不良アンブレイカブル、三度

    作者:時任計一

     場所は北海道の沿岸。その場に、2人の少女が立っていた。互いに実体は無い。ダークネスの残留思念と、幻のような存在のシャドウ……慈愛のコルネリウスとのやり取りだった。
    「あなたも、灼滅されてなお、残留思念が囚われているのですね」
    「まーね。正直、まだやりたいこともたくさんあったしさ」
     ひどく軽い口調で、アンブレイカブル、更級・風香の残留思念は言った。
    「もっと戦いたかったし、もっと強くなりたかったし……何より、もっと友達を作って、話したり遊んだりしたかったしね」
     アンブレイカブルらしからぬ発言ではあったが、こういった考え方が、かつて彼女が『不良』と呼ばれていた所以だった。
    「貴女のその想い……もしかしたら、遂げさせてあげることも、出来るかもしれません」
    「……え、ホント?」
    「えぇ……聞こえますか、プレスター・ジョン? この哀れな少女の心を、あなたの国にかくまってあげてください」
     目を輝かせる風香の残留思念を前に、慈愛のコルネリウスはそう呼びかけた。


    「シャドウ、慈愛のコルネリウスが、灼滅者に灼滅されたダークネスの残留思念を拾って、どこかに送り込んでるようね。今回、その内のひとつが予知できたわ」
     藤堂・姫(中学生エクスブレイン・dn0183)は、少し気が抜けた様子で、そう切り出した。
    「ま、残留思念に力は無いと思うんだけど……相手がコルネリウスだからね。力を与えることも、不可能じゃないんでしょう」
     今回の目的は、コルネリウスと残留思念の会話の最中に乱入し、コルネリウスの作戦を邪魔することにある。
    「コルネリウスには実体がない。残留思念にも力は無い。だけどコルネリウスは、残留思念に力を与えることができるわ。だから今回は、力を得た残留思念との戦いになるでしょうね」
     コルネリウスは、灼滅者に不信感を持っている。残留思念の方も性格上、一回は戦わないと気が済まないだろう。
    「残留思念は、通常のダークネス並みの力を持つことになるわ。気を抜くと、痛い目に遭いそうね」
     相手は『彼女』だが、手加減に期待するのはやめた方がいいだろう。正々堂々、真正面から全力で向かってくるに違いない。
    「で、その残留思念って、どのダークネスのものなの?」
     姫の話が一区切りした頃に、霧谷・灰(のんびりエクソシスト・dn0162)がそう言った。それを受け、姫が話を続ける。
    「あたしも報告書でしか知らないんだけど……かなり前に灼滅された、更級・風香(さらしな・ふうか)っていうアンブレイカブルのものよ」
     更級・風香。通称、『不良アンブレイカブル』。その所以は、自分を鍛え、強くすることだけではなく、その他のこと……遊びや料理などにも興味を持つ点にある。その辺が、アンブレイカブルとしては異端らしい。どうも彼女の残留思念は、こういった『その他のこと』についても、多分に未練を残しているようだ。
    「彼女に興味があったら、戦う前に、彼女と遊んであげるのもいいかもしれないわね」
     メリットはあまり無いが、その方が風香も満足するだろう。
    「で、戦闘能力についてだけど……使ってくるサイキックは、彼女を灼滅した時と同じね。ストリートファイターとバトルオーラのものと同質で、オーラキャノンが『オーラストーム』というサイキックに変化してるわ」
     ポジションはクラッシャー。火力はかなり高いと見ていい。
    「コルネリウスも、何考えてるんでしょうね。まぁとりあえず、面倒そうなことは阻止した方がいいわ。風香の方は、そんなに面倒な事を考えるような子じゃないみたいだから、その分気は楽かも知れないけど。じゃあこの件、あんた達に任せたわよ!」


    参加者
    前田・光明(高校生神薙使い・d03420)
    ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)
    山田・菜々(元中学生ストリートファイター・d12340)
    清水・式(癒ぬ傷みを背負う者・d13169)
    岬・在雛(地球圏外のざっぱ・d16389)
    桜庭・遥(名誉図書委員・d17900)
    今井・来留(小学生殺人鬼・d19529)
    佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)

    ■リプレイ

    ●3度目の出会い
    「悪いが、邪魔するぞ」
     場所は北海道の沿岸。2人の少女が会話する中、そう言って割って入る前田・光明(高校生神薙使い・d03420)を先頭に、大勢の灼滅者達がなだれ込んできた。少女の片方、慈愛のコルネリウスは不審がる表情で、もう片方、更級・風香の残留思念は、『あぁ、やっぱり』とでも言いたげな表情で、灼滅者達を見ている。
    「久しぶり、更級さん。僕の事、覚えてる?」
     灼滅者の1人、清水・式(癒ぬ傷みを背負う者・d13169)が、そう言って風香に声をかけた。風香は驚き、大きな声で言葉を返す。
    「式くんに菜々ちゃん!? あ、他にも知った人が何人か……」
    「覚えていたか。変わらず元気そうで何よりだ……というのは、あまりにも可笑しいか」
     ニコが静かにそう言うのに続き、桜庭・遥(名誉図書委員・d17900)が話を続けた。
    「初めまして、桜庭・遥です。よろしくお願いします」
    「あぁ、うん。こちらこそ……って、『よろしく』っていうのは、やっぱりその……」
    「話が早くて助かる。お前と勝負をしに来た。手合わせの程、宜しく頼む」
     光明の宣戦布告に、風香は少し渋い顔をして、コルネリウスの方を見る。
    「都合のいい話なんだけど……今ここで、みんなと戦えるようにって、ならない?」
    「……貴女がそれを、望むのなら」
     そう言うと、コルネリウスは光の玉となり、風香の体に入り込む。すると、風香の残留思念は実体となり、この場に足をつけた。
    「うわ凄い、ダメ元で言ってみたのに……よし、じゃあみんな、一戦やってみようか!」
    「その前に。折角なので、少し戦いとは違う形で遊ばないか?」
    「……え?」
     光明の言葉に意外そうな顔をして、風香がその場で固まる。そんな彼女に、山田・菜々(元中学生ストリートファイター・d12340)も声をかけた。
    「今日は約束どおり、遊びにも来たんっすよ。どうっすか?」
    「遊ぶっ! みんなで思いっきり遊ぶっ!」
     風香はらんらんと目を輝かせ、即答した。先程の『一戦やってみようか』より意気込みが強い。
     そんな風香の元に、普段はあまり見せない柔らかい表情をしたリステアが歩いてきた。
    「私は今回、ただ話をしにきたわ。北海道以来ね……本当に出会いって、色々あって大変よね」
     そう言ってリステアは、風香に握手を求める。風香は迷わず、彼女の手を握った。
    「今日は、後悔のないようにね」
    「……うん、ありがとう」
    「やっほおおおおおくーまんだよーさっそくあそぼおおおお!」
     そんな空気の中、突然拓馬が突撃してきた。ほぼ裸で、前を一枚の紙で隠しているだけである。
    「まず野球拳しようジャンケンポン!」
     混乱している風香は、勢いに乗せられてグーを出す。拓馬は後出しでチョキを出した。
    「ああ負けちゃった、最初で最後の一枚取られちゃ……あべし!」
     近くにいた数名が、拓馬を殴り飛ばす。彼は遠くまで飛んでいき、大きな水音と共に海へと落下した。
     こうして、灼滅者達と風香の、楽しいひとときが始まった。

    ●遊びの時間
     まずは砂浜まで移動し、ビーチバレーを始めた。人数が多かったので、チームを組んでのリーグ戦だ。
     ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)の強烈なアタックが叩き込まれる。だが、素早く反応した風香が、そのボールを拾った。
    「そっち行ったよ!」
    「は、はい! 山田先輩、どうぞ!」
    「ナイストスっす! これで……どうっすか!」
     遥がトスし、菜々が渾身のアタックを決める。入った。仲間内でハイタッチをし、健闘をたたえ合う。
    「……いい動き。でもわたし達も負けない」
    「次は絶対取らないかんですねー」
     ライラと佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)も、かなり燃えている。程なく、風香のサーブが向かってきた。かなりの威力だ。
    「……取れる」
     だが、ライラのレシーブがギリギリで追い付いた。仲間がトスを上げ、結希が高くジャンプする。
    「これがっ! イナズマアターックっ!」
     結希のアタックが、敵陣に突き刺さった。誰も動くことができない。
    「……面白くなってきたね。こうでなくっちゃ!」
     風香も燃えている。白熱の攻防は、その後も続いた。
     次に、スイカ割りもやった。
    「ルールは簡単よー。目隠ししたままこれ持って、スイカを割るだけ。誰が一番細かくできたか勝負するの」
     岬・在雛(地球圏外のざっぱ・d16389)が持ち出したのは、大きなヤシの木だ。まずは在雛が、手本を見せる。
    「ヘーイ、スイカどちらかしらーん? ズドンと叩き潰しちゃうよん」
    「右ー! もっと右だよ」
     登を始め、集まった者が指示を出す。最後に、『ドゴォ!』と砂煙上げて木を振り下ろし、スイカを叩き割ることに成功した。
     続いて、風香が挑戦する。が、あまり慣れないのか、よたよたと明後日の方向に歩を進める。
    「あれ? みんな……スイカって、どっち?」
    「違う、逆方向だって……こっちじゃないってっ!」
     命の危険もあったものの、風香も何とかスイカを割ることに成功した。だが……。
    「えーと……これ、どうやって数えればいいのかなぁ?」
     審判を任された霧谷・灰(のんびりエクソシスト・dn0162)が困っている。どのスイカも、跡形もなく砕かれ、最終的にいくつの破片になったのかが分からない。
    「……まるで花火のような光景だよね。あははは♪」
     離れた場所で見学をしていた今井・来留(小学生殺人鬼・d19529)が、遠くでぼそりとそんなことを言っていた。
     水泳も楽しんだ。
    「更級さん、遠泳で勝負しようよ。スタートはここで、あの岩で折り返し、なんてどうかな?」
     式が、風香に勝負を申し出る。岩場までは、結構な距離がある。
    「勝負? やるやる! 絶対負けないからねっ!」
    「わたしもいーれーてー」
     だが、2人の間に、在雛が割り込んできた。他にも、遠泳に参加したいという者が次々出てくる。結局、有志による遠泳大会が開かれることになった。
     みんなで料理も楽しんだ。
    「カレーの材料は持ってきた。料理が得意な奴に頼みたい」
     光明の言葉に、何人かが手を上げる。その中には、風香の姿もあった。次いで、色々な道具を抱えた透流もその場にやってくる。
    「私もバーベキューセットを持ってきた。私自身は使い方をよく知らないんだけど……」
    「これだけあれば大丈夫! みんなで、うんとおいしい料理を作ってみせるから!」
    「頼もしいな。じゃあ灰は、俺を手伝ってくれ。飯を炊くカマドを作る」
    「うん、分かったー」
     各自役割分担をして、カレーとバーベキューの用意をしていく。風香もどこで料理を習ったのか、意外なほどに手際が良く、次々と仕事をこなしていく。
     そうしてできた料理が、不味いわけがなかった。味に文句を付ける者は、誰もいない。
     最後に式の提案で、大勢での写真を撮り、その場は一時休憩となる。それぞれがとりとめのない会話をする中、流希とミィナは、風香に質問を投げかけていた。
    「アンブレイカブルの方に、一度聞いてみたいと思っていたんですよ。貴方達がいう『最強』とは、一体どのようなものなのでしょうか……?」
    「へ? うーん、そうだねー……何をするにしても、勝ったら大抵嬉しいよね? だからあたしは、いつでも勝てる『最強』ってのを目指してたんだと思う。他の人がどう思ってるのかは、知らないけど」
    「ボクからもひとつだけ、問いたい事があるなぁん。僕たちが、本当に、共に歩んでいく道は、なかったのでしょうか……なぁん?」
     ミィナの質問に、風香は少し厳しい顔をする。
    「あった、のかもしれない。実際あたしは今日みたいに、みんなと一緒に遊べたしね。だけど、かなり難しいことなんだと、思うよ」
    「じゃあ更級さん。まだ、灼滅者になりたいって思ってる?」
     突然の式の質問に、風香は少し驚く。だが、すぐに気を取り直し、言葉を返した。
    「……うん、そうだね。そうだったらいいなって、やっぱりちょっと思ってる」
    「……そのような性格では、灼滅者になったらなったで苦労するというに」
    「え、そうなの?」
     ニコの言葉に、風香は再び驚き、言葉を返す。そこで、光明が時計を見て、「そろそろ時間か」と呟いた。
    「あ、もうそんな時間かぁ」
    「よし! 今度は戦闘っすよ。今度も負けないっす!」
     菜々の元気のいい挑発に、風香はニヤリと笑って返した。
    「こっちこそ。意地でも負けてあげないよ!」

    ●戦いの時間
     陽も降りてきた頃、灼滅者代表の8人と風香が相対していた。
    「本番ですね。よろしくお願いしますっ」
    「こっちこそね。じゃあ、行くよっ!」
     結希の言葉に風香が応え、戦闘が始まった。風香はその場を動かず、オーラを右手に溜めている。大して来留も、同じように殺気を周囲に集めていた。
    (「コルネリウスは『アレ』じゃない。『アレ』はもっと黒い物を……」)
     来留が考えていたのは、過去のこと。彼女が遊びに参加しなかった理由だった。それは……。
    「……あはは♪ 今は関係ないかあ」
     来留は思考を捨て、風香より早く、壊れたような笑顔で殺気をまき散らす。殺気は風香の体力を確実に奪うが、そのすぐ後、風香も気の嵐を起こして、来留に対抗した。前衛の灼滅者が、まとめて攻撃を受ける。
    「これが噂のオーラストーム……強さはもちろんやけどカッコいい……! けど!」
    「こっちもやられてばかりじゃないよ! フェニックスドライブ!」
     結希と在雛が、即座に動いた。ヒール効果がある霧と炎の翼が、灼滅者達を癒す。在雛は、近くの仲間を回復させるために、前衛に出ていた。
    「では、今度はこちらの番だ」
     回復を受ける間、片手を異形化させていた光明は、傷が癒えると同時に飛び出し、風香を殴りつける。威力は絶大だ。だが風香は、受け身を取りながら体勢を立て直した後、即座に地を蹴り、灼滅者達に迫った。
    「前と同じ、防御重視の陣形だよね。この場合、攻撃役から叩くのが一番楽だけど……っ!」
     オーラストームは様子見だったようだ。風香は、誰が攻撃手かを見抜いたらしく、拳に電流を流し、菜々に迫る。しかし、式はその間に割って入り、攻撃を受け止めた。
    「菜々はやらせない」
    「だろうね」
     にっと笑ってそう言う風香に、式のビハインド、神夜が霊撃を叩き込む。風香に大きな隙が出来た。攻めるなら今だ。
    「2人共、ついて来て」
    「いつでもいいっすよ!」
    「じゃあ、全力でいきます」
     式の言葉に、菜々と遥が応える。式はそのまま縛霊手での一撃を叩き込み、菜々は鬼の腕で、遥は炎をまとった武器で、同時に攻撃を重ねた。風香の体に、炎がまとわりつく。
    「熱っつ……でもこれなら、放っておけば治るけど……」
    「……そう簡単に、強化を見逃したりはしない」
     既にライラが、風香のそばまで近付いていた。彼女は剣の刀身を非物質化させ、風香のエフェクト耐性を一撃で叩き割る。一方、式の方も、来留のナノナノに、受けた傷を対処してもらっていた。
    「あはは♪ ナノナノ、回復頼むよう」
    「まぁ、そう来るとは思ってたけどね。じゃあ、一番有効な戦法は……力押しっ!」
     風香はひるまず、とにかく前に出る。今度の狙いは光明。全力の正拳を繰り出す構えだ。
    「神夜っ!」
     式が叫ぶ。神夜は即座に動きだし、光明の盾となって攻撃を受けた。その後ろでは、光明が杖に魔力を注ぎ込んでいる。
    「次はこいつを食らってもらおうか」
     光明が蹴りを出す。風香は避けるが、これは囮。足が地に着くと同時に、光明は魔力の溜まり切った杖を、風香に全力で叩き付けた。
    「ぐっ……」
     風香が苦しげな声を出す。だが彼女は、次に迷わず後ろに下がり、自分の怪我を回復させる。
    「いやー、やっぱりチームプレイって怖いね。でも、こっちにも回復ぐらいはあるからね。ここからは、粘り強さ勝負といこうか」
     風香の回復が終わる。それと同時に、彼女は攻撃を再開した。

    ●嵐の後
     風香は、攻撃力の高い前衛の光明と菜々に、狙いを絞ったらしい。どうせ砕かれると割り切ったのか、エフェクト耐性を積むこともしない。次の攻撃も、菜々に向かって乱打を決める気のようだ。
    「だーめよー。させるわけないじゃん」
     それを読んだ在雛が、菜々の前に糸の結界を作る。風香の攻撃の打点をずらすのが目的だ。
    「それでも……押し通るよっ!」
     結界を無理矢理突き破り、菜々に迫る風香。だが続いて、遥が菜々のカバーに入り、その乱打を受け止めた。
    「妨害されてもこれだけの攻撃……さすがですね。でも、負けません」
     遥はすかさず、火花の飛び散る蹴りで反撃する。風香はすかさずその場を離れ、回復のために一時引いた。同時に、結希の投げるリングが、遥の傷を癒す。
    「その程度で、みんなは倒させませんよっ」
    「だろうね。なら、一か八か……やってみようかっ!」
     風香は手にオーラの嵐を溜める。片手ではない、両方の手でだ。
    「ダブルオーラストームっ! いっけぇっ!」
     風香の手から、2つのオーラの嵐が投げられる。前衛の灼滅者達が、なすすべなく吹き飛ばされた。被害はかなり大きい。
    「……ちょっとまずいですよねー、これ。在雛さん!」
    「分かってる! 使うよ、ヴァンパイアミスト!」
    「わ、わたしも回復をします」
     回復担当の結希、在雛、ナノナノに加えて、遥も回復に回る。光明も注射器を片手に、風香の体力を吸い取る攻撃に出た。
    「回復の手が足りなくてな。お前の力をもらう」
    「くっ……でも、今の狙いはあっちっ!」
     風香は光明を振り払い、狙いの相手……神夜に向かって走る。そして接近するなり、神夜を掴み、全力で投げ飛ばした。遠くで地面に叩き付けられた神夜が、その場から消滅する。
    「はぁ、はぁ……やっと1人目っ!」
    「神夜っ!? くっ……」
    「式……いけるっすか?」
     菜々が式にそう呼びかける。風香もかなりきつそうだ。今は絶好の攻め時でもある。
    「……大丈夫、いける」
    「じゃあ、先に仕掛けるっす!」
     菜々が飛び出す。武器は、全力で魔力を溜めた杖だ。接近、攻撃……命中。菜々は杖から、相当の手応えを感じた。続いて、式の拳の乱打。急所には入れられないまでも、命中。追撃も入れた。確かなダメージを、風香に与える。
     風香が動く。ここが勝負の分かれ目だと、多くの者が気付いた。風香が目の前の式を攻撃すれば、彼は恐らく倒れる。だが、風香のダメージもひどい。回復の必要がある。
     進むか、退くか。風香は、進む方を選んだ。
    「これで……2人目っ!」
    「残念でした。あはは♪」
     だがその間に、来留が割って入った。来留はギリギリのところで風香の攻撃に持ちこたえると、すぐさまナイフで、風香の足を傷つける。
    「あははは♪ もう逃げられないからね」
    「しまっ……」
     風香はすぐに退こうとする。だが、遅かった。既に、魔力で蒼く光らせたグローブを振りかぶったライラが、すぐそばまで近付いていたのだ。
    「……これで、最後」
     ライラの正拳が、風香の体に沈む。彼女は歯をくいしばって耐えようとするが、無理だ。ライラの一撃は、完全に急所を捉えている。耐えられるはずがない。
     衝撃で、風香の体が吹き飛ばされ、地面に落ちた。仰向けになって倒れたまま、風香は動こうとしない。
     勝負はあった。灼熱者達の勝利だ。

    ●夢の終わり
     倒れた風香に、式がヒールサイキックを使う。少し経つと、風香が目を開いた。
    「負けた、か……あ、ありがとう、式くん。前にもこんなこと、あったよね……あいててて」
     そう言いながら、風香は上体を起こす。だが、彼女には、もうあまり力が残されていないようだ。
    「……どうです? 私達との戦い、楽しめましたか?」
     結希は笑顔でそう風香に聞く。その言葉に、風香も笑顔で返した。
    「うん、すごく楽しかったよ。三連敗、って考えると、悔しくて仕方がなかったりするけどね」
    「いやいや、風香さんめっちゃ強かったです。ありがとね!」
    「……ん、頑張ったなぁ。こっちもハラハラして見とったわ」
     そう言って前に出た一浄は、風香の頭をポンポンと軽く叩く。
    「でも、よう思うわ。違う形で生きられたら、どないにか良かったんにね」
    「……アタシも本当にそう思うよ。せめて生きてる時に会えれば……」
    「あー、しめっぽいのは無しにしようよ。あたし、『最後は笑顔で』って決めてるから」
     一浄とエリの言葉に、風香はそう言って両手を振る。ただ、彼女の笑顔も少し崩れかけているように見えるのは、気のせいだろうか。
     やがて風香の体から、光の粒のようなものが昇っていく。風香の姿も、だんだん薄れていくように見えた。
    「もう、さよならの時間っすね」
     菜々がそう言う。風香は、首を縦に振って応えた。
    「みんな、本当にありがとう。すごく楽しかった。多分、今までで一番」
     自分で言った通り、笑顔のまま、風香の体が薄れていく。最後に光明が、風香に言葉を送った。
    「次は、人に生まれる事を願う」
    「……うん、そうであってほしいね」
     風香はそう言うと同時に、この場から完全に消滅した。
    「式。これで良かったんすよね」
     菜々がぽつりと、そう口にする。
    「分からない……けど、彼女に後悔は無かったって、信じたいかな」
     式が菜々に答えている間、ライラはその場に簡単なお墓を作り、ビーチボールを置いていく。彼女は両手を合わせて祈り、目を開けると共に、言った。
    「……さようなら。あなたのことは忘れない。だって、遊んだ友だもの」

    作者:時任計一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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