灯籠 ~託し火~

    作者:一縷野望

     ――灯籠流し。
     お盆に戻り、生者の心慰めてくれた死者の霊を弔い、海や川へ還す行事。
     どうか迷わずに。
     そしてどうかまた来年も、逢いにきてください。

    「自分の手で灯籠を流せる場所があるんだ」
     日本有数の湖にて、毎年この時期に灯籠流しがあるのだと灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は静かに口火を切った。
    「灯籠……」
     水辺でゆらゆら、か細く揺らぐ小さなあかり達。
     それはネットや本で見たモノではない気がすると、機関・永久(リメンバランス・dn0072)は虚ろな記憶をしばし探る。
    「これぐらいの骨組みにね」
     そっとしておこうと決めた標は、一抱えぐらいの空間を暖めるように作り示すと説明を続けた。
    「直方形に紙を張り巡らして、中には蝋燭1本。それが灯り」
     紙には自分のお好みで絵を描いたり文字を綴ったりできる。
     死者へ届けたい言葉、伝えたい気持ち……水面に浮き上がる泡沫の心を濾し取り綴ろう。
    「ボクは……かーさんの灯籠を流すつもり」
    「ああ、だったら……俺は」
    『記憶』と書いて流そうと続いた。
     すると厳かでしんみりとした空気が教室を支配するコトになる。
     あ、と標は口元に指をあて、やや性急に口元に笑みを呼び寄せた。
    「祈願の灯籠ってのもあってさ、お願い事を託すコトもできるんだよ」
     いつまでも仲良くいれますように、とか、日々の健康を、とか……。
    「恋人できますよーになんてのも、アリ」
     揺らぐ炎に想いを託し湖に流す、それが灯籠流し。
     死者へ対して、未来の自分へ……どちらでも構わない――あなたが抱え解いてみたい『心』はなんですか?


    ■リプレイ

    ●血
     冥府にある父母の魂が現世に立ち寄るとしたら、やはり子を想うからか――。
     ……墓に眠ってる気しねぇから。
     父の好きな 山茶花。
     困難に打ち勝てるかわからぬが見送って欲しいと願掛け供助は光放す。
     病で世を去った父……闇に蝕まれる程に哀しかった。
     母と妹浮かべ名を示す紅葉と銀杏綴る。
     ……いってらっしゃい。
     自分の背を前へ押すように。
     ――元気です。
     伝えたい事が多すぎて壱琉の手が止まる。
     しばし後、綴られた『ありがとう』
     想いを込めるよう抱きしめた灯籠を、仲間達の橙で染まる湖へ。
     迎えに来るが最期の言葉、置いていかれる夢は未だ。
     でも、
     愛し人の存在が優志の手を引く。出逢いは両親あればこそ、だから『ありがとう』
    「逢いに……来てくれてるんだろうか」
     篠介の瞳に家族の賑わい、まるで灯籠の灯。
     此方は取り残されたような、夜。
     振り切るように前を向く、心配せんで大丈夫と。
     水面の灯籠に小さな指が掛かる。深淵に仕舞う寂寞が迸り音雪は膝に顔を埋めた。
    「……さみしい。さみしいよ、とと様、かか様……」
     あに様には絶対見せられない。
     想いの綺羅が漂う。
     灯火あれば暗い道も寂しくなかろうと、直人は眼前で命散らした父母を想う。綺羅道連れにどうか心を二人の元へ。
     ――山寺の廃屋で出逢った姿が蘇る。
     育て親の羅刹のおじへ「元気にしている」と翔。
     夜桜袖ひらり。
     里桜の手で揺らぐのは父と幼馴染の炎二つ。
    (「……死ねない理由が、出来たんだ」)
     紡がれる詫び伝う涙。身勝手やもしれぬが私は、生きる。
    「ケチ」
    「ちゃんと自分で考えようね」
     隠す兄亜理沙へ膨れる妹結衣香、いつもと変わらないのに……和紙へ振る雫。
    「おにいちゃん……パパとママにあいたいよ……」
     冥府の母、堕ちた父。
    「結衣香」
     そっと髪を撫でる。見守って欲しいと綴った灯籠を背に隠し。
     闇堕ちした父が母を殺した……妹へ秘する、蒼刃の胸に疼く想いと共に。
    「死後の世界とか信じてないんだ」
     死を目の当たりにしてないため落とし所が見つからない。
     伸ばされた手を握り頼るように薙乃は髪を寄せた。
    (「……薙の事は、俺が守るよ」)
     秘したる想い気づいていたやもしれぬ両親へ誓う。
    「書ききれないから」
     白紙の灯籠抱える義妹ゆまに『安らかに』と母へ綴った律は頷いた。
     二つ並んだ灯籠、親友とその夫と。その子らは手合わせ祈る。
    (「生き残ったのがお父さんとお母さんなら……」)
     周りが言うように。
    「オフクロ……」
     思い詰めた義妹を守って欲しい、自分はいいから。
    「とうさま、かあさま、シリウス……」
     焔に消えた御霊へ心寄せるイコの隣円蔵は手を合わせ。
     想い伝えたい人は常に傍ら。
     ……イコさんを見守ってくださいと、願う。
     包むような星闇の彼の手に触れれば、
    「わたし、王子さまを見つけられたかもしれないわ」
     肩にぬくもりが降る。
     皆の願い叶い想い届きますように……澪音が流す灯籠の脇で神妙に灯追う風樹。
     ……星望む愉しみを教えてくれた、身を挺し守ってくれた。
    「とても愛されていたのですね」
     切なくも素敵な親御さんだと添えれば、
    「あぁ、息子であることを誇りに思ってるよ」
     父が刻んだのは、恐怖――震える指でサーシャは弔い流す。
     渚緒が乗せるは祖父への想い。灯した火が蛍絵に点り、ゆらり。
     未だに、怖い、でも。
    「……いこ……ミツ、クラ……さん……」
     彼はじめ優しい人が、いる。
     礼を述べ渚緒は数歩後ろを歩く。
     秘密の灯籠、いつか君の笑顔が見れたら……。
     日輪一族の人狼達は紋章描いた灯籠に想いを込める。
    「それなに?」
    「日記だよ」
     玖栗に答えユァトムは日々の出来事を写す。灯籠支えるこころの袂、揺らぐ炎は両親の名と姉が生きていたと嬉しげな文字。
     仲睦まじい年少組を見守る義和の眼差しは柔らかい。
    「できたっ」
     黒曜は一足先に灯籠を浮かべた。母へ一族を任せてと。
     髪越しの眼差し、朔太郎が抱くは両親と親世代の一族。
    「これで離れない」
     父と母の灯籠を紐で繋ぎ玖栗。
     一族と一緒だから寂しくないと母の子守歌と共に。
     ……幼い者ばかりで心配は残るだろうが。
     手合わせ金狼の役目を果たすと義和、脇で朔太郎の手が揺れた。
    「こっちは上手くやって行くから、心配しなさんな」
     歌うように微かに。
     人に戻してくれたセンセイを弔うベリザリオを見守るのはセンセイの子織久。
     一門は闇器に宿る、されど兄の心安らぐならば。
    『ただ一人の大切な弟を命懸けて守る』
     父なる人へ誓い灯火流す。
     織久も灯籠を置く。
    「願いは秘密です」
     唇に人差し指当て秘した方が叶うと言うから。
     ……世界は自分の見ているモノとはまったく違った。
     過去に向き合う黒斗を邪魔せぬよう昴も15の日へ。
    「待っていてね」
     慧兄浮かべ、封じられていた彩乗せ口元解く黒斗に、昴は当主に縛られし自分を再認識。
     父に戒められていたのは自分のせいか。
     未だ惑う灯籠は水をゆく。
     仄かな華牡丹の花織を「らしい」と言えば宗一へ照れが。
     友へ託す言葉が見つからない。
    「花はね頑張るねって、お祖母ちゃんに」
    「そうか、頑張る、か」
    「笑顔で在れるように」
     ……標炎のような其れを込めるとしよう。

    ●傍
     誰かの心濾し取ったよな優しきあなたと――。
     ばば様の名を記し兄と水辺。遠ざかる炎に一途に冥福を祈る、瞬間を憶えておらぬが一心に。
     笑み刻む兄見てもう一つの願いも……何時までも一緒と恢は口ずさむ。
     えりなへ父は灯籠を渡す。
    『守ってくれてありがとう』手放しの破顔は父のお陰。
     もう一つ母へ。父をしばらく借りる事、再び共に暮らせる日を願い。
    「霧江。許してくれる?」
     その肯首は願望を反映しているだけと桐人。
     命奪った僕を――許さないで欲しい。
     霧江は白紙、死者は言葉届ける術持たず。
     灯籠が染まる程に想いを刻む。
     生き返ってお話……隣にいるのはビハインド。本物、違うから。
     寂々と流れゆく灯籠、リン庇い逝った兄のようで。
    『幸』
     一番愛していたと、ビハインドではなく涅槃の母へ。
    「もう、大丈夫、だよ」
     出来る事ならば……ずっと傍に。
     居てと妹へ紡ぐ、隣の。
    「姉様は、誰に、何て伝えたいの?」
    「リンへ」
    『食』
     ミスティラは困らぬようにと笑む。
     莉都は「大丈夫」をくれた姉へ笑む。
     ――また来年、大切な彼らと。
     手鞠が弾み金魚が跳ねる。甚平のシスティナは役得と目を眇め。
    「送りたく、還したく、ないけれど」
     光莉の炎は願う、祈莉へ傍にいてと。
    『心配かける事態にならぬように』
    「このおねがいごとは、叶えなくてはね」
     もう闇へ征かないで。

    ●懺
     頭垂れた花が落ちる刹那のように連なる光。誰に赦しを請うのか、それとも――。
     さくらえの紅に流れぬ灯が揺らぐ。
     闇に囚われた愛し人を手にかけた、闇に二度堕ちた己が。
     安らかに。
     もう一度だけ。
    「……ごめんね、ゆすら」
     彼の平穏を願い、煌介は手元の和紙に結ぶ像を探す。
     置き去りの彼らは死か闇か。
    「……忘れないよ……俺」
     一時流してもまた痛み還らん事を、抱え幸せになりたいから。
     壊してしまった親友の魂の在処。
     今更。
     それでも。
     10年かけて向き合えるように。
    「見ててくれ……」
     そう思えるようになったと天摩は灯籠に告げ。
     サズヤは幼い手つきで千代紙の星や花を散らす。
     命令は絶対、沢山殺した。
     償いは難しい。
     ……届いて。
     覚えてない誰かへ、この光が。
     無言で寄り添うてくれる愛しき黒撫で灯火へ。
    「殺した穢れを祓っただけだ」
     隣が込めたのは、縁繋がり涙干上がりますように。
     ……ただもう一度、君の笑顔を。
     真白の灯篭二つ、群れに交わる。
     飽和の錠、初盆に貴方も還ってきたのだろうか。
     無の葉、赦されたくはない、都合良く。だから彼岸へは、自分を。
     互いの託したモノを大凡読み取った上で、黙って彷徨う光を見る。迷いなくいく/在れますように、傍に。
     刑の狂ヒは空虚な器をも苛烈に焦がす。
     手にかけた百への償いが声にならず、罪悪感無き自己への苛みと歓喜の二律背反。逃れるように人いる方へ。
    『魂の救済』
     迷わず透馬が記すは壊したあの子たちが今後悲しまぬように。
    「ふふ、僕は偽善者ですよ」
     数多の灯籠が描く幻想に目を奪われる。
     見捨てた罪を流すつもりはないと理利の拳に刺さる爪。
     込めるは誓い……光明へ歩む、できれば人の儘で。
    「今年もようけ……」
     悟は指から炎零し灯籠へ。
     ダークネスも元は人、その命狩る業火。
     でも、
     愛し人の前だけでも綺麗な守火であるように。
     三つ、一つは小さい灯。浮かぶ姿は動かず……声も思い出せぬ。
    「あっしは迷ってばかりです」
     福寿草の語りは二。
     外した狐、誰にも見せぬ悲哀を名雲は零す。

    ●一片
     遠目には見分けつかぬ灯。されど一つとして同じものは、ない――。
    『夜伽夜音2012/02/29』
     見捨てた母はもう憶えてない、病院に預け放しの娘なぞ。
     微睡みに包まれ続けた娘は弔う、人としての己を。
     ……帰れない、灼滅者は。
    『私』
     雪近い紫髪の娘は満足げに頷くと灯籠を水面へ。
     にあの胸には悲観も欠片もない。あるのは、今を作ってくれた幼い『私』への感謝だけ。
     ……彼のようになりたかった。
     真似した口調も止めたら朧。
     啓の手から灯籠が離れる、己が彼から離れたように。
     逢うのなら夢でもう一度声を。
     白百合。
     君の事がまだ忘れられない。
    「……」
     ヘルマイの横顔にエステルは唇結ぶ。
     両親へ穏やかな日々と過ごす焦燥を語り。
    「……幼いのに苦労しているんだね」
    「貴方も、大切な人を……」
     未だ距離遙か、されど安堵が降り注ぐのは、確か。
     墨染めに月、すぐ伊織とわかった氷霧は見届けてと請う。
     簪色の彼岸花に花一輪、贄殺さず庇い斃れた義姉へ。
     見守る伊織にも胸に疼く喪った家族の記憶。されど彼への愛しさが疵癒す。
     ぬくもりくれる人と出逢わせてくれた感謝、おはぎ乗せ灯篭は往く。
    『安らかに』
     樹は従兄リシャールへ仏語で綴る。
     もう大丈夫。今なら残してくれた事ができる、と。
     拓馬にもいるが灯籠は流さない。かつての友であり許嫁は『無常』という名で共に在るから……忘れない。
     互いに、今へ導いた存在へ弔いを寄せる。
     漣香は語る、亡くなった姉の事を。
     血縁の思い出がない銀より返るは曖昧な頷き。
    「かけた」
     故郷避ける程だった姉の死綴れた、拍子抜け。
    「オレ、今ちゃんと笑えてんのかなぁ」
    「心配なら俺の願い使ってやるよ」
     めんどくせーと綴る銀に心解ける。
     戦いで散った命と紫堂の為に……黙祷する直哉を脇差は見守る。
    「……将として守りたい仲間が居たんだろう?」
     ……ダークネスだろうが信頼得られた人生は幸い、か。
    「お前が俺達に、朱雀門の奴らに残したもの……」
     ……俺は一体何を残せるのだろうか。
     ――声と思索が会話のように絡む。
    「へーちゃん、阿呆はないと思うよ!」
     従妹のしづこが頬膨らませるが知らんぷり。
     ビハインドの柔和さは晃平の中の偉大な兄とは印象が違う。
    『大好き』
     似顔絵と流した後俯くしづこを撫でる。
    「来年、会いにきてね!」
     来年、俺は兄と同じ年だ。

    ●縁
     水面飾る光は決して忘れられぬ思い出か、新たな縁か――。
    「綺麗なものですよ……」
     流希は守れなかった友の弔灯を流す。
     哀しくても忘れられや、しない。
     闇に沈む青達を纏い、真火と葉月は手を離れ彼方へと往く灯を瞳に映す。
    「なんて書いたんですか……?」
     本当の父よりぬくもりをくれた、されど呼ぶ事叶わなかった『おとうさんへ』
    「昔の友人への手向けかな」
    『聖』
     その人を語る日がいつか来ればと、思う。
    「婆様、みんな……私は、元気、だよ……」
     大切なサーカスの皆思えば、水の灯がチェーロの瞳で滲む。
     白を流したキース、胸には自らの手で冥府へ堕ちた親友の面差しが浮かぶ。
    「チェーロも、伝えられたか?」
     頷き二人見上げれば星はもう滲まない。
     セレスが記す国言葉、響く名に顔をあげ。
    「こんばんは、標さん」
     純なる白の灯籠、アリスの願いは全てがダークネスの毒牙に掛からぬように。
    「白き願い……か、アリスさんらしいね」
     流れ紛れゆく光、彼岸より守護を。
    「ドイツ語?」
    「ああ」
     日本かぶれの祖父を思い出し『貴方の希望はまだ潰えていません』
    「絶望していた脆さは存外に長持ちしている」
     誰より縋りたかったのも知った上で。
    『標』
     息呑む誠へ語る同名の娘を産みすぐ死した母を。
    「強ぇな……」
     星続く所にいる人へ逢う強さを願う誠へ首を振る。
    「泣きたくなる日ばかり」
     産まれを肯定してくれた兄へ今は声が届かぬと。
    「永久くんは記憶、なんだよね?」
    「碧月さんは?」
     恋人祈願は手で隠し「思い出沢山」とはにかみ、星光に手をふる。
    「記憶が早く戻りますようにって」
     一人より二人で願うというレイラに語る……灯籠はお盆に戻った魂。記憶も流せるように戻れば、と。
     手助けをしたい、
     一緒に記憶紡げればいいな、
     ……どちらにも、ありがと。
    「じゃーん、ハートマーク!」
     灯籠掲げテツ君と駆けつける矢宵。
    「可愛い」
    「矢宵さんらしい、です」
     広がれ愛、兄とテツ君に支えられ笑顔の少女は灯籠を湖へ。
    「見せあいっこ!」
     勇介の灯篭には力一杯に描かれた皆の顔、画力は愛嬌。
    「ゆーちゃんの、気持ちが伝わっていいなっ」
     陽桜が掲げるのはクレヨン花弁、元気で幸せに過ごせるように。
    「お、僕と同じだな!」
     毛筆の龍と健・体・康・心の文字。
    「健と陽桜ネの願いってもう叶ってるわね」
     蝙蝠カップ、星下狐・月小花・茶葉のティポット…全て家族がモチーフと曜灯。
    「家族と一緒なら、おばあさんも淋しくないですね」
     想希は皆の灯篭に瞳細めうんうんと頷く。
    「想希にーちゃん……」
     勇介のにやにや笑い、紅葉と桜、大切な人を見透かされ頬が染まる。
    「みんな、賑やかでいーね。ボクも来年はもっと色々描こうかな」
     シンプルな灯篭、見本示すように標は湖へ置く。
     ひだまりのような笑みの5人もそれぞれ想い込めて解き放つ。
     ふわり。
     空へすくい上げるように吹いた風、流れゆく灯篭をみんなで追う。
     藤連れ由乃は、ジョシュアの綴る『共に』に寿ぎ浮かべ、家族への哀愁は霞み『ずっと一緒にいたい』と記した。
    「……一緒にいてくれるか?」
     銀糸きらり、水面ゆく灯篭。
    「もちろん! 一緒にいてね?」
     この手、決して離れぬように。

    ●願い
     水に炎、死者への想いという過去と願い叶えという未来、真逆が作る幻想――。
     寂しげな閏に寄り添う夕眞。
    「あのね、『明日』って、書いたの」
    「……ふふ、なにそれ、かわいーい」
     今日ぐらいは口にしても神様叶えてくれそう、だから。
     ならば彼も共に過ごせる『明日』を。
    「ありがとう、ゆーま」
     新しいを、ありがとう。
     海に攫われし友への未練……辞めにする。だから二頭のイルカ、共に自由になろ。
    「沢山、沢山、綺麗だね」
     あったかい。
     鵺白の声に蓮二は頬が緩む。
    「願い、届くと良いね」
     指先咲く熱、頼もしい。
     隠し書いた『歩』彼らの標となり、二人歩めますように。
    『守れなくてごめん、必ず強くなるよ』
     得た居場所、それを守るため……誓い湖に放した流は、悪友の記す文字に拳を握る。
    『物部小袖』
    「ヘタれてる自分を託すんだ」
     拳避け小袖は口にする……燻る死の記憶から一歩進むため。
     そうすれば悪友が親友に変わるだろうか。
    「……届くと、いいな」
     後押すよう肩包み、笑み。
     心の崩壊阻止のゆるみ笑いは仕舞い音は灯籠を手放す。
     死者へは向こうで直接告げる。
     願う皆の幸いに添える。はやく、本物になれますように。
    「ほら、お藤」
     儚さにあてられたか、寂しげな霊犬を撫でる式夜。
    「願いは、二人で護りたいモノを護るって事で」
     誇らしげに揺れる尻尾に頷き灯流す。
     鳥と魚に小花を託す……寂しさ和らぎますように。最後に記憶朧な両親へ……ごめんなさい。
     常に誰か慮る優しき緋織は全ての魂の安楽を願い、そっと身を起こす。
     湖に瞬く光は、無数。
     感謝、祈り、願い、哀しみ、悔悟…………数多の彩をのせ、灯篭は往く。還りは来年か、はたまた……。
     ――巡る巡る、人が人で在る限り。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月29日
    難度:簡単
    参加:95人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 17/キャラが大事にされていた 8
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