不死王の徴兵

    作者:叶エイジャ

    「俺の王国に、単身乗り込んだその気概と実力は認めてやろう」
     地下深いどこか。
     静かな言葉は、トドメを刺した相手への手向けであった。
     消えゆく相手の残骸から視線を外し、声の主は自らの手勢を確認する。
     変わった六六六人衆だったが、さすがに兵どもには荷が勝ったか――
     配下の数はかなり減らされていた。危機感を抱くほどに。
    「……まあよい。俺自ら出向くのも一興」

     少々の時が過ぎ……
     冴え冴えとした月の輝く、夜の墓地。
     山あいに建てられ、虫の声しかせぬその場所に声の主――白髪の巨漢が訪れていた。
     その身体の至る所で水晶の鎧、否、水晶そのものである身体が月光に輝いている。
     男は物言わぬ墓石を睥睨し、口を開いた。低くざらついた声音で紡がれるのは、呪いの福音。人あらざるモノを生み出す外法の技。
     悲鳴が上がった。墓石の中からだ。断末魔の叫びが次々と上がり、絶叫は墓地を満たしていく。途絶えることなく増える叫びは共鳴し、墓石に亀裂が入っていく。
     その様に、男は厳かに告げた。
    「来い、亡者ども。その下賤な身に俺の力をくれてやる。我が手足となれ――これは王の勅命である」
     墓石が砕けた。破片を押しのけ出てきたのは、骨からなるアンデッドだった。その手に武器が、その身に鎧が形成されていく。
     この後三時間にわたる儀式で、男が生み出したアンデッドは20体にのぼる。

    「ノーライフキングが、儀式で配下を増やすみたい」
     事の始まりは、ロードローラーの一体がノーライフキングの迷宮に攻め込んだことみたい、と天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は言った。
     そのロードローラーは敗北。しかしノーライフキングの方にも被害が出、失った分の戦力補充をするため、地上に出てくるようだ。
    「深夜の墓場で、遺骨を使って儀式をするみたい。お墓を荒らすなんて、ひどいよね!」
     予知した光景を思い出し眉根を寄せるカノン。彼女の言葉によると、生み出されるアンデッドはスケルトンタイプで、合計二十体が生み出されるようだ。
     損傷の激しい遺骨から作るため、ノーライフキングの方もかなりの時間と力を使う。そこを突けば、灼滅できるかもしれない。
    「ノーライフキングがすべてのスケルトンを生み出すまで大体三時間だよ。戦闘を仕掛けるのはいつでもできるけど、仕掛けたら退却用の魔法陣を呼び出すみたいだから、気をつけてね」
     この魔法陣は十分後に発動し、そうなるとノーライフキングはスケルトンとともに迷宮に帰還してしまう。そのため、どのタイミングで戦いを挑むかがポイントになる。
    「アンデッドを沢山生み出した後に戦えば、ノーライフキングはかなり弱体化してるよ。その代わり、大量のアンデッドと戦うことになるけれど」
     反面、アンデッドを生み出す前に戦えば、ノーライフキング一体のみ。その代わり相手は万全の状態だ。
     敵の強さ、手数を考えるとどちらのやり方も一長一短。どちらがより有利になるというわけでもない。もちろん、双方の中間的なタイミングで仕掛けてもいい。
    「だから戦うタイミングは、皆の判断に任せるよ!」
     ノーライフキングを灼滅できるのが一番だが、難しければ生み出されたアンデッドだけでも倒して――と、カノンは言った。
     ノーライフキングの名は、ゲイスラーという。白い髪の大男だ。
     不死の王であることを自負し、また万全である彼はそれに見合う実力を持つ。
     戦場となる墓地は、人里から離れている。墓石が並んでいるもの戦闘に支障はなく、人目を気にすることもない。深夜だがその日は満月なので、光源の心配もいらないだろう。
     ゲイスラーはエクソシスト相当、そして無敵斬艦刀相当のサイキックを使う。また、生み出されたスケルトンは手にした剣で、クルセイドソード相当のサイキックを行使する。
    「ノーライフキングは普段、迷宮の奥に閉じこもっているから……倒すことができる数少ないチャンスだと思う。でもアンデッドだけでも倒せれば目論見は防げるから、無理は禁物だよ。みんな、気を付けて」


    参加者
    殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)
    嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)
    槌屋・透流(トールハンマー・d06177)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    物部・七星(一霊四魂・d11941)
    深海・水花(鮮血の使徒・d20595)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    清月・黒秋(自由人・d26848)

    ■リプレイ


     夜。月は高く、真円を闇に刻む。深更の墓地に現れた不死の王は、低い声音で章句を紡いでいた。アンデッドを生み出す外法の儀式だ。立ち並ぶ墓から次々と絶叫が沸き起こり、広がっていく。遠目にその様子を見ながら、狼幻・隼人(紅超特急・d11438)は赤いバンダナを締め直す。その足元では、霊犬のあらかた丸がねそべっていた。
    「ロードローラーに勝ったんやな。流石は現時点で最強のダークネス種族って事やろか」
     ノーライフキングの居城である地下迷宮をロードローラーがまともに走れたかはさておき、迷宮の奥深く攻め入るのはやはり至難だろう。そう考えると槌屋・透流(トールハンマー・d06177)は複雑だ。
    (正直何が何だかわからないが、倒すチャンスをロードローラーはくれた……ってことでいいんだろうか?)
     そうは思えど、墓が暴かれるのは気分が良いことではない。「気に食わないな」と言った透流の顔はいつも通りの無表情だが、その声音は不快感に揺れていた。
    「眠ってる人たちには、酷い安眠妨害ね」
     人ならぬ絶叫に銀の瞳を細め、嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)はノーライフキング・ゲイスラーの背を見つめる。彼女の服は夜闇に紛れ、来たるべき時に備え距離を詰める姿を隠す。墓が砕ける音がまた一つ響いた――時間だ。
     生み出されたアンデッドが八体になった瞬間、灼滅者たちはそれぞれの潜伏場所から進み出た。気配にゲイスラーが悠然と振り返った時には、深海・水花(鮮血の使徒・d20595)の掌から生まれた光条がスケルトンの一体に突き刺さっている。
    「ほう……?」
     修道女服を着た水花から視線を外し、ゲイスラーが配下を見やる。いま一体のスケルトンを、葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)が斬り伏せたところだった。無敵斬艦刀――フレイムクラウンの黒い刀身に月光が跳ねかえり、黄金の王冠が煌めく。
    「墓は、そしてそこに収められた遺骨は、死者にとっても残された生者にとっても大切なものです。それを己の為に踏み躙る貴方の所業は許せません!」
    「……なるほど、灼滅者か」
    「王には凱旋願おうか。無論黄泉路に、だがな」
     風が舞った。殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)の周囲で渦巻いた風が刃となって、両断されたスケルトンを粉々に切り裂く。
    「命のない敵と戦うのは初めてだよ」
     清月・黒秋(自由人・d26848)のガンナイフが、スケルトンの死角となった背後から一閃、くずおれた骸の身体に物部・七星(一霊四魂・d11941)の錫杖が添えられた。
    「ひと、ふた、みい、よ……」
     スケルトンが放つ斬撃を擦りあげるように錫杖が逸らし、七星の間近を火花散る刃が駆け抜ける。長く細い糸目はそれに動じる事なく、言霊を魔力に込めて……
    「布留部、由良由良止布留部!」
     叩き込む。粉微塵となったアンデッドの武具が地に落ち、闇に溶けるように霧散した。


    「――何をしに来たと、聞くだけ無駄か?」
     奇襲により滅びたアンデッドの跡から、屍王は灼滅者たちに目を向ける。
    「……お前を、狩りに来た。これ以上好き勝手な真似はさせない」
     透流が天星弓に矢をつがえ、腕を組んだゲイスラーを見返す。近くで見ると異様に大きかった。二メートルを優に超える巨体は、さながら壁のようだ。そしてその身体の多くが、水晶の輝きを見せている。
     白髪の巨漢は、透流の言葉に「で、あろうな」と頷いた。奇襲を受けたにしては鷹揚で、纏う空気は静謐だ。
     そのせいか、続く言葉に嘲りの響きは感じなかった。
    「灼滅者はしょせん下郎。王たる俺を倒すには群れるしかない――弱き身で我が兵を滅したその罪、死して贖うがいい」
     ダークネスが腕を解くと同時に、武装したスケルトンが剣を掲げた。向けられた切っ先に、しかし千早は皮肉げに頬を歪ませる。
    「王だと? 笑わせるな」
     アンデッドに反応する間を与えず、千早は屍王をけん制すべく動く。
    「死から蘇ったとして、お前に仕えるんじゃ全く残念極まりないな」
     瞬時に間合いを詰めた彼の杭打ち機が、回転を始める。即座に放った攻撃は、威力・入射角ともに申し分ない。
     受け止めたのは、硬質な響きだ。
    「……くだらん」
     ドリルを受けたノーライフキングの右腕が、裂けていた。しかし傷口から流れ出したのは鮮血ではなく、水晶と同色の液体だ。それは意思あるモノのように巨漢の手に這い上がると、長大な水晶の剣を作り上げる。
    「安い挑発なら、冥府でせよ」
     振るわれた一撃に大気が爆ぜた。豪快な斬撃を千早は杭打ち機で受け止め――逃せぬ威力を自ら後方へ跳ぶことで殺す。着地して顔を上げた時には、千早の視界で屍王は第二刃を振るっていた。
     赤が散る。
     イコが担ぐようにして掲げた十字剣が、巨刃と激突し火花を散らし、斬り結んでいた。
    「……不死王ゲイスラーさん、兵隊さんを増やすことは諦めて下さいな」
     彼女の声には苦い響きがある。激突の威力に肩口が裂け、装束を血で染めていた。片手で振るわれた剣に、イコは両手と全身を使いようやく拮抗する。
    「それから、此処であなたの戴く不死の冠、奪わせていただきます……!」
     イコの手から障壁が展開した。それが水晶の剣を押し退け、均衡を一時的に破る。ゲイスラーの力が流れた隙を突いて、イコが前に出た。障壁を拳に纏わせ巨体へと放つ。次の瞬間、見た目からは想像もつかない軽やかさで屍王は後退していた。
    「……鈍いな。儀式の代償か」
     イコに削られた己の身体に触れ、ゲイスラーの瞳にそれまでと違う光が宿る。唇から不気味な音色が紡がれた時には、その足元に光り輝く粒子が漂い出した。
     ノーライフキングが迷宮に帰還する魔術だ。
    「さぁ、タイムアタックの開始や。前のめりにいったるでっ!」
     隼人の目前に、動く人骨三つ。駆ける彼の傍らには、あらたか丸が先程とは打って変わって生き生きと走る。俊敏なステップでスケルトンの剣をかわすと、そこは拳の間合い――瞬間、彼の拳に紅が宿った。放った手刀は紅蓮の斬撃となって、アンデッドを左鎖骨から斜めに斬り断つ。さらに流れるように後方へ放った足刀が、別のスケルトンの顎を蹴り抜いた。不安定な姿勢になった隼人に、残るアンデッドが手にした剣に光を灯し、振り下ろす。
     首へと迫る白き刃は、しかしあらたか丸の咥えた刀が弾いた。そのまま、アンデッドへとぶつかっていく。バランスを崩したスケルトンに、水花はガンナイフから弾丸を放ちかけ――不意に身をひるがえした。銀の髪が弧を描く。遠心力の乗った銃刃は背後からの斬撃を絡めとった。そして絡めとった時には、銃口は敵を捉えている。
    (申し訳ありません……)
     目前のアンデッドは屍王による被害者。その意識が心の中で呟きとなるも、両手の指は躊躇いなく、屍王の眷族を滅すべく動く。二挺のガンナイフが立て続けに咆哮を発した。間断なき銃華に、眷族はいたる所を穿たれ倒れ伏す。
     だがそれは、アンデッドの滅びを意味してなかった。隼人の両断した体躯が、水花の砕いた骨片が宙で停止し、巻き戻しのように元の場所へと戻り、再生していく。
    「それなら、完全に破壊するまでです」
     最初の奇襲で倒した二体は消滅している。そして元に戻ったスケルトンも動きはぎこちない。再生には限度がある――踏み込んだ統弥が斬艦刀を振い、密集しだしたアンデッドたちへと叩きつける。巨大な刃を、スケルトンたちは十字剣で受け流し、散開。その中で動きの遅い個体へと統弥が肉薄する。空いた手が小型のクルセイドソードを引き抜き、一閃。ダメージを負っていたアンデッドが今度こそ砕け散り、消滅を始める。
    「手荒な真似をしてすみません。どうか安らかに眠って下さい」
    「ぶち抜け」
     透流が放つ矢の先は、上空だ。霊力を込めた矢ははじけ、転瞬後、無数の矢じりになって周囲に降り注ぐ。同時に黒秋が援護射撃を行い、十字砲火を浴びたアンデッドがくず折れていった。
    「ふーむ。どうもこの手の敵は、倒した心地がしないなぁ……」
    「次は、お前をぶっ壊す」
     手応えの少なさに黒秋が首を傾げ、透流は静かに屍王へと目標を変える。わずかな時間で半減したアンデッドは主を守るべく後退し――そのうちの一体が七星の放った雷条の束に打ち砕かれ、地面に撒き散らされる。
     その様に、ダークネスが動いた。


    「生み出した直後とはいえ、俺の力を与えてそれでは、余興にもならぬ」
     ゲイスラーの掌から、闇色の光が迸った。高密度のサイキックエナジーは消滅しかけたスケルトンの骨片を直撃し、光を浴びた骨は一瞬で戦士の姿を取り戻す。
    「ジョッジメントレイ、ですわね……」
     七星が超回復を実現させた技に、着物の袖を口元に添えた。
    「我が兵に惰弱は不要。敵を斬り、砕き、壊せ。恐怖を植え付けよ」
     足に光の粒子を纏わせ、不死の王が剣を手に進む。その身から湧き上がるエナジーは、儀式で減じたとはいえ並みのダークネスと同等以上。主の気配にあてられ、残る四体のアンデッドたちの剣が光を灯し、構成する骨が強靭なものへと変わっていく。
    「余興の続きだ。王たる者の力に触れ、恐れよ」
     ダークネスが初めて覇気を露わにした。吹きつける風に、心得違いも甚だしいと統弥は黒き斬艦刀を構える。
    「敵対する者をも惹きつけてこそ王の器。力で押さえつけるだけの貴方はただの王者気取り。とても王の器ではありませんね」
     統弥がそう言いながら振るった刃と、アンデッドの十字剣が交差した。先刻とは手応えが違う。統弥が刃を引き戻すのと、スケルトンの追撃は同時。幅広の刀身で受け流すも、巧妙な太刀筋に反撃を封じられている。咄嗟に距離を取った彼の脳裏に、警鐘が鳴った。
    「……どうやらこっからが本番みたいやな」
     隼人がクルセイドソードを手に、間近に生じた光へと挑む。大上段からの白光の一撃に、隼人は力任せの剣技を叩きつけ、気合で押し返す。息つく暇もなく走り、水花へと向かうアンデッドの前へと到着。こちらの刃も弾き返す――ことはできなかった。
     剣同士の交差の瞬間、相手の斬撃は隼人が掲げた刀身をすりぬけ、彼の身に突き立っている。
    (……!)
     神霊剣。文字通り魂が削られる痛みに隼人が顔をしかめる。七星の槍が敵を追い払い、追う七星とスケルトンの間で武器のぶつかり合う音が響いた。水花が追尾弾で援護し、被弾したアンデッドに七星の槍が螺旋を描いて突き立つ。それでも撃破までには至らない。
    「どうした、俺を倒すのではないのか?」
     攻勢が弱まった灼滅者たちを、ゲイスラーがつまらなそうに見やる。その巨体に透流が蛇腹の剣を疾らせた。大きすぎる体は的そのものとも言えた。刀身は分割したまま巻きつき、ダークネスの身体を引き裂いていく。
    「良い動きだ。が、それだけだ」
     透流の斬撃は痛撃となるも、ノーライフキングにはそう評す余裕があるようだった。開始から数分、ゲイスラーに通ったダメージ自体はまだ少ない。
     そのダークネスの攻撃は。
    「後衛狙いか」
     千早が、やや暗くなった空を見て表情を強張らせる。
     満月の空に、闇色の物体が現れていた。戦場の上空で静止したそれが巨大な十字架だと気付いた時には、無数の光線が降り注いでくる……


     不気味な十字架が消えた後に残るのは、サイキックの絨毯爆撃にあった大地だ。
    (なんとか避けきれたか……)
     舞い上がる土煙の中、千早が立ち上がる。寸前で気付いていなければ、危なかっただろう。
    「ほう、あれを捌くか」
     千早の姿を認め、ゲイスラーが意外そうな視線を向けた。千早は周囲に視線を走らせた。姿こそ見えないが、剣戟の音は聞こえる。無事のようだが、あまり良い状況でもない。
    「ノーライフキングは死を司るとか。なら、俺にも与えてみせてもらおうか?」
    「俺は俺の法で立つ。堕ち損ない如きの弁には揺るがん。それとも――自ら死を望むか?」
     煙が割れた。強烈な光の槍を千早はかろうじてかわし、ゲイスラーへと迫る。走る彼の影が伸び、漆黒の触手となって先行する。絡み付く影を水晶剣が切り裂き、刃はそのままバベルブレイカーの杭を断った。停滞なく、千早のもう一方の腕――剣持つ手が神霊剣を放つ。直接体内に浸透するダメージが屍王に届き、同時に光条が千早の足を貫く。体勢を崩した彼が神薙刃を紡いだその時、その身に黒秋の声が癒しの歌声となって届いた。
    「背中は僕に任せておきなさい。責任は取らないけどね」
     そこは取ってほしいと、思わなくもない。

     何度目かの十字架が、戦場を穿つ。
     後衛陣を狙ったそれに七星が力尽き、カバーに入っていたあらたか丸も消滅した。透流が癒しの矢を放ち、隼人も祭霊の光を生み出すが、厳しい状況は変わらない。
     屍王の弱体化が浅く、攻撃が戦神の加護なくとも厳しい部類だった。
     動きの阻害も、屍王と眷族が戦線を維持し合うことで起きず、時間が稼がれる形になっている。
     アラームが鳴った。イコが苦々しい表情になる。最後のアンデッドが倒れてあまり時間が経っていない。
    (それでもあと数回なら、盾になれるはず……!)
     緑の髪が、下方からの風になびいた。巻き起こった炎は強い意志に呼応し、凝縮した熱量が白の煌めきを灯す。狩人のように細めた眼は、自らへと迫る水晶の大剣の通り道を見極め、刀身を蹴りあげた。屍王が反応するより速く、イコの軸足は地面を蹴って上昇。本命の炎を宿した蹴撃が、敵の顎を捉えた。
    「どれだけ傷を受けようと、己が牙を貴方に突き立てる!」
    「……執念か」
     統弥の大刀と水晶の大刀が交差し、互いの身体を貫く。一連のダメージにゲイスラーの顔が初めて苦痛に――そして面白げに歪む。
    「だが、まだ弱い」
     力任せに統弥を振り払うダークネス。その背に火花が舞った。
    「墓を荒らし、死者を弄び、安息の眠りを妨げるのは決して許されることではありません。神の名の下に、断罪します……!」
     まなじりを決する水花に、屍王が鼻を鳴らした。
    「神か。この世で最も不確かなものだ」
     水晶と蒼銀が激突する。
    「娘よ、お前は愚かだ。王たる資格を持ち得て何故拒む。死を統べた世界は素晴らしいというのに」
    「――」
     傍目にも、双方が相手を理解でき得ぬのは明らかだった。水花が弾丸を放とうとした瞬間、屍王の足元の光が複雑な紋様を編み、ゲイスラーを包み込む。帰還の魔術が発動したのだ。
    「収穫はなしか。兵どもには残念なことをした」
     余興はまあまあだったが。そう残して、屍王は消えた。威圧感も消え、静かな気配が戻ってくる。透流が目覚めた七星を解放し、呟いた。
    「好き勝手言ってくれてたな」
    「せやな。腹立つで」
     隼人が頷く。
    「死を軽々しく扱う者には、相応の報いがあるさ」
     千早の言葉に、黒秋が彼らしい暢気な声音で呟いた。
    「逃げられたか。なんともしぶといね」

     墓地でできるだけ片付けをした後、灼滅者たちは帰還した。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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