お菓子の夢のおかしな魔女

    作者:志稲愛海

     チョコレートにクッキー、プリンにケーキ。
     食べても食べてもなくならない、夢のようなお菓子の国。
     そして――好きなだけ食べていいのよ? と。
     そう、お菓子のように優しく囁きかける、誰かの甘い声。
     きっとこれは……お菓子の国の魔女の声に違いないわ。
     イチゴタルトに手を伸ばしながらも、私はそう思うの。
     ……え? 何で天使とかじゃなくて魔女なのかって?

     それはね、この夢が。
     悪夢以外の――なにものでも、ないから。

     ほら、このイチゴタルトを私がぱくり、食べ終わった瞬間。
     目の前に、アップルパイとジャンボパフェが出てきたでしょう?
     このお菓子の国のスイーツはね……食べても食べても食べても、なくならないの。
     

    「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が、来たようだな!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は集まった灼熱者達を見回して。
     ちょっと邪眼的な何かが疼いてるちっくなポーズを取りつつも、続ける。
    「今こそ俺の脳に秘められた全能計算域(エクスマトリックス)が、深遠の闇たる輩と戦う灼熱者達の生存経緯を導き出す! そして俺はおまえ達を歓迎する。どうだ、この闇を止められるか? いや、きっとおまえ達なら止められると、この俺の脳が……」
    「あの……盛り上がっているところ、申し訳ないのだが」
     そうヤマトの台詞をぶった切ったのは、凛とした印象の小学生の少女であった。
     そしてその少女・綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)は、ちょっぴり申し訳なさそうにこう続ける。
    「そろそろ、解析結果の未来予知を聞かせてくれないだろうか」
    「なん……だと?」
     小学生女子にそう言われた中学生男子なヤマトは、大きく瞳を見開いた後。
     素直に、今回導き出された未来予知をようやく語り始める。

    「今回察知できたのは、ある少女が見ているという悪夢。勿論これは、闇たる存在・ダークネスの仕業だ。そして夢に干渉する力を持つダークネスといえば……」
    「シャドウか」
     ふと表情を引き締め、短く言い放つ紗矢。
     それに頷き、ヤマトは続ける。
    「その通り。悪夢をみせられている中学生の少女・リホの夢の中は、お菓子の国。何故かどんどん伸びてしまう己の手に、食べても食べてもなくならないスイーツの山。まさに、∞(無限)ループだ。どうやら、無類の甘いもの好きな彼女が、無理にダイエットでスイーツ絶ちをしたことによるストレスが原因で心に隙ができ、シャドウにつけこまれたようだな」
    「……お菓子だと?」
     ヤマトから聞いた説明に、今度は紗矢が大きく瞳を見開いて。
    「甘い物は苦手か?」
     そんな彼の問いに、今まで以上に目を輝かせ、ぐっと気合を入れる。
    「大丈夫だ、わたしに任せておけ」
     実は紗矢は……無類のお菓子好きなのです。
     そんな心強い紗矢の言葉に頷いた後、ヤマトは敵の詳細を語る。
    「ソウルボードにソウルアクセスしたら、そこにはお菓子を食べ続けているリホがいる。元々お菓子は好きな彼女だが、ダイエットのこともあるし、止まらない手や増え続けるお菓子にさすがに滅入ってきているようだ。なので、まずは彼女にとってこの夢が『悪夢』でなくなるように……一緒に楽しくお菓子を食べてやったり、食べるための手助けをしてやって欲しい。そして彼女にとってその夢が『悪夢』でなくなり始めたら、邪魔な侵入者を排除すべく、シャドウが現われるだろう」
     現われるシャドウは、ハートのトランプマークを象徴とする、マテリアルロッドを持った魔女のような帽子をかぶったシャドウ。お菓子の兵隊10体ほどを配下に従え、襲ってくるという。
     シャドウがもし激怒し現実世界で相手をすることになると、到底今の灼熱者の能力では太刀打ちができないが。悪夢の中であれば、シャドウ本人の戦闘力もそこそこ、配下は数だけで戦闘能力は低い。
     あまり刺激しすぎぬ程度に悪夢の邪魔をし、悪夢内でシャドウや配下を撃退して、リホを救ってあげて欲しい。
    「わたしもつい先日、シャドウに悪夢をみせられ、闇堕ちしてしまった。それに、同じ甘いもの好きであるリホを救い出したい。だから全力で、シャドウを撃退してみせる」
     決意に満ちた瞳で紗矢はそう言った後。
    「よし。ではまずは、リホのソウルボードにアクセスし、お菓子を沢山食べなければな」
    「何だかすごく目が輝いているぞ、綺月!」
     一層気合を入れる紗矢にツッこんだヤマトは、それから皆を見回して。
    「ルービックキューブでも、焦ると合わせられる色も合わせられないし、未来予測の優位はあったとしてもダークネスの戦闘力を侮る事はできない。全員で協力して、必ず生きて帰ってきてくれ」
     そう手の中のルービックキューブをカチリと合わせつつ、灼滅者を送り出す。


    参加者
    忍野・汐(心分子・d00332)
    竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    淡路・花幸(音速のグラロス・d02402)
    アリス・バスカヴィル(黒兎・d03223)
    月見里・无凱(深淵ノ魔術師・d03837)
    イシュトリア・トワイライト(戦場の庶民派お嬢様・d04177)
    荒野・鉱(中学生ダンピール・d07630)

    ■リプレイ

    ●夢の中へ
     バサバサッと夏風に大きく煽られ揺れるレースのカーテンを見上げながら。
    「……私、木登りは苦手なのよね」 
     月光を浴びた紫の瞳を2階の部屋へと向け呟くのは、神薙・弥影(月喰み・d00714)。
     シャドウの悪夢に苛まれている少女の部屋は、どうやら2階にあるようだ。
     だが幸い、木登りをせずとも1階から家屋に侵入できると知った弥影は少しホッとした後。
    「お邪魔します、ってね。少し罪悪感があるけど」
     仲間達と共に足音を立てぬよう、夢魔に囚われた少女――リホの元へと急ぐ。
     リホの精神をじわり蝕み縛るのは、無限に増えるお菓子たち。
    (「甘いものは僕も好きです。でも、その甘い世界に囚われてしまうのは良くないですよね」)
     いくら甘い物が好きでも、それをたったひとりで毎夜食べ続ける夢は、悪夢以外の何物でもない。
     竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)は、リホを必ず救ってみせましょう、と。軋む階段を上って。
     そっと、彼女の部屋の扉を開けた。
     まず藍蘭が目を向けたのは、机にちょこんと置かれた小さなサボテン。
     白い壁にピンク色の家具、こまごま置かれた可愛らしい雑貨が、部屋の主が女の子だということを物語っていて。並んだチープなミニリップやマニキュアが、年頃の少女を思わせる。
     だが、その部屋の主は今――悪夢にうなされベッドを軋ませ、身を捩っている。
    「さぁて、甘い悪夢に招待されましょっかねぇ」
     ガスマスクで覆っている顔を、淡路・花幸(音速のグラロス・d02402)はぐるりと沢山の仲間達へ向けた後。
    「うむ。リホを必ず悪夢から救い出すぞ!」
     抱いた黒兎と共に頷くアリス・バスカヴィル(黒兎・d03223)や他の皆を伴って。
     リホの精神世界へと、アクセスを開始する。
    (「相変わらず、シャドウはめんどくさい代物です」)
     激怒させずにやんわりと追い出さなくてならないのだから、と。
     悪夢にうなされる少女を見つつ、その銀の瞳を覆う眼鏡をクイッと上げた月見里・无凱(深淵ノ魔術師・d03837)も。
    (「我、魂に刻まれし扉(精神世界)の鍵を持つ影守人、我請え(こえ)に応えよ」)
     同じく宿敵の元へ向かうべく、皆を夢の世界へと運ぶ。
     今回リホを助ける為に、大勢の灼滅者が集まったが。
     宿敵シャドウの事件だからか、弥影や花幸や无凱、忍野・汐(心分子・d00332)や綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)と、ルーツがシャドウハンターの者が多数いて。
     玲や采や他の皆もソウルアクセスを展開することにより、赴いたほぼ全員が、リホのソウルボードへ無事侵入可能となる。
     そしてそんな仲間達を見送る蔵乃祐や友衛やヴィランが、安心して皆が事を済ませられるようにと現実世界で待機する中。
     刹那――バサリと、再び揺れたカーテンの隙間から射す妖しい月の光が。
     悪夢に苛まれる少女を、仄かに照らし出す。

    ●お菓子の国のお茶会!
    「夢の世界が夢の国……」
    「美味しそうなものがいっぱいだなっ」
     ソウルアクセスした皆が辿り着いた夢の中は――そう、お菓子の国。
     そんな夢の光景に目を輝かせる弥影やアリスの横で。
    (「まずは……このてんこ盛りのお菓子を、だな」)
     眼鏡を再びくいっと上げ、お菓子の山を見遣る无凱。
     忍野・汐(心分子・d00332)も、甘い物は好きなのだけれども。
    (「……こんなところにずっといたら、気が狂ってしまいそう」)
     あまったるいのは嫌いだよ、と周囲を見回してから、次々にお菓子へと手を伸ばしている少女を見つける。
     同じくその姿を見て。
    「自分も食べるのを手伝うっす」
     荒野・鉱(中学生ダンピール・d07630)は、ここぞとばかりにお菓子を食べるべく、沸いて出るスイーツに目を向けた。
     ダンピールだから人間らしいものを食べなくても死なないが、それでも普通の食事がしたくて。でも反面、食べなくても平気な自分がそんな食事をするのは勿体無いと。そう常々思っている彼だが。
     ここは精神世界。そして目の前のお菓子は、夢の中のものだから。
     そしてイシュトリア・トワイライト(戦場の庶民派お嬢様・d04177)も、リホを見つめ思う。
    (「リホさんは、好きなお菓子とはいえ辟易としてきてしまっているかもしれないけれど」)
     でも、それでもきっと……一人ではなく皆と一緒ならば、とても楽しいものになるだろう。だからその楽しい気持ちのままに、この悪夢を悪夢と思わせないよう終わらせてしまいたいと。
     仲間と共に、少女へと歩み寄る。
    「私はアリス、黒兎はエリオットだ。良ければ君の名前を教えてくれないか?」
    「私はリホよ」
    「リホさん。ね、おいしい?」
     ドーナツに手を伸ばしながらアリスに答えたリホであるが、汐の問いにはどう答えていいか分らない表情を宿す。
     そんな彼女に、汐は続ける。
    「ひとりで食べたるよりみんなで食べるほうが美味しいよ。ぼくも一緒していいかな」
    「美味しそうなお菓子ね。私も食べていいかしら?」
     弥影も、ずっと一人でお菓子を食べてきっと気が滅入っているでしょうから、と。
     テーブルセットとさっぱりした紅茶を用意し、リホにこう声をかけたのだった。
    「お菓子ばかりで飽きてないかしら? お茶会にしましょう」
     楽しくて賑やかな、お茶会のお誘いを。
    「お茶会でも開くのか? 私も混ぜてくれないかっ?」
     悪夢を悪夢じゃないようにすればいいのだ、と。アリスもリホに笑いかけながら周囲を見回す。
     お茶会へと次々と参加の声を上げるのは、ソウルボードへ駆けつけた大勢の仲間達。
     ――だから。
    「楽しいお茶会の始まりだ!」
     だからきっと、大丈夫。

    「お菓子の国のお茶会なんて、皆一度は見る夢じゃないっすか?」
    「子どもの頃、ケーキ1ホール丸ごと食べる! とか、夢見てたなあ。叶うなんて、まるで夢みたい。……まあ、夢だけどさ」
    「甘いものは私も好物よ」
     リホを囲んで、わいわいと会話を交わし、お菓子を食べていく灼滅者達。
     リホも相変わらずお菓子に手を伸ばしながらも、皆の言葉に頷いている。
    「私も甘い物大好き。ケーキ1ホールは確かに夢……あっ」
    「これ、もらってもいいですか?」
     タルトを食べ終わったリホの前にぽんっと新しく現われたケーキ1ホールを見て、すかさずそうフォローしながら、彼女の話を聞いてあげる藍蘭。
     花幸も少しずつお菓子を食べつつ、会話を交えて場を和ませるように心がける。
     面倒なことは避けたいと口では言いながらも、やっぱり、見過ごせないから。
     そして、お菓子はまだまだいっぱいあるけれど。
     増えるたびに、いろはや緋色や純や晶も、一緒にそれらを食べるお手伝いをして。
     暁、文、優希那、リーファもお菓子をつまみながらリホに声を掛け、リリーに空、一浄や帰瑠やアイレインもお茶会の輪に加わる。
     そんなリホや皆に、イシュトリアは紅茶を淹れて一緒に話をしながら。
    (「自分は美味しそうに食べているのを見ている方が好きだから」)
     幸せそうにお菓子を食べているその様子を、上品な微笑みで見守る。
     同じ様に、甘い物にはやはり飲み物も必要だと。
     ヴァンやちくさや紗和、翼や宗汰も、各人用意した様々な飲み物を注ぎ、給仕して。
    「美味しいっす……!」
     お茶にお菓子という優雅な組み合わせに感激し、嬉し泣きしながらマドレーヌを頬張る鉱。
     食べる必要はないけれど、やっぱり普通の食べ物が、本当はいいから。
    「あ。紗矢さん、プリン・ア・ラ・モード発見。……いる?」
     いいのか? と瞳を輝かせる紗矢に、まあ譲らなくてもどんどん出てきそうだよねえ、とプリンアラモードを差し出す汐に。
     紗矢は礼を言い、かわりにイチゴタルトを彼女にお裾分けして。
    「紗矢はプリンアラモードが好きなのですか、豪華な感じがしてて良いですよね、僕も好きですよ」
     ぱくりとタルトを頬張る汐の隣で、至福の表情の紗矢を眺める藍蘭。
     紗矢はひたすらもくもくと幸せそうにお菓子を食べ続けながら、美穂や山桜桃、えりなやつむぎや皆のサーヴァントと、楽しく美味しくお茶会を満喫して。
     矜人から差し出された幾つ目か分らぬプリンアラモードを相変わらず嬉しそうに受け取った後、道流にコーヒーを貰ってから、自分を眺めている七織や丹や来栖に、一緒に食べないか? と笑み、沢山並んだプリンを差し出した。
     そして、お喋りだけでなく。
    「可愛くカット……は無理か……」
     リホがお菓子を食べやすいようにと、いろいろ工夫してみる无凱。
     それから可愛くカットは難しかったけれど、リホの紅茶のソーサーにそっと、トランプを添えて飾ってみて。
     へるや朝嘉が、お茶会の場をさらに盛り上げる。
     そんな中、さり気なくリホへと話題を振ってみるアリス。
    「リホはダイエットをしてるのか? まあ、年頃の女子だしな……」
     ダイエットを始めた事も、彼女が悪夢に苛まれるようになった要因のひとつ。
     だが、少し俯いたリホに、アリスはにぱっと笑む。
    「私はそのままでも十分可愛らしいと思うぞ。これから綺麗になれる。だからあまり無理はするなよ?」
    「ダイエットしてるからといって、好きなモノ絶つ必要は無いですよ」
    「自分、人間らしいものを食べなくても死なないっすけど、それでも普通の食事がしたくてたまらなくなるっす。ましてリホさんは普通の人間なんすから、我慢のしすぎはよくないっす」
     そんな无凱や鉱の言葉に再び顔を上げ、无凱や一樹や燐音が伝授する効率良いダイエット法に感心したように耳を傾けるリホ。
    「うむ、リホは甘いものが好きなのか? 私は肉が好きだぞっ」
     そしてアリスは、楽しそうな笑顔を宿すようになったリホへと。
    「でも美味しいものはもっと好きだ。リホのお菓子は美味しいものだからとっても好きだ!」
     にこっと微笑みながら、そう続けたのだった。
     その言葉に、一瞬瞳をぱちくりさせた後。
    「……うんっ」
     コクリと、大きく頷いたリホ。
     心から――楽しそうな笑顔を、宿して。
     その時だった。

    『……どうして?』

    「!」
     お菓子の国に突如響き渡る、甘い声。
    「……ああ。ほら。お菓子の魔女さま現れた」
     そろそろお腹いっぱいだと呟いていた汐は、ちょっと待ってね、あとひとくち……と、残ったイチゴタルトをぱくり口にして。
    『どうして、どうして邪魔するの!? どうしてどうしてどうしてどうして……ッ!!』
    「!? きゃっ」
     突如現われたお菓子の国の魔女――シャドウの声に、思わず耳を塞いだリホへと声を掛ける。
    「大丈夫、怖くない。ぼくらがあまりに楽しそうだから、仲間に入れてほしいみたいだよ?」
    「力こぶはできないけど私達は意外と強いんだぞ」
    「お菓子と魔女、そんなお伽噺もあったわね。危ないから遠くに離れて」
     汐に続きアリスもそう安心させるよう言った後、リホの身を奏多や鳴海や蒼桜やジャックへと託す弥影や花幸。
     そして、出たなシャドウ! とバスターライフルをキリリ構える紗矢に。
    「綺月さん、お菓子ばかり食べているから……」
     頬にプリンがついてますよと、无凱は教えてあげた後。
    「静寂に光あり……」
     スッと眼鏡を外し、ターバン風のバンダナをキュッと頭に巻いて。
     得物を手に気合を入れると、宿敵へと視線を投げる。
     のこのこと姿を現した――お菓子の魔女と兵隊達へと。

    ●魔女撃退
     とんがり帽子に杖をふりふり、不気味なその姿を現した、お菓子なハート魔女のシャドウ。
     そして進軍し攻撃を仕掛けてくる、プリンやケーキの兵隊達。
     だが、それに臆する事なく。
    「斬って、喰らって……永久の闇に落ちてみる?」
    「光に影があるなら夢に狩人あり」
     口にした解除コードと同時に戦闘態勢に入り、敵の群れを迎え撃つ灼滅者達。
    「さぁて魔女サン、暫く俺と遊んでてくれるっすかね」 
    「私達のお茶会が羨ましくなったか?」
     あれ程高く積みあがっていたお菓子の山が綺麗になくなった夢の戦場で。
     シャドウの前へ躍り出た花幸の拳に雷が宿り魔女に突き上げられると同時に、アリスの成した十字架から衝撃の輝きが解き放たれ、開戦の光となる。
     敵は、トラウマや毒を植え付けんと襲いくる魔女に、数が多めのお菓子の兵隊。
     だがそれ以上に悪夢の化身達を打ち倒さんとする者の数が圧倒的に勝っており、終始優勢に攻め込んでいく灼滅者達。
     晶や秀一や由衣、エイナや双人が露払いにと敵へサイキックを見舞い、歩夏や徹也の回復が仲間達を支えれば。
    「フォークにカラメル。メルヒェンだね」
     ごちそうさま、で、いただきます、と。
     汐の撃ちだした漆黒の弾丸がプリンの兵隊を貫き、確実に仕留めて。
    「……刺激し過ぎないように刺激し過ぎないように」
     そう自分に言い聞かせながらも、ロケット噴射の勢いがついたハンマーで、ケーキの兵隊をまた1体、豪快に殴り倒すイシュトリア。
     同じ様に、鉱もシャドウを刺激せぬよう心がけながら。
    「……いや、もともと強気に出られるような相手じゃないんすけど」
     戦場中に弾丸の雨霰を降らせ、お菓子の兵隊を数体まとめて撃ち抜いた。
     そして紗矢はフォローに入ってくれた鷹秋や正義に、ありがとうと瞳を細めてから。
    「ん。わたしはここから撃つ。そっちはあなたに任せた」
     エアやウツロギと共に、まずは兵隊の殲滅にあたる。
    「好きな物を悪夢にするだなんで許せないわ。倒せなくても、彼女からは手を引いてもらわないとね?」
     そして弱った兵隊へと狼の姿を成した弥影の影が激しく喰らいつき、七つに分裂した鋭い光輪を投じて悪夢の輩達を薙ぎ払う无凱。
     兵隊達もしぶとくフォークで突き刺してきたり、カラメルを投げてきたりするも。
    「癒しの光よ、仲間を助けてあげて下さい……」 
    「倒れるわけにはいかねぇっすからね」
     藍蘭やアリスの温かな癒しの光が傷を負った仲間へと抜かりなく施され、花幸やイシュトリアも己の体力を回復しながらトラウマや毒を振り払う。
     そして、お菓子の兵隊を全て綺麗に殲滅した後――魔女へと向けられる、集中砲火。
    「イチゴタルトにアップルパイ、それとも、あまーいシュークリーム? きみは、どんな味がするかしら」 
    「さあそろそろ、夢の世界とお別れだ……!」
     汐のデッドブラスターの弾丸とアリスの魔力を流し込んだフォースブレイクが順に放たれ爆ぜ、シャドウを大きくぐらつかせて。
     急所を絶つ无凱の死角からの斬撃と再び牙を剥いた弥影の狼の影が、宿敵へと容赦なく決まった瞬間。
     切り裂かれ、喰らい尽くされたシャドウは、まるで逃げるかの様に。
     リホの夢の中から消滅したのだった。

     それから陸や桜から貰ったお菓子を受け取った紗矢や皆は、クールに闇に去った信蔵に続いて現実世界へと戻って。
     ベッドで眠る少女へと、ふと視線を向ける。
     そして健やかなリホの寝顔は――まるで、楽しい夢を見ているかのような。
     幸せそうな笑顔を宿していたのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 20/キャラが大事にされていた 11
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