生まれる前から

    作者:猫御膳

     それは突然遭ってしまった不幸。その不幸は大事な、とても大事な幸せの象徴を私達から奪った。奪った世界を憎んだ。それでも、暖かい言葉を掛けてくれた人達が、そして何より半身である弟が私を救ってくれた。
     どうか神様。私達からこれ以上、何も奪わないでください。
     そんな願いを嘲笑うように、宇宙服のような服を纏った少年がいつの間にか枕元に佇んでいる。そして女性を見下ろし、女性の方へと静かに囁く。
    「君の絆を、僕にちょうだいね」
     
    「おはよう、舞」
    「っ………おはよ」
     朝起きて、出会い頭に会った青年が欠伸を噛み殺しながら挨拶をしてくる。舞と呼ばれた女性は、思わず身を竦ませながら挨拶する。
    「どうしたんだ?」
    「ううん。何でも、ない……」
     舞の目の前には、生まれる前から一緒であった青年、双子の弟が居る。心配そうに声を掛けてくる。そう分かっていても、まるで他人が居るようで落ち着かなくて、部屋に戻って扉を閉める。一緒に居るのが怖かった。
    「……何で?」
     扉を背にして、崩れるように座りながら舞は呆然とする。その舞の頭の上には、一般人には見えない紫と黒の気持ち悪い卵が産み付けられていた。

    「絆を奪う、か。質が悪いな」
     灼滅者達が教室に集まった事に気付いた曲直瀬・カナタ(中学生エクスブレイン・dn0187)は、眉根を寄せたまま振り返る。
    「集まってくれて感謝する。実は、絆のベヘリタスが動き出したようだ」
     そう簡潔に説明され、灼滅者達の顔付きが変わる。
    「既に知っているかもしれないが、絆のベヘリタスと関係が深いだろう謎の人物が、一般人から絆を奪って絆のベヘリタスの卵を産み付けている事件が起きている。今回もその1件だな。産み付けられた一般人の『絆』を養分とし、1週間ほどで卵から絆のベヘリタスが孵化してしまう」
     『絆』を奪われた一般人は、その『最も強い絆を持つ相手との絆』の相手の事を、何の感情も抱く事が無くなる。それこそ他人のようにな感じてしまうようだ、とカナタは補足する。
    「この産み付けられた卵だが、一般人には見る事も出来ない。そして灼滅者のみんなだったら目視出来るが、触る事が出来ない。産み付けられたら、もう孵化するしかない。だから、みんなには孵化した絆のベヘリタスを倒して欲しい」
     孵化した直後であれば、条件によっては弱体化も狙えるので、その時を狙って欲しいと言う。
    「その条件なんだが、この一般人との絆を結んで欲しい。絆の強さは、強ければ強い分だけ絆のベヘリタスも弱まるだろう。……絆の種類は問わない。愛情、劣情、感謝、侮蔑、憎悪、何でも良い。これは人が多い方が有利になる」
     灼滅者達の反応はそれぞれだ。お互い顔を見合わす者も居る。
    「絆を結んで欲しいのは、柴刈・舞という大学生の女性だ。この柴刈という女性が卵を産め付けられてしまった。年齢は20歳で、幼い頃に両親を無くしてしまい、双子の弟、柴刈・辰という青年と一緒に、苦労しながら生活している。唯一の肉親だけあって、お互いを尊重しながら助け合っていたらしい」
     それこそ素晴らしい絆なのだろうな、と頷く。
    「肝心な絆を結べる時間なのだが、残念ながら1日しか無い。柴刈・舞は朝から夕方まで大学、夕方から夜まで喫茶店でアルバイトという風に過ごしている。大学では柴刈・辰が一緒に居る事が多いが、絆を失っている状態だからか、一緒に居る事は無い。なので接触出来るのは大学でも、喫茶店でも大丈夫だろう。喫茶店の後片付けをし、帰る間際のコンビニに寄る途中で公園を突っ切る。その時、深夜の24時頃に孵化をするので、その時が灼滅するチャンスだ」
     公園には人気が無いから、みんなにとっても好都合の筈だ、とカナタは説明を続ける。
    「絆を結ぶ事無く正面から戦えば……闇堕ちするのが2名居て、やっと互角ぐらいの強敵だ。そして戦闘が10分以上経過すれば、絆のベヘリタスはソウルボードを通じて逃走しまう恐れがある。故に、絆を結べるように頑張って欲しい。絆のベヘリタスは、シャドウハンターとウロボロスブレイドのサイキックを使うようだ」
     説明は以上だ、とカナタは灼滅者達の顔を、じっと見る。
    「絆のベヘリタスの灼滅、または撃退でも構わない。絆のベヘリタスを倒せば失われた絆は取り戻されるので、出来るならフォローも頼む。絆の結び方によっては難しいかもしれん」
     それでもみんなであれば大丈夫だろう、とカナタは少し笑って灼滅者達を見送るのであった。


    参加者
    橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)
    倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)
    ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)
    ミスト・レインハート(輝心天刃・d15170)
    六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)

    ■リプレイ

    ●繋がる縁
    「あっ……」
     いつの間にか大学の講義の終了のベルが鳴ってる事に気付き、慌てて頭を上げる柴刈・舞。それでも何とかノートを取ってる事に安堵する。
    「突然すみません」
    「は、はいっ、すみませんっ!?」
     周囲に人気が無い事を確認した倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)は、溜め息を零していた舞に声を掛けて、真っ直ぐに舞を見詰める。
    「私は柴刈先輩の後輩なんですけど……えっと辰さんの後輩です」
     声を掛けられて驚いた舞の顔が、一瞬にして強張る。
    「辰さんが最近、お姉さんの様子がおかしいと心配していまして」
     早速本題を切り出せば、舞は顔を伏せる。
    「余計なお世話ですけど、辰さんへ何か言いにくい事が心配事があるのでしたら私にお手伝いできる事はありますか?」
    「……ありがとうございます。それでは、何か思い付いたら頼りにさせて頂きますね」
     暫しの沈黙の後に言葉を選んで返事する舞に、慎悟朗は頭を下げて立ち去ろうとする。
    「あ、名前……」
     そんな呟きが聞こえたが、慎悟朗は振り返らずにその場を後にするのだった。
     そのまま昼。大学の食堂で友達と楽しく話す事も気分が乗らない舞は、1人で食事をしながらノートを見ながら復習していた。
    「こんにちは。隣の席、いいかな?」
    「は、はあ……」
     物腰が柔らかいように、ミスト・レインハート(輝心天刃・d15170)が声を掛ける。最初は声を掛けるミストに対して舞は逃げ腰であったけれど、同じ講義を受けてるという事を聞いて、舞は早速前の講義を聞こうとしていた。
    「おー、ミスト。此処に居たさー」
     友達さね?と聞く、ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)の体格の良さに舞は少し驚くが、同じ大学の人かと納得する。それはゼアラムがプラチナチケットを使用してるからか、特に目立つ事も無い。
    「うん、友達の柴刈舞さんだよ。あ、こっちはゼアラムくん」
    「宜しくさねー」
     自己紹介をされて舞の席の前に座るゼアラムは、自然と会話に交じる事に成功する。
    「舞さんも俺達と同じ講義だったらしいよ」
    「ほう、偶然さー。そういえばここが解らなかったさけんど」
    「実は私、ちょっと講義を聞いてなくて……あ、だけどノートは取ってます」
     そう言いながらノートを見せながら2人の質問に答える舞は、逆に聞いてない部分を2人から聞き出す。
    「助かりました、ありがとうございます。最近はちょっと……色々ありまして」
    「こちらこそ逆に助かったさよ。この解釈はどうにも解けなかったさね。……何か、悩み事さ?」
    「それは……」
     言い淀む舞を心配そうに見ていたミストは、ゼアラムと目配せして立ち上がる。
    「それじゃ俺達は此処で。じゃあ、お互い頑張ろうね。舞さんが頑張ってくれたら、俺達の勉強が捗りそうだし」
     イタズラっぽく笑うミストは、ゼアラムと顔を見合わせて笑う。そんな2人を舞は微苦笑し、はい、と返すのだった。

    ●繋げられる縁
     日が暮れそうな時間、舞は1人で歩いていた。周囲には人気も無く、講堂を出るのは彼女だけである。そんな彼女を、1人の人物が待っていた。
    「……どうして、忘れたの」
     突如として現れる、銀髪の少女。その少女の美貌に見惚れる暇も無く、その手に握っている包丁に目が奪われる。
    「大切な家族のこと、どうして忘れたの」
     その銀髪の少女こそ、アインホルン・エーデルシュタイン(一角獣・d05841)である。彼女は旅人の外套を解除をして現れたのだ。
    「何を……あ、貴女は誰……!?」
     アインホルンは一歩ずつ近づいて、逆手に持った小鳩包丁が夕日に輝き、真っ赤に染まる。舞は何とか声を発したけれど足が竦んで動けないようだ。
    「忘れるくらい、どうでもいいなら……」
     その声が反芻する。大切な家族を忘れる。そんなのは分からない。忘れた訳じゃないのに、けれど失ってしまった。
    「そ、そんなの……私が聞きたいわよッ!」
     恐怖の余り、舞は目を瞑って叫ぶ。その様子を見たアインホルンは、再び旅人の外套を纏って姿を消す。残されたのは、その場はしゃがみ込んで震える舞だけとなる。
    「(怖がらせて、ごめんね)」
     決して彼女に聞かせれない、小さな謝罪。もしも聞かれたら、それこそ怖がらせた意味が無いのだ。アインホルンは舞の傍に向かってくる人物を一瞥してからその場を離れる。フォローを宜しく、と言わんばかりに。
    「……あのー、大丈夫ですか?」
    「ッ!!」
     声を掛けられた舞は身を竦ませ、声を掛けた人物を見上げる。そこには、心配そうに顔を覗き込み、書類の束を抱えた橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)の姿。
    「あれ、貴女は……確か双子の御姉弟の姉君ですよね。確か、柴刈舞さん。どうかなされましたか?」
    「今、そこに女の子が! 銀髪で、包丁を……!」
     思わず九里の服の裾を握る舞は、泣きそうな顔で指を差す。服の裾を握られた際に、九里は書類の束を落としてしまう。
    「わっと。……? 誰も居ませんが……夢でも見たのでは?」
     驚いて指を差す方を見ても、確かに誰も居ない。
    「ゆ、め……。そう、ですよね。……あ、ごめんなさい。手伝います」
     慌てて服の裾から手を離して落ちた書類を拾おうとする舞に、九里は眼鏡をずり上げながら、いえいえと返す。
    「まだ震えていらっしゃいますね。そんなに怖い夢でしたか?」
    「いえ、……大丈夫ですよ。ご心配掛けました」
     自分も拾いながら、舞を気遣うような柔らかい声。そんな九里に、舞は毅然として答える。
    「そうですか。では、怖いのは……弟君が傍に居ない所為、ですか?」
     さらりと言う九里の言葉が、舞を揺さぶる。舞は書類を抱えたまま、慌てて立ち上がる。
    「此れは御礼に御座います」
     九里は書類を受け取る際に、代わりにと、折り鶴を渡す。
    「千羽には足りませんが……どうか貴女が笑顔になられますよう。それでは」
     呆然としてた舞が気が付いた時、既に誰も居ない。あれも夢かと思えば、手には1羽の折り鶴があった。

    ●絆のベヘリタス
    「いらっしゃいませ。お席にご案内します」
     大学で起きた事が舞の頭の中で何度も繰り返す。接客中の今でも、表情を暗くしてしまう。
    「っと、あー…」
     声がする方を見れば、真面目そうな少年がコーヒーをテーブルに零していた。
    「大丈夫ですか、お客様?」
     それを見た舞はそのテーブルへ駆け寄り、手には布巾を持ったまま少年の心配をする。
    「すみません、僕の不注意で」
    「気にしないて下さい。それよりも服等は汚れておりませんか?」
     恐縮して謝る少年、葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)に対して、舞は素早くテーブルを拭って気遣う。
    「大丈夫です。ありがとうございます。貴女のように優しいウェイトレスさんで良かったです」
     爽やかにそんな事を言う統弥に対して、舞は黙ったまま営業スマイルで返す。どうやらナンパだと思われたらしい。
    「あ、いや、ナンパでは無く。本心で、ウェイトレスさんにお礼を……」
    「……柴刈です。そのような言い方だと、ナンパだと思われますよ?」
     真面目に注意っぽく諭す舞。その態度は、姉が弟を注意するようにも見える。しかしその勢いがあったのか、そのまま少しだけ他愛も無い話をするのだった。
    「……いいなぁ」
     その光景を見詰めていた莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)にとって見れば、その慣れた仕草はとても様になる。一人っ子の想々にとって、羨ましく映るらしい。
    「あ、お久しぶりです」
    「こんばんは、舞さん。受験でなかなか来れなくて」
     プラチナチケットを使った想々は、舞に問題無く通用する。おかげで、まるで常連のように話が弾む。
    「済まぬ……じゃなくて、ごめん、遅れた」
    「もう、遅いよ」
     大学の話で盛り上がってる時に、慌てた様子で入店する六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504)は、想々に謝りながら相席に座る。
    「紹介しますね。私の弟のカイくん。かっこいいでしょ? 私と違ってモテるんですよ」
    「俺のことはいいんだよ、大体姉上……じゃなかった、姉さんだって……」
     クスっと笑い、カイの事を軽く紹介する想々。モテる等を言われ、若干ぎこちない感じで話を逸らそうとするカイ。そんな2人を微笑ましく見守る舞は、自分の胸元を軽く握る。
    「……いや、何でもない! 姉さんこそさっさと彼氏作って安心させろよな。……たった二人の肉親なんだから」
    「いつもこんな感じなんですよ? あ……、そういえば弟さん、お元気ですか?」
     想々の言葉に、舞は黙ってしまう。それを2人は心配そうに見詰める。
    「舞どの……いえ、舞さん。家族というのは、とても大事だと思います」
    「弟さんの事を一番大切だと聞きました。……早く元気になってくださいね」
     さり気なくラブフェロモン発動するカイは親身そうに慰め、心配そうに元気付ける想々。2人の言葉に、舞は黙って頷くのだった。
     その夜、時刻は深夜の24時近くとなる時間に、舞はコンビニに寄ろうと人気が無い公園を横切ろうとする。しかし急に立ち眩みを感じたのか、その場で座り込んでしまう。
    「え……あ、いや……だ」
     その頭上から、軋んだ何かが割れる音がする。絆のベヘリタスが孵化したのだ。そしてその姿を現す。身体から、頭から、心から何かを吸い取られる感じに、得体もしれない恐怖に舞は悲鳴も上げれないまま涙を零し、その化け物を見詰める事しか出来ない。
    「はい、嫌なのは分かりました。それでは、貴女の笑顔を見る為に頑張りましょう」
     急に周囲が明るくなる感じがしたと思えば、九里が舞の腕を掴んで引っ張りベヘリタスから離す。明るくなったのは、灼滅者達が光源を持ち出したからだ。
    「危険ですから一旦離れてください。後で事情を話します」
    「後は任せて、ね?」
     そのまま統弥が舞を安全な場所まで運び、殺界形成を展開して更に離れさせる。その事を確認したミストもまた、サウンドシャッターを展開する。
    「はっはっは! 舞台も整ったさー!」
    「………」
     豪快に笑うゼアラム。小さく、声にならない溜息をつく事で気持ちを切り替える慎悟朗。
    「……解!」
    「返して貰います。あの2人の絆を」
     一拍の呼吸の後にスレイヤーカードを解放するカイ。そして宣言して髪の色と瞳の色を変える想々。
    「……ベヘリタス、お前は絶対に許さない」
     携帯のカウントダウンタイマーをセットしたアインホルンが駆け出す。その動きに合わせ、灼滅者達が一斉にサイキックを発動する。ベヘリタスを倒す、または撃退しなければ、双子の絆は完全に奪われる。今、絆を取り戻す戦いが始まる。

    ●取り戻された絆
     絆のベヘリタスは孵化したてで弱点がある。それは宿主となる人物と絆を結べば結ぶほど、その相手に対して弱くなる事だ。故に、灼滅者達はそれぞれ絆を結ぼうと、舞と色んな風に接触したのだ。結果、『信頼』、『親近感』、『勉強仲間』、『恐怖』、『興味』、『保護欲』、『常連』、『気になる』という感情を結ばせ、絆にする事に成功する。
    「それでもこの強さというのが驚きさね!」
     笑いながら雷を纏ったゼアラムがラリアットを炸裂させてベヘリタスを浮かせ、その浮いた身体を掴んで地面に叩きつけて爆発させる。
    「ダークネスなんかに……大事な絆を渡せるか!」
    「返して貰うぞ……それは断じて貴様のものではないッ!」
     凶槍である豺狼月牙に炎を纏わせたミストが薙ぎ払って炎上させ、罪と終焉の印の形を刀剣に変えたカイが、瞬時に袈裟斬りする。
    「たった2人しか無い絆を奪う事は、許せない!」
     統弥が続くように踏み込み、黒い刀身のフレイムクラウンで叩き付けるように超弩級の一撃を繰り出す。その一撃を喰らいながらも、ベヘリタスは不気味に起き上がり、反撃と言わんばかりに蛇腹剣のような影を伸ばす。
    「ッ、舞さん!?」
     その普通の攻撃であれば避けれる速度であった。しかし、ベヘリタスは姿形を柴刈舞に瞬時に姿を変える。一瞬でも驚いてしまった統弥に避けれる余地は無い。
    「……邪魔」
    「斬る」
     しかしディフェンダーであるアインホルンと慎悟朗が立ち塞がり、魔女の指先と意味のFingerspitze der Hexeと、クルセイドソードで蛇腹剣を弾いて分断する。
    「おやオや……そのような格好で攻撃の手を緩めると思いで?」
    「この……絶対奪い返すって、言っとるやろぉが!」
     空かさず九里が濡烏をベヘリタスに絡ませて斬り裂き、顔を歪ませて嗤う。逆にその姿を見た想々が激高し、魔術によって雷を呼び出し直撃させる。それでもベヘリタスは舞の格好を止めず、そのまま蛇腹剣を灼滅者達へと振るう。それをそれぞれの武器や、庇うなどで堪える。
    「……もうすぐ、10分」
     アインホルンがそう呟きながら逆にその蛇腹剣を掴んで引き寄せ、影を武器に宿して踏み込んで殴ると同時にトラウマを植え付ける。
    「………」
    「トドメと行くさよ!」
     慎悟朗が無言で踏み込みながらバトルオーラを拳に纏わせて連続攻撃し、ゼアラムがその隙に後ろから掴み、ジャーマンスープレックスで大地に沈ませる。その攻撃によって、ベヘリタスは声も上げる事も無く消えたのだった。
    「あんな敵を増やすわけにはいきませんね……」
     戦闘が終われば慎悟朗は、独り言を残して去る。他の灼滅者達は舞を探しに行けば、彼女はまだ公園で待っていた。
    「あ、あの……貴方達は……?」
    「アインホルン。……怖かったよね……まい、ごめん……」
     名乗りながら一歩踏み出して謝る彼女に舞は驚くばかりだ。その謝る姿に、もう恐怖は感じられない。
    「大丈夫かい? 弟さんに対する気持ちはどうかな」
     大学で会った時のように、ミストは人当たりが良いように話し掛ける。
    「大丈夫、悪い悪夢は終わったから。大切な弟さんとの絆を大切にね」
    「辰はええ奴さね、何より舞に幸せになって欲しいと思ってるさよ。その絆、大切にして欲しいさねー」
    「……貴女の笑顔を、貴女の半身が待っておられますよ」
     続いてゼアラムと九里言うと、舞は弟の姿を思い浮かべて泣き出しそうな顔になる。
    「貴女は悪くありません。弟さんとの絆はこれくらいで壊れたりしません。しっかり話し合って乗り越えましょう」
    「舞どの、これは……夢だ。夢は、醒めれば、またいつもの朝に帰れる。貴方の日常を奪う者は、もう居らぬ。もう大丈夫。幸せに……」
     統弥が励まし、カイが優しく言葉を添える。
    「ずっと一緒なら、普段と違う日も有る筈。家に帰れば、またいつもの様に何気なく話せます」
     だから、また喫茶店に行った時に聞かせて下さい、と想々が言うと、舞は頷く。
    「皆さんが助けてくれたのですよね? ……ありがとうございます!」
     1人1人の顔を見てお礼を言い、一刻も早く弟に会う為に踵を返す舞。
    「ついでに大学の勉強も頑張ってね♪」
     そんな言葉が彼女の背を押し、灼滅者達は双子の絆を取り戻せたのだった。

    作者:猫御膳 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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