臨海学校2014~他虐と自虐を愛する者

    作者:雪神あゆた

     波の音が聞こえる。砂浜に面した路に、黒い翼を生やした女が立っている。
     女は魔法少女めいたボディスーツに全身を包んでた。胸元には、赤い石とリボン。
     女は耳についた逆十字のピアスをいじりつつ、己の胸元に話しかける。
    「静穂……かつて堕ちた罪を償う為に、また堕ちちゃって……痛いよね、苦しいよね……」
     その言葉は、堕ちた自分の中に残る、もう一人の、灼滅者の自分に向けた言葉だ。
    「私はたまらない気持ち! だって、拘束されまくった後のこの解放感! それでいて、天覧儀に参加する事で行動を縛られるのも……フフッ!」
     闇に堕ちた彼女、茂多・静穂(千荊万棘・d17863)はピアスから指を離す。
     その腕の辺りから、どろぉ、紫色の粘液がしみだし、道に零れた。
    「さあ。あの子たちのところに行こう」
     足元を紫に汚しつつ、静穂は歩きだす。彼女が見るのは、海岸に設けられたキャンプ場。テントがあり、そばで武蔵野学園の生徒たちが談笑しているようだ。高い笑い声が聞こえた。
    「あの子たちにはたっぷり痛めつけてもらわないと。もちろん、私からも……ゾクゾクしちゃう!」
     静穂の手にはいつの間にか、黒いライフル。銃身に頬ずりしながら、静穂は生徒たちに近づいていく。
     
     教室で。姫子は話をきりだした。
    「今年の臨海学校は、北海道の興部町に決まりました。
     興部町に決まった理由は――新しい段階に進もうとしている、武神大戦天覧儀」
     多くの生徒の予想通り、天覧儀を勝ちぬく最後の席を賭けたバトルロイヤルが、業大老の沈むオホーツク海沿岸の海岸で、行われる。
     そのため、日本各地から天覧儀を勝ち抜いた猛者が、北海道興部町海岸に集まろうとしている。
    「その中に、闇に堕ちた学園生、茂多・静穂(千荊万棘・d17863)さんもいるのです」
     姫子は、皆の顔を見つめてから、説明を続ける。
    「皆さんは、興部町の海水浴場、沙留海水浴場周辺でキャンプを行い、やってくる静穂さんを迎撃してください。
     でも、静穂さんがいつ来るか、わかりません。だから、皆さんはまず臨海学校を楽しんで下さい。
     例えば、海の見えるキャンプ場でカレーを作ったり……きっと楽しいですよ」
     
     少人数でキャンプを楽しく行っていれば、静穂は警戒せずに、戦闘を仕掛けてくる。
     闇堕ちした静穂は、痛めつけられることや縛りつけられることを、喜ぶ。
     また、その喜びを相手にも知って欲しいと、相手を苛烈に痛めつける。
     今回、天覧儀に参加する動機は、痛みを味わうため、そして自分の中に残った『灼滅者の静穂の意識』を痛めつけつつ消し去るため。
     戦闘では、静穂はシャドウハンターとバスターライフルの技を高い技量で駆使してくる。
    「強敵ですが、止めを刺した灼滅者が闇堕ちするという事はありません。
     また、臨海学校で敵を待ち受ける皆さんとは別に、戦闘を支援するチームも編成しています。
     戦闘開始から、ある程度もちこたえれば、支援チームが駆けつけ加勢してくれます。加勢があれば、静穂さんを圧倒できるでしょう」
     が、戦闘に勝利するだけでは、静穂を生きた状態で救出する事は難しいかもしれない。
    「戦闘中に静穂さんに語りかけ、人の心を刺激してください。
     自身の贖罪の為に、痛みを引き受ける戦いを通してきた――らしい彼女の、人の心が刺激されたなら、彼女を倒した後、灼滅者に戻せる可能性が高まるでしょう」
     姫子はしばらく黙る。数十秒が経過し、姫子は再び口を開く。
    「――もし救出が不可能なら……灼滅しなくてはいけない。それは、覚悟しておいて下さい。
     けれど、静穂さんを助け出せるのは、今回が最後の機会。今回助けられなければ、静穂さんは完全に闇堕ちしますから。
     全力で彼女を助け出してください! お願いします!」
     姫子は頭を下げ、灼滅者を見送る。


    参加者
    四季・銃儀(玄武蛇双・d00261)
    水島・ユーキ(ディザストロス・d01566)
    不知火・隼人(蒼屍王殺し・d02291)
    中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)
    佐久間・嶺滋(罪背負う風・d03986)
    永舘・紅鳥(常闇に焔を抱いて・d14388)
    黒橋・恭乃(黒々蜻蛉・d16045)
    清浄・利恵(根探すブローディア・d23692)

    ■リプレイ


     波の音が聞こえる。時刻は夕刻、日はまだ沈んではいない。灼滅者九人は料理の最中だ。
     不知火・隼人(蒼屍王殺し・d02291)が米を研ぎ、佐久間・嶺滋(罪背負う風・d03986)が石を組んでかまどを作っている。
     トントン、包丁でナスを切っているのは中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)。
    「あいつはまだ来ないな……」
    「来たら、元に戻して、これ食べさせないとな」
     隼人と嶺滋が周囲を見ながら言葉を交わす。
     陽が包丁の手を止め口を挟んだ。
    「うん。皆で一緒に食べられるように、材料は多めに用意してるよ」
    「では、腕によりをかけて作りませんとね」
     と、黒橋・恭乃(黒々蜻蛉・d16045)が、すり鉢に入ったスパイスを、ごりごり潰しながら微笑んだ。
     一方、清浄・利恵(根探すブローディア・d23692)はサラダ用の野菜を切っている。
     水島・ユーキ(ディザストロス・d01566)の取ってきた魚の切り身を載せ、海鮮サラダにするつもりだ。
     サラダを作りつつ、利恵とユーキは話す。
    「彼女とは少しあった程度の仲。だが……彼女を放っておけない。絶対助け出そう」
    「わたし、も。チーム、の、皆と、約束、した、し、かなら、ず、連れ、て、帰る」

     しばらくして。鍋がコトコト煮える音。スパイスの香りが漂う。調理は順調に進んでいた。
     四季・銃儀(玄武蛇双・d00261)は鍋をかき混ぜていた。不意に手を止め、鍋を火元から離した。
    「カカッ! 来たようだな!」
     銃儀の目は、道路沿いのある一点に向けられていた。残り八人も同じ場所を見ている。
     そこには、黒い翼を生やした女。ボディスーツに身を包んだ彼女は灼滅者を見て、唇で弧を描く。
     彼女が、闇に堕ちた茂多・静穂(千荊万棘・d17863)。
     静穂は灼滅者を見、一歩二歩こちらに歩みよる。
     永舘・紅鳥(常闇に焔を抱いて・d14388)は拡声器を手に取った。
    「目標接近中、警戒してくれっ」


     陣形を整える灼滅者たちの前で、静穂は、
    「警戒? しても無駄だよ?」
     左手に持つ黒いライフルを、無造作に持ち上げる。漆黒の弾丸が飛んだ。標的は、灼滅者後衛。
     が――ユーキがライフルと仲間の間に体を滑り込ませた。
     はたして、ユーキは腹で弾丸を受けた。赤い血が零れる。
     陽はユーキに歩み寄る。腰のケースからカードを取り出し、シールドリングを発動。四醒星トランプ・ファミリアーを変化させ、小光輪をユーキのもとに集わせる。
     光の力でユーキの血が止まる。
     ユーキは目礼すると、再び地面を蹴る。
     ユーキはライフルを構えた静穂へ接近。黒の気に包まれた拳で静穂の顎を殴りつける! 拳の力で静穂の体が宙に浮いた。
     静穂は宙で一回転し、着地する。そしてはしゃいだように、
    「いい、いいよ! もっと、もっと傷つけてあげる。だからもっと、傷つけ……」
     ユーキが静穂を遮った。
    「貴方、は、自身、の、ため、に、傷つける、だけ。静穂、は、相互理解、を、目的、と、して、いる。貴方、は、静穂、と、全く、違う……」
     たどたどしく、けれど、最後はきっぱり断言。
    「わたし、は、貴方、を、認め、ない」
     陽は、そうだよ、と続けた。
    「そうだよ。本当の静穂は、快楽の為に痛みを弄ぶだけの奴とは、違う。――静穂! 君はアレな性癖はあっても、周りに気遣いのできる子でしょ! そんな奴の好きにさせないで!」
     声を張り上げ、闇の奥に眠る本当の静穂へ届かせようと。
     静穂は反論せず、こちらの話を聞いている。
     嶺滋は遠くを見るような目をしていた。何かを思いだしたのか。目を静穂へ戻し、
    「静穂には誰かの痛みを引き受ける、愛と決意があった。愛もない只の独りよがりのダークネスと同じだとは、絶対に思わない」
     いつもよりも荒い調子で言う。
     恭乃と紅鳥が嶺滋の言葉を引き継ぐ。
    「ええ、私も思いません。だって、愛も挟まない苦痛なんざ、只の痛みそのものでしょ? 『愛があってこその関係だ』だって、茂多様はそれを己の体で証明していた! でも――」
    「――でも今のお前は独りよがりのジコチュープレーって感じじゃん。寂しいだけだぜ、そういうの。だから戻ってきて取り戻せよ、お前の体を」
     恭乃は丁寧な言葉に熱を混ぜ、紅鳥は冷静にかつ鋭く。
     静穂の唇がピクリと動く。何か言い返そうとしたのか。
     恭乃は気付く。今この瞬間の静穂は隙だらけだ。恭乃はすかさず、斬艦刀に蜻蛉の影を宿す。刃を横凪に振り、静穂の胴へ叩きつける!
     刀の威力に押され、一歩後退する静穂。
     その斜め後ろに紅鳥が回り込む。茜色に染まる槍の石突きで静穂の後頭部を強打。
     静穂は幸せそうに身震いする。
    「ぁ……ぁ……んっ、その調子だよ……だから、もっとぉ」

     灼滅者の攻撃を受け続ける静穂。今も、後衛のもんめが放ったオーラキャノンが静穂に当たる。
     が、彼女の口元から笑みは消えない。
    「お返しだよ!」
     口にした次の瞬間には、静穂は隼人の目前にいた。右拳が唸り、隼人の胴に直撃。さらに悪夢の力が隼人に流れ込む。
     隼人は膝を突いてしまう。
     静穂は止まらない。銃口を持ち上げ、引き金に指をかけた。
    「辛いのは今だけだよ。すぐに笑顔でおねだりできるようにしてあげる!」
     隼人へバスタービームが放たれた。
     銃儀が跳んだ。隼人を庇い、己の胸で光線を止めた。
     銃儀は怒鳴りつける。
    「幾らテメェが傷付けようが、魂の絆は、傷付かねぇッ!」
     シールドを展開し守りを固める銃儀。
     一方。嶺滋は一枚の札を取り出していた。力をこめて、それを隼人に投げる。
     嶺滋の防護符が、隼人を痛みと悪夢から癒す。
    「リーダー、いけるか?」
    「ああ、ダチのためだ。この程度、何でもねぇ」
     隼人は静穂の懐へ飛びこんだ。相手の胸元へ――蹂躙のバベルインパクト!
     静穂のスーツに穴があく。そこから静穂の体――スライム化した紫色のそれが覗く。
    「ああ、いい! いいよ! すごく……気持ちいいっ!!」
     両手を広げ、歓喜の声をあげる静穂。
     利恵は戦場を動き回り、彼女の背後に移動。後頭部を盾で殴る!
     前のめりになる静穂。だが、数十秒後には静穂は体勢を立て直し、振りかえりざまに黒い弾丸で反撃。
     弾丸は利恵の足を打ち抜いた。走る激痛。しかし利恵は痛みを顔に出さない。
    「ダークネス。ボク達は負けない。君が誰かに与える痛みは、ここで最後だ」
     紫の瞳に宿る強い意志。


     灼滅者が奮闘する間に、サポートの者たちも動き出していた。
    「しっかり包囲しておかないと」
    「ああ、こっちきたら、殴って押し返したる」
    「俺も注げる限りの力は注がせてもらう」
     舞とクリミネル、マルクは会話しつつ、他の者とともに静穂を取り囲んでいく。
     一方、レオンとイカリは静穂に呼びかけていた。
    「いつまでもそんな奴の好きにさせるなよ。きついのがお好きなバカダークネスなんざ、自分の中にふん縛っちまえ!」
    「誰かを守る幸せの方が、誰かを傷つける喜びなんかより、ずっと上に決まってる! そんなダークネスに負けるな!」
     静穂が眉を動かす。
    「私が欲しいのは言葉じゃない。それより早く私を痛めつけて! なんなら私の方から――」
     恭乃は静穂の言葉を遮る。己の斬艦刀で。
     喋る彼女の肩へ、刃を容赦なく叩きつける! スーツに傷が付き、スライムの体の、紫色の粘液が飛び散った。
    「茂多様、皆様の言う通り、ダークネス如きに負けてはいけません。今の状態なんて、本来の茂多様が許容できるわけないじゃないですか! 負けずに戻ってこい!」
     静穂は肩の傷口を押さえていた。一瞬だけ彼女の顔がゆがむ。
     彼女の足元に三匹の蛇が這う。それは、銃儀の影蛇。影蛇どもは静穂の足に巻きつき、体を影で包みこむ。影喰らい!
     静穂は悪夢に襲われ、転倒する。
     静穂は地面に手を突き立ちあがろうとした。
     隼人はその静穂の目の前に移動。腕を振る。外骨格腕部に装着した射突機甲杖“蒼王破”で――フォースブレイク。
     静穂の顔面に蒼王破が激突。
     静穂は立ちあがりかけた体勢のまま、熱っぽい目をしてみせた。
    「ひゃぁ! 痛みが全身に……よすぎるよ!」
     口から唾液を零しながら叫ぶ。

     戦闘は続く。救援チームはまだ来ていない。到着は遅れているようだ。
     支援チームの遅れを補うのは、サポートメンバーたちの支援。
     戦闘支援をしながら、朱毘とくしなは静穂へ問いかける。
    「いたぶったりいたぶられたり、それだけが人生じゃないって、学園で思い知ったんじゃありません?」
    「痛み以外にも素晴らしいものがあると、静穂さんにも分かっているでしょう?」
     静穂の唇が震えた。
     芽生と橘花も静穂へ言葉を飛ばす。
    「とおかまちさんとの結婚式、絶対、呼んでくださいですよ! 私とだっていろいろ遊んでもらうです! このまま、寝てたりなんてダメです!!」
    「私だって、命がけで守ってもらった礼をしてない。戻ってこい」
     彩歌はおもむろに唇を動かす。
    「ここに来て、皆さんの言葉を聞いて、確信しました。静穂さんが慕われてる人物だと。静穂さん、皆さんとの繋がりを思いだしてください!」
     有無が続ける。
    「思い出したなら、魂の奥底から叫びたまえ、その身が誰のものであるかを!」
     多くの言葉が飛ぶ中、静穂は肩を竦めた。
    「いくら言ったって、静穂はでてこないよ。だって、私の方が強いんだからね」
     その態度と言葉は本音か、あるいは虚勢か――。
     銃儀は笑い飛ばす。
    「カカッ! 静穂がダークネスより弱い? 大した冗談じゃねェか。カカッ!
     なあ、静穂? お前の想いはッ、同じ痛みを誰にも味わせたくねぇって望みはッ、この程度の奴に負けるほど、弱くはねぇよなぁッ!!」
     そうだ、と隼人が拳を握りしめて同意。怒気を混ぜた声で
    「そうだ。この程度の、己の欲望を満たすためだけの奴に、自由にさせていいのか? 待ってんだぞ、俺達も恋人の橙も!」
     利恵は静かな表情を崩さない。
    「静穂くん。君の大事な人達が、君を待ってる。君は諦めないと言った。だからボクらも手を伸ばす。君からも手を伸ばしてくれ!」
     利恵は静穂の瞳を真直ぐに見つめ、訴える。魂にまで届かせようと、ただまっすぐに。
     静穂の動きが止まる。静穂の首が動いた。灼滅者を見、また、サポートの数人を見る。
     静穂は笑ったまま。けれど、額に脂汗が浮かびだす。静穂は呟く。
    「静穂? 私の中でもがいてる? ……やるね」
     もう一人の己、本来の静穂に言い、闇の静穂は、唇を極端に釣り上げた。
    「でも、静穂? そんな強い絆を持つ彼らをいたぶれば、アナタはどうなる?」
     静穂が動いた。灼滅者前衛へ光線を放ってくる。
     が、後衛の陽は悟った。光線の威力が、今までより弱まっていると。
    「静穂ちゃんも抵抗してる……可愛い後輩が、仲間が、頑張ってるんだ。あたしたちも負けてられない! 皆、絶対に連れ帰るよ!」
     陽の声と表情には、決意と希望。
     陽は赤茶の毛を揺らし、強風を吹かせる。風が、光線を受けた前衛の痛みを払う。
     紅鳥も風に癒されていた。
    「ああ、連れて帰る。ダークネスが邪魔するなら、全力で叩き潰す」
     紅鳥は砂を飛ばしながら駆け、静穂の正面で『STaRVeD STiNGeR』を嵌めた腕を前に。静穂の胸を激しく突いた!
     紅鳥の打撃を受け、静穂は後ろに飛びのく。一旦距離をとろうと。
     利恵はその動きを予測していた。間髪いれず、蒼の光輪を放つ。光で静穂を斬る!
    「ああ……魂まで痛い、真っ白になりそう!」
     静穂は官能的に息を吐いた。瞳はとろん、と焦点が合っていない。

     数分が経過し、もんめは敵を観察する。
     静穂は、とろけた目のまま嬉々として戦い続けている。攻撃を受ける度にはしゃぐ。が、スーツは傷だらけで、呼吸も荒い。確実に消耗している。
    「このまま削りきれば……っ」
     もんめは地面を蹴り、静穂へ鉄鋼拳を繰り出す。が、拳は空を切る。
     焦点の合わない瞳をしたまま、静穂は笑い、飛ぶように走り続ける。
     そして、トラウナックル。拳がユーキの腹に直撃。ユーキの足が大きく震えた。
     が、灼滅者の攻撃と言葉が、内で眠る静穂の抵抗が、ダークネスの力を弱めていた。ユーキは倒れず踏みとどまる。
    「……後、少し、で、静穂、を、戻せる。約束を、護る、ため、にも……!」
     ユーキは己の回復よりも攻撃を優先。自分を殴ったばかりの相手を、相手と同じトラウナックルで殴り返す。拳を顔面にめり込ませる
     静穂は砂の上に両膝を突く。笑みを消して、立ちあがろうとする静穂。
     ユーキは視線を動かす。トドメは頼む、と仲間を見る。
     彼女の視線を受け取ったのは、嶺滋。
     嶺滋は静穂の側面に立ち、片足をあげた。ダークネスの意識を断ちきるべく、後頭部を蹴りつける。
     どう、と音。静穂は前のめりに倒れる。
     静穂は灼滅者を見上げる。その瞳は――本来の静穂のもの。
    「……ありがとう……ございます……」
     彼女は微かな声で言い、目を閉じた。


     倒れた静穂の体を、嶺滋は確認していた。
    「闇の力も消えたし、体も元に戻ったようだな」
     彼の言う通り、静穂の体にもう異常はない。彼女を救うことに成功したのだ。
     銃儀がパッと扇子を開く。
    「めでたし、めでたし――ってな、カカカッ」
     笑う彼が持つ扇子、そこに『一件落着』の文字。
     陽は皆と協力して、静穂をシートの上に運び、寝かせる。そして陽は鍋の元に歩いていった。
    「そのうち目を覚ますから、今のうちにカレーを暖めなおさないとね。きっとお腹がすいてるだろうし」
     弾む陽の声。
     紅鳥は腕まくりをし、
    「俺も手伝うぜ。アイツにカレーをめっちゃ飲ませ、もとい食わせてやらねぇとな」
     と申し出る。
     恭乃も鍋に近づきながら、悪戯っぽく片目を閉じた。
    「お帰りなさいのカレーには、たっぷり入れませんとね。愛と辛口スパイスを」
     その言葉に数名が笑った。
     包囲網を作っていたサポートメンバーも、灼滅者の勝利を知り近づいてくる、
     情とキィン達は、
    「皆、大丈夫? 怪我はない?」
    「怪我人がいるなら、回復するぜ?」
     といいつつ、皆の傷を手当てし始める。
     智優利と璃理は、それぞれ、鍋とタッパーを持ってきていた。
    「サポートの皆の分のカレーも用意しておいたよ! 一緒に食べよう? 自家製ガラムマサラもたっぷり使ってるし、おいしいよ!」
    「デザートにフルーツヨーグルトも作っておいたんです♪ 皆さん、いかがですか?」
     皆がはしゃいだ声を挙げる。静穂が目が覚めたらパーティーでもしよう、と提案も出た。

     やがてカレーの匂いの漂う中、寝息を立てていた静穂が、
    「うう……ん」
     軽く呻いた。瞼がひくり。
    「あ、起き、そう」
     静穂の世話をしていたユーキが皆に言う。
     数秒後、静穂が目を開けた。
     隼人と利恵が手を差し出す。
    「ったく、やっと目を覚ましやがったか。静穂、皆、首を長くしてまってたぜ」
    「やっと誓いを果たせた」
     そして隼人と利恵は、その場にいる皆と一緒に、
    「「おかえり」」
     静穂は皆の顔を見、笑みを作る。差し出された手をとり、返事する。
    「ただいま」

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 13
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ