「残業代の未払い、過重労働、あげく死亡手当すら付かないとは……鍵島コーポレーション、一流とは名ばかりのブラック企業でしたね……」
綺麗に整えたオールバックにパリッとしたスーツを来た男が、眼鏡を中指でクイと押し上げつつ思考する。
「会社の為に身を粉にして働くのは良いのですが……残業代の未払い、過重ーー」
男は同じ思考を繰り返す、それがもう男に残された留められた思念としてのループだとしても……。
『灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね』
「誰です? 私は再就職先を探すので忙しいのです。この年で中途採用募集を探すのは大変なのですよ? 早くどこか大手に雇って頂かなくては……」
思念のループにノイズが走り、男は声の主へと反応する。
『私は『慈愛のコルネリウス』。大丈夫、私はあなたが見えています』
「ヘッドハンティングですか? 構いませんよ、中途で雇ってもらえるのなら……素材となる人間の確保だろうと、宣伝の為の灼滅者殺しだろうと、敵対組織のダークネス暗殺だろうと、雇って頂けるのなら粉骨砕身働かせて頂きます。ところで、死亡手当は付きますか?」
『私は傷つき嘆く者を見捨てたりはしません』
「それはそれは」
『……プレスター・ジョン、聞こえますか? この哀れな六六六人衆を、あなたの国にかくまって下さい』
「みんな、慈愛のコルネリウスが灼滅されたダークネスの残留思念に力を与えて、どこかへ送ろうとしているみたいなの……」
教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)がそう話し出す。
力を与えられた残留思念はすぐに事件を起こすような事は無いが、このまま放置する事はできない。
「みなには慈愛のコルネリウスが残留思念に呼びかけを行った所に乱入して、彼女の作戦を妨害して欲しいの」
珠希が言うには、慈愛のコルネリウス自体は現実世界へ出てこれない為、現場にいるのは幻のような存在で戦闘力も皆無らしいので戦う必要はない(戦えない)が、残留思念の方はそうはいかない。与えられた力で元のように戦闘能力も復活していると言う。
「今回、皆が相対する残留思念の名は『平野・歯車(ひらの・はぐるま)』よ」
知っている人もいるかもね、と珠希は説明する。
平野歯車――かつて蒼の王コルベインに雇われていた六六六人衆。
当時の不死王戦争で武蔵坂学園の灼滅者に灼滅された存在だ。
「強さは当時と変わっていないわ。でも、殲術再生弾が無くとも今の皆なら戦闘にだけ集中すれば、なんとか倒せる相手のはずよ」
平野歯車は戦闘になった場合は攻撃重視の戦法を取るらしい。
攻撃方法は殺人鬼に似たサイキックを使うが、それ以外のサイキックも使うという。
「殺人鬼に似たサイキック以外は……ごめんなさい、私の予測じゃ解らなくって……」
珠希が頭を下げる。
「平野歯車は変わった六六六人衆で、どうも『サラリーマン』らしさを重視するみたいなの。コルベインや鍵島コーポレーションがなくなった今、『仕事』が無くて落ちつかないみたいね」
もしその辺りを解決できれば、平野歯車は攻撃方法が攻撃重視から妨害重視になるらしい。それが利となるか不利となるかは現場の皆次第なのだが……。
「それとプレスター・ジョンの国に残留思念が向うとどうなるか……それは解っていないわ。でも、コルネリウスに協力するようになるのは避けた方が良いかなって思うの」
かつて倒した相手ではあるが、それは殲術再生弾の加護の下だ。だが、今の皆が力を合わせればきっとなんとかなるとエクスブレインは言う。
今こそ、成長した灼滅者の力を見せる時だ。
参加者 | |
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墨沢・由希奈(墨染直路・d01252) |
橘名・九里(喪失の太刀花・d02006) |
若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792) |
レイシー・アーベントロート(宵闇鴉・d05861) |
闇縫・椿(時を刻まぬモノ・d06320) |
千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209) |
新沢・冬舞(夢綴・d12822) |
ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810) |
●
そこは阿佐ヶ谷にある最近建ったビルの屋上だった。
綺麗に整えたオールバックにパリッとしたスーツを来た男――平野・歯車(ひらの・はぐるま)は実体化すると、すぐに背後に潜む気配を感じて振り返る。
「やれやれ、今日はどこかのホテルでゆっくりしたかったのですが……」
別のビル影で暗くなっていたそこに彼らはいた。黒スーツを着こなした8人の男と女。
歯車の実体化を見届け、8人がゆっくり暗がりから月明かりの下へと歩いてくる。
1人は背の高い青年、ネクタイもしっかり締めビジネスマンのよう。
1人は髪を結んだ女性、スーツ姿だがやけに活動的に見える。
1人はガタイの良い男、黒スーツを着崩しサングラスをかけている。
1人はスーツ姿だが下にフードを着込み、フードを被っている。おそろいー、とばかりに少し嬉しそう。
1人はどこか古風な雰囲気の青年、居心地悪げにYシャツの首もとを気にしている。
1人は少女、皆と同じくスーツだが、傍らに連れた霊犬も犬用の黒スーツを着ている。
1人は隙のない男、夜闇のような黒スーツは普段着なのか他の者より自然体だ。
1人は手には書類ケース、足下はハイヒール、完璧にスーツを着こなした少女。
ブラックスーツで統一された8人の姿は、どこか一枚のイラストを想起させるように格好良い。
「御久し振りに御座います。再就職活動中との事、陣中御見舞いに上がりました」
最初に口を開いたのは橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)だ。歯車とは阿佐ヶ谷での前哨戦以来となる。
「見た顔ですね……ですが、陣中見舞いとは無職の私に対する嫌みですか」
メガネの奥で目を細めながら鋭く言い放つ歯車。わずかに漏れ出す殺気にジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810)の霊犬ギエヌイが唸りだすが「今は……」と撫でて落ち着かせる。
「早合点しないで下さい」
そこに割り込むは新沢・冬舞(夢綴・d12822)。
「実は我々も貴方をヘッドハンティングに参りました。まずはこちらの条件を聞いて頂けますか?」
冷静に淡々としゃべる冬舞の口調とその内容に、歯車も戦闘態勢をとく。
もちろん、相手が交渉の場に出てきたといっても、こちらは警戒を緩めるわけにはいかない。千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)などはすぐに仲間を庇える距離を保つ。
そして、8人の代表として一歩前にでたのは墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)だ。ハイヒールでカツカツカツと歯車に近づき内ポケットから名刺を取り出す。
「初めまして、かな。武蔵坂学園中等部、井の頭キャンパス3年E組所属、墨沢由希奈だよ」
「やはり武蔵坂学園でしたか。眼鏡の彼で予想はついていましたが……ああ失礼、今は失業中でして名刺が無く、申し訳ない」
由希奈の名刺をもらいつつ、自身は交換する名刺が無いと謝る歯車。そこに灼滅者だからと見下す雰囲気は無く、あくまでビジネスライクだ。
「ああ、お気になさらず……こほん。本日は平野歯車様に業務のご提案があり、参上しました。こちらを」
少し堅い感じを醸しだしつつ由希奈がある契約書を歯車へと手渡す。
「『再雇用の為のデモ戦闘』……ですか、戦闘終了条件は相手側の死、と」
「箔も付きますし、悪くない提案だと思いますが?」
「確かに……しかし私はともかく、あなた方には何かメリットが?」
それに対して解答したのは若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)だ。
「言っただろ? ヘッドハンティングだって。俺たちの誰かが死ぬようなら、あんたの実力は本物だ。是非ともウチに来て欲しい」
眼鏡を中指で押し上げる歯車。そこで畳みかけるよう割り込むのはレイシー・アーベントロート(宵闇鴉・d05861)だ。
「悪くない提案だろ? 俺らが勝てば武蔵坂の名が挙がるし厄介な敵を野放しにせずに済む。あんたが勝てば他勢力へ再就職する際のアピールにもなる」
歯車が手を顎に当てて考える。灼滅者8人を倒しても何の宣伝にもなりはしないが、自身を倒した組織に就職できるのは面白いかもしれない……。
「わかりました、契約致しましょう」
そう言うとスラスラと契約書にサインする歯車。
「これで心おきなく……残留思念であろうと貴方と殺し合える。本当に嬉しいです」
うずうずしながら呟く闇縫・椿(時を刻まぬモノ・d06320)。
契約は済み、歯車は作戦通りにビジネスモードに移っている。
あとは……。
「他者に邪魔をされては、貴方の実力が分からないだろう?」
一言言いつつ殺界形成を発動させる冬舞。
歯車にも異論は無いようだ。
そして、契約書を書類ケースにしまうと由希奈が宣言する。
「それでは、契約を交わしましたところで……勝負、だよっ!」
●
「再び相見えることができるとは、な」
歯車を中心にババッと8人の灼滅者が距離を取る。
解体ナイフを右で構え、腰に差したクルセイドソードの柄を軽く左で触れながら。
「それでは、死合を始めよう」
冬舞が呟くと同時、夜の霧を発生させ前衛の姿を虚ろにする。
そんな霧の中から最初に飛び出したのは九里。
駆けながらカードを解放しいつもの書生服へと戻りつつ、振り上げた拳が鬼のソレに変化する。
「あぁ矢張りこの恰好が一番ですねぇ」
九里の鬼の腕を歯車は腕を交差して受け止める。だが、予想以上の膂力に腰が沈み。
シャシャッ!
九里が殺気を感じて飛び退けば、僅かに袴の裾を歯車に斬られた。
いつの間にか歯車の手に、くの字型の蛮刀――ククリ刀――が現れていた。
「あの時の力は、まぐれではなかったという事ですか……」
歯車は殲術再生弾の事を知らない、ゆえにそれは灼滅者たちが強くなっている証拠だ。
「お初にお目にかかります。わたくし、武蔵坂学園所属の灼滅者で闇縫椿と名乗っております」
無表情のまま椿が自己紹介しつつ咎人の大鎌を振りかぶれば、歯車が「これはご丁寧に」と一気に距離を詰めて懐へ、逆手に持ったククリ刀を至近距離で斬り上げるも、椿は大鎌を片手のみで持つと、空いた方の手でクルセイドソードを抜き放ち白い光を放ってククリ刀を弾きつつ歯車へと斬りつける。
カウンター気味に入った一撃は、歯車のスーツを僅かに切り裂いて。
「コレは中々気にいっていたデザイ――」
「はあっ!」
歯車に最後まで喋らせず、鬼化した腕で殴りかかる由希奈、その攻撃をククリ刀の柄で受け止める歯車。
だが、そこで動きを止める事こそ由希奈の狙い。
ダラララララッ!
弾のライドキャリバー、デスセンテンスの機銃掃射。
「おらっ!」
さらに連携して跳躍からの右ストレートを放つ弾。
その拳は雷を纏い、見事歯車の顔面に炸裂する。
吹っ飛ぶ歯車、その歯車を追い越し死角に回り込んだのはレイシーだ。
「悪いけど、見逃してやる気はねぇんでな。ここで灼滅させてもらうぜ」
飛んでくる歯車に狙いを定め……しかし、歯車は途中で屋上の床を刀で叩くと勢いを相殺、跳躍しレイシーの攻撃を掻い潜り頭上へ。
「なっ!?」
「次は私の番でしょう?」
歯車が眼鏡を押しあげつつ懐に手を入れ、その手に取りだすは黒い名刺。
黒い名刺……いや、殺気の塊を投げる歯車。
避けられない! そう思ったレイシーの前にフードの影。
「う、ぐ」
レイシーを庇った七緒がうめき声をあげ、殺気に切り裂かれた箇所から血が吹き出る。
「すまねぇ、大丈夫か!?」
その言葉にコクリと頷く七緒。さらにその傷から炎が生まれ。
「ファイアブラッドは怪我してナンボ、ってね!」
クリエイトファイアにより立ち昇る炎を見ながら七緒が言う。
さらに前衛全員にジオッセルとその霊犬ギエヌイがキュアを飛ばし、灼滅者側は再び体勢を立て直したのだった。
●
歯車との戦いは続く。
仲間を庇って歯車の攻撃に耐えた弾だが、その横ではカラカラとタイヤを回しながらライドキャリバーのデスセンテンスが動きを止めた。
舌打ちを飲み込み構え直す弾。
その気持ちをくみ取ったかのように、2つの人影が動きだした。
1人はレイシー、歯車へと迫り非実体の剣で斬りつける。
もう1人はジオッセル、レイシーに歯車の気が向いた隙にダメージを受けた弾を癒しの矢を使って回復させる。
さらに2人と時間差で由希奈が動く。
レイシーの攻撃をさばく歯車に肉薄すると、そこから捻り込むようにアッパーカット!歯車のエンチャントごと防御をぶち抜く由希奈。
アッパーで弧の字を描いて吹っ飛ぶ歯車……を今度は風の刃が追撃。空中で身を捻り着地した歯車は、即座にバック転して風の刃を回避する。
「いつぞやは青い同僚の方しか御相手して下さいませんでしたが、漸くの間に僕たち、貴方の中で少しは上客になれたでしょうか?」
九里の言葉に歯車は中指で眼鏡の位置を直しながら。
「上客……いえ、どちらかと言うとやっかいな競合他社、ですね」
「……それは恐悦至極」
九里が眼鏡をずり上げつつ言うが、その顔はやけに歪んだ笑みを浮かべていた。
灼滅者の取った作戦は決して間違っていない。
歯車をビジネスモードにし、行動を妨害系メインへと誘導。
それでいて自分達はバッドステータス対策をしっかり建て、有為な陣形で戦う。
「今のうちに回復を」
七緒が仲間達へと告げる。
今、歯車は七緒が放った影の中だ。
「俺が」
冬舞が短く返事をし、祝福の言葉を風に乗せて前衛を癒す。
それをチラリと確認した七緒は、影の中の歯車へ問う。
「死ぬより恐い事ってあるのかな?」
今、この影の中で歯車はトラウマに襲われているはず……。
バリリッ、しかし影を切り裂き現れるダークネス。
「働けなくなること……私は、それが一番怖い。私はまだまだ……働きたい!」
七緒に向かって走り込んでくる歯車。
だが、その七緒を後ろから追い抜き歯車へと突っ込む影――椿だ。
歯車のククリ刀と椿の大鎌が何度も火花を散らす。
椿のデスサイズが歯車の肩口へと突き刺さり、だが同時に歯車のククリ刀が数度と椿の身体を切り裂く。
結果……うつ伏せに倒れたのは椿だった。
ジワリと赤い血が屋上の床に広がって行く。
「さて、次の案件に参りましょうか」
ゆらり。
歯車が別の灼滅者に向かおうとする背後で、傷だらけの椿が立ち上がる。
椿は傷つきながらも楽しんでいた。その高揚感は肉体を凌駕し、再び大鎌を振るわせるのだった。
●
「ここまで強くなるとは思ってもみなかったですよ……本当に、ね」
歯車の刃から椿を守って倒れた弾が、肉体の限界を越えたまま立ち上がり、不意をつかれた歯車は弾に胸倉を掴まれていた。
「不死王戦争の残り滓のくせに、まだ『残業』やってるつもりかよ? だったら残業代を支給してやる、俺の……拳でな」
地獄投げの要領で一気に屋上の床へと叩きつける弾。
「残業の……つもりは、ないのですがね……」
「ハッ、だったら俺がその『再就職先』を決めてやる……てめぇは『地獄行き』だ。行きの交通費は支給してやるよ」
なんとか立ち上がる歯車だが、その表情は誰が見ても苦しそうだ。
シュッ!
風切り音と同時に歯車が反応する。
見ればジオッセルが放った彗星撃ちだった。咄嗟に回避しようと首を傾げ……ズシャ。
回避しきれず首筋から大量に出血。
「くっ、私も……オーバーワーク……でした、か」
体がついてこなくなっている事に驚愕する歯車、それは僅かに出来た隙だった。
飛び込んでくるのは冬舞、武蔵坂に来てからもいろいろあった。昔の自分ではきっとこのダークネスに勝てなかっただろう……だが、今なら。
解体ナイフが光の軌跡を幾筋となぞり、防戦一方となる歯車。
そして歯車の意識が冬舞に移ったのを見計らい、レイシーは指輪に溜めた魔力を魔法弾として撃ち出す。狙いは……頭。
「ヘッドハンティングされたいんだろ? それとも『クビ』になった方がいいってか?」
レイシーの声に気が付き、慌ててククリ刀で相殺しようとするも、目の前の冬舞と、援護射撃をしてくるジオッセルの矢を捌くので手いっぱいだ。
ゴッ!
額に直撃し仰向けに倒れる歯車。
だが。
「営業は……ピンチをチャンスに変えてこそ……」
再び起き上がろうとする歯車。
「今だよ」
七緒が言うと同時に歯車の右肩を縛霊手で、由希奈がフォースブレイクで左肩を殴りつつ再び歯車を床へ磔にする。
「ちっ!」
舌打ちすると共に歯車が両足を曲げ、それを伸ばす勢いで立ち上がろうと――。
「させませんよ?」
九里の鋼糸が両足に絡まり動きを封じ、そのまま切り裂いた。
巻き取られ血を流しながら両足が床へ。
「本日は残業無しで参りましょう。……お疲れ様に御座いました、平野さん」
九里が鋼糸を持たない方の手で眼鏡をずり上げ、残忍な笑みを浮かべる。
そして……屋上の床に仰向けに磔状態の歯車、その顔に影が落ちる。
見上げた空を隠すのは光る両拳を構えた暗殺者。椿だ。
「お、おのれ! 私は! 俺は! 永遠に歯車のように働くのだ! こんな! こんな所でッ!!!」
ダダダダダダダダダダダダッ!
上空から落下すると同時、磔の歯車の全身に椿の閃光百裂拳がクリティカルヒットする。
乱打が終わり、クルリと宙返りし屋上に立つ椿。
「Gute Nacht. Auf Wiedersehen.」
椿が呟き、平野歯車の残留思念は光の粒子となって消えていったのだった。
歯車が消え、静かになったビルの屋上。
夜の阿佐ヶ谷を屋上から見れば、かつての戦争がなかったのかのようにも思える。
「……ちゃんと強くなれてるよね、僕ら」
「ああ、もちろん」
七緒の呟きに応えてくれたのはレイシーだった。
思わず見つめる七緒。
何だ? と見つめ返して来たレイシーに、七緒は帽子を深めに被り直し「別に」と何か満足げに微笑む。
「そういえば……平野って銀行口座あるんだっけ?」
今更思い出したように言う由希奈に、誰もがやれやれとジェスチャーを。
「あいつ、もしかしたら本気で勧誘したら武蔵坂に就職してたかもな?」
思っていた以上にプロ意識が高そうだった事を思い出してレイシーが言う。
「それは……上司によるのでは?」
九里が『全て本当』という名前なら、信じても良かったもしれませんね、とかつて歯車に言われた皮肉を交えつつ言った。
ふと、弾は歯車の投げていた黒い名刺を拾うが、拾い上げる前にポロポロと光の粒子となり消えてしまう。
「残留思念まで叩きのめしたんだ。今度こそ本当にあいつは失業だな。だいたい……死んだ奴が蘇るなんて、あっちゃいけねえのさ」
平野歯車。会社の歯車として生きる事に拘る不思議なダークネスだった。
もし次に出会うとしたら――。
「貴方が消えても、世界は変わりなく動きますよ。尤も、それは僕らも同じですが、ね」
自嘲気味な灼滅者の声が、阿佐ヶ谷のビル間を通る風に流されて行った……。
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年7月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 41/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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