圧倒的絶対領域

    作者:小茄

    「「~♪」」
     数人の男女によって奏でられる、低いハミングの様な歌声。それに時折混じるのは、金剛鈴の澄んだ音色。
     やがて手錫杖のシャン、シャンと言うリズムがこれに加わり、締め切られた和室の中は、どこか浮き世を離れた特別な空間へと変化して行く。
     荘厳な宗教儀式の様相を呈しつつあるその空間に、静かに登場したのは1人の少女。
    「みんなー、ヤッホー♪」
     夏にも関わらず、ブレザーに厚手のプリーツスカート。黒のサイハイソックス。肌の露出は、顔と手、絶対領域と呼ばれる太ももの一部だけと言った少なさだ。
     そして少女は、室内の空気をまるきり無視した様な軽い挨拶。
     儀式をぶち壊しにされ、大人達もさぞ激怒する……かと思いきや
    「「A・Z! A・Z!」」
     拳を突き上げ、まるでコンサート会場で熱狂するアイドルファンの如き盛り上がりだ。
    「今日もアナタの絶対領域に、侵入しちゃうゾッ♪」
    「「ウラーッ!!」
    「おぉぉ……ありがたや……ありがたや……」
     手を擦り合わせながら、涙を流す老人の姿も見受けられる。
    「A・Z様のお陰で、長年患っていた腰痛が治りました!」
    「僕は大学に合格しました!」
    「俺はパチスロで万枚いきました!」
    「A・Z様、私にもお願いします!」
    「膝枕を!」
     そんな感謝の言葉と共に、紙幣を手にした男達が手を挙げて少女にアピールを始める。
    「A・Zによる清めの儀式を希望される方は、どうぞ、こちらへお並び下さい。それ以外の皆さんは、どうぞお気を付けてお帰り下さい」
     誘導に導かれ、紙幣を手にした男達はぞろぞろと列を成し始め、その他の男達は、それを羨ましげに見ながら、会場を後にするのだった。
     
    「一般人が闇堕ちし、ダークネスになりかけていますわ。彩雪の懸念が的中してしまったと言う事ですわね……」
    「そう……ですか……まさか本当に……」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)はそんな前置きから、状況の説明を始める。
     情報提供者である加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)も、にわかには信じがたいと言った反応だ。
    「闇堕ち一般人は、秋田県の高校に通う水上栞と言う少女。元々アイドルになる事を夢見る普通の少女だったのですけれど……」
     月並みの顔立ち、スタイル、歌唱力……平均点を超えることの無い彼女が、唯一他者を圧倒する要素。それが、絶対領域であった。
    「栞は、サイハイソックスなどを履いて、自分の写真をネットにアップしたり、動画で踊るところを配信する等しているうち、いわゆるネットアイドルの様な人気を得始めた様ですわ」
     そんな風にファンを集めるうち、ソロモンの悪魔に魅入られ、闇堕ち。
     広大な屋敷の一角を利用して定期的に集会を行い、ファン達にその絶対領域を披露したり、清めの儀式と称して膝枕をするなどする代わりに、金銭を巻き上げていると言う。
    「まぁ、道義的な問題もさることながら、このままいけば彼女は完全にダークネスになってしまいますわ」
     そうなる前に、救うなり灼滅するなりしなくてはならない。
     
    「接触するには、週に1度行われる集会の日。栞の自宅に行くのがベストですわね。A・Z(Absolute Zoneの略らしい)に会いたいと言えば、すんなりと通して貰えるはずですから」
     栞は本来、自分がアイドルになって多くの人々を楽しませたり、勇気づけたりしたいと言う前向きな気持ちを持っていた。
     それが闇堕ちの影響で、非モテ男性達を慰め、高額の謝礼をせしめると言う悪徳商法の様なスタイルに変化してしまった様だ。
    「集会終了後、一定額を納めれば、数分間ですが栞と2人きりで話す事も可能ですわ。説得する事で、彼女の良心に訴えられれば、その後の戦闘を優位に進められるかも知れませんわね」
     もし必要であれば、と軍資金を机の上に置きつつ絵梨佳は言う。
    「……作戦が終わったら回収して、ちゃんと返金して下さいましね?」
     
    「では、行ってらっしゃいまし。お早い帰還をお待ちしておりますわ」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    マルタ・エーベルヴァイン(ピュロマーネ・d02296)
    夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)
    八坂・百花(魔砲少女見習い・d05605)
    六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504)
    遠夜・葉織(儚む夜・d25856)
    山羽・明野(音狼・d28366)
    凍月・緋祢(コールドスカーレット・d28456)

    ■リプレイ


     山中の町の一角。古くからの屋敷に彼女は住んでいると言う。
     少女の名は水上栞(みずかみ・しおり)。
     両親は共に海外で仕事をしており、今は広大な屋敷に独り暮らし。近所に祖父母がいるとは言う物の……
    「聞いていた以上に広いお屋敷ですね」
     大広間から望む中庭の広大さに、率直な感想を漏らす遠夜・葉織(儚む夜・d25856)。
    「両親が海外でこの広い家に一人……もしかしたら、寂しくて誰かに見てほしかっただけなのかもしれんね」
    「うん……それにしても、絶対領域でここまで大人気になってしまうとは大した物だ」
     鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)の説得力ある推測に、然りと頷きつつ応えるマルタ・エーベルヴァイン(ピュロマーネ・d02296)。
     灼滅者一行は、栞の自宅であるこの屋敷で定期的に行われると言う「A・Z集会」に潜入していた。
    「皆さん、間もなく降臨の儀が執り行われます」
     中年の宮司風の男が告げると、参加者達はその場に正座し、祈るようなポーズを取る。
    「「~♪」」
     お経ともハミングとも言える様な歌声に合わせ、金剛鈴が鳴らされる。香の香りが広がり、やがては手錫杖が更なるリズムを加える。
     宗教儀式に迷い込んだような錯覚を覚え始めた頃、宴の主催者であり、人々の信仰の対象である少女が姿を現した。
    「みんなー、ヤッホー♪」
    「「A・Z! A・Z!」」
     これまでの空気をぶち壊しにする軽い挨拶に、男達も総立ち。豹変した様に拳を突き上げ、少女の二つ名であるA・Zを連呼する。
    「なんていうか……うん、マーケティングは間違っていないところが実に悲しいね……」
     そんな周囲の男達から浮かないように、夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)も立ち上がって、コールに参加する。
    「おやおや、お宅も中々のA・Z通とお見受け致しましたぞ。たまりませんなぁ、私はやはり、絶対領域を最も引き立たせる色は黒だと考えるのですが、お宅はどの様にお考えですかな?」
    「……全く同意見だよ」
    「おぉ、そう仰ると思いましたぞ!」
     のみならず、持参したサイリウムを激しく振って、儀式の常連感さえ漂わせている彼に、隣の中年男が仲間意識を覚えて声を掛けてくる程。
    (「サイリウム振ったりするの僕人生初めてだよ……」)
     密かにため息をつきつつ、しかし熱狂的な信者のフリを続ける千歳。
    「……宴もたけなわでは御座いますが、A・Zによる清めの儀式を希望される方は、どうぞ、こちらへお並び下さい。それ以外の皆さんは、どうぞお気を付けてお帰り下さい」
    「おおっ、待ってました!」
     宴が最高潮の盛り上がりに差し掛かった頃、先ほどの宮司が参加者達へそう告げる。いそいそと紙幣を手にアピールを始める男達に混じり、灼滅者達も互いに目配せを交わせてこれに倣う。
     この清めの儀式こそが、A・Z集会のメインイベントなのだ。
    「あーあ……良いよなぁ、俺も清めの儀式に参加してみたいよ」
    「羨ましいなぁ……」
     その儀式の費用を工面出来なかった者達は、肩を落としながら部屋を後にする。
    「……それでは順番にお名前を読み上げさせて頂きますので、呼ばれた方は奥の間へどうぞ」
     参加希望者から費用を受け取った宮司が静かに立ち去り、部屋には灼滅者と数人の男達が残された。
    「田中さん、あなたもお好きですなぁ」
    「いやいや斉藤さん、あなたには負けますよ」
    「……貴方達は新顔さんだね? お若いのに清めの儀式とは、羽振りが良いですなぁ」
    「なに、それだけの価値はあると聞いたからの」
     灼滅者達に興味を示す男達に、短く答える山羽・明野(音狼・d28366)。
    「開運にあやかりたくてね」
     六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504)もこれに合わせ、軽い調子でそう告げる。
    「なるほどなるほど……確かに、この清めの儀式を受けて、宝くじに高額当選したと言う話もありますからなぁ」
    「島崎様、どうぞお入り下さい」
    「おっと、それではお先に……」
     そうこうしている間に、一人目が奥の間へと消えてゆく。
    「しかし女性とは珍しいですな」
    「全く……それに……貴方達もなかなか結構な絶対領域をお持ちで……」
    「ふふ、浮気はいけませんよ」
     ジロジロと無遠慮な視線を浴びせてくる男達へ、あしらうように告げる凍月・緋祢(コールドスカーレット・d28456)。
    (「絶対領域かぁ……いいものだとは思うけど、お触りメインってどうなの?」)
     そして心中で呟く八坂・百花(魔砲少女見習い・d05605)らは、今回の依頼に備えて(?)自らの脚に絶対領域を形成していた。
     絶対領域フェチである男達が、それを見過ごすはずもない。
    「柴田さん、どうぞお入り下さい」
    「おっと、ではお先に」
     そんなやり取りをするうち、部屋には灼滅者達のみとなる。いよいよ、A・Zこと栞と直接対面の時だ。


    「こんちは、A・Z様。はじめました?」
    「こんにちは? 女の子なんて、珍しい!」
     奥の間のふすまを開き、挨拶する珠音を見上げ、栞は目を見開いた。
    「さぁ、どうぞ?」
    「あぁいや、膝枕よりこうして話がしたくての」
     栞の正面に座った珠音は、彼女の顔を正面から見据えつつ、話を切り出す。
    「すごい人気じゃね。みんなゆーのことばっかり見ちょった」
    「……ありがと。皆私の事を慕ってくれる、とっても大事な人達だよ」
    「……でも、動画で踊ってた時の方が、ずっと楽しそうに見えたんよ」
    「えっ? それ、どう言う意味?」
     ――ちりんちりん。
    「ありがと。お話のお礼に……困った時には、助けにくるんよ」
    「……ど、どう致しまして……?」
     部屋の外から、タイムリミットを知らせる鈴の音が響くと、珠音はすっと立ち上がり、部屋を後にする。

    「貴方は良かったの? 膝枕タイムに参加しなくて」
    「あはは……こう見えて、僕にも決まった相手が居るんでね」
     百花の問いかけに、笑いながら答える千歳。
     二人は奥の間の外で、仲間からの連絡を待つ。
     その位置からは、前半のみ参加した一般の参加者達が、三々五々、帰って行く様子も見届けられた。

    「また女の子! 今日はなんだか不思議な日だよ。貴女も膝枕は要らないの?」
    「折角だからしてもらおうかな」
     そう言うと、部屋に入ったマルタは、促されるままに栞の膝枕に頭を乗せる。
    「うん、癒される。君は……A・Zはすごいね。こうやって何人も癒してきたのかい?」
    「そうだね、結構好評なんだ。私の膝枕」
    「膝枕や笑顔で癒し、元気づけたり。僕はすごいと思うよ」
    「あ、ありがと……全員をってわけにはいかないけど……」
     手放しでマルタに褒められ、少し照れくさそうな、ばつが悪そうな様子で答える栞。
     ――ちりんちりん。
    「それじゃ、また」
    「うん、またね」

    「立派な屋敷よな……」
     次に名前を呼ばれたのは、カイ。先ほどの部屋より小さいながらも、建具、調度品、縦軸など、どこを見ても高級感が漂っている。
    「いらっしゃい、さぁどうぞ?」
    「あぁいや、折角だけど」
    「あなたもお話だけなの?」
     心に決めた相手がおり、また金銭によって膝枕されると言う行為を好まないカイもまた、栞の申し出を断り、彼女の前に腰を下ろす。
    「こんな良い家に住んでるのに、結構なお布施を求めるってのは……何か差し迫った事情でも?」
    「え? いえ、そういう訳じゃないよ? こ、これは、儀式に対する正当な対価としてのお布施だから……」
     ――ちりんちりん。
    「そうか、俺の勘違いかな? それじゃ」
    「……う、うん」

    「わ、また女の子!」
    「初めまして」
     次に部屋へ入ったのは葉織。丁寧にお辞儀をすると、栞の前に正座する。
    「貴女も私とお話を? なんだか……話だけだと申し訳なく思えちゃうな」
    「これは貴方が本当に行いたかったことなのでしょうか」
    「えっ?」
    「このように人を誘惑し大金をせしめることが」
    「ちょ、ちょっと待ってよ。人聞きの悪い事言わないでよ……せしめるなんて。この儀式を希望する人達は、自分で納得して来てるんだからさ……誘惑なんてしてないし」
     丁寧ながらも、ずばずばと遠慮の無い物言いをする葉織に対し、視線を泳がせつつ弁解する栞。
     ――ちりんちりん。
    「……ではまた」
     タイムリミットの到来と共に、腰を上げて部屋を去る葉織。
    「……な、何なの……」

    「我の家に近い造りじゃな」
     続いて部屋に入って来たのは、明野。
    「また女の子……?」
    「ん? 我は男じゃぞ。何ぞ知らぬが、女性に間違われることはあるにはある」
    「あ、ごめんなさい……じゃあどうぞ?」
    「いや、膝枕は遠慮しよう」
    「そうなの? なんだか今日はそう言う人が多いの」
    「……おぬし、最初の目的は何じゃったのかの?」
    「最初の目的……?」
    「笑顔のためではなかったのか?」
    「今だってそうだよ! 皆に楽しんで……元気になって貰おうと、そう思ってるよ」
     ――ちりんちりん。
    「それでは、またの」
    「……っ……私は……」

    「また女の子……貴女も膝枕じゃなくお説教?」
    「いえいえ、失礼しますね……」
    「あ、うん」
     やや表情を硬くし、身構えていた栞だが、緋祢はそんな彼女の膝に横たわる。
    「ふふ、素敵な感触です……」
    「ほんと? そう言ってくれると嬉しいよ」
    「A・Z様は皆を楽しませ、勇気づけるアイドルを目指していたのでしょう?」
    「……そうだけど?」
    「親衛隊の方と、ファンの方をお金で区別するのがA・Z様の……いえ、水上様の目指すアイドルなのですか?」
    「っ……そう言うわけじゃ……」
     ――ちりんちりん。
    「有難うございました。とても良かったです」
    「……」

     全員の膝枕タイムが終わり、部屋の外に出た緋祢。懐の携帯電話を操作すると、全員にタイミングの到来を報せる。
     最後の説得と、戦闘の時だ。


    「なんなの……今日は変な子ばっかり……私は……今だって変わらず、皆の為に……」
     腰を上げ、栞が奥の間を後にしようとしたまさにその瞬間。
     ――バンッ。
     勢いよく開かれる襖。
    「正しい願いを持ちながら、闇堕ちした少女……救って差し上げねばなりませんね……」
     刀の柄に手を置き、静かに部屋の中に歩み入る葉織。一同もこれに続く。
    「貴方達……さっきの……やっぱりただの参加者じゃなかったんだ! 皆!」
    「「おおっ!」」
     栞の呼びかけに応じ、親衛隊も一斉に姿を表わす。
    「せっかくの屋敷、出来るだけ傷つけずに済ませたいものじゃ」
     明野はサウンドシャッターを展開し、第三者の介入を防止する。
    「A・Zに楯突く者に天罰を!」
     ――ブンッ。
     角材のようなものを振り回し、珠音に殴りかかる。
    「しおりんのなりたかったアイドルって、これでいいの!?」
     角材を紙一重でかわすと、逆に無数の拳を叩き込む珠音。
    「な、何が言いたいの……さっきから……!」
    「ええい、こいつらを黙らせろっ!」
    「絶対負けない……しおりんに助けるって約束したんよ! 約束は……守る!」
     親衛隊の猛攻をいなしつつ、栞に言葉をかけ続ける珠音。
    「さあ、絶対領域が気になるならかかってらっしゃい。でも、そう簡単に触らせてあげるつもりもないけど」
    「お、おぉっ……」
     信徒達の視線を釘付けにしつつ、寄ってきた信者にシールドバッシュを叩き込む百花。
    「お金で簡単に触らせてもらえるだなんて勘違いしないでよね」
     あわれ、火に飛び込む虫のように打ち倒されてゆく信徒。
    「水上様、貴女は、アイドルになって皆様を勇気づけたいと純粋に願っていたのでしょう?」
    「そ、そうだよ! 私はその為に努力してっ……!」
     緋祢もまた、絶対領域によって信徒を魅了しつつ、しかし意識は栞へと向ける。
    「努力するやつは好きだ。誰かのために頑張るやつも好きだ。君はどうなんだい?」
    「私は、皆を勇気づけて……その為に……」
    「こんなことがしたかったか、本当は何がしたかったのか。もう自分でもとっくに気づいているんだろう?」
    「……」
     マルタもまた、掴みかかる男を回避し、燃えさかる回し蹴りを叩き込みながらの説得。
     栞は、視線を泳がせて口ごもる。
    「君は笑顔を皆に届けるキラキラとした存在になりたかったんじゃないのかい? 今の自分をよくみてごらん。これは本当に君がなりたかった姿じゃないだろう?」
    「それは……」
     除霊結界を展開しつつ、尚も問いかける千歳。
    「刀とは、他者を害する刃にもなれば誰かを護る盾ともなる。これ即ち使い手の魂(こころ)の鏡。あまねく『武器』に対してそれは言えよう。A・Z……否、水上・栞。お前は、その『武器』を何の為に振るう? 誰が為に、それを振るおうと思った?」
    「私は、皆の……為……皆を……」
     妖刀『シヲマネキ』を振るい、立ちふさがる信徒を払いつつ、問いかけるカイ。
     俯いて、絞り出す様に言う栞。
    「……何なの! もう遅い! こうなっちゃったんだから! 今更ああだこうだ言わないでよ!」
     感情を爆発させた栞の身を、どす黒い瘴気が包み込む。
    「大丈夫じゃ、まだ、間に合うからの。だからこそ、ここへ来たのじゃ」
     明野の振るった刀の切っ先から、弧状の衝撃波が放たれる。瀕死だった信徒達がその場に崩れ落ち、残るは光と闇の狭間でたゆたう栞を残すのみ。
    「もし、貴方に人を励ましたいという思いが、願いが残っているならば此方側へ戻ってきてください」
     瞬く間に抜き放たれた葉織の刃が、ついには栞を覆う瘴気を両断したのだった。


    「う……あれ?」
    「お気づきになりましたか?」
    「え、ちょ……なんで私」
     緋祢の膝の上で目を醒ました栞。
    「動画投稿、またやってよ。ファンとして待ってるから!」
     栞の身上にシンパシーを感じたのか、微笑みつつ励ます珠音。
    「……でも、私……こんな事になって……もう、そんな資格は……」
    「『夢は諦めなければ叶う』っていうだろう? 自分を信じてもう一回頑張ってみようよ」
     こちらも普段通りの柔和な笑顔で告げる千歳。
    「あたしも、露出少なめの絶対領域を持つ仲間として、あなたのアイドル活動も応援する」
     百花も普段通りの口調だが、表情やトーンは柔らかい。
    「……ありがと……良いのかな……本当に」
    「誰かのために頑張る君を僕が応援しよう。応援させろ」
     ふっと笑いつつ、偉そうに言うマルタ。栞も釣られて、笑みを零す。
    「アイドルの道は別として……おぬしの力を人の為に活かすなら、この上ない場がある。我々と共に来ぬか?」
    「皆と一緒に……人の為に?」
     ここぞとばかり、誘いの言葉を掛ける明野。
    「そう、武蔵坂学園にな」
    「闇から抜け出した貴方には、他者を闇から救う力が備わっています。仲間として歓迎しますよ」
     こちらも手をさしのべ、促す葉織。
    「……解った。皆に迷惑を掛けた分……取り戻せるなら!」
     その手を取り、立ち上がる栞。
    「では、決まりだな。行くか」
     カイの言葉に、栞を含む一同が頷く。

     かくして、武器よりも心と言葉により勝利を収めた灼滅者達は。救い出した少女を伴って、凱旋の途についたのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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