満ちる力を食らう猫

    作者:六堂ぱるな

    ●猫のごとく
     兵庫県の最北端、猫が伏せたような形からその名がついた猫崎半島。
     半島の付け根にある海水浴場の海開きも近い、晴れた昼下がりだった。
    「ふんぬああああああ!」
     裂帛の気合いと共に繰り出された拳が空を穿つ。拳圧を恐れる風もなく、小柄な影は相手の懐へと飛び込んだ。どぼ、という濡れた音が響く。
    「鈍いよ、ネ」
     男の鳩尾に深々と、貫手が突き刺さっていた。
    「……不覚……」
     空手の道着を真紅に染め、男は崩れ落ちた。大きな身体が滲んで消えると、次第に力が満ちてくる。
    「むふ、鈍いやつなのネ」
     満足げに舌をちらつかせ、猫耳のついたパーカーをまとった少女は笑った。
     どんな敵であれ、猫拳が負ける気はしない。
     
    ●猫拳とはこれいかに
     埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)は教室に入ってくると、水沢・彩愛(ブルームストーム・d09400)に会釈をした。
    「先輩の予想が的中した。説明に入ろう」
    「名前といい形といい、絶対出ると思ったにゃ」
     猫の形をした猫の名前のついている半島に猫拳使い。出ないわけがない。

     海の見える場所で行われ、勝者が力を得る武神大戦天覧儀。試合場所の猫崎半島で待つアンブレイカブルを打倒すれば成功だ。
     敵に止めを刺した灼滅者は闇堕ちを免れない、という武神大戦天覧儀のルールも健在だと玄乃はため息をついた。
    「そして今回は敵が強力である為に、前回のように連戦して救出、は出来ないだろう」
     既に相手は一人を打倒し力を得ていて、かなりの苦戦が見込まれる。消耗した状態で、闇堕ちし力を得た仲間を止めることが出来るかは疑問だ。つまり止めを刺した灼滅者は闇堕ちの末、恐らく行方をくらます。
     今回存在が確認されたのは猫耳パーカーの少女、縞・雉子である。猫拳使いだというのだが、玄乃は眉をひそめた。
    「近距離戦闘に特化した八極拳から派生した――んだそうだが、調べてみても出てこない。ストリートファイターの技はもちろんだが、猫拳とやらは貫手を主とした攻撃のようだ」
    「猫と言うからには、動きも俊敏だと思うにゃん」
    「違いない。時間は昼すぎ、場所は猫崎灯台の南前。一般人は近づかないから、全力で戦って貰いたい」
     詳細は配布資料を読んでくれ、と続けて、玄乃は眼鏡を外し、眉間を揉んだ。
    「緊張感のない敵だが、油断は禁物だ。力を得た敵か――武神大戦天覧儀も佳境、なのかもしれん」
     眼鏡をかけ直してファイルへ視線を落とす。闇堕ち、の文字を目が追った。
    「皆には負担をかけるが、強力なダークネスが生まれるのを見過ごすわけにはいかない」
     戻らないものが出た場合、なんとしても見つけ出すと誓う。
     最後にそう、玄乃は付け足した。


    参加者
    遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)
    一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)
    裏方・クロエ(ディオムニブスドゥビタンドム・d02109)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    水沢・彩愛(ブルームストーム・d09400)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)
    オリヴィエ・オーギュスト(従騎士・d20011)

    ■リプレイ

    ●猫崎半島にて猫が待つ
     猫崎半島の三角点を過ぎ、灼滅者たちは灯台目指して遊歩道を歩く。梅雨時期にも関わらず、快晴のせいもあって気温が高い。遊歩道も土がむきだしのハイキングコースになっていた。 
    「雉子ちゃんだにゅ! ぬこの気配を感じたにゃ!」
     口が重くなりがちな中、水沢・彩愛(ブルームストーム・d09400)がびしっとポーズを決めて北を指す。不意討ちを警戒しながらの彼女の後に続き、裏方・クロエ(ディオムニブスドゥビタンドム・d02109)が傍らを舞うナノナノ、鏡・もっちーへと声をかけた。
    「久しぶりの純戦ですね。もっちー」
     ナノっ、と応じるもっちーも気合い十分、おふざけ封印の半身の意を共有している。足元を気にしながら進むオリヴィエ・オーギュスト(従騎士・d20011)に時折手を貸しつつ、一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)が呆れたような吐息をついた。
    「力を手に入れる代わりに体と魂を空け渡すか。悪魔の取引か何かかね」
    「考えようによってはそうでござるな」
     頷くハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)、この暑いのにしっかり忍者装束で口元は赤いスカーフとしっかり忍者スタイルである。びしっと眼鏡のズレをなおし、遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)が唇を噛んで呟いた。
    「出来れば全員無事で帰りたいのですが、それが叶わないのは悔しい所ですね」
     事がベストで運んだとしても、誰かは共に帰ることができない。だとしても敵はきっちり灼滅するだけだ。無言のまま殿を務める英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)も覚悟を固めているようで。その前を歩くピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)は見通しの悪い木立の奥へと眼をこらした。
    (「猫拳はちょっと気になるの」)
     敵でさえなかったら教えてもらえたのに、と思うとちょっと残念だ。
    「ところで水沢さん、その着ていらっしゃるものは」
    「せっかくの海だから一応水着にゃ」
     微妙に戸惑った様子の彩花に、尻尾をふりふり彩愛が答える。ネコ巫女メイド水着、もはやちょっとした早口言葉にひととき和んだ空気が流れる。
     しかしそんな雰囲気は、次の瞬間吹き飛んだ。
     わだかまる圧迫感が密度を増して吹きつけてくる。胸苦しくなるようなそれは、灼滅者なら敵と相対すれば一度は感じるもの。ただその濃密さは――。
    (「そろそろできる気がするんだ」)
     ぐっと拳を握り締め、オリヴィエは歯をかみしめる。身の裡の寄生体の力を使いこなす術を、強敵相手の待ったなしの戦いで掴むのだ。

     ●生命をかけた遊戯
     猫崎灯台を後ろに控える開けた場所で、縞・雉子は猫耳パーカーのポケットに手を突っ込んで待っていた。現れた灼滅者たちを見ても眉ひとつ動かさない。灼滅者が武神大戦天覧儀に乱入していることは、知っているようだった。
    「燃えるネコメイドアーツ使い、ネコメイド長☆あやめんにゃ!」
    「……ネコメイドアーツ?」
     彩愛の放った単語には反応したが、それも『猫』だからであろう。雉子の猫耳パーカーをしげしげと見て、ピアットがぽつりと呟く。
    「ちょっと可愛いし欲しかったり……なの」
    「待たせたでござるかな」
    「説明は不要だろう。だから始めようか雉子」
     ハリーが会釈をすると、暦が前置きも何もなく誘いの言葉をかける。
     雉子はポケットから手を出すと、ゆらりと揺れるように一歩、前へと踏み出した。それだけで身体に芯が通ったように、ぴしりと姿勢が変わる。右掌を灼滅者へと向け、左手を高々と掲げて腰を落とし、半身の構えをとった。
    「猫拳継承者、縞・雉子。ずいぶん待ったの、ネ」
     小柄な身体から噴き上がる気迫。圧倒的な力の差を感じてなお、湧き上がる闘志に鴇臣は身を任せた。
    「じゃあ、行くぜ!」 
    「どちらが真のぬこファイターか勝負にゃー!」
     構えながらの彩愛の宣戦布告に、雉子が初めて笑った。クロエがもっちーと後ろへ下がり、彩花とオリヴィエが逆に前へ。
    「善悪無き殲滅(ヴァイス・シュバルツ)」
     暦のスレイヤーカードの解放と同時、戦いが幕をあける。

     踏みきろうとしたハリーの懐に、既に雉子はいた。雷をまとった肘の一撃が吸い込まれるようにハリーへ走る空隙に、なんとか彩愛が身体を捻じ込む。衝撃で息を詰まらせて彩愛は吐息をこぼした。予想通り一撃が重い。
     驚くべき速さを目の当たりにした暦もまた、躊躇なく踏みこんでいた。
     ――さぁ、心躍る潰し合いを始めよう。
     武神の蒼き頂とやらを目指す雉子、止めんとする自分たち。話はシンプルだ。
    「君を救おうとは思わない。頼まれても無いし積もりも無い」
     だから、楽しもうか、命のやり取りを。
     退かんとする雉子の背中へと、全力で身長の三分の二はあるバベルブレイカーの杭を打ち込む暦。その攻撃を受けてさえ、雉子がハリーの火の粉を巻き上げる蹴りをかわす。
    「挑戦者の命以外いらない、ネ」
     振り返った雉子が微笑み、猫のような身ごなしで一歩下がったところへ、ピアットの氷の弾がかすめるように当たる。
     オリヴィエはその動きを見てすぐに、積極的な攻撃を諦めた。
    (「実力の低い僕の動きで、あの速さを追える訳ない」)
     どっしり留まって狙いをつけて、攻撃に踏込むその瞬間や、攻撃した瞬間の硬直を衝く。渾身の蹴り下ろしは躱されたが、再び雉子の動きを注視した。
    「そうさ、実力じゃ僕なんてまだかなわない……だから、考えるんだ!」
     彩愛の拳の一撃がにぶい音を立てて命中し、雉子の抵抗力を削り取る。まともに入っているはずなのに、雉子は短く息を吐き出しただけだ。
    「倒したら再戦できないのが残念にゃ。全力で楽しもうなのにゃー!」
    「アンタ、面白い、ネ」
     両者の笑みが交差する。
     クロエは即座にシールドリングで彩愛を癒し、防御力の補強をかけた。近接戦闘に特化しているだけあってダメージが重い。
     もっちーのしゃぼん玉にまとわりつかれた雉子へ、鴇臣は渾身のオーラキャノンを浴びせた。相手は宿敵、倒すことに躊躇いはない。止めを刺すことになれば――恐怖がないわけではないが、覚悟はできていた。
     仲間の盾となる彩花が、自身にソーサルガーダーをかけた次の瞬間だった。
     鴇臣のオーラに足を取られたようにふらりと動く雉子。しかし姿勢は揺らがず、その貫手が暦めがけて閃く。咄嗟に飛び込んだ彩花が、盾の加護があるにも関わらずやすやすと貫かれた。
    「きゃぁっ!」
    「アンタら、面倒、ネ」
     彩花から血にまみれた手を引き抜き、雉子が困惑したように眉を寄せる。

    ●あるいは死力を尽くす儀式
    「ニンポー二段跳びでござる!」
     撹乱も兼ねてダブルジャンプで木立の間を跳ねながら、ハリーは雉子の動きを観察していた。この人数と交戦しながら、彼女はほとんど相手と距離を取らない。暦の拳をぬらりとした動きでかわした雉子を狙い、ハリーは木を蹴って攻撃を仕掛けた。
    「イガ忍者キィィィィック!」
     飛び蹴りがまともに決まって雉子が呻く。よろけた隙を見逃さず、ピアットの足元から伸びる影が鋭く尖って斬りつけた。止めを刺せば闇堕ち、というこの戦いに、緊張を覚えないはずがない。でも、やらなくちゃいけない。自身を奮い立たせて唇を噛みしめる。
     ピアットの影が離れた瞬間、鴇臣が渾身で繰り出す拳が脇腹、鳩尾、掲げた腕へと叩きつけられる。わずかに遅れて彩愛の雷をまとった一撃が加えられ、彩花のもたらす盾の護りが味方の前衛を包みこんだ。
     まだ雉子の動きに鈍いところはなく、近接距離で最小の動きで攻撃をかわす。
    (「八極拳って、姿勢を真直ぐに大地を踏みしめるのが大事なんだってね……なら、踏み締め辛くすれば!」)
     派手に足場を崩せば自分たちの危険も招く。だが彼女の足を狙うことで踏みしめ辛くはできる。オリヴィエはサイキックソードを構えると、狙い定めて光の刃を放った。深々と脛を切り裂かれた雉子が顔をしかめる。
    「あとでお仕置き、ネ」
     光の輪を放って彩花の傷を塞ぎながら、クロエは全神経を敵に集中していた。
     見た目はふざけているが油断ならない敵だ。攻撃の予測をもとに防具を選んでいるのに、もっちーとふたりがかりで傷を癒しきれない。
     鴇臣を狙った雉子の爪を、代わりに受けたのは彩愛だった。癒せぬ傷が危険なレベルに達し、後列への移動を余議なくされる。
    「その動き、参考にさせてもらうのにゃ!」
     退く彩愛の前に出た暦が影をまとった殴打を加える。雉子へと炎の尾を引く蹴撃を入れながら、ハリーがスカーフの下で唇を噛んだ。予想より庇い手が落ちるのが早い。ダメージディーラーの一人として狙いをつけた攻撃は難しいが、かわしにくい方向へ雉子を追いこむことを意識せねば。
     あるいは闇堕ちすることになるかもしれないが、ハリーに迷いはない。
    (「拙者の心の正義の刃は決して折れぬでござる故!」)
    「頼むでござるよ、オリヴィエ殿!」
     繋がる連携攻撃。今まで悪魔寄生体の足を引っ張ってばかりだったけれど――オリヴィエは唇を結んだ。
    「……僕にない、戦いを考える能力をこいつは持ってる。それを僕自身で使ってみせる……いつまでも足手まといじゃ!」
     足を狙ってバク転気味の蹴り下ろし。驚くほど自然に身体は動いた。次のターンには彩愛に代わって前へ出なければ。
     ガンナイフで挑みかかったピアットのダメージを見ながら、クロエがシールドリングを彩愛へ飛ばす。彩花の放った拳が脇腹をとらえ、鴇臣の撃ち込んだ氷の弾がばきばきと音をたてて雉子の身体を蝕んでゆく。

    ●戦う猫の最期
     庇い手のダメージを慮ったハリーが一度攻撃を受けたが、灼滅者たちは順調に雉子を追い詰めていった。出来ることなら一対一で闘いたかった、と彩愛は思ってしまうけれど。
    「互角に遣り合うためのハンデというやつだにゃ」
     それほどの力の差があったことも事実。
     ハリーを庇った彩花が雁落手で投げられるに至っては、クロエも思わず身を乗り出した。
    「遠藤さん!」
    「イヤ!」
     戦いぶりに比して女の子らしい悲鳴をあげて投げ出された彩花を庇い、暦が拳を握りこむ。ぱっと散った稲光は拳とともに吸い込まれるように雉子へと走り、呼吸を合わせたハリーが反対側から螺旋を描いて槍を突き入れた。雉子を襲う氷の粒が舞う。
    「影だけだと思ったら大間違いなの!」
     雉子得意の間合いに踏み込んだピアットが零距離格闘を仕掛ける。続いた彩愛の足を狙った打撃に苛立つ雉子へ、彩花が盾を構えて怒りを誘う一撃。
    「申し訳ございませんが灼滅させて頂きます!」
     後列からのこの攻撃で、手番を無駄に使ってくれれば助かる。既に自分と彩愛、二人の庇い手が後ろへ下がっている。一撃をもらっているハリーのリスクを減らしたい。
     オリヴィエの蹴りを避けた雉子が、流れる血を舐めて壮絶な笑みを浮かべる。
    「そろそろ寝るネ!」
     完璧なタイミングでピアットの目の前に滑り込んだ雉子の手が翻った。小さな身体に深々と突き立った貫手が意識を奪う。最悪のタイミングでのラッキーヒット。
    「ピアット殿!」
     ハリーの叫びが終わるより早くピアットが崩れ落ち、雉子の背後に追った暦のバベルブレイカーが唸りをあげた。打ちすえられた雉子の動きをハリーの注射器が生命力を吸い上げて鈍らせ、彩愛の拳が止め、オリヴィエの構えた腕から撃ちだされた強酸性の液体が防御力を蝕む。彼から八極拳について聞いていた彩花も雉子の足を狙いにいった。
     攻撃をかわせなくなってきた雉子を見て、鴇臣は投げ技に切り替える。一度でも雉子の攻撃を削りたいクロエは、もっちーと呼吸を合わせた。
    「行きますよ、もっちー君!」
    「ナノ!」
     もっちーから繰り出された竜巻にたたらを踏んだ雉子の横あいから、クロエの盾が叩きつけられる。今度こそ、雉子は冷静な判断力を失った。
    「待つネ!」
     クロエを追わんとした雉子が攻めあぐねた一瞬に、灼滅者たちの攻撃が集中する。
     押し切れるか、と思った鴇臣が気がつけば、獰猛な笑みを浮かべた雉子が目と鼻の先にいた。何度も見たのに、どう入り込んでいるのか分からない踏みこみ。
     翻った雉子の貫手が防具ごと身体を深々と切り裂く。思わず呻きがもれたが、舞った血の向こうで、暦が影をまとった縛霊手を雉子に叩きつけるのが見えた。直撃を受けた雉子の身体が地面で撥ねる。
     組みつこうとする鴇臣よりもわずかに早く、彩愛の拳が雉子の身体をとらえた。
    「さらばだにゃ!」
     雉子が受け止めきれなかった膨大な衝撃が、ずがん、と音を立てて地面にすり鉢状の穴を穿つ。そのただ中に崩れ落ちた雉子の様子が、灼滅者たちの足を止めた。

     あれは致命傷だと、誰もがわかっていた。
     ふらりと雉子が立ち上がっても、それが生の残滓に過ぎないことはわかっていて。
    「……私は、ここまで、ネ」
     糸の切れた人形のように、雉子の身体から力が抜けた。

    ●誓いはその背を追って
     雉子が地面に倒れこむと同時、彩愛が仲間から大きく跳び退った。
     どしゃりと血を撒き散らす雉子の身体から何かが失われていく。
    「漲るぬこパワー!」
     あと一撃、敵はおろか仲間の一撃ですら耐えられそうになかった身体が、その言葉通り流れ込む力で活力に満ちてゆく。傷は癒え、溢れた力が小柄な器そのものを変えようとしている現実に、仲間たちは言葉を呑み込んだ。
    「後は任せたのにゃ。天覧儀の秘密……必ず持ち帰るからにゃ」
     彩愛の笑顔を、唇を引き結んで鴇臣は見返すしかなかった。一瞬の差、どちらでもおかしくなかった結末。
    「水沢先輩……」
    「皆に信じて待っててと伝えてにゃ」
     大きな銀色の瞳にはまだ、曇りはない。けれど時間もない。
    「急いで、行くのですよ!」
     ピアットを背負ったクロエが、よろけるハリーを支え先に撤退を始める。オリヴィエの手を貸りて彩花が立ちあがった。
     暦が一度真っ直ぐに目を合わせ、すぐに背を向ける。踵を返し鴇臣も仲間の後を追った。
     クロエの背で、朦朧とするピアットの小さな唇から決意が零れ落ちる。
    「……絶対に、連れ戻すの……」

     風にのって届いた呟きが誰の声だったのか、もうわからない。
     ただ湧き上がる衝動を仲間へと向けぬうちに、小柄な身体には収まらぬほどの莫大な力を受け入れた彩愛はしなやかに崖をこえ、青く澄んだ海へと身を躍らせた。
     業大老が「間合い」に収めたと嘯く、その海へ。

    作者:六堂ぱるな 重傷:ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427) 
    死亡:なし
    闇堕ち:水沢・彩愛(ブルームストーム・d09400) 
    種類:
    公開:2014年7月15日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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