「…………」
断崖絶壁、そこに男が居た。大きな男だった。大雑把な男だった。ただ、何をするでもなくそこに立ち続ける男へと、その声は問いかける。
「灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね」
その声に、男はようやく振り返った。そこにずっといた幼い少女の姿を、男は見下ろす。
「このやり取りは、何度目だった?」
「十と四度目です」
「ならば、十と四度目の答えを返そう――後悔など、微塵もないぞ?」
男は――狂える武人の残留思念は、そう真っ直ぐに答えた。
「全力を尽くした。片腕であった事は、言い訳にならん。それでなお、五分と五分、それを超えて俺を倒してのけた。連中を褒めこそすれ、そこに後悔など抱く謂れはどこにもない」
男は、真っ直ぐにそう告げる。少女は見上げ、男は見下ろす。その視線が交わり――少女は、口を開いた。
「灼滅されて尚、残留思念が囚われているのですね」
十五度目の断言に、男は再び海を眺めようとしたその時だ。初めて、違う言葉が重ねられた。
「あるはずです、後悔が。だからこそ、『あなた』はこうしているのです」
「――――」
男は、動きを止めて少女を見る。少女は、それ以上は語らない。男は、重々しく口を開いた。
「アンブレイカブルとして、戦い抜いた。それ以上の結果を求める必要が、どこにある?」
「…………」
「あろうはずもない。俺は――」
十五度目にして、男の表情が変わる。もしも、後悔のない自分がこの世に想いを残した理由があるのだとすれば――。
「……そうだな。俺には、鍛えてみたい面白い連中が確かにいたな」
そこにようやくたどり着いたその男――羅弦より上、空を見上げて少女、コルネリウスは告げた。
「……プレスター・ジョン。この哀れな狂える武人をとっととあなたの国にかくまってください」
「おい、何か本音が漏れたぞ?」
「…………」
「…………」
字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)と湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は、揃って生暖かい笑みを浮かべた。
「武神大戦天覧儀で倒れたアンブレイカブル、羅弦の残留思念に慈愛のコルネリウスが力を与えるんすよ」
翠織はしみじみと、そう語り始めた。本来、残留思念などに力は無い。だが、大淫魔スキュラのように、残留思念を集めて八犬士のスペアを作ろうとして例もある。高位のダークネスならば、そんな残留思念に力を与える事も可能なのだろう。
「慈愛のコルネリウスが羅弦の残留思念に呼びかけを行った所に乱入して、彼女の作戦の妨害を行って欲しいんすよ」
慈愛のコルネリウスは、強力なシャドウであるため、現実世界に出てくることは出来ない。その幻は実体を持っていないため、戦闘能力などはない。コルネリウスは灼滅者に対して、強い不信感を持っているようで、交渉などは行えない。
「で、羅弦の方なんですけどね? もう、戦う気満々っす。こっちがギリギリ倒せた時と同じ片腕っすけど、その強さは……」
「ああ、身を持って知っている」
望は、そう小さくうなずいた。羅弦自身はすぐに動こうとはしないが、こちらが接触しなければ事件を起こして呼び寄せようとするだろう――そんな犠牲を出すような真似は、させられない。
「羅弦が力を与えられるのは、天覧儀で戦った断崖絶壁っすね。戦闘方法などは、前回と同じっす」
コルネリウスが力を与えた直後、姿を見せれば羅弦は喜んで戦いに応じるだろう。しかし、前回は全力を尽くしてなお、こちらが敗退一歩手前まで追い込まれた相手だ。一度勝ったからと言って、油断出来る相手ではない――。
「んじゃ、数で攻めればいいんじゃね?」
ガラ、と教室のドアを開けて入って来たのは、南場・玄之丞(小学生ファイアブラッド・dn0171)だ。翠織の視線を受けて、玄之丞はあっけらかんと言った。
「その羅弦のおっさんは、オレ達の事を鍛えたくて残留思念になったんだろ?」
「……らしいっすね」
「なら、それに応えなきゃいけねぇだろ。ほら、おっさん流に言うと、あれだ……」
玄之丞は頭の横で人指し指をくるくると回して、言った。
「そいつが、喧嘩の流儀ってもんだろ?」
「……簡単な脳みそしてるっすね」
翠織は、そうため息をこぼす。苦笑いしつつも、翠織は告げた。
「そうっすね、八人をメインに。サポートさんも、羅弦から学びたいなら存分にやればいいと思うっす」
翠織は、何かを吹っ切ったように言う。これは、戦う力を持った者がすべき選択だ。エクスブレインとしては、それを尊重するのが筋というものだ。
「でも、慈愛のコルネリウスは何を考えているかわからないダークネスっす。羅弦を倒せなければ、どうなるかわからないっすから、全力で倒しに行って欲しいっす」
参加者 | |
---|---|
字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787) |
式守・太郎(ブラウニー・d04726) |
淳・周(赤き暴風・d05550) |
龍田・薫(風の祝子・d08400) |
汐崎・和泉(碧嵐・d09685) |
安田・花子(クィーンフラワーチャイルド廿・d13194) |
月村・アヅマ(風刃・d13869) |
七篠・零(旅人・d23315) |
●
「……プレスター・ジョン。この哀れな狂える武人をとっととあなたの国にかくまってください」
「おい、何か本音が漏れたぞ?」
掻き消えていくコルネリウスに、羅弦は苦笑と共に言い捨てる。見下ろす視線の中で消えていく少女を見送り、右の拳を握り締めて視線を上げた。
「――やはり来たか、武蔵坂学園」
その金色の瞳の先に、灼滅者達の姿がある。サーヴァントを入れれば、総勢五十を超える『軍勢』だ。それを前に独り立つアンブレイカブルの表情には、変わらぬ笑みがあった。
ペコリ、と礼儀正しく頭を下げたのは龍田・薫(風の祝子・d08400)だ。
「お噂はかねがね……龍田薫と霊犬しっぺ。一手、指南賜ります」
「相変わらず、話の早い連中だ」
羅弦のその言葉に、安田・花子(クィーンフラワーチャイルド廿・d13194)もうなずいた。
「初めてお目にかかりますわね、羅弦様。貴方の噂は灼滅者仲間から聞き及んでますわ。私の名はクィーン☆フラワーチャイルド2世、此度、貴方と対峙する者の一人。貴方のその「喧嘩の流儀」……お教え頂きますわ!」
「殺し合いは好きじゃないけど、全力でぶつかるのは嫌いじゃないな」
呟き、七篠・零(旅人・d23315)が呼吸を整える。血が滾るような戦いを満足するまで繰り返す、それはある意味純粋なのだと零は考える……ケンカが弱い自覚はあるけど、こういう人を見るともっと強くなりたいと思わされる、と零は目の前のアンブレイカブルに確かに憧れに似た、何かを抱いた。
「北海道でした再戦の約束をこれで果たせますね。最後まで立ち続ける覚悟で臨み、あれから鍛練してきた全てをぶつけます」
「限りなく本人に近い別物なんだろうがな。まあ闘う意思が同じくあるならそんな事は大した問題じゃねえか。あるのは乗越える為の、学ぶ為の闘争。なら無様は晒せねえ、ヒーローとして派手にぶちかますぞ!」
白いマフラーを潮風に靡かせる式守・太郎(ブラウニー・d04726)に、淳・周(赤き暴風・d05550)が言い捨てれば、羅弦は軽く一歩踏み出した。それだけで、灼滅者達は空気の変質を感じ取る。それに、南場・玄之丞(小学生ファイアブラッド・dn0171)も笑って言ってのけた。
「おお、おっかねー」
それは、全員の総意だったろう。かつての力を寸分違わずに取り戻しているのだ――字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)が口を開いた。
「そういえば前回はまだ名乗ってなかったな。僕は字宮・望。羅弦、お前の進んだ螺旋の運命に繋がった名だ……覚えて貰うぞ」
「ク、ハハ、気が早いぞ? まさか、もう勝ったつもりでもあるまい?」
笑い、羅弦は赤と黒のオーラで描いた螺旋の拳を掲げ、名乗った。
「名乗るぞ、先を行く者の流儀だ。アンブレカブル、羅弦。推して参る」
「――それじゃ、『喧嘩』を始めるとしますか」
蒼炎闘衣を身にまとい、月村・アヅマ(風刃・d13869)が言った瞬間だ。羅弦の右腕が豪快に振り回され、螺旋の蛇が灼滅者達をなぎ払った。
「これは――!?」
砂塵が巻き起こるその中で、太郎が息を飲む。音もなく砂塵が打ち砕かれ、雷をその右拳に宿した羅弦が飛び込んで来たからだ。再行動による連撃、その前に一台のライドキャリバーが立ちふさがった。
「ファルケ! 守りなさい! 貴方が壊れても誰も傷つかないのですから!」
ディートリッヒの言葉を忠実に守り、ファルケが粉々に粉砕される――もしも、その一撃を受けていたのならば、そう連想させるのに十分な一撃だ。
「教える、と言っても口では伝わらぬものが多い。ならば、拳で語る他なし!」
「オレは護り手だけども、穿つ強者の強さというものを学びたい、手合わせ、よろしく頼むぜ!」
汐崎・和泉(碧嵐・d09685)のその言葉と同時、その背から炎の翼が展開される。それに合わせて玄之丞の、サポート達のフェニックスドライブが無数に折り重なった。
「ハハハハ!! これはイフリートの群れと殴り合った時も見れなかった絶景だな!」
楽しげに笑う羅弦へと、炎を突っ切った灼滅者達が殺到した。
●
「アタシの魂の一撃、受け止めてみろ! 羅弦!」
「おう!」
拳に炎をまとわせた周に、羅弦は腰を落とす。加速を殺さない、そのままヒーローの矜持を硬く握り締めた拳を全体重を集中させ羅弦の厚い胸板へ叩き込んだ。金属がぶつかり合うような轟音を響かせ、周の一撃を羅弦は受け止める。
「気合いの入った、よい一撃だ」
「どこにいる正義のヒーローだ、今はそう覚えておけ!」
周が横へ跳んだ直後、その影に隠れていた薫の赤く染まる鬼神変の一撃が放たれる。羅弦は、それを右の掌で受け止めそのまま引いた。
「今のは、よい動きだ。連携の取り方に正解はない、己に合ったやり方を以後も精進するがいい」
羅弦にそのまま放り投げられながらも、薫の口元に浮かんだのは笑みだった。霊犬のしっぺによる浄霊眼による回復を受けながら、太郎は己の疾走で生み出す風にマフラーを躍らせ、羅弦の死角へ死角へと回り込む。
羅弦は、灼滅者達へと視線を走らせる。その中で、駆け込んで来る望を見やった。
「残留思念となってまで会えるとはな。……僕達は残留思念となったお前も拳へ宿し、先へ進む」
繰り出した望の槍による刺突に、羅弦は螺旋を描く拳を重ねる!
「アンブレイカブルなんだ、しんみりしたのよりは派手な最後を。さぁ、喧嘩しようか!」
槍が、拳が、互いを弾き合う――そこへ間隙を突いた太郎の不撓不屈の薙ぎ払いが、羅弦の太ももを切り裂いた。
「ここであなたを超えさせてもらいます」
「それは少し、欲張りが過ぎるぞ?」
構わず放たれた羅弦の大砲がごとき前蹴りを太郎は不撓不屈で受け止め、後方へ跳ぶ。そこへ、花子は掌に生み出したオーラの砲弾を投擲した。
「行きますわ!」
その狙いをすました花子のオーラキャノンを、羅弦は引き戻した右腕で叩き落とそうとするが――間に合わない。顔面に直撃し、爆音を轟かせた。そこへ、アヅマは蒼い炎を集中させた跳び蹴りを叩き込む!
「お?」
思わず素でアヅマが声を漏らしたのは、叩き込んだスターゲイザーの感触がまるで硬い壁を蹴ったような感覚だったからだ。爆発の噴煙が晴れると、アヅマは自分の感覚が間違っていない事に気付いた――羅弦はアヅマの蹴りを頭突きをするように額で受け止めていたのだ。
羅弦がアヅマの足首を掴もうとする、そこへ霊犬のハルが羅弦の脛を斬魔刀で切り裂き、ビハインドのセバスちゃんが霊障波を叩き込む。
「これも一つの戦い方だ」
零は癒しの矢の一矢で、アヅマを回復させる――アヅマも羅弦の手から逃れ、そのまま着地、羅弦から間合いを取った。
「よし、残りの者も存分に来い。好きなように、学んでいくがいい」
挑発、と呼ぶにはあまりにも真っ直ぐに、羅弦は言ってのける。それに、義和が笑って言った。
「不謹慎だがありがたいね。こう言った相手なら、後腐れがない」
「鍛えたいのが未練なら、せめてその戦いを見届けて学ばせてもらいます!」
うなずいてウサギが、地面を蹴る。それに、闇が滴り落ちる黒い魔剣の姿のシャドウと折花が続いた。
「人造灼滅者・花衆七音や。あんたの未練、この場で断ち切らせて貰うで!」
「手合わせを願おうか、羅弦」
「おう、来い来い。俺も心底、楽しませてもらうぞ!!」
迫る灼滅者達を、羅弦は歯を剥いて笑い迎え撃った。
●
それは、ある意味で夢のような光景だったかもしれない。
「いっぺんやりあいたかったんや! 喧嘩上等や」
指輪と共に握って短刀のような杖を握って、悟は羅弦の懐へと潜り込む。渾身の一撃が羅弦の脇腹を強打する――しかし、羅弦は平然と悟の頭へと肘を落とした。
「これがこいつの……えぇな、熱っつ!」
重ねるように膝が跳ね上がるが、そこへ想希が放った鋭い黒死斬が羅弦の太ももを切り刻んだ。
「悟がくれた好機無駄にしない」
「ほう、今のは良かったぞ? その無鉄砲の背を、きちんと守ってやるがいい」
羅弦は悟を無造作に抱えると、技ではなくただ想希へと投げつけた。そこへ、緋世子が踏み込む。
「ストリートファイターの俺としちゃあ、アンブレイカブルから学ぶにゃこの手に限るぜ!」
「よし、付き合ってやる」
小柄な緋世子が拳を振り上げ、羅弦はそれに拳を振り下ろす。一撃、二撃、三撃、殴り合いながら羅弦は笑った。
「小柄だが、体重の乗ったいい拳だ。だが、小兵であるのなら相手の土俵で戦わぬ選択を選べるのも技と知れ」
羅弦は後ろに踏み出しての四発目で緋世子の体が浮かび上がり、拳が空を切る。リーチ差、それを埋めるのは真正面では至難の業だ。
「それでもなお、貫きたくば精進しろ」
緋世子へ左の後ろ回し蹴りを叩き込もうとする、それを隆漸が防いだ。羅弦への鋼鉄拳の拳、しかし、羅弦の大きな手が隆漸の頭を掴む。
「倒すのではなく、守るための拳――前者より、後者の方が至難の道だぞ?」
「それがどうした?」
真っ直ぐに返した隆漸に、羅弦は強くうなずく。
「覚悟があるのならば、誇ってその道を歩め」
ヴォッ! と羅弦は隆漸を豪快に投げ飛ばした。その目の前にちょこんと立っていたのは、アリスだ。
「羅弦さん、はじめまして……私みたいな、小さな……しかも女の子のお相手は、羅弦さんも、不本意かもしれませんけど……どうか、お手合わせお願いします……!」
「構わん、全力で来い」
いっそ優しく告げる羅弦に、まず跳びかかったのはミルフィだ。アリスの頭上を跳び越え、強力な跳び蹴りを叩き込む!
「では、わたくしも一手、お手合わせ願いますわ……!」
ミルフィのスターゲイザーが羅弦の胸板を捉えた瞬間、アリスはギルティクロスが、逆十字の傷を羅弦へと刻んだ。羅弦は踏ん張り、その攻撃を受け切り――ミルフィを掴むとアリスの横へ下ろし、笑った。
「未熟とは、先があると同義。支え、共に練磨する者がいる事を幸福と思え」
その直後、羅弦は振り返りざまに右拳を振るった。その拳が螺旋を描く砲弾を砕く――その先に居たのは、ウツロギだ。
「さっきから、ちょろちょろと遊んでいるな、お前は」
苦笑した羅弦、しかし、ウツロギはニヤリと笑う。その笑みの意味は、采と霊犬が示した。左右からの挟撃、それに羅弦の反応がわずかに遅れる。
「――お?」
そこへ、七音と紫桜里の戦艦斬りの一撃が振り下ろされる!
「この身体は覚悟の証!ただ一振りの剣として、あんたらダークネスを叩き斬る!」
「さあ、存分に喧嘩をしましょう!」
右腕を半ばまで切り裂かれ、羅弦は強引に二つの斬撃の軌道を変える。しかし、そこへ手刀を構えた詩乃が迫った。
「一手、ご指南願います!」
放たれる鋭い一撃に、羅弦は大きく横へと跳んだ。この戦いで初めて見せた明確な回避、その動きに詩乃の手刀は空を切る。
「今のは、肝が冷えたぞ? よくぞそこまで繋いだ」
羅弦の言葉に、詩乃は一礼する。その言葉で、教わるべきを教わった、そう思ったからこその礼だ。
「まだまだ、どっせい!!!!」
「来たか、跳ね返りめ」
水海の異形の怪腕によるラリアットに、羅弦もラリアットで応える。互いの腕が激突し、動きが止まり、そこへ透流が巨人の豪腕を思わせるガントレットの拳を叩きつけた。
「やらせない……!」
裂帛の気合いと共に繰り出された一撃に、羅弦の足がわずかに宙を浮く。そこへ、折花とクロエが同時に踏み込んだ。
「行きますよ! 鬼神変です、もっちーくん、ボク達の連携をお見せしましょう」
クロエが言い放ち、もっちーがたつまきを巻き起こす。そこへ、クロエと折花の鬼神変が叩き込まれ、羅弦は強引に着地した。
「我が名は白鐘睡蓮。武人よ、お前を見送る一撃を受け取ってほしい」
そして、そこへ睡蓮が渾身のシールドに包まれた一撃が顔面を捉え、純也のDMWセイバーの横薙ぎが胴を捉えた。
羅弦が、地面を転がる。そのまま、大の字に転がった羅弦を、クレイは、奈落は、それぞれの想いで見詰め続けた。
倒れたままの羅弦へ、透の殺気が、射干の影が襲い掛かる。それを羅弦はヘッドスプリングで立ち上がり、横へとかわした。
「面白い!」
地面に足を擦らせて摩擦を起こすかのようなキィンの膝蹴りを、羅弦も膝蹴りで受け止める。そして、そこへエリが踏み込んだ。
「勝手に名乗るよ、見送る者のただの我が儘として。エリ・セブンスター、いつか、いつかアタシはアナタのようにっ……」
涙を浮かべながらのエリのオーラの螺旋を描く拳を、羅弦は螺旋を描く自身の拳で迎撃した。
「全てを正面からっ!」
その拳に万感の想いをこめたエリに、羅弦が返した言葉はただ一つだ。
「止めろ、堕ちるな」
その言葉に、シャルロッテが目を細め、ヴィンツェンツが息を飲んだ。その言葉の意味を、羅弦は自ら語った。
「ヴァンパイア、アンブレイカブル、イフリート、六六六人衆、ソロモンの悪魔、シャドウ、羅刹、ノーライフキング、淫魔、ご当地怪人、デモノイド、スサノオ――これだけのダークネスが、同一の陣営で介するなど、俺が知る限り存在しない。当然だ、ダークネスとは結局は個人、あるいは種族のためにしか動かないのだから」
羅弦は、静かに語る。その口元には、抑え切れない笑みがあった。
「そう、それがお前達の強さだ。個の強さではなく、群の強さ。そして、一種に偏らぬ多様性、それこそがダークネスに無き、お前達の特性だ。その『強さ』がどこに至るのか? 見届けてみたくもあったが……まぁ、今はそれはいい」
羅弦は、見やる。その視線を受けた八人へ、言った。
「前に出ろ、最後に教えるべきはおそらく最小の八人での戦い方だろう」
その言葉に、和泉が玄之丞を見る。今の八人に、玄之丞は含まれて居ない――しかし、当の本人が笑っていった。
「オレも十分教わったから、いいって。気にせず、思いっきりやって来いよ、和泉兄ちゃん、ハルもな」
「ああ」
和泉はうなずき、そして言った。
「全てをこの一戦に! これが、オレ達の強さだ!」
「おう、来い!」
●
「思い残し無く……全てを出し切る!!」
望が、駆ける。しかし、羅弦の動きが半瞬速かった。ゴォ! と渦巻く螺旋拳、望はそれを槍を構えて迎え撃つ。
「まだまだ届かないかもしれないが……これが僕の螺旋だ! 穿て!!」
渾身と渾身が、激突した。羅弦の拳が大きく弾かれる、望の刺突がその胸を刺し貫いた。が、羅弦の動きは止まらない。
「やはり強い……まだまだ先に立つか。だがなんだろうな、凄く楽しいぞ!!」
「存分に味わえ」
そこへ、羅弦の再行動、フォースブレイクの掌打が叩き込まれる。望は意識が刈られそうになるが、ギリギリで踏みとどまった。
「穿つ強さと護る強さのぶつかり合い、だ! 遥かな高みへ、より高みへ!」
そこへ、和泉のスターゲイザーの重圧の蹴りが叩き込まれる。胸元にその蹴りを受けながら、羅弦は右の拳で和泉を地面に叩き付けようと――。
「――ハル!」
羅弦の眉間に、ハルの六文銭が命中する。軌道の逸れた拳を和泉はかいくぐった。
「このクィーン☆フラワーチャイルド2世の名において!」
花子のデッドブラスターが、セバスちゃんの霊障波が、同時に炸裂する。ゴォ! という衝撃に、羅弦の体勢がわずかに崩れた。
「ここ、だ!」
そこへ、零の相棒の縛霊手を嵌めた右手で引いた一矢が射られる。羅弦の右肩に突き刺さり、更に体が泳ぐ――そこに、周は右手をかざした。
「噛み砕け!」
黒い影糸が羅弦を巻き込むように締め上げていく、周の影縛りに合わせて、太郎がマフラーをなびかせ羅弦の懐に潜り込んだ。
「これが俺の全力の拳です!」
雪のように白く、氷のように鋭いオーラを宿した拳の連打が羅弦を打ち据えていく。
「やらせてもらう」
そして、アヅマの天津甕星による鋭いフォースブレイクの一撃が炸裂した。羅弦は動かない。その全てを受け止めるように踏ん張った。
「来い」
羅弦の言葉に、うなずいた薫がしっぺと共に駆ける。しっぺの斬撃を、羅弦は螺旋の拳で受け止め、そのまま薫へと繰り出した。その迫る拳に、薫は集中する。
(「この細腕を捻るだけじゃ威力は足りない」)
薫は、体全体で回転を生み出す。螺旋と螺旋、その激突は鬼神変によって右腕を強化した薫の貫手が羅弦の胸を刺し貫く事によって、決着した。
「今のを、忘れるな。個々で勝てず、とも、お前達――」
言葉は、最後まで紡がれない。しかし、その教えは確かに彼等の中へと刻まれている――アヅマは、静かに問いかける。
「……これが俺達の全力だ。満足してもらえたか?」
「淳・周、この名前、覚えていってくれ」
アヅマの問いかけろ敬礼する周に、羅弦はただ笑う。再び立ったまま掻き消えた狂える武人に、花子も敬礼した。
「羅弦様……貴方のその流儀、しかと記憶に留めましたわ。この場へと導いてくれたコルネリウス……少しばかり感謝しませんとね」
「あなたの想いを背負い、きっとさらなる高みへと」
「……あなたの螺旋、ぼくは繋げたかな」
太郎はそう決意と共に呟き、薫は確かに止めを刺した自分の手をみ手こぼす。答えはない、答えはこれから自分達の手で出さなくてはいけないのだ。
「ありがとう……羅弦」
望の呟きが、潮風に飲まれ掻き消される。ここに、狂える武人から受け継ぐための戦いが終わりを告げたのだった……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年7月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 38/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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