ロシアン広島風お好み焼きブリヌイ

    作者:小茄

     広島県広島市。
     中国四国地方で最大の人口を擁するこの大都市は、ロシアのヴォルゴグラード市と姉妹都市の関係で結ばれている。
     そんな広島の地に、静かなる侵略の手が迫りつつあった。
    「やっぱさ、広島と言えば広島風お好み焼きっしょ」
    「あれ超美味しいよねー。あ、その屋台そうじゃない?」
     観光客風の男女が目を付けたのは、表通りから一本入った路地にぽつんと佇む一軒の屋台。
    「いらっしゃい」
    「お好み焼き二つ頂戴」
    「はいよ」
    「早っ?! ……って言うか、これちょっと違くない? なんかクレープというか、パンケーキというか……」
     長身髭もじゃの主人が差し出したのは、想像していたお好み焼きとは微妙に……いや、大分違う何か。
     薄い円形の生地に、挽肉やサーモン、イクラなどがトッピングされており、その下には申し訳程度に広島風の名残を感じさせる焼きそばが隠れて居る。
    「……え、意外と美味い」
    「確かに……美味しいかも」
    「ふふ……心ゆくまで食べるが良い。来客を満腹にさせず帰すのはロシア人にとっては最大の恥」
     想像していた広島風お好み焼きとは大分違うが、味は悪く無い様子。観光客は、結局その謎の料理を山ほど食べると、満足して立ち去っていった。
    「同志ロシアンタイガー様、着々とこの地のロシア化は進んでおりますぞ……」
     新たな生地を焼き始めつつ、大男はそう呟いた。
     
    「黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)の調査によって、ロシアンタイガーが日本の姉妹都市を転々としていると言う情報が入りましたわ」
     そして、ロシアンタイガーが立ち寄ったいくつかの都市では、ロシア化怪人によるご当地パワーのロシア化が始まっていると言う。
     放置すれば、ロシアンタイガーが力を蓄え、復権する可能性もある。そうでなくとも、日本のロシア化を看過することは出来ないだろう。
     急ぎ、ロシア化ご当地怪人の灼滅が望まれる。
     
    「問題のロシアン広島風お好み焼き怪人は、裏路地で屋台を営んでいますわ。接触は容易ですわね」
     客を装って奇襲するも良し、正々堂々と勝負を挑むも良し。接触の方法はこちらが自由に選択出来る。
     敵は1体のみだが、十分強力な敵である事は忘れてはならないだろう。
     また、路地裏と言っても比較的広く、外灯も有るため夜でも視界は十分。一般人が乱入しない様、適当にESPを使えばより安全に戦いに集中出来るだろう。
     
    「……広島と言えば美味しい物が沢山ありますわねぇ……それでは、速やかな帰還をお待ちしておりますわ」
     そんなことを言いつつ、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    黛・藍花(藍の半身・d04699)
    巴津・飴莉愛(白鳩ちびーら・d06568)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)
    崇田・悠里(旧日本海軍系ご当地ヒーロー・d18094)
    犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)
    遠野森・信彦(蒼狼・d18583)
    茅ヶ崎・悠(誇り高き白狼の末裔・d28799)
    園城寺・琥珀(叢雲掃ふ科戸風・d28835)

    ■リプレイ


     広島県の県庁地所在でもある広島市は、ロシアのヴォルゴグラード市と姉妹都市の間柄である。
     ヴォルゴグラード市はかつてスターリングラード(今も年に数回、記念日にその名に戻る)と呼ばれた激戦地でもあり、戦災を乗り越えた都市としての縁である。
     そんな広島の地に、ロシア化の魔の手が迫っているとの一報を受け、一行は広島の街へと飛んだのであった。

    「一風変わったお好み焼きが食べられるというのはこちらのお店でしょうか?」
    「いらっしゃい、お嬢ちゃん達。広島に来たならコイツを喰わない手はないぜ?」
     園城寺・琥珀(叢雲掃ふ科戸風・d28835)の問いかけに答えた屋台の主人は、2m以上はあろうかという堂々たる体格の男性。豪快な口ひげを蓄え、頭にはロシア帽を被っている。
    「おじさん、一つずつ下さいな♪」
    「あいよ、お待ち」
     巴津・飴莉愛(白鳩ちびーら・d06568)がちょこんと席に腰掛け、注文するが早いか、一同の前に供されるその料理。
    「……こ、これじゃない感が凄いのじゃ」
     割り箸を割りつつ、茅ヶ崎・悠(誇り高き白狼の末裔・d28799)は目の前の一品を凝視するが、どう見てもお好み焼きには見えない。
     香りも良く、決して不味そうでは無いのだが……。
    「なかなか美味しいです、なにやら変わったものが入っていますが、それもお好み焼きのうちですし」
     と、そうこうしている間にも黛・藍花(藍の半身・d04699)は既に料理を頬張り始めている。
     お好み焼きに比べてかなり生地は薄く、殆どクレープに近い。その間には焼きそばが挟まれており、辛うじて広島風お好み焼きらしさを見せてはいるものの、その他具材もサーモンやイクラ、そしてロシア料理にはつきもののサワークリームまでもが添えられている。
    「……うん」
     和食好きで、しかも広島風お好み焼きに対しても思い入れが強い犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)。
     とは言え、味自体は悪く無い様で、彼女も一口食べて小さく頷く。
    「これは……美味しいです。お好み焼きを食べるのは今回が初めてなので、一般的なものとの比較はできませんが」
     と、こちらもふーふーして冷やしつつ、素直に賛辞を述べる琥珀。
    「なるほど……」
     それは、育ての親がお好み焼き屋であった崇田・悠里(旧日本海軍系ご当地ヒーロー・d18094)も同意見らしく、一口味を見て、目の前の店主――すなわちロシアンお好み焼き怪人が、料理人としてそれなりの研鑽を積んだ上で、この料理を生み出した事を悟る。
    「なぁ、これって此処でしか食べられないんだろ? 知り合いに料理得意な奴が居るから、レシピ教えてくれねぇかな」
     単刀直入に切り出したのは、遠野森・信彦(蒼狼・d18583)。
     料理人にとって、試行錯誤の上に生み出したレシピは我が子のような物であると同時に、大切な商売道具だ。そう易々と教えて貰えるとは考えにくい。
    「良いとも。是非広島を代表するこの料理を広めてくれたまえ」
     が、店主はあっさりとこの申し出を受け入れる。
    「良い食べっぷりだね、兄さん。どんどんいってくれ」
    「うむ……」
     言葉少なに皿を平らげるアレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)の前に、次々と焼きたての料理が出される。
    (「これがブリヌイ? ああ確か小麦を薄く伸ばした皮で肉や野菜を巻いた物じゃなかったか」)
     と、メキシコ料理のブリトーを思い浮べるアレクサンダー。しかし、国の違いはあれど、料理自体は親戚のようなものかも知れない。
     結局、灼滅者達が空き皿を積み上げて満腹になるまで、奇妙な料理はハイスピードで焼かれ続けたのだった。


    「お腹いっぱいになったかい?」
    「うんうん、面白いお料理だったよ。……わかった! おじさん広島が大好きなんだ」
    「ん? 確かにこの街は良いパワーを持っているからな」
    「広島市生まれのロシア料理! ってお国に持ち帰って広島市をアピールするんでしょう」
    「妙な事を言うお嬢ちゃんだな。俺はこの街でこの料理を広めるだけだ。そしてこの地をロシアン化する」
     飴莉愛のいわばカマ掛けとも言える問いかけに、しれっと答える怪人。
    「ほう……? 姉妹都市のガイアパワーを奪おうとは。広島市への侮辱は言うまでもなく、ヴォルゴグラード市の品位さえ貶める蛮行。捨て置けぬ。……土地神、降臨」
     店主の言葉を聞き、口調も雰囲気も一変させる飴莉愛。
    「純粋に味で勝負するならともかく、ロシア風と正々堂々名乗らず、観光客の方に広島のお好み焼きと偽るのは論外です!」
     こちらも、怒りを押し殺しながら言い放つ悠里。
    「ふごふご、ふごー!(そんな訳で覚悟するのじゃ!)」
    「……ほう? 小娘どもが小賢しい口を利いてくれるものだな! 俺の邪魔立てをしようと言うのなら、代金の代わりに命をもらい受けてくれる!」
     皆よりややゆっくり食べていた悠は、皿の上に残ったお好み焼き(?)を口の中に押し込み、びしっと店主を指差す。店主もまた、臨戦態勢を取る灼滅者を見て、ヘラを両手に構える。
    「……後で買ってきますから、今はあの怪人を退治です」
     自らとうり二つの容姿を持つビハインドが、香ばしいソースの香りに反応するのを見て、ぼそぼそと小さく告げる藍花。
     かくして灼滅者一行は、やや重くなったお腹を抱えつつ、スレイヤーカードを解放した。

    「ボクはかつて、広島風お好み焼き怪人を倒した事があるけれど、彼だって勝手にご当地をロシア化されるのは嫌だと思う。彼の分も、キミを見過ごせない」
     ワイドガードを展開しつつ、ビハインドのこまに目配せをする美紗緒。
    「ご当地愛は結構、ロシア愛も上等。でもな、此処にも広島愛の奴等が居るんだ」
    「ふん! それがどうした、同志ロシアンタイガーの為に有効利用してやろうと言うのだ。光栄に思うがいい!」
    「……愛を奪うなら、相応の覚悟をすることだ」
     バベルブレイカーを蒼炎に包み、悪びれる様子もない怪人目掛けて振り下ろす信彦。
     ――ゴォッ!
    「ぬうっ!?」
     激しい炎を帯びた斬撃に、よろめく怪人。
    「隙有り、なのじゃ!」
     側面から一気に間合いを詰めた悠は、こちらもバベルブレイカーを怪人の脇腹に突き立てる。
    「ぐううっ! その程度の攻撃、蚊が止まった程度にも感じぬわ!」
     手にしたウォッカの空き瓶を振り回し、健在っぷりをアピール。
     事実、その酒瓶は唸りを上げて灼滅者の眼前を掠め、強烈な風圧を感じさせる。
    「残念です。この方をやっつけてしまえばあの食べ物はこの世の中から消えてしまうんですね。もっと別の巡り合わせがあれば……」
    「でも、例えロシアの具材があっても、タレと生地と焼きそばを使えば、結局は広島風お好み焼きでしかないのではないでしょうか?」
     レシピを貰ったとは言え、その作り主である怪人は倒さねばならぬ敵。純粋にそれを惜しみつつも、神薙刃を放ちつつ仲間の肉薄を援護する琥珀。
     一方藍花は、足下より影業を伸ばしつつそんな言葉を掛ける。
    「何を言うか! これこそがロシアン広島風お好み焼きなのだ! 貴様らを返り討ちにし、この広島をロシアンお好み焼きによって席巻してくれる!」
    「飛べ、白鳩」
     ひとたび怪人を敵と認識した飴莉愛は、迷いも躊躇も無い。その手から放たれた一条の白光は、正確に怪人の巨体を貫く。
    「まだまだぁーっ!」
     だが、怪人も瞬間的に怯みはするものの、その戦意と迫力は僅かばかりも衰えを見せない。今また、酒瓶を握り直すと勢いに任せてそれを振り下ろす。
     ――ガキィン!
    「……」
    「ぬうっ!?」
     これを真っ向から受け止めたのは、アレクサンダーのクルセイドソード。硬質の金属同士がぶつかり合った様に、激しく火花が散る。
     強烈なその衝撃を受けきった彼は、そのまま流れる様な動作でクルセイドスラッシュを見舞う。
     ――ブンッ!
    「くっ……」
     一騎当千の力を持つご当地怪人であれ、予期せぬ戦いの中、灼滅者達の間断無い波状攻撃によって、じわりじわりと追い込まれて行く。
    「かくなる上は……!」
     ――ゴォッ!
     その巨体を満身創痍にしながらも、尚彼は怪人としての矜持を示すつもりらしい。別のウォッカ瓶を手に取ると、布を押し込んで火を付ける。俗に言うモロトフ・カクテルである。
    「危ない!」
     ――ガシャンッ!
     比較的近距離から、勢いよく叩きつけられた火炎瓶は、瞬く間に燃え広がる。
    「あつっ!? 熱い、熱いのじゃ! ゆーの毛が焼ける、燃えるのじゃー!?」
     悠を始め、灼滅者達の身体を炎と熱が包み込む。
    「手当を!」
    「はい!」
     しかしこの攻撃に対しても、待ってましたとばかりに即対応する藍花と琥珀。清めの風と祭霊光がすぐさま火傷を癒やし、炎を鎮火させてゆく。
    「ぐぬぬ、ゆーの白狼としての威厳とか尊厳とか、そんなものが台無しなのじゃ! 円形脱毛焼けになったらどうしてくれるのじゃね!?」
     これにより立ち直った悠は、怒りの反撃に転じる。
    「ブリヌイは悪くなかったが、年貢の納め時だぜ」
     彼女の放った無数の風刃に呼応する様に、エアシューズの火花を散らして間合いに飛び込むのは信彦。
    「こっちも行くよ、こま。……広島お好み焼きキーック!!」
     高熱を帯びた信彦の回し蹴りと、美紗緒の跳び蹴りが続けざまに怪人を捉える。
    「ぐうっ!?」
     さすがの怪人も、蓄積したダメージの大きさに状態を揺るがす。
    「お父さん達が! 広島の皆が築き上げた実績をかすめ取る行いは絶対許しません!」
     間を置かず、怪人の背後を取った悠里。その巨体を掴み、天高く跳躍。
     ――ドゴォンッ!
    「ぐ……はっ……!」
     落下の勢いそのままに、地面へと叩きつけられる怪人。
    「出来るなら、兄の作ったお好み焼きを食べさせてあげたかった」
     悠里は、消えゆく怪人を見遣り、小さくそう呟いた。


    「こんなもので良いか」
    「……これって、粗大ごみとして持ち込み?」
     アレクサンダーは、屋台を手早く片付け、すぐにでも移動出来る状態に戻す。
     実際の処分に関しては……然るべき人達に任せるしかなさそうだ。彼を手伝っていた飴莉愛は若干気になりつつも、共にきびすを返す。
    「ブリヌイ、惜しいモノを無くしたのじゃよ……」
     裏道はすっかり静けさを取り戻し、ついさっきまで賑わっていた屋台の面影もない。悠は少し寂しげな表情で呟く。
    「まっ、レシピは大事にするよ。広島とロシアが共存するような形にしてさ」
     信彦は、怪人から聞き出したレシピの書かれたメモを、ポケットに仕舞う。
     動機はどうあれ、広島とロシアのコラボレーション料理である事に違いは無い。
    「お疲れさまでした、……さて、お土産は何を買って帰るべきでしょうか?」
     広島といえば、美味しい食べ物に関して枚挙に暇が無い所。藍花はあれこれと思い浮べ始める。
    「あの……広島風お好み焼きのお店にも行ってみたいです。ロシア化されてない……ちゃんとした」
    「いいね、行こう行こう!」
     琥珀の名案に、美紗緒のみならず一同も大賛成。
    「あ、それでしたら……」
     と、控えめに提案する悠里。ご当地の事はご当地の人間に聞くのが一番だ。

     かくして、多少カロリー的な物が気になりつつも、一行は広島名物のお好み焼きに舌鼓を打ってから、ゆるりと帰還の途に就くのであった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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