許されざる恋は暮れに暮れて

    作者:幾夜緋琉

    ●許されざる恋は暮れに暮れて
    『フ……フフフ……クスクスクス……アハハハ……』
     和歌山県は白浜、三段壁。
     海岸線に張り出した崖……まさしく断崖絶壁とも言える、そんな場所。
     ……夕闇に染まる中、女の泣き声が響き渡る。
    『アハハハ……ハハ……フフ、フフ……』
     その泣き声は、止まること無く……いつしか、狂いし笑い声へと変わり始める。
     ……そんな彼女は、古めかしい着物を来て……長い髪が、風にたなびいている。
    『フフ……ユルサナイ、ユルサナイ……ゼッタイニ……』
     そしてその笑みは、いつしか恨みの言葉へと変わり……そして、彼女の周りには、火の玉のような物が現れ……恨みと共に、動き始めるのであった。
     
    「ええと……皆さん、集まって頂けましたね? それでは、早速ですが、説明を始めさせて頂きますね」
     姫子は、集まった灼滅者達を見渡すと、早速説明を始める。
    「今回は……和歌山県白浜にある、三段壁というという所に向かって頂きたいのです」
     と、姫子が見せる写真。
     どこかのテレビで見た事があるような……サスペンス物のドラマのラストシーンによく出てくるような、そんな断崖絶壁。
     ……そんな場所に、何が現れたのだろうか、と思うと……姫子は真城・京(ダウンフォール・d13853)を見て。
    「……どうやら此処に現れたのは、いわゆる許されざる恋をした方……許されざる恋に破れ、心全てがほぼ喪失した状況になった彼女は自殺をし……そして、悪霊となって、この地に現れてしまった様なのです」
    「そして悪霊化した彼女は、このまま放置しておけば……同じような恋に破れた女性達を引きつけ、殺してしまう事でしょう。そんな事態をさせない為にも、早々に彼女を灼滅してきて欲しいのです」
    「無論、彼女は悪霊化した結果、皆様と戦う力を手に入れています。強い恨みを持った言霊によるバッドステータス攻撃や、傍らに備えた火の玉を投げつけての攻撃をしてくると思います」
    「また、彼女が現れるのは不安定な足場の岩場の上です。とはいえ、悪霊化した彼女は死を恐れはしませんので、不安定な足場であっても躊躇する事無く仕掛けてきます。その動きに翻弄されないよう、お気を付け下さいね」
     そして姫子は、最後に皆を見渡して。
    「ある意味、彼女も被害者なのかもしれません。ですが……だからといって、道連れを作ろうというならば、それは許されざる事。どうか彼女がこれ以上の罪を重ねる前に、灼滅して下さい。お願いします」
     と、深く頭を下げるのであった。


    参加者
    羽坂・智恵美(古本屋でいつも見かけるあの子・d00097)
    雪待・連理(中学生殺人鬼・d00179)
    三島・緒璃子(稚隼・d03321)
    結城・桐人(静かなる律動・d03367)
    ヘキサ・ティリテス(火兎・d12401)
    真城・京(ダウンフォール・d13853)
    永舘・紅鳥(熱を帯びて闇を裂く・d14388)
    狗山・小春(紡ぎ唄・d26717)

    ■リプレイ

    ●恋破れ
     姫子に話を聞いた灼滅者達。
     彼らが訪れるは、和歌山県は白浜の三段壁。
    「すごい……なんというか、すっごいサスペンス劇場的な舞台ですね……!」
    「……ああ、そうだな。なんだかそれによく使われているらしいしな……」
     羽坂・智恵美(古本屋でいつも見かけるあの子・d00097)に、雪待・連理(中学生殺人鬼・d00179)が周りを見渡しながら頷く。
     切り立った断崖絶壁は、まさしくラストシーン……罪を白状し、泣き落とされる、あのシーン。
     誰でも見たことがあるような、そんなシーンに登場するこの場所……そして、現れてしまったのも、そんなサスペンスドラマの主人公になりそうな、許されざる恋に命を落としてしまった女性……。
    「許されぬ恋の怨念、ねぇ……」
     と、永舘・紅鳥(熱を帯びて闇を裂く・d14388)がぼんやり呟いた言葉に、
    「許されざる恋……やっぱそーゆーの、あるッスよね」
    「ああ。恋い、なぁ……恋に落ちる物とは聞くが、本当に落ちてしまうとはの……何たる難儀か、儘ならぬ物よなぁ……」
    「ええ。許されない恋……とは言え、してしまったものはどうしようもないですもの。たとえ叶わなくても、許されなくても、やめようと思っても、どうしようも出来ないのが恋ですから」
     三島・緒璃子(稚隼・d03321)、狗山・小春(紡ぎ唄・d26717)に智恵子が頷く。それに。
    「……死してなお思いを残す程の激しい恋が出来た事は、きっとすばらしい事だったのだろうが……生きている人間に災いをもたらす存在となってしまっては、同情はしても……見過ごせない、な」
    「全くだ。悪霊として蘇っちまうほど、悔しかったンだろォな……」
     結城・桐人(静かなる律動・d03367)と、ヘキサ・ティリテス(火兎・d12401)も呟くと……真城・京(ダウンフォール・d13853)が。
    「何にせよ、悲劇を、繰り返すわけにはいかない。貴方が別に悲劇の悲しき犠牲者だとしても。もう、貴方がすでに死んだというのなら……貴方は、こんな場所にいちゃ、いけないんです」
     ぐっ、と拳を握りしめる京。
     そして……少しの静寂の後、智恵美、緒璃子、紅鳥、ヘキサが。
    「……死ぬ事しか出来なかったのか、と思うとつらいです。せめて……苦しみから解放してあげたいですね」
    「うむ。哀れかも知れぬが、放ってはおけんな。討とう、それが私達に出来る手向け故に」
    「俺らと暴れて成仏出来るんなら安いもんだもんな。南無南無……」
    「安心しろよ、もォ苦しむコトは無ェ。その魂、キレーに浄化してやらァ……んじゃ、早速だが行くとするかァ?」
     そしてヘキサはぐっ、と足下を固める登山靴の紐を堅く締める、そして。
    「ああ、OKだ」
     桐人や、他の仲間達も改めて登山靴の靴紐を縛り直し、そして気持ち新たに。
    「……オジョーサンが誰かと恋して、打ち破られたのかは知らないッスけど、ソノカンジョーだけで誰かを巻き込むのは違うと思うッス。むしろ……同じ境遇になっちゃった人たちを元気づけて欲しいッス。自分と同じ境遇だからこそ、救ってあげるような……悪霊ではない、何かに……」
     ぽつり、小春は、この三段壁に救う悪霊に向けて……静かに一言、呟くのであった。

    ●夕暮れに灼けて
     そして、夕暮れの夕日が西の地平線に落ちようとする、夕方。
     灼滅者達は崖の上を訪れる……当然、崖の上はゴツゴツした岩場で足下が悪く、滑り止めのついてない登山靴では、つるつると滑ってしまう事だろう。
    「登山靴で良かった、という所か……」
     連理の呟く一言に皆も頷きつつ、その岩場の先端の方へと歩いて行く。
     ……すると。
    『……クス、クスクス……』
     どこからともなく聞えてきた、女の笑い声。
     その笑い声に立ち止まり、緒璃子は小町抜刀、とつぶやき、スレイヤーカードを解放する。
     ……皆もスレイヤーカードを解放し、戦闘態勢を整えると……虚ろだった姿は、みるみる内に具現化していく。
     ……そして、崖の最先端に姿を現した悪霊。
     虚ろな表情、そして彼女の周囲に浮かぶ火の玉。
    『クスクスクス……』
     笑い続ける彼女の言葉に、小春が。
    「アクリョータイサン、ってね♪ アンタに恨みは無いッスけど、他の人を巻き込むのは許せないッス!」
     びしっ、と指さし、言葉を言い放つ小春。
     そんな小春の言葉に、彼女は。
    『フフ……』
     何かを企むがごとく、微笑み。
     ……その微笑みに、背筋がぞぞぞ、とするが……負けずに更に、小春は言葉を続ける。
    「アクリョーさん。誰かのミライを邪魔するってんなら、容赦はしないッスよ。まだまだ可能性在る人達ッスからね。死んじゃったらなんにもならないッス! そのウラミは絶対に消えないものッスか? 許してやってとは言わないッスよ。でも、ずっと怨み続けるのは、辛くないッスか?」
    『フフ……ハハハ……アハハハ!』
     狂気に笑う彼女……そして、彼女は背にある火の玉に手を翳すと……その火の玉をピッ、と灼滅者達に向けて飛ばす。
     蒼色に燃える炎……その一撃を、京のビハインド、ショウがカバーリング。
     蒼色の炎が、その体を焦がす。
    「……ショウ、ありがとうな」
     京はそうショウに告げて、ショウはこくりと頷く……そして桐人が。
    「……今、治す」
     と、即時桐人が回復を行う。
     ……そして。
    「悪霊は聞く耳は持たない、か……」
    「そうッスね……本当は、あんまりガンガン殴りたくは無いッスけど……ゴメンナサイ。余り傷つける前に、倒すとするッスよ」
    「ああ」
     そしてクラッシャーの小春、緒璃子は言葉を交わし……連理がフォースブレイクで先手の攻撃を穿つ。
     ……更にジャマーの智恵美がロケットスマッシュ、スナイパーのヘキサ、京がレーヴァテインとジャッジメントレイによる攻撃を連続していく。
     流石に悪霊の彼女に1対8での戦闘となれば、戦力差はあるだろう。
     しかし……すでに死んでいる彼女にとって、この不安定な足場である崖上は、命を捨てて動けば怖い物は無い。
    『フフ……』
     余裕の笑い声を上げながら、動き回る悪霊……。
     一気に距離を詰めて、攻撃を嗾けてくるが……緒璃子の霊犬、プロキオンが次にカバーリングし、その攻撃を回避。
     そして攻撃のカバーリングをしなかった緒璃子、紅鳥が。
    「その溜まっちまった思い、吐き出しちまえ! 俺らが全部受け止めてやるかりゃお!!」
    「ああ……俺達に出来ることは、安らかに送ってやる事のみだ……この力、喰らえ」
     緒璃子は抗雷撃、紅鳥は旋風輪で攻撃を叩き込む。
    『ウ……ウウ……』
     ほんの少し、苦しそうな言葉を紡ぐ悪霊。
     ……しかし、すぐに悪霊たる怨みの気持ちのほうが上回ったのか、また。
    『フ、フフ……フハハハ……』
     狂気の笑みで、また……背中の火の玉を指示して攻撃、更に身軽に動いての攻撃を行う。
     だが、その攻撃はプロキオンとショウがディフェンダーで上手く動き周り、敵の攻撃から仲間を守る。そして。
    「ッチ! 確かに素早い……だがよ!」
     とヘキサが言いつつ。
    「素早さならオレも負けやしねえ。ほら、ウサギの足に追いつけるかァ?」
     ヘキサも命知らずに、崖の上で軽快に駆け抜け、グラインドファイアの一撃を叩き込んでいく。
     対する京は、無敵斬艦刀を大きく振りかぶり、力尽くでの一撃を、頭上から叩き込む。
     二人はスナイパー故に、ダメージは少ないが……必中の一撃を確実に悪霊に与えていく。
     更に、更に智恵美が影縛りの捕縛を多く積み重ねて、着実、堅実に悪霊の動きに制限を掛けていく。
     バッドステータスを重ねた上で、連理、小春のクラッシャー陣が、比類にならない大ダメージを、螺旋槍とオーラキャノンで狙い撃っていく。
     ……そして、刻は進み、六ターン目。
    『ク、クク……フフ……』
     その笑い声は、どこか……あきらめが付いたかのような言葉。
     でも、その攻撃はとどまることは無い。
    「……早く、楽にしてやる……」
     桐人が彼女へといい放つと……ヘキサが。
    「食いちぎれ、その怨念ごと。火兎の牙ァアアアッ!!」
     渾身の跳び蹴りのレーヴァテインを叩き込む……その一撃に、地面へと伏せる悪霊。
     ……そんな彼女に、小春が。
    「……ゴメンナサイ。でも、もう……これ以上苦しまなくっていいッスよ。だから……これで終わりッス」
     と鬼神変を穿ち……彼女は。
    『ア、アアアアア……!!』
     絶叫を上げて……そのまま、その体は後方の崖の下へと、落下していくのであった。

    ●心は晴れたか
     ……そして、夕日がすっかり地平線の下に落ちた後。
     灼滅者達によって倒された悪霊……この崖を包んでいた、不穏な気配が、幾分……薄らいだような、そんな気がする。
    「……せめて天国では、結ばれろよ……」
     ……と、崖下に向けて言葉を紡ぐ紅鳥に、京も……そっと祈りを捧げる。
     更に、その崖の下に向けて、崖へと来る間に積んだ一輪の花を投げ込む桐人。
     風にふわり、ふわりと揺れる花が……どこか、彼女の虚ろ気を示すがごとく……。
    「……何の花かも俺には判らんが……せめてもの、手向けに……」
     桐人の言葉……そして、その時……小春が魂沈めの風を吹かせ、鎮魂の願いを。
     ……恋愛のもつれ……許されざる恋により、失われた命。
     その命こそは、本当は失われるべきではなかった命……。
    「……果たして……彼女の許されざる恋というのは、どういうものだったのだろうな……」
     ぽつりと連理の呟いた一言。
     勿論、ここに居る誰もが、その答えは知るわけも無い。
     ただ……少なくとも彼女は、恋に破れて、命を失ってしまったのは間違いない。
    「判りません……ですが……彼女が、これから先、安らかに眠りについてもらえることを祈りましょう……」
     手を合わせ、瞑目する智恵美。
     ……そうしている間にも、空はみるみる内に暗く成り行く。
    「……と、そろそろ帰らねーと、足下危ないんじゃないッスか?」
     小春の言うとおり……足下は、ゴツゴツとした岩場。
     そのような場所を深夜に歩くとなると……かなり危険な状況なのは間違いないだろう。
    「そうだな……では、帰るとするか」
     緒璃子の言葉に頷き、そして灼滅者達は……悪霊の冥福を祈りつつ、帰路についた。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年6月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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