波の音が聞こえる。砂浜に面した路に、黒い翼を生やした女が立っている。
女は魔法少女めいたボディスーツに全身を包んでた。胸元には、赤い石とリボン。
女は耳についた逆十字のピアスをいじりつつ、己の胸元に話しかける。
「静穂……かつて堕ちた罪を償う為に、また堕ちちゃって……痛いよね、苦しいよね……」
その言葉は、堕ちた自分の中に残る、もう一人の、灼滅者の自分に向けた言葉だ。
「私はたまらない気持ち! だって、拘束されまくった後のこの解放感! それでいて、天覧儀に参加する事で行動を縛られるのも……フフッ!」
闇に堕ちた彼女、茂多・静穂(千荊万棘・d17863)はピアスから指を離す。
その腕の辺りから、どろぉ、紫色の粘液がしみだし、道に零れた。
「さあ。あの子たちのところに行こう」
足元を紫に汚しつつ、静穂は歩きだす。彼女が見るのは、海岸に設けられたキャンプ場。テントがあり、そばで武蔵野学園の生徒たちが談笑しているようだ。高い笑い声が聞こえた。
「あの子たちにはたっぷり痛めつけてもらわないと。もちろん、私からも……ゾクゾクしちゃう!」
静穂の手にはいつの間にか、黒いライフル。銃身に頬ずりしながら、静穂は生徒たちに近づいていく。
教室で。姫子は話をきりだした。
「今年の臨海学校は、北海道の興部町に決まりました。
興部町に決まった理由は――新しい段階に進もうとしている、武神大戦天覧儀」
多くの生徒の予想通り、天覧儀を勝ちぬく最後の席を賭けたバトルロイヤルが、業大老の沈むオホーツク海沿岸の海岸で、行われる。
そのため、日本各地から天覧儀を勝ち抜いた猛者が、北海道興部町海岸に集まろうとしている。
「その中に、闇に堕ちた学園生、茂多・静穂(千荊万棘・d17863)さんもいるのです」
姫子は、皆の顔を見つめてから、説明を続ける。
「皆さんは、興部町の海水浴場、沙留海水浴場周辺でキャンプを行い、やってくる静穂さんを迎撃してください。
でも、静穂さんがいつ来るか、わかりません。だから、皆さんはまず臨海学校を楽しんで下さい。
例えば、海の見えるキャンプ場でカレーを作ったり……きっと楽しいですよ」
少人数でキャンプを楽しく行っていれば、静穂は警戒せずに、戦闘を仕掛けてくる。
闇堕ちした静穂は、痛めつけられることや縛りつけられることを、喜ぶ。
また、その喜びを相手にも知って欲しいと、相手を苛烈に痛めつける。
今回、天覧儀に参加する動機は、痛みを味わうため、そして自分の中に残った『灼滅者の静穂の意識』を痛めつけつつ消し去るため。
戦闘では、静穂はシャドウハンターとバスターライフルの技を高い技量で駆使してくる。
「強敵ですが、止めを刺した灼滅者が闇堕ちするという事はありません。
また、臨海学校で敵を待ち受ける皆さんとは別に、戦闘を支援するチームも編成しています。
戦闘開始から、ある程度もちこたえれば、支援チームが駆けつけ加勢してくれます。加勢があれば、静穂さんを圧倒できるでしょう」
が、戦闘に勝利するだけでは、静穂を生きた状態で救出する事は難しいかもしれない。
「戦闘中に静穂さんに語りかけ、人の心を刺激してください。
自身の贖罪の為に、痛みを引き受ける戦いを通してきた――らしい彼女の、人の心が刺激されたなら、彼女を倒した後、灼滅者に戻せる可能性が高まるでしょう」
姫子はしばらく黙る。数十秒が経過し、姫子は再び口を開く。
「――もし救出が不可能なら……灼滅しなくてはいけない。それは、覚悟しておいて下さい。
けれど、静穂さんを助け出せるのは、今回が最後の機会。今回助けられなければ、静穂さんは完全に闇堕ちしますから。
全力で彼女を助け出してください! お願いします!」
姫子は頭を下げ、灼滅者を見送る。
参加者 | |
---|---|
四季・銃儀(玄武蛇双・d00261) |
水島・ユーキ(ディザストロス・d01566) |
不知火・隼人(蒼屍王殺し・d02291) |
中島・陽(ハートフルメカニック・d03774) |
佐久間・嶺滋(罪背負う風・d03986) |
永舘・紅鳥(常闇に焔を抱いて・d14388) |
黒橋・恭乃(黒々蜻蛉・d16045) |
清浄・利恵(根探すブローディア・d23692) |
●
波の音が聞こえる。時刻は夕刻、日はまだ沈んではいない。灼滅者九人は料理の最中だ。
不知火・隼人(蒼屍王殺し・d02291)が米を研ぎ、佐久間・嶺滋(罪背負う風・d03986)が石を組んでかまどを作っている。
トントン、包丁でナスを切っているのは中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)。
「あいつはまだ来ないな……」
「来たら、元に戻して、これ食べさせないとな」
隼人と嶺滋が周囲を見ながら言葉を交わす。
陽が包丁の手を止め口を挟んだ。
「うん。皆で一緒に食べられるように、材料は多めに用意してるよ」
「では、腕によりをかけて作りませんとね」
と、黒橋・恭乃(黒々蜻蛉・d16045)が、すり鉢に入ったスパイスを、ごりごり潰しながら微笑んだ。
一方、清浄・利恵(根探すブローディア・d23692)はサラダ用の野菜を切っている。
水島・ユーキ(ディザストロス・d01566)の取ってきた魚の切り身を載せ、海鮮サラダにするつもりだ。
サラダを作りつつ、利恵とユーキは話す。
「彼女とは少しあった程度の仲。だが……彼女を放っておけない。絶対助け出そう」
「わたし、も。チーム、の、皆と、約束、した、し、かなら、ず、連れ、て、帰る」
しばらくして。鍋がコトコト煮える音。スパイスの香りが漂う。調理は順調に進んでいた。
四季・銃儀(玄武蛇双・d00261)は鍋をかき混ぜていた。不意に手を止め、鍋を火元から離した。
「カカッ! 来たようだな!」
銃儀の目は、道路沿いのある一点に向けられていた。残り八人も同じ場所を見ている。
そこには、黒い翼を生やした女。ボディスーツに身を包んだ彼女は灼滅者を見て、唇で弧を描く。
彼女が、闇に堕ちた茂多・静穂(千荊万棘・d17863)。
静穂は灼滅者を見、一歩二歩こちらに歩みよる。
永舘・紅鳥(常闇に焔を抱いて・d14388)は拡声器を手に取った。
「目標接近中、警戒してくれっ」
●
陣形を整える灼滅者たちの前で、静穂は、
「警戒? しても無駄だよ?」
左手に持つ黒いライフルを、無造作に持ち上げる。漆黒の弾丸が飛んだ。標的は、灼滅者後衛。
が――ユーキがライフルと仲間の間に体を滑り込ませた。
はたして、ユーキは腹で弾丸を受けた。赤い血が零れる。
陽はユーキに歩み寄る。腰のケースからカードを取り出し、シールドリングを発動。四醒星トランプ・ファミリアーを変化させ、小光輪をユーキのもとに集わせる。
光の力でユーキの血が止まる。
ユーキは目礼すると、再び地面を蹴る。
ユーキはライフルを構えた静穂へ接近。黒の気に包まれた拳で静穂の顎を殴りつける! 拳の力で静穂の体が宙に浮いた。
静穂は宙で一回転し、着地する。そしてはしゃいだように、
「いい、いいよ! もっと、もっと傷つけてあげる。だからもっと、傷つけ……」
ユーキが静穂を遮った。
「貴方、は、自身、の、ため、に、傷つける、だけ。静穂、は、相互理解、を、目的、と、して、いる。貴方、は、静穂、と、全く、違う……」
たどたどしく、けれど、最後はきっぱり断言。
「わたし、は、貴方、を、認め、ない」
陽は、そうだよ、と続けた。
「そうだよ。本当の静穂は、快楽の為に痛みを弄ぶだけの奴とは、違う。――静穂! 君はアレな性癖はあっても、周りに気遣いのできる子でしょ! そんな奴の好きにさせないで!」
声を張り上げ、闇の奥に眠る本当の静穂へ届かせようと。
静穂は反論せず、こちらの話を聞いている。
嶺滋は遠くを見るような目をしていた。何かを思いだしたのか。目を静穂へ戻し、
「静穂には誰かの痛みを引き受ける、愛と決意があった。愛もない只の独りよがりのダークネスと同じだとは、絶対に思わない」
いつもよりも荒い調子で言う。
恭乃と紅鳥が嶺滋の言葉を引き継ぐ。
「ええ、私も思いません。だって、愛も挟まない苦痛なんざ、只の痛みそのものでしょ? 『愛があってこその関係だ』だって、茂多様はそれを己の体で証明していた! でも――」
「――でも今のお前は独りよがりのジコチュープレーって感じじゃん。寂しいだけだぜ、そういうの。だから戻ってきて取り戻せよ、お前の体を」
恭乃は丁寧な言葉に熱を混ぜ、紅鳥は冷静にかつ鋭く。
静穂の唇がピクリと動く。何か言い返そうとしたのか。
恭乃は気付く。今この瞬間の静穂は隙だらけだ。恭乃はすかさず、斬艦刀に蜻蛉の影を宿す。刃を横凪に振り、静穂の胴へ叩きつける!
刀の威力に押され、一歩後退する静穂。
その斜め後ろに紅鳥が回り込む。茜色に染まる槍の石突きで静穂の後頭部を強打。
静穂は幸せそうに身震いする。
「ぁ……ぁ……んっ、その調子だよ……だから、もっとぉ」
灼滅者の攻撃を受け続ける静穂。今も、後衛のもんめが放ったオーラキャノンが静穂に当たる。
が、彼女の口元から笑みは消えない。
「お返しだよ!」
口にした次の瞬間には、静穂は隼人の目前にいた。右拳が唸り、隼人の胴に直撃。さらに悪夢の力が隼人に流れ込む。
隼人は膝を突いてしまう。
静穂は止まらない。銃口を持ち上げ、引き金に指をかけた。
「辛いのは今だけだよ。すぐに笑顔でおねだりできるようにしてあげる!」
隼人へバスタービームが放たれた。
銃儀が跳んだ。隼人を庇い、己の胸で光線を止めた。
銃儀は怒鳴りつける。
「幾らテメェが傷付けようが、魂の絆は、傷付かねぇッ!」
シールドを展開し守りを固める銃儀。
一方。嶺滋は一枚の札を取り出していた。力をこめて、それを隼人に投げる。
嶺滋の防護符が、隼人を痛みと悪夢から癒す。
「リーダー、いけるか?」
「ああ、ダチのためだ。この程度、何でもねぇ」
隼人は静穂の懐へ飛びこんだ。相手の胸元へ――蹂躙のバベルインパクト!
静穂のスーツに穴があく。そこから静穂の体――スライム化した紫色のそれが覗く。
「ああ、いい! いいよ! すごく……気持ちいいっ!!」
両手を広げ、歓喜の声をあげる静穂。
利恵は戦場を動き回り、彼女の背後に移動。後頭部を盾で殴る!
前のめりになる静穂。だが、数十秒後には静穂は体勢を立て直し、振りかえりざまに黒い弾丸で反撃。
弾丸は利恵の足を打ち抜いた。走る激痛。しかし利恵は痛みを顔に出さない。
「ダークネス。ボク達は負けない。君が誰かに与える痛みは、ここで最後だ」
紫の瞳に宿る強い意志。
●
灼滅者が奮闘する間に、サポートの者たちも動き出していた。
「しっかり包囲しておかないと」
「ああ、こっちきたら、殴って押し返したる」
「俺も注げる限りの力は注がせてもらう」
舞とクリミネル、マルクは会話しつつ、他の者とともに静穂を取り囲んでいく。
一方、レオンとイカリは静穂に呼びかけていた。
「いつまでもそんな奴の好きにさせるなよ。きついのがお好きなバカダークネスなんざ、自分の中にふん縛っちまえ!」
「誰かを守る幸せの方が、誰かを傷つける喜びなんかより、ずっと上に決まってる! そんなダークネスに負けるな!」
静穂が眉を動かす。
「私が欲しいのは言葉じゃない。それより早く私を痛めつけて! なんなら私の方から――」
恭乃は静穂の言葉を遮る。己の斬艦刀で。
喋る彼女の肩へ、刃を容赦なく叩きつける! スーツに傷が付き、スライムの体の、紫色の粘液が飛び散った。
「茂多様、皆様の言う通り、ダークネス如きに負けてはいけません。今の状態なんて、本来の茂多様が許容できるわけないじゃないですか! 負けずに戻ってこい!」
静穂は肩の傷口を押さえていた。一瞬だけ彼女の顔がゆがむ。
彼女の足元に三匹の蛇が這う。それは、銃儀の影蛇。影蛇どもは静穂の足に巻きつき、体を影で包みこむ。影喰らい!
静穂は悪夢に襲われ、転倒する。
静穂は地面に手を突き立ちあがろうとした。
隼人はその静穂の目の前に移動。腕を振る。外骨格腕部に装着した射突機甲杖“蒼王破”で――フォースブレイク。
静穂の顔面に蒼王破が激突。
静穂は立ちあがりかけた体勢のまま、熱っぽい目をしてみせた。
「ひゃぁ! 痛みが全身に……よすぎるよ!」
口から唾液を零しながら叫ぶ。
戦闘は続く。救援チームはまだ来ていない。到着は遅れているようだ。
支援チームの遅れを補うのは、サポートメンバーたちの支援。
戦闘支援をしながら、朱毘とくしなは静穂へ問いかける。
「いたぶったりいたぶられたり、それだけが人生じゃないって、学園で思い知ったんじゃありません?」
「痛み以外にも素晴らしいものがあると、静穂さんにも分かっているでしょう?」
静穂の唇が震えた。
芽生と橘花も静穂へ言葉を飛ばす。
「とおかまちさんとの結婚式、絶対、呼んでくださいですよ! 私とだっていろいろ遊んでもらうです! このまま、寝てたりなんてダメです!!」
「私だって、命がけで守ってもらった礼をしてない。戻ってこい」
彩歌はおもむろに唇を動かす。
「ここに来て、皆さんの言葉を聞いて、確信しました。静穂さんが慕われてる人物だと。静穂さん、皆さんとの繋がりを思いだしてください!」
有無が続ける。
「思い出したなら、魂の奥底から叫びたまえ、その身が誰のものであるかを!」
多くの言葉が飛ぶ中、静穂は肩を竦めた。
「いくら言ったって、静穂はでてこないよ。だって、私の方が強いんだからね」
その態度と言葉は本音か、あるいは虚勢か――。
銃儀は笑い飛ばす。
「カカッ! 静穂がダークネスより弱い? 大した冗談じゃねェか。カカッ!
なあ、静穂? お前の想いはッ、同じ痛みを誰にも味わせたくねぇって望みはッ、この程度の奴に負けるほど、弱くはねぇよなぁッ!!」
そうだ、と隼人が拳を握りしめて同意。怒気を混ぜた声で
「そうだ。この程度の、己の欲望を満たすためだけの奴に、自由にさせていいのか? 待ってんだぞ、俺達も恋人の橙も!」
利恵は静かな表情を崩さない。
「静穂くん。君の大事な人達が、君を待ってる。君は諦めないと言った。だからボクらも手を伸ばす。君からも手を伸ばしてくれ!」
利恵は静穂の瞳を真直ぐに見つめ、訴える。魂にまで届かせようと、ただまっすぐに。
静穂の動きが止まる。静穂の首が動いた。灼滅者を見、また、サポートの数人を見る。
静穂は笑ったまま。けれど、額に脂汗が浮かびだす。静穂は呟く。
「静穂? 私の中でもがいてる? ……やるね」
もう一人の己、本来の静穂に言い、闇の静穂は、唇を極端に釣り上げた。
「でも、静穂? そんな強い絆を持つ彼らをいたぶれば、アナタはどうなる?」
静穂が動いた。灼滅者前衛へ光線を放ってくる。
が、後衛の陽は悟った。光線の威力が、今までより弱まっていると。
「静穂ちゃんも抵抗してる……可愛い後輩が、仲間が、頑張ってるんだ。あたしたちも負けてられない! 皆、絶対に連れ帰るよ!」
陽の声と表情には、決意と希望。
陽は赤茶の毛を揺らし、強風を吹かせる。風が、光線を受けた前衛の痛みを払う。
紅鳥も風に癒されていた。
「ああ、連れて帰る。ダークネスが邪魔するなら、全力で叩き潰す」
紅鳥は砂を飛ばしながら駆け、静穂の正面で『STaRVeD STiNGeR』を嵌めた腕を前に。静穂の胸を激しく突いた!
紅鳥の打撃を受け、静穂は後ろに飛びのく。一旦距離をとろうと。
利恵はその動きを予測していた。間髪いれず、蒼の光輪を放つ。光で静穂を斬る!
「ああ……魂まで痛い、真っ白になりそう!」
静穂は官能的に息を吐いた。瞳はとろん、と焦点が合っていない。
数分が経過し、もんめは敵を観察する。
静穂は、とろけた目のまま嬉々として戦い続けている。攻撃を受ける度にはしゃぐ。が、スーツは傷だらけで、呼吸も荒い。確実に消耗している。
「このまま削りきれば……っ」
もんめは地面を蹴り、静穂へ鉄鋼拳を繰り出す。が、拳は空を切る。
焦点の合わない瞳をしたまま、静穂は笑い、飛ぶように走り続ける。
そして、トラウナックル。拳がユーキの腹に直撃。ユーキの足が大きく震えた。
が、灼滅者の攻撃と言葉が、内で眠る静穂の抵抗が、ダークネスの力を弱めていた。ユーキは倒れず踏みとどまる。
「……後、少し、で、静穂、を、戻せる。約束を、護る、ため、にも……!」
ユーキは己の回復よりも攻撃を優先。自分を殴ったばかりの相手を、相手と同じトラウナックルで殴り返す。拳を顔面にめり込ませる
静穂は砂の上に両膝を突く。笑みを消して、立ちあがろうとする静穂。
ユーキは視線を動かす。トドメは頼む、と仲間を見る。
彼女の視線を受け取ったのは、嶺滋。
嶺滋は静穂の側面に立ち、片足をあげた。ダークネスの意識を断ちきるべく、後頭部を蹴りつける。
どう、と音。静穂は前のめりに倒れる。
静穂は灼滅者を見上げる。その瞳は――本来の静穂のもの。
「……ありがとう……ございます……」
彼女は微かな声で言い、目を閉じた。
●
倒れた静穂の体を、嶺滋は確認していた。
「闇の力も消えたし、体も元に戻ったようだな」
彼の言う通り、静穂の体にもう異常はない。彼女を救うことに成功したのだ。
銃儀がパッと扇子を開く。
「めでたし、めでたし――ってな、カカカッ」
笑う彼が持つ扇子、そこに『一件落着』の文字。
陽は皆と協力して、静穂をシートの上に運び、寝かせる。そして陽は鍋の元に歩いていった。
「そのうち目を覚ますから、今のうちにカレーを暖めなおさないとね。きっとお腹がすいてるだろうし」
弾む陽の声。
紅鳥は腕まくりをし、
「俺も手伝うぜ。アイツにカレーをめっちゃ飲ませ、もとい食わせてやらねぇとな」
と申し出る。
恭乃も鍋に近づきながら、悪戯っぽく片目を閉じた。
「お帰りなさいのカレーには、たっぷり入れませんとね。愛と辛口スパイスを」
その言葉に数名が笑った。
包囲網を作っていたサポートメンバーも、灼滅者の勝利を知り近づいてくる、
情とキィン達は、
「皆、大丈夫? 怪我はない?」
「怪我人がいるなら、回復するぜ?」
といいつつ、皆の傷を手当てし始める。
智優利と璃理は、それぞれ、鍋とタッパーを持ってきていた。
「サポートの皆の分のカレーも用意しておいたよ! 一緒に食べよう? 自家製ガラムマサラもたっぷり使ってるし、おいしいよ!」
「デザートにフルーツヨーグルトも作っておいたんです♪ 皆さん、いかがですか?」
皆がはしゃいだ声を挙げる。静穂が目が覚めたらパーティーでもしよう、と提案も出た。
やがてカレーの匂いの漂う中、寝息を立てていた静穂が、
「うう……ん」
軽く呻いた。瞼がひくり。
「あ、起き、そう」
静穂の世話をしていたユーキが皆に言う。
数秒後、静穂が目を開けた。
隼人と利恵が手を差し出す。
「ったく、やっと目を覚ましやがったか。静穂、皆、首を長くしてまってたぜ」
「やっと誓いを果たせた」
そして隼人と利恵は、その場にいる皆と一緒に、
「「おかえり」」
静穂は皆の顔を見、笑みを作る。差し出された手をとり、返事する。
「ただいま」
作者:雪神あゆた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年8月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 13
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