夏の一時、安らぎは永久に

    作者:幾夜緋琉

    ●夏の一時、安らぎは永久に
     成田、国際空港。
     世界各地から、様々な人が訪れる国際空港の中を、大きなキャリーカートをコロコロ引っ張りながら、歩く20代後半の金髪、蒼髪の青年。
    『ふ、ふわぁぁ……』
     と、大きく欠伸を上げる青年。
     ……観光で日本に約1週間やってきたのだが、アメリカと日本とでは、半日以上の時差がある訳で……中々その時差を修正するのは難しい。
     ……とは言え一週間、しっかりと日本で遊び、愉しんだからこそ、心地よい眠気でもあった。
    『……うーん……まだ、フライトまで時間は結構あるし、ちょっとだけ、一休みしようっと……』
     そう言って、ちょっと奥まったところにあり椅子に腰掛け、キャリーカートを傍らに引き寄せて……ウト、ウトとし始める彼なのであった。
     
    「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、説明を始めますね?」
     五十嵐・姫子は挨拶しながらも、さっそく説明を始める。
    「皆さんもすでに知ってはいると思いますが、シャドウの一部が、日本から脱出しようとしているのです。そしてこの事件も……そんなシャドウの一体が企てている、国外脱出事件の一つです」
    「シャドウは日本から帰国する外国人のソウルボードへと入り込み、国外へ脱出しようとしています。彼らの目的は分かりません。これで本当に、シャドウが国外に移動出来るかも分かりません」
    「しかし、最悪の場合は、日本から離れたことにより、シャドウが突如ソウルボードからはじき出されて、国際線の飛行機の中で実体化してしまう……という可能性はあるでしょう」
    「そうなれば……待ってるのは大惨事です。だから国外に脱出しようとするシャドウを退治してきて頂きたいのです」
    「なお、彼の出身地はアメリカは西海岸、ロサンゼルスです。ロサンゼルスには様々な観光地がありますが……その中でも、彼の出身地はダウンタウン……多くの大型エンターテインメント施設がある地域です」
    「しかし彼の夢の中……エンターテインメント施設が多数在る中に、突如人が居なくなったような、そんな夢になっている模様です。普段は喧噪に包まれている場所が、静けさに包まれている……そんな不気味な夢の空間の様です」
    「逆に人気が無いからこそ、シャドウとダウンタウンのメインストリートで戦う……という事になると思います。それは普段経験出来ない戦闘にはなると思います」
    「ちなみにソウルアクセスですが……幸い彼は、時差ぼけでかなり眠いようで、余り人気の無い待合ロビーで休んでいるようです。そんな彼を、人気が無い場所に連れ出すか、もしくは周りの一般人をそこから引き離すようにする……といった工夫が必要になるでしょう」
    「また、シャドウ自身の戦闘能力ですが……戦闘は余り得意では無く、皆さんで仕掛ければかなり優位に戦うことが出来るでしょう。とは言え彼は負けそうになれば、撤退するので……逃がさないようにするかどうか、皆さんでよく相談してみて下さいね?」
     そして最後に姫子は。
    「何にせよ、失敗すれば、多くの人達が死ぬ可能性がある事件です。決して油断はせずに、作戦を遂行してきて下さいね?」
     と、皆に微笑みながら、送り出すのであった。


    参加者
    立花・銀二(黒沈む白・d08733)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)
    楓・十六夜(蒼燐叛刻・d11790)
    リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)
    リーナ・ラシュフォード(サイネリア・d28126)

    ■リプレイ

    ●国外への扉
     姫子に話を聞いた灼滅者達。
     成田の国際空港、その旅行者の夢の中に現れたシャドウ……悪夢と、惨事が隣り合わせという、油断ならない状況に、自然と気持ちも張り詰める。
    「シャドウの国外脱出ですか……たしか、わたしが転入するだいぶ前からも起きていた事案ではあるけど、これ、まだ続いているんだね」
     と、セトラスフィーノ・イアハート(戀燕・d23371)が呟くと、それにリーナ・ラシュフォード(サイネリア・d28126)と、ラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)も。
    「うーん、国外に出て何をするつもりなんだろうね、旅行でもしたいのかな? 少し気になるよ」
    「そうですね。一体どんな理由があるのでしょうね……」
    「うーん……あ、でもそういえばダークネスと戦うのも初めてなんだよね……んー、大丈夫かなぁ……?」
    「うん、きっと大丈夫ですよ。ね、みんな?」
     それに立花・銀二(黒沈む白・d08733)、リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)も。
    「そうですよ。スーパーアイドルですから、大丈夫なのです!」
    「……スーパーアイドルとか、あんまり関係ないわよね。まぁ……油断する訳じゃないけど、姫子が言うには、戦闘能力はそんなに高くないと言う話もあるし、ね」
    「そうだね。一人って訳じゃないし、きっと大丈夫だよね! うん、がんばっていこう!!」
    「ええ。一般人が危険な以上、捨て置けないんだよ!」
     錦二、リリー、リーナ、セトラスフィーノの言葉に紅羽・流希(挑戦者・d10975)と楓・十六夜(蒼燐叛刻・d11790)の二人も。
    「何にせよ、しっかりケリを付ける以外に他は無いだろう。シャドウが国外に出て行けば、大事故が起こる可能性は十分ある」
    「そうですねぇ……愉しかった旅行の最後に、この様なことに巻き込まれるとは……せめて何が起こったのか気づかずに、帰路についてもらいたいですねぇ……」
    「ああ……そうだな。何にせよ、シャドウを、国内で何とかしないといけないだろう……その為にも仕掛けるぞ」
    「ええ」
     そんな仲間達の言葉に、竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)が。
    「今回もとめてやろーじゃないの。あ、よー、よー! みんな知ってた? 今日はシャドハン、私だけなんだよ!」
    「……そうだな。ソウルアクセス、宜しく頼む」
    「うん! 分かったよ!」
     十六夜に頷く蛍、そして灼滅者達は写真を手に、青年の姿を探しに空港内を探し始めるのである。

     そして灼滅者達が空港内を歩き回り、暫し。
     ……夏休みも始まった為か、結構人が多い空港内。そんな中、シャドウにとらわれた青年を探すのは、中々骨が折れる仕事。
     とはいえアメリカの、彼のふるさとへ向かう飛行機という意味で調べると、6便程度しかないし、姫子に効いた限りでは、このターミナルから出発するのは2便。
     その情報を元にして探せば……1時間もかからずに、椅子にすわってうつらうつらと船をこいでいる彼の姿を発見出来る。
    「いましたか……確かに人気の無い所ではありますが……運び出すのは少しまずそうですねぇ……」
    「そうだね……まぁ、彼の運搬は、わたしとラピスティリアさんでやりますから、流希さんはアレを」
    「ええ、分かりました」
     セトラスフィーノに頷いて、流希が殺界形成をその場に展開。
     ……その殺気に、周りの人達が自然とその場を離れていき……半ば眠っている青年が残るのみになる。
     そして、そんな青年にそっと近づき……ラピスティリアが魂鎮めの風を発動。
    『う、うぅん……すぅぅぅ……』
     そして完全に眠りについた青年を、ラピスティリア、セトラスフィーノの二人が両方から肩を担いで、仲間の待つ男子トイレへ……。
     勿論男子トイレ側でもリーナが事前に殺界形成を使い、人払いを済ませておいてある。
    「あ、こっちこっちー!」
     ぶんぶんと手を振って、男子トイレ内に誘導……そしてみんな中に入ったら、入口に掃除用具入れから持ってきた、清掃中看板を立てて、中に人が入らないようにする。
     ……そして、ラピスティリアが用意した厚手のブルーシートを床に敷いて、そこにまず青年を座らせる。
    「これでよし……ですね」
    「ええ……しかし彼も災難ですね。休暇で来た異国の地で、こんな事件に巻き込まれるとは……」
    「確かにそうなのですよ。まぁ、何にせよ、このまま海外に行かせるわけにもいかないのです」
    「そうね……トイレに座り込んでソウルアクセスってのも、本当は気が乗らないんだけど……仕方ないわね」
     銀二にリリーが頷き、そして……蛍が。
    「それじゃー、ソウルアクセスするよー!」
     元気よく蛍が言い、そして灼滅者達は蛍のソウルアクセスに乗って、彼のソウルボードに墜ちていくのであった。

    ●永久のロサンゼルス
     そして……夢の中。
     人の居ない、ロサンゼルスのダウンタウンのとあるシアター前……いつもは沢山の人が居るはずの場所は、全くもって人が居ない。
     勿論、他の音もしないので……その場はとても不気味な雰囲気につつまれている。
    「へぇ……中々素敵な街じゃない。それに、この独特の雰囲気はソウルボードならではってところかしら? この不気味さも嫌いじゃないけど……みんなを無事に送り届ける為にも、きっちり灼滅して帰らないとね」
    「そうだな。これだけ広い夢の中だ。シャドウを見つけるのも一苦労かもしれんな。しかし、何だって国外逃亡を……? 海外にサイキックエナジーが無いのは、知っている筈なのにな」
    「……まぁ、何かあるのかもしれないですよねー。直接聞いてみれば何か分かるかも知れないし、ね」
     リリー、流希、そして銀二の会話。
     ……とは言えシャドウを発見しなければ、全く以て意味が無い……とは言えシャドウがどこに居るかの情報も無い。
    「……でもまぁ、シャドウも狭いところに隠れている訳は無いと思うし、大きな建物のステージとかにいるんじゃないかな?」
    「そうだな……となると、あそこか……」
     セトラスフィーノに、十六夜が指さしたのは、ここで一番大きなシアター。
     7000名近くを収容できる、大きなシアター。そしてみんな、そこへ向かう。
     ……シアターの中に入ると、本当に大きなシアターと実感。
     その実感と共に、ステージには……。
    「……本当に居た……あそこまで大胆にいられると、笑えちゃうね」
     蛍が言うとおり、ステージのど真ん中にうごめくシャドウの姿。
    『……む、何だ何だ? 何だお前等は??』
     驚愕の表情……というか、言葉を紡ぐシャドウ。
     そんなシャドウの元へと灼滅者達は囲むように、すぐさま距離を詰める。
     驚愕しているから、シャドウの動きは早くない……そして、包囲されると、シャドウは。
    『ぐぬぬぬぬ……お、お前達はなぜここに!?』
    「……お前が国外脱出を企ててる等、お見通しだ」
    「そうよ。スートは……スペードかしら。貴方、お名前は? 贖罪のオルフェウスの配下、なのかしら?」
     リリーの問いかけに対し、シャドウは。
    『うるせえっ、さっさと死ねえええ!』
     体を震わせ、攻撃を仕掛けようとするシャドウ。
     バックステップで回避し、蛍、ラピスティリアが。
    「Initiate!」
    「Twins flower of azure in full glory at night」
     スレイヤーカードを解放、そしてヘッドホンを装着する。
     そして、他の仲間達も同様にスレイヤーカードを解放……そして準備を整えると共に、即時銀二がペトロカースを打ち抜く。
    「しかし……なぜ外国に行きたいのです? そこに何かあるのでしょうか? それとも誰かにそこへ行けと教わったのですか?」
    『お前達に言う義理などない!!』
     話し合う事を一切切り捨てたシャドウ、がしっ、と攻撃を嗾けてくる。
     その攻撃をがっ、と銀二が受け止める……その傷を銀二のナノナノが。
    『ナノー!』
     としゃぼん玉で回復。
     そして、その隙に流希とラピスティリアのクラッシャー二人が。
    「まぁ仕方ないな。しかし夢の主が映画関係者なら、これは泣いて喜ぶ光景だよな。やってる事はリアルな殺し合いだが」
    「そうですね。とは言え……油断して遅れを取るわけにはいきません。行きます」
     と流希が閃光百列拳を喰らわすと、続くラピスティリアが鬼神変。
     バッサリとその体に大きな傷跡を残せば、続くジャマーのリリー、セトラスフィーノも。
    「ま、何にせよ逃げられちゃたまらないし、さっさとバッドステータス漬けにしてあげるわ」
    「そうだね。国外脱出なんてさせないんだから!」
     制約の弾丸に鏖殺領域……バッドステータスを一気に積み重ねれば、更に蛍、十六夜も。
    「くらえー、イニシェートーー!」
    「……多し。止まって見えるぞ?」
     と黒死斬のダブル付与。
     そしてリーナは。
    「ちこ、一緒に攻撃、するよ!」
    『ワウ!』
     息の合った二人のチームワーク、ちこが六文銭射撃で攻撃、そしてリーナはあえて銀二のバッドステータスを解除する為に祭霊光を飛ばす。
     そして次のターンになれば、更に流希の雲櫂剣、ラピスティリアのフォースブレイクが、極大ダメージをシャドウに叩き込んでいく。
     更にリリーのペトロカース、セトラスフィーノの制約の弾丸……蛍の妖冷弾。
     そして十六夜が。
    「……冥府の鎖にとらわれ、墜ちろ」
     と、シャドウの影に振り抜くように闇の鎖を突き刺す。
    『グ、ガアア……』
     ……勿論、シャドウは一人。
     単体での戦闘能力はそこまで高くは無いシャドウ……更に包囲網を築いている結果、逃げ道も泣く、ジリ貧である。
    『く、くそ……クソォ……』
     悔しげな言葉を叫ぶシャドウに、十六夜が。
    「……闇の彼方で夜明けを待て。夜が明ければ……そこがお前の死だ、ダークネス」
     死の宣告と共に、穿つサイキック斬り……シャドウの体を、一刀両断に断罪。
    『ウグウウアアア……!』
     叫び声を上げて、シャドウは滅ぶのであった。

    ●夢から覚めた
    「……ふぅ……終わりましたかねぇ……?」
     そして武器をしまいながら、周りを見渡す流希。
     周りはロサンゼルスのダウンタウン……いつもは人が多く居るはずのシアター前だが、今は誰も人が居ない、不思議な光景。
    「……なんだか変な感じですねぇ……いつもは人が居るはずのところが、人が居ないとこんな感じになるのですねぇ……」
    「そうだね……うん。これはこれで神秘的な感じだけど、でも……逆にちょっと怖い感じもするね」
     流希に頷くリーナ。
     ……とは言え数分の内に、彼が目を覚まそうとしてきたようで、その夢も覚めていく。
     白もやの中に意識が墜ちて……そして、再び目を覚ますと、突入時の男子トイレ。
    「……さて、さっさと彼をロビーに戻しましょう。もうそろそろ目を覚ますでしょうし」
     リリーの言葉に頷き、青年をロビーに戻す。
     そして……ポンポン、と肩を叩き、彼を起こすと。
    「すいません……これ、チケット……もうそろそろ、出国手続きしないと不味くないですか?」
     リリーの英語での言葉に、はっ、と目を覚まし、時間を確認。
    『え……わ、わわっ! あ、ありがとう!? おしえてくれて、ごめんねっ!』
     慌てて傍らにあったキャリーカートを引っ張って、出国手続き場へと急ぐ青年。
     そんな彼の後ろ姿に。
    「お疲れ様、無事にお家へ帰れるといいわね……良い旅を」
    「ええ、グッドラックですよ!」
     リリーと銀二が声を掛ける。
     ……そして、青年の姿が無くなった後。
    「しかし……ふと思ったけど、私達男子トイレの前で倒れていたのよね……リリー達。はぁ……早く帰ってシャワーを浴びたいわ」
    「ん、もしよければクリーニングするよ。一人百円だけど」
     リリーに蛍の言葉……そして十六夜が。
    「……一応、施設内にシャワールームもある様だぞ? 1000円位で少し高いが、な」
    「へぇ……そうなの?」
    「ああ」
     十六夜が手に取った空港の施設案内パンフレット……そこには出国手続き前のエリアにあるシャワールームの案内。
    「……まぁ、そうね。行ってみようかな」
     とすっきりしたいメンバーは、シャワールームへと向かい……そして、残る仲間達は、空港内を散策したり、のんびりしたりして……そして、帰路につくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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