原始の鼓動

    作者:天木一

    「あー暑いなー」
    「ほんとだよ、溶けちゃうよ」
     焼きつくような日の光にアスファルトが熱され、上と下両方からオーブンのように空気が温められる。
    「あーダメだアイス食おうアイス」
    「いいね、氷系が食べたいかも」
     そんな日差しの中をだらだらとスマホを弄りながら歩く中学生の少年二人は、涼を求めてコンビニに飛び込んだ。
    「涼しー」
    「天国だー」
     冷房の効いた店内で涼みながらゆっくりとアイスを選ぶ。
     ポケットから小銭を出して買うと、早速袋を開けて棒アイスを齧る。そのまま外に出ようとして立ち止まった。
    「ん、どうしたんだよ。早く出……え?」
     後ろに続く少年が何してるんだと、自分のアイスを食べながら立ち止まる少年に尋ね視線を外にやった。すると驚き同じように足が止まってしまう。
     自動ドアが開き熱風が冷房を無視するように侵入してくる。同時にぬうっと店内に巨大な顔が入ってくる。
     大きな牙が並び、その隙間から火が漏れる。目の前に居たのは炎を纏う竜の如き存在。
     手からぽろりとアイスがべちゃっと地面に落ち、その上にスマホがぐちゃっと落下した。
    「アラァァァァラィアーー!」
    「イアッァァイアッ!」
     少年達は興奮したように雄叫びや奇声を上げる。そして少年達は服を破りぼろぼろのターザンルックになると、外に出ようとしてガラスの壁にぶつかった。
    「アララライ!」
    「ウィアッイイ!」
     不思議そうにガラスを見て、少年達は店内にあったビニール傘を手にすると、それを棍棒のように振り回してガラスを叩き割る。
     それに混ざって店員2人もまた同じような姿でモップを振り回し始めた。
     まるで勝利を祝うように足を踏み鳴らし、煩く電子音を発するスマホを砕きながら、原始人達は雄叫びを上げた。
     
    「どうやら謎のイフリートが動いているようなんだ」
     教室で待っていた能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が、灼滅者に新たな事件の説明を始める。
    「今までのイフリートは猛獣の姿をしていたけど、今回現われたイフリートは大型の爬虫類、まるで恐竜のような姿をしているみたいだね」
     姿だけでなく、能力も行動もまた通常とは違うのだと言う。
    「謎のイフリートは周囲の気温を上昇させて、内部の一般人を原始人化させてしまうんだ」
     理性を失った一般人は知能が退化し、原始人の如く振舞う。
    「最初は範囲が狭いんだけど、どうやら時間が経つごとに広くなっていくようなんだよ。放っておいたら街が一つ原始時代のようになってしまうかもしれないんだ」
     想像するととんでもなく混沌とした世界が思い浮かぶ。
    「だから何としてもイフリートを灼滅して欲しいんだ」
     放っておけない事態だと灼滅者も同意する。
    「イフリートは炎のサイキックを使うから、あまり被害が出ないように気をつけて。それと、原始人化した人は強化一般人化しているようなんだ」
     コンビニに居るのは店員2名と、客の少年2名。灼滅者に襲い掛かってくる可能性がある。
    「原始人化してるからね。何が気に入って何が気に入らないか分からないんだ。襲われた時の事も考える必要があるだろうね」
     会話は通じないが、上手くすれば友好的になれるかもしれない。
    「敵が現われるのはコンビニ。中には入らないみたいだけど、物珍しそうに覘いているみたいだね」
     戦闘は外で行なうことになる。周辺にはそこそこの人が居るので、巻き込まぬよう人払いが必要になるだろう。
    「イフリートにも言葉は通じない。だから倒して原始人化した人々を元に戻してあげて欲しい。お願いするね」
     急ぎ現場に向かう灼滅者の後ろ姿を誠一郎は見送った。


    参加者
    神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    雑釈谷・ヒョコ(光害・d08159)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    ヘキサ・ティリテス(火兎・d12401)
    八神・菜月(徒花・d16592)
    佐島・マギ(滑走路・d16793)
    宍戸・源治(羅刹鬼・d23770)

    ■リプレイ

    ●原始時代
     夏の茹だる様な暑さの中。空気が歪むほどの熱が漂う。
     コンビニ周辺はまるで原始時代に戻ったかのような様相。そこに足を踏み入れるのは、同じように原始人風のコスチュームに身を包んだ灼滅者達だった。
    「うう……早く入ろうよ、さっきから普通の人の視線が気になるよぉ」
     豹柄のセパレートを着た神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)は腕でお腹を隠し、恥ずかしそうに顔を伏せながら音を封鎖する結界を張る。その姿は日常の中では奇抜で目立つものだった。
    「コンビニとか使えなくなっちゃったら生きていけない!」
     現代っ子である雑釈谷・ヒョコ(光害・d08159)は、文明の利器を使用出来ないなど耐えられないと気合を入れた。
    「文明を否定して何の意味があるんだろうな?」
     そんな景色を前に、シャツを破り泥だらけのズボンを穿いた笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)は手にした松明に火を点ける。
     電気の消えたコンビニの中が火に照らされる。中は荒らされ、商品やガラスが散乱していた。最初に目についたのは炎を纏った大きな恐竜の後ろ姿。竜は物珍しいのか缶を踏み潰し、噴出したビールの匂いを嗅いでいた。
    「わあ! 恐竜さんです! 凄いです! 素敵です!」
     コンビニの外で水着に地味なパレオを斜めに巻いた佐島・マギ(滑走路・d16793)が、大好きな恐竜を見て興奮気味にはしゃいでいた。
    「アーラララィアー!」
    「アララララーーーイ!」
     その周囲では踊るようにモップや傘を振り回しながら、原始人化した少年者達が叫んでいた。
    「って何それ!? すっご、ホント異質だねー」
     シャーマンの格好をした月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は、聴こえる雄叫びに目を丸くする。
    「が? うが?」
     鐐は驚いたような表情でコミュニケーションを図る。
    「うーうー、がうッ!」
     皆と同じように原始人スタイルに着替えたヘキサ・ティリテス(火兎・d12401)も、原始人化した人に合わせるように会話を試みる。
    「ウーウーイィアー!」
     原始人は大きな手振りで挨拶を交わす。
    「がうーだぜ!」
     あ、と思わず素が出たヘキサは、誤魔化すように笑みを浮かべて手振り身振りで店の外を指差す。そこには火が熾されていた。
    「なんで原始化しちまうのかねぇ」
     店の外へと原始人達を誘導していく。そんな様子を見ていた宍戸・源治(羅刹鬼・d23770)は、この現象がイフリートがしたくてしているのか、いるだけでなってしまうのかと首を捻る。
    「どっちにしても迷惑な話だけどよう」
     源治は殺気を放って一般人を遠ざけた。
    「バナーナもぐもぐ、ナカーマ!」
     マギがバナナを配って食べてみせると、原始人達も真似て食べ始めた。互いに笑みを浮かべて友好関係を築く。
    「はぁ……めんどい……。さっさとやって終わらせよ」
     やる気のなさそうに溜息を吐く八神・菜月(徒花・d16592)は、持ってきた紙皿に水や果汁100%ジュースを注いで差し出す。
    「アッラララララッ!」
     それを喜び勇んで飲む原始人。口の端から溢しながらも一気に飲み干す。すると俺にも寄越せと4人が集まり奪い合いになる。
    「あー鬱陶しい、もう帰りたい……」
     ぶつぶつと文句を言いながらも、菜月は4人全員に当たるように紙皿にジュースを入れて喧嘩を止めた。
     そこへ白い布を巻いたヒョコが神々しく後光を放ちながら肉を取り出す。
    「ぐぁ! がぁぐぐぐがぁ!」
     鐐が恭しく拝むように肉を受け取ると、早速焼き始める。その姿はどこか楽しそうだった。
    「アーーリヤッッッ!」
    「アーラライーッ!」
     玲がヒョコを称えるように叫ぶと、原始人達も釣られたように叫び崇め始める。
    「火、熱い、燃える」
     片言で紫は肉を焼く火を指差して、興味深そうに炎をじっと見つめた。すると原始人達も同じようにじっと炎に魅入る。
    「アラララアーィ!」
     炎の揺らめきに興奮したのか、原始人達は火の周囲を回り始めた。
    「がうがうッ!」
     ヘキサも段々と楽しくなってきたのか、その輪に加わり跳ね回る。
    「クンカクンカ、んっふぅぅー♪」
     肉の焼ける香りが漂い始め、マギはその香りに誘われるようにクネクネとしながら頬を緩めた。
    「肉焼けた、食え食え」
     源治が焼けた肉を刺した串を渡していく。
    「アララー!」
    「イアイァ!」
     原始人達は美味そうに肉に齧りつき、獣の如く味わっていた。
    「あー暑苦しい……早く終わらないかな……」
     菜月はだるそうに呟いた。
    「アーララララィッ」
     腹を満たして満足そうな原始人達は感謝の踊りを始める。ヒョコが天を指差すと、傘やモップを掲げた原始人達の舞いも息も荒く絶頂に達した。動きを止めると平伏して祈るように手を組む。
     ヒョコが更に肉を取り出すと、原始人達は嬉しそうに夢中で肉を焼き始めた。
    「教祖作戦大成功!」
     少し離れた場所でヒョコが上手くいったと笑みを浮かべる。
    「ヒョコちゃん信者ゲットだよ! このまま原始の宗教の教祖コースで一儲けしよう!」
     玲が冗談めかしてそんな事を言うと皆から笑い声が起こる。
    「後はイフリート退治だなぁ」
     源治の言葉に皆も頷き、コンビニへと足を向けた。

    ●恐竜
     コンビニの中では巨体を窮屈そうにしている恐竜がぺろぺろとビールを舐めていた。そこへ灼滅者達が襲い掛かる。
    「このまま被害が広がったらドーナツ屋さんも……絶対に阻止するんだから!」
     紫は霊犬の久遠と共に駆け出し、勢いのまま手にしたエネルギーのシールドを恐竜の後頭部へ叩き付け、壁に押し込んだところへ久遠が口に咥えた刀で切りつけた。
    『ギゴォォォッ!』
     恐竜は口から炎を撒き散らしながら振り返り、ギョロリと怒りの籠もった視線が闖入者である紫を睨みつける。
    「我が前に爆炎を」
     解除コードと共に、玲の体が炎に包まれその身を武装する。数歩の助走で一気に加速し跳躍すると、流星のように一直線に恐竜の脚目掛けて飛び蹴りを放った。バランスを崩した恐竜は顔をジュースの入っていたガラスケースへと突っ込む。
    『ギゴォォッゴアァァ!』
     恐竜は大きく息を吸うと、室温が一気に上がりちろちろと口の端から火が漏れる。大きく開いた口から炎のブレスが放たれた。
    「恐竜さん可愛いです! おっきなお口がキュートですよ!」
     その前に立ち塞がるマギが間近で見る恐竜の姿に感激しながらオーラを纏うと、迫る炎にオーラの塊をぶつけた。だが勢いが弱まってもブレスは止まらず炎がマギの体に纏わり付く。そこにナノナノのさしみがハートを飛ばして炎を消火した。
    「そんな炎なんて消しちゃうよー」
     広がり仲間達に燃え移る炎に向かい、ヒョコは穏やかな風を巻き起こす。すると火は鎮火されて焼けた匂いだけが残る。
    『ギィィアアアア!』
    「竜種とは言うが、理性も知性も無ければただの蜥蜴に過ぎんな……」
     口を開けて襲い来る恐竜に、鐐は失望の声を吐きながら魔力を込めた杖を振り抜く。顎を打ち抜かれた恐竜は棚に顔を突っ込んで止まる。
    「原始化なんぞされると不便なんでなぁ。止めさせてもらうぜ」
     源治の体が赤く錆びたように染まり、頭部からは角が生え鬼の如き姿となる。手にしたのは頑丈な日本刀の鞘。それに魔力を注ぎ恐竜の腹に叩き込んだ。
    『ギォッ』
     衝撃に息が詰まったように恐竜の動きが止まる。
    「ほんとあほっぽい、しかも暑苦しい」
     踏み込んだ菜月が槍を脇腹に突き刺す。分厚い皮膚に阻まれ深くは刺さらなかったが、刺さった穂先を捻り傷口を広げた。
    『ギャオオオオッ!』
     怒りの咆哮と共に恐竜が尻尾を振り抜く。その前に出た玲と紫が盾で受け止める。
    「がうー! っじゃなかった、行くぜ!」
     ヘキサはその尻尾の上を走り、炎を纏った蹴りを顔面に放つ。炎が恐竜の顔を焼いた。反撃に噛み付こうと口を開けるが、ヘキサは鼻面を蹴り飛ばして後方へ飛び退く。
    「おっきいだけあった皮膚も分厚いみたいだね」
     紫が正面から近づくと、恐竜は牙を立てようと顔を近づける。それを横にステップして避けるとそのまま背後に回り、足元から影が猫の姿となって跳び出してその爪で恐竜の背中を切り裂く。
    「皮膚が硬かろうと、傷口には効くだろう」
     跳び込んだ鐐が背中に張り付き、巨大な杭を撃ち込んだ。高速回転する杭が傷口を広げて突き刺さる。
    『ギィィオオオ!』
     恐竜は暴れて鐐を棚にぶつけて叩き落し、その体を踏み抜こうとする。
    「大きい足ですね、大きさを測ってみたいです」
     その真下に近づいたマギが拳の連打で受け止める。手伝うように久遠も六文銭を飛ばす。その間に鐐は転がって逃れ、マギもまた飛び退いて避けた。地響きと共に床に大きな足跡が出来上がる。
    「コンビニを荒らす悪い子にはお仕置きだよー!」
     ヒョコは針のように鋭い杖に光を帯び、突き刺すようにその足に叩き付けた。そこへ更に氷柱と撃ち込まれる。
    「そのまま氷漬けになればいいのに」
     槍を振るった菜月が呟く。
    「ラッラーーーーイィィィィィ!」
     原始人の叫びが気に入ったのか、玲は声を張り上げながらローラーダッシュで近づき、迎撃に振り払われる尻尾を跳躍して躱すと、摩擦で燃えるシューズで頭を蹴り飛ばす。
    『ギィィォッ』
     傷口から炎が噴き出る。苛立つように恐竜は怒りを籠めて息を吸い込む。
    「そうはさせねえよう」
     源治が口を塞ぐようにしたから顎を槍で突き上げた。氷が恐竜の口元を凍らせる。だが恐竜は炎で氷を溶かしながら下を向こうとして力を込める。対抗する源治も腕をぱんぱんに膨らませて踏ん張った。
     ならばと恐竜はそのまま上に向かって炎を撒き散らそうとする。狭い室内では炎はすぐに落ちて来るだろう。
    「そのデカイ口をちょっと閉じてろ!」
     跳躍し天井をローラーダッシュで走ったヘキサが、恐竜の頭上から蹴りを打ち込んだ。
    『ギィヤアアアアアアア!』
     口が閉じた状態でブレスを発した恐竜は、暴発したように牙が何本も吹き飛び血と炎が飛び散る。その巨体が痛みに暴れるようにのたうち、巻き込まれないよう灼滅者達は距離を取る。破れたガラス壁から恐竜はコンビニの外へと出てきた。

    ●狩り
     怒りに目を真っ赤に染め、恐竜は咆える。
    『ギィオオオオアアッ!』
     ビリビリと空気を震わすほどの咆哮。そして灼滅者へ向けて駆け出す。
    「久遠!」
     紫が久遠と視線を交わし正面から突進する。恐竜とぶつかる。そう思った瞬間左右に分かれ、紫が右足を、久遠が左足を斬り裂く。足から血を流しながらも恐竜は止まらずに突っ込む。
    「まるで暴走車だね」
     玲がシールドを広げて前に立つ。交差は一瞬。衝撃に玲の体が宙に舞う。だが同じく衝撃を受けた恐竜もその勢いを弱めていた。
    「どれだけ図体が大きくとも、所詮は蜥蜴だな」
     そこへ鐐は拳にオーラを帯びて顔を殴りつける。拳の連打が左目を奪い、顔を変形させていく。
    「どんな怪我でもヒョコちゃんにお任せ!」
     その間にヒョコは縛霊手から光を放って玲の傷の治療に取り掛かると、さしみもハートを飛ばして手伝う。
     恐竜は鐐を押し飛ばして攻撃から逃れる。だがその反対側から拳を見舞われた。
    「はぁ、面倒。だからさっさと倒れて」
     そこに待ち受けていた菜月が、続きとばかりに拳の連打を浴びせていく。
    『ギャギャアアッ!』
     嫌がり暴れる恐竜の巨体が菜月を撥ね飛ばす。その暴れる背中にマギが跳び乗った。
    「これが恐竜の背中! この景色決して忘れません!」
     マギは喜びながらも、手にした杖を振り上げて背中目掛けて叩き込んだ。仰け反った恐竜は転びマギの体は投げ出される。恐竜はそのまま近づく灼滅者を吹き飛ばそうと尻尾を横に薙ぐ。
    「そろそろ終わりにするかね」
     源治は鞘で受け止める。吹き飛ばされそうになるのを何とか踏み止まり押し返した。
    「デケェのは図体だけかよ? その『牙』、オレに突き立ててみなッ!」
    『ギィィィッ』
     ヘキサの挑発に恐竜は牙を剥く。ぼろぼろの口を開いて襲い来る。
    「そんなスピードじゃウサギに食い殺されちまうぜ!」
     迫る顎門を紙一重でヘキサは躱すと、その顔を蹴り飛ばす。恐竜は尻尾を鞭のように振るって薙ぎ払う。それを間一髪跳躍して避けた。だが尻尾はもう一度唸りを上げて空中にいるヘキサを狙う。
    「もっと予測を超えた行動できないの? 退屈……」
     菜月その間合いの外から槍を振り、放たれた氷柱が恐竜の背中の傷口に突き刺さった。
    『ギキィィィッ』
     傷口から噴き出る炎すら凍りつかせて恐竜の動きが鈍くなる。
    「さあ、ここで決めるよ!」
     そこへ紫が飛び込み影の猫が尻尾に噛み付いた。傷口から炎が溢れる。更に久遠が刃で斬りつけ尻尾は切断された。
    『ギィャアアアアオッ』
     着地したヘキサは屈んで指を噛み、血を垂らすとシューズのホイールが超高速回転を始める。焦げ臭い匂いをアスファルトから漂わせながらダッシュし、牙を剥く恐竜と正面からぶつかる。
    「火兎の牙ァ!!」
     放たれた蹴りは鋭い牙の如く恐竜の右目に突き刺さり、炎が内部から焼き尽くしていく。
    『ギオオオオッ』
     断末魔と共に最後の力か、恐竜は体内の炎を噴出そうとする。
    「流石に生命力は強ぇな、だが」
     源治は顔を下から殴って上を向かせる。
    「悪足掻きだな」
     そこへ鐐が腹を杭で差し貫いた。押し出された炎は口から吐き出され、まるで花火のように上空に打ち出された。

    ●現代
     力を失い横たわった恐竜は炎に包まれて消えて行く。
    「ああ……恐竜さんが……」
     その様子をマギが悲しそうに眺めていた。
    「これでドーナツ屋さんの平和……じゃなくて人々の平和が守られたね!」
     紫がじゃれつく久遠の手を取って喜ぶ。だが自分の格好を思い出して恥ずかしそうに顔を赤くすると、いそいそと他の仲間と共に着替えにいく。
    「後は片付けだが……片付けと言っても、俺達が出来ることは無い、か……?」
     コンビニの惨状を見て鐐は言葉を濁した。コンビニはもはや見る影も無く混沌としていた。
    「うン、まァ、コンビニはどうしようもねーよな……」
     手の施しようの無い状況にヘキサも遠くを見て誤魔化した。
    「まあ災難だが、命が無事なだけでも良かったと思ってもらうしかないな」
     源治も首を横に振って諦めたように溜息を吐いた。
    「これで文明は守られた!」
     ヒョコは勝利のブイサインを見せる。
    「竜種かー。こう強くなってるけど、何か退化してるみたいで変な感じ、何なんだろうね」
     新たなイフリートの存在に首を傾げる玲。
    「疲れた。眠い。帰ろう」
     心底やる気を失った様に、菜月は既に半分ほど目蓋が閉じかけていた。
    「それじゃあ帰るよー!」
     元気一杯にヒョコは菜月の手を取って帰途に就く。灼滅者達は熱気の残る戦場を後にした。

    「何でオレ達こんな格好してんの?」
    「さあ?」
     原始人のような服装に、焚き火と肉。何故自分達がそんな事をしているのかと途方に暮れる。
     ただ手にした肉が美味そうで思わず一口齧った。それはどこか野性的な味がした。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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