コンドルは舞い降りた

     ここは埼玉県某所にある体育館。
     中央にはリングが設けられ、それを囲むようにパイプ椅子が並べられている内部では、2人の男達がリングの上でプロレスの試合を繰り広げていた。
     だが、メジャーな団体ではないからか、リングの周りのパイプ椅子は半分近く空いており、試合をしているレスラー2人も技の応酬こそしているが、『こんな入りじゃやってらんないよな~』的な雰囲気を漂わせており、観客もそれを感じ取って冷めた目で見ているか、途中で席を立っている。まさに悪循環だった。その時までは──。
    『なってない!』
     突如響き渡る鋭い声に、会場中が声の主を探す。間もなくアナウンス席で、猛禽類をイメージした緑の覆面の女がマイクを奪い取って仁王立ちしているのが見つかる。
    『何だそのやる気のない試合は!? 例え観客がたった1人だとしても、それを楽しませてみせるのがプロレスラーというものだろうが!』
     突然の乱入者とマイクアピールに、周囲から歓声と野次が激しく飛び交う。
    『だがそんな貴様等にも、とっておきの見せ場をくれてやろう! 我が刺客と華々しく戦い、そして散るがいい! さあ現れるがいい、コンドル・ロッホ!』
     そう叫んで緑の覆面の女が指さした先を、会場中の目が追う。果たしてリングのコーナーポストの上に、これまた女とデザインこそ違うが、やはり猛禽類をイメージした赤い覆面を被り、赤いマントに身を包んだ男が立っていた。

     バサァァッ──!

     女の紹介に応えるように、赤い覆面の男がマントを翻すと、その下に体操選手のように無駄な肉のない絞られた体が現れる。
     そしてマントを脱ぎ捨てると、男──コンドル・ロッホはコーナーポストを蹴って高く飛翔し、名前通り獲物を狙うコンドルのように、リング上のレスラー2人に向かって降りていった──。
     
    「良くぞ来た、戦士達よ!」
     教室に集まった灼滅者達を迎える野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)のテンションの高さに、流石の灼滅者達も何だ何だと戸惑う。見ると迷宵の服装は赤いレオタード姿で、教室内ならそのままでも十分声は届くのにマイクを持っていて、2、3秒置いて勘の良い灼滅者がポンと手を叩き、そこから広がるように、迷宵がプロレスラーのマイクアピールをイメージしたコスプレをしているのだと理解した。
    「ケツァールマスクという幹部級のアンブレイカブルと、配下のレスラーアンブレイカブルが、埼玉県のある所で開催される小さなプロレス団体の試合に乱入して、大立ち回りをするようだ。ケツァールマスク達はプロレスラーらしく、ギブアップした者を攻撃する事は無いから死者は出ないが、アンブレイカブルにコテンパンにやられた事で心が折れて、プロレスラーとして再起不能になってしまうだろう!」
     小さな団体で興行的に上手くいっておらず、所属するレスラー達も半ば試合への情熱を失っているとは言え、ケツァールマスクたちが止めを刺して良い理由にはならないから、灼滅者達の手で阻止しなくてはなるまい。
    「ケツァールマスクが放つ刺客の名はコンドル・ロッホ、スペイン語で『赤いコンドル』という意味だ。ルチャ・リブレを元にした空中技や投げ技を多用した戦闘スタイルで、プロレスラーらしくショー精神が高いので、派手で見栄えがする技を出してくる。刺客は彼1人だけだが、れっきとしたアンブレイカブルだから、一般人では例えプロレスラーが束になっても叶わないし、君達にとっても強敵なのは間違いないから、気を引き締めて掛かるように!」
     ちなみにケツァールマスクは戦闘、と言うか試合に参加せず、基本的にコンドル・ロッホの戦いを見守っているようだが、
    「但し、彼女の考えるプロレスに反する内容──観客に危害を与えるような行為、ギブアップした者に攻撃を加える行為をした場合、地味すぎて試合が面白くないと彼女が思った場合、本人が介入してくる危険があるから、その辺気を付けて戦うように」
     灼滅者達が複数で相手したり、サイキックを使って戦う事には何も言ってこないようだが、もし迷宵が説明した要因でケツァールマスクを怒らせて、彼女と戦う事になった場合、今の灼滅者達ではまず勝ち目がないだろう、との事だった。
    「試合の決着が付いたら、ケツァールマスクとコンドル・ロッホは満足して去って行くから、勝敗はこだわらなくていい。重要なのは、プロレス的にどう試合を盛り上げるか、だ。つまらない試合をしてケツァールマスクが介入してきたら、レスラー2人が心をへし折られる程度では済まないからな。それでは健闘を祈る!」
     最後までマイクを離さず、迷宵はそう説明を締めくくった。


    参加者
    鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)
    水島・ユーキ(ディザストロス・d01566)
    海老塚・藍(フライングラグドール・d02826)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    三条院・榛(猿猴捉月・d14583)
    夕崎・ソラ(灰色狼・d27397)
    ディエゴ・コルテス(黄金悪鬼エルドラード・d28617)
    李・美玲(猪突猛進娘・d28803)

    ■リプレイ

    ●武蔵坂学園プロレス、乱入
     コンドル・ロッホがマントを脱ぎ捨て、飛び降りようとした瞬間、一条のビームがコンドルと、マットに立つレスラー2人の間を横切る。
    「そんなザコども相手にしたって準備運動にもならねぇぜ。俺達が代わりに相手してやらぁ」
     着崩した高級スーツに、全身を金の装飾品で固めた、いかにも成金丸出しのファッションで、ご当地ビームを放ったディエゴ・コルテス(黄金悪鬼エルドラード・d28617)がリングに近付くと、
    「お前ら、俺達をザコだと言うのか!?」
     マット上のレスラー2人がそう凄むが、
    「ザコじゃなけりゃ何だってんだ、アァ?」
     ディエゴもチンピラのような口調で睨み返し、手近にあったパイプ椅子を掴んでリングに上がる。当然レスラー達はディエゴを叩き出そうとするが、
    「さっさと失せな!」
     何ら躊躇なく、ディエゴはレスラーの片方の額めがけてパイプ椅子を振り下ろし、流血させる。もう片方も、いつの間にか現れた狼が唸りながらにじり寄ってきて、一吠えするや「ひぃっ!」と声を上げてリングから退散する。
     残ったレスラーは、流血の割に手加減されていたらしく、コーナーポストに飛び乗って勝ちどきの如く遠吠えする狼と、血の付いたパイプ椅子をちらつかせてくるディエゴを交互に見て、場外に控えるスタッフの方へ『早くあいつらを何とかしろ!』と視線で訴えるが、予想に反してスタッフは『早く退場しろ』と身振りで返してくる。スタッフの側にいる海老塚・藍(フライングラグドール・d02826)が、混乱を最小限に抑えるため、試合の直前にプラチナチケットで主催者側とコンタクトを取り、灼滅者達の乱入を『演出』として話を付けていた事を知らないそのレスラーは、困惑しつつも「覚えてろ!」と悪態を吐きつつリングから出ていく。
    『今回は随分と荒っぽいな、武蔵坂学園プロレス!』
     アナウンス席からのケツァールマスクの声に、
    「ケツァールちゃんの仲間と戦うのは今回で4人目だからね。こういうのだって思いつくよ」
     そう藍が答えると、他の灼滅者達もリングの周りに集まってきて、コーナーポスト上の狼も、少年の姿に変わる。
    「さあやろうぜコンドル! 一番手はこのオレ、ノーティウルフだ!」
     少年──夕崎・ソラ(灰色狼・d27397)は、反対側のコーナーポストに立つコンドルに向かって元気よく名乗った。

    ●コンドルVSウルフ
     ソラの名乗りと共にゴングが鳴り、第1試合が始まる。
     ソラとコンドルが同時にマットに降りると、ソラはエアシューズで一気に間合いを詰め、その勢いで右足を蹴り上げる。すると、蹴り足から炎が上がり、エアシューズと合わせて「何仕込んでんだ!」と周囲からブーイングが上がる。一方コンドルは炎に一瞬怯むもすぐ蹴りで返し、小柄なソラの体はサッカーボールのように吹き飛ぶ。
    「あっぶねー!」
     ダメージを軽減するためわざと後ろへ飛んだソラはロープで跳ね返った勢いで低い体勢からのヘッドロケットをコンドルの胸板に叩き込み、カハッと肺の空気を吐き出させる。
     しかしコンドルも負けじとソラの体を捕まえ、軽々と抱え上げ、ボディスラムでマットに叩き付ける。
    「くぅぅぅっ!」
     すぐ跳ね起きたソラは頭を振って意識をはっきりさせると、コーナーポストに飛び乗って跳びかかり、コンドルの脳天にエルボードロップを見舞う。だがコンドルは左手でソラの首を、右手で腰を掴むと上下逆さまに持ち上げると、そのまま後ろへ倒れ込む。
    「うわぁぁぁっ!」
     ブレーンバスターで思い切り背中からマットに叩き付けられ、身動きできないでいるソラに、コンドルの体が覆い被さる。
    「クソッ! クソッ!」
     コンドルの体を引っ掻いて懸命に抵抗するソラだが、体に力が入らず、抜け出せないままレフェリーの3カウント。試合終了のゴングが鳴る。

    『おっちゃんつえーなー。次会った時は、オレもおっちゃんくらいでかくなってやるぜ!』
     リングから去り際、ソラがマイクを借りて言うと、コンドルもニヤリと笑って返した。

    ●プリティ・ペア
    「次はワタシ達2人が相手ネ!」
     李・美玲(猪突猛進娘・d28803)がリングへ近付いて、
    「シングルで戦うのもいいですが今回はタッグで戦いたいと思います」
     藍が続けて言うと、
    「良いだろう。体格差を連携でどうカバーするか見物だな」
     ケツァールマスクが言う通り、2人とも小柄で、しかも女の子なので、観客は不安の目で見ている。
    「行くアルよ!」
     藍をエプロンに残してリングに上がった美玲は、トップロープをジャンプ台代わりに、サマーソルトキックをコンドルに繰り出す。
     左肩で受けたコンドルは、着地した美玲を掴んでロープに振り、跳ね返ってきた所へラリアットを叩き込む。倒れた美玲にコンドルはジャンピングニードロップで追い討ちを掛けようとするが、そこへ藍がスターゲイザーでカットする。
    「さっきのはいい一撃だったね!」
     立ち上がった美玲はドロップキックをコンドルに叩き込むと、相手もドロップキックで反撃。
    「ごめん、交代ネ」
     同じ技でも質量に勝る蹴りを喰らった美玲は、ふらつく足でコーナーへ下がり、藍にタッチする。
    「行くよ、美玲ちゃんの仇!」
     飛び出した藍は速攻で突っ込むと、身構えるコンドルを前に跳躍。相手の肩に手を突いて一回転、着地先は背後のトップロープ。跳ね上がってドロップキックを、背後へ回る途中のコンドルの側頭部に叩き込む。
     コンドルはパンチの連打で反撃し、そこからキックに繋げようとするのに合わせ、藍は鬼神変で相手の足の裏に突き上げ式のラリアットを叩き込む。
    『おおっ、あの体格差でハリケーンミキサーだ!』
     コーナーへ吹き飛ばされるコンドルに、ケツァールマスクの言葉と共に、観客席から歓声の嵐。
    「まだだ!」
     コンドルも負けじとコーナーポストへ上がると藍に向かって高く跳躍し、空中で回転する。
    「美玲ちゃん!」
     藍に呼ばれて即座に察した美玲はリングに飛び込み、藍の両手をジャンプ台代わりに跳躍、コンドルよりも高く跳ぶと空中で肩に乗り、旋回式フランケンシュタイナーを仕掛ける。予想外の技に対応が間に合わずコンドルは脳天からマットに叩き付けられると、レフェリーが即座にストップを掛ける。
    『空中でハリケーンラナか。見事なツープラトンだった』
     ケツァールマスクがそう解説するまでもなく、観客席は興奮冷めやらぬ様子だ。
    「ふふ、いい試合だったネ、またよろしくアル」
     美玲の言葉に応えるように、コンドルは両手で手を繋ぐように、灼滅者2人と握手して健闘を讃え合った。

    ●キックの鬼
    「一勝、一敗か。さて、本家、本元、の、ルチャ、に、どれだ、け、私、の、技、が、通じる、か……胸、貸して、貰う、よ」
     たどたどしい口調で水島・ユーキ(ディザストロス・d01566)は独りごちながらリングに上がる。
     口下手なユーキは上手くマイクアピールが出来ないので、第3試合開始のゴングが鳴るや、アッパーで先制攻撃。
    「言葉じゃなく、戦いで語るか。良いだろう」
     コンドルは自分を殴ったユーキの右手を掴み、続いて左手も捕らえるとロックアップの体勢になり、そこからユーキをロープへ振って、跳ね返ってきた所をドロップキック。
     倒されたユーキは即座に跳ね起きると立ち上がり様にミドルキックを放ち、コンドルも対して浴びせ蹴り、更にユーキもコンドルの足を踏み台にシャイニングウィザードと、蹴り技の応酬を繰り広げる。
     続いてコンドルが膝蹴りを繰り出すと、ユーキは体を捌いてかわし、ジャンプしてコンドルの首を挟み込もうとする。
     だが、これまでの蹴り技の連続で足に負担が来ていたか、ユーキの両足はコンドルの首を捕らえられず自爆。そこへコンドルが倒れ込んでエルボーを叩き込み、更にコーナーポストの上からジャンピングニードロップでKO負けを喫する。
    「勝負、が、白熱、して、ブラックフォーム、使う、余裕、なかった……」
     荒い息を吐きながら、ユーキは悔しそうに言った。

    ●ブラック&ゴールド
    「負け犬はさっさとリングから降りな!」
     試合終了のゴングが鳴り終わるや、横浜中華まん怪人を模した拳法着姿の黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)が竹刀でリングを叩きながらユーキを恫喝する。普段掛けている眼鏡を外しているので眉間に皺が寄って、一層人相が悪くなっている。
    「何ジロジロ見てんだコラ!」
     ジャガーを模した金ピカの全身スーツ姿でディエゴも竹刀を振り回して威嚇する。竹刀で叩いているのは床や空いているパイプ椅子で、観客に直接危害を加えておらず、ヒールを演出しているだけから、ケツァールマスクも介入して来ない。
    「コンドルか……ジャガーとどっちが上か比べてみるか?」
     そうコンドルを睨み付けながら、ディエゴが摩那と2人でリングに上がる。竹刀を手放しコンドルめがけてダブルドロップキックと同時に、遅ればせながら第4試合開始のゴングが鳴る。
     しかし咄嗟にコンドルはガードを固めて2人のキックを防ぎ、転倒するディエゴにストンピングを浴びせる。
    「何やってんのよ!」
     摩那が胸に隠していた栓抜きを取り出し、コンドルに凶器攻撃。流血でコンドルのマスクが更なる赤に染まる。
     当然観客席からはブーイングの嵐が飛ぶが、摩那は中指を立てるジェスチャーで返し、ディエゴは金ピカのメリケンサックを付けて、コンドルにパンチの連打を浴びせる。
     しかしコンドルも、パンチのために肉薄しているディエゴに逆に密着、背後に回ってバックドロップをお見舞いする。
    「がっ──」
     後頭部を強打され、意識が飛びかけている状態でコンドルにフォールされたディエゴを助けようと、コンドルの頭にサッカーボールキック──のはずが、狙いを外してディエゴの頭をキックしてしまう。
     結局3カウントを過ぎてもディエゴはしばらく立ち上がれなかった。
    (「眼鏡、外さなきゃ良かったかな?」)
     試合の後、誰にも相談できず、一人悩む摩那だった。

    ●鳳凰、羽ばたく
    『さあ、次の相手は誰だ?』
     摩那が退場し、ディエゴがリングから運び出された後、ケツァールマスクがそう問い掛けると、黒のマスクとマント姿の男がリングに向かって走ってくる。
    「トウッ!」
     男はリングの手前で跳躍、空中でマントを脱ぎ捨ててコーナーポストに着地する。
    「俺はブラックフェニックス、どうした赤いの、さっさと飛ぶ準備をしたらどうだ」
     そう挑発的な台詞を放つ三条院・榛(猿猴捉月・d14583)に、コンドルも「望む所だ!」と答えた所で第5試合開始のゴングが鳴る。
     榛は向かってくるコンドルにフライングニードロップで先制攻撃し、コンドルは着地地点へ手を伸ばすが、榛は空中に足場があるかのように再び跳躍して反対側のリングポストへ渡る。榛は再度跳びかかり、流石に二度目はドロップキックで迎撃されるが、更に襲ってくるコンドルをダブルジャンプでかわしてロープ上へ逃れる。
     その後も試合は続くが、ダブルジャンプを多用して、攻撃を受けてもすぐロープかコーナーポストの上に逃げ、マットに降りず上から打撃技の雨を降らす榛に、連戦の疲れもあってかコンドルは主導権を掴みきれない。
    「卑怯だぞ! ちゃんと組み合え!」
     観客席からもブーイングが飛ぶが、
    「フハハハハ! 天空の鳳凰は墜ちぬ! 貴様、ルチャドールの割に飛ぶのが苦手か? 良くコンドルを名乗れるな?」
     そう榛が挑発すると、
    「良かろう!」
     コンドルも乗ってきて、コーナーポストに上がり、2人同時に跳ぶ。
     空中戦であろうとも、ダブルジャンプで上を取れる自分の方が有利──そう榛は計算していたが、予想に反してコンドルの跳んだ先は横のロープ。コンドルの狙いに気付いた榛は二度目のジャンプをするが、ロープの反動と空中戦の経験の差が僅かな高さの違いとなって現れる。
     上方を取られ動揺する榛に、コンドルは組み付くと、手足を極めて落下。榛は脳天からマットに叩き付けられる。
    『決まった! コンドル・ロッホの必殺技、コンドルドライバー炸裂!』
     興奮したケツァールマスクの声と、歓声に混ざって、ゴングの連打が鳴り響いた。

    ●戦士の礼儀
    「いよいよ私が最後ね」
     鈴鳴・梓(修羅の花嫁・d00515)は呟きながら、小袖を羽織り、スタイリッシュモードで悠然とリングへ向かって進む。トップロープを越えてリングに上がり、
    「随分疲れてるようだけど、まだ飛べるの?」
     挑発するようにそう尋ねる梓に、
    「無論だ。どんな試合、どんな体でも、全力で戦う。それがルチャドールの礼儀だ」
     血のこびりついたマスク、傷と痣だらけの体で、それでもコンドルは答える。
    「本当かしら、ねえ皆さん?」
     梓が観客席に向かって問い掛けると、小馬鹿にしたように聞こえたらしく、ブーイングが返ってくるが、そんな物は戦いで魅せて止めてみせるとばかり、梓は表情を変えずに小袖を脱ぎ捨て、直後、最終試合のゴングが鳴る。
     梓は最初にロープを使ってジャンプするとクロスチョップ。コンドルは正面から胸板で受け止め、ボディスラムで返す。梓は立ち上がってシャイニングウィザードを繰り出すと、コンドルは梓を掴んでロープへ振り、返ってきた所をラリアット。倒れた梓にコンドルはコーナーポストの上からムーンサルトアタックを降らせる。
    (「あれだけ連戦を重ねて、疲れもダメージも限界のはずなのに──それでこそ、アンブレイカブル。超えるべき壁であり、学ぶべき強さを持った敵!」)
     既に満身創痍の身でありながら、未だにコーナーポストに立って、空中技を仕掛けてくるコンドルに、梓は尊敬の念すら抱く。
     だからこそ、梓は放つ。コンドルへの尊敬と、自身の全力を込めた技を。
     梓はコーナーポストのコンドルに向かって跳躍すると、『来い!』と目で言ってくるコンドルに、この連戦の最後を飾る、雪崩式フランケンシュタイナー風ティヘラを繰り出した──

    ●重なる因縁
    「コンドル相手に2勝4敗か。見事だったよ」
     意識を失ったコンドルを軽々と担ぎながら、ケツァールマスクは続けて言う。
    「見ろ、この歓声、この拍手。彼と君達の試合を見て、あの団体のレスラー達も、自分達が目指していたプロレスを思い出しただろう」
    「そろそろ貴女が相手をしてくれない?」
     自身も少なからぬダメージを負っているにも関わらず、挑発の台詞を吐く梓に、
    「それはいつか、別のリングで」
     そう返して、ケツァールマスクともう1人は会場を去って行く。
    「やっぱり、惜しい……。学園、で、興行、やって、くれ、ない、かな……」
     残念そうにユーキが言うと、
    「もしそれが実現できたら、どんなスゲェ興業になるだろうな」
     ついディエゴの口からそんな言葉が漏れ、「いや、金儲けなんか考えてねぇから!」と慌てて周囲に訂正するのだった。

    作者:たかいわ勇樹 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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