絆の迷宮に潜む殺意

    作者:波多野志郎

     カツン、と廃墟に足音が響き渡った。
    「ひッ!?」
    「くそ、こっちだ!」
     その足音に息を飲んだ女に、男は手を引いて走り出す。恋人同士の男女は、突然放りこまれたこの状況で、ただただ逃げ惑うしかなかった。
    「おー、そっちか?」
     その声に、女の足がもつれる。男は、必死に女の小さな肩を抱き留めた。まるで、その情景を目にしているように、声の主は笑い声を上げる。
    「おい、ボーナスステージだ。その足手纏いの女をお前の手で殺したら、逃がしてやってもいい。どうだ?」
     その悪魔の誘惑のような言葉に、女の体がビクリと震えた。怯えた女の視線、それを男は苦しげに受け止め――その手を強く握り締め、再び駆け出した。
    「ふぅん、乗って来ないか」
     ――カツン、と声の主が、足を止める。一八十を超える長身、白い髪に酸化しかけの濁った血のような赤い瞳。シャツやズボン、無骨なショートブーツ、フード付きロングコートに至るまで黒一色。その身にじゃらじゃらとシルバーアクセサリーをつけた粗暴な空気をまとった男だ。
    「それが、絆だとでも――」
     男の言葉が、途中で止まる。ジャラン、とシルバーアクセを鳴らした震える右手に、ニィと口の端を笑みに歪めて吐き捨てた。
    「甘ぇよ。そう簡単に何度も戻れると思ってんのか?」
     そこにあるのは、嘲笑ではない。ただただ、現実を語っているだけ――ただし、楽しげに、だが。
    「アンタは俺の中で大人しくしとけよ。 んで、俺が人を殺す度に苦しめばいい。永遠にな」
     そう男――ナナシと名乗る六六六人衆は、自らが絆をはかるために定めた迷宮を、再び歩き始めた……。

    「笠井さんが見つかったっすよ」
     湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)のその言葉に、灼滅者達に少なくない動揺が走った。隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)が視線でうなずくと、翠織は語り始めた。
    「今の笠井さんは、ナナシと名乗ってとある廃墟を拠点にしてるっす」
     その廃墟は、山奥に建てられ来客の少なさで潰れてしまったショッピングセンターの建物だ。中はすっかりと荒れ果ててしまい、地下一階を含む六階建てのそれは光源がなければ迷路に等しい。
    「そこに恋人とか兄弟、夫婦、親子とかの関係がある一般人を何組か攫って閉じ込めて鬼ごっこと称して殺しを楽しむつもりっす」
     ルールは簡単、ナナシ自身が鬼となり捕まったら殺される。ゲームをせず歯向う、勝手に降参、仲違いしたら失格で殺される――加えて、ナナシは人の絆を試すような揺さぶりを繰り返す。それで、唆された者は殺し 決して唆されない意思を示した者は外に出し殺さない……そんなルールを自分に課していた。
    「だからこそ、不幸中の幸い、まだナナシは手を汚さずにすんでるっす。どうして、そんな事をしてるのかは、不明っすけど……」
     だからこそ、今、救いに行けば犠牲者は出さずにすむが……それも、時間の問題となりだろう。
    「敵はナナシ一人のみっす。二度目の闇堕ちで、灼滅者が来るのは予想してるっすから、一筋縄ではいかないっす」
     妖の槍と鎖の形をした影業を使う強敵だ、油断をすればこちらが返り討ちにあうだろう。戦場となる廃墟には、四組の人間が捕まっている。サポートの一部と桃香は、その人達を助ける事に専念する事となる。
     中は、昼間であっても日が入らないように真っ暗になっている。なので、光源が必要だ。加えて、不意を打つと向こうのバベルの鎖に察知される――真正面から挑む事になる。
    「笠井さん自身は、今も心の中でナナシに抗ってるっす。その心に届く説得が出来るのなら、十分に救う余地はあるっす」
     しかし、相手はダークネスであり強敵だ。迷えばそれが隙になる――だからこそ、もしもの時は迷わずにいられるよう、覚悟だけはしておいて欲しい。
    「これで救えなければ、完全に闇堕ちして、おそらくもう救えなくなるっす。最後のチャンスっす、どうか、仲間を助けてあげて欲しいっす」
     翠織は、真剣な表情でそう締めくくる。二度目のない、仲間を救うための戦いが始まろうとしていた……。


    参加者
    泉二・虚(月待燈・d00052)
    伊丹・弥生(ワイルドカード・d00710)
    早鞍・清純(全力少年・d01135)
    洲宮・静流(蛟竜雲雨・d03096)
    八重垣・倭(蒼炎纏フ撲天鵰・d11721)
    翠明寺・アレス(ルヴァンヴェール・d15175)
    東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)
    レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)

    ■リプレイ


     山奥に位置するショッピングセンターは、不気味な静寂に満ちていた。何の意図か、窓ガラスのほとんどを板で覆ったために荒れ果てた廃墟となっかそこは暗い闇に包まれている。
    「翠織の予知した地点が……ここだな」
    「うん、こっちの貼られたフロアマップも記録したよ?」
     複数枚の地図にチェックを入れる泉二・虚(月待燈・d00052)に、建物備え付けのフロアマップをスマホで撮影した東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)が振り返った。そこには、翠織から借り受けたスマホの操作に四苦八苦する隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)の姿がある。
    「え、えっと……」
    「こっちよ?」
    「あ、ありがとうございます」
     暦に操作を教わり、桃香はぺこりと頭を下げる。それぞれが確認を終えた、それを見た翠明寺・アレス(ルヴァンヴェール・d15175)が口を開いた。
    「行くぞ? いつものようにバカやって過ごす。そんな日を取り戻すんだ」
     アレスの言葉に、取りもどすために集まった者達がうなずく――ここに、負けられない戦いの幕が上がった。

    「じゃ、そっちもよろしくな!」
    「ああ、任された」
     手を振るレイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)に、純也も静かに応じる。ウツロギや流希の後姿を洲宮・静流(蛟竜雲雨・d03096)は大人びた藍色の瞳で見送り、歩き出した。
     
     ショッピングセンターの中は、構造そのものは単純だ――しかし、それはあくまで『視界が良好であったならば』だ。暗闇に包まれたそこは、途端に迷路へと変貌する。特に店舗のディスプイレイの一部が残っているのならば、無数の袋小路が出来てしまうのだ。
    (「ナナシを俺達が抑える必要がある、か」)
     静流は、殺界形成を使用する。しかし、この状況ではあくまで『こちらに近づけさせない』のがせいぜいだ。少しでも早く、この廃墟の迷宮を造り出したナナシを抑えなければ意味がない。
    「おい、向こうから連絡だ。笠井が見つかった」
     ハンドファンで常に連絡を取り合っていたアレスの声に、仲間達の間に緊張が走った。

    「ああ、五階だ。五階の北側になる、急いでくれ」
     八重垣・倭(蒼炎纏フ撲天鵰・d11721)の声には、逼迫した色があった。カツーン、という足音が響く――その先には、年老いた老人と幼い少年の姿があった。
    「ええ、そうでしょうよ!」
     迷わず助けに駆け出したレイッツァに、伊丹・弥生(ワイルドカード・d00710)も駆け出す。止められるはずがない、想いは同じだったからだ。
    「――やっぱり、来やがったか」
    「先輩、堕ちるのは「また」なんだって? もう、皆が心配するって前回で身に染みなかったの!?」
     老人と少年を背に立ちはだかったレイッツァに、忌々しげにその男は吐き捨てた。一八十を超える長身、白い髪に酸化しかけの濁った血のような赤い瞳。シャツやズボン、無骨なショートブーツ、フード付きロングコートに至るまで黒一色。その身にじゃらじゃらとシルバーアクセサリーをつけた粗暴な空気をまとったダークネス、ナナシはダン! と強く一歩を踏みしめた。
    「……今のうちに、下へ。まっすぐに、階段を降りて」
    「桃香、北側階段から一組降りる、回収してくれ」
     弥生が老人と少年の背を押し、倭がレイッツァの前に立つ。ナナシが、その殺意を濃密なものに変えた時、廊下の奥から駆け込んで来る足音があった。早鞍・清純(全力少年・d01135)だ。
    「また会ったなこのすね毛!」
    「……アンタ、前は呼び方違ったろ? 何て呼ばれたか、憶えてねぇけど」
    「ナナシとかイケメンぽい名前でなど呼ばん! お前なんかすね毛で十分だ!! つるぺた大好きッコ、代表的紳士――ロリコンの匡先輩を返しやがれッ」
     清純の心の底からの叫びに、ナナシは一瞬だけ殺気を霧散。自分の胸へ、しみじみと語りかけた。
    「……やっぱり、アンタ戻らねぇ方がいいんじゃねぇか?」
    「やあ、ナナシまた会ったな」
     被せるように、静流が言葉を重ねる。
    「覚えてるかどうかはどうでもいいんだ、どうせお前はすぐに引っ込むことになるからな。前も言ったが、お前になんか用は無い。笠井先輩を迎えに来ただけだからな」
    「師匠っ! 弟子八千華、援護しますっ!」
     牽制に放った八千華のオーラキャノンの一撃を、ナナシは裏拳で叩き落した。その影の鎖を巻き付けた拳を握り締め、忌々しげにナナシは吐き捨てる。
    「ふん、勝手なもんだ。わかってんだろ? 俺が出てくるって事は、コイツが堕ちたって事だ。何度も、戻れると思ってんじゃねぇよ、半端者どもが」
     再び、ナナシの殺気が増していく。自分を囲んだ灼滅者達――明確な邪魔者を殺す事に、躊躇はなかった。
    「天コウ三十六星が一つ、天富星」
    「――くたばれ」
     倭が解除コードを唱えた直後、ナナシを中心に巻き起こった炎の奔流が闇を焼き払った。


     ドォ! と瀑布となってバニシングフレアの中を、弥生が駆け抜けた。
    「さぁバカばっかりやってないでさっさと帰るぞ、クラブには帰りを待っている仲間がたくさんいるんだからな! それともなにか? 私のへそはもう見飽きたっていうのか? 彼女のためにもナナシに打ち克って早くもとに戻ってくれよ!」
    「本当に、アンタ普段から何やってんだ!?」
     フッと眼前から姿を消した――視界の死角へと跳んだ弥生に、ナナシは右手を振り上げる。直後、無音で立ち昇った影の鎖が、弥生の断罪輪を受け止めた。その間隙に、懐へと潜り込んだ静流が白光に輝く震電を手に振り払う!
     それを、ナナシはジャラン! とシルバーアクセサリーを鳴らして引き戻した槍で受け止めた。
    「お前は絆を信じないと見せかけて羨んでいる様に見えるな」
    「――――」
    「だが、お前はどうでもいいんだ、俺達は笠井先輩を迎えに来ただけだからな。そんな奴押しのけて、俺たちと一緒に帰ろう?」
     わずらわしい、そう言いたげにナナシは静流を振り払う。そこへ、虚がかかげた右手をグっと握り締めた。直後、闇よりもなお暗い殺気が渦巻き、ナナシを飲み込んだ。
    「ここまでよく耐えたな。ここまで誰も死傷者が出なかったことはお前の抗いの成果、もう暫し抗い続けよ。そしてナナシよ、力ずくで悪いが退いてもらうぞ? 私たちが此処に来たのは笠井に力を貸す為なのだから」
    「ほざきやがれ!」
     吼えたナナシの心を示すように影の鎖が躍り、内側から虚の鏖殺領域を食い破る。清純はそこへ迷わず飛び込み、右拳と共に無数の影の刃を放った。
    「絆を試すとか一般人の皆さまにえぐいコトしないで、俺たちにぶつかってきて下さい。何度でも受け止めるかんな! 俺達の友情なめんな!」
     ギギギギギギギギギギギギギン! と影の刃と鎖が激しい火花を散らす。そこへ、アレスが加わった。強引に異形の怪腕と化した右腕を振り回し、アレスはナナシを殴り飛ばす!
     だが、軽い。両腕をクロスさせたナナシは後方へ跳躍、自ら跳んだのだ。ズシャ、と着地するナナシへ、アレスは言い捨てる。
    「……フィラルジアで堕ちれば割と救出する時にカオスになるのは、前回で実感しただろうに。それでも、やらなきゃいけない時があるのは分かるが。奴ら、どうしてやろうか、とか凄く張り切ってたぞ?」
    「面倒な連中だ」
     アレスの内部告発に、ナナシは言い捨てる。そこへ清めの風を吹かせたレイッツァが声を張り上げる。
    「先輩! ねぇ、聞こえてるでしょ?皆の声!」
    「随分雰囲気ワイルドじゃないですか、似合わないですよ先輩っ!」
     ブラックフォームによって胸の前に自らの象徴となるスートを浮かべ、八千華が言う。それに、苛立ったようにナナシは床を蹴った。
    「俺は、ナナシだ――!!」
    「ナナシ……貴様に見せてやるよ……此処に集った仲間と匡との絆って奴をな!」
     それを迎え撃ったのは、倭だ。青い炎のごとき紋様の浮かぶシールドに包まれた左拳をナナシの胸部へと叩き込んだ。ナナシはそれを影の鎖によって受け止め――。
    「!?」
     眼前で消えた、そう錯覚する緩急のついた歩法で、ナナシは倭の胸板を切り上げた槍の切っ先で大きく切り裂いた。
    (「流石に……重いな……あと何度、止められるか……暫く支援ばかりだったからなぁ……これが終わったら修練し直すか……」)
     守りに身を置いたからとは言え、早々受け切れる攻撃ではない。ただ重いのではない、相手を殺傷するための角度や速度、間合い、呼吸、そのどれもが『殺す』ためだけに積み重ねられた技術だった。六六六人衆――その名は、決して伊達ではない。
     それを見ても、退く者はもちろん怯む者はいない。それに苛立ったナナシは、荒々しく吼えた。
    「だったら、その絆を殺してやるッ!!」


     暗闇の廃墟に、剣戟が鳴り響く。
    『こちら、四組、確保出来ました~。とにかく安全な場所に誘導しますね~』
    「ああ、了解した」
     桃香の電話にそう返した倭は、呼吸を整えた。懸念事項が一つ減った、だからこそ後は、この場で全力を尽くすのみだ。
    「おい、ロリコン! ンなとこで何してやがる? さっさとナナシの中から出てきやがれ。じゃねえと、フルコースでぶん殴るぞ?」
    「笠井センパイはマジのロリコンで、手を出したら捕まる彼女もいる立派なリア充で、だけど彼女の手を握っただけで手が洗えなくなる紳士なんだよ! そんなセンパイをほっとけるわけないだろ!」
     シュヴァルツの鋭いエアシューズの蹴りを足の裏で受け止め、ナナシは後方へ宙返り。その着地点へ、恭太朗がオーラを包んだ拳の連打を叩き込んだ。
    「SKKが1人、恭太朗、再び参上! ほら匡! ドラマチックな劇は終わりだ。俺たちはドラマよりもリアルな貧乳とか巨乳とかパンチラとかラッキースケベをまだまだ探しに行くんだよ。帰ってこねーと秋夜と2人で美少女淫魔召還の儀式の続きやっちゃうぞ。うらやましいだろ!」
    「匡っ!!一緒にクリスマスの時騒いだ仲だろう! 幼女……いや、淫魔アイドルの実現に向けてリビドーを滾らせた仲だろう!! ほら、学園祭の時には葉っぱ1枚で出るって言ったじゃん! 葉っぱ水着の為に連れて帰るっ!! このまま堕ちたらお前さんの大好きなロリ幼女の特集本破り捨てちゃうぞぉお!!」
     叫ぶ秋夜に、優輝もしみじみと言った。
    「笠井、ロリコンで生き生きするあの頃を思い出せよ。クラブの恒例テスト点数報告で「専門分野に行った大学生の底力!!」とテストの点数を言って、俺が「専門分野……幼女?」って言ったら「何言ってるんだい星野くん。幼女問題なら100点満点に決まってるじゃないか! 」ってツッコミ返したろ! 純潔のフィラルジアのロリコン筆頭、SKKの一人が欠けてどうすんだよ。早く、戻ってこいよ!!」
    「アンタ等、実は止め刺しに来ただろう!?」
     思わずツッコミを入れたナナシの頭上に、二つの人影が跳ぶ。想希と悟だ。
    「そうやって絆を切ろうとするのは、匡さんが信じるものを断ち切るためでしょうか? ……分かってるんですよね、それだけ、絆というものが強いってこと」
    「何よりも強い力、熱い愛の波動、とくと味わえや! 中で戦ってる先輩の心にとどけ! 迎えのノックの音や!」
     連打、そこから手をつないだ二人によるドロップキックがナナシを襲う。ナナシはギリギリでそれをガードしたが、そのまま壁へと吹き飛ばされた。
    「手は絶対はなさへん! 想希が好きやから! 絆の証、絶対散らすもんか!」
    「申し訳ないが引っ込みたまえナナシ君! 二度あることは三度ある、何度やらうが笠井は救われよう! 少なくとも私はやらせん! やらせん!」
     有無の鋼糸が、ナナシを絡め取る。それに、ナナシは全身から炎を吹き出させ振り払った。
    「うるせぇ! この体は、もう俺のものだ! 返すもんか!!」
    「私達の絆はそんな軟じゃない、何度でも何度だって助ける、友達だもん」
    「ああ、二度目だろうが、何度目だろうが連れ戻す。俺達は何度だって匡を助けに行く、それがダチってもんだろ」
     有栖の、信彦の言葉に、ナナシが激しく吐き捨てる。
    「そこに、俺はいねぇだろうが!!」
    「――なんだよー、結局そういう事じゃんか」
     ナナシが、視線を落とす。そこにいたのは、苦笑したレイッツァだ。
    「でも、ごめんな? ここが絆の迷宮って言うなら、先輩と僕達との絆はちゃんとここにあるんだよ。だから、先輩が戻ってこない場合なんか、この場の誰も想定してないから――!」
     トン、と自分の胸に拳で当てて、レイッツァはその拳を巨大な鬼のものに変えて、ナナシの体を宙に浮かび上がらせた。
    「誰かが誰かを思うこと、その積み重ねが絆です! ナナシだって笠井先輩のことを思ってる……それも絆なんですよ? でも、今回は私たちの強い思いが勝ちますけどね!」
    「ああ、ぶん殴って連れ帰る!」
     八千華と弥生の師弟コンビが、ナナシへと跳躍する。八千華のウロボロスブレイドがジャラララララララララララララッ!! とナナシの両腕と胴体を巻き取った瞬間、弥生の燃え盛る右回し蹴りがナナシを切り裂き燃え上がらせた。しかし、ナナシは強引に空中で体勢を立て直し、天井を足場に加速――。
    「させるか!!」
     そこへ、倭のスターゲイザーによる蹴り上げが重ねられた。ミシリ、と重圧で天井に押し止められたナナシへ、清純が飛び込む。
    「匡先輩みんなで水着女子ガン見するって約束したじゃないですか! 水コンには参加しないならこの葉っぱ(大)つけて水着気分を味わうって言ったじゃないですか!」
    「それは嘘だ!?」
     ドゥ! と回転する杭がナナシの右肩を打ち抜いた。清純の尖烈のドグマスパイクを受けたナナシが、床を転がる。すぐさま起き上がったナナシに、静流の月虹玲杖が合わせられた。
    「ほら、色んな声が聞こえるだろう?皆笠井先輩を呼ぶ声だ。ナナシなんか知らん、この声は笠井先輩だけのものだよ、だから一生引っ込んで置け」
     ドン! と静流のフォースブレイクの衝撃が、ガードしたナナシの両腕を大きく弾く。その間防御へ、アレスが踏み込んだ。
    「笠井、お前を待っている奴らがいることを、忘れないでくれ」
     アレスの呟きに、ナナシの動きが鈍る。匡自身の中で戦っているのだ、アレスは確信して言った。
    「ほら、早く自分を取り戻さないとロリが逃げるぞ」
     完全に動きが止まったナナシへ、アレスの閃光百裂拳が炸裂する。一打、二打、三打――瞬き散っていくオーラの火花が、そこに咲いた。
     そこへ、緋色のオーラで刀をまとわせた虚がナナシの胴を薙ぎ払う。それが、終わりとなった。膝から崩れ落ちるナナシの瞳を真っ直ぐに見て、虚は静かに告げた。
    「ナナシよ、お前を灼滅はせぬ。お前を律するのはあくまで笠井だ。そして私たちが笠井と共にある限り、残念だが好き勝手には出来そうにないな」
     ナナシは、答えない。ただ、無言で崩れ落ち、一人の灼滅者がここに帰還した……。


    「おかえり。はい、おはようさん!」
     元井の頭高3年6組の流儀で、倭が匡の口へ水饅頭を叩き込んだ。そして、ガチョウ部長ぬいぐるみを沢山ぶつけたあと、レイッツァが涙目で言った。
    「うわぁあんおかえりー!」
    「オカエリー」
     もみくちゃにされる匡に、弥生は声を張り上げる。
    「馬鹿野郎ー帰ったらとりあえず反省会な! いろいろと覚悟しておくんだ、別に心配してねーし泣いてねーカラナ!」
    「SKK残りメンバーが待ってるぞ、ハグされに行って来い」
     涙目の弥生と、静流も苦笑交じりにそう匡の背を押した。『お帰り』と書かれた葉っぱ(大)を清純が貼ってあるとも気付けぬままに、匡はカオスの渦へと叩き込まれた。
     そこには、ただ喜びだけがあった。こうして、学園の仲間がまた一人、帰って来たのだった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 11/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
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