乙女ゲームに憧れて

    作者:鏡水面

    ●夕方の路地で
     水無瀬・楸(蒼黒の片翼・d05569)は、ある噂を耳にした。
     乙女ゲームにハマった女が現実にまでそれを求め、連続でイケメンの男子高校生を誘拐しているらしい。罪なき乙女ゲーマーたちにとっては、大変不名誉な噂である。
     そんな噂を聞いてからほどなくして、楸は噂の現場に遭遇することとなる。
     本屋からの帰り、楸は何かが倒れる音を聞いた。音のした方向へ行ってみると、路地裏に男子高校生が倒れていた。傍には、背の高い女が佇んでいる。
    「大丈夫よ、お友達もいっぱいいるわ」
     甘い声で告げ、女は男子を抱きあげた。その背には黒い翼が広がり、悪魔のような尻尾が蠢く。
    (「もしかしなくても、これって誘拐現場だよね~……」)
     物影に隠れ、楸は息を潜める。
    「さあ、私と一緒に乙女ゲーライフを楽しみましょう! うふふ、フフフフフ……」
     淫魔は楸に気付かず、高らかな言葉を残し夕闇の先に姿を消した。
    「……学園に知らせないとね」
     楸は足早に学園へと向かうのだった。

    ●逆ハーレム計画を阻止せよ
    「それじゃ、あとはよろしく~」
    「水無瀬さん、情報ありがとうございます。ここからは私から説明しますね」
     楸に頭を下げたあと、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、今回の件について話し始める。
    「淫魔が男子高校生を連続で誘拐し、自宅に幽閉しています。どうやら、乙女ゲーム的展開を現実でも再現しようとしているようです」
     淫魔の名は三城・鈴菜。表向きには女子大生で、高級住宅街の古い屋敷に住んでいる。
     つい最近、乙女ゲーム……プレイヤーが女主人公となり、二次元の素敵な男たちと恋愛するゲームにハマり、ゲームだけでは物足りなくなったので、男子高校生を誘拐するようになったらしい。
    「皆さんには、この淫魔の灼滅をよろしくお願いします」
     姫子は告げると、現場の説明を始める。
    「戦闘場所についてですが、屋敷の庭は木々に覆われていて視界が悪いため、戦闘には適していません。屋敷の中で戦闘を行った方が良いでしょう」
     また、屋敷の中でも広い部屋に誘き出す必要があるだろう。
    「鈴菜さんのポジションはジャマーです。サウンドソルジャー系のサイキックと、魔導書系のサイキックを使ってきます。十分に注意してください」
     少し間を置いた後、姫子は真剣な面持ちで再び口を開いた。
    「男子高校生たちを助ける場合は、戦闘開始前に、鈴菜さんから遠ざける必要があります」
     鈴菜がピンチに陥ったとき、道連れにする可能性もある。男子高校生たちの安全を確保するためには、屋敷から彼らを脱出させる必要があるのだ。
     姫子は黒板に屋敷の間取り図と、男子高校生たちのいる場所を描き示す。
     誘拐された男子高校生は、全員で五人。屋敷の端にある部屋に幽閉されている。
    「皆さんが屋敷に到着する頃には、制服のコスプレを着た鈴菜さんが、男子高校生たちとお楽しみ中です。ですが、玄関のチャイムを鳴らせば、一時的に鈴菜さんだけを玄関に呼び寄せることができます」
     しかし、チャイムを鳴らすだけでは、一分程度で男子高校生の元へ戻ってしまう。問題はチャイムを鳴らしたあと、いかにして鈴菜を玄関先で引きとめるかだ。
     五分程度引きとめることができれば、玄関の反対側にある裏口から密かに侵入後、男子高校生たちと接触、救出することができる。裏口の鍵は老朽化が激しく、幸いにも機能していない。
     もちろんこの間は、鈴菜を倒しにきたことを知られてはならない。もし知られれば、鈴菜は真っ先に男子高校生の元へと向かうだろう。
    「男子高校生たちのいる部屋に着いたら、裏口から外に出るように仕向けてください。彼らは、『ここにいるのが当たり前だ』と思い込まされていますから、こちらから働きかける必要があります。ただ……」
     姫子は言いかけて、表情を曇らせる。
    「男子高校生の救出については、絶対ではありません。救出行動の途中で鈴菜さんに気付かれた場合は、救出を諦める必要もあるかもしれません」
     相手は八人で戦って、やっと倒せるレベルのダークネスだ。複数の一般人を守りながら戦うことは困難だろう。
     一通り説明を終えて、姫子は静かに息を付いた。
    「見た目麗しい男の子に囲まれたい……という気持ちもわからなくはありませんけど、誘拐はいけませんね。新たな犠牲者を増やさないためにも、灼滅をお願いします」


    参加者
    レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)
    鳴神・月人(一刀・d03301)
    クラウィス・カルブンクルス(他が為にしか生きれぬ虚身・d04879)
    水無瀬・楸(蒼黒の片翼・d05569)
    巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)
    志乃原・ちゆ(カンタレラ・d16072)
    宮澄・柊(迷い蛾・d18565)
    逢坂・優希(夢魅入るアネモネ・d26366)

    ■リプレイ

    ●弱点はイケメン
     高級住宅街に佇む屋敷は、木々に覆われ暗い影を落としていた。淫魔……三城・鈴菜を引き留める役を担うべく、灼滅者たちは玄関のチャイムを鳴らす。
    「はーい、どなた?」
     予知どおり、鈴菜が扉から顔を出した。
    「突然お邪魔してごめんなさい、同じ趣味を持つ方がこの屋敷にいると聞いて!」
     すぐさま、巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)が声をかける。さりげなく屋敷のことも褒めると、鈴菜は口元を上げた。
    「あら、そうなの?」
     鈴菜は愛華の背後に控える男性陣に、ちらちらと視線を送っている。
    「はい。ぜひともお話したいと思いまして」
     クラウィス・カルブンクルス(他が為にしか生きれぬ虚身・d04879)は鈴菜に熱い視線を送り、上品に微笑んだ。
    「こんな大きな屋敷に住んでるからどんな人かと思ったけど、まさかこんな可愛いコが住んでるなんてね」
     近所の高校制服を着た水無瀬・楸(蒼黒の片翼・d05569)が、爽やかに告げる。
    「可愛い? とっても嬉しいわ!」
     鈴菜は気分を良くしたのか、上機嫌に笑ってみせた。
    「イケメン男子、一人だけじゃ満足できませんよね……! ぜひぜひ、あなたのご趣味も聞きたいですっ」
     愛華は期待の眼差しを向ける。内心呆れていることは、決して表に出さない。
    「いいわよ! せっかく来てくれたのだしね。まずは……」
     爽やか系男子高校生もいい、オトナな執事系も最高だなどと語る鈴菜の視線は、時折クラウィスと楸に熱く向けられていた。大好きなイケメンの前では、疑うことも忘れてしまうのか。
    「このような感じでしょうか?」
     クラウィスは洗練された完璧な動作で辞儀をした。そこはかとなく、難攻不落な雰囲気が漂う。
    「そうそう! 隙がない執事様って感じ……隠しキャラみたいな? 萌えるわあっ!」
     うっとりとする鈴菜。その後も、褒める度に興奮する鈴菜に、灼滅者たちは合わせていく。
    「折角知り合えたんだし、時間があるならデートしない?」
     にっこりと爽やかスマイルを絶やさずに楸が誘うと、鈴菜はぱっと表情を輝かせた。
    「デート! またの機会に行きたいわね。今はちょっと取り込み中で……と言いつつこんなところで話しちゃってるけどね! うふふ」
     こうして鈴菜はひたすら語る。灼滅者たちはひたすら合わせ、その時を待つ……。
     
    ●男子高校生救出
     鬱蒼と茂る木陰に、屋敷の裏口はあった。鳴神・月人(一刀・d03301)はドアノブをそっと回し、扉を開く。
    「……よし、中に入るぞ」
     月人は周囲を注意深く確認し、屋敷の中へと侵入した。他のメンバーも続いて屋敷へと入る。
     玄関の近くを通る際、ハイテンションな声が玄関側から聞こえた。現状、引き留めはうまくいっているようだ。すぐさま、男子高校生たちが幽閉されている部屋へと向かった。
    「驚かせてしまったらすまない、お邪魔するよ」
     宮澄・柊(迷い蛾・d18565)が落ち着いた口調で、男子高校生たちに告げる。その言葉に、男子高校生たちは不思議そうに顔を上げた。
    「私たちは三城さんの学友です。今日は皆さんに、提案したいことがあって来ました」
     逢坂・優希(夢魅入るアネモネ・d26366)は、鈴菜の学友を演じつつ柔らかな笑みを向ける。
    「頼みたいこと?」
    「お嬢様は、近頃退屈しているみたいですから、サプライズして喜ばせてみるのはいかがでしょうか」
     ぼんやりと聞き返す男子高校生に、志乃原・ちゆ(カンタレラ・d16072)が提案する。
    「鈴菜様にサプライズを? 面白そうだ……」
     思考力が低下しているためだろう。灼滅者たちの身分を疑うことなく、男子高校生たちは互いに頷き合った。あと一押し、柊と優希が畳みかける。
    「部屋で相談してるとバレてサプライズにならないな。裏口を出たところで相談したらどうだろう。今のうちに買いに行くのもいいな」
    「私達は三城さんにこのことがバレない様、見ていますので安心して買い物してきてください」
     二人の言葉に男子高校生たちは同意し、部屋から歩み出た。
    「早く行って、ゆっくり選んでくるといい」
     レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)は、彼らが玄関に行かないよう誘導する。
    「三城にバレないよう、静かにな」
     常に玄関の方に気を配りながら、月人は足音を立てないように呼びかける。数分後、男子高校生たちを屋敷の外へと連れ出すことに成功した。
    「うまく連れ出せましたね。足止め班と、合流しましょう」
     遠ざかる男子高校生たちを見送り、ちゆは玄関の方向へと目を向ける。灼滅者たちは頷き、静かにかつ迅速に玄関へと移動した。
     陰から様子を窺うと、未だ鈴菜は熱弁の真っ最中だ。玄関先には引き留め役の三人の姿が見える。三人はこちらに気付き、目配せで合図をしてきた。
    「仕掛けるぞ」
     レインはスレイヤーカードを指に挟み、非常に小さく、それでいてはっきりと言葉を紡ぐ。
    「その闇を、祓ってやろう」

    ●お仕置きタイム
     奇襲の合図と同時、サウンドシャッターが屋敷を包む。同時に解き放たれたレインのビハインド、モトイが武器を振るい霊障波を放った。気配を察知した鈴菜が、とっさに身を翻す。回避先に接近し、レインがクルセイドスラッシュを叩き込んだ。白い輝きを放つ刃を、鈴菜の体に突き刺す。
     レインの攻撃に合わせるように、月人も脚から吹き上がる炎を叩き込んだ。
    「ッ……!? ちょっと、何なの!?」
     夢の中にいるような表情から一変し、鈴那の瞳に凶暴な光が宿る。
    「傍迷惑なお嬢様を、少々懲らしめにな」
     眉を寄せる鈴菜に、レインは強気な微笑を浮かべた。突き刺さる刃に気を留める鈴菜の死角へと、楸が回り込む。
    「Impulse release」
     解放の言葉と同時、鈴菜の脚を目にも止まらぬ速さで斬り裂いた。
    「ほい、お芝居終了ー♪ ってね……、 !」
     瞬間、皮膚を焼くような殺気が充満する。灼滅者たちはとっさに鈴菜から距離を取った。直後、鈴菜の周囲から激しい炎が巻き上がる。
    「全部罠だったってわけ? ……まさか、あの子たちを」
    「全員逃がしたよ。君が話に夢中になっている間にな」
     柊は答えと共に魔槍を繰り出した。妖しい輝きを宿す槍で、鈴那を鋭く斬り裂く。
    「ちっ……」
     鈴菜は裂かれた腕を押さえながら舌打ちする。
    「お姫様に憧れるのはいいんだがな、誘拐はよくない誘拐は」
     槍先を鈴菜へと向けつつ、柊はどこかさっぱりとした口調で告げる。灼滅者たちは、戦いながら鈴菜をより広い部屋へと誘導しつつ、通路を塞ぐ陣形を取った。
    「よくも騙してくれたわね……あんたたちを潰して、あの子たちを連れ戻す!」
     鈴菜は背から黒い翼を広げ、その手から光線を放つ。防護を貫く光線を受け止めつつも、ちゆは痛みを顔に出さない。代わりにぎゅっと、反撃の拳を強く握り締める。
    「複数の男性に囲まれるのは、そんなに楽しいですか?」
    「ええ、楽しいわ。乙女なら誰しもそうじゃない?」
     鈴菜の言葉に、ちゆは何の感慨も抱かない。
    「私には、理解しかねます」
     無表情に告げて、拳に集束させたオーラを鈴菜に叩き込んだ。衝撃に吹き飛ばされながら、鈴菜は驚きに満ちた表情を浮かべた。
    「この素晴らしさがわからないっていうのっ! あれこそ私の理想の乙女ゲーシチュエーション!」
    「攻略対象を誘拐する乙女ゲーなんて聞いたことないよ!」
     愛華のエアシューズから激しい炎が吹き上がる。愛華はエアシューズを加速させ、サイドへと回り込んだ。鈴菜の横腹を豪快に蹴り上げ、炎を炸裂させる。
    「これが私の乙女ゲーなのよ!」
     衝撃と紅蓮の炎に巻かれつつ、鈴菜は叫んだ。直後、激しく爆ぜる炎を周囲へと放出する。
    「言ってること無茶苦茶だよっ……」
     痛みと熱を何とか堪え、愛華は鈴菜から距離を取った。
    「そんなの現実でやろうとするんじゃねぇよ」
     灼熱の中でも冷静さを保ち、月人はギターを奏でる。
    「ワオーン!」
     霊犬も月人を助けるように、浄化の力を放出した。力強い旋律と光が紡がれ、仲間たちの傷を癒す。
    「実現することに意味があるのよ!」
    「そんな異性に囲まれなくったって、一緒にいてくれる特別な一人がいればそれでいいじゃねえか」
     月人が淡々と告げるも、鈴菜は首を縦に振らない。
    「特別な人は何人も作ってこそよ!」
    「……やっぱ、話の通じる相手じゃねぇな」
     半ば呆れ気味に呟く月人。それに同意するように、クラウィスが頷いた。
    「どうしようもない淫魔ですね。しっかりと、躾けなければなりませんか」
     マテリアルロッドに魔力を注ぎ込みながら、クラウィスは鈴菜へと駆ける。瞬間、鈴菜がビクリと肩を震わせた。
    「し、躾……だっ騙されたとわかった以上萌えたりなんかっ!」
    「……顔が赤いですよ」
     やれやれといった風に呟きつつ、力は緩めない。魔力に満ち光を放つ武器を振るい、容赦なく鈴菜の腹へと叩き込んだ。鈴菜は飛ばされ、背中から壁に激突する。
    「ぐふうっ……なんでみんなわかってくれないのよ!」
     憤慨する鈴菜に対し、優希が落ち着いた口調で語りかける。
    「理想を実現させるのは素敵ですし良いと思います。……ですが」
     床を蹴り、片腕に狼のごとき爪を宿した。至近距離で見据えれば、鈴菜がハッとしたように目を見開く。
    「まっ、またしてもイケメン……」
    「……他人に迷惑をかけてまで実現させてる理想は、お世辞にも素敵とは言えませんね」
     鈴菜の言葉に苦笑しつつ、優希は鈴菜の体を深く斬り裂いた。この後も、灼滅者たちは着実に攻撃を重ね、鈴菜の体力を削っていく。
    「脚の傷さえなければっ……」
     楸が奇襲時に負わせた傷が未だに疼くのか、時々鈴菜の反応速度が鈍る。広めとはいえ室内であるために、翼で飛ぶこともままならない。反応が鈍り回避できないがために、回復も間に合わない。
    「だいぶ辛そうだな。だが、おイタする子はちゃんと灼滅しないとな」
     柊はさらりと告げて、体内の魔力をマテリアルロッドへと集束させる。鈴菜へと急接近しながらしっかりと狙いを定め、魔力を込めたそれで容赦なく殴り付けた。
    「こんなボコられシチュエーション望んでない!」
     吹き飛ばされながら、鈴菜が声を荒げる。
    「確かに、乙女ゲーにあるまじき戦闘シーンだね! でも、あなたが招いたことだよ!」
     風のように駆け、愛華は飛び蹴りを繰り出した。星の輝きを纏った衝撃が鈴菜を襲う。
    「まだよ! この苦境、必ず攻略してみせるっ!」
     鈴菜は翼から炎の渦を生み出す。その炎は灼滅者の体力を奪っていく。しかし、消耗を回復するだけの備えが、灼滅者たちにはあった。
    「攻略などさせませんよ。選べる選択肢は、ただ一つだけです」
     炎に巻かれながらもクラウィスは縛霊手から霊力を放出し、鈴菜を縛りあげる。
    「……ッ何よ……」
    「この状況だ。言わずとも、わかっているのではないか?」
     レインはセイクリッドウィンドを展開しながら、凛と問いかけた。祝福の風に包まれ、身を焦がす炎が鎮火していく。鈴菜が回復しきれていない一方、灼滅者たちにはまだ余力があるのだ。鈴菜は焦りの色を浮かべ、再度炎を放つ。
     その炎をひらりと避けて、楸が即座に巨大な杭を打ち放った。杭はドリルのように回転しながら鈴菜へと伸び、鈴菜の胸元へと深く食い込む。
    「がはっ、っ……好みの、イケメンだと思ったのに……!」
    「え、そうかな? ま、キミに言われても嬉しくないけどね~。俺、性格の可愛い子のほーが好みなんだー」
     笑いながらゴメンねー? と告げる。直後、楸は内部を抉るように杭を引き抜いた。
    「があああっ!!!」
     痛みに悲鳴を上げ、鈴菜はその場に膝を付いた。優希がクルセイドソードを片手に歩み寄る。
    「い……イケメンに刺されて死ねるなら、本望よ……」
     優希の容姿から、男と間違えているのだろう。死を覚悟した鈴菜は呟いた。
    (「……女、なのですけど……言わないでおいてあげますか」)
     どうせ消えるならば、最期くらいは良い夢を。非物質化させた剣を鞘から抜き放ち、鈴菜へと突き刺した。
     魂を貫かれながらも、鈴菜はギリギリのラインで意識を保つ。
    「う……あ……」
     イケメンの攻撃で死ねなかった。その事実が、鈴菜に悲痛な表情をもたらす。
    「生命力逞しいってところか……」
     瀕死の相手でも警戒は緩めず、月人は静かに鈴菜を見下ろした。
    「日頃の行いが悪いから、望み通りに死ねないのです。誘拐なんて、するからですよ」
     ちゆは淡々と告げながら、しっかりと槍を構える。鈴菜の心臓に狙いを定め、的確な一撃で貫いた。鈴菜はどろりと液状化し、蒸発するように消滅していった。

    ●夢のあと
     主の消えた屋敷はその名残すらなく、しんと静まり返っている。
    「……終わったな」
     念のため周囲を再確認し、月人はそっと武器を下ろした。
    「はぁ……なんだか、演技している時より緊張しました」
     緊張を解き、優希がほっと息を付く。
    「お疲れさま~。……この前の奴もそーだったけど、淫魔ってこーゆーイタイ奴が多いのかなー」
     前回の依頼を思い返しつつ、楸は呆れたように目を細めた。
    「何とも独特な淫魔でしたね」
     淫魔も乙女ゲームにハマるという事実に、ある種の感慨を覚えつつクラウィスは言う。
    「そうだな。……そういえば、五人分も食費とかどうしてたんだろうな」
     ダークネスなら、その辺も問題なく稼げるのだろうか。
    「何かしらの方法で稼いでいたのでしょうか……今となってはわかりませんが」
     柊の疑問に、ちゆが言葉を返す。話を聞きつつ、レインは眉を寄せた。
    「なぜゲームだけで飽き足らず、現実にまで持ち出したのか……わからないな」
     人道的な理由以外でも、現実に持ち出すのは何か違うような気がする。
     愛華は鈴菜が消滅した場所を、真剣な面持ちで見つめた。
    「淫魔の欲望を恋愛ゲームで解消できれば、もしかしたらわたし達と共存していける子も出てくるかも。それこそ夢物語、かなぁ……」
     各々の想いを抱きつつも、任務を終えた彼らは学園へと戻るのだった。

    作者:鏡水面 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
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