黒の宴、最後のロードローラー

    作者:陵かなめ

    「ふんふふーん。ロードローラー、今日も今日とて整備チューだよ♪」
     陽気な歌声と共に、灰色のロードローラーが悪路を整備中だ。車体に殺戮第一の文字が見える。しかも車には顔が生えている。言わずと知れた、序列二八八位の六六六人衆『ロードローラー』である。
    「どっどっどって……っ、うっ」
     そのロードローラーが突然苦しみだした。
     体の色が次々と変わり明滅を繰り返す。
    「ムシュシュシュ、流石は武蔵坂だね☆ 我が分身体をこれほど容易く打ち破るなんて、素敵過ぎ♪」
     言いながら、その車体の色は黒く染まっていく。
    「でも、これでお終い。な、ぜ、な、ら、このウツロギこそが、世界を真っ黒に染め上げる顕現した真のロードローラーなのだからさ☆ 打撃力は質量かけることの速度の自乗。つまり、ロードローラー最強だよね♪」
     今やロードローラーの車体は完全に黒く染まりきった。
    「灼滅者さん、待っていてね☆ 今スグキルユーDETH♪」
     その言葉を残し、彼は闇に消えていったのだった。
     
    ●依頼
    「ロードローラーを捜索していた灼滅者のみんなから、灼滅者を狙う黒いロードローラーの情報が入ってきたんだよ」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)がそう切り出した。
     太郎によると、黒いロードローラーは今までのロードローラーとは圧倒的に存在感が違う。彼は『灼滅者を殺す』事を目的に、奥多摩地方を東方面に進んでいるらしいのだ。
     更に、黒いロードローラーは、途中にあった廃墟となったゲームセンターに立ち寄ると、「灼滅者はおらんかね☆」とか何とか言いながら灼滅者の捜索を行う。そして、たまたまそこを根城にしていた不良グループをぺしゃんこにしてしまうらしい。
    「黒いロードローラーは、灼滅者達と戦う事を目的にしているようなんだ、だから」
    「このゲームセンターで、待ち構えればいいのでしょうか?」
     黒のロードローラーを探していた一人、皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)が首を傾げると、太郎が頷き返した。
    「うん。そうしたら、姿を見せるはずだよ」
    「これだけの事件を起こし、しかも、高位の六六六人衆であるロードローラ先輩を救出する事は、不可能に近いのだろうな」
     考えるように志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)が顎に手を添える。
    「だから……、一度は同じ灼滅者として共に戦ったあの人を、きっちり灼滅するのも、同じ灼滅者である私達の仕事、と言うことかしら?」
     月姫・舞(炊事場の主・d20689)の言葉に、仲間達は深く考えるような表情になった。
    「ロードローラーの戦闘力についてなんだけど、体当たりや轢き潰しなんかも強化されていて、今までのロードローラーと比べてかなり強いよ」
     説明によると、一撃必殺となりうる単体攻撃や、列を一網打尽にするような遠距離列攻撃などを備えていると言う。それに加えて自己回復の手段もあり、かなりの強敵のようだ。
    「ロードローラーは灼滅者との戦いにおいては、撤退することはないよ」
     太郎の言葉に、集まった仲間ははっと目を見張る。
    「ここで、決着をつけることになると思う」
     断言され、皆表情を引き締めた。
    「高位の六六六人衆、ロードローラーを必ず灼滅してほしいんだ、でも……」
     太郎は一旦言葉を切り、ぎゅっとくまのぬいぐるみを握り締める。
    「救出する事はたぶん不可能かもしれないんだけどね。でもでも、沢山の願いや祈りが彼に届けば、奇跡は起こるかもしれないんだ」
     そう、彼の心を揺さぶるほどの沢山の思いが集まれば……。
     最後にそう締めくくり、太郎は説明を終えた。


    参加者
    万事・錠(モーニンググローリー・d01615)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)
    皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    天堂・リン(町はずれの神父さん・d21382)
    鷹嶺・征(炎の盾・d22564)
    韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555)

    ■リプレイ


     ゲームセンターでは、すでに一般人の避難誘導が開始されている。
    「ここは私達がちょーっと貸し切らせてもらうわね?」
     寵子のウィンクに惹かれるように、一般人達が室外へと出て行く。雪や早苗、楓が手早く誘導し、それでも動かない不良達は紅葉や葉月をはじめとする他の仲間達が強引に運び出した。
    「人払いは完了しました」
     咲姫の報告に、灼滅者達は頷き合う。
     今日、ここで、ようやくロードローラーの騒動が終わるのだろうか。
    「頑張って外法院さんを連れ戻しましょうか」
     皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)が武器を構える。
    「泣いても笑ってもこれが最後」
     だから、絶対に連れて帰るから。月姫・舞(炊事場の主・d20689)の口の端が上がった。
    「ウツロギとは面識ないけど連れ戻してあげないとね!」
     学園祭も近いし、とりあえずボコって斬り刻もう。うんうんと、韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555)が頷く。
    「……これだけの思いが集ったんです。絶対に連れ戻しましょう!」
     天堂・リン(町はずれの神父さん・d21382)が両手を広げた。彼らの背後には、190名近いサポートの仲間が控えている。
    「空色さんは僕に合わせて回復をお願いします」
    「うん。わかった、頑張ろう。サポートのみんなも、助けてくれるよ」
     鷹嶺・征(炎の盾・d22564)と紺子が確認し合う。
     その時、地表が激しく揺れた。低い音が近づいてくる。ゲームセンターには、一般人が入り込まないよう工夫がなされ、【KILLSESSION】のメンバーにより不測の事態――『???』の乱入などに対する警戒も行われている。
    「万事ー! こっちは任せろ、しっかりやれよ!」
     香艶の声を受け、万事・錠(モーニンググローリー・d01615)が拳をあわせた。
    「っしゃ。皆、行くぞ!」
     次第に重機の走る地響きが近づいてくる。
     皆の表情が引き締まった。
     廃墟のゲームセンター内部が、一瞬異様な静けさに包まれる。
    「はいほー! 灼滅者はおらんかね☆」
     ことさら明るい声と派手な壁の破壊音と共に、それは現れた。
     黒い車体に殺戮第一の文字。顔の生えたボディ。六六六人衆序列二八八位、『ロードローラー』の姿を皆が見た。
     そして、それは皆が探していた外法院・ウツロギの闇堕ちした姿だ。
    「ウツロギ先輩探しましたですよ。さあ学園に帰りますですよ」
     シールドを構え、日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)が走り出す。
    「こうして対峙するのは2度目だな。あの時は灰色の分裂体だったが、伝わってはいるのだろうか?」
     志賀野・友衛(高校生人狼・d03990)は、妖の槍をくるりと回した。
    「やったー! ビンゴ☆ キルユーべいべー♪ 灼滅者さんたち、轢かれちゃエー」
     黒のロードローラーが、踊るように軽やかに、いかにも重そうな機体を反転させる。
     絶対に、連れて帰る。
     皆がそう願い、戦いは始まった。


    「にゃーははは。暗闇に染まれ、そして、ぺしゃんこだよ☆」
     開始早々、ロードローラーの猛攻が始まった。前衛に立つ灼滅者を巻き込みながら、右へ左へと駆け回る。
     すぐに征が小光輪を飛ばした。闇堕ちした者の姿を初めて見せ付けられ、何を言えばいいのか、どう動けばいいのか、戸惑いは消せない。
    「いえ、今は余計なことは考えず、自分のすべきことを」
     今回は癒し手として仲間を守って見せる。一度首を振り、征は紺子へ視線を向けた。紺子も頷く。派手な攻撃は、見た目通りかなりの威力だ。倒れこむ仲間に手を貸しながら、順に癒していく。夏希や透、菜々乃も次々に癒しのサイキックで仲間を回復させた。
    「みんな新しいロードローラーが現れるたびに呆れていましたけど、本当はみんなウツロギさんが大丈夫か心配してたんです。みんなで帰りましょう!」
     走るロードローラーに、焔が声をかける。皆の笑いの中にいつもウツロギがいた。ライブハウスでも、どこでも、インパクトの強いあなたが居ないと寂しい。燐や六華も同じく声を上げた。戦うメンバーを守り、癒し、補助しながら次々と仲間たちがウツロギに語りかける。
     それでも、まだロードローラーは止まらない。
     高らかな笑い声を聞きながら、沙希が思い切りシールドで迫り来る敵を殴りつけた。
    「ウツロギ先輩の闇は私が引き受けますです」
    「むかっ☆ ロードローラー、ちょーっといたかったよ!」
     ロードローラーが沙希に身体を向けた。
     その瞬間を狙い、走り込む。
    「外法院! テメェの仲間の声を聴け!!」
     六六六人衆はいくらでも替えが利く。だが、ここに駆けつけた者達にとって、お前の代わりはどこにも居ない。言いながら、錠は車体後方から槍で穿った
     その車体は堅く、手応えは薄い。サイキックでは癒せない傷は、確実に身体を蝕んでいる。だがそれでも、足を止めるわけにはいかない。
    「外法院さん、本気で連れ戻しますので覚悟してください」
     貴方を待っている人が居る。その人に、闇堕ちした事を謝らせないと気が済まない。桜夜は癒えない傷の痛みを押さえ込み、妖の槍・夜光の聖槍を手にロードローラーの車体へ跳んだ。捻りを加えた槍で、一気に車体を貫く。
    「ち……ぃ。何だか知らないけど、ロードローラーはそんな攻撃へっちゃらだし☆」
     一瞬傾いた車体は、すぐに立て直され、ロードローラーが新たな攻撃態勢に入った。
    「流石、外法院部長。強いですね」
     その姿を見て、舞が楽しそうに走り出す。不謹慎だが、高位六六六人衆との戦いは滾るのもまた事実。
    「強化しますね」
     仲間に向かって癒しの矢を放ちいっそうの強化を図った。
    「こんなに沢山、貴方を待っている人がいるんです! その鉄クズの中で終わるような貴方では無いでしょう!」
     リンもまた、ウツロギに声をかけながらシールドで殴りつける。知人も友人も、そして初めて会う仲間さえ、彼の帰りを待っていると声を上げる。
    「よー、はじめましてだぜウツロギ先輩!」
     バスタンドもそのうちの1人だ。
    「戻ってくる気持ちがあるなら、オレは、オレたちは! 応えるぜ!!」
     先輩は先輩で、ロードローラーはロードローラー!
     だから、先輩の声を聞かせてくれと、叫ぶ。アリスやミルフィも、上品に挨拶をしながら、一緒に学園に帰ろうと訴えた。
    「皆が帰りを待っている。外法院先輩、戻ってきてくれ!」
     冷気のつららを撃ち出しながら、友衛も叫ぶ。
     以前戦った灰色が、戻ってきて欲しいと言う言葉を本人が聞いたらきっと喜ぶと言っていた。それなら、何度でも伝えよう。あなたの言葉に嘘はないはず。そう信じて、重ねて戻ってくるよう語りかける。
    「こんなにみんなに思ってもらえているんだからその期待を裏切るなっ!」
     獣人姿で戦う彩蝶も、声を張り上げる。
     数多の声に、ロードローラーがぽかんとした表情で佇んでいるのが見えた。
     彩蝶がクルセイドスラッシュを放つ。破邪の白光を放つ強烈な斬撃が、ロードローラーの車体を斬り刻んだ。
    「……ぅ。っは。ロードローラー、負けない!!」
     傷を受け、ロードローラーは再びローラーの回転を再開させる。
     皆の声が聞こえているのかいないのか。ロードローラーは灼滅者達に向かって突進してきた。


     沙希に向かってきたロードローラーの前に、リンが滑り込む。彼を救うに相応しい人間はもっと沢山居るはずだ。
    (「ここまでする必要はあるのか?」)
     こうして身を投げ出す間にも、常に付き纏う思いだ。
     だが。
     仲間を背に庇い、痛烈な一撃を受ける。
    「今舞台に立っているのは紛れも無いこの僕だ。だったら、ここで身体を張らなきゃ嘘でしょう……!」
     リンの身体が吹き飛ばされ、地面に打ち付けられた。
     すぐに、清美や良太から回復の手が伸びる。
    「沙希ちゃん、頑張ってくださいみんな付いてますから」
     清美の言葉を聞いて、沙希が頷いた。
    「ウツロギ先輩は闇堕ちされても一線を越えなかったです。一般人をではなくダークネスばかり襲ってましたです。優しかったです」
     オーラを集中させた拳から、凄まじい連打を繰り出す。
    「そんな先輩の帰りを待っている人が沢山いるのです。どうか学園に戻ってきて下さいですよ」
    「いったーいっ☆ そんなこと、そんなこと……!」
     ロードローラーの車体が押し戻される。
    「貴方は何故堕ちたんです! 少なくとも灼滅者を、仲間を傷つけるためではないでしょう!!」
     シールドリングでリンを回復しながら、征も言う。
     このままでは、『???』の思い通りではないか!
     その時、腕に抱いたリンが小さく呻いた。
     まだ、戦える。けれど、あの痛烈な攻撃を再び受け止める事は出来ないかもしれない。
     すぐに交代をと、仲間が動いた。
    「援護する。下がれ」
     言って、友衛が魔法の矢を飛ばした。
     続いて錠のエアシューズ・WALHALLAが炎を纏う。そのまま飛び上がり、激しい勢いで蹴りつけた。
    「大切なヤツが戻ってこねェのは、轢き潰されるよりずっと悲しくて、苦しいんだぜ」
     今も、心の傷は消えない。救えなかった悲しみも、苦しみも、もう誰にもそんな思いをさせたくない。
    「く……」
     ロードローラーが、後退する。初撃には無かった手ごたえを感じた。
     きっと、揺らいでいるのだ。
    「外法院部長、もう十分でしょう。猟奇倶楽部の皆さんが部長の帰りを待ってます」
     リンに代わりディフェンダーに上がった舞も、全力でウツロギに呼びかける。
    「……ぁ」
     ロードローラーの視線の先には、見知った顔が並んでいた。
    「ウツロギ、単刀直入、言。……。帰還、所望。猟奇所属、殺人鬼仲間、多数願望」
     ガイストの言葉を皮切りに、それぞれ好きなように声をかけ始める。
    「外法院ー! 帰ってきておくれー! 外法院が居ない倶楽部なんて、タコの入ってないタコ焼きなんだぜー! ただの焼きなんだぜー!」
     津比呂が言うと、皆が頷いた。
    「ウツロギさんがいないとクラブもどこか活気がないんですよ」
    「そういうこと! ウツロギくんが帰ってこなかったら、誰が猟奇倶楽部を切り盛りしていくのさ」
     矧と由良の言葉に、賛同の声が上がる。貴方が居なければ、猟奇の人たちはどうなるのか。皆心配している。だから、とハチミツが両手を胸の前で重ねた。
    「もうすぐ学園祭なのです。クラブの皆も待ってるのです。早く帰ってくるのです」
     愛美が言うと、絢矢も続いた。
    「今年も猟奇倶楽部の出し物楽しみにしてるんです!」
     だから、早く帰って、楽しく安全にロードローラーしようと。
    「……えー、安全にロードローラーって何なの?」
     最初の勢いをなくしたロードローラーが、いじけたように口を尖らせる。だが、猟奇倶楽部のメンバーは、また次々とロードローラーに語りかけた。その姿では部室が窮屈になっちゃうと雛。このままだと、ロードローラーさんで呼び名が固定されちゃいますと危機感を煽る紫桜里。殺るなら六六六人衆にしとけと声援を贈る弦斎。ネタ的に、部長がいないとあまり盛り上がらないと彩夏。
    「ウツロギ先輩、ウツロギ先輩ウツロギ先輩ウツロギ先輩ウツロギ先輩ウツロギ先輩ウツロギ先輩ウツロギ先輩……ころさせてください」
     嘘です。戻ってきてください、ですねと、イブ。嘘なのかなかな。倒錯した表情に、ロードローラーの車体がビクリと揺れた。
     そして、虚や御尾神、夜弥亜も戻って来いと訴えかけた。
    「倒さなきゃ救出出来ないんだ、遠慮はいらないよな?」
     そうして、ニヤリと笑い、咲哉が武器を手にした。
    「貴方が居ないのは寂しいものでしてね」
     よっと声を出し、攻撃の姿勢を取る榮太郎の姿もある。
    「帰ったら猟奇倶楽部流の帰還パーティーがあるそうです。学園祭も近いですし、さっさと戻って頂きましょう」
     織久も静かにロードローラーを見据えた。
     身の危険を感じたのか、じりじりとロードローラーが後ろに下がる。
    「……と、見せかけての、轢き潰しッ☆ あったまいいー!! ロードローラー」
     が、一転、ロードローラーは灼滅者達めがけ、疾走した。
     それを見て、桜夜がいち早く夜光の聖槍でタイヤを狙った。
    「いい加減さっさと帰ってきなさいっ!」
     勢い良く薙ぎ、動きを封じる。
    「猟奇の部長が学園祭不在はよくないなー」
    「ここにいる……全員……お前の……帰りを……待つ者達だ……」
     桜夜を助けるように動いていた桜と零桜奈も、声を上げた。
    「さっさとそんな闇に飲まれてないで戻ってこいっ!」
     体内から噴出させた炎を叩きつけ、彩蝶が走る。
    「……いい加減戻ってきたらどうだ? 自身のダークネスに負けてるなんて情けない」
    「アレだけ目立ったんだ、学園中がお前の帰りを待ってるぜ」
     十六夜と真咲も声をかける。青竜も加わり、彩蝶を支援するよう動いた。
    「ふ……んっ。永久闇色轢き潰しー!!」
     それでもなお、ロードローラーは強引に攻撃を続けた。前衛の仲間が、攻撃を受け一歩後退する。だが、この攻撃で膝をつく者は居なかった。
    「あと少し、もう少しですよ」
     ロードローラーの攻撃を受けた沙希が、皆を励ますよう叫ぶ。
     最初の一撃に比べ、確かに威力が落ちている。きっと、思いが届き始めているのだ。
     皆は彼の帰還をただ願い。声をかけ続けた。


    「ウロツギ先輩! 水着女子満タンの学園祭までには元気に還ってきてください!」
     清純が大声で叫んだ。
    「そういえば水着コンテストがあるみたいですよ」
     亜理沙も重ねて語りかける。
    「な……水着、コンテスト……だと?!」
     ロードローラーは、ちょっぴり動きを止めた。
    「もう十分闇堕ちライフを満喫したでしょう? 今度は学園の仲間達と一緒に灼滅者ライフを満喫しましょう!」
    「学園祭に参加するならこの機会を逃すとまずいですよ!」
     正流と律希が言う。学園祭、水着コンテスト。何て楽しげな言葉なんだろう。ロードローラーを囲んでいた灼滅者達も、皆頷き合った。
    「えっとー、伴侶さんいるんすよねー?」
    「……彼女さん残して何やっているのさ!」
    「女の子泣かしたら女の敵になっちゃうから」
     晴夜、法子、和平の言葉に、また一同がざわめいた。
     そしてロードローラーの前に、1人の女生徒がそっと出てきた。武器を構えることも無く、戦うつもりも無い。
    「もう……キミは何をやってるのかな?」
     いろははウツロギのことを分かっている。今更、多少羽目を外したくらいでは怒らない。しかし、『???』に良い様に踊らされる様な事をしちゃ話は別だ。
     それに、と。いろははくすりと笑った。
    「今すぐにいろは達の所に戻って来るなら、膝枕をした上で撫で撫でをしてあげてお帰りの口付けとか」
     いや、言葉には出来ないもうちょっと凄いのをしてあげても良い。
    「……ゴクリ」
     そう言われ、ロードローラーが唾を飲み込む音がはっきりと聞こえた。
    「そのロードローラーの姿のままじゃ、いくらいろはでも流石に無理だから、ね?」
    「!!! はっ」
     そうだよね!! この姿だったら、膝枕とかしてもらえないよね!! それは……たいへんだ。ロードローラーが、悲壮な顔を浮かべる。
    「帰ってこいや皆待っとるで! 愛があるからここに来たんや。皆の愛、お前の愛思い出せや!」
     しっかりと手を握り合った悟と想希が、思いを後押しするように、語りかけた。
    「外法院さん、早く帰ってさしあげないと皆さんの顔が曇ったままになってしまいます」
     ヴァンもまた、言葉を重ねる。
     仲間を信じて。ウツロギさんを信じて。何より、心の力を信じたい。神ですら信じられない俺らの拠り所は心と仲間なのだから。小次郎もまた、彼の帰還を祈る。
     戦い続けていた灼滅者達が、視線を交わす。
     もはや、ロードローラーは動きを止めた。
    「武蔵坂に帰っぞ、外法院!」
     錠の黒死斬がロードローラーを捕らえる。
    「回復は任せてください。絶対に、みんなを守る」
     征の回復で、傷の癒えたリンも立ち上がった。
    「ありがとうございます。僕もまだ、行けます」
     リンが光の刃を撃ち出す。
    「皆がウツロギ先輩の帰りを待ち望んでるのですっ。つべこべ言わず戻るのです」
     巨大異形化した腕で、沙希は力の限り車体を殴りつけた。
    「外法院先輩!! どうかっ」
     友衛の槍が、軽々とロードローラーの躯体を抉り取る。明らかに、攻撃が通り始めた。
     どうか、戻ってきて。
     リンが、マッキが、めぐみが祈るように声を上げる。
    「待っている人がいるんですからそこが先輩の居場所です」
     藍も、手を握り締め声をかけた。
    「待っていらっしゃる方はたくさんいらっしゃいますよっ」
     桜夜がマテリアルロッド・夜光の杖で思い切り殴りつけると、ロードローラーが吹き飛んだ。
    「力ずくでも連れて帰りますから」
     畳み掛けるように、舞が斬影刃を放つ。
    「戻って来いっ!」
     彩蝶のレーヴァテインに、車体が燃えた。
     凄まじい攻撃に、粉塵が巻き上がる。
     廃墟となったゲームセンターの内側で、ガラクタの欠片が飛び散り視界を奪う。
     再び、静寂。
     皆が固唾を呑んで見守る中、粉塵の中から腕が上がった。
     『腕』が。
     つまり、人間の身体をした彼が、立ち上がる。
    「――やあ、皆さん」
     外法院・ウツロギの声を聞き、灼滅者達は湧き上がった。
     ある者は走りより、ある者は互いに笑いあい、確信する。
    「「「「「おかえりなさい」」」」」
     沢山の声と、多数の手に揉みくちゃにされながら、外法院・ウツロギは帰ってきた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月12日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 50/素敵だった 14/キャラが大事にされていた 51
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