彼にとってのしだみもち

    作者:聖山葵

    「んだとぉ?!」
    「ちょっ、熱くなるなよ。マイク、置けって……ったく」
     いきり立った少年を宥めると、その少女は少年が睨み付けている仲間へ非難の視線を向けた。
    「それは言わない話だったろーに」
    「けどよ、今の俺ら良いところまでいってるんだぜ?」
     ド派手な衣装に身を包んだ少年は決まり悪げに視線をそらすと、尚も言葉を続ける。
    「こいつの歌だってあの『しだみもち』アピールがなきゃもっと人気」
     だが、それが拙かった。
    「あのしだみもちってなによぉ?! っざっけんじゃないわよ!」
     マイクを手放した先程の少年がくねくねしつつも噛み付いたのだ。
    「ざけてんのはてめぇだ! そもそもしだみもちって何だよ! 合うわきゃねーだろ、この曲調にあんなモン!」
    「っ、むきぃぃぃ!」
     売り言葉に買い言葉、もはや先程の少女が止める間もない。
    「なっ」
     と言うか止めるどころか絶句して固まっていた。
    「許さないっ、ゆるさないもっちぃぃぃ!」
     片方の少年がいきり立ちながら異形に変貌し、もう一方の少年に飛びかかっていったのだから。
     
    「ご当地怪人、なりかけ、見つけた」
    「今回はしだみもちと言うことらしいな」
     集まった面々の前で一句一句切りつつ明かした十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)の言葉を補足した座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は、一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が起ころうとしていると告げた。
    「ことの起こりはとあるアマチュアバンドメンバー同士の、意見の相違なのだがね」
     ヒートアップした弾みで愛するしだみもちを馬鹿にされ、ご当地怪人しだみモッチアに変貌した少年が同じバンドメンバーに襲いかかろうとするのだとか。
    「ただ、彼は変貌しても尚、人の心を残している」
     つまりダークネスの力をもっちぃながらもダークネスになりきらずに留まるのだ。
    「故にお願いしたい。灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちからの救出を」
     また、完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅を。
    「問題の少年の名は群鳥・学(むらどり・まなぶ)。マイクや楽器を持った時だけ男っぽい口調になる所謂おねぇ系男子のようだな」
     ちなみに高校一年生で担当はヴォーカル及び作詞。溢れるほどのしだみもち愛が歌詞の方に反映され、そのせいで一部のメンバーとはもめていたらしい。
    「闇堕ちしかけるのもちょうどそれが原因だな」
     君達がバベルの鎖に察知されず介入出来るのはちょうど少年が変貌した直後。
    「ディフェンダーの者が割って入れば、襲われるバンドメンバーの少年は何とか庇えるだろう」
     後はESPなり、変貌した少年の姿に言及して言いくるめるなり、とにかく他のメンバーにお引き取り頂くのが最優先。闇堕ち一般人を救うには戦ってKOする必要がある為、戦いは不可避だからである。
    「戦場はそのまま戦うなら録音スタジオの一室になるが、狭いし、機材が戦闘の巻き沿いになりかねないとお勧めは出来ない」
     そもそも問題の少年も元はと言えばバンドのメンバー、人の意識も残っているのでスタジオを壊したくないと言えば戦場の移動には同意することだろう。
    「移動先はスタジオの駐車場を推奨しておく」
     場所も近く、この日スタジオを借りに来ているのが少年達だけの為、ちょうど人がないのだとか。
    「戦いになれば、しだみモッチアはご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     ドングリのあんこを内包した白い人型の餅という見た目から繰り出されるしだみもちキックや抱え上げてたたき落とすしだみもちダイナミック。
    「触られた部分に餅がくっついてしまったりすると言う凶悪な一面を持っている為、注意が必要だ」
     ちなみに、くっついたお餅は食べられる。
    「尚、闇堕ちしかけた一般人は人間の意識に語りかけることで弱体化させることも可能と聞く」
     戦いを有利に進めたいなら試みるのも良いだろう。
    「闇堕ちし、暴れ出す原因になったのがしだみもちを馬鹿にされたことなら……」
     どうすれば説得出来るかは、きっと言うまでもない。
    「私からは以上だ、健闘を祈るよ」
     そう言うとはるひは君達を送り出す。
    「しかし、そんな餅があるとは……世界は広いな」
     実は報告を受けるまでしだみもちのことを知らなかったとを露呈させながら。
     


    参加者
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)
    影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)
    見崎・遊太郎(ゆるふわ忍者・d25602)
    狗山・小春(紡ぎ唄・d26717)
    笹茅・ちまき(オールシーズンチマキラー・d28070)

    ■リプレイ

    ●これから、するそうです
    「闇もちぃ! 闇もちぃしてしまったんですか!」
     それはこれから向かう先に居る少年へと向けた問いだったのか。
    「もっちあ、救出、久しぶり、かも」
     リーファ・エア(夢追い人・d07755)の声を聞きつつ、途切れ途切れに漏らした十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)は、ちらりと仲間の方へ視線を向ける。
    (「音楽……ですのね。音楽系部活に入っている都合でまったくわからなくもないですけど」)
     視線の先で難しそうな顔をした白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)が嘆息し。
    (「ところで、いったい、もっちあって、何人、いるんだろう、?」)
     深月紅は元べこモッチアを見つめながら、胸中で浮かんだ疑問を口にする。
     もっとも、声に出さなければ他者からの答えは期待出来ないし、声に出したとしても満足の行く答えが返ってくるかと言えば、おそらくNOだろう。
    「しだみもち……また、マイナーな……」
    「初めて聞いたッス。おもちの一種ってのは分かるッスけど……」
     思わず影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)が怠そうに漏らせば、狗山・小春(紡ぎ唄・d26717)は腕を組んで首を傾げる。
    「しだみもち……どんぐりは救荒食として食べられていたんだとか。身近にあるものをいかに美味しく食べるかって先人の知恵だね」
    「どんぐり……どんぐり……どんな味なんでしょう」
    「確かに、どんな味なんスかね? ちっと気になるッス」
     見崎・遊太郎(ゆるふわ忍者・d25602)の補足に一見ドライな性格に見えるリーファが興味を示し、小春もそれに乗っかってくる。
    「もうすぐわかりますよ」
     ですから、と一同にこれから向かう先を示して見せたのは、淡いアルカイックスマイルを浮かべたラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)。
    「そうだね、助ければ振る舞ってくれるかも知れないし」
     闇堕ちしかけ、これからしだみモッチアと化す少年の身体も人型の巨大なしだみもち。攻撃されてくっついた部分は食べられるというから、攻撃された時付着したモノを食べればどんな味かも判明することだろう。むりん、食べるつもりならば。
    「それより、その人を救わないと」
     相づちを打った笹茅・ちまき(オールシーズンチマキラー・d28070)も元はと言えば闇堕ち仕掛けたところを先輩に助けられた身、今度は僕が助ける番と思っているのかもしれない。
    「んだとぉ?!」
    「……ここのようですね」
     やがて一同は、声と前情報を頼りに、怒声の漏れてきた部屋の前に辿り着き、介入を前に各々がスレイヤーカードの封印を解く。
    「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ」
    「風よ此処に」
     真っ先に殲術道具へ身を包んだのは、いの一番にスタジオ内へ突入する必要のあった二人。
    「Twinsflowerofazureinfullgloryatnight.」
     ラピスティリアは他の面々同様にワンテンポ遅れ。
    「許さないっ、ゆるさないもっ」
    「させませんよっ」
     スタジオ内に踏み込んだリーファが少年に飛びかかるご当地怪人の前へと飛び出したのは、次の瞬間だった。

    ●表へ出てみよう
    「ど、どうなってるのもちぃ?」
    「痛たた……」
     ご当地怪人しだみモッチアは、跳び蹴りをモロに受けて顔をしかめつつ身を起こした乱入者を眺めたまま、混乱していた。
    「っとと、いきなりビックリおじゃましまっす!」
     いきなり見知らぬ者が飛び込んできたのだから無理もないが、灼滅者側からすれば好機でもある。小春がやはりこちらも呆然とするバンドメンバーの面々へ挨拶してみせれば、死愚魔も気怠そうな表情のまま、しだみモッチアに近寄り、口を開く。
    「怒ってるのは分かるんだけどさ、ここスタジオの中だし……暴れるなら外に行かない?」
    「あら、やだ……そ、そう言われれば機材壊しちゃうもちぃね」
     面を食らって警戒が弛んでいたのか、死愚魔の言わんとすることをすんなり受け入れたご当地怪人はすんなりとファイティングポーズを解く。
    「あ、もちぃってする……」
     蹴られた所を触ってリーファが声を上げたのは、その直後。
    「……食べて見たいけど自分に付いたのを食べるのもアレですよねー」
    「もちぃ?」
    「ちょっと食べて見たいので、分けて下さいよ」
     首を傾げた巨大人型しだみもち、もといしだみモッチアに現物を要求し。
    「言いたいことも色々あるんだろうけどさ、ここに籠もっていてくれません?」
     どさくさ紛れに死愚魔がESPでバンドメンバーの少年少女を威圧。
    「ちっとモチッコをお借りするッスね。アブナイことはしないんで安心してほしいッス!」
    「ほら、こっちに。……ミュージシャンにとってスタジオは神聖な場所だしね」
    「折角だし、お外で青空の下で食べましょうよ、此処狭いですし」
     小春がビッと手を挙げて挨拶した時には遊太郎とリーファが手を引いて外に引っ張り始めていて。
    「わ、わかったもっちぃよ」
    「というわけで、お外の駐車場へゴー!」
     ご当地怪人と化した元少年はもはや完全に灼滅者達のペースに巻き込まれていた。
    「モッチア……、学君はしだみもちが好きみたいだけど、もしや何か特別な思い出とかあったり?」
    「そうもっちね。子供の時、拾いすぎたドングリで今はなき爺ちゃん達が作ってくれたもっちぃのよ」
     外へ連行されつつ、遊太郎の質問に答えたり。
    「ドーモ、群鳥=サン、べこ餅ヒーロー白牛黒子ですの」
     黒子からアイサツされたり。
    「しだみもちは、どんぐりを、使った、餡を、用いてるから、小豆より、軽い、餡の、感じがして、好きだけど」
     遊太郎とのやりとりを聞いていた深月紅からバンドメンバーにも食べてみて貰えば理解してくれたのではと言う主旨の説得をされたり。
    「そ、それは……ちょっと季節が早いもちぃの」
     ドングリと言えば秋のもの、今は夏である。しょんぼりとしだみモッチアは肩を落とし背中に哀愁を漂わせ、嘆息する。まぁ、季節ばかりは仕方がない。
    「いや、こうあれですよ。わざわざ歌にしなくたって甘味というだけで興味を持つ人も居るんですから……こうフリートークで話題にするとか、そういうので布教しましょうよ!」
    「そ、そうもっちぃね、その手もあるもちぃよね」
     リーファがフォローがてら軌道修正したことで、しだみモッチアは顔を上げ。
    「さて、そんなこんなで駐車場についた訳ですが」
     ラピスティリアは足を止めると、ご当地怪人へと向き直った。

    ●説得ところにより物理
    「好きな物を貶されて怒る気持ちは分かります。ですが、君の愛するしだみもちは、元々は救荒の為に作られて居たと聞きました」
    「そうもちぃよ、なのにあの人達ったらしだみもちを悪く言うんだもちぃ」
     我が意を得たりとばかり頷いてバンドメンバーを非難する元少年の言葉を聞きながらも、ラピスティリアはですがと続けてご当地怪人を見返す。
    「誰かを救う為に試行錯誤を重ねて作られ、脈々と受け継がれて来た大切な食材で、誰かを傷付けても良いものでしょうか?」
    「もちっ?! そっ、それは」
    「その歌詞にしだみもちを入れることですけれど、一般に理解されにくい歌をもって餅の普及を図るなら有名になってからでも遅くはありませんの!」
     痛いところを突かれたのか、言葉に詰まれば、今度は黒子が口を開く。
    「えっ……な、もちゃぁっ!」
     ただ、驚きの声を上げたしだみモッチアに更なる説明をするよりも早く、放たれた魔法弾がご当地怪人の顔面に突き刺さっていた。
    「い、いきなり何すもちべっ」
     抗議の声を上げたところに縛霊手の祭壇を展開し構築した結界に巻き込まれてつんのめった元少年は顔面からアスファルトに倒れ込む。
    「攻撃ちまっ」
     加害者は目以外の部分を笹の葉で覆っただけの姿のまま言う。
    「そう言うこと聞いてるんじゃないのもちぃ!」
     説得を戦闘時に行おうとした者とそうでない者が居た、ただそれだけのことである。
    「けど、戦って、倒さないと、救えないのも、事実だから」
     左目だけで泣きながら、深月紅はシールドを広げ。
    「そうでしたわね」
    「もちっ、ちょ」
     黒子がイヤーッとご当地怪人へ掴みかかり、ご当地めいたダイナミックで抱え上げたしだみモッチアをアスファルトに叩き付ける、イタソウ。
    「くっ、痛いじゃないもちぃぃ!」
    「そう言われてもね」
     爆発の中から身を起こし叫ぶ元少年へ、死角から死愚魔が斬りかかる。
    「もべちっ」
    「しだみもちにかける情熱は分かったけどさ……。ああも無理やりだと、逆に嫌いになると思うよ?」
     足の腱辺りに斬撃を受けて蹌踉めくご当地怪人に言葉を投げかけ、答えを待たずに飛び退く。
    「行きますよ、猫」
    「わうっ」
     入れ替わるように距離を詰めたのは、リーファと霊犬である猫だった。白光を放つ主人の斬撃を補佐するように口にくわえた斬魔刀で別方向から斬りかかり。
    「くっ」
    「援護させて頂きます」
    「なっ」
     挟み撃ちに戸惑ったところへラピスティリアが殲術道具で捻りを加えた突きを繰り出す。
    「もちゃあぁぁぁぁっ」
     説得によって本来の力を出しくれなくなっていた、しだみモッチアはこの三連係を除け損ねた。
    「くぅぅっ、よくもやったもちぃね!」
     ただ、元少年もとて一方的な流れでは終わらない。跳ね起きるなり光線を発射し反動で後方に飛びずさる。
    「大丈夫かな?」
    「ありがとう」
     味方を庇って光線の当たった深月紅をオーラから変換させた力でさりげなく癒しつつ、遊太郎はご当地怪人へ目をやる。
    (「説得で済めばそれが一番なんだけどね」)
     KOしなくては救えない、だからこそ今対峙していることは解っていても、やるせなく思うところがあるのか。
    「くらうッスよ」
    「っ、舐めるんじゃないもちぃよっ」
     だが、そう思う間も、戦いは続いている。撃ち出されるつららを避けながらしだみモッチアは小春へ向かって飛び。
    「ぐっ、いたた……。フフフ、しだみもち頂いたッスよ!」
     跳び蹴りを食らって顔をしかめつつも、服に付いた物を見て勝ち誇ったように笑む。
    「さて、味の方は……ふ、ふつうにうまい……だと……! やり方はもちっと考えた方が良いかもッスけど、これは広めるべきッスよ!」
    「なっ」
     まさか付着した餅を食べる為、わざと蹴られるなど誰が予測しようか。食べた方も味に驚いていたが。
    「お勧めするにもタイミングとか重要。アピールしたいなら、無理に歌詞に混ぜたりせず、曲の合間のMCでやるとか、差し入れるとか」
     驚き動きの止まったしだみモッチアにちまきはそう提案し。
    「怪人がやるよりやっぱりヒーローでしょ? 君もお餅のヒーローになろうよ!」
     ご当地怪人姿から笹のビキニアーマーを纏った姿に変わりつつも更に呼びかける。
    「そうッスね。ここらでいっちょショーキに戻してやって、リッパなご当地ヒーローしてもらうッスよ!」
     戻っていたいという点では小春も同感だった。実際餅を味わっていれば尚のこと。
    「何を、あたしは……」
    「隙ありです!」
    「へもぢっ」
    「合わせる」
    「もじょぶっ」
     動揺したご当地怪人へ流星の煌めきを宿したリーファの跳び蹴りが突き刺さり、更に炎を纏った深月紅の蹴りが餅の表面を焼く。
    「も、もちぃ」
    「時間かせぎはもう必要なさそうだよね」
     何だか美味しそうな感じになって傾いだところで、アスファルトを蹴った死愚魔は影を宿したチェーンソー剣を振りかぶる。
    「僕にはしだみもちを食した経験はありませんが、君が其処まで愛する食べ物に興味はあります。君が元に戻ったら、是非食べさせて頂きたいものです」
     意識の朦朧としだしたご当地怪人が最後に知覚したのは、ラピスティリアの呼びかけと。
    「よし、チマキーーって、あ、ちょっとそこ退い――」
     やたらせっぱ詰まったちまきの声だった。

    ●武蔵坂への招待
    「とりあえず、服に餅が付いたままってのは嫌だから着替えて来ますね」
     戦いが終わるなりリーファはそう言って席を外した。
    「大きな、怪我、無く、終わって、よかった」
     深月紅も一言漏らして立ち去り、駐車場に残ったのは、灼滅者六人とまだ意識を取り戻さない少年だけ。
    「ちまきさん、ユウジョウ!」
    「えっ? えっと、ユウジョウ?」
    「ですの」
     呼びかけたちまきが目を瞬かせつつも応じると、黒子満足げに頷いてから横たわったままの少年こと学に目をやった。
    「んっ……」
     口から漏れた呻き声に気づいたのか、自らの体質故に警戒していたのかは解らない。
    「あ、気がついたみたいだよ」
    「ちまきちゃん、その格好は……」
    「ちまっ?」
     笹の葉ビキニアーマー姿のまま、身を乗り出したちまきに遊太郎がやんわりと声をかけてみるが、男性からすれば目のやり場に困る格好であることを理解していないのか、首を傾げて。
    「えっ、ちょっ」
    「そこは変わりませんのね」
     目を覚ました学の上擦った声聞きながら、べこ餅ビキニを思い出した黒子は遠い目をする。
    「あ、気がつい、った、あ、わ、あ――」
    「うぇっ、あ」
     身を乗り出しすぎて悲鳴をあげながら倒れ込むところまで、いつも通りであった。
    「ちまきさん、大丈」
    「えっ、ちょっとっ?! 黒子待っ」
    「ちょ、んぷっ」
     助け起こしに行って巻き込まれた黒子がちまきと一緒に絡まりながら学を押し潰すところを含んで。
    「はぁ、死ぬかとおもったわよ」
    「ご、ごめん。それで僕達が君を助けた理由なんだけど……」
     ちまきの胸で窒息しかけていた学が助け出され、事情の説明が行われたのはその後のこと。
    「武蔵坂へいらっしゃい、学君。彼処には、君と同じような人が沢山居ます」
    「武蔵坂学園には私やちまきさん、そしてあなたのように餅を愛する者が集っておりますの。あなたも一緒にどうですの?」
     アルカイックスマイルでラピスティリアが仲間達を示しながら口を開けば、頷いた黒子がしだみもちの普及にはそれがいいとおもいますの、と誘い。
    「二人の言うとおりッス、ガクエンには生徒が一杯いるッスよ」
     みんなに知らせてやろーぜっと小春が笑顔を作って言う。
    「あ、あたしは――」
    「ただいま、お話は進んでます?」
     着替えを終えてが戻ってきたのは、学が答えようとした、丁度その時。
    「せっかくならちゃんとしたの食べたいですよね? 美味しいお店があったら紹介してくださいよ」
    「そうね」
     リーファの言葉に応じて見せつつも頭を振り、尚続け。
    「ただし、お店じゃなくてあたしの手作りでね?」
     うふふと笑いながらしなをつくり、手を頬にあてた学は微笑んだ。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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