死は誰にとっての救済なのか

    作者:相原あきと

     深夜の新宿駅、終電も終わったこの時間、すでに改札も閉まりホーム内に人は入れない。
     だが、その男は改札を抜けた構内にポツンと1人立っていた。
    「……俺……そうだ、俺は……」
     色メガネに上等なスーツを着たその男は、今やタダの残留思念に過ぎない。
     一般人だろうと灼滅者だろうと、この構内を歩きまわる彼を見る事ができる者はいない。
     だが――。
    『大丈夫、私にはあなたが見えます』
     突如かけられた声に男はピタリと止まる。
    『灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね』
    「あなたは……誰です? 私に何か用ですか?」
    『私は慈愛のコルネリウス。傷つき嘆く者を見捨てたりはしません』
     女性の声に残留思念の男が答える。
    「死は救済……なるほど、『まさに』というわけですね」
     残留思念の男――序列五九〇位の元六六六人衆はニヤリと笑みを浮かべ。
    「私に力を! 私に死を与えた、武蔵坂の灼滅者達へ復讐する血と肉を!」
     男の叫びと重なるように、コルネリウスが『プレスター・ジョン、聞こえますか……』と小さく呟くが、力を取り戻し実体化しつつある男には、すでに関係の無い話だった。

    「死んだ奴が蘇るなんて事……くそっ」
     若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)がそう悔しそうに吐き、横にいた鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)も同じように目を伏せ、覚悟を決めて話しだす。
    「みんな、慈愛のコルネリウスが灼滅されたダークネスの残留思念に力を与えているわ」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながらがそう話し出す。
    「今回、皆が相対する残留思念は……石英・ユウマ(せきえい・―)……よ」
     珠希の出した名に、教室に集まった灼滅者達の間にざわめきが起こる。
     石英ユウマ――かつて武蔵坂学園の灼滅者であり、仲間を助けるため闇堕ちした者。
     そして彼は、そのままダークネスと化し元に戻ることは無かった。
     可能性として予測していた事とはいえ、弾が「あっちゃいけねぇってのに……」と毒づく。
    「みなには慈愛のコルネリウスが石英ユウマの残留思念に呼びかけを行った所に乱入して欲しいの」
     珠希が言うには、慈愛のコルネリウス自体は現実世界へ出てこれない為、現場にいるのは幻のような存在で戦闘力も皆無らしいので戦う必要はない(戦えない)が、残留思念の方はそうはいかない。与えられた力で元のように戦闘能力も復活していると言う。
    「ダークネスの石英ユウマは、去年の12月に行なわれた『新宿防衛戦』にて灼滅されているんだけど……強さは当時と同じと思っていいわ」
     確か当時の序列は五九〇位、武蔵坂学園の灼滅者はあれから半年戦い続けているとはいえ、ギリギリ勝てるかどうかというレベルだろうか。
     珠希が説明するには、石英ユウマは防御を捨てて攻撃してくると言う。
     彼は灼滅者8人を相手に何度も戦い続けて来ているので、残留思念とはいえ灼滅者と戦いに慣れているといえる。普通にバランスの良いよくある陣形で戦うだけの作戦を立てたなら……もしかしたら苦戦するかもしれない。
    「攻撃方法は変わっていないわ。殺人鬼と日本刀、それにWOKシールドに似たサイキックを使うから気を付けて」
     ちなみにシャウトも使えるとの事。
    「石英ユウマは再灼滅できれば、その力をほとんど失ってプレスター・ジョンの国へ行くと思う」
     プレスター・ジョンの国のブレイズゲートに囚われれば、そこまで危ない事にはならないだろう。
    「逆に言うと、見逃したりすれば……正直、どうなるかは私も解らない」
     珠希にとってもそれはイレギュラーなのか、その未来がどうなるかはわからないという。
    「だけど、石英ユウマは基本的に自分を殺した灼滅者を恨んでいるから全力で襲ってくるの。灼滅するなら、下手に説得とかせずに全力で行った方が良いわ! 正直、やり辛いとは思うけど……お願いね」


    参加者
    葛木・一(適応概念・d01791)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)
    阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)
    夜川・宗悟(詐術師・d21535)
    レオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)

    ■リプレイ


    「騙し、弄び、殺す……散々やり尽くしたてめぇには、どうやら死の救済すら許されなかったようだな」
     若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)の言葉に男、石英ユウマが振り返る。
    「ああ、迎えに来てくれたのか?」
     ソレはまさに皆の思い描いた通りのユウマだった。
    「まさかダークネスに救われるとはな……だが、これで皆と一緒に武蔵坂へ帰れる」
     灼滅者達へと近づいてくるユウマ。
    「先に言っておく。俺は『石英・ユウマ』を斬りにきたんだ。未練も後悔も恨みも全部纏めてな」
     冷たく言いきるのは一・葉(デッドロック・d02409)。
    「俺はダークネスじゃない。戻ったんだ、灼滅者に」
    「元々2つで1つの魂だ。灼滅者もダークネスも関係ねぇ……もう一度言うぜ。俺は、お前を斬りに来た」
     確固たる拒絶にユウマがうなだれ……そして笑い出す。
    「ふふ……はははははは! 来るとは思っていましたが、まさかこの私と最後に戦ったあなたが来るとは!」
     ガラリと雰囲気が変わり明確な殺意を葉に向けるユウマ。
     予想通り演技を入れて来たユウマに、阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)が「で、ござるよねー」と嘆息しつつ、皆と連携して包囲を開始する。
     ユウマは目の端で確認しつつ。
    「私を包囲して何の意味が? 全員殺してあげますよ」
    「ッざっけんな!」
     ユウマの笑いを遮ったのは葛木・一(適応概念・d01791)の怒声だ。
    「石英の面してこれ以上バカやらせねぇ。人の弱さを拒絶したせいで、その強さをも手放したお前に、オレは絶対負けやしねぇ!」
     足下でユウマを睨むポメラニアン姿の霊犬『鉄』を、一は一瞬だけ見て頷き、ユウマに指を突きつける。
    「オレは親分だからな、きっちりケジメは付けてやる」
     一の言葉に、ユウマがやれやれと手をあげ――刹那。
     ガギンッ!
     ユウマの背後から突き出された螺旋のごとき槍の一撃を、どこからか出現させたかユウマの黒刀が受け止める。
    「死んでしまったアナタと、再び刃を交えることが出来ようとは……本当、素敵ですネ」
     槍を付き入れた主――霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)が笑う。
    「私もですよ。おかげであなた達に復讐する事ができる」
     ギンッと漆黒の刀と赤水晶の槍が火花を散らし。
    「さて、死んでしまった貴方に質問を。死は貴方にとって救いデスか?」
     ユウマは色眼鏡の奥でニヤリと笑い。
    「『彼』にとっての絶望でしょうね」
     言うが早いか黒刀でラルフを押し返し後ろへバク転するユウマ。
     その残像を黒いステッキ(手品用のケーン)が薙ぎ払う。
    「答えはどちらでも……。どちらにせよ殺しマスから」
     槍とケーンを構えるラルフに、ユウマは「おや、気が合いますね」と挑発し――そして、戦いが始まった。
     真っ先に突貫したのは弾とそのライドキャリバー・デスセンテンスだ。味方への射線を切るよう最前列で遮蔽となる。
     その背後から飛び出すように葉が右、木菟が左からユウマへ斬りつける――しかし、葉の狙った手首は不可視のシールドで、木菟が狙った足首は黒刀に防がれる。
     さらに2人と入れ替わるように飛び込んでくるのは夜川・宗悟(詐術師・d21535)とレオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)だ。だが、ユウマは宗悟の針金のような注射器を首を捻ってギリギリで避わすと、血色の大袖を持つ絡繰篭手を突き出すレオンの懐へと潜り込む。
     まずい、レオンがそう思った瞬間、眼下のユウマに横合いから光がぶつけられる。意識の逸れたユウマから即座に距離を取るレオン。
     それは一の放ったご当地ビームだ。「チッ」とユウマが舌打ちする……が、その瞬間を見逃さなかった者がいた。
    「明日は我が身……ユウマ、キミの境遇に同情はしない」
     背後から聞こえた声にユウマが振り返らず、とっさに前方へ身を投げようと――だが、それより早く背後から真銀の槍が突き込まれ、ユウマは血を流しながらも前転、体勢を整えると背後から急襲してきた月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)へ黒刀を向ける。
     千尋はブンと槍についた血を払うと宣言する。
    「コルネリウスの目論みを挫く為にも、今一度、キミの魂に救済を……」


     戦いが始まり3分が経過していた。
    「こんな形で相見えるとはね。何の因果か……」
     千尋が呟きつつユウマの足下へ滑り込む。
     黒刀が飛んで火にいる夏の虫だと振り被られ、瞬後、千尋の滑り込みの軌跡を追うように炎が立ち昇り、その炎を纏った脚でユウマの腹を蹴り上げる。
     弧を描くよう宙を舞うユウマだが、空中で回転し着地すると同時、視線と黒刀で追撃を牽制、スッと背筋を延ばして灼滅者達を睥睨する。
    「十分想定内です」
     この3分、ユウマは前中後と列攻撃を繰り出した。
     灼滅者の陣形と作戦はほぼ把握した。結果、そう自分の想定から外れてはいない……これなら、とユウマは笑みを浮かべる。
    「一つ、聞いて良いでござるか?」
     空気を無視して質問したのは木菟だ。
    「お主の中に、灼滅者の石英殿はおられるでござるか?」
     対してユウマは。
    「わかりません」
    「それは、どういう事でござる?」
     さらに聞く木菟だが。
    「聞く耳持つな! こいつはただのダークネスだ!」
     ユウマの話に引き込まれそうになる木菟をレオンが制止する。
    「嘘じゃありませんよ? 演技では……どうせ見抜かれるでしょう」
     ちらりと葉を見るユウマ。
    「なら、石英殿が復活するかもしれないでござるな!」
     動揺を隠さずユウマへ詰め寄ろうとする木菟、「待て!」と木菟の肩を掴んで止めるレオン。
     そんな2人を見て「そうですね……」と、ユウマは一度天を仰ぎ、再び2人に視線を戻し。
    「奇跡でも起こせ――ッっ!?」
     目の前までレオンと木菟の縛霊手が迫っており、そのまま回避行動もとれずに殴り飛ばされるユウマ。
     立ち上がりつつ憎しみの目を向ける。
    「サプライズとしちゃ悪くない出来だっただろう?」
    「き、貴様ら……!」
     ユウマの殺気が高まる中、2人は笑みを浮かべる。
    「所詮強者であるお主が、弱者としてコツコツとセコい作戦を日々立てている拙者に、この手の勝負を挑むのが間違いなのでござる!」
    「絶対、殺してやる……」
     ユウマ殺気の色を濃くしていく中、その眼前に別の影が立ち塞がる。
    「邪魔だ!」
     叫ぶユウマ、だが立ち塞がった影――弾はもちろんどきはしない。
    「てめぇは間違っても石英って奴じゃねえ。石英の魂を喰い尽したド外道、その残り滓だ! 笑わせんじゃねえ……お遊戯は地獄でやってろ」
    「邪魔をするな!」
     ユウマが怒りに任せて弾へと飛び込む。
     黒刀は腰溜め、居合いの構えで迎え撃つユウマ。
     黒が閃く直後、割って入ったライドキャリバーが致命的な一撃を受けて真っ二つとなる。序盤に運良く連続で仲間を庇えたツケとはいえ……。
     弾がその残骸に一瞬だけ目を閉じ、そのままユウマへと掴みかかろうとし、だがユウマは手首を回し黒刀で弾の腕を切り落とそうと――ガッ!
     直前で黒刀の柄を握る拳が弾かれる。飛び込んできた葉のトラウナックルに相殺されたのだ。さらに二手、三手と拳を繰り出す葉、今度はそこにラルフが並び閃光百裂拳を放つもユウマはそれを紙一重でさばききる。だがそれは余裕のある動きでは無い。だからこそ――。
    「あの時はなんもしてやれんかったからな。終わらせてやるよ。ドカンと重いのいくぜ!」
     背後からの声。
     同時、WOKシールドを展開した一の突撃がジャストヒット、受け身もとれずに吹き飛ぶユウマ。
     ……だが、灼滅者の攻勢もそこまでだった。

     立ち上がり、自らに声を掛け冷静さを取り戻したユウマは、まるで予定通りと言うように効率的な戦いを始める。
    「一応、元は先輩にあたるんだから敬語かな……命、もらいます」
     ライフブリンガーで生命力を奪った宗悟が、どこか偉そうな調子でユウマに言う。
    「ええ、その程度は構いませんよ? 代わりに……」
     ジワリ。
     カウンターのように宗悟の腹には黒刀が突き刺さっていた。数度ダメージを喰らっていた宗悟は視界が暗転して倒れそうになる。
    「魂を頂きますから」
     笑みを浮かべて見下ろしてくるユウマに。
    「死は救済と言っておきながら……死してなお復讐に囚われているあなたは、滑稽です……」
     ふらふらと後ずさりしつつ。
    「ああ、侮辱しているわけじゃないんですよ? ただそのしつこさには尊敬の念すら抱きます……まぁ、もっとも」
     宗悟は魂の力で脚に力を込め再び構えを取る。
    「もっとも、一番すごいのは、僕なんですけどね」
     その様子にユウマが不機嫌そうに。
    「まったく、灼滅者のしつこさは尊敬しますよ……もっとも、滑稽という意味ですけどね」


    「可能性が僅かでも残ってるなら、助けたいのは本心でござったよ」
     ボロボロになりつつ魂の力で立ち上がったのは木菟。
    「でも、優先順位ってあるでござるからな……今の、バカやってられる日常には、変えらんねぇでござる」
     木菟の横で、宗悟が一度だけ指を鳴らし。
    「……とりあえず……勝て、よ」
     どさりと倒れ伏す。
     限界はとうに越えていた、先ほどの列攻撃が致命傷だった。盾役が全て庇い切れるわけではないのだ。
     僅かにユウマの視線が宗悟に向き、それを察した弾が立ち塞がり、ラフルが「クハハッ!」と笑いながら魔力を溜めた黒いステッキを構えてユウマに接敵する。
     それとほぼ同時。
    「鉄!」
     一の言葉に霊犬が動き、倒れていた宗悟を引っ張ってユウマから引き離した。

     ユウマにとって灼滅者の戦い方は「ほぼ」予想通りだった。
     ある程度の壁役を立てて守りと同時に攻撃を行う。予定外だったのは思った以上に攻撃寄りだった事だが……まだ、想定内だ。
     もし極端な布陣だったのなら、それに混乱したユウマの隙を付けたのかもしれないが……。

    「チェックメイトです」
     ユウマの居合いにより戦闘不能となった木菟の首筋に、黒刀が突きつけられる。
     ユウマもかなりボロボロだが、まるで『これで戦いに勝利した』とばかりに笑みを浮かべている。
    「お前、結局死んでも救済とやらはされなかったな」
     ユウマに呟くのは一だ。
    「もちろん。生きてこその救いですからね……取り引きと行きましょう。見逃してあげますよ? 追撃はしません」
     自信満々に宣言するユウマ。
     対して、灼滅者の回答は――。
     ラルフが赤水晶の槍を突き出し。
     レオンが赫肩掌を、葉が日本刀を、弾がクルセイドソードを、そして一がライディングエアで加速し、一斉にユウマへと襲いかかる!
     予想外の行動にユウマが木菟の元から飛び退くも、避わし切れなかった数発の傷を受ける。
     2人倒れれば撤退する……考えが甘かった。
     即座に頭を切り替え撤退しようと反転するも。
     バシュッ!
     その眼前を氷の弾がかすり前髪を凍らせる。
     ギリギリで脚を止めてなければ直撃していただろう。
    「逃しはしない」
     妖冷弾を放った千尋がそう宣言し、その頃には再び灼滅者の包囲が完成する。
     ――タイミングを逸した。
     ユウマは黒刀を構え、ギリリと奥歯をかみしめる。
    「なら、3人、4人と殺すまでだ」
     対してレオンが一歩前に出て。
    「そっちも後が無いのでは? まあ、チキンレースは望むところです」
     さらに葉が日本刀を片手に。
    「どっちが先にへし折れっか勝負ってな……来いよ、もっかいぶった斬ってやる」
    「低く見られたものです」
     底知れず怒りがにじみ出るユウマ。
    「ああ、ひとつ言いたいことがあったんだ」
     ゆっくり、名も無き日本刀を葉は構え。
    「アンタの死は、救いになんなかったよ。少なくとも俺にとっては」
    「なら、何になったのです?」
     隙を伺いながらの会話、ユウマがそう問い、葉は。
    「ただ、面倒事が余分に増えただけだ」
     答えると同時、黒刀と日本刀の刃が火花を散らす。
     そして、戦いは最終局面へ――。


     霊犬の鉄がラルフを庇って消滅する。
     だがユウマも限界が近い、それは攻撃に偏らせた戦術のおかげであり、術攻撃対策をした後衛に怒りで誘導させた事も一因だ。
    「死は救済って建前を掲げてたてめぇが、その救済を奪われるとはな」
     ユウマの攻撃からラルフを庇いつつ弾が言う。
    「再灼滅されたてめぇは、全ての力を失ってプレスター・ジョンの国に囚われる。そしてそこで永遠に呪詛を撒き散らし続けるのさ」
    「黙れ、救済されようと、永遠に囚われようと、僅かな光にしがみつくことの何が悪い」
     荒い息とともに吐き捨てるユウマ。
     弾は眼光鋭く睨みつけ。
    「光なんか無い。あるのは絶望だ。おあつらえ向きの終幕を迎えさせてやる」
    「……絶望か」
     弾の言葉にユウマが呟く。
    「諦めなければだの、信じていればだの、お前ら灼滅者は奇跡を口にするが……その光が本当にあるとしたら、絶望の先だとなぜわからない」
     ユウマは流れるように居合いの構えへ。
    「勝利を、成功を、命を、仲間を、全てを捨てて……尚その先に奇跡はある。もっとも……」
     ユウマが地を蹴る、狙うは――ラルフ。
     弾がユウマに向かって飛び込むが避わされる。
     その背後から今度はレオンが飛び出し、赫肩掌を振りかぶる。
    「君の出番はとっくに終わってるんだ。君はもう誰も殺せない。消えろ亡霊」
     不可避の攻撃に、ユウマは左手を無造作に突き出し――ズシャ。
     赫肩掌によってぶち切られて空に舞う左手。
     だが、左手を犠牲にしてユウマは前へ。
     突っ込んでくるユウマに、ラルフは自身のオーラを水色の鳩に変え、そのままユウマへ跳躍し。
     ――交錯!
     ぐらり……ラルフが倒れる――寸前、魂の力で持ち堪え。
    「クハハッ! まだ、まだデス!」
     ラルフがそう叫び、ユウマの意識がそれた瞬間。
    「キミの魂を弄んだコルネリウスには、必ず報いを与えるから……」
     千尋の声に感覚だけで咄嗟に飛び退くユウマ。
     その影を五指の鋼糸一本一本が別の生物のように襲いかかり……空を切る。
     間一髪で避けられたのはそれが得意分野の攻撃だったからか――。
     だが、ラルフと千尋に違和感を感じて眉根を寄せるユウマ。
     それは次の瞬間、納得する事となる。
    「お前ほど、上手くは無いけどな」
     着地点に居合いの構えで一がいた。
     誘い込まれた……そう気が付くには僅かに遅い。

     ――斬ッ!

     一の居合いが一閃し、ユウマの上半身と下半身が見事に両断される。
    「土産だ、とっとけ」
     チンッと日本刀を納刀する一。その目には……涙。
    「こんな……はずでは……」
     断ち切られた体の面から、光の粒子となって消えていくユウマ。
     その前に立つは葉。
    「おい、さっき言ってた奇跡の話……どういう意味だ?」
     ユウマは顔と目線だけで葉を見上げ。
    「さぁ……ただ、言ってみただけ、ですよ……」
    「………………なら、言うことは一つだ」
     消えていくユウマに無銘のポン刀を構え。
    「今度こそ、ちゃんと眠れよ。――おやすみ、センパイ」

     そして石英ユウマは光の粒子となって消えていったのだった。

    作者:相原あきと 重傷:夜川・宗悟(彼岸花・d21535) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 35/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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