友との絆は影に囚われ

    作者:鏡水面

    ●友との再会
     人々が寝静まった深夜。街灯の光だけが、夜を冷たく照らし出す。冷めた光はカーテンの隙間を縫うように、ある青年の枕元へと降り注いでいた。
     降り注ぐ光の中に人影がぽつり、と現れる。
    「君の絆を僕にちょうだいね」
     青年の枕元で、宇宙服のような服を纏った少年が静かに囁き、光に沁み込むように消えていった。
     数日後、青年……風間・優斗はいつも通り大学の講義を終え、自宅への帰宅途中だった。電車の中で参考書に目を落としていると、唐突に頭上から声が降る。
    「優! 久しぶりじゃねぇか!」
     底抜けに明るい声で愛称を呼ばれ、優斗は顔を上げた。よく見知った人物が、満面の笑みを浮かべている。
    「……晶?」
     水樹・晶。小学から高校まで優斗と共に同じバスケットボールチームに所属していた、いわゆる戦友だ。晶はチームの司令塔、優斗はその補佐的役割を務め、巷では風水ガードなんて呼ばれていた。
     大学に進学しチームを抜けてから、しばらく会っていなかった。ぼんやりと考えて、優斗は違和感を覚える。晶は大事な友人で、共に戦った記憶も確かにあるのに、どこか他人事のような、以前と違うような気がする。再会を喜ぶことができない。
    「なんだよそのツラは、ポカンとして。……大丈夫か?」
     優斗の顔を覗き込み、晶が首を傾げる。気持ちを見抜かれるような気がして、優斗は慌てて立ちあがった。アナウンスが、駅への到着を告げる。
    「いや。何でもない。それじゃ、俺降りるから」
    「お前の家もう一つ先じゃ……おい、優!」
     晶の引きとめるような声を置き去りに、優斗は電車から降りた。ガシャンと音を立てて、扉が閉まる。
    「……気持ち悪い」
     振り返らず、優斗は額に手を押しあてた。その頭上に紫と黒が混ざり合った不気味な卵が根付いていることを、彼は知らない。

    ●奪われた友情
    「強力なシャドウ、絆のベヘリタスが動き出したようだ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、予知の内容を元に淡々と語る。
     ベヘリタスと関係が深いだろう謎の人物が、一般人から絆を奪い、ベヘリタスの卵を産み付けているらしい。
    「このままでは卵からベヘリタスが誕生してしまうことだろう。強力なシャドウの誕生を放っておくわけにはいかない。お前たちには、これを灼滅してほしい」
     ベヘリタスの卵は宿主となった一般人の絆で、最も強い絆を持つ相手以外の絆を栄養として孵化する。この性質は脅威でもあるが、弱点でもある。
    「卵の栄養となった絆の相手……すなわち、一般人が絆を結んだ相手に対してのみ、ベヘリタスの攻撃力や防御力が弱体化する。つまり、お前たちが優斗と絆を結ぶことができれば、有利に戦うことができる」
     逆に絆を結ぶことができなければ、戦況は圧倒的に不利になる。複数の闇堕ち者と共に戦ったとしても、倒すことができずに逃走される可能性もある。
    「ベヘリタスを確実に倒すためにも、優斗と絆を結んで欲しい。絆の種類に制限は無い。友情でも憎しみでも、感謝でも侮蔑でも何でもいいから、とにかく優斗の印象に残るようなことをしてくれ」
     作戦開始のタイミングは、優斗が晶と再会した次の日からだ。
     作戦開始から二日後に、ベヘリタスの卵は孵化する。よって、優斗と接触できる期間は二日間。
     優斗は午前、午後と大学の講義を受け、夜には帰宅する。大学生に扮して接触するのも良いし、帰り道にはゲームセンターや運動場などもあるので、そこで絆を結ぶきっかけを作るのもアリだ。
    「孵化後の戦闘時間は長くても十分程度……それ以上掛かれば、奴はソウルボードに逃げ込んでしまう。逃がした場合でも任務は成功だが、ベヘリタス勢力の強大化を招いてしまう恐れがある。できれば孵化した直後から徹底的に叩き、短時間で灼滅してくれ」
     一通り説明を終え、ヤマトはふと思い出したように口を開いた。
    「ベヘリタスを灼滅すれば、失われた絆は取り戻される。戦闘後、可能なら簡単に優斗のフォローもしてやって欲しい。結んだ絆によっては難しいかもしれないがな」
     再会した友に失礼な態度を取ってしまったことを、優斗は悔やむに違いない。ヤマトは静かに告げると、灼滅者たちを送りだすのだった。


    参加者
    四季・銃儀(玄武蛇双・d00261)
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    赤倉・明(月花繚乱・d01101)
    瑠璃垣・恢(エフェメラルマーダー・d03192)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    埜渡・慶一(冬青・d12405)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    タロス・ハンマー(ブログネームは早食い太郎・d24738)

    ■リプレイ

    ●一日目、はじまりの絆
     昼の食堂にて、赤倉・明(月花繚乱・d01101)、月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)は、わらび餅を食べる優斗に接触する。
    「サリュ。男子に甘味、なかなか興味深いね」
     柔和な笑みを浮かべる千尋に、優斗が顔を上げた。表情に探るような色が浮かぶ。
    「……あなた方は? 見ない顔だな」
    「サークル仲間で、たまには学食でもと思いまして」
     学食にはあまり来ていない風を装いつつ、明は自己紹介も兼ねて告げる。二人は優斗の向かい側に腰かけた。
     二人が座ったあと、タロス・ハンマー(ブログネームは早食い太郎・d24738)も席に近付く。両手に持つトレイには、大盛りの学食を大量に載せている。
    「隣いいか?」
    「あ、ああ」
     優斗はその量に驚くも、タロスの言葉に頷いた。
    「お、それ美味いよな。それが好きならあれは試したか?」
     タロスは壁に貼られたポスターを指さす。『期間限定葛桜』の写真が大きく掲載されていた。
    「今度、試してみようと思ってる」
    「葛桜ですか、おいしそうですね」
     明は葛桜のポスターを穏やかに眺める。優斗もポスターを見て、「そうだな」と呟いた。タイミングを見計らい、千尋が口を開く。
    「よかったら同じ時間に、明日もここで会わない? 甘味について語り合おうよ」
    「え……」
    「あまりに美味しそうに食べてるからつい、ね」
     どうかな? と首を傾げる千尋。優斗は少し考えたあと、静かに頷くのだった。
     その日の夕方、講義を終えた優斗は帰路につく。バスケットコートの前を通りかかったところで、仙道・司(オウルバロン・d00813)が声をかけた。
    「おにーさーん! 人数足りないんですけど一緒にやりませんかっ」
     司の姿を見た優斗は一瞬頬を赤らめた後、コホンと咳払いをする。
    「……少しだけなら」
     コートに入った優斗に、葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)が軽く会釈した。
    「ありがとうございます。お相手、よろしくお願いしますね」
     統弥の言葉に優斗は頷く。軽い自己紹介のあと、開始の合図と共にボールの音が響いた。統弥と埜渡・慶一(冬青・d12405)、司と優斗の2on2だ。
    「いっちゃえー! なのですっ♪」
     司は隙間を縫うように優斗へとパスを回す。的確なパスを受け、優斗がシュートを決めた。統弥と慶一も反撃に出る。
    「パス!」
     掛け声と同時、統弥は慶一にボールを渡した。
     慶一は即座にシュートを試みる。ボールは弧を描き、ゴールへと吸い込まれるように入る。その後も攻防は続くが勝負は付かず、結局、同点終了となった。
    「面白い試合だった。よかったら、明日もやらないか?」
     慶一が優斗を誘うと、優斗はこくりと頷いた。僅かだが、優斗の口元に笑みが浮かぶ。
    「同じくらいの時間にまた来る」
    「わかった。ボール預けとくな」
     慶一は持っていたボールを、優斗に投げて渡した。
     三人に別れを告げ、優斗はゲームセンターへと向かう。店に到着し、格闘ゲームをプレイする優斗。その向かいにある台に瑠璃垣・恢(エフェメラルマーダー・d03192)は座り、コインを入れる。キャラを選択し、優斗へと戦いを挑んだ。
     1フレームの差を逃さずコンボを繋げる恢に、優斗も反撃を繰り出す。恢のキャラが繰り出す高速の連撃を、四季・銃儀(玄武蛇双・d00261)は楽しげに眺めた。
     勝負の結果は、引き分けといったところか。銃儀は満足そうに笑う。
    「カカッ、いい勝負だったぜッ!」
    「強いね、あんた。名前は」
     恢も優斗に歩み寄り、感心したように告げた。
    「優斗だ。そっちこそ、隙のない動きだった」
     席から立ち上がり、優斗は恢と銃儀を見る。
    「こっちも名乗らないとな。俺は銃儀だ。そっちは恢。よろしくなッ」
     銃儀が軽く自己紹介したあと、恢は優斗に封筒を手渡す。
    「これ、あんたに渡しとく」
     優斗は封筒を開き、中の『招待状』に目を通した。
     『翌日同じ時間にこの台へ向かえばもっと楽しい勝負ができる』と記されている。優斗は思案するように眉を寄せつつも、ふと口元に笑みを零した。
    「……今日は不思議な日だな。OK、考えとく」

    ●二日目、深まる絆
     優斗は昨日と同じ席に座っていた。テーブルには食べかけの葛桜が置かれている。明、千尋、タロスの三人も、昨日と同じ席に腰かけた。
     優斗にオススメの甘味を聞き、それらを囲みながら会話に花を咲かせる。
    「さっそく試したのか。味はどうだ?」
    「うまい。餡の甘みがちょうどいい」
     タロスの問いに、優斗が率直な感想を述べた。美味しそうに食べる優斗を、千尋は穏やかに見つめる。
    「男子が甘味好きって、ボクとしては意外だよ。何か理由でもあるのかな?」
    「甘いものを食べてると、落ち着くんだ」
    「なるほど。……まさに甘味は人生の清涼剤、ってところかな?」
    「そうかもな。落ち込んでるときなんかは、とくに美味しく感じる」
     柔らかに言う優斗の表情は、どこか切なげだ。葛桜を食べ終え、メニュー表の和菓子に目を落とす優斗に、明が話しかける。
    「和菓子がお好きなのですか?」
    「洋菓子も好きだけど、どちらかといえば和菓子だな」
     優斗の言葉に、明は同意するように頷いた。
    「やはり和の甘味は良いものですね。貴方とは食の好みが近いようです。次お会いした時には、私のオススメの店を紹介します」
    「……いいのか? そこまでしてもらって」
     優斗はメニュー表から顔を上げ、驚いたように明を見る。
    「ええ。もちろんです」
     明は柔らかに告げ、ほのかな微笑を浮かべた。その会話に、タロスが何とはなしに混ざる。
    「その店、俺も連れてってくれないか? ……ああ、そういえば自己紹介してなかったな。俺はタロスってんだ。趣味で食物関連のブログをやってる。よろしくな」
    「俺は優斗だ。こちらこそ、よろしく」
     優斗は三人に名を告げ、にこりと笑った。こうして学食での時間は、和やかに過ぎていくのだった。
     そして、その日の夕方も、優斗は運動場のバスケットコートに姿を現す。慶一、統弥、司は優斗と挨拶を交わした。
    「同じチームですね。頑張りましょう」
     チームを決め、統弥が優斗に改めて挨拶する。優斗は笑みを返し、預かっていたボールを統弥に渡した。
    「ああ、よろしく」
     試合が始まり、激しい攻防が繰り広げられる。優斗からパスを受け、統弥が駆けた。運動能力と今までの経験を駆使し、包囲網を抜けてシュートを決める。
     慶一、司ペアも負けてはいられない。次のターン、司が優斗のボールを奪いにかかった。
    (「くっ、高い……でも、負けません!」)
     司は高く跳躍し、優斗から素早くボールをもぎ取る。
    「ふふーん、身長ないけどその分動きは早いんですからっ♪」
     予想外の動きに驚く優斗の脇を抜け、ボールを慶一に投げた。
    「ナイスパス」
     慶一はドリブルし、ゴールに向かって走る。優斗や統弥の妨害を突破し、確実な位置からゴールへとボールを投げ入れた。
     試合は進み、ふと優斗が時計を見て動きを止める。
    「悪い、そろそろ時間だ。同点だが、終わりでもいいか」
     優斗の言葉に慶一は頷き、転がっていたボールを拾い上げた。
    「いい試合だった。昨日今日と、とても楽しかったよ」
    「俺も楽しかった。誘ってくれてありがとな」
     礼を言う優斗に、統弥が清々しい表情で声をかける。
    「バスケは奥が深くて面白いですね。残念ながら、風間さんのテクニックには全然及びませんが」
     統弥の言葉に、優斗は首を横に振った。
    「さっきのシュート、すごく良かった。……それじゃ、そろそろ行くよ」
    「遊んでくれてありがとでした! またやりましょうねー!」
     手を振る司に手を振り返し、優斗はゲームセンターへと向かう。そこでは、既に銃儀と恢が待ち構えていた。今日の相手は銃儀だ。銃儀は鮮やかな手捌きで、キャラを操作する。
    「カッ、打ち上げからの~……撃ち落しィッ!」
     さらに打ち上げると見せかけて、打撃で叩き落とした。トリッキーな動きで、銃儀は優斗を翻弄する。
    「くっ……」
     銃儀の白熱ムードにのまれ、優斗も熱くなっているようだ。一通り勝負を終え、勝率は五分五分。そこで、観戦していた恢が話しかけた。
    「やっぱりいい腕だ。俺たちが溜まり場にしてるゲーセンがあるんだけど来てみないか。もっと沢山遊ぼう」
    「丁度俺らの勝率も五分だ……其処で決着を付けるってので如何だッ!」
     恢と銃儀の言葉に、優斗は少し考えたあと静かに頷いた。三人は店を出て、路地裏へと入る。夜の路地裏を歩きつつ、ふと優斗が言葉を零した。
    「こんなこと初めてで、変な気分だよ。……いや、実際に俺が変なのかもな」
    「変?」
     恢はそっと聞き返す。優斗が奇妙に感じる理由はわかっていた。
    「ここ数日いろんなことがあって……悪い。いきなり妙なこと言って」
    「気にしなくていい」
    「カカッ。人間生きてりゃ、色々あるってもんよ」
     恢と銃儀の言葉に、優斗は切なげに眉を寄せる。
    「ありがとう……」
     ピシリ。
     感謝の言葉を紡いだ刹那、頭上の卵が音を立てて割れた。

    ●絆を喰らうもの
     路地裏に先回りし潜んでいた灼滅者たちが飛び出す。割れた卵から黒い塊がどろりと地面に垂れ、人の姿を形成した。
     優斗の親友の姿をした影、ベヘリタスは灼滅者たちを視界に捉えた瞬間、地面に膝を付く。着実に優斗と絆を結び、大きく弱体化させることに成功したのだ。
    「晶……?!」
    「あれは水樹さんではありません。危険ですから、離れていてください」
     統弥は殺気を周囲へと放ち、優斗を現場から遠ざける。タロスがワイドガードを展開し、仲間たちの守りを固めていく。
    「来るぞ、気を付けろ」
     タロスが十分間のカウントを開始すると同時、ベヘリタスはふらりと立ち、影の球体を生み出し放った。
    「弱体化しているとはいえ、鋭い攻撃だな。……それなら」
     放たれる球体を受け止めつつ、慶一は断罪輪を振るう。オーラの法陣が仲間を包み込み、癒しと破壊の力を与えた。
    「ナノッ」
     次いで慶一の背から、はなこがぴょんと飛びだし、しゃぼん玉を放つ。
    「今回は時間との勝負、速攻で決める! 絶対に取り戻すよ!」
     絆を取り戻す。鋭い眼差しを向け、千尋は真銀の魔槍を繰り出した。内部を抉られ仰け反るベヘリタスに、明が追い打ちをかける。
    「シノ、いきますよ」
     明の声に応え、東雲は口に銜えた刀でベヘリタスを裂いた。後退するベヘリタスに、明は急接近する。
    「逃がす暇など与えません、燃え散りなさい……!」
     体を取り巻く炎を縛霊手に纏わせ、全力を込めて殴り付けた。紅蓮の炎が舞い上がり、ベヘリタスを焦がしていく。ベヘリタスは不気味な呻き声を上げた。
    「相当弱っているようだな。ならば、これを受けてみろ!」
     タロスは巨大な体躯から青き剛腕を振るい、ベヘリタスの胸元へと叩き込む。吹き飛び壁に激突するベヘリタス。巻き上がる砂煙の中、銃儀の声が響く。
    「悪夢に逢うては悪夢を斬る――――玄武の理、此処に在りッ!!」
     影蛇から形成された機械甲冑の奥で、瞳が青く輝いた。
    「仕込機巧が一つッ! 天破槍ッ!」
     全身に組み込まれたブースターを動力に突進し、仕込み和傘を繰り出す。ドリルのごとき衝撃に穿たれ、ベヘリタスは大きく揺らいだ。黒い霧を噴出させ、傷を癒そうとする。
    「回復なんてさせません!」
     司は鞘から引き抜いた剣を非物質化させる。地面を蹴り駆けると同時、白銀の刃が空中で弧を描いた。
    「ベヘリタス! 闇を狩る者がお前を退治する!」
     光の軌跡を残し、司の的確な一撃がベヘリタスの魂を貫く。衝撃に震える影を、恢は冷たく見据えた。
    「絆を食い物にしてしか生きられないなら、今すぐ俺が殺してやる」
     相手の回避行動よりも先に、素早い動きで死角へと回り込む。
    「歪め」 
     黒きオーラを集束させ、巨大に膨張した腕から連打撃を繰り出した。無慈悲なイーヴィル・アームが、ベヘリタスの体を抉る。
     瀕死に追い込まれ、ベヘリタスは黒い殺気を沸き立たせた。殺気のオーラが、千尋へと放たれる。千尋は攻撃を避けると同時、手近な障害物の上に飛び乗った。
    「偽りの絆で友情を斬り裂いた罪、地獄で贖え!」
     鋼糸を放ち、上方からベヘリタスを絡め取る。身動きが取れないベヘリタスに、統弥がフレイムクラウンを振りかざす。
    「逃がしはしない。ここで犯した罪と共に滅びろ!」
     黒い刀身がまっすぐに振り下ろされた。ベヘリタスは真二つに斬り裂かれ、溶けるように絶命した。

    ●戻った絆、新たな絆
     短期決戦でベヘリタスを灼滅し、灼滅者たちは優斗の元へと駆け付ける。
    「気分は落ち着きましたか?」
     明がそっと問いかけた。東雲も心配そうに優斗を見上げている。優斗は戸惑いつつも、「ああ……」と弱々しく頷いた。
     絆は戻った。恢がシンプルに、安心させるための言葉を伝える。
    「もう大丈夫、何も怖いことはないよ」
    「キミはただ、悪い夢を見ていただけ。今はもう元通りさ」
     優しい微笑を浮かべ、千尋も優斗へと語りかけた。優斗は頷くも、苦しげに眉を寄せる。
    「でも、晶に酷いことをしてしまった」
    「大切な仲間との絆は、この程度の試練くらい乗り越えられます。素直に謝ってバスケの練習に誘ってみてはどうでしょう?」
     統弥の提案に、司が続ける。
    「きっと大丈夫っ。だって、二人がバスケで紡いだ絆は、今もまだ繋がっているんですものっ♪ ……何ならボク達が相手になりますよ?」
     二人の言葉に、優斗は表情を和らげた。
    「……今すぐにでも、謝りにいってくるよ」
    「それがいいな。絆を見失ったとしても、また結ぶことに意味があると思うよ」
     背からチラリと顔を覗かせるはなこを撫でつつ、慶一は微笑んだ。
    「今度学校周りで食い歩きでもしようぜ」
     路地裏から去ろうとする優斗に、タロスは明るく声をかける。
    「そうだな。甘味の店も気になるし」
    「俺たちとのバトルも忘れずになッ。カカッ、また気軽に遊びに誘ってやりゃいいさッ!」
     銃儀はニヤッと口元を上げる。優斗は銃儀と恢を見やり、力強く頷いた。
    「今回のこと、お前たちが助けてくれたってのだけはわかった。不安なとき、話しかけてくれて嬉しかった。……ありがとな」
     これまでの事象について問わず、感謝を告げて立ち去る優斗を、灼滅者たちは見送る。
     バベルの鎖が、優斗の記憶から今回の出来事を消し去ることだろう。それでも、一度結んだ友としての絆は、消えずに残るかもしれない。

    作者:鏡水面 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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