようとした羅弦の視線は、詩歌を捉え切れない。ビハインドの妄想が、視線の壁になって襲い掛かってきたからだ。その刃の薙ぎ払いを、羅弦は身を沈めて回避。その動作に連動させた動きで、真横に跳んだ。
    「流星号!」
    「ヴァレン!」
     虎次郎の声にライドキャリバーの流星号が、カリルの呼びかけに霊犬のヴァレンが羅弦に襲い掛かる。ヴァレンが羅弦の視線を阻むように跳躍、その刃で首元を狙った。
    「良い忠犬だ」
     羅弦は、それを下から突き上げた掌打で受け流す。そして、流星号の突撃に逆らわずに右の前蹴りで受け止めながら、勢いを利用して後方へ跳んだ。
     その着地点に、カリルの放った一矢が追いつく。その名のごとき、尾を引く軌道の矢が羅弦の脇腹に突き刺さった。
    「本当に、煮ても焼いても食べれない……人類の敵ね!」
     そして、水海がバイオレンスギターを掻き鳴らした。ソニックビートの振動が、羅弦を襲い――。
    「カァ!!」
     気合い一閃、羅弦はその振動を螺旋を描く右拳で相殺、爆音のごとき轟音を響かせる。そこへ、剣と槍を突きつけて嵐が告げた。
    「あたしはあたし、あたしは嵐」
     跳躍した嵐の蹴りを、羅弦は振り上げた右腕で受け止める。しかし、ズンッ! という重圧が、羅弦の動きを一瞬だけ鈍らせた。その間隙を、望は見逃さない。
    「刺し穿つ……!」
     突き出される望の螺穿槍が、羅弦の脇腹を抉る――が、完全に突き刺さる前に羅弦は身を捻り、肉を抉るに終わった。そして、羅弦が回り込む先へと観月のビハインドが立ち塞がり斬撃を繰り出した。
    「戦う理由なんて、彼女が望むから。たったそれだけだよ」
     観月が匡へと癒しの矢を放ち言い捨てるのに、羅弦は口の端を笑みに歪める。ビハインドと打ち合いながら、羅弦は言い捨てた。
    「堕ちておらぬ――いや、灼滅者であるのならば、それも一興であろうよ」
     羅弦が、一気に駆け抜ける。その目標は、匡だ。匡からすれば、突然目の前に壁が迫ってきた――そんな感覚だ。羅弦が、雷を宿した右拳を突き上げる。それを見た匡の感覚は、全身全霊で危機を伝えていた。
     羅弦の拳が、突き上げられる。匡が反応するよりも早く、妄想が身を盾に庇い――そして、文字通り打ち砕かれた。
    「う、お……!」
     誰もが、その光景に総毛だった。もしも、自分が受けていたら――その想像は、寸分違わず現実となるだろう。羅弦は、いつもの鮫のような笑みで言い捨てた。
    「理解した。お前達は、どうやら常に最適解を出せる状況で『敵』と相対せるようだな。その手段は知らんが……まぁ、それは些事だ」
    「――――」
     ゴキリ、と羅弦が関節を鳴らして、拳を突き上げる。右手の、一つのみの拳で天へと叫んだ。
    「今ならば――お前等ならば、俺の喉笛に届くかもしれん。この状況を生んだ、運命に感謝しよう。来い、灼滅者!!」


     剣戟が、潮騒の打ち消す。その中心にいるのは、羅弦だ。望と匡、そして虎次郎の三人の猛攻を、羅弦は完全に受け切っていた。
    「はははっ、想像以上に凄い強いね! こんなゾクゾクするの久しぶりだよ!楽しいねぇ!」
    「ああ、俺もこの死線は久方ぶりよ!」
     望と匡の槍が、虎次郎の断罪輪が、羅弦の防御の前に受け流されていく。左腕のないこの状況で、これなのだ。三人がかりで死角を見い出せない――目の前の狂える武人の技は、そういう領域にあるのだ。
    「いっくよー!!」
     そこへ、上から水海が突っ込んだ。重力をまとうエアシューズによる跳び蹴り――スターゲイザーの一撃が、そこに衝撃を撒き散らす!
     しかし、羅弦はその重圧に構わなかった。ガガガガガガガガガガガガガガッ! と流星号が機銃掃射する中で、赤と黒のオーラがうねるブレイドサイクロンが前衛を薙ぎ払った。それに、流星号とビハインドが耐え切れずに打ち砕かれる!
    「強化させま――」
     カリルの言葉が途中で止まる、巻き上がった砂塵を内側からかき乱し羅弦が突進して来たからだ。カリルは、それに反応するが間に合わない。魔力を込めた右の掌打が、カリルの胸元へと放たれた。
    「ッ!」
     再行動によるそのフォースブレイクを、ギリギリで飛び込んだヴァレンが庇う。そのまま吹き飛ばされたヴァレンを、カリルは振り切るように前へと出た。その強い視線に、羅弦は小さくうなずく。
    「良し、あの忠義に応えてみせよ」
     羅弦が、防御と解く。その厚く大きな胸板へ、カリルは渾身のオーラキャノンを叩き込んだ。ゴォ! という爆煙が、羅弦を包む。それを真っ直ぐに見上げ、カリルは言った。
    「絶対に満足させてみせます……全力で、お願いしますのです!」
    「――承知!」
     爆煙の中から、太い足による牽制の前蹴りがカリルを吹き飛ばす。ブロックは間に合っている、カリルは着地と同時に横へと跳んだ。
    「――――」
     消えたビハインドの姿に、観月は目を細める。今は亡き愛した少女の姿した紛い物――そう思いながらも、確かに観月の胸には苦いものがこみ上げた。
    「くっ……っそ、強ぇ……っすなぁ」
     観月のシールドリングの護りと回復を受けながら、虎次郎はソーサルガーダーで望を回復させる。守りを固めた望が、羅弦へと踏み込んだ。
    「奪い取るまでだ!」
     緋色のオーラに包まれた槍の薙ぎ払い、紅蓮斬を羅弦は右肘を右膝で挟んで受け止める。空手で言う、交差法という防御法法だ。だが、強引に望は振り切った。
    「ここ、です」
     そこへ、影を宿した詩歌の解体ナイフが放たれる。そのトラウナックルの斬撃に、羅弦の防御は間に合わない――そのまま、力尽くで羅弦は走り抜けた。
    「純粋に戦えなかった事実、お前は悔しいだろうが……戦いなんぞ、元々時間も場所も、ルールも厭わないハズだ。それをあたしは証明しに来た」
     嵐の振り下ろした槍の軌道に沿って、氷柱が走る。嵐のその言葉に、羅弦は吼えた。
    「それが、灼滅者であるならば良い!」
     嵐の妖冷弾を掌打の衝撃で相殺、羅弦は吼え続ける。
    「あるいは、他のダークネスであれば見逃した。だが、我等アンブレイカブルが戦いを穢してなんとする!? 厭わぬから、こだわるのだ! 最強へと至る者が、屍を足場に至って何とするか!」
     血を吐くような羅弦の叫びに、匡はニヤリと笑って問いかけた。
    「なら、あんたにとっての最強とは何だ?」
    「鍛え積み重ね、倒した者の想いを拳に宿し、その手を伸ばし届かせる場所。ただの暴虐に届かぬ頂の上にこそ、最強はある」
     真っ直ぐに、狂える武人は言ってのける。狂った先に立つからこそ残した最後の矜持、だからこそ羅弦は挑む。
    「俺がお前等を拳に宿すか、お前等が俺を拳に宿すか――そういう勝負だ」
     ――壮絶、一言で表現するのならばそう語るしかない。
     片腕を失った相手に、なお中盤に至るまでにサーヴァント四体が打ち砕かれた。それでも食い下がる灼滅者達の決意と覚悟がなければ、あるいは押し切られていたかもしれない。
    (「こ、これ……全員、闇堕ちする『覚悟』じゃなかったら……?」)
     水海は、改めてそう思う。羅弦は、迷わず闇堕ちの『覚悟』のある者だけを集中して、堕としただろう。そうなれば、『覚悟』のある者をどこまで庇い切れるか? が、戦いの分かれ目となっていたはずだ。
     しかし、八人全員が『覚悟』を決めている。そうなれば、羅弦に残された道は力で全員を叩き潰す、それだけだった。
    「何度でも立ち上がってみせます。ヒーローは挫けません……!」
     羅弦を背後から抱えたカリルが、強引に宙へと舞った。流水流れる滝から落ちる様な一撃、貴船ダイナミックが炸裂する!
    「まだまだ!」
     そこへ、水海が跳びかかった。黒鬼の腕と化したその右腕で、立ち上がった羅弦の胸元を強打する。そして、虎次郎の燃え盛る蹴りが羅弦の首元を捉えた。しかし、羅弦は口元を笑みに歪めて、揺らがない。
    「耐え抜いて見せろ!!」
     羅弦の右拳から放つオーラの大蛇、ブレイドサイクロンが後衛を薙ぎ払った。その衝撃に、水海が、嵐が、観月が、詩歌が飲み込まれる――しかし、それで終わらない。再行動からの、引き戻したオーラの大蛇が、再び後衛を襲ったのだ。
    「そう簡単に通さないっすよ!」
     その一閃から、虎次郎は観月を庇って吹き飛ばされる。水海も耐え切れず、それに打ち倒された。
    「本命、ですか。……このタイミングを、待って、いました」
     詩歌は、バベルブレイカーでそのオーラを相殺、弾き飛ばした。嵐もまた凌駕すると、そのまま駆け出す。
    「今、ココで。お前を皆で倒す」
     嵐の非実体化した斬撃が、羅弦の胴を捉え魂を切り裂いた。だが、羅弦は小揺るぎもしない。
    「まだ終わらない……!」
    「おおお!!」
     そして、望のスターゲイザーの跳び蹴りと、匡のオーラをまとう連打が羅弦を襲った。観月はすかさず、嵐へと小光輪を飛ばそうとするが、それを止めたのは嵐は本人だ。
    「攻撃を!」
     それに観月は、渾身の力を込めて魔法の矢を豪雨のごとく降り注がせた。
    「良い判断だ」
     前半、サーヴァント達が灼滅者達を守り抜いた。水海は、羅弦の強化の多くを打ち砕き、虎次郎はその身を盾に仲間達を庇い続けた。
    「よく、忠誠に応えた」
     カリルを、羅弦は螺旋の拳で打ち抜く。全力の想いに応えた、全力だった。カリルが崩れ落ちると、再行動した羅弦のブレイドサイクロンが再び後衛を薙ぎ払った。
     スナイパーという位置を利用してダメージを積み重ねた詩歌が、的確に死角を見つけ出しダメージを稼いだ嵐が、ついに倒れる。
     ここまで繋がれ、残ったのはただの三人だった。
    「派手に砕け散れ!!」
     望の螺穿槍が、羅弦の胸を貫く。ザ、と靴底を鳴しながら踏ん張った羅弦に観月はオーラの砲弾を撃ち込んだ。ゴォ! という爆音を轟かせたそこへ、匡の非実体化した刃が放たれる!
    「――ハハ!」
     しかし、その斬撃が魂を断っても、羅弦は動いた。全体重を乗せた螺旋拳が、匡を殴打――する、その寸前。
    「ここが、死中か」
     好戦的な笑みと共に匡が、再行動。その拳へと踏み込むと羅弦の左側へと回り込んだ――左腕があれば、存在しない死角。そこから、流星のごとき匡の拳打が羅弦の巨体へ降り注いだ。
    「良い、勝負であった……!」
     無邪気に笑い、羅弦はその拳を止める。倒れる事なく、最後まで己の矜持に殉じた狂える武人は、塵となって消え去っていった……。


    「アイツに身体を明け渡すのはシャクだけど……笑ってろ……また直ぐに取り戻す、絶対に」
     その赤い瞳を輝かせ、匡を蹴った。匡に残った最後の心が取らせた行動だ、走り去っていくその後姿を望と観月は見送るしかなかった。
    「本当に、強かったね」
     観月のその言葉に、望はうなずくしかない。サーヴァントと四体と、灼滅者五人――戦力の四分の三が倒れて、ようやく届いたのだ。あれで、ハンデを負っていたのだから、強いと言う他ない相手だった。
    「業大老は僕たちが潰す……絶対にな」
     疲労した体で倒れた仲間達の無事を確認しながら、望は呟く。この海のどこかにいるのだろう業大老への、明確な宣戦布告だった……。

    作者:波多野志郎 重傷:カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918) 神之遊・水海(ロミオ・d25147) 
    死亡:なし
    闇堕ち:笠井・匡(白豹・d01472) 
    種類:
    公開:2014年7月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 31/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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