学園祭2014~打ち上げは花火とともに

    作者:海乃もずく

     たくさんのクラブ企画や水着コンテストで盛り上がった、7月20日、21日の2日間。
     あんなに待ち遠しかった学園祭も、夢中で楽しんでいるうちに、終わりの時間は近づいてくる。
     けれど、学園祭の夜はこれから。
     学園祭の熱気は余韻となって、まだあちこちに残っている。
     まだまだ楽しむ時間はある。最後の最後まで、めいっぱい楽しもう。
     
     グラウンドの一角からは、少し遠くに特設ステージが見える。キャンプファイアーを囲んでいるグループもいるようだ。
     特別に火の使用許可がおりているグラウンドでは、今日ならば花火もできる。
    「何これ、どうしたの?」
    「自由に使っていいみたいだね」
     誰が持ち込んだか、ダンボールいっぱいの家庭用花火。水を入れるバケツと、ローソク、着火器もある。
     色とりどりの手持ち花火、定番の線香花火、結構激しいネズミ花火。家庭用の設置型の吹き上げ花火や、打ち上げ花火なんかもある。ロケット花火は迷惑にならないよう気をつけて。
     屋台の取り置き分や、余った食べ物を持ち寄って――。
     学園祭の最後の夜、花火で楽しく彩ろう。
     


    ■リプレイ

    ●はじける花火と笑い声
     赤、黄、オレンジ、緑。
     色とりどりの花火が鮮やかに弧を描き、夜のグラウンドできらめく。
    「光画部3位受賞おめでとう! かんぱーい!!」
     まぐろの発声でジュースを掲げ、【光画部】は乾杯!
     仲次郎の自慢の料理は、おにぎり、唐揚げ、エトセトラ。大学は、調理学部に進んでもいいかも?
    「あら、あーるの料理、美味しいわね」
     まぐろといちごは、意外な特技を見た思い。由希奈も思わず舌鼓、空もおいしく味わって。
    「或田センパイ、料理もお得意なんですねっ!
     花火をしながら楽しく会食。派手な花火もいいけれど、線香花火のようなささやかな光もいい。……しかし突然、後ろでネズミ花火が派手に着火。翠のイタズラ大成功。
    「きゃっ、何ですかっ!?」
     向こうでひなたの叫びもする。翠のイタズラは、あっちでも成功した様子。
     楽しくはしゃく皆の姿を、写真におさめていくのは朱毘。
    「……花火も人も綺麗に撮るのは、なかなか難しいものなのですね」
     たくさん撮れば、何枚かは良いのも混ざるだろう。
    「迷宵ちゃんが来た時は、内心すごいびっくりしたんだよ」
     でも、やっぱり嬉しかったなぁと、話す由希奈の表情がほころぶ。来年も楽しんでくれるかな?
     迷宵の驚いた表情を思い出し、まぐろも由希奈の言葉に頷いて。
    「迷宵さんが来たとき、顔出せてなかったのは少し残念です」
     いちごも話に耳を傾けて。来年は、水着のレンタルとかあってもいいかも?
     来年はボクももっと頑張らないとです、と空も気合いを入れ直す。
     翠と沙希はかき氷で乾杯。シロップはミックス、あるもの全部で!
    「さっちゃんのおかげで、3位になれましたのですー♪」
     笑顔の翠に、本当の功労者はお姉ちゃんなのですよ、と沙希。お姉ちゃんが、ずーっと対応してたから。
    「だから、お姉ちゃんに乾杯っ、と、お疲れ様っなのです!」
     かき氷のカップをかちんとあわせて、翠は沙希へと「あーん」。
    「来年の学園祭はもっともっと楽しみたいわね!」
     まぐろの言葉に何人かが頷く。光画部のモットーは、学園生活を思い切り楽しむこと!
     【糸括】では、猫になったミカエラのほか、数名の頭にウサ耳が揺れている。
    「浴衣に花火にすいかっ! 夏の風物詩っなのよーっ」
     浴衣姿の杏子たちの前で、脇差はスイカを一刀両断。
    「まあこんなもんか……ん? どうした興守」
     目隠しを外す脇差は、雨絣の浴衣姿。明莉がこっそり脇差につけたウサ耳は、脇差に気づかれないまま元気に揺れている。
     鈍は本当にうさみみ好きですよね、と内心思う理利は、期待の眼差しで理利(の頭)を見る杏子に気づく。
    「うさみみ……」
    「ら、来年はちゃんとうさみみを付けられるよう努力します……」
     赤面しながら理利は目を逸らし。うさ耳のためには、男の矜持も捨てるべき?
     割れたスイカはみんなで分けて、シートに座ってのんびりと。ナノナノのここあもちゃっかりと。ミカエラにゃんこも杏子からスイカをもらって、顔突っ込んで、ご満悦。
     輝乃が集めたお土産の数に驚いたり、さまざまな花火に歓声を上げたり。
     手持ち花火は華やかな7変色。光のシャワーを、ミカエラは、じーっ。
    「ミカエラ、近すぎると危ないよ」
     輝乃は、お面に浴衣、緩めの三つ編み。団扇で煽って花火の煙を遠くに逃がす。
    「ここあも、花火、きれいって思うなのかなあ?」
     杏子が聞けば、心桜か示す花火の先、ナノナノとここあも楽しそう。
    「わ、うさぎ型の打ち上げ花火? やるやるー!」
     藍色の浴衣に兎柄の白帯を締めた、和奏がうさぎ花火に目を輝かせる。
     輝乃、和奏、理利は、線香花火の耐久レース。緊張感最高潮の和奏の肩を明莉が、ぽん。……火の玉が、ぼとっ。
     智優利は水着の上にジャージ1枚で、鼠花火大量展開ぶしゃーっ☆
    「くらえ! 百花繚乱炎月輪~♪」
    「楽しそうっ、へびさんとの共演なの!」
     杏子は大喜び、ミカエラも大興奮。ぱん、と鳴るネズミ花火に閃光百烈ねこパンチ! 飛んだネズミ花火は脇差のもとへ。
    「蓬栄、お前わざとだろ!」
     たくさん花火を楽しんだら、きちんと最後は後かたづけ。
    「うさ耳、すっかりこの部のシンボルになってしもうたのう」
     ミカエラのつけウサ耳を直しながら、心桜は揺れるウサ耳を見上げる。
    「……来年はネコ耳かなぁ、やっぱ」
     ウサ耳を風になびかせながら、明莉はぽつり。
    「猫耳も良いですよね!」
    「……わらわ、キコエナカッタヨ」
    「来年こそちゃんと付けられるように頑張ろう……」
     乗り気の和奏、目をそらす心桜、気合いを入れる理利と、反応は十人十色。
     一方で、ビニールシートに並ぶ焼きそばやたこ焼き、お菓子系にジュース。ここは【刹那の幻想曲】、打ち上げ会場。
    「学園祭、お疲れさまでしたー!」
    「お疲れさまでした♪」
     紙コップを掲げて、ゆまと薫は乾杯。
    「……まあ、僕は全く手伝えてないんですけどね」
    「ふふ、相羽さんは来年があるです!」
     龍之介も乾杯し、遅れた彩華もオレンジジュースで乾杯。四季彩喫茶のスイーツも追加され、シートの上はますます豪華に。
     花火選びに迷うゆまを、龍之介はのんびり眺める。花火を楽しむ薫の横から響く、ゆまの悲鳴。
    「にゃー! 何これ凄い! どどどうしよう!」
     ゆまの選んだ比較的大きめの花火、ビッグスパーク!
    「水瀬さん落ち着いて! 慌てると余計に危ないから!」
    「……とととと、とりあえず、鎮火するまで待ちましょう!?」
     龍之介と薫だけでなく、彩華も慌ててゆまを支えて。
    「はう……ありがとうです……」
     ハプニングもあったけれど、楽しい打ち上げ。今年も楽しい学園祭だったと、笑顔を交わして。
     こちらは昼間は一緒に回れなかったぶん、後夜祭はず~っと一緒の、武士と絢花。
     チュロスとお団子は絢花のおごり、ご馳走も、花火もめいっぱい楽しんで!
    「はっなび~♪ ほらほら見てみて~。花火で絵が描けちゃうんだよ!」
     くるくるまわる武士の笑顔が、花火の灯りに照らされ光る。
     絢花が花火で描いた『スキ』の2文字は、キラキラすぎて武士には見えなかったけど、二人一緒の、今を満喫。
     ふちとミカは、キャンプファイヤーの火のそばでおしゃべり。
     おいしかったホットケーキの話、何故か牛に突進されかけたふちの話。
    「いつも一人だったからすっごく嬉しかったの。ふち君と二人で回れてうれしかったわ!」
    「ふふふ、私も学園祭をミカちゃんさんと一緒に回れて、楽しかったのです!」
     手をつないでフォークダンスの輪へ。二人で学園祭を見て回れて、よかった。

    ●賑やかに、楽しく、思う存分
    「皆の者大儀であった!!」
     【股旅館】は喫茶巡り部門、2年連続第三位!
    「これも遊びに来てくれたお客様と、何より頑張ってくれた皆のおかげである!」
     というわけで、とくるりは全員に線香花火を配り、続けて一言。
    「一番最初に火を落とした者は、全員からわさびシュープレゼントな!」
    「はい? わさび……?」
    「負けたら全員分って頭おかしい」
     色を失うストレリチアに、もっともなコメントの爽太。
    「俺の知ってる線香花火と違う……」
     式夜の言葉も聞き流され、線香花火耐久レースの開幕!
    「勝負とあらば負けはせぬ。いざ勝負じゃ」
    「まぁ、様は最初に火を落とさなきゃ良いんでしょ……」
     舞姫と莉都にも線香花火は配られ、全員が同時に着火。玉から激しく火花が出る序盤は、特に大きな動きはなく。
    「この火花は私の命、絶対に落としませんわ!」
    「花火を信じればいいんすよ。信ずる者は救われる」
     慎重に持つ者、緊張で手が震える者、周囲を伺う者。玉が揺れ始め、火花が低調になってからが勝負!
    「ねこぱんち! 振動で落ちろ!」
    「む、落ちるではないか! おのれ、舞姫も妨害しようぞ!」
    「あっ、耳っ、耳に息はだめですのよー!?」
     妨害に威嚇で返す爽太。虎次郎は集中力を高め、莉都のささやき作戦にも同じない!
     安寿はポケットからビー玉をコロリ。
    「って飴! あぁぁ勿体無い3秒ルールッ!」
     思わずビー玉に飛びつくひらり、花火は無事でも、式夜の背中にぶつかって。
     ふるりと揺れる式夜の花火。霊犬のお藤も思わず緊張。
    「耐えろ、耐えるんだ俺の火の玉!」
     けれど。
    (「お、落ちてー!」)
     華月の念が届いたのか……ぽとりと落ちる線香花火。
    「……あ」
     ――敗者、両角・式夜!
     玲は浴衣の袖へと、隠し持っていた水鉄砲をそっとしまう。
    「よかった……本当によかった!」
    「ふはは! この父に敗北の二文字は無いのだ!」
     胸をなで下ろす安寿、勝ち誇るくるり。ストレリチアは泣いて喜んでいる。
    「いやいやいや、ちょっと交渉しよう! 幾らなんでも人数分のわさびシューなんt」
    「はっはー、しょうがないっすねー。これもルールっすから」
    「それでは参りましょう。あーんして差し上げましょうか?」
     いい笑顔で告げる、虎次郎と玲。他のみんなの手にも容赦なくわさびシュー。
    「ギャー!! 何で皆そんなに笑顔なのー!!??」
     口いっぱいに押し込まれたソレは、人が踏み込めない領域だった、と式夜は血文字で書き残したという……。
     こちら【梁山泊】、倭が100本のススキ花火で簡易ナイアガラに挑戦中。
    「八重垣さんが面白いもの見せてくれるって!」
     春陽に呼ばれ、ひなたもその規模に目を見はる。
    (「結局オレはこういう……一瞬の為の準備が、楽しいんだよなぁ……」)
     手際良く作業する倭。綺麗で見応えがありますね、と静菜も目を奪われて。
    「派手なのも観ましたし、線香花火をやりましょうか」
     花火の点火直前に、心太は饅頭をもぐもぐ。飯店の残り物は、眠くなるお饅頭や、痺れるお饅頭は多分入ってないはずだった、けど……?
    「頭領微動だにしないから、線香花火落ちませんね」
    「俺も自信はあったが、森沢は凄い集中力だな」
     小次郎や奈落の声が聞こえるが、身じろぎ一つ『出来なくなった』心太は動けない。
    「お~い、心太~、大丈夫か~?」
     倭は心太の前で手をひらひら。
    「おっと、火が小さくなってきてしまいましたね。火種を足さないと」
    「ん? 丹下さんが今放り込んだのって……!?」
     今、投げ込んだのは、……皆が引くほど用意したロケット花火……!?
    「南無、化けて出るなよ」
     一早く逃げ終えている奈落。
    「何やってんのよ、このうっかり軍師!」
    「珍しくしっとり終わると思ったら 小次郎さんの馬鹿ー!!?」
     春陽や静菜の声を圧して破裂音が響き、硝煙の煙が空に散る。心太と倭は光に包まれ――……。
     【武蔵坂殲術治療院】の打ち上げは、病院喫茶『モンスターハウス』の、明海一押しワラスボの唐揚げや、七音特製シャドウゼリー、限定メニュー。
    「ホント楽しかったですね!」
     両手に花火を持ち、明海はくるくる回っている。嬉しくて楽しくて、笑いながらくるくる、くるくる。目が回ったら逆回転!
    「店員側じゃ腰落ち着けて食べれんかったし、学園祭の成功を祝してパーティーといこうや♪」
     七音は、闇が滴る魔剣姿。
    「鈴森ちゃんもこっち来て食べたらええやん」
     ひなたも輪に加わって。
     サボテン姿にメイド服の鸞。振る舞うのは、麦茶と、サボテンジュース。
    「甘酸っぱい……」
     サボテンジュースに口をつけるひなたへと、哀はサンドイッチを手渡して。
    「改めて、来店感謝だよ」
    「私も、とても嬉しかったです」
     ひなたも笑顔で言葉を返す。皆が思い思いの姿でくつろぐ、この空気が、……何だか懐かしい。
     共に座り、言葉を交わす奈落は影法師のような異形態。
    「おい、干潟。はしゃぐのは構わんが……石神に引火させるなよ……?」
     声をかける哀に向け、明海は花火を持った両手を大きく振る。
     花火の欠片が夜空にこぼれて、きらきらと舞った。

    ●夜に光が重なるときに
     まさか先輩から誘われるとは思いませんでしたよ、と瑞樹が言って。
     普段と違う事をしても罰は当たらないでしょう、と恣欠。
     顔を赤らめて目を逸らし、続けて恣欠は、小声とポツリ。
    「それに……十文字……だから誘ったんですよ……?」
     グラウンドの一角で学園祭の話をしながら2人、線香花火を楽しんで。
     途中で線香花火1本分、ひなたも共に。MM出張所の演劇は、本当に素敵だったと。
     やや赤面しつつ、ぎこちない微笑で瑞樹が言う。
    「たまにはこういうのも悪くないか……これからも宜しくな。親友」
     火の近くで賑やかな笑い声が響くのは、【吉祥寺キャンパス中学1年G組】。
     花火を両手に、くるくる踊るウサギ。ヘキサは打ち上げ花火を束ね、空へとファイアー!
    「オラァー!」
    「ははは、なかなかエキサイトしているな! だが私もいる事を忘れるな!」
     突如炎を上げる噴出花火、仁王立ちで登場をするのは名月!
    「よい子はまねしないでね!」
     そう言う名月は、手持ちで噴出花火を着火!
    「……派手で、楽しいですね。しかし……火傷には、気を付けてくださいね」
     彼らを眺める彩喜はわらびもちを、いりすはとうもろこしをのんびりもぐもぐ。桃瀬は一人ハラハラ。
    (「ふむふむ……これは、人の近くに投げて楽しむもの、ですか」)
     彩喜が火をつけたのは……ネズミ花火!?
    「……ヘイ、ヘイ。ヘキサさん、パース」
    「ヘイパース! ……って彩喜それ危ねェ!?」
    「っ!? ウサギさんヘキサさん危ないっすよ!?」
    「うわー! ウサギちゃんこんがり焼けちゃうー!」
     腰を浮かせる桃瀬、涙目で逃げるウサギ。
    「……ふん。このわたしの前で「大暴れ」とはな。いいだろう。……花火をよこせ」
     いりすも参戦して、騒ぎは大きくなる一方。笑顔がこぼれる花火会。
    「桃瀬ちゃんも一緒に遊ぼ? 二人で一緒に、みんなで一緒に。ね!」
     桃瀬を見上げるウサギの顔は、花火のせいでなくても、ちょっと赤かったかもしれない。
     こちら【フィニクス】の乾杯は、創作珈琲『カフェ・マリアテレジア』で。
    「学園祭の無事の終了を祝して、新しく迎えた仲間を歓迎して、乾杯!」
    「勇弥は特にお疲れサマ!」
    「俺はまとめただけだって、皆のお蔭だよ」
     勇弥から配られるマグカップ、さやかはビハインドの朔にもカップを渡して。
    「勇弥様のように、上手く入れられるようになるでしょうか?」
    「好きこそものの上手なれ、ってね」
     珈琲を口へと運ぶ千早は、勇弥と笑みを交わす。
    「わー、もふもふ天国!」
     そして目を輝かせるさくらえの先には、オオカミ姿のさやか、ゴールデンレトリバー姿の勇弥、ふわふわ長毛種猫の恢。
     昭乃も千早も、もふもふを撫でて、癒されて。勇弥が霊犬の加具土と並ぶと、サイズ的には親子のよう。
     口にくわえた花火に火をつけようとするさやかに、バシーリオが手を伸ばす。
    「ほら、俺も手伝ってやるから貸せ。手伝ってやるよ」
     仕方ねぇな、なんて言いながらも。手伝った方が早く皆で楽しめるだろ?
    「花火がトンネルになるように作って見ましょうか?」
     千早とさくらえ特製トンネル花火。猫の恢が華麗にジャンプ!
     昭乃はビハインドの総司と共に、線香花火に火をつける。
     何年ぶりかの一緒の花火、懐かしさに一つ笑みがこぼれて。誕生日おめでとうございます、と総司に一言。
    「健、これもやってみよう?」
     さくらえはネズミ花火に火をつけ、位置を気をつけながら、ぽいっ。
     前足でたしたしする勇弥、しなやかに花火をさけるさやか。
    「恢様、後ろに……」
     ネズミ花火に追っかけ回され。最後の音にも恢はびっくり。
     健のヘビ花火は、ニョロニョロとどこまでも伸びていく。
     ヘビ花火はかわいいと、「伏せ」の状態で見入るさやか。恢の視界でフリフリ揺れる、さやかのシッポ。
    「こういうのも初めてだけど、嫌いじゃないぜ」
    「今年も煌く想い出又一つ増えたな!」
     バシーリオの言葉に、健が応えて。恢も思いをこめて、「にゃあ」と一声。来年もみんな、楽しく過ごせたらいい。
     そのころ、人気の少ないグラウンドでは。
     白地に花柄の浴衣姿の麗夢に、誡斗は見惚れる。
     2人で花火を見ていると、頭上を通り抜けるどこかのロケット花火。
    「きゃっ」
     よろけた麗夢の浴衣がはだけて、誡斗の目に映るのは――。
    「こっちを見ないで! あっち向いてて!」
    「でっでも薄いから気づかなかっぐはっ!」
     思わぬハプニング。それでも夜の空気ときれいな花火が、2人の距離をぐっと縮めて。
    「こんな人前で、駄目でしょう?」
     麗夢は団扇一枚、間に挟み。……キスはまた、別な機会に。

    ●心ゆくまで後夜祭
     【魔法使いの隠れ家】は、炎血部と合同の後夜祭。
     炎血部の鉄板焼き『もふリート』、グルメストリート企画1位!
    「これも部員の皆の協力と、ここにいる魔法使いの隠れ家さんや、他のクラブの応援があったからだ。本当にありがとさん!」
     淼の挨拶に、唯は配膳の手伝い。各種鉄板焼、イフリート焼き、ミニイフリート焼きも食べ放題!
    「みんなのおかげで2日間頑張れたですよー」
     めりるは、余ったジュースをみんなに配って。お礼のやりとり、談笑の時間。
    「火の扱いには、気を付けてね?」
     アンネリーゼはおっかなびっくり、全種類の花火を一通り。淼がひなたと交換した花火も追加され、花火の種類は盛り沢山。
    「わたしもやるっ!!やるっ!!」
     唯は自力で花火に点火、花火を二本ずつ両手持ちでダッシュ! 時には点火に失敗して、丸ごと燃やすのもご愛嬌。
     最後の締めは線香花火。全員一緒に楽しもう。
     【猫のたまり場】は、思い思いの花火を手に。灰那の手にはネズミ花火。
    (「花火、しかも大勢で遊ぶのなんていつぶりだろう」)
    「やっぱり、みんなでやるのが楽しいよね♪」
    「まずはロケット花火や!」
     蒼月がビンをセットし、柊はロケット花火を入れる。天高く飛ぶロケット花火は、ピー! と独特の甲高い音を立てた。
    「御家さん御家さん、ちょっとこれ見てみてよ」
     灰那にネズミ花火を放られた珠梓はぴくりと反応、これも猫の本能。
    (「あれはネズミではなく、純然たる火の化身である」)
     捕まえなどしたら、大変な事になるけれど、でも。
     見守る柊も耳ぴくぴく、尻尾そわそわ。涼森くんもどうだい? と灰那はニヤリ。
    「もう辛抱たまらん、ネズミー!!」
     ついに花火に飛びついて、ぎにゃーっ、と上がる珠梓の悲鳴。
    「大丈夫、御家さん? 火傷とかしてない?!」
     飛んできた蒼月が、焦げた珠梓の耳を冷やして、癒して。
    「高槻先輩って、意外と悪戯っ子なのね。……対して天河の優しさ」
     芥汰が持つのは、カラフルな光の線を描く手持ち花火。
    「ここは1つ、線香花火の耐久レースをしてみましょうか」
     玉緒が提案で、みんなでぶら下げる線香花火。
    「こういう楽しみ方は、複数でやるからこその醍醐味よね」
     誰が一番長く持つかしら、と玉緒。学園祭の締めというには賑やかな一時。こういうのもたまには良いよな、と芥汰は思った。
     学園祭の熱気の残る校内を訪れた貢は、殆ど終わった頃に来られた組だという。
    「ひな……鈴森くん。学園祭は、どうだった」
    「とても楽しかったです。私はサンドイッチを食べて、カレーを作って、紙飛行機を飛ばして……」
     話しながら、ひなたは小さく笑みをこぼす。相づちを打つ貢との間で、ちりちりはじける線香花火。
     ……気づけば、もう、半年が経っている。
    (「……病院は。この学園の中に在るんだな」)
     貢が呟くように言う。今は君の、俺の、皆の胸の中に在る、と。
     そのころ、【武蔵坂HC】では、好弥がしょんぼり。
    「凄く後悔してます。やだ、学園祭終わるの嫌です」
     ゲームや企画ものばかり回っていたから、圧倒的に食べ物が足りないと。
    「好弥ちゃん、これあげるから元気出そう~?」
     夏奈が持ってきたのは、お店のかき氷や、大量のソーメン。織姫持参の花火もある。
    「火薬の味がします。傷心なのです」
    「花火囓ろうとするなっ!?」
     鐐はサンドイッチを好弥の口に押し込んで。
     派手に行こうか、と鐐はロケット花火を30本、導火線の先が長皿の油に浸るように並べて……。
    「30連装噴進ロケット花火砲、発射!」
     全砲門ふぁいあーっ!!
    「鐐さん、なんかその花火スゴイよ!」
    「わわっ花火がこっちきたー!?」
     ロケット花火は織姫の横を抜け、破裂音を立てながら夏奈の方へ!
    「よ~し、夏奈ちゃん、鐐さんに仕返しだよ!」
     織姫が手渡す手持ちの花火。鐐さん、朝まで勝負だよ。
    「って三人掛かりは待てーっ!」
     脱兎の鐐を追う3人。花火のストックはまだ十分。
     打ち上げ花火の音が響くグラウンドで、3つ寄り添う線香花火。
    「フフフ。ちょっと赤いではないか」
    「こんこん♪ 両手に花、なんだよねー? 政道君っ」
     クラリーベルと琉衣。左右を囲まれ、政道は内心どぎまぎ。
     このままでは性に合わないと、二人への愛を思い切り叫ぶ!
    「クララの太陽みたいに煌いて眩しい姿が大好きだぜ!」
    「琉衣のほんわか温くて包み込んでくれる笑顔が大好きだぜ!」
     マサミチはあの一生懸命さが、ルイはその愛らしさが好きだ、とクラリーベル。
    「今回の事でな、ルイの事、ちゃんと好きになったぞ?」
    「クララさんは、そういう凛とした所が好きっ。政道君は、懐深いしふっかふかで……」
     琉衣の狐の尻尾が、ゆらゆらと揺れる。
    「ああもう、2人とも大好きー♪」
     こーんっ♪ と響く、琉衣の遠吠え。
     これからも、宜しく。
     浴衣姿の透流とマサムネ。【古ノルド語研究会】は、線香花火をしっとりと。
    「打ち上げ花火のほうが、マサムネさんは好みなんじゃないかな?」
     退屈してたりしない? と問う透流。
    「線香花火も趣きあっていーやん」
     マサムネはからりと笑う。
     来年も、同じ景色をこの全員で見ることができたらと、透流は思いながら。
    「学園祭、お疲れ様。来年も、また一緒に頑張ろう……!」
     コーラとサイダーの二種類の炭酸水は暑い夏に相性抜群。皆の未来に向けて、乾杯。

    ●今年も楽しい学園祭でした
     楽しい時間は、火のようにまぶしく、光のように早く。
     後かたづけに入るまでの、残り時間はあとわずか、それまではみんなで、楽しく時間を過ごしましょう――。

    作者:海乃もずく 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月5日
    難度:簡単
    参加:84人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 2
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