眼球蒐集者

    作者:高橋一希

     コンクリートの壁に一人の女性が張り付けられていた。
     巨大な釘を用いて手足を止められ、その身には大量の創傷が刻まれている。
     どれも致命傷には浅いが傷口から溢れた血液は壁を伝わり床を赤く染め上げる程だ。
     そんな様を見て仕立ての良さそうなスーツを纏った、灰色の眼をした男がくつくつと笑う。
    「遭った時から綺麗な眼だと思っていたけれど、怯えた瞳は殊更に良い」
     笑いながらに血塗れの手で頬をおしげに撫で目元にかかる髪を掻き上げた。
    「ああ、涙に濡れた黒い瞳は美しい……どうしても欲しくなってしまう……!」
     勢いよく男の手が女性の頭へと突き込まれる。悲鳴を上げる暇すらなく女性は絶命。しかし男はそのままに頭蓋を砕き脳を抉り何かを掴んで引っぱりだした。赤に染まった掌には二つの小さな白い球体が残されている。
    「……ああ、やっぱりこれだけは素敵だ……!」
     彼は感嘆とともに球体を1つ口へと放り込み咀嚼し飲み下す。残ったもう一つは傍に置いてあった似たような球体のひしめくビンへ――。
    「まぁこういう余録があれば宮仕えも悪くないかね」
     言葉とは裏腹に怒りを込めた声で独りごち、彼は喉元の忌まわしい意匠をした首輪を指先でちゃらりとはじいた。
     
    「新潟ロシア村の戦いの後から消息の知れないロシアンタイガーの足取りを求め、ヴァンパイア達が動き出したようです」
     集った灼滅者達を前に五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は語り出す。
    「ヴァンパイアの名はサリヴァン。爵位級ヴァンパイアの奴隷として力を奪われた人物で、奴隷からの解放と引き替えに単独でのロシアンタイガー捜索を請け負ったようです」
     しかし、サリヴァンは諾々と捜索に務めるような人物ではなかった。折角解放されたのだから、と自らの楽しみを優先しているというわけだ。
     サリヴァンはとある廃ビルを根城とし、黒の瞳をした人物を男女問わず連れ込み痛め付け、怯えた眼を観るのが好みらしい。あげくには殺して眼球を奪い取るという。
     恐らくある程度満足すればサリヴァンはロシアンタイガーの捜索を開始し犯行を止める事だろう。だがそれを待っていた場合一体どれだけの人が犠牲になるだろう?
     灼滅者達の想像を断ち切るように姫子が力強く告げる。
    「どうか今すぐ現場に向かいサリヴァンを灼滅してください」
     サリヴァンの居る廃ビルはとある繁華街から少し離れた場所にあるという。サリヴァンは夕方以降に繁華街へと出かけ、夜十時頃に一般人を連れ込み、夜中までには殺してしまう。幸いにして場所が場所だけにサリヴァンに連れ込まれる以外の理由で一般人が来ることはありえない。
     バベルの鎖をかいくぐり接近するチャンスは女性が部屋に連れ込まれた後だ。
     夕方以降にビルに潜入しておき極力物音に気をつけ、被害者が連れ込まれた後に突入する。連れ込まれる前に部屋に踏み込んでしまえばサリヴァンは異常を察知してしまうだろう。
     そしてもう一つ、攻撃上で最大とも言える突入のチャンスがある。それは被害者が殺された直後だ。
     ビンの中の蒐集物を鑑賞するその一瞬、サリヴァンは油断しきっている。その隙を突けば間違い無く初手を取れるだろう。それに敵が女性を痛め付けている間は多少の物音ならば気づかれる事はない。
     戦闘を有利に運びたいならば、女性が殺された後の突入。女性を救いたいならば厳しい戦いとなるが連れ込まれた後の突入、といった所か。
     どちらにせよ現地は明かりが無いため潜入、戦闘ともに少々厳しいかもしれない。
    「サリヴァンはダンピールのサイキックである紅蓮斬、ギルティクロスの二種類と、集気法、閃光百裂拳、そしてオーラキャノン相当の攻撃をしてきます」
     配下なども居ないためかポジションはクラッシャー。全力で攻撃してくる事は想像に難くない。
     また、サリヴァンはプライドが高い人物らしい。だからこそ灼滅者達から尻尾を巻いて逃げ出す事はほぼあり得ない。だが駄目押しが必要ならば、彼が隷属している事を挑発してやれば良い。そしてもう一つ、姫子は気づいた点を上げる。
    「サリヴァン自身は黒い瞳の女性に拘りを持ちますが、自身の瞳は灰色をしているんです」
     もしかしたら、自分の瞳が灰色である事に何らかのコンプレックスを持っているのかもしれない。
    「ある程度能力を抑制されているとはいえ、ヴァンパイアは強敵です。間違い無く現状灼滅できる敵の中でも上位といっても良いでしょう」
     姫子は言外に告げている――弱体化しているとはいえ油断は禁物だと。
    「どうか皆さん、ダークネスを撃破し無事に帰ってきてください」
     そう述べて彼女は話を終えたのだった。


    参加者
    灰音・メル(悪食カタルシス・d00089)
    篠雨・麗終(猛く吼える紅・d00320)
    風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)
    御厨・司(モノクロサイリスト・d10390)
    クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)
    月叢・諒二(月魎・d20397)
    灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)
    水無瀬・冴絢(インディゴライトの徒花・d26418)

    ■リプレイ

    ●Chaotic Playground
     夜も九時を回った頃、ほこりっぽい臭いのするビルの一角を灼滅者達は訪れていた。
     所々に粗大ごみがうち捨てられ、蛍光灯も割られ電気すら付かないあたりもはや機能を失っている事を如実に物語っている。
    「探索できる時間は30分くらいだよ。頑張ろう」
     述べて、灰音・メル(悪食カタルシス・d00089)は周囲を見渡す。
     ここにやってくるヴァンパイアの死角となりそうな場所を、彼女は懸命に探る。全員が隠れられ、そして完全にとなると流石に二階に向かわねばならないだろうか。
     多少なりとも別れて潜むならば入り口付近、粗大ごみの裏のあたりならば暗さも手伝って気づかれないかもしれない。
     どうしたものかと悩む中、篠雨・麗終(猛く吼える紅・d00320)はそんな粗大ごみの傍へと座り込み、黒い布を被る。腰には電気ランプが装備されている。だが未だ明かりは灯さない。
     ただ静かに、闇の中でじっと。
     だが内心ではふつふつと怒りが煮えたぎっている。
    「そこはダメだよ」
     メルの小さな制止に、御厨・司(モノクロサイリスト・d10390)は触れようとしていた扉から距離を取る。ここが例のヴァンパイア――サリヴァンが根城としている場所だろう。
     改めて扉の形状を観察するに形状は蝶番が見える所から判じても一般的な開き戸。この古び具合から見ても間違い無く開かれれば音が聞こえるだろう。
     この建物の周囲を見て回った限り、二階から上にはそれなりの窓があったが、一階部分にはせいぜい細い窓があるかないか。人が出入りできるような大きめのものはなかった。幾度もの犯行を露見させないように行うならば目立つような場所を選ぶ事はあるまい。
     黒の上着を着て、さらに黒のカラーコンタクトを身につけた風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)をはじめ他の仲間達もそれぞれに身を潜め、ここにやってくるヴァンパイアを待つ。
     暫しして、何者かの足音がやってきた。更には何か微妙に陽気な鼻歌まで聞こえる。
     時間的にも恐らく灼滅者達の目的の相手、サリヴァンだろう。
     暫ししてギイと扉の軋む音がし、ばたんと大きな音がして夏の大気が揺らいだ。
     扉が閉まったのを確かめメルが仲間達の背にトンと触れる。それが突入の合図だった。

    ●Proof of blood
     扉を開けた瞬間に灼滅者達の鼻に生臭い異臭が飛び込んでくる。うっすらと灯された蝋燭がゆらりとゆらいだ。
     だがそれ以上に明るい灼滅者達の手にした明かりが、目前のそれを照らし出す。
     仕立ての良さそうなスーツを纏った男性。歳は恐らく三十代と言った所か。
     色白の顔、鋭い犬歯。ヴァンパイアの特徴を色濃く持っていながらも、しかし灰色の瞳。
     彼の回りには肉片のようなものやドス黒い何かが飛び散った形跡がある。
     ワゴンが置かれ、金槌や大きな釘、刃物が並べられ、更には何かの詰め合わさった瓶が一つ。
     そして彼の手元にはぐったりを目を閉じた女性が――。
    「何の用かな? オレはこれからちょっとしたお楽しみなのだけれど。子供は今すぐ帰って寝る時間だよ?」
     複数の灼滅者達に明かりを向けられながらに男は語るが、クラウディオ・ヴラディスラウス(ドラキュリア・d16529)は臆すことなく無く数歩歩み寄った。
    「ほら、これが貴方の欲しがっているものでしょう?」
     自身の左目を指さし彼女は訊ねる。黒く魅力的なその瞳を。
    「……これは素敵なものだね。まさか獲物からここに飛び込んでくるとは。それにそちらの二人もか! なんという良い日だ!」
     黒のカラーコンタクトを身につけた麗終は不快げな表情を隠さない。敵の気を引く為とはいえ実際にその視線をあびると鳥肌が立つほどの気色の悪さだった。
    「コンプレックス持ちのクズが。惨めで目障りだ、さっさと消えてくれ」
     吐き捨てるように述べて彼女は大鎌を構え、一方では水無瀬・冴絢(インディゴライトの徒花・d26418)がへらりとした調子で告げる。
    「ヴァンパイアの灼滅なんて言われちゃったら頑張るっきゃないっすよねー」
     今日も張り切って行くっすよ! と述べた所で男――サリヴァンは要約得心がいったとでも言いたげな表情でゆらりと動いた。
    「このオレを倒そうと? 瞳が黒くないモノには用は何もないんだが……」
     サリヴァンは軽く腕を振るう。無造作に飛んだ紅の十字が冴絢の精神をずたずたに切り裂いていく。
    「ヴァンパイアを直接狩るのは初めてだったか」
     思い出したように告げて月叢・諒二(月魎・d20397)が槍にうねりを付けて一撃を放つもそれをあっさりとサリヴァンがいなす。
     だがその瞬間サリヴァンの意識は女性から灼滅者達へと向けられた。それを灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)は見のがさず女性に向けかけよった。酔って眠りでもしたのか抵抗もなく抱え上げる事には成功した。だが連れ出すにはもう少し時間が要る。
     そう思った瞬間、サリヴァンがひみかを見つめた。
     狙われた、と思う間もなく闇を切り裂きメルが彼女の視界に飛び込んでくる。そして影を纏い、強烈な一撃をサリヴァンの横っつらへと叩きこむ!
    「私ねヴァンパイアが大嫌いなの。だから貴方も、その趣味の悪い蒐集品も気分が悪い」
    「結構。オレも君に用は無いからね。でも邪魔をするなら死んで貰うしかないな」
     やりとりの間に相手の眼でも狙おうかと考えていた麗終だが、そもそも今のポジションでは部位を狙う事など不可能。移動をするくらいならばとにかく攻撃を加えた方が良かろうと判断。
     炎を纏った一撃を叩きこもうとするもあっさり避けられた。
    「随分とやる気のようだがそんな攻撃ではかすりもしない」
     あざけるような言葉に対して麗終は静かに述べる。
    「クズにかける慈悲などない」
    「さて。クズというのはどちらの事かな。オレより力を持たぬお前達の方がクズと呼ぶに相応しかろう」
     そこに一条の光が飛びサリヴァンの腕を貫いた。
    「やだな~、弱いって分かってるから協力するんだよ?」
     矢を放った直後で弓をかまえたままの彼方だ。
    「ならその協力とやらを断ち切ってあげよう」
     笑う男は冴絢に告げる。
    「オレのしもべとして持てるちから全てを使いそいつらを殺すがいい」
     催眠状態の冴絢は躊躇いなく仲間へと牙を剥いた。

    ●闇夜の激突
     催眠は厄介だった。極力自力でシャウトし解除を狙うも、どうしても解除しきれない場合もある。こればかりは致し方ない話だ。
     それでも唯一にして幸いだったのはサリヴァンは単体に対してしか攻撃をしかけて来ない事だ。ディフェンダーの数を揃えれば、ある程度は仲間を守る事も出来るし耐えられるはずだ。灼滅者達はそう踏んでいたのだろう。確かにほぼ間違いは無かった。
     それでも、戦闘からの脱落者が出る事は避けられなかった。
    「同族の弱点はよーく分かってんすよ」
     仲間の祭霊光により正気を取り戻した冴絢が弱点を見極め斬撃を繰り出すもサリヴァンは意外なほどにあっさりと回避し、あまつさえ彼女に肉薄。至近距離から手刀を連打し打ち据えたのだ。
     床に倒れ伏した彼女は動こうとしない。だがまだ息はある。このまま放置しておけばどうなるかは想像したくない所だが……。
    「そういえば。そいつも、元は綺麗な黒い目だったな」
     傍に居るビハインドを指し示すように司が呟く。しかしあえて敵にも聞こえるように。
    「黒にならなかった瞳はさしずめ出来損ないか?」
    「灰色の目が似合ってるのに」
     淡々としながらもあざけるような調子を含んだ言葉に彼方もあからさまな挑発を込めて続ける。
     彼らの言葉はサリヴァンの気に障ったらしい。
    「ああそうさ! 赤にも家名通りの黒にもならなかった半端な瞳だ!」
     そこに向けビハインドが包帯を外し自身の顔を曝す。
    「彼女」と良く似た、しかし「彼女」ではない存在の素顔は果たしてどうなっているだろう? 司自身は見たいとは思わないがヴァンパイアは果たして。
     それを眼にしたサリヴァンは小さく呻く。だが恐らくダメージとしてはたいしたことはない。
     畳みかけるように司が指輪をはめた指先を向け、そこから放たれた弾丸が敵を拘束する。
    「く……」
     呻いた敵にむけて彼方は魔法の矢を解放。圧縮されていた高純度の魔力が敵を貫く。避けきれず傾いだ敵をあざ笑うようにクラウディオが告げる。
    「ほら、ワタシのこの美しい瞳をみなさい。アナタのくすんだような瞳とは違う、黒の瞳よ」
     オーラの方陣を展開し、仲間達の傷を癒していく。霊犬「シュビドゥビ」もそんな主に従うように同様に懸命につづく。
    「可哀想ね、どれだけ喰べても集めても、そうはなれないのに、欲しいんでしょう? 取ってごらんなさいな」
     ヴァンパイアは苛立ちをかみ殺したような顔をする。あら怖い、などと冗談めかして言ったものだから殊更にその表情は厳しいものへと変わっていく。
     一方で諒二は大きくため息を吐いた。
    「君の性癖の是非は僕はどうでもいいのだけれど、少しばかり疑問に思った事を訊いてもいいかな? どうして早くその目を抉らないんだい? 自分のものだから規格外でも特別だとでも?」
     サリヴァンが的外れだと言いたげに鼻で笑う。
    「何一つ理解出来ない阿呆だったか。成程、ロクにオレに攻撃を当てることすら出来ないわけだ」
     諒二が問い正すより前に、敵の右手が紅く輝き、振るわれたそれが彼の顔に十字を描く。
     焼け付くような痛みと共に視界が赤に染まり、意識せず両手で顔を覆ってその場に倒れ込んだ。もはや戦線に復帰は出来ないだろう。
    「黒くない瞳には興味はないが、折角だ。こいつらを全員潰した後に君の瞳も抉って、その時まだ生きていたら特別に食べさせてあげよう」
     容赦無く諒二の腹に蹴りを叩きこみサリヴァンは告げる。
    「次が誰が彼に続きたいかな?」
     だがその表情にも、言葉にも戦闘前のような余裕は感じられない。
     ――ならば、きっとあと少し。

    ●悪夢からの目覚め~戦いの後に
     ディフェンダー達も自身の傷を癒しながら戦っているが、二名が倒れたことは痛い。
    「全く、なんでこんなやつが、強いのですか」
     苦々しげにひみかが呟きながらも回し蹴りを繰り出した。あまりの勢いに暴風をともなったそれが敵を切り裂いていく。
     こんなロクでもないやつに、と考えれば考える程に腸が煮えかえるような怒りがわき出てくる。
    「違うな。お前達が弱すぎるだけだ。弱い家畜だという事すら自覚せず、わざわざオレに楯突いてきているというそれだけの話だ。家畜は家畜らしく大人しく狩られていればいい」
    「なーんていうけどさ。最後の詰めが甘いから、つけられたんじゃないの? それ」
     彼方が喉元をトントンと軽く叩く。
    「その首輪、似合ってるよ」
     完全な挑発だった。
    「……次に狩られたいのは君のようだな」
     急に声色が冷ややかなものを帯びた。恐らくここまで駄目押しをすれば敵が逃亡を考える事は無いだろう。それに、逃亡しようとしても出口は灼滅者達の後方。間違い無くここまで言われて、灼滅者達をつっきり逃げる等という選択は出来ないだろう。
     既に彼方は仲間を守る為にかなりの傷を負っている。それでもディフェンダーとして仲間を守ろうという意識は確りと持っていた。
     敵に襲われる理由はあえて作った、そして今は戦う力がある。
    (「絶対に逃げない!」)
     自らを覆うバベルの鎖を瞳に収束させ、攻撃に備えるも――。
    「悪いが狩らせない」
     司の影が伸びあがり敵の手足を絡めとる。
    「安心しろ。お前一人が戦ってるわけじゃない」
     クラウディオもまた手にした弓に癒しの力を込め、矢を放つ。
     今は自分の傷はたいしたことはない。
     普段は嘘だらけの彼女だが、この一瞬だけは強く、強く願った。
     もっと傷の深い仲間を癒さなければと。
     幾度めか、サリヴァンの腕が十字を描く。即座にひみかが声をあげた。
    「右舷! 守りなさい!」
     主の声に応えて霊犬が戦場を駆け抜け攻撃を受けて、小さく悲痛な声をあげて倒れる。
     今までも幾度も攻撃を受けながらに耐えてきたサーヴァントだ。後で労わなければなるまい。
    「そのサイキックは胸糞悪い。使うんじゃねえ」
    「その言葉はそっくりそのままお前に返そう。我々の真似事をしても所詮クズはクズだ」
     麗終は不快さを隠さない。静かに、しかし燃えたぎる怒りを炎にかえて大鎌へと宿らせる。
    「お前の血の一滴も残さねえ」
     派手に火の粉を散らしながら鎌をぶんと振るう。
    「この程度の攻撃……」
     あっさりと避けられる、とでも言おうとしたであろう敵の言葉が途切れる。
     その手足には未だ影が張り付きしっかりと捕縛された状態だ。
    「貴方の悪趣味な蒐集もこれで終わり」
     隙だらけの敵に向けてメルが腕を持ち上げる。指先には銀の月の名を付けた指輪が煌めいた。
    「さよなら」
     そこから放たれた魔法弾が偶然にもヴァンパイアの眼を撃ち抜き、脳をも砕いて彼の命に終わりを与えたのだった。

     倒れた諒二と冴絢の傷は生やさしいものではなかった。暫くはロクに動く事も出来ないだろう。 
     司は未だ無事に残っていた瓶を見て僅かに思う。
     固執に留まらず態々こうして蒐集するとなれば恨みのようなものでもあったのだろうかと。
     だが彼は即座に考えを追い出すように首を振った。
     ダークネスの考える事など理解しようとしても仕方が無い気がしたのだ。得に理由もなくヒトを虐げる。それが彼らなのだから。
     その横でクラウディオは躊躇う事なく瓶の中へと指を差し込む。
    「これって、どんな味がするのかしら」
     ぎょっとする周囲を余所に瓶につめられた物体をつまみあげ口元に運びクラウディオはくすくすと笑う。
     一方でひみかは少々沈鬱な表情だ。壁にはべったりとドス黒く塗りつぶされたような跡がある。それが物語る所は言うまでもなかろう。
    「他にもこのような事が起きていたならいたたまれませんね……」
     言い乍らにひみかは誰よりも仲間を守る為に頑張った霊犬を思う。あとでたっぷりご褒美をあげなければ、と。

     かくしてこの場での事件の元凶は無事灼滅されたわけだが、どこかでまたこのような事件と遭遇し、阻止しなければならない事もあるだろう。
     だがその前にまずは戦いの傷を癒さなければならない。休養を取りながらに戦闘の基礎を見直し、自身の戦い振りを顧みる事で得られるものもあるかもしれない。

    作者:高橋一希 重傷:月叢・諒二(月魎・d20397) 水無瀬・冴絢(インディゴライトの徒花・d26418) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年8月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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