村正剣風帖~妖刀村正、見参

    作者:泰月

    ●説法と妖刀
    「――であるからして、この地を危機に陥れんとする仏敵を討たねばならぬのは必定。それこそが、汝に課せられた運命と心得られよ」
    「はぁ……この老いぼれに何が出来ますじゃ……?」
     琵琶湖西部のとある一軒家で、奇妙な面をつけた男が、お爺ちゃんに滔々と説いていた。
     その額には黒曜石の角が生えているのだが、お爺ちゃん、見えていないのかまるで気にしてない。
    「我らと共に来るのだ。さもなくば御仏に背いたとみなされ、仏罰が降るやもしれんぞ」
    「……わ、判りまし――」
     覆面の男が口にした仏罰の一言に、お爺ちゃんは血の気の引いた顔で頷こうとした、その時。
    「老人を脅すとは、大した説法でござる」
     庭から新たな声が割り込んだ。
    「き、貴様は……!」
     声の方を向いた覆面の男が、声の主を見て驚愕に目を見開らく。
     着流しから覗く、鍛えられた体躯。三度笠を突き破る、巨大な刀の頭部。
    「お主の得物も刀でござるか。……お前達は手を出すな。慈眼衆1人、拙者だけで充分でござる」
     刀頭の怪人は、背後に連れていた琵琶湖ペナント怪人達を制すると、腰の刀に手を添える。
    「刀は武器。斬り合うが刀の本懐――さぁ、拙者と斬り合うでござる! この村正と!」

    ●刀剣怪人、動く
    「琵琶湖の情勢が動いたわ」
     夏月・柊子(高校生エクスブレイン・dn0090)は、灼滅者達の集まる教室でそう口を開いた。
    「天海大僧正と安土城怪人の戦いは、皆の助力もあって、どうやら天海大僧正の側が優勢になっているようなの」
     その状況を受けて、両勢力は更なる動きを進めた。
     天海大僧正は、戦力を増強すべく、琵琶湖西部の寺社仏閣の多い地域に住む独居老人の元へ、慈眼衆を派遣した。老人を説法して強化一般人にする狙いだ。
     一方、劣勢になった安土城怪人も黙ってはいない。新たな戦力、刀剣怪人軍団を戦線に投入した。
    「刀剣怪人は、慈眼衆が老人に接触している所に現れて、慈眼衆を攻撃するわ」
     そんな状況で、慈眼衆と刀剣怪人が戦えば、周囲の一般人に被害が出る恐れもある。
    「だから介入して来て……と言う話なんだけど」
     そこまで話した柊子は、しばし言い淀むように間をおいてから、説明を再開した。
    「皆が介入出来るのは、慈眼衆より少しだけ後になるわ」
     老人が一人住む家に上がりこんだ慈眼衆は、『来ないなら仏罰が降る』なんて脅迫じみた説法で、老人を引き入れようとする。
     慈眼衆が説法を始めた数十秒後に灼滅者が到着し、更に遅れる事5分。
     刀剣怪人が現れると言うわけなのだが。
    「現れるのは『妖刀・村正』と名乗る、伊勢をご当地とする刀剣怪人よ」
     その名前に、驚きの声が上がる。
     村正と言えば、徳川に仇なす妖刀と言われる刀ではないか。
    「村正は刀剣怪人軍団のリーダーみたい。その強さは、他の刀剣怪人軍団とは一線を画しているわ。琵琶湖ペナント怪人も3体連れているし、戦わずに撤退すべき相手よ」
    「慈眼衆と共闘しても、か?」
    「共闘自体は可能よ。でも、慈眼衆は一人だし――強化一般人を増やすのを許しても、勝率は殆どないわ」
     やや緊張した声で、柊子は灼滅者達にそう告げた。
     村正が現れる前に撤退すべきだと。
    「まだどう介入するのが正解かも、介入によって情勢がどう動くかも判らないわ。だから、どうするかは皆の判断に任せる――でも、覚えておいて。村正は危険な相手よ。無理はしないで、無事に帰ってきてね」


    参加者
    立見・尚竹(貫天誠義・d02550)
    リオン・ウォーカー(りすぺくと・d03541)
    相羽・龍之介(焔の宿命に挑む者・d04195)
    鈴見・佳輔(中学生魔法使い・d06888)
    鈴鹿・美琴(プレンティ・d20948)
    鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)
    桜庭・成美(ダンボガールスタンディング・d22288)
    常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)

    ■リプレイ


    「汝を仏罰を恐れぬ不届き者ではないと見込んで、頼みがある」
     灼滅者達が庭に着いた時、慈眼衆の話は仏罰云々と言う所に至りかけていた。
    「話はそこまでです!」
     庭に響いた相羽・龍之介(焔の宿命に挑む者・d04195)の声に、慈眼衆が振り向く。
    「俺は武蔵坂学園所属、立見・尚竹。慈眼衆よ、そちらの姓名も伺いたい」
     立見・尚竹(貫天誠義・d02550)は自ら名乗り、慈眼衆の名を尋ねる。
    「武蔵坂の灼滅者か。我は慈眼衆、それで充分であろう。それより、何用だ」
     しかし慈眼衆は名乗らず、老人と灼滅者の間に立って、逆に来訪の目的を問う。
    「どうもこうも、一般人巻き込むのは見過ごせん」
     名前を聞くのを諦め一歩引いた尚竹に代わり、鈴見・佳輔(中学生魔法使い・d06888)が前に出る。
    「学園として強化一般人化を認める訳には行きません。今後の協力関係の為にも、どうか今回は諦めてくれませんか」
     桜庭・成美(ダンボガールスタンディング・d22288)も、来訪の目的を伝える。
    「そうはいかぬ。これは我らの戦の準備に必須である」
     しかし慈眼衆は首を横に振り、きっぱりと否定の意思を告げた。
    「刀剣怪人の、村正さんが来るって言っても、でしょうか?」
     その様子をを見たリオン・ウォーカー(りすぺくと・d03541)は、村正の情報を口にした。
    「村正? 刀剣怪人だと? ……何故、そんな事を知っている」
    「バベルの鎖で察知した。強化一般人化に拘れば村正との接触は免れないぞ。急拵えの戦力では命とりだ」
     リオンの言葉に驚く慈眼衆に、鈴鹿・美琴(プレンティ・d20948)が更なる情報を伝える。
    「バベルの鎖だと? 我は何も気付いていないと言うのに?」
     だが、その言葉を聞いた慈眼衆の視線に、不審の色が混ざり始めた。
     バベルの鎖は、ダークネスも持っている。
     当の慈眼衆が察知していない事を、何故後から来た灼滅者が察知しているのか。
     それなのに、何故、後からこの場に現れた灼滅者が察知しているのか――。
    「……。信じきれぬ。信じきれぬが、汝らは何故、危険を感じながら来た? 老人の為か」
     しばしの沈黙の後、慈眼衆は疑いを以て灼滅者を問い詰める。
     慈眼衆の視線は、話に加わらずに、周囲を警戒する素振りを見せている龍之介や、鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)、常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)の3人に向けられた。
     3人の様子から、灼滅者が何らかの危険を感じているのだと読み取ったのだ。
    「それもありますが、私達はできれば彼と交渉し、情報を得たいと考えています。それに、協力して貰えないでしょうか」
    「私達と村正さんの話し合いの場に、慈眼衆さんも同席して頂きたいのです」
    「何だと!?」
     村正との交渉を望んでいると言う成美とリオンの言葉に、慈眼衆が驚きで目を見開く。
    「安土側と話し合いによる解決の可能性がないか見出したいんだ」
    「同席して貰う事で、やましい相談をする気がない事を、裏切る気がない事を証明します。そして、貴方は天海に情報を伝えられます」
    「村正さんが攻撃してきても、私達が全力でお守りします。勿論、撤退するのであれば止めません」
     美琴もそこに加わり、成美とリオンも説得を重ねる。
     佳輔は口を挟まないまま、考え込むように沈黙した慈眼衆の答えを待った。
     そして。
    「……成程。であれば、この老人には、必ずや我らが軍門に加わって貰わねばならぬ」
     出された結論は、灼滅者達の期待したものとは程遠かった。


    「な、何故ですか?」
    「裏切る気はないと言ったが、安土側と話し合いたい、その言葉こそが、汝らが必ずしも我らに協力する立場を取るとは限らないと示唆しているではないか」
     問い詰める成美の言葉に、慈眼衆は淡々と返す。
    「待って下さい、慈眼衆さん。私達は片方のお話だけ聞いて、もう片方のお話を聞かないままでは、間違った選択――」
    「話し合いが必要なのは汝らの都合であろう。それに、敵がそれに応じる保証もなければ、汝らが得る情報が大僧正の益になる保証もないではないか」
     食い下がるリオンの赤い瞳を、慈眼衆の敵意を浮かべた視線が射抜く。
    「……拙いですね。村正が現れるまで、もうあまり時間が――」
     龍之介が時計に視線を落とし、小さく呟く。
     残された時間は減り、交渉の雲行きはどんどん怪しくなっていく。
    「老人は俺が連れ出す……だが、慈眼衆が邪魔だ。手伝ってくれ」
     慈眼衆の後ろで困惑する老人を見ながら、尚竹がそう提案する。
     確かに、一人で突っ込んでは連れ出すのは難しい。
    「判りました。お手伝いします」
     頷いた文具が、戦闘に備えて体から殺気を広げる。
     と、その時だ。
    「話は終わりだ。ご老人。この地を危機に陥れんとする仏敵を討つ為、剃髪し、我と共に来るのだ」
     業を煮やした慈眼衆の手が剃刀を取る。
    「それだけは絶対に認められません!」
     それを見た龍之介は、地を蹴って部屋の中へと飛び込むと、縛霊手の拳を慈眼衆に叩き付けた。
    「糊っ」
     続いた文具が、セロハンテープを模した手甲で慈眼衆を殴りつけると同時に、六文銭が慈眼衆に叩きつけられた。
    「御老人、土足で失礼するぞ!」
     老人を目指し飛び込んだ尚竹の前に、霊力の網が絡んだままの慈眼衆が立ち塞がる。
    「不意打ちで来たか。この者は渡さん!」
     慈眼衆の振り下ろした刀を、間に入った文具が阻む。
    「あー……もう限界だ。シメるぞ、慈眼衆」
     不機嫌そうに言った佳輔の腕に、燻し銀の縛霊手が現れる。
     元々、お年寄りを脅迫する慈眼衆には相当腹が立っていたのだ。それを押し殺して交渉に参加していたが、今ので我慢の限界を超えた。
    「大丈夫や。仏罰言うとるんはこのおっちゃんで、仏様はお爺ちゃんに罰当てへんよ」
     困惑する老人に安心させる様に言いながら、佳輔は慈眼衆に飛び掛り、縛霊手の拳を叩き付けた。
     そこに龍之介が続いて、重力を宿した蹴りを叩き込む。
    「こうなったら、仕方ないな」
     小さく溜息を吐いて、美琴も刀を抜いた。長刀を振り上げ、重たい一撃を慈眼衆に叩き込む。
    「……対立は避けたかったのですが」
     苦虫を噛み潰すような顔で、成美が縛霊手を掲げ、結界を構築する。
    「こうなれば、我も容赦はせん!」
     灼滅者達の波状攻撃を受けた慈眼衆は刀を振るい、三日月の軌跡を描く斬撃で灼滅者達を纏めて斬り裂いた。
     そこに吹き渡る、風。
    「大丈夫ですか、皆さん」
     優しい風を招いて仲間を癒すリオンの傍らには、波打つ金髪のビハインド。
     そして、慈眼衆の横を抜けた尚竹が、老人の元に到達した。
    「御老人。俺と一緒に来て貰うぞ。ここを離れる」
     王者の威風を纏うと、力なく頷いた老人を有無を言わさず抱え上げる。
    「そうはさせぬ!」
    「行ってください、立見先輩」
     行かせまいと慈眼衆が放った風の刃を、常儀の文字が浮かぶ赤い光の盾を構えた文具が遮った。
     しかし、その直後。
    「間に合いません。村正、来ます!」
     音々の声と共に、巨大な刀の頭を持つ怪人が、琵琶湖ペナント怪人を引き連れて庭に降り立った。


    「さて、これはどういう状況でござるかな?」
     周囲を見回すように、目のない刀の頭をぐるりと巡らせる怪人。
    「貴方が村正ですか?」
    「左様。拙者が刀剣怪人が筆頭、妖刀・村正でござる」
     進み出て名前を尋ねた音々に、頷く村正。
    「ボク達は武蔵坂の灼滅者です。戦意はありません。話をしたいのです」
     問答無用で攻撃される事はなさそうだとみて、音々は鞘に収めた刀と槍を一度掲げてから置いて見せた。
    「灼滅者が拙者と話でござるか……?」
    「私達に戦意はありませんので、腹を割ってお話出来ればと思います」
     リオンも村正の頭をまっすぐに見て必死に伝える。
     村正が向ける気配が僅かに和らいだ次の瞬間、尚竹は意を決して老人を抱えあげるとそのまま一気に家屋の玄関へと駆けた。
    「村正様! 一人逃げます」
     気づいたペナント怪人の声を背中で聞きながら、尚竹は走る。
     彼には、村正と顔を合わせるつもりはなかった。エクスブレインの言に従うのが、最善だと思ったからだ。
    「捨て置くでござる。逃げる灼滅者と老人など二の次。そこの慈眼衆の首が優先でござる」
     村正は遠ざかる背中には見向きもせず、抜いた刀の切っ先を慈眼衆に向ける。
    「時間を稼いで刀剣怪人を利用し、我が計画を潰すのがお前達の狙いか! 次は我か? 刀剣怪人か?」
     慈眼衆は完全に灼滅者達を疑っていた。
     目論見を潰された上に、村正に標的だときっぱりと告げられたのだ。穏やかではいられる筈もない。
    「一度対立しましたが、撤退は私達が支援します。貴方も、どうか、武器を収めてください」
     それを見た成美は、慈眼衆を庇うように、村正の刀の先に立ち願い出る。
     龍之介も慈眼衆を遮る形で、その横に並ぶ。
    「その刀……納めてくれんか。どうしても斬るというなら、総て守るため自分はこの剣を振るうが、今は自分も納める」
     美琴も村正に見えるように刀を鞘に納めながら、2人に並ぶ。
    「見ての通り、既に老人は逃がした。この場で戦力が増える事はないのだから、これ以上戦いに拘泥する理由は薄いのではないか? 矛を収めてはくれないか?」
    「そうはゆかぬ。そこの慈眼衆を逃せば別の老人が慈眼衆に加わろう。故に、見逃す道理はないでござる」
     さらに佳輔も言葉を続けるが、しかし村正はきっぱりと否定を告げた。
    「それとも、見逃すに釣り合う程の益を、拙者達に提供できる話でござるのか?」
     その言葉に、誰もすぐに返せなかった。
     交渉を望んでいるのは本心だが、村正に表立って協力するまでの気もなかった。
     そしてその迷いに動かされたのは――。
    「先輩方っ! 後ろです!」
     気付いた文具が呼びかけるが、成美と龍之介と美琴が咄嗟に動くより早く、3人の背中に慈眼衆の刀が迫る。
     キィンッ!
     響いたのは硬い金属音。
    「勘違いするでないでござるよ。そこの慈眼衆、お主達ごと拙者まで斬ろうとした故、かかる火の粉を払っただけでござる」
     結果的に3人を救った村正は、刀を打ち上げた態勢のままそう告げた。
     三日月の軌跡を描く前に刃を弾かれ、慈眼衆が舌を打つ。
    「戦意がないと言うなら、そこで黙って見ているでござる! これ以上邪魔をすれば、お主達も斬る!」
     7人を余所に、慈眼衆と村正の戦いが始まる。
     慈眼衆を守ろうにも、慈眼衆がそれを望んでない以上、守りに割って入る隙がない。
    「くそっ」
     慈眼衆が振り下ろした刀が、あっさりと村正の刀に阻まれる。
    「ふむ。既に、力を削がれてるでござるか。だが、遠慮はせんでござる!」
     村正は刀を鞘に戻し、一気に鞘疾らせ慈眼衆を斬り裂く。
     その直後、村正の腕が慈眼衆の首を掴んで真上に投げ飛ばした。
    「おおっ。あれは」
    「ああ、村正様の――」
     それ追って自ら高く跳躍した村正を見て、ペナント怪人が声を上げる。
     村正は、投げた慈眼衆の上に出るとぐるんぐるんと縦回転。
    「「「村正ダイナミック」」」
     ペナント怪人の声が重なった直後、回転切りを受けた慈眼衆が地面に叩きつけられ、激しい爆発が起きる。
    「ええい、ペナント衆。拙者のは、村正爆斬撃だと何度言えば判るでござる」
    「いや、村正様。アレはご当地ダイナミッ――」
    「拙者、横文字は不得手でござる」
     なんだか緊張感に欠けるペナント怪人と村正のやり取りだが、灼滅者達にそれに突っ込む気はとても起きなかった。
     爆発が収まった後に残っていたのは、砕けた覆面の欠片のみだったのだから。


     慈眼衆をあっさりと撃破し、村正は灼滅者達に向き直る。
    「勝てはしないだろうがペナント怪人くらいは道連れにする。それはお互い望むところではないのではないか」
     背中に冷たいものが流れるのを感じながら、龍之介は停戦を申し出る。
    「で、話とやらは何でござるかな?」
     しかし、村正は殺気を霧散させ、事も無げにそう告げた。
    「……話、聞いてくれるんですか?」
    「馴れ合う気はないでござるが、慈眼衆を斬った今なら、武器を置いた者の話を聞く耳くらいは持ってるでござるよ」
     先頭で身構えていた文具が呆気に取られて聞き返せば、耳のない頭であっさりと返された。
    「では……まずは、今までの戦いで其方の意思や事情を聞かずに灼滅してしまった事、謝罪します」
     村正との交渉に備えていた音々が、進み出る。
    「今回は、貴方達の意義主張を聞きたくて来たのです」
    「何故でござる?」
    「たとえ敵対するとしても、お互いの主義主張や事情を知らずに戦いたくはありません。もし聞かせて頂ければ、必ず学園に持ち帰ります」
     成美の言葉を何故と問い返す村正に、音々は迷わず答える。
    「誉れ高き湖に、刀たる貴方達と話がしたい」
    「話して頂ければ、これからの対応を再検討しますので、どうか」
     美琴が琵琶湖と刀への賞賛を混ぜて、リオンも話し合いを望む旨を重ねて伝える。
    「ふむ。灼滅者にはこれまで散々横槍を入れられたと聞いていたでござるがなぁ」
     2人の言葉を聞いた村雅は、頭を斜めに傾げた。
    「それは、天海に協力を求められたからです。また、これまでの湖畔の戦いでは、慈眼衆が歩み寄ってくれていたので、その分向こうに協力する事が多く、其方の話を聞く機会と余裕がなかったのです」
     音々のその言葉に、村正は頭を更に斜めに傾げる。
    「判らんでござるな。お主達は、一体、何をしたいのでござるか?」
    「……無理に両方と敵対したくはないし、事情も判らず都合よく使われたくもないのです」
     村正の問いに、音々は言葉を選ぶも隠さずに告げた。
    「此方に協力するでもないでござるか。なら、安土殿に関する事を言う気はないござる。それに拙者、他者の思惑を勝手に吹聴する趣味はござらぬ」
     頭を縦に戻し、村正は告げる。
    「じゃあ、もう1つ。本田忠勝の蜻蛉切って槍にも村正一派の銘があった筈だけど、作者?」
     先の答えから、村正個人に関する事ならどうかと、佳輔が尋ねてみる。
    「お主達の間で村正の作と言われる槍があっても、拙者のあずかり知らぬ事でござる。ただ、拙者は槍は使わんでござる」
     そう言ってから、村正は刀から手を離し、7人に背を向けた。
    「もう良いな? 拙者と話をしたいと言い出したその気概とお主達の刀に免じて、今日はこのまま去るでござる。既に一人逃がしたでござるしな。一人逃がすも、八人逃がすも同じでござる」
     そう告げると、話は終わりだと言わんばかりに、屋根に飛び乗る。
    「いずれ刃を交える日も来よう――拙者は、妖刀・村正。徳川に仇なす妖刀にして、刀剣怪人筆頭。そして、刀が武器として振るわれる世の再来と征服を望む者でござる!」
     最後にそう言い残し、村正とペナント怪人達は琵琶湖の方角へ姿を消した。
     その気配が感じられなくなった頃に、その場に置かれた携帯電話から、老人の無事を告げる声が響いた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 22/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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