愛されないという棘

    作者:朝比奈万理

     少女は、暗い部屋のベッドの中でぎゅっと身を丸めて泣いていた。
    (「お母さんなんて大嫌い……」)
     彼女は小さい頃から母に、「あなたはお姉ちゃんなんだからしっかりしなさい」、「弟や妹がちゃんとしてないのはあんたがしっかりしてないからよ」と言われ続けて育ってきた。
     自分は冷遇されている。物心ついたころからそう思ってきた。
     今日も、学校で少女の歌声が先生に褒められて、音楽会でソロの部分を任されることになったことを伝えたら、母は鼻で笑いこう言った。
    「あなたが? 先生も、見る目ないわね」
     少女の胸には常に大きな棘が刺さり続けている。
     自分は愛されないと言う棘が……。
    (「お母さんは、いつもわたしを否定する。そして弟や妹ばっかりかわいがってる」)
     悔しい気持ちと寂しい気持ちがない交ぜになる。彼女はもう、どうしたらいいのかわからない。
    (「お母さんなんて……」)
     母に反抗する反面、お母さんの期待に添えられる自分じゃないことも悲しくて。
     お母さんなんて大嫌い。
     そんな気持ちはいつしか、自分への苛立ちに変わっていく。
     どうしてわたしは、お母さんの望むとおりに出来ないんだろう。
     どうしてわたしは、こんなに駄目な子なんだろう。
     どうしてお母さんに愛されないんだろう。
     わたしなんて、生まれなきゃよかったんだ。
     生まれなきゃよかった。
     生まれなきゃよかったんだ……。
     少女の小さい心を蝕んだのは、それだけではなかった。
     青く黒い、何か得体の知れないものが急速に自分を包んでいく。
     その気持ちを、少女は知らない。
    「――グアァァァァッ!!」
     青い化け物が自分の家族を皆殺しにするまで、そんなに時間はかからなかった。


    「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)はふんわりを笑みを浮かべて灼滅者たちを見渡した。そしてその表情のまま口を開く。
    「今回は、デモノイドと化してしまう、花遊・泉歌(かゆう・せんか)さんの救出、または灼滅をお願いいたします」
     物心ついたころから母親に冷遇されて育った泉歌は、その日も母親の何気ない一言に傷ついて、泣きながらベッドにもぐりこんだ。
     いつもならそのまま眠ってしまい、気がついたら朝になっていた。……という日常を繰り返していたのだが、今回だけは違った。
     泉歌の身体を、青い青いデモノイド寄生体が飲み込んだのだ。
    「デモノイドとなった泉歌さんは暴れだして部屋の壁を破壊し、まず隣の部屋で寝ている弟さんと妹さんを手にかけてしまいます。その後、騒ぎを聞きつけて寝室から起き出して来た両親も殺害してしまいます。なので、泉歌さんが弟さんと妹さんを手にかけてしまう前に凶行を止めてください」
     姫子の表情が引き締まる。
    「幸い、泉歌さんはデモノイドと化したばかりで、多少の人間の心が残っています。皆さんの言葉が泉歌さんの心に届いたなら、灼滅した後にデモノイドヒューマンとして救い出すことが出来るでしょう」
     救出できるかどうかは、灼滅者の言葉を受けて泉歌が人間に戻りたいと願うかどうかに掛かっている。
    「けど、弟さんと妹さんを手にかけてしまった後では、人間に戻りたいという気持ちが薄れてしまうので、助け出すのは難しいでしょう」
     また、泉歌がデモノイドに変化する前に接触を試みてしまうと、別のタイミングで闇堕ちが起きてしまい、被害を防ぐことも救出することも不可能になってしまう。
    「皆さんには、泉歌さんがデモノイドに変わってしまった、まさにその瞬間に介入していただきたいのです」
     その日は戸締りが甘く、1階リビングと2階の泉歌の部屋の窓の鍵は開いたままだという。そこから室内に入り込み、泉歌がデモノイドと化してしまうその瞬間を待つといいだろう。
    「ただ、2階では泉歌さんのご両親と弟さんと妹さんが寝ていますので、できるだけ音を立てないように注意してくださいね」
     人差し指を立て、口元に当てる姫子。
    「泉歌さんの能力ですが、デモノイドヒューマンと同じ攻撃を使用します」
     泉歌を助け出すには、KOする必要がある。その時点で泉歌が人の心を強く残し、なおかつ人間に戻りたいと願うのであればデモノイドヒューマンとして生き残ることが出来るであろう。
    「泉歌さんが人間として生きることを選ぶか否かは皆さんの説得にかかっています。そして泉歌さんとご家族を救えるのは皆さんしかいません。少し危険で複雑な任務ですが、皆さんなら成し遂げてくださると信じています」
     姫子はふんわりと笑い、灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    桃野・実(水蓮鬼・d03786)
    黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)
    ミリー・オルグレン(妖怪顔面置いてけ・d13917)
    巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)
    アデーレ・クライバー(地下の住人・d16871)
    丸宮・数馬(百発一中・d28541)

    ■リプレイ

    ●星空と闇
     夏の夜空は、少しの涼しさと地表にこもる熱気を頂いて若干ゆがんで見えた。
     無用心にもその家は、リビングの窓が開きっぱなし。上の階の、子ども部屋の窓からもカーテンが揺れているのが見えた。
     詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)が指差して部屋を確認すると、丸宮・数馬(百発一中・d28541)がサウンドシャッターを展開。
     8人の灼滅者は二手に分かれる。
     リビングからこの家に浸入したのは、6人の灼滅者。
     極力、足音を立てないように静かにリビングを出ると、二階へと続く階段を上がっていく。
    (「子供を愛していない親がいるなんて思わないし、思いたくもないけれど……!」)
     暗視ゴーグルを掛け、旅人の外套を展開させて巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)は唇を引き締めて上の階を目指す。
    (「わたしが今やるべきは、泉歌ちゃんとその家族を救うこと。命さえ無事なら、きっとやり直せる!」)
     強い気持ちで最後の段に足をかけ、泉歌のへ屋の前を通り過ぎるとその奥の部屋の前に立った。
     愛華の後ろには黒岩・りんご(凛と咲く姫神・d13538)が控える。
     りんごがドアノブを引くと、二段ベッドの上段には男の子、下段には女の子が寝息を立てている。
     念のためと送った爽やかな風は魂鎮めの風。
     なお深く寝入った男の子をりんごが、女の子を愛華がそっと抱きかかえると、さらに奥の客間となっている部屋の畳の上に2人を横たえた。
     そして2人は泉歌の部屋の前に控える。
    (「長子は大変なのですよね」)
     幼いころから自分の兄の苦労を見て感じて、絆を取り戻した家族を見てきたりんごは思う。
    (「同じように泉歌さんも、闇堕ちからも苦しみからも、救ってあげたいですわ」)
     ミリー・オルグレン(妖怪顔面置いてけ・d13917)はじっと扉を見据える。
    (「光と影の狭間で揺れ動く者よ。君の道しるべとなってあげよう」)
     石弓・矧(狂刃・d00299)は泉歌の部屋のドアノブに手を掛け、その時をじっと待つ。
     その足元では、猫に変身した桃野・実(水蓮鬼・d03786)がその時をじっと待っていた。
    (「泉歌は絶対助ける。あんな親のせいで死なせてたまるか」)
     自分と境遇が似た泉歌を、なんとしても助け出したい。
     そう心に誓い、ドアを睨む。
     列の最後尾に付き、懐中電灯を手にした沙月もまた、父親に冷遇された過去を持つ。故に泉歌の心の痛みに共感していた。
     一方、泉歌の部屋に通じるテラスで待機するのは、アデーレ・クライバー(地下の住人・d16871)とニホンオオカミに変身した数馬。
     リビングの脇に立てかけてあった脚立をうまく使い、テラスに上がったのだ。
     ダイレクトに部屋から漏れてくる嗚咽に、心を痛めながら数馬は思う。
    (「アタシの棘は、抜けない。でもこの子の棘はまだ……抜けるわ」)
     揺れるカーテンの向こう側に意識を集中させる。
    (「わたしと同い年……。なんとか助けてあげたい」)
     変異に苦しむ前にDSKノーズで変身開始を感知したい。泉歌の『業』を感知しようとしたまさにその時だった。
     泉歌の嗚咽が消え、戸惑うような声が部屋に響き、声はやがて呻り声に変わり――。
    「――グアァァァァッ!!」
     数馬はオオカミの姿で部屋に入ると一瞬で人間に戻り。
    「こんばんは、お嬢さん。お嬢さんにかかった呪いを解きにきたわ」
     反対側、廊下側にいた灼滅者も一斉に部屋になだれ込み、まだ変化が未熟な泉歌――、いや、デモノイドを力を合わせて窓から庭へと突き落とした。
     それは家族にデモノイドと化した泉歌の姿を見せまいとする、灼滅者たちの優しさだった。

    ●星空と涙
     急いで一階へ下り、リビングから庭へ飛び出した灼滅者が見たものは、変化が完全に終わったデモノイドの姿だった。
     猫変身を解いた実が真っ先にデモノイドに張り付こうとするが。
    「グオォォォォォッ!!」
     デモノイドは利き腕に仕込んだ強靭な刃で実の体を吹き飛ばす。
    「……くっ!」
     それでも実は強い気持ちで体勢を立て直し、デモノイドに向かっていき、ローラーの摩擦を利用して炎を纏った激しい蹴りをデモノイドに食らわせる。
     実の霊犬・クロ助も斬魔刀でデモノイドに切り込む。
    「あなたは花遊・泉歌。さぁ、もう一度人の心を思い出して!」
     このデモノイドが人であった時の名を呼ぶ愛華。流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを炸裂させデモノイドから機動力を奪う。
    「私のように何もかも失う前に、戻るんだ。人にあらざる道に踏み外す前に目を覚ますんだ」
     諭すように口を開いたミリーは、縛霊手でデモノイドを殴りつけ網状の霊力を放射すると、ナノナノ・ドローンは実の傷をふわふわハートで癒す。
     続いたのは沙月。
    「回復しますね」
     護符揃え・蒼月から護符を数枚抜いて、実の体に貼り付けた。
     そして攻撃に身悶えるデモノイドに向けて言葉を綴る。
    「お母さんに優しくして貰えないのは……、認められないのは、辛いですよね」
     ――お母さん。
     その言葉にデモノイドは一瞬体をこわばらせたように見えた。
    「花遊さんは、……ずっと辛かったのに、一人で頑張ってきたのですよね」
     しかし、デモノイドの破壊衝動は止まらない。
    「ウ……、ウガァァァァッ!!!」
     利き腕を振るい、何かを振り払うかのように暴れだす。
    「泉歌は、一度でもお母さんに正直に自分の想いを伝えたことはあるの!?」
     振るわれる刃を掻い潜ったアデーレは愛槍・Lawineに螺旋の如き捻りを加えて突き出してデモノイドを穿つ。
    「いくら想っていても、言葉にせねば伝わりませんよ!」
    「アタシ、思うの。愛されたいなら、まず自分から伝えないといけないって」
     数馬はひとつうなづくと、白き炎をを放出して後衛のジャミング能力を高めつつ告げる。
     嫌うそぶりを見せる人に大して自分から伝えるのは難しいこと。でも……。
    「まずは、自分が好きな事を伝えて? ……全てはそこからよ」
     数馬に続いたのは矧。シールドでデモノイドを殴りつけて気を引き、伝える。
    「あなたは母親から冷遇されていると思っていても、それでも愛されようと今まで頑張ってきたはずだ。そんなあなたが駄目なわけないでしょう」
     生まれてきてはいけない命なんてありませんよ。
     静かに柔らかく告げる。
     と、その脇から飛び出したのは、左の袖を抜き、露になった腕を巨大化させたりんご。その腕でデモノイドの鳩尾に一発。
    「お母さんの事は本当に嫌いですか?」
     ――お母さん。
     またデモノイドの動きが止まる。
    「お母さんのことが大好きだから、泉歌さんは自分を見てほしいのではありませんか?」
     次の瞬間、不器用にもか細い人の声が星空に響いた。
    「……オ……、カァ、サン……」
     震える手を胸に当て、デモノイドは一粒涙をこぼす。
     が、それもすぐにデモノイドの意識がかき消して、その大きな腕を手当たり次第にふるって暴れだす。
     けど、救出は近い。
     灼滅者の誰もが、そう確信した。

    ●星空と願い
    「期待に応えられないのが辛いのわかります。でも、想いを内に溜めてばかりで、本音をお母さんに伝えた事はありますか?」
    「……ウ、ア……、グアァァァァ!!!」
     りんごの言葉に身悶えるデモノイド。利き腕を巨大な砲台に変えて死の光線を一発放つ。
     その光線はりんごに向かうが、
    「させない」
     ミリーがその攻撃を肩代わりする。
     ふっと顔をあげたミリーは、脚に力をこめてスターゲイザーを食らわせる。
    「心を開いてごらん? 本当に君を愛している人が居なくなる前に目を覚ますんだ」
    「ナノっ」
     ドローンも頷くと、ミリーが受けた傷を癒す。
    「生まれなければ幸せも苦しみも見つからない。誰だって幸せでありたいからこそ、苦しい中でもがくんだよ。でも君は目を背けているだけさ。だからもっと周りを見てごらん。君を愛してくれてる人も、君のためにがんばっている人も、君に傍に居て欲しい人もいるよ」
     ミリーはさらに続ける。
     仮面で顔は覆われているが、これはきっとミリーの願い。
    「……アイ……?」
     デモノイドから、また少女の声がした。
    「母親の望みに応えようと、努力してきたのも、弟妹を大事に思えるのもあなたが優しいから、あなたの中に愛があるからです」
     沙月は優しく声をかけながらも自身に降ろしたカミの力によって、激しく渦巻く風の刃を生み出してデモノイドを切り裂く。
    「そんなあなただからこそ、私はあなたを助けたい」
     沙月はデモノイドをまっすぐ見つめ、言葉をつないでいく。
    「もう、大丈夫ですよ。悲しい時は我慢せず、泣いて良いのです。もう自分の心を、存在を蔑ろにしなくて良いのですよ」
    「そう、まずはあなたはあなた自身を愛さなければいけません」
     沙月の言葉に続いたのは矧。
    「自分が自分自身を愛せないのに、他人が愛してくれるわけがありませんから」
     そう穏やかに告げながら矧は死角から斬撃を繰り出し、デモノイドは大きくよろめく。
    「……アイ……」
     矧の言葉に動きを止めるデモノイド。
    「生きることを諦めちゃダメ! 絆は家族とだけのモノじゃないの。生きていれば、あなたを愛し、あなたが愛せる人がきっと見つかるはずだから!」
     杭をドリルの如く高速回転させ、デモノイドを痺れさせる愛華。
    「辛い時は誰かを頼ってもいいの。もしも頼れる人がいないなら、わたし達だっていいんだから……!」
     思いの丈をぶつける。
     続いてバスターライフルを構えた数馬は、静かに言葉をかける。
    「……貴方を見てくれる人は、一人だけかしら? ほら、気付かない内に、色んな人から愛されてるはずよ」
     かつて自分に、惜しみない愛を注いでくれた大切な人がいた。その大切な人を思い浮かべながら数馬は、白い炎に隠れたライフルから魔法光線を発射する。
     この子にもそんな人が現れますように……。願いをこめて。
    「……大役をもらった音楽会は、どうするんです!? あなたの晴れ舞台でしょう!」
     アデーレは強い口調で訴える。
     どこにでもいる普通の女の子である泉歌。アデーレはそんな彼女をどこか羨む自分がいる一方で、家族や肉親のいるこの生活を失ってほしくないと願う。
     アデーレは己の利き腕に飲み込んだ刃にこめた。
    「生きることを選んで、褒めてもらった歌をお母さんに聴かせてみなさいよ!」
     デモノイドはその刃を受け止める。鋭い刃と刃がぶつかり合い、アデーレはとっさに後ろに下がった。
    「あー、もう! わたしもあなたの歌を聴いてみたいなぁー!」
     その一吼えは、アデーレの本音。
     願いなのだ。
    「……ウタ……」
     デモノイドの動きが鈍る。
     ぽろぽろとこぼれる涙は、誰かを愛したい、誰かに愛されたいと想う泉歌の本当の気持ち。
     泉歌がだんだん正気を、自分を取り戻しつつある。
    「期待に応えられないのが辛いのわかります。でも、想いを内に溜めてばかりで、本音をお母さんに伝えた事はありますか?」
     りんごがデモノイドの一瞬手前まで迫り、日本刀を納刀状態から一瞬にして抜刀。デモノイドの体がぐらっとよろめき。
    「伝えてみてください。そうすればきっと世界も変わりますから。一人で話すのが怖ければ、わたくしでよければ傍にいますよ」
     優しく導くように、りんごは手を差し出す。
    「……ツタ、エ、タイ……。……オカア、サン……ニ……」
     デモノイドの震える巨腕は、その手に触れた。
     あと一息――。
     クロ助が六文銭射撃でデモノイドの体に無数の風穴を開け、間髪入れずにその懐に入り込んだのは、実。
    「……泉歌、今までよく耐えたな……。……今助けるから……」
     その一発は、慈悲深い。
     でも、どの攻撃も、どの言葉も、絶対に泉歌を助けたいと願った、灼滅者たちの『泉歌への愛』そのもの。
    「オォォォォォ――……」
     最後の最後、咆哮をあげてデモノイドは地面に倒れた。
     青い寄生体が地面に還っていく中、その青から現れたのは小柄な少女だった。

    ●星空と愛
    「終わりましたね」
     額を手の甲でぬぐいながら、矧が一息つく。
    「皆さん、大丈夫ですか?」
     仲間の傷の様子を伺うが、幸い深手を負ったものはいないようだ。
    「……ん……」
     地面に横たえられていた泉歌のまぶたが振るえ、目を開ける。その瞳は涙で潤んでいた。
     目を覚ました泉歌はゆっくり体を起こすと、8人の灼滅者をくるりと見渡した。
    「……わたし……」
    「おかえりなさい、泉歌さん。よくがんばりましたね」
     泉歌の傍らに座っていたりんごが、優しく彼女を抱きしめる。
    「……」
     泉歌は何が起きたのかわからずに戸惑った様子を見せていたが、自分を抱く優しい肩に頭を預ける。
    「花遊さん、私たちの学園に転校しませんか?」
    「……転校?」
     沙月の言葉に泉歌は首をかしげる。
     沙月は泉歌に武蔵坂学園のこと、灼滅者のこと、寮もあることなどを一つ一つ丁寧に説明した。
    「音楽会の後でもいいので、考えてみてください」
    「ここまでがんばった泉歌ちゃんだもの、きっと素敵な灼滅者になるよ」
     愛華も笑顔で泉歌を迎える。
     少しだけ考えて、泉歌は小さく頷いた。
    「……うん、わたしでも誰かを守る力になれるなら……」
     りんごはその決意を聞いて小さく笑む。そして泉歌から体を離して。
    「その気持ちも一緒に、お母さんとお話しましょう?わたくしでよければ一緒にいますから」
     不安げにしていた泉歌だったが、瞳に溜まった涙を手でぬぐって、力強く頷いた。
    「……うん……、わたし、お母さんと話してみる」
     実はそんな泉歌の傍らに腰を下ろすと小さく頭を下げる。
    「気がつかなくて、ごめんな……」
     実の中で、この戦いはまだ終わっていなかった。
     泉歌が受けた心の痛みを、それが元で青い寄生体に取り付かれたことを、泉歌の両親には知っておいてほしかったのだ。
     泉歌は小さく首を振って、実に向き直った。
    「みんなこうしてわたしを助けてくれて、わたしに大切なものを教えてくれた。それだけで、うれしいんだよ」
     にっこり笑う泉歌。
     灼滅者たちからもらった愛を胸に、泉歌は動き出そうとしていた。
     新たに生まれ変わった少女の凛々しい姿を少し遠巻きにして、矧は自分自身が泉歌にかけた言葉を思い返して、ふっと笑った。
    (『自分自身を愛さなければいけない』か……。どの口が言うのやら。」)

     夏の夜風は優しく流れる。
     救われた命を、灼滅者たちの深い愛情をたたえる様に。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 9/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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