学園祭2014～爆ぜる光の中で

■リプレイ

●みんなで
　日が落ちた後のグラウンドは、数多くの生徒達で賑わっていた。風が花火とキャンプファイヤーのにおいを運んで来て、灼滅者達の心を浮き立たせる。
　花火って、童心に帰った気分で楽しいですね。そう言って、バケツを準備したのは静香。揺らぐろうそくの炎に、藍蘭が線香花火の先端を近付ける。ぱちぱち。乾いた音を奏でながら、小さな炎が爆ぜた。
　皆、楽しみましょうね？　と、蒼龍も線香花火に火を点ける。どの花火を手に取ろうか迷っていた架乃も、線香花火を選んで火を灯した。キャンプファイヤーも花火も、終われば燃えかすになってしまうのが少し悲しいけれど、でもそれが風情というものかもしれない。
「そう言えば、展示＆体験学習の部門で２位でしたね」
　とてもめでたい事ですと、静香は青い瞳を細める。爆ぜて膨らんだ光は、徐々に力を失いしぼみつつあった。
「学園祭のお手伝い出来なくてごめんなさいね……？」
　そっと詫びる蒼龍に、気にしないでくださいと藍蘭は首を横に振る。消えた花火をバケツへ放り込むと、じゅっと小さな音が鳴った。火が完全に消えている事を確認した後で、新たな花火を手に取る。お祝いを兼ねた花火大会は、まだまだ始まったばかりだった。
　花火には、綺麗さよりも豪華さを求めたい。椎菜の手にした花火は、幾つもの花火が連結されているタイプのものだった。火を点けた途端にしゅうっと鮮やかな光が舞う。手でつまめる料理を作って来た向日葵が、花火の合間を縫って皆にそれを振る舞っていた。
「無茶せーへんっちゅーのは、無茶苦茶せーへんっちゅーことでな？」
　据え置き型の花火の周りで謎のダンスを踊っていたとものを、右九兵衛がそう言って引き止める。集まったクラブの面々を考えれば、のんびりするのは無理だろうけれど。それでも花火は正しく丁寧に。
「せっかくの祭なんだから、はしゃがにゃ損だぞ！」
　線香花火から打ち上げ花火へと移動した周が、そう言って皆に笑う。その後ろでアリスがうくべーさーん、と右九兵衛を呼んだ。後夜祭で上がったテンションは、派手に打ち上げなければ発散出来そうにない。
「柏木先輩……端っこより半分辺りを持った方が、良いです……よ」
　線香花火をちょんと持ったたまきへ、結衣がそう言って手本を示す。線香花火長持ち対決やらない？　との誘いには、受けて立ちましょうと頷いた。
「皆で揃って写真でもどうかしら？」
　燃え尽きた線香花火をバケツに放り込み、影薙がそう提案する。撮影係に任命された右九兵衛は、お疲れさんの思いを込めてゆっくりとシャッターを切った。
　祭りの後は一抹の寂しさが残る。叶うなら終わって欲しくないと願った者は、きっと一人ではない。
　うろうろしていた望を途中で拾ったエルメンガルトは、買って来た炭酸飲料を皆に分けると手持ち花火に火を点けた。ぱっと緑の光が広がる。
「アタシ一回でいいから、打ち上げ花火を手持ちしたいんだけど……」
　さらりと恐ろしい事を言ってのける月子を、それは危ないからと供助が止める。彼はロケット花火が好きなのだが、この場では言わない方が良さそうだ。手にしたひとだま花火に火を点ければ、不安定な炎がゆらゆらと揺らめく。
「さぁ、来年は何しよう？　その前に、今年の夏何しよう？」
　派手な音を響かせる花火を手に、民子がそう言った。学園祭は終わってしまったけれど、夏はまだまだ始まったばかり。取り敢えず海に行こうと提案すれば、皆から同意の声が上がる。それぞれの選んだ花火の色が、夜闇の中に光の文字を描いた。
　学園祭の締めくくりは、今年も花火で。
　各々が無造作に選んだ花火に火を点けると、一人一人違った色の花が咲いた。勢いよく花開いた青の光が綺麗で、夜奈はそれを皆に見せようとして振り回してしまう。危ないよとあすかに言われ、ごめん、なさいと素直に詫びる。
「夜奈さんは気に病みすぎないで、綺麗な青が終わっちゃうよ？」
　白い花を咲かせる梗花の傍らで、南守が時生から火を頂戴していた。消えかけた赤の花が、再び勢いを増す。
「ちょっとお前、俺より皆の花火に気を取られてない？」
　花火に火を点けた三義が、ご機嫌な様子のひとつに目をやる。花火スキルに差は無いと信じたいけれど、やはりあるのだろうか。
「俺の花火スキルも低そうだわ、縹」
「桜倉くんはこれだけある中でそれを選んだって事は、逆にスキルが高いのかもよ？」
　燃え尽きた花火をバケツに差し入れつつあすかが言うと、皆から小さな笑い声が上がった。
　最後は線香花火にしない？　そう誘った時生の言葉に否の声は聞こえない。
　線香花火に消えるなと願うのは、この時間をもう少し楽しみたいから。終わって欲しくない気持ちと明日を望む気持ちの狭間で、彼らの心は揺れ動いた。
　そんなに急がなくても、花火は逃げないよ。はしゃぐ桜花にそう言いながらも、友衛は心が弾むのを感じていた。火のほとばしる音に合わせて咲く、キラキラと踊る光の花。見ているだけでわくわくする。
　両手に花火を装備する桜花に歓声を上げ、断も手持ち花火に火を点ける。そうして暫しの間皆で花火を楽しんだ後、ふとエミリオが呟いた。
「断、今日はありがとう、というかいつもありがとうかな？　何だか最近は……」
　No hago mas que pensar en ti――君のことばかり考えてるよと、気恥ずかしくてスペイン語で紡いだ。なんていったの？　と笑顔で首を傾げる断に、何でもないよと言ってエミリオは珍しく見て取れる程度の笑みを浮かべた。
　後は若い者同士に任せて私達は見守ることにしましょうか。そう言って友衛と桜花が席を外した事を、二人はまだ知らない。
「ロケットの煙でむせるのはもうお前の恒例なのか？」
　ロケット花火の煙でけほけほとむせるシグマをそう茶化しながら、クレイは煙をパタパタとうちわで扇ぐ。
　そういや、外国には手持ち花火ってあるんですかね？　尋ねるアヅマに、クレイはこういうことやってりゃ違法になる国もあるな、と笑った。こんな感じで遊べる国ってそうないと思うよと。
　打ち上げ花火を終えた後は、自然と手持ち花火へと移行する。シグマは広い場所で花火をゆるりと回し、光の円を描いた。花火の光に染まる皆の笑顔を見ていると、心が和む。もうすぐ締めの花火。夜の光合成と行きますか、とシグマは仲間達に笑いかけた。

●ふたりで
　しゅう、と音を立てて、ススキ花火から火花が放出される。しゅわー、と呟く蓮の側で、御凛は花火を回して絵を描いた。
　一緒だと、楽しい？　蓮の問いに、御凛は迷い無く頷く。次は、みんなで来よう。皆とする花火は、きっともっと楽しいだろうから。
　手持ちの花火をあらかたやり尽くしてしまった由希奈といちごは、最後の線香花火を手に取った。火を点けると、ぱちぱちと火花が爆ぜる。
「来年もまた、一緒にこうやれたらいい、ね……？」
「そうですね、来年もこうして一緒に……」
　由希奈の言葉に振り返ると、タイミングがかち合ったのか、顔がとても近い。思わずバランスを崩して倒れかけた彼女を支えると、頬に柔らかい感触が触れた。由希奈の唇が当たったのだと気付くと、顔が真っ赤に染まった。しかも支えた腕は、抱き締めるような格好になっていて。赤面してフリーズしてしまった二人は、望が通りかかるまでそのままだった。
　空に咲く花も良いけれど、手に持つ花火も良い。弾ける火花が美しいと思うのは、この輝きが永遠ではないと知っているからだろうか。
　学園祭楽しめましたか？　尋ねる奈那に、勿論と優輝は頷く。合間に店番を挟みながらの学園祭巡りは、忙しなくも楽しかった。奈那も友人との学園祭を十分に楽しんだようだった。
「来年はその、一緒に参加できたら……って、なに言ってるんでしょうね、私……」
「勿論、来年は一緒に参加しよう」
　照れたように笑うのが愛おしくて、優輝は奈那を抱き締めた。願わくば、これからもずっと一緒に。
　グラウンドから少し離れた場所でも、花火の音はよく聞こえる。刃兵衛が腰を下ろそうとすると、光明が彼女を抱えて膝の上に乗せた。子供ではないのだからと思いつつも、仕方のない奴だと刃兵衛は目を細める。浴衣越しに伝わる温もりが互いに心地良い。
　光の花は、開いたと思った瞬間に儚く消えて行く。だからこそ人を惹き付けるのだろう。
「此れからも一緒に色んな事を経験して行こうな……刃、愛してる……」
「私も……愛してるぞ」
　この命ある限り、共に寄り添い生きて行こう。口付けを交わす二人を、鮮やかな花火の色が照らした。
　花火、きれい。空に開く花を見上げながら、薙乃はぽつりと呟いた。
「綺麗、と言えば……薙の水着、綺麗だったな。思わず見惚れてしまったよ」
　優勝じゃないのが信じられないくらいだ。蒼刃にそう言われ、薙乃の頬が赤く染まる。
「な、ななな何言ってんのっ。すぐそういう恥ずかしいこと言うのやめてよねっ！」
　てか、そういうことすぐ女の子に平気で言うんだっ、やらしい！　といつものように憎まれ口を叩いてしまう。本当は嬉しいのに。照れている事にも気付かれたくなくて、ぷいと横を向いた。その横顔も綺麗だと蒼刃は思う。
　本当に、薙が誰より一番綺麗だと思ったんだ――思わず零れた『兄』らしかぬ言葉は、花火の音にかき消されて誰の耳にも届かなかった。
　後夜祭には間に合って良かった。アルバイトで殆ど学園祭に参加出来なかった宗佑は、そう思う。
「ごめんね、寂しかったでしょう」
　勢いで言ってしまってから、それは酷く自惚れた発言のような気がして宗佑は焦る。けれど日和から返って来たのは、心からの笑顔だった。
「……もう寂しくないですよ」
　手持ち花火に火を点けると、夜闇に慣れた目に火花が眩しい。懐かしい煌きに照らされて、日和は明るくはしゃいだ。各々の持った花火同士を近付け、更に大きな火花を作る。
　おしまいは名残惜しいけれど、胸は温かい。帰りには、アイスを買って帰ろうか。そう言う宗佑に、日和は元気良く頷いた。
　今年もいっぱい一緒に回れて楽しかったね。百花の言葉に、エアンは頷いた。華やかな打ち上げ花火の音を遠くに聞きながら、線香花火に火を点ける。ぱちぱちと爆ぜる火花が、二人の手元だけをゆるく照らした。
「来年は二人とも違う専攻に進むかな……」
「来年の事は、まだぼんやりとしか考えていないけど……今のように寄り添える距離にいるなら学部は関係ないよ」
　少ししんみりした空気を打ち消したくて、エアンは自分の花火を百花のそれに押し付けた。火花が一瞬大きく爆ぜ、そして消える。落ちちゃったでしょ、と笑う百花に、エアンは新たな１本を手渡した。
　距離も、時間も。重ねることで『ずっと』が生まれるのかもしれない。
　花火の音に誘われてやって来たグラウンドは、あちらこちらで上がる賑やかな声に包まれていた。手持ち花火をした事が無いと言うレイに、ラーナは信じられないと目を見開いた。
「あ、やだ、バカにしたんじゃないわよ……だからえっと、そう、花火の仕方、教えてあげる」
　手渡されたのは線香花火。火を灯すと静かに火花が柔らかに広がる。
「……綺麗、ですね」
　火薬の立てるぱちぱちという音も心地良くて、レイは静かにそう呟く。綺麗ねと笑んだラーナの横顔が、光に照らされてどこか温かく見える。いつもは口喧嘩ばかりだけど、今日は特別。
　打ち上げ花火の音は、遠くからでもよく聞こえた。
「ゆ、宥氣さん……あの、大切な話があるのですが」
「ん？　どうした？」
　真剣な声音で言う玲那に、宥氣は花火から目を離して彼女の方を見た。震える唇から紡がれたのは、未来の話。今の事も大切だけれど、これからの事も語りたい。そんな彼女が可愛らしくて、宥氣は白い手を取ると柔らかい唇に自分のそれを重ねた。
　この幸せな時間が永遠に続けばいいのに。そう思ったのは、きっと彼だけではない。
　クラブの店番に企画巡りにと慌しく動き回った学園祭も、今日で終わり。
「学園祭はどうでしたか？」
「とても楽しかったですよ。あっ、兄様のクラブにも行ったんですよ！　皆さんすごくいい方でした」
　凜太郎に問われ、清乃は満面に笑みを浮かべて答える。彼に分けて貰った花火に火を点ければ、鮮やかな光の花がぱっと咲いた。
　清乃が来ていた時にいなかったなんて。思えば溜め息が零れるけれど、今日という日が楽しかった事に変わりは無い。
　来年は更に楽しめますよ。清乃の頭を撫でながら、凜太郎はそう言った。

●ゆったり
　火花の爆ぜる音と、それに混じる楽しげな笑い声。派手な出し物をした流希としては、この落ち着いた空気が心地良い。静かに過せるこのときを大切にしたい。そう思いながら、花火に火を点けた。
　皆の花火が終盤を迎える頃、望は灰慈と樹斉、そして舞子と一緒に線香花火を楽しんでいた。誰が一番長くしていられるか、ちょっとした対決も盛り込んで。
　派手さは無いけれど、大人しくぱちぱちと爆ぜる光は好ましい。そう感じているのは舞子だけではない。
「……1本ずつでも綺麗ですけど、その……こう、何十本も纏めて派手にイキたくなりますね」
　いけないと理解しつつも思わず零れた灰慈の言葉に、危ないよと望が言う。
「御厨君はどんな花火が好き？」
「んーとね、線香花火の、おっきいやつ」
　樹斉が尋ねると、望はよく分からない返答をした。舞子は火花の小さくなった線香花火に目をやって、首を傾げる。
「それ、線香花火じゃないんじゃない？」
　でもすごく似てるんだよと、望は線香花火をくるりと回す。その拍子に玉が落ちた。残る３人の光も、順々にぽとりぽとりと落ちて行く。
　終わっちゃったね。誰からともなくそう言って、バケツに花火をそっと差し入れる。
　祭りの名残りを惜しむように、じゅっと小さな音が鳴った。

作者：牧瀬花奈女	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年8月5日 難度：簡単 参加：54人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 12／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。