怪奇セミ男っ!

    ●埼玉県某所
     毎年のようにセミが大量発生する場所があった。
     その場所はセミにとって、物凄く住みやすい環境であったため、朝から晩までミンミン、シュワシュワ。
     最初は近隣の住民達も『セミの命は短いんだし、大目に見てやるか』と言う気持ちになっていたが、その数が増えていくにつれて『あー、ウルセェ!、ウルセェ! つーか、夜に鳴くって何だよ。ありえねーだろうが! 時間を考えやがれ』とブチ切れるほどにまで増えてしまったようである。
     そのため、いつの頃からか『ここにはセミの王がおり、大量のセミを放って、近隣の住民達を睡眠不足にさせている』という都市伝説が生まれ、広まっていったらしい。

    「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が、来たようだな!」
     無駄に恰好よくポーズを決め、神崎・ヤマトがニコリと笑う。
     だが、参加者達は軽くスルー。
     いつもの事なので、相手にしないようである。
     今回の依頼は、巨大なセミの姿をした都市伝説を倒す事だ。
     コイツはセミと言うよりも人間に姿が近く、大音量の目覚まし時計の如く、激しい鳴き声を響かせ、相手の鼓膜を破ってしまうらしい。
     おそらく、お前達が行く頃には、近所のオッサン辺りが『うるせぇ! 一体、今何時だと思っていやがるんだ!』とブチ切れ、都市伝説に喧嘩を売りに行っている事だろう。
     もちろん、勝ち目はない。
     100%……いや、それ以上に。
     まずは、このオッサンの避難を最優先にしてくれ。
     ただし、このオッサン。大して強くない割に、喧嘩っ早い性格をしているから、放っておくとまた戻ってくる可能性が高い。
     何とかうまく説得して、安全な場所まで避難させてくれ。
     それと、都市伝説の方だがこっちは身の危険を感じると、超音波を飛ばして攻撃を仕掛けて来るから、くれぐれも注意してほしい。
     それじゃ、よろしくな!


    参加者
    アイシア・クロウリー(封印鍵の契約者・d00282)
    紫月・灯夜(煉獄の処刑人・d00666)
    若生・めぐみ(癒し系っぽい神薙使い・d01426)
    日向・和志(中学生ファイアブラッド・d01496)
    狗洞・転寝(風雷鬼・d04005)
    六連・光(高校生鬼軍曹・d04322)
    黒咲・瑞穂(黒猟犬・d05998)
    天霧・らんぷ(追憶の影・d06257)

    ■リプレイ

    ●セミの鳴き声
    「う、うぁ……。夏が過ぎてるのに、何かほんと蝉って、元気だよ。この声を聞いてると……、熱くなっちゃうんだよねー」
     白黒ボーダーのロングTシャツと、ショートパンツといったラフな格好で、天霧・らんぷ(追憶の影・d06257)が都市伝説の確認された場所に向かう。
     都市伝説が確認されたのは、閑静な住宅街の一角にある公園。
     この場所は普段、子供達の遊び場になっているのだが、夜はどこからか集まってきたセミ達が大合唱をしていたせいで、かなりの問題になっていたようである。
     だが、それ以上に暑い。
     ジッとしているだけでも、服がビッショリ。
     そのせいか、らんぷが周囲の目を気にせず胸元を少し広げ、手をパタパタさせて大きな胸に風を送っている。
     それを見ていた男性陣が妙な気分になっているが、あえてその事は口にしない。
     せっかくチャンスタイム。
     ここで野暮な事を言って、台無しにはしたくないようである。
    「……まったく。夜中の騒音は大迷惑だな。ただでさえ寝苦しいってのに……」
     視線のやり場に困りながら、紫月・灯夜(煉獄の処刑人・d00666)が愚痴をこぼす。
     実際に、この辺りは暑い。
     あちこちにあるクーラーの室外機から流れる熱風。
     それがジェットストリームアタック的な何かになっているのか、無駄に暑くてイライラした。
    「セミって鳴き声は夏の風物詩だけど、私はあの見た目がダメなんだよね~。それが人間みたいな大きさがあるなんて、絶対に嫌だ~!」
     青ざめた表情を浮かべながら、アイシア・クロウリー(封印鍵の契約者・d00282)が全身に鳥肌を立たせる。
     想像するだけでも、おぞましい。
     しかも、リアルタッチのセミなどアップで見たくない。
     そんなものを見た日には、間違いなくトラウマものである。
    「蝉の声、夏の風物詩ですけど、夜まで鳴かれると確かに迷惑ですね。……あっ。こんばんは、おじさん達も文句を言いに行くんですか?」
     妙に殺気立ったオヤジ連中に気づき、若生・めぐみ(癒し系っぽい神薙使い・d01426)が声を掛けた。
    「君達には聞こえんのか!? この頭の芯に響く耳障りな音が! あー、イライラする。ぶっ殺してやる!」
     金属バットを振り回し、ハゲたオヤジが殺気立つ。
     普段は奥さんの尻に敷かれ、娘からは『加齢臭がウツるから近寄るな!』と罵られ、近隣の住民からは『あの人、ベランダにいつもいるのよね。寂しそうに煙草を吸って……。ひょっとして、家庭内離婚』などと陰口を叩かれ、ストレスは爆発寸前。
     脳裏に自分を罵った家族や、近隣住民……主に噂好きの奥様集団達の顔を思い浮かべ、バットを振り回す両腕にも力が入る……入りまくる!
    「でも、ただ言いに行っても聞きそうにないですから、そこのベンチで対策を考えませんか?」
     苦笑いを浮かべながら、めぐみが近くのベンチを指差した。
     しかし、ハゲたオヤジは首を振り、色々な意味でヤル気満々。
     ドサクサに紛れて普段の鬱憤を晴らすつもりなのか、他のオヤジ達を嗾けていた。
    「命知らずと言うか……何というか……」
     半ば呆れた様子で、六連・光(高校生鬼軍曹・d04322)がオヤジ達に視線を送る。
     おそらく、自分達だけで何とかなる相手だと、勝手に思い込んでいるのだろう。
     自分達が負ける……傷つく事など考えず、相手を叩きのめす事しか頭にない。
    「わ、悪ぃ。俺のツレが迷惑かけちまったみたいで。こっちで話をつけて、すぐに止めさせるから……って、何かマズイ空気か、コレは……」
     騒音を立てている者の関係者として顔を出し、日向・和志(中学生ファイアブラッド・d01496)がダラダラと汗を流す。
     ……何か嫌な予感がする。
     何故、フルスイング。
     何故、取り囲む!
    「みんな、怒りのぶつけどころ……、八つ当たりの相手を探していたようですよ」
     乾いた笑いを響かせながら、黒咲・瑞穂(黒猟犬・d05998)が和志に耳打ちした。
     つまり八つ当たりさえ出来れば……、ストレスさえ解消できれば、誰でも良かったのである。
     それを奪うような真似をすれば、どんな結果になるのか、容易に想像がついた。
    「物凄くマズイ状況になっているけど、早めに何とかしないとマズそうだね。都市伝説も現れちゃったようだしさ」
     騒ぎを聞きつけて現れた都市伝説に気づき、狗洞・転寝(風雷鬼・d04005)がサッと身構える。
     しかし、オヤジ達は頭に血が上っているせいか、『何、妙な着ぐるみを着ていやがるんだ、こん畜生! 死にてえのか!』と叫び、今にも殴り掛かってきそうな勢いであった。

    ●ハゲたオヤジ
    「すいません、あいつ特撮が好きで、妙なスーツまで自作しちゃったらしく……。それに、あいつ。付き合い長い奴じゃないと話聞かなくて……。俺、止めてきますんで、そっちで待っててもらって良いですかね?」
     頭に血が上ったオヤジ達をなだめつつ、和志が傍にあったベンチまで誘導しようとする。
    「いや、直接言ってやらなきゃ、俺達の気が済まねえ! 万が一、伝わらなかったとしたら、その体に教えてやればいいんだしな」
     都市伝説に視線を冷たい視線を送り、ハゲたオヤジがチンピラチックな笑みを浮かべた。
     まるで、かつての自分を取り戻すように……。
     牙の抜けた室内犬ではなく、昭和を駆け抜けた一匹の狼として、都市伝説を殺るつもりのようである。
     それがどれだけ愚かで、馬鹿げた事であっても、オヤジの耳には……、心には届かない!
    「私達が文句を言ってくるから、今日は私達に任せてください」
     オヤジ達の行く手を阻み、アイシアが再び説得を試みた。
     しかし、オヤジ達はまったく説得に応じない。
     かつての心を、思い出補正された最強最悪だった頃の自分達が目覚めてしまった以上、ここで引き下がる訳にはいかなかった。
    「……何だか面倒な事になったな。まあ、そこまで頑なに自分の考えを通すっていうのなら、現実を見せてやるだけだが……」
     仲間達と連携を取りながら、灯夜が都市伝説めがけて、マジックミサイルを撃ち込んだ。
     次の瞬間、都市伝説が勢いよく飛び上がり、超音波を発して反撃を仕掛けてきた。
    「あ、頭がァー!」
    「髪がァー!」
     それはオヤジ達の戦意を喪失させるには、十分な攻撃。
     恐怖で抜け落ちた髪の毛が、彼の身に降りかかった恐怖の大きさを示している。
    「これで大人しくなりそうですね」
     どこかホッとした様子で、めぐみが魂鎮めの風を使う。
     その途端、オヤジ達が崩れ落ちるようにして、深い深い眠りについた。
    「覚悟してね、セミくん。クロ、落ち着いていこうね? さあ、行こうか」
     霊犬クロの頭を軽く撫でた後、転寝が都市伝説と対峙する。
     それと同時に、小さな風が巻き起こり、髪や服がたなびいた。
    「汝殺めよ……、さらば開かれん」
     すぐさま光が、かつて刻まれた忌み言葉を口にして、スレイヤーカードを解除する。
     都市伝説もそれに気づいて超音波を飛ばし、光達の戦意を喪失させようとした。
    「レッツ!! キリングタイム!!」
     同じようにスレイヤーカードを解放し、らんぷが呼び出した暗視ゴーグルを着けて予言者の瞳で超集中をする。
     次の瞬間、都市伝説が獣のような唸り声を響かせて、らんぷ達に襲い掛かってきた。

    ●蝉男
    「もちろん、覚悟は出来ていますよね……?」
     少しずつ間合いを取りながら、光がブラックフォームを使う。
     都市伝説は荒々しく息を吐き捨て、徐々に距離を縮めていく。
     その狙いは、光達ではなく、眠っているオヤジ達!
    「……ったく、ガラじゃねぇんだけどな!」
     面倒臭そうに舌打ちしながら、瑞穂が都市伝説の行く手を阻む。
     それと同時に都市伝説が衝撃波を飛ばしてきたが、その場から動けばオヤジ達が傷ついてしまう。
     その事が分かっているため、歯を食いしばってグッと堪えた。
    「あなたの相手はこっちよ!」
     都市伝説の死角に回り込み、アイシアが再びマジックミサイルを撃ち込んだ。
     その一撃を喰らった都市伝説が完全に頭に血が上った様子で、アイシア達に攻撃を仕掛けていく。
    「まるでイノシシだね。それじゃ、ボクらに勝てないよ」
     深紅のバスターライフルを膝射体勢で構え、らんぷがバスタービームで都市伝説の左腕を打ち抜いた。
     その途端、都市伝説の左腕が宙を舞い、激しい悲鳴が辺りに響く。
    「セミの命は儚く脆いって言うけど、そろそろ終わりが近づいているようだな」
     都市伝説を挑発しながら、灯夜がオヤジ達から遠ざかる。
     それにまったく気づく事無く、都市伝説が突っ込んできた。
     ……殆ど捨て身。
     すべての力を、この一撃に注ぎ込み……!
    「……燃え尽きろ!」
     そのまま都市伝説を迎えうち、和志がガトリングガンを乱射した。
     次の瞬間、都市伝説の体が一瞬にして蜂の巣になり、断末魔を響かせて跡形もなく消滅した。
    「ダークネスとの戦いは前奏曲が始まったばかりだけど……、力を合わせればきっと勝てるって確信したよ。皆、ありがとうね」
     仲間達に対してお礼を言った後、転寝がクロを連れて夜の散歩にむかう。
     夏も、もうすぐ終わり。
     次にセミの鳴き声を聞くのは、来年の夏……。
    「それでは、おじさん達が起きて面倒な事になる前に帰りましょう」
     都市伝説が消滅した事を確認した後、めぐみが苦笑いを浮かべてオヤジ達に毛布を掛けていく。
     最初は起こすつもりでいたのだが、あまりにも幸せそうな表情を見ているうちに、それが野暮に思えてきた。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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