暴虐のツケ

    作者:池田コント

     かつては組事務所として使われていた五階建てのビルディング。
     その一室でたそがれていたミユキの前に現れたのは、ハトの頭をもった男だった。
    「戦場の白き翼、ハトハート参上!」
    「プシッタクスの腰巾着がなんのようだ?」
     ミユキの態度はハトハートの用件を見抜いているかのようだった。
     だからか、ハトハートがそのことを告げても驚いた様子は見せなかった。
     ハセベミユキの暗殺である。
     気づけば階下からも争うような物音が聞こえてきていた。
    「わかっているだろう! プシッタクス様の敵討ちだ! あの方を亡くして俺の心中がいかに傷ついたか! 俺ハートブレイク!」
     ハトハートは感情的になるあまり、胸筋を激しくピクピクさせる。
    「アシオーはどうした? お前一人だけか?」
    「アシオー殿は君を倒す栄誉を俺に譲ってくださったのだ! 今頃君の配下を倒しているところだろう。終わり次第合流する予定だ!」
    「はぁ……お前、それ騙されてるんじゃね?」
    「なに、そんなバカな!」
    「一番危険な役をお前に押しつけて失敗したらトンズラしようって魂胆だよ」
    「違う。アシオー殿そんなのと違う! 騙されないぞ!」
    「お前、その腰にくくりつけてるのはなんだよ」
    「これかい? これは合図を送るための宝玉だよ! 砕いたらよく光るんだ。まずい事態になったらすぐ撤退できるように!」
    「やっぱ騙されてんぞ」
    「騙される違う!」
     ハトハートはミユキの言葉に心揺さぶられまいと声を張り上げた。
    「……アモンに拾われた、人に顔も覚えられないような、ただの一兵卒に過ぎなかったあたしがわざわざ命を狙われるとはな……面白いじゃねえか」
     ミユキはひとりごちるとイスから立ち上がり、ダークネスの正体を表す。
    「さて、やるか? プシッタクスを喰らい損ねたとはいえ、お前には負けねえよ?」
    「それはどうかな! ギヨたんならまだしも、俺の肉弾魔法ならば相性の悪い君を倒すことだって……」
     ガァオゥウゥ!
    「ひぃ!?」
     ワニの頭が獣のような唸り声を上げると、ハトハートの身がすくむ。
    「本当に、やるのかい?」
    「む、無論だ……フ、とんだ豆鉄砲をくらっちまったぜ!」
     ハトハートは心を奮い立たせ、拳に魔力を収束させていく……。


     先日灼滅者達が交戦したハセベミユキについて予測がたった。
     ソロモンの悪魔ハトハートによって襲撃を受けるようだ。
     ハセベミユキの思惑ではプシッタクスの派閥は抱き込める予定だったのが、灼滅者の活躍により面子が保てなくなったようだ。
     噛み砕いて言えば「灼滅者なんてなり損ないに横からかっさらわれるなんて大したことないんじゃね?」と思われたわけだ。
     これも先の灼滅者達の成果の一つと言えるだろう。
     予測では、6割の確率でこの襲撃は失敗し、ハトハートは死亡。アシオー達はミユキ配下のバニーを倒した後逃亡する。
     そこで、君達の出番だ。
     ミユキとハトハートが一騎打ちをしているところに突入し、ダークネスの灼滅を目指して欲しい。

     戦場となるのはかつて組事務所と使われていたビルの五階、組長室だった部屋だ。
     今回は突入のタイミングは選べない。
     ダークネス二体を同時に相手するのは厳しく、戦闘時間が長引くとミユキの配下を倒したアシオーが援軍として到着する恐れもある。
     よって、作戦の流れは次のようになる。

     一、ハトハートを騙すか力業で奪うかして、宝玉を奪い、いいタイミングで撤退の合図を出す。
     一、ミユキかハトハートを逃亡させる。
     一、残ったダークネスを灼滅する。

     襲撃により混乱している現場は、好機とはいえ敵の拠点のまっただ中に他ならない。
     危険な任務だが、最善を尽くして欲しい。


    参加者
    山城・竹緒(デイドリームワンダー・d00763)
    ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)
    ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    サフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)

    ■リプレイ


     厚い雲に覆われた空の下をローブ姿の人影が駆けていく。
     深い色のローブに水滴がぽつんと落ちて、更に深い色の染みを作る。
    「帰りは雨だね」
     山城・竹緒(デイドリームワンダー・d00763)の何気ない一言を聞いて、サフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)は空を見上げた。
     白と濃灰にコントラストのきいた曇り空は、まるでしつらえたようであったが、もしそれを用意した者がいるならばちょっとだけイジワルだ。
    「星が見えません……」
     サフィがつぶやくと、カードが身じろぎした気がした。
    (「出られるようになるまで、我慢しててくださいね」)
     霊犬のエルをあやすようにささやきかける。
     星の導きはないけれど、エクスブレインからもたらされた情報はある。
     それを頼りにビルに潜入し進んでいくと唐突に先頭をゆくミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)の足が止まった。
     後ろに続く坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)達を手で制し、耳を澄ます。
     争うような物音。振動。戦いは既に始まっているようだ。
    「急ぎましょう。見張りはいないようですの」
     間もなくミルフィ達は悪魔達のいる部屋へと突入を果たした。


    「ハッと驚く!? 増援か!」
     ローブ姿はミユキ配下の服装である。ハトハートに真贋の区別がつくはずもなく、豆鉄砲をくらったような顔をしたが、
    「ハトハート様、ご無事でしたか」
     ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)達は自らをアシオー配下の強化一般人と説明した。
     ローブは敵に紛れるためのものだと。
    「この様な格好で失礼しました。しかし、アシオー様がハトハート様程の方なら言わずとも偽装だと気がつくであろう、と」
     おだてに弱いハトハートは未来達の言葉をあっさりと信じた。
    (「元々ハセベ灼滅が目的だし、な」)
     利害は一致しているが、ハトハートが慕うプシッタクスに直接手を下したのが武蔵坂の仲間であることが事情をややこしくする。
     ミルフィ達の狙いは悪魔ハセベミユキ。
    (「これまで紆余曲折あったようですがもはや今は……灼滅すべきダークネス」)
     余計な情に駆られてはならない。彼女はきっと悪事を繰り返す。そしていつかその牙にかかるのはミルフィの仕えるお嬢様であるかも知れないのだから。
     嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)の事情がその感情をあおる。絹代の恩人は先の戦いでミユキに深手を負わされていた。
     命に別状はないとはいえ、許せるものではない。
     ヴェルグ、未来、エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)はまたミユキとは幾度か顔を合わせたため、彼女に対する想いもひとしおである。
     だが、今はそういった感情をローブの奥深くにしまい込む。
    「やはりハトハート様のみを危険に晒す訳にはいかないとアシオー様は仰いました!」
    「微力ながら、私達も助太刀致します」
    (「あらお上手」)
     エウロペアやヴェルグの演技を戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)はのんびり見守った。
     虚偽を見破られたときのためにあれこれ考えておいた文句は必要なさそうだと、遮光メガネのズレを正す。
     不要ならそれに超したことはないわけだが。
     サフィと竹緒は室内に目を走らせ逃走用の仕掛けなどないか確認した。
     それ用の箒などはないようである。あの大きな翼を除いては。
     逃亡防止に位置どることは逆に自分達が逃げやすくする意味でも有用だ。
    「厚志ありがたく受けよう! しかし、見たところ君達の中には彼女と相性の悪い者もいるようだ。むやみに被害を増やすことはない。ひっこんでいたまえ!」
    「そうはいきません。ハトハート様の露払いになれるなら本望。今はただ、仇を討つことにのみ集中なさってください」
    「ならばもう何も言うまい! 君達の血一滴たりとも無駄にしないことをここに誓おう! そして、必ずや一人も欠けることなく生きて帰す!」
     絹代達の言葉によりハトハートは奮起した。
     本当にチョロい、が……。
    (「プレッシャーが増した……?」)
     未来はハトハートのまとうオーラが増大したように感じた。
     感情によって実力以上の活躍をするタイプなのだろう。
    「おかしいとは思わねえのか? これだけの戦力が来りゃ予知できそうなもんだが」
    「ぬ……」
    「騙されてはいけません。ハセベミユキの狡猾な策です!」
     竹緒が勢いよく言い返す。
     個別の戦闘力は向こうが上だろうが、口も脳みそもこちらの方が多い。
    「そ、そうだな! 騙されるわけにはいかないな!」
    「当たり所が悪ければ宝玉が割れてしまいます! 主戦力のハトハート様が戦闘に集中できるよう、我々が預かるようにとアシオー様よりご指示がありました。
    「なるほどそうか。では頼む」
     チョロい。
     竹緒が宝玉を受け取るところを見てエウロペアはちょっと和む。
     ハトハートはミユキとの戦闘を再開する。
     接近戦で相手に魔力をゴリゴリ叩きこむスタイルは、ミユキには戦いづらそうだ。
     エウロペア達はそれにうまく呼吸を合わせていく。
    (「この分ですと宝玉関連は上手くいきそうですわね……」)
     ミルフィは懐中時計を確認しながらドグマスパイクを放つ。
    「それで殺せるつもりかよ」
     だが、攻撃はかわされ襟首を掴まれたミルフィは尻から床に叩きつけられた。
     さすがはダークネスか、力の差は歴然として、命中確率は半分以下。
     ジャマーの力も当たらずでは発揮できようはずもない、が。
    (「ということは、半分は当たるということですわ……!」)
     ミルフィは立ち上がり、服の乱れを直して再度立ち向かっていく。
    「この戦い方、お前ら灼滅者だな?」
    (「あ、気づかれた」)
     凍結の魔力を受ける盾となったヴェルグとエウロペアの背後に回りながら、蔵乃祐は鎌を握り直す。
     ミユキにバレるのはある意味想定内。
     だが、わざわざ戦力であるサフィの霊犬エルを隠してまでいるだけあってハトハートは気づいていない。
     霊犬を見てどう反応するかは未知数だが、奴の攻撃の矛先がこちらに向くことだけは避けるべき事態だ。
     蔵乃祐はいざとなれば味方を騙った事情をでっちあげるつもりだ。ミユキの動向に気を配る。
     未来のチェーンソー剣が空を切った。ミユキはすかさず魔力の灯る指を向ける。
    (「避けられない」)
     過去の戦いの記憶がよぎる。未来が身構えた瞬間。
    「マジックミサイル……キーック!」
     ハトハートの両足をそろえた蹴りがミユキの背中に突き刺さった。
    「大丈夫かい、君?」
    「あ、ああ……」
     ハトスマイルを浮かべる顔をミユキの手が掴んだ。
    「邪魔すんじゃねえよ……」
     少女がハトマスク男の顔面を掴んでいる光景は冗談のようだが。
     ミユキの掌が閃光を発した。
     零距離で魔力を炸裂させられたハトハートの体が焦げつく臭いをさせながら床に倒れた。すぐにムクリと起き上がる。
    (「あいつが的になってくれると助かるな」)
     絹代はハトの悪魔を利用する賭に勝利したと実感していた。
     だが間もなく八分経つ。アシオーに合流されては一気に戦局が覆るため宝玉を割らないわけにはいかない。
     このアドバンテージをどれだけ生かせるだろうか。


     竹緒が宝玉を叩き割った瞬間、まばゆい閃光が辺りを白く染め上げた。
     警戒していたおかげでミユキの逃亡は阻止できた。
     強烈な光は壁さえ通り抜ける特殊な魔力光。
     これでアシオーは撤退し始めるはずだ。
    「速く逃げないと孤立しちゃうよー」
    「な、なぜだ。俺を騙したというのか!?」
     エウロペアと絹代が更なる計略にかけようとしたが、さすがにこれは失敗した。
     宝玉を割ることで信頼を失い、灼滅者であると勘づかれたためである。
    「落ち着けボケが! 悪魔なんだろーがちったぁ冷静になれや!」
    「ひぃ!?」
     絹代に怒鳴られたことでハトハートは仰天し、怯んだわけではないと何度も繰り返しながら退散していった。
     蔵乃祐達はそれを見送った。ダークネス二体は手に余る。
    「お待たせ、エル」
     霊犬エルは呼び出されるなり鬱憤を晴らすようにサフィの周りをグルグル回る。元気いっぱい。
    「さて、と……」
     竹緒達はローブを脱ぎ捨てると、改めて悪魔と相対する。
    「ハセベさんはじめまして! 今日は誰かさんの代わりにあなたを灼滅しに来ました! 覚えてる?」
     竹緒はミユキと因縁のある少年と面識があるが……。
    「代わりに用はねえよ」
    「あーあ、つれないなぁ」
     蔵乃祐はつまらなそうに尋ねる。
    「色んな悪魔がいるけどさ、皆ファッキンシットな理想のために悪事に勤しんでるよ。そういうのないの?」
    「色んな灼滅者がいるけどさ、お前よりマシな面してるよ。人生の目標とかないの?」
    「あれなの? 尽くしたい女なの?」
    「お前なんで独りじゃないの? 群れるの好きなの?」
    「正直、ミユキさん自身がどうしたいのかイマイチ見えてこないんですよね」
    「アタシもお前のその面がどうにも理解できないんですよね」
    「……あの、バカにしてません?」
    「バーカ」
    「おぅファック」
     ミユキは素顔を現したヴェルグ達を見てにやりと笑う。
     ヴェルグはルーンの刻まれた槍アンサズを腰に構えた。
    「よお、覚えてるか? 覚えてなくても構わねえが」
    「覚えてるよ。道化のツレだろ?」
     ヴェルグとの因縁は昨年に遡り、過去二度ミユキと遭遇しているが、刃を交えるのは初めてである。悪魔を前に槍が打ち震えるかのようだ。
    「……以前会ったときは散々にやられたし、そっちは覚えてないかも、だが……」
     未来が左右に持ったチェーンソー剣が駆動音を発する。
    『汝の魂に幸いあれ』『安らかに眠れ』
     終わりを迎えるより先に、そこへ送り込もうと吠え猛る。
    「あのときの借り、返させてもらう……」
     かつて石像のように転がされた屈辱。惨敗の記憶を塗り替えるには、勝利するしかない。
     未来はアイテムポケットからドーナツをとりだした。
    「……安心しろ。墓には某ポンデを供えてやるから、な」
    「なんでだよ……」
    「こないだ話に出たし、好きかと思って土産に用意した」
     その話題になったのは単なる勘違いからだったのだが……。
    「……今喰うか?」
    「喰わねえよ!?」
     残念。未来の思いやりは悪魔には通じなかったようである。
     そして。
    「ふん……所業はまさしく卑劣千万。正義の味方などとは口が裂けても言えぬな?」
     エウロペアは自省し苦笑した。
     この中では最も因縁が深いと言えるだろう。
     ミユキが闇に堕ちた現場に出くわした証人であり、先日の依頼でも交戦した。
    「まあそれ程そなたに首ったけということじゃ、ミユキよ。ふふ、愛されておるのう?」
    「自分のしたことの言い訳にアタシを使うんじゃねーよ、胸クソ悪い」
     悪態をつかれても、エウロペアは揺るがない。
     彼女について一つだけわかること。
     それは激しさ。敵意も好意も苛烈である。
    「つーか正義だのなんだのに何の意味があんだよ。よく見ろ、強弱しかねえじゃねえか。そんなに正義とやらにこだわりたけりゃ世界を覆してみろ! 灼滅者共!」
     戦いは十人中八人が苦戦と言うだろう。残り二人は当然と頷く。
     悪夢のように攻撃を外す者が続出し、灼滅者達は忍耐強く戦い続けねばならなかった。
    「ミユキさんは元一般人、聞きました。私達が救えなかった人、と」
     サフィは仲間を信じ回復役に徹した。凍傷を、火傷を、裂傷を癒す。
    「その償いは私たち自身の手で。あなたにもう人の命を奪わせること無いように」
     逃亡させないように集中し続けることは、身体は元より精神をも激しく消耗させた。
     不味いところもあったが、心折れずよく戦ったと言っていい。
    「そんな裸同然の格好で凌げると思うなよな? アタシを殺したきゃ、アタシを殺せるだけの準備をして来い!」
     戦闘は終局を迎えようとしている。結果的に宝玉を割るタイミングを含め作戦はベストと言えるだろう。
    「このビルってさぁ……元スネ毛組の持ちビルだったりするの?」
     蔵乃祐は集気法を行う。魔力の矢により右脇腹が破けていた。
    「……心底同情するよ。災難だな、色々と」
     蔵乃祐はうんざりしたように傷口を見て、ミユキに向き直る。唇に垂れる血は指の腹でぬぐった。
    「ただまあ不幸自慢とかそういうのはもういいです」
     蔵乃祐は魔法の矢に貫かれた。
     追い打ちするように放たれた矢が蔵乃祐に迫る。
     突然視界が遮られた。
     ヴェルグが前に飛び出したのだ。はち切れんばかりの魔力が電撃のように弾ける。
     槍アンサズが今にも折れそうな程たわみ、軋んだ。
    「今だけはどうかもってくれ」
     威力を抑えきれず、ヴェルグ自身の皮膚が裂け、血が噴き出す。
     ヴェルグがそれに耐えきった瞬間、絹代がミユキに飛びつこうとし、逆に腹を貫かれた。
    「アンタは命の恩人を傷つけた……」
     絹代はしかし笑んだ。
    「いや~よかった、ちょうど良かったわ~。殺す理由をつけるのに。マジ良かったわ~」
     絹代は焦点の合わない瞳でミユキを睨め上げる。もはや周囲の声は聞こえていないようだ。
    「報いを受けろ!」
     ミユキの左腕に刃と影業を二重に巻きつけ、それを一気に引き抜いた。
     荒れ狂う水流のように刃は少女の皮膚を引き裂き、肉をこそぎ、遂には根元より左腕を切り取った。
     絹代は満足げにケタケタ笑った。
     絶叫がビル中に響き渡る。
     それは誰かを必死で呼んでいるかのようだったが、聞き取れた者はいない。
     暴れ狂うワニに喰いつかれて絹代は人形のように力尽きた。
     だが、その好機を逃す灼滅者ではない。
    「もう逃げられませんわ、冥土に堕ちやがれですわ!」
     ありったけの力を込めたミルフィのバベルインパクトがミユキの魔力障壁を打ち破るも逆に胸を撃ち抜かれた。
    「あなたみたいな人、あんまりキライじゃないけどね!」
     竹緒の足が灼熱の炎に包まれ、ミユキに迫る。
     今こそ精算のとき。
     全力でワニの頭部を蹴り潰した。
    「これであなたの物語はおしまい。お疲れ様でした!」


    「あの日のことを覚えているか? アタシが生まれたあの日のことを」
     ミユキは未来にねだったドーナツをかじりながら、エウロペアの腕の中にいた。
     一昨年の冬。
     思えば長い時が流れた。
    「エウロペア、アラズ、カゲロウ……ウツロ……アタシはお前らが、大嫌いだ……」
     並べ立てようにもミユキは他に灼滅者の名を知らない。
    「なあ、アタシはお前らの……敵だったか……?」
     エウロペアにその言葉の真意はわからない。誕生と終焉に際してさえ彼女を理解することはできない。それが悲しい。
     彼女にできることはこう答えることだけだ。
    「ああ、そなたはわらわ達の宿敵であったぞ」
     ミユキは皮肉げな表情を浮かべ、
    「このドーナツ甘すぎるぜ……」
     エウロペアの腕の中で息絶えた。
     ヴェルグの淡い希望を砕くように、ミユキの全ては塵となって消え去っていった。
     未来が慣習として祈りを捧げる中、サフィの見つめる先で雲間から星が見え始めていた。

    作者:池田コント 重傷:ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802) エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163) 嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 4/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 9
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