赤い眼の復讐鬼

    作者:池田コント


     電車の高架下で、四人の少年が対峙していた。年齢は十五、六歳といったところか。
     うち三人は、関係者以外立ち入り禁止のこのスペースで、ゆったりとした時間を過ごしていたらしく、辺りにおかしやおでんなどのゴミが散らかっている。
     その三人に対面している少年は、平静とはかけ離れた様子で、手には果物ナイフを持っていた。
    「あの人の言ってた通りだ。早くこうしてやりゃあよかったんだ。仇をとってやる! あいつの……」
     ナイフの少年は、髪の色を軽く明るくしているようだが、それだけでごく普通。興奮気味でやや早口だ。
     三人組の方は、いかにもガラの悪い、人相の悪い連中で、喚きなれているのか、耳にからみつくような威圧的な声をしている。
    「なんだっつーんだよ! 俺らなんにもしてねーし」
    「そ、そうだ、そうだ」
    「あいつって、あのブタ垣のことだろ? なに、お前あいつのダチなの? 意味わかんねーことして」
    「ブタ垣の? だいたい、別に死んだわけでもね―のになんで俺ら責められるわけ? アホなの? バカなの?」
     ナイフを向けられて起きたいささかの動揺も、徐々に自分たちのペースを思い出して落ち着いてきたようだ。
     ナイフの少年の瞳は血走って赤く染まっている。よく見れば、瞳自体も赤く変化しているのだが、三人組はそれには気づいていない。
    「お前らはそうやって生きてきたんだな。我が物顔で、他人をバカにして……なんでだ? なんで他人を傷つけて平気でいられるんだ!? なんであんなひどいことをして笑っていられるんだよ!?」
     憤りをぶちまけるように、声帯を痛めるのも気に掛けず、叫ぶ。
    「なんで、あいつが……転校して。暗い部屋ん中で、誰にも会わないで、ストレスで禿げて、食いまくって、吐いて、なんで、あんなズタボロに……ならなきゃ……あいつは、悪い奴じゃ……」
    「あいつがバカだからだろ」
     ガッ!
     赤目の少年は瞬時に失言した相手に迫り、その喉を片手でつかんでいた。
     眼は、より赤く血のように染まり、一秒でも早くナイフを突き立ててやると急いているようだった。
     手は、怒りに震え、血管が破れそうなほど強くナイフの柄を握っているようだった。
     ……しかし、彼はすぐに行動に移さなかった。
     殺人を犯してはいけない、という気持ちからではない。
    「簡単に殺すものか……あいつを苦しめたこと、たっぷりと後悔させてやる……血と悲鳴であがなえ!」
     

     現在『一般人がダークネスになる』事件が発生しようとしている。
     通常ならば、闇堕ちすると、すぐさま人格の交代が行われるのだが、彼は元の人間としての意識を残しており、ダークネスになりきっていない状況だ。今ならばまだ話も通じるだろう。
     闇堕ちした状態で安定する前に、戦闘不能にすれば闇堕ちは防げるだろう。灼滅者の素質があれば人格交代が行われた後でも元の人格は復活する。そうできない場合は手遅れになることもあるが、少なくとも自然と闇堕ちが消失することは考えにくい。最悪、ダークネスとして灼滅するしかないだろう。
     

    「うぉおおお! 俺の脳に秘められた全能計算域が、お前たちの生存経路を導き出す!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は叫び終えると、ふうと一息つけると少し照れたように言った。
    「悪いな。ちいっとばかしヒートアップしちまったみたいだ」
     ヤマトの計算通りならば、犯行が行われる前に現場に到着する。
     場所は、電車の高架下の、人が入り込まないように金網で仕切られた、割と広いスペース。
     周囲は畑や工場ばかりで民家はない。
     闇堕ち仕掛けている少年は、激しい怒りに囚われている。
    「どうやら、友人をいじめから救えなかったことを悔やみ、いじめをした連中に復讐しようとしているみたいだな」
     友人はどうやら死んではいないが、引きこもりになってしまっているらしい。
     赤目の少年はそれを恨み、三人組に復讐することで頭がいっぱいになってしまっているようだ。非常に興奮していて、なにをしてもおかしくない。即座に殺さないのは、むしろ殺人行為そのものを楽しもうとするダークネス変化の兆しだろうか。
     彼は闇堕ちが完了していない、いわば半落ちの状態である。
     半落ちでも戦闘能力は増大している。
     一対一では敵わないだろうが、八人でかかれば勝てない相手ではないはずだ。
     
    「頼むぜ、お前たち! こいつらを、助けてやってきてくれ!」


    参加者
    六九堂・晶(中学生ファイアブラッド・d00160)
    八千穂・魅凛(シャドータレント・d00260)
    田所・一平(ガチンコ・d00748)
    大松・歩夏(影使い・d01405)
    湖原・まりも(ころころまりも・d01923)
    幻夢桜・伊織(高校生殺人鬼・d02503)
    詩夜・華月(白花護る紅影・d03148)
    桐村・古々菜(まじかるあさしん(仮)・d03577)

    ■リプレイ


     少年は右手に力を込める。
     不良ののどから奇怪な音が出て、苦しそうに悶える。宙に浮いた足がじたばたと暴れる。
    「……て、てんめぇ!」
     我に返った仲間が殴りかかるが、少年は避けようともしない。
    「バカが!」
     不良の手にはボールペンが隠されていた。ただのペンではない。航空機の機体にも使われるアルミを削りだした代物だ。
     少年は額でペンを受けた。わずかに血が流れるだけで、全然効いたようには見えない。不良は壁を殴ったような感覚に戸惑う。
    「その程度か?」
     少年が蹴ると、不良は軽々と宙を飛んだ。
    「な、なんだってんだよ! かなうわけねぇ、こいつ、人間じゃねえ!」
    「……なんだって?」
     少年は不良を乱暴に投げ捨て、三人目の不良に迫る。
    「俺が人間じゃないって言うなら、お前らはなんだ? お前らは人間っていえるのかよ」
     少年はナイフを振り上げた。
    「……まずは耳だ」
     しかし、振り下ろされることはなかった。
     一見すると、なにが起きたのかわからない。
     だが、よく見れば、極細の鋼の糸が彼の腕に巻きついていたのだった。
     グンと鋼糸を引っぱると、その糸の主、ツインテールの少女が現れた。
    「わわっ! 古々菜の一本釣りだよー!」
     桐村・古々菜(まじかるあさしん(仮)・d03577) がきれいに宙返りして着地するとほぼ同時に、不良の体を影が包み、気づけば後方に下がらされていた。
     影が離れると目の前には長い漆黒の髪の少女がいた。
    「なんなんだ、これは……」
     事態についていけず、不良が目を白黒させているのを、大松・歩夏(影使い・d01405) は顔だけ振り返って見た。
    「別に。なんでもないことだよ」
     少年が鋼糸を断ち切ろうとすると、先んじて鋼糸は腕を離れ古々菜の手に戻った。
    「狂気を束ねて狂喜と成せ……『禁縛羊』」
     小柄な少女、幻夢桜・伊織(高校生殺人鬼・d02503) は灼滅者としての力を解放させると、少年の右手側に立った。
     少年は周囲に目を走らせる。
    「ハァイ」
     紫の長い髪に一房だけ桃色の混じる男、田所・一平(ガチンコ・d00748) が手をひらひらさせている。
    「バトりにきたぜ!」
     銀髪の少年、六九堂・晶(中学生ファイアブラッド・d00160)は拳を打ち鳴らして気合も十分だ。
     妨害者たちの戦力を計ろうと、少年は赤い目を細めて注意深く周囲を見つめている。
     その間に八千穂・魅凛(シャドータレント・d00260) は倒れていた不良を立たせた。
    「お前らは一体……」
     自分たちがまるで相手にならなかった相手に立ち向かおうとしている。
     それも、魅凛のようなゴシックロリータのドレスを着た少女が。
     呆然とする不良たちの前に、湖原・まりも(ころころまりも・d01923) が一歩進み出て下から顔を見上げてくる。
    「おにーさんたち、いじめはよくないですよ!」
    「あ、ああ……?」
     人差し指をたてて、頭の悪い人に説明するように言うが、不良たちはぴんときていない様子だと見てとると、
    「もー」
     腰に手をあててぷんぷん怒る。
     年下の小学一年生だからといって、なめられるのもこしゃくな話だ。
    「よーし。変身しちゃうですよー」
     まりもはタンタンと軽やかにステップを踏むと、指先からきらきらする光を放ちながらくるくる回る。
     まばゆい光に包まれて、キラキラリン、まりもは瞬く間に不良たちよりも年上のお姉さんに変身したのだった。
    「へ、変身した……? マジかよ……じゃ、じゃあもしかするとこっちの小学生もお姉さんに?」
     不良が指さしたのは伊織。
    「……え?」
     一瞬、なにを言われているのかわからなかったが、怒っていいことだと理解する。
    「違うですよ! 私はこれでも高校二年生なのです! そりゃあ、時々間違えられたりもしますけど、それは最近の小学生が発育よすぎるだけで! 本当の小学生はそっちなのです!」
     伊織は古々菜を指さしたが、古々菜の方が8センチも背が高いのだ。
     それはともかく、十八歳になったまりもは改心の光をピカーッと不良たちにあてると彼らの性格を善良にした。
     そして、年上のお姉さんとしてお説教。
    「いいですか! いじめなんかよくないです! あのおにーさんのお友達の心の傷は一生治らないです!」
    「はい、いじめよくないですー。俺たちが悪かったですー」
    「その通りです。そしてー、貴方たちは良い人たちだから、三人で一人をいじめるなんて、アホらしいことはしないですよね?」
    「はい、いじめなんてアホらしいことしないですー」
     善良になった不良たちが素直に唱和するのに満足し、まりもはうんうんとうなずく。
     魅凛はその後を引き継ぎ、不良たちに言った。
    「キミたちの日頃の行いの結果、キミたちに敵意を向ける者がいる。相手はナイフを持ち、狙いはキミたちだ。悪いことは言わないから逃げろ」
     魅凛がバッと外を指さすと、不良たちは素直に応じて一目散に逃げ出した。
    「……っ! 待て!」
     追いかけようとした少年へと、いつの間にか歩夏が距離を詰めていた。
    「まぁ、そう急ぐな。私らの相手もしてくれよ」
     不遜な笑みを浮かべる歩夏に対して、少年は舌打ちして距離を開ける。
     伊織は後衛へと下がりながら鋼糸を構える。
    「不良ちゃんたちを傷つけたら、それは彼らがしたことと何も変わらないのです。彼らを傷つけて苦しませて、それで友達に胸をはって、誇ることができるですか?」
    「誇ってやるさ……あいつらはお前以上のヒドイ目にあわせてやったってな」
     少年が覚悟を決めたようなので、晶は濃厚な戦いの気配を感じとり、気持ちの昂揚を抑えられない。
    「さぁ、やろうぜ! 俺の炎がうずうずしてら!」
     少年の向ける赤い殺意が、晶の中の炎を燃え上がらせる。


     少年の殺意を察し、機先を制したのは、詩夜・華月(白花護る紅影・d03148) だった。
     妖の槍を回転させながら、少年へと突撃する。
     少年はそれに気づき、横へと跳んだ。初めての戦闘にしては、上出来の反応といえるだろう。身体能力も闇堕ちしかかっているだけあって高い。
    「だが、足りない」
     華月の槍はそこから先に伸びて少年の脇腹を切り裂いた。いや、実際に伸びたわけではないが、少年にはそう感じられた。
    (「……浅い」)
     華月にしてみれば、当たれば御の字というくらいの小手調べ。
    「……ちぃ」
     だが、戦闘経験のない少年は驚愕を味わわされた。
     知らない間にまた古々菜の鋼糸が体を縛っていたこともまた、少年にとっては驚きであったが、身じろぎするだけで皮膚を切り裂かれるのにも構わず、少年は動いた。
     見た目はそれほど変化していないが、身体は確実にダークネスへと変化している。
    「邪魔する奴は、全員殺してやる……!」
    「させないわよ」
     一平は仲間を背に少年と対面し、抗雷撃を放つ。少年は一平の死角を突くように右手側に回り込んだ。その動きを読んだ一平は、とっさに右膝を上げてひきつけ、そこから後ろ蹴りを放つように、右の踵を少年の脇腹にぶちかます。
    「……ぐ!?」
     だが、その足は深々とナイフで突き刺され、激しく血が噴出していた。蹴られながらも少年が突き立てたのだった。
    「……!」
     少年が気を緩ませる時間などなかった。
     伊織から放たれた、別人のような、どす黒い殺気が体を呑み込もうとしていた。
    「もらった!」
     晶の縛霊手が真っ赤な炎に包まれていた。近づくのもためらわれる業火が少年を焼き尽くさんと迫る。
     少年は長い足で晶の顔面を思いっきり蹴りつけた。上半身がのけ反りかえるような強烈な蹴り。
     だが、晶はぐんとバネが戻るように体勢を持ち直し、折れた鼻柱から鼻血を噴きだたせながら、にんまりと野性味あふれる笑顔を浮かべ、レーヴァテインを叩きこんだ。
     ドガォゥ!
     接触した直後、大きな火柱が上がった。
     瞬間、悪寒を感じて晶は横に跳ぶ。たった今まで晶の首があったところを、ナイフの刃先が過ぎて行った。
     ナイフを握った少年は、火の中にあっても虎視眈々と狙っていたのだ。
    「俺の炎を振り切りやがった」
     晶は笑った。今まで滅ぼしてきた悪とは違う。歯ごたえのある相手。
    「へへ、上等だぜ! そうこなくっちゃな!」
     晶は鼻骨を直してフンと鼻の穴から血を吹き散らし、不死鳥のごとき炎の翼を背に生やして、癒しの火を振りまく。鼻血の跡は炎によってたちまち乾いた。
    「お前はそんなもんなのかよ、熱いハートを燃やしてかかってこいよ!」
    「その口、引き裂いてやる!」
     晶に向かって駆ける少年は、しかし瞬間的に自らを制止させる。螺旋のような回転をみせる深紅の穂先が空を貫いた。
     かに見えたが、避けたはずの槍は少年を確かに貫いていた。
    「で。あんたはなにがしたいの?」
     槍に捻りをくわえながら、華月が問う。
    「今のあんたは、復讐と銘打って自分の快楽を満たそうとしているだけよね? 本当に友人を案じるなら……」
     言いかけて、華月の顔が曇る。脳裏には、救えなかった姉の姿がよぎる。
    「……友人を案じるなら、そんなことよりすべきことがあるだろう」
     自分でも知らず語気が荒くなっていた。ふがいない、自分への憤りが華月を責めたてる。どんな戦いの痛みよりもそれがなによりつらい。
    「知った口を……きくなぁ!」
     だが、事情を知らない少年は、ナイフを左手に持ち替え、槍がより深く刺さるのも構わず華月の首を狙ってきたため、華月は一旦槍を手放さなければならなかった。勿論すぐさま回収する。
    「ぐっ!」
     右胸に痛みを感じるが、少年の目にはなにが起きたのかわからない。
     よくよく目を凝らせば、極細の鋼糸が今度はピンとはった線として突き刺さっている。一体いつの間に近づいてきていたのか。これは避けられない。断ち切ろうとした瞬間。
    「ごめんね!」
     古々菜が糸に振動を与え、少年の服袖が爆散したように千切れとんだ。
     不良たちの避難が完了したのを確認して、歩夏たちが合流する。これでなんの気がねもなく戦えるというものだ。
    「待たせたな! ここからは私らも……」
     歩夏は、心の深淵に潜む暗い想念を集め漆黒の弾丸を生成するが、それを撃ちこむべき相手が見当たらない。
    「……どこだ」
    「ここだ」
     背後からの声。首元のナイフ。
     大動脈を切断するより早く、魅凛から伸びた影が刃となって少年の手のひらを貫いていた。
     その隙に歩夏の影が少年のみぞおちを殴りつけ、黒い津波がさらうように歩夏は少年の間合いから逃れ、高架下の巨大な柱の側面に、重力を無視して立ち上がる。
    「……!」
     少年は気配を感じ、振り向きざまに斬りつける。
     バチィ!
     少年のナイフをバトルオーラに包まれた一平の手がつかんだ。
    「さっき、華月ちゃんが言ってた通りだ……テメェはただ衝動に任せて突っ走ってるだけだろうがよ」
     復讐と銘打って自分の快楽を満たそうと……。
     殺したい、拷問したい、解体したい……復讐という大義名分もあることだし。
    「……違う! 違う違う違う!」
     一平の口調はおねぇっぽいものから荒々しいものに変わっていた。
     少年の目に殺人行為を喜ぶ色を見てとったからだった。
     このままでは、こいつはただのダークネスになる。
     不良どもに対する怒りは理解している。
     それに憤る少年の心にも共感していた。だが、なればこそ、彼が今やるべきは復讐ではないのだと思った。
    「本当にダチを想うんならよ……なんでテメェはここにいんだよ。なんで今も苦しんでるダチのそばにいてやんねぇんだよ!」
    「……っ!? うるさい!」
     裏拳を一平の顔面に叩きこみ、伊織と古々菜の黒死斬をかわせないと判断して甘んじて受ける。
     戦いは長引いたが、魅凛とまりもの力によってケガは軽減され、いまだ誰も倒れることはない。
     華月の腹部が真一文字に切り裂かれた。
    「華月さん!」
     だが、華月はそのまま後方へと宙返りして、着地するなり黒死斬を仕掛ける。少年はとっさに跳んで避けるが、その動きをあらかじめ読んでいたかのような動きで少年のアキレス腱を切り裂いた。
     まともに攻撃を受けたはずだが、華月の表情は平静そのもので、痛みや苦しみが抜け落ちてしまっているかのようだ。制服をしとどに濡らす真っ赤な血が冗談であるかのように。
    「イジメた奴らを許せないのはわかる。正直、私だって同じ目に合わせてやりたいと思うだろう。大切な友達を傷つけられたんだ。そうでないはずがない」
     まりものヒーリングライトに癒されながら、歩夏はデッドブラスターの狙いをつける。
    「けど、だからこそこんな事しちゃいけないんだ。大切な友達なら助けてやってほしい。そばにいてやってほしい。もしかしたら拒絶されるかも知れない。でも、それでも! 彼を支えてやってほしい!」
     彼がもし復讐を望んでも、間違いは犯さない。支える。心が弱っているときなればこそ。
     それが本当の友情だと思うから。
     漆黒の弾丸が少年の胸を貫いた。
    「ぐ……は……」
     少年は見るからに満身創痍。
    「あ、あいつのためになら、俺はぁ……鬼にだって悪魔にだってなってみせる……!」
     口からも目からも血を流し、悪鬼羅刹の形相と成り果てながらも、少年は駆ける。
     一平は、正面から迎え撃った。
    「それだけの覚悟があるんだったらなぁ! 人でい続ける努力をしてやれやぁ!」
     真っ向勝負。ぶつかり合う寸前でも一切減速しない全力の殴り合い。互いの腕が交差し……一方が倒れた。
     いまだ立ち続ける少年に、晶がレーヴァテインを振り下ろしかけ、やめた。
     もう既に彼は気絶していたのだった。歩夏の弾丸と一平の拳によって。
     少年の体を晶は支えてやる。
    「立ち往生とは大した根性だぜ! でも、やるなら正気のときにやりたかったぜ」
    「……そうねぇ。でもとりあえず、今すぐはごめんだわ」
     仰向けになったままつぶやく一平を癒そうとまりもが駆けつけてきた。


     しばらくして、少年は目を覚ました。
     手遅れでなかったということは、灼滅者の素質を持つということ。
     よければ新しい仲間としてその力を振るってほしいと、まりもは伝えた。
    「そうすれば、きっと悲しい思いをする人も少なくなるですよ!」
    「友の為に戦うことのできるキミは優しいな」
     魅凛は言った。
    「でも、俺は、間違っちまった」
     少年の言葉に魅凛は首を振った。
    「これはキッカケだ。次こそは正しい向きに刃を向けろ」
     ちなみに、少年のいうあの人とは臨時に来た男のスクールカウンセラーだという。
     少年も一度会っただけなのであまりよく覚えてはいない。
    「お友達を暗い部屋から救いに行きましょう? それはきっと、あなたにしかできないのです」
    「アンタの事をきっと待ってるわ」
     伊織と一平の顔を見上げ、少年は顔を隠すように下を向いた。
     そのことには、触れないでいてあげよう。
    「もし、灼滅者をやる気あるんだったらさ、もう一回やり合おうぜ! な!」
     晶の言葉に、へとへとの少年はさすがに笑うしかなかった。

    作者:池田コント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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