アルカディアの祝福

    作者:志稲愛海

     インターネットの掲示板から発足したサークル、『ヘスペリデスの園』。
     最初は、学校や職場や家庭等、現代社会で様々な悩みを抱えているが誰にも言えないでいた人達が集まり、互いに相談し合い気晴らしをする為に、隔週1回ほどの頻度で集会を開いているような小規模なサークルであった。
     だが――会沢・夢叶(あいざわ・ゆめか)という少女が現われて以来。
     その活動内容に、大きな変化が生じたのだった。
    「助けてやる、なんて……できもしないこと言って、期待させておいて……」
    「それで、貴女も裏切られたのね。よく分かるわ」
     響いたのは、憎らしげに気持ちを吐露した相談者を安心させるような、優しい音色。
     そしてその声が紡いだ言の葉に、相談者は顔を上げて。 
    「貴女も、って……会沢さんも?」
    「ええ、裏切られてばかりだったわ。それどころか一歩間違えれば、悪魔に誑かされて殺されていたかもしれない」
    「悪魔!?」
     ざわりと、周囲にいる他のメンバーも思わずざわめく。
     だが夢叶はその微笑みを絶やさずに。
     皆へと、こう続けたのだった。
    「でもね、貴女が今辛い思いをしているのも全部、『アルカディア』へと導かれる為の試練なのよ。この試練は、『アルカディア』に導かれる資質がある者のみに架されるもの。私も、少し前までは誰も信用できなくて、唯一心を許していた人も悪魔達に殺されて……でもね、だからこそ私は、『アルカディア』へと飛翔できる翼を手に入れたの」
     ――そして。
    「貴方達も……『アルカディア』の境地に、辿り着きたい?」
     背中に成した黒い翼をバサリと羽ばたかせ、囁く。
     私についてきてくれたら……貴方達も理想郷へと導いてあげるわ、と。
     そんな夢叶の誘いに、サークルの仲間達はすぐに大きく頷いて。
    「みんなにも――『アルカディア』の祝福を」
     夢叶に……いや、悪魔に堕ちかけのその少女に、身も心を委ねるのだった。
     

    「世界の西の果てにある『ヘスペリデスの園』にはね、不死を得られる黄金の林檎があって、ドラゴンがその林檎の監視をしてるんだって」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、集まってくれてありがとーといつも通りへらりと笑んでから。察知した事件の概要を語り始める。
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしていることが分かったんだ。その一般人は……2ヶ月くらい前にオレが未来予測した事件で闇堕ちした、中学2年生の会沢・夢叶って女の子だよ。通常なら、闇堕ちしたダークネスはすぐさまダークネスとしての意識を持つから、人間の意識はかき消えるんだけど……彼女はまだ、ダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状況なんだ」
     つまり、現状の夢叶は、ダークネスに変化する途中段階。
     そして夢叶は、自分の力を示したり利で誘ったりして、自分の取り巻きを作っていて。その取り巻きに力を与える事で、更に多くの人間を配下におさめんとしている状況だという。
    「この日、あるマンションの一室で『ヘスペリデスの園』のサークル活動が行なわれるんだけど。夢叶との接触のタイミングは、夜の21時を回った時だよ。それ以前に行動を起こしちゃったら、バベルの鎖で察知されちゃうから気をつけてね」
     室内には、夢叶と、彼女に力を分け与えられた配下が4人いる。
     配下はそう強くはなく、バトルオーラを使用し、戦闘でKOすれば正気に戻るだろう。
    「そして夢叶は、ソロモンの悪魔のサイキックと得物の影業のサイキックを使ってくるよ。もし彼女に素質があれば、KOした後で灼滅者として生き残るかもしれない。そして夢叶の心に呼びかけることで、彼女の戦闘力を下げることも恐らくできるだろうけど……夢叶の心の闇はすでにとても深くて、しかも灼滅者達のことを悪魔だと思ってるから……説得は慎重にしないと、難しいかもしれない。だから少なくとも、彼女に力を与えられた取り巻きの強化一般人はちゃんと正気に戻してあげてね」
     場所はマンションの一室。パーティー用等に使うレンタルルームの為、戦場となるリビングは広く、物もソファーやテレビなどがあるだけで、戦闘にそう支障はないだろう。窓も多めの部屋には灯りもついているので、視覚的にも問題はなさそうだ。
     それから遥河はそこまで説明を終えた後、もう一度灼滅者達を見回しながら。
    「前回は、夢叶を『死』から救えたみんなだから。説得するのもちょっと難しそうだけど、今回は彼女を闇から救ってあげて欲しいなって、そう思うよ」
     気をつけて行ってきてね、と、そう皆を見送るのだった。


    参加者
    川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)
    イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)
    ムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)
    アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)
    亜麻宮・花火(パンドラボックス・d12462)
    飛鳥・智之(不良ヒーロー・d16606)
    神音・葎(月黄泉の姫君・d16902)
    天使・翼(ロワゾブルー・d20929)

    ■リプレイ

    ●gefallener Engel
     試練を課された選ばれし者だけが辿り着ける境地――それが『アルカディア』だと。
     耳元でそっと、悪魔は囁く。
     そして少女、会沢・夢叶は堕天した。
     闇の翼を背に携え、理想郷を探しにいく為に。
     でもそれは、悪魔の戯言。
    (「試練の必要な理想郷だなんて、選民思想も甚だしいですね……」)
     呆れ気味に『アルカディア』を否定するのは、イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)。
     普段は子供っぽい彼女が真っ向から否定する位、馬鹿げている思想。
     だが、それに身を委ねてしまう程……心に闇を抱えた人がこの世界に溢れているのも事実。ドアの向こうの、夢叶然り。
    (「俺は夢叶ちゃんとは初めまして、で仲間の何人かは二度目まして……なんだよな」)
     飛鳥・智之(不良ヒーロー・d16606)はふと、隣にいるアイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)に目を向けて。
    「ま、頑張っていこーか、あいにゃ君」
     真剣な顔つきの彼へと声を掛けて。
    「……俺はそんな名前じゃないと言っただろう、そこの不良」
     そう返しつつも一瞬、表情を緩めたアイナー。
     そんな彼は、夢叶が闇堕ちした事件に携わっていて。
     智之は、彼女と面識のある皆のサポートが今回はできればと、そう突入の時を待つ。
     そして同じく前の事件に携わった者の一人、ムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)も、現在時刻を確認して。
    (「僕達の思慮不足が招いた事態だ、ケリをつけよう」)
     今度こそ会沢さんを救い出すとしますか――と。
     仲間達と共に、一気に部屋へと踏み込む。
    「ヘスペリデスの園。ギリシャ神話ではそこに、黄金の林檎の木があるんだってね、林檎を巡って様々な諍いがあったみたい」
     敢えて武装はせず、まずそう夢叶に声を掛ける、亜麻宮・花火(パンドラボックス・d12462)。
    「誰……!?」
     夢叶は、一瞬驚いた瞳で花火の姿を見遣るも。
    「アルカディアは見つかったかよ」
    「……!」
    「やぁ、会沢さん久しぶりだな。今日は君に謝罪するのと君を救うために来させてもらったよ」
    「君を、連れ戻しにきた」
     天使・翼(ロワゾブルー・d20929)やムウやアイナーの姿を見て、表情を変えた。
     だがふっと笑むと、大きく首を傾ける。
    「連れ戻すって、何処へ? ……悪魔さん達」
     以前の事件で強化一般人を灼滅する彼等の姿が、悪魔のように彼女には映ったという。
     ……でも。
    「わたし達のこと、悪魔だと思っているのかもしれないけど、それでも! キミに伝えたいことがあるんだよ。話を聞いて欲しいんだ」
     花火は懸命に、夢叶へと声を掛けるも。 
    「悪魔の言葉なんて信じられないわ」
     聞く耳を持たない夢叶。どうせ……貴方達も裏切るんでしょ? と。
     そして『アルカディアの祝福』を施した強化一般人に指示する、彼女の動きに注意しながらも。川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)は、窓の前に立ち塞がって。
    「逃がしませんよ?」
     私は……「悪魔」なんでしょうから、と。
     イシュテムもひらりリボンやフリルを靡かせ、夢叶の出方を窺った。
     闇堕ちから彼女を救い出す事が、一番の目標ではあるが。
    (「それが叶わなければ……せめて、灼滅を」)
     神音・葎(月黄泉の姫君・d16902)も、灼滅者として彼女を救うべく、退路を断つよう窓を塞いで。
     そして夢叶は、サウンドシャッターを展開する翼に残りひとつの窓を塞がれた事を確認して、その瞳を細めるも。
    「きっと……これも、『アルカディア』へと辿り着く為の試練なのね」
     そう呟いた、刹那。
     バサリと漆黒の翼を羽ばたかせ、闇色の影を戦場へと堕としたのだった。

    ●Wer ist ein Lügner?
     夢叶が攻撃してくるまでは決して得物を振るわず、説得に集中していた灼滅者達。
     いや、夢叶が戦闘態勢に入った後も、その基本的な姿勢は変わらない。
     滅する為ではない。自らの力で護る事を願い、シールドを広げた葎は。闇を狩るべく、配下達へと動きを封じる結界を展開すれば。
    「凍ってて下さいね!」
     金の懐中時計揺らすイシュテムから放たれた強烈な魔法が、凍てつく衝撃を生み出す。
     まずは、配下強化一般人から狙う灼滅者。
     誰にも邪魔されず、夢叶へと声を届かせる為に。
    「悪魔呼ばわりされても仕方がねぇよな。正体が何であれ君にとって大切な人を目の前で奪っちまったんだから」
     翼はそう彼女に視線を向けた後、続ける。
    「あの時はすまなかった。もう少し沢山の言葉をかけてやりゃよかった。言葉足らずで辛い思いさせちまったな」
     悪魔から救わんとした行動。だが、少しだけ足りないものがあったかもしれない。
     でも……だから今度は必ず助ける、と。
    「前回は殆ど説明せず君の目の前で冴葉を灼滅してしまい済まなかった」
     翼に続き、ムウも謝罪の言葉を重ねて。
    「君を救うつもりでやったことが、結果的に追い詰めて闇堕ちを誘発させてしまったのは僕たちの責任だ。本当にすまなかった」
    「謝ってばかりね、悪魔さん」
     そんな二人の言葉に、くすりと意地悪に笑む夢叶。
     だがアイナーも、彼女から目を逸らさずに。
    (「信じられないだろうしそれで構わない。嘘は、言わない。それが今オレにできる精一杯だから」)
    「君が寄せていた信頼を知りもせず、一方的に告げ、拠り所を奪った事は悪かったと思ってる」
     彼女と向き合うべく、まずそう詫びて。
    (「先生にトドメを刺したのってアイナー君だったんだなぁ……」)
     友人であるアイナーの心情を優先し、説得を彼に任せる智之。
     それからアイナーは、はっきりとこう告げるのだった。
    「……それでも君を死なせたくはない。あのタイミングでなければ君の命を救えなかった。君に試練だと囁いたのは人の魂を乗っ取った闇だ」
     夢叶に、嘘偽りのない気持ちと真実を。
     だが、夢叶は闇に染まりかけた瞳を細め、あっさりとこう返す。
    「赦してあげるわ。だって……貴方達のおかげで、私はアルカディアへの翼を手に入れられたから。先生の犠牲も、その為には必要だったのよ」
     そして悪魔の様に夢叶は笑う――今度は私が先生の代わりに、アルカディアへと人々を導くから、と。
     だが勿論、それを許すわけにはいかない。
     夢叶を、完全な悪魔にするわけにはいかないから。
    「このままだと君は自分が受けたこと以上に酷い事を平気で他人にするようになる。それを防ぐには一度戦って君の闇を祓わなければならない」
     ムウはスレイヤーカードを掲げ、宣言する――「Let's rock!」と。
     夢叶を悪魔の呪縛から解き放つべく力を解放し、配下へと、半獣化させた腕から銀に閃く鋭撃を放って。
    「ずっと心を支えてくれた相手の事を悪く思うなんて、できねぇわな」
     智之は、そう彼女の気持ちも汲み取りながらも。
    「俺らは、……君が苦しいと苦しいし、そして今も君を救いてえから会いに来た。本当の本当に。悪魔じゃなくて、人の心がある仲間だぜ」
     空気を読み、説得する仲間達を守る良い子のレディと共に。攻撃を受けた仲間の傷を癒しながらも。 
    「あの日からずっと、――俺の仲間も……胸が苦しかったんじゃねえかな?」
     智之はそう、彼女に謝る仲間達を、そっと見回した。
     それに彼女を助けたい思いは、他の皆も同じ。
    「友達の事、家族の事、私じゃ分かってあげられないかもしれない。また夢叶さんを傷付けてしまうかもしれない。でも、何時かは分かりたいんです」
     咲夜も、彼女の心に訴えながら。
    「アルカディアなんかに行ったら、そんな時間も、夢叶さん自身すら失ってしまう。自分の全部を殺してまでそんな所に行って、どうしようって言うんですか!」
     静かに氷の魔法の紡ぎ、配下達を纏めて凍てつく世界へと誘う。
     内なる悪魔の力を利用したあの時から……もう、悪魔になる覚悟はできていたから。
    (「悪魔と思われてもいい、本当の悪魔から誰かを救えるなら」)
     誰かを救う為ならば、悪魔と思われることなど厭わない。
     そして花火は戦闘が始まっても得物を取らず、手加減した衝撃のみで配下達を相手取る。
     傷つけるつもりは無いという意志を、夢叶に示す為に。
     そして葎も、夢叶へと己の誠意をみせる。
    「私は楽園は導いたり、導かれたりするものではないと思います。自分で戦って、探しつづける場所だと」
     夢叶が撃った魔法の矢から仲間を庇って。月の光を秘めた祭壇から、配下達へと再び除霊結界を成しながらも紡ぐ。
    「闇に答えを委ねるんじゃなくて、その足で探すしかないんです」
     それは……かつて闇の中にいた葎自身が、武蔵坂にきて知った事。
     そんな葎と連携をはかり、咲夜は最後残った配下へと、再び死の魔法を放って。
     配下全員KOした事を確認した後、夢叶へと、こう訊ねたのだった。
    「夢叶さんは本当にアルカディアになんて行きたかったの?」
    「そんなの……当然でしょう?」
     その問いに、ふと一瞬表情を変えた夢叶。
     咲夜はそんな彼女に、さらに続ける。
    「貴女が求めたのはそんな理想郷じゃなくて、ただ自分のままで居られる場所が欲しかっただけじゃないんですかっ?」
     そしてイシュテムも、夢叶へと言い放つ。
    「『信じていた者に裏切られた』、だから今度は『人から信用してもらいたい』んです? 取り巻きにちやほやされて、気分が良いですか?」
    「違うわ! 私は、過去の私のように、絶望の中で生きている人達を、正しく『アルカディア』へと導く為に……」
    「……甘えるのもいい加減にして下さい、貴方に足りてないのは覚悟ですの。他者を信じる事への!」
    「!」
     そうイシュテムが夢叶へと放ったのは、悪魔へと堕ちたその霊魂を破壊する斬撃。
     そして微かに揺らぐ夢叶へと、花火は懸命に手を伸ばす。
    「キミの探しているアルカディアは、今のキミではきっと見つけられない。だからわたし達も手伝うよ」
    「く、騙されないわ……ッ!」
     夢叶はやはりその手を振り払い、鋭利な影の刃を彼女へと放つも。咄嗟に躍り出て、その攻撃を肩代わりするレディ。
     それから、敢えて前回冴葉を灼滅したサイキックは使わずに。夢叶へと距離を詰めたアイナーは、彼女の目を覚ますべく、今己が名乗る名が刻まれた銃を振るって。
    「魂が闇に近付けば堕ちて戻れなくなる。その闇はオレ達灼滅者にしかはらえない。君が君でなくなる前に、囁きに耳を貸さずもう一度その気持ちを吐き出してくれたなら……闇から抜け、生きていく道がある」
     彼女に、今度はきっちりと事情を訴え、その心にアイナーが説得を続ければ。
     彼と同時に動いた智之が、集めたオーラで死を招く氷を打ち消し、戦線を支える。
    「貴方達に……何が分かるって言うの!?」
     明らかに動揺をみせ始めた夢叶に。己の背に、寄生体で翼を成しながらも。
    「自分の姿見てみろ。お前の言う悪魔ってそんな姿してるんじゃねぇのか」
     翼は、そう言い放つ。
    「……!」
     その言葉に、ピタリと動きを止める夢叶。
     そして――姿見に映る己の姿へと、ふと目を向けた。
     そんな彼女へと、さらに言葉を投げる翼。
    「前にも言ったよな。アルカディアなんてねぇ、その先にあるのは死だ。そのままだとその力に君は潰される。夢叶って存在は消えて君の中の悪魔だけが残るんだ」
    「もう……放っておいてよ!」
     夢叶は悪魔と化した己の姿から目を逸らした後。
     そう叫んだ瞬間、彼の背の翼を喰らわんと、強烈な影の衝撃を繰り出す。
     でも。
    「お前の中の悪魔に打ち勝て、死にたくなかったんだろ、心を許せる人が欲しかったんだろ。そんな願いすらも全部奪われちまうんだぞ、それでいいのかよ!」
     翼は説得を、決して止めない。
    「今何が見えてる? その闇に勝った時が、本当の祝福の時だ」
     例え何度嘆くような事があっても、この残酷な世界で手を伸ばし続ける――それが、翼のタスクであるから。
     『アルカディア』なんて、何処にもない。
    「僕はあんな試練で行ける楽園があるとは思わん」
     ――そんなもん虚構の楽園、地獄だ。
     銀の髪を靡かせ、青き瞳で捉えた夢叶へと、そう言い切ったムウは。
     流星の煌めきを宿した重い衝撃を、夢叶を誑かす目の前の悪魔へ叩き込んで。
    「ただ自分のままで生きていたいと思ってくれてるなら、私達のところに来てください」
    「誰もキミを蔑んだりしない、本当のアルカディアを見せてあげるから」
     咲夜と共に、花火はもう一度、その手を伸ばす。
    「だから、一緒に行こう」
    「もう放っておいてって、言ってるでしょう!」
     完全に心揺らいでいる夢叶が、再び鋭利な影の刃を灼滅者達へと向けるも。
     支えてくれる仲間が沢山いるという事を、夢叶にも伝えたいから。
    「私は……まだ折れていません。諦めたり、しない……!」
     咄嗟に仲間を庇った葎は真っ直ぐ、前だけを向いて戦う。
     月の神使の加護を受けし『Zerachiel』の翼で、深い闇を流星の如く蹴散らして。
    「皆さん、踏ん張って下さいですのー!」
     傷ついた仲間を癒し励ますのは、イシュテムの声と風の祝福。
     そして。
    「耐えなくては得られぬ翼など、紛い物。幸せに試練なんて、必要ないんだ……!」
    「……!」
     夢叶を蝕む漆黒の翼を折るかの如く。
     彼女を思いやる様に放たれたアイナーの一撃が、悪魔を打ち倒したのだった。

    ●Es fliegt weg von Dunkelheit
    「ん……」
    「大丈夫です?」
     イシュテムは、そう意識を取り戻した夢叶を覗き込んで。
     こくりと頷いた彼女に差し出されたのは、掌。
    「今からキミも友達だよ」
    「本当に、私の友達に……? 以前は、先生しか信頼できる人、いなかったから」
     友達という存在に照れながらも、そっと夢叶は花火の手を取って。
    「前回は、本当にすまなかった」
     改めて謝罪し、お疲れ様、と声を掛けるムウ。
     そんな彼に、夢叶は大きく首を振って。
    「死のうとした私の命を助けてくれて、悪魔になろうとした私を救ってくれて……私の方が、皆さんにお礼を言わないと」
     どうもありがとう、と――そう微笑む。
     そんな彼女の笑顔を見て、アイナーへと悪戯に笑い掛ける智之。
    「良かったな、あいにゃ君」
    「有難うございます、あいにゃさん」
     そう勘違いして言った夢叶に思わず苦笑するも。
     アイナーは安堵の微笑みを宿し、良かった、と瞳を細めて。
    「ようこそ本当の世界へ」
     楽園どころか地獄みてぇなもんだけどさ、と続けた翼に。
    「そうですね。地獄みたいかもしれないけど」
     夢叶はそう、こくりと頷くが。
     でも……翼さんに前に言われた通り、今度はちゃんと相談しますから、と笑んで。
    「これからは私達と一緒に、楽園を探しましょう」
    「翼でより、箒で飛ぶ空の方が気持ちいいですよ」
     葎と咲夜の言葉に嬉しそうに頷き、そして夢叶は続ける。
    「皆さんのおかげで、私は救われました」
     だから今度は――皆さんと一緒に生きていきたいです、と。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 3/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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